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株主から「株主であることを証明する書類を出してください」と言われたら、何を出せばよいのでしょうか。株主名簿をそのまま印刷して渡せばよい、というわけではありません。

このとき問題になるのが、株主名簿記載事項証明書です。会社法122条は、株主が「自分について株主名簿に記載・記録された事項を記載した書面」の交付などを請求できると定めています。株主名簿管理で忘れられがちな書類ですが、発行前に確認すべきことが意外と多くあります。

この第10話では、株主名簿記載事項証明書の意味、発行時の確認事項、社内管理を整理します。書換請求の受付実務は第9話「株主名簿書換請求を受けたらどうするか」をご覧ください。

実務メモ
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法務実務で効くのは、知識そのものよりも"再現できる型"です。記事で読んだ確認観点・依頼文・回答メモ・マスキングを次の案件でそのまま引き出せる形に残しておくと、判断と説明の質が一段安定します。
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1. 株主名簿記載事項証明書とは何か

会社法122条は、株主が、自分についての株主名簿記載事項を記載した書面の交付(または電磁的記録の提供)を会社に請求できると定めています。

会社法第122条第1項(要旨)
株主は、株式会社に対し、当該株主についての株主名簿に記載・記録された株主名簿記載事項を記載した書面の交付、または当該事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。 ※ 引用は要点のみ。正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

ここで重要なのは、これは「株主名簿全体の写し」ではなく、「その株主について株主名簿に記載・記録された事項を記載した書面」だということです。初心者向けに言えば、「会社が、あなたについて株主名簿にこう記載しています、と証明する書類」です。記載する内容は、会社法121条の株主名簿記載事項(第2話参照)と接続します。

2. 発行は、請求確認→名簿確認→証明書作成→発行管理の順で

1. 請求確認 株主本人・代理人・法人担当者の権限を確認
2. 名簿確認 株主名簿の記載事項・株式数・取得日を確認
3. 証明書作成 当該株主についての記載事項を証明書に反映
4. 発行管理 代表取締役の署名・記名押印、控え・履歴を保存

3. どのような場面で求められるか

表1:株主名簿記載事項証明書が求められる場面
場面請求者会社が確認すべきこと
株式譲渡後に株主であることを確認したい新株主名義書換が済んでいるか
増資後に保有株式数を確認したい投資家・株主増資が名簿に反映されているか
金融機関・取引先に株主であることを示したい株主(提出先は第三者)提出先・目的・本人確認
株主自身が保有株式数を確認したい株主本人本人確認・名簿の最新性
グループ会社・株主構成の管理株主・関係会社権限・目的の確認

第三者への提出目的がある場合でも、会社が証明書を発行する相手は誰か、本人確認・権限確認が重要です。証明書は個人情報を含むため、提出先・目的の確認を省略しないでください。

4. 誰が請求できるのか

会社法122条1項は「前条第1号の株主」、すなわち株主名簿に記載される株主が請求できると定めています。実務では、次の点を確認します。

株主本人からの請求か、代理人からの請求か(代理人なら委任状・代理権を確認)
法人株主の場合、代表者・担当者・代理人の権限を確認する
株主以外の第三者から求められた場合は、株主本人の同意・委任状・提出先・目的を確認する
閲覧請求とは請求の主体・内容が異なる

株主名簿記載事項証明書は「自分の記載事項の証明」を求めるものです。これに対し、株主名簿の閲覧・謄写請求(会社法125条)は別の制度で、請求主体や内容が異なります(後述)。混同しないようにしましょう。

5. 証明書には何を記載するのか

記載する中心は、会社法121条の株主名簿記載事項です。これに、実務上の補足項目(発行日・証明文言など)を加えて作成するのが一般的です。

表2:株主名簿記載事項証明書で証明する内容
項目内容確認資料注意点
株主の氏名・名称個人は氏名、法人は名称株主名簿表記ゆれに注意
株主の住所名簿上の住所株主名簿住所変更の反映
保有株式数その株主の株式数株主名簿、発行済株式総数名義書換の反映
種類・種類ごとの数種類株式発行会社の場合定款、株主名簿種類別に整理
株式取得日その株主が取得した日株主名簿、取得原因資料取得日の根拠を確認
株券番号株券発行会社の場合(後述の適用除外に注意)株主名簿株券発行会社かを確認
表3:法定記載事項と実務上の補足項目
項目法定記載事項か実務上の有用性注意点
氏名・名称、住所、株式数、取得日法定記載事項(121条)証明の中核名簿と一致させる
発行日実務上の補足いつ時点の証明か明確化名簿の基準時点を意識
会社名・代表取締役名実務上の補足発行主体の明示署名・記名押印とセット
証明文言実務上の補足証明の趣旨を明確化過度な表現を避ける
証明対象株主・社内管理番号実務上の補足発行管理・特定個人情報の管理

6. 代表取締役の署名または記名押印が必要

株主名簿記載事項証明書は、担当者がExcelを印刷しただけでは足りない可能性があります。会社法122条2項は、書面に代表取締役の署名または記名押印が必要と定めているからです。

会社法第122条第2項
前項の書面には、株式会社の代表取締役(指名委員会等設置会社にあっては、代表執行役。次項において同じ。)が署名し、又は記名押印しなければならない。 ※ 正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

指名委員会等設置会社では代表執行役が署名・記名押印します。社内実務では、誰が作成し、誰が確認し、誰が署名・押印するかをあらかじめ決めておくとよいでしょう。なお、電磁的記録で提供する場合は、代表取締役が署名・記名押印に代わる措置(電子署名)をとる必要があり(会社法122条3項)、その具体的な措置は会社法施行規則で定められています。電子提供を行う場合は、施行規則を確認のうえ慎重に対応してください。

7. 株券発行会社には会社法122条が適用されない

注意したいのが、会社法122条は株券発行会社には適用されないという点です(会社法122条4項)。株券発行会社では、株券そのものが株主であることを示す手段となるため、この証明書の制度の対象外とされています。

「株券発行会社かどうか」の確認を省略しない

自社が株券発行会社かどうかは、定款・登記・過去の株券発行状況で確認します。古い非上場会社では、実際に株券を見たことがなくても、定款上・登記上は株券発行会社のままになっている場合があります。株券発行会社の場合の実務対応は個別に確認が必要なので、断定せず、まず株券発行会社かどうかを確認してください。

8. 発行前に確認すべきこと

表4:発行前に確認すべき事項
確認事項見る資料見落とした場合のリスク
請求者が株主本人か本人確認資料、株主名簿無権限者への発行
代理人の場合、委任状・権限があるか委任状、代理権の資料権限のない請求への発行
法人株主の代表者・担当者の権限登記事項証明書、社内権限資料権限確認の不足
株主名簿の内容が最新か株主名簿、更新履歴古い内容で証明してしまう
名義書換未了の株式譲渡がないか譲渡契約書、書換請求書誤った株主に証明
基準日・株主総会との関係基準日設定資料時点の取り違え
株式数・種類株式・取得日が正しいか株主名簿、登記記載内容の誤り
株券発行会社かどうか定款、登記122条の適用関係を誤る
個人情報・第三者提供に問題がないか提出先・目的、同意個人情報の不適切な提供

9. 株主名簿の閲覧請求との違い

株主名簿記載事項証明書と、株主名簿の閲覧・謄写請求は、別の制度です。混同しないよう整理します。

表5:株主名簿記載事項証明書と株主名簿閲覧請求の違い
項目株主名簿記載事項証明書株主名簿閲覧請求注意点
根拠条文会社法122条会社法125条制度が異なる
対象当該株主についての記載事項株主名簿そのもの全体か個別か
請求者その株主株主・債権者請求主体が異なる
拒否事由—(自分の記載の証明)会社法125条3項の拒否事由閲覧は拒否できる場合がある

株主名簿の閲覧請求への対応は、第14話「株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応」で詳しく整理します。

10. 登記申請時の株主リストとの違い

もう一つ混同しやすいのが、登記申請時に添付する株主リストです。これは株主名簿記載事項証明書とは別物です。

表6:株主名簿記載事項証明書と登記申請時の株主リストの違い
項目株主名簿記載事項証明書株主リスト注意点
目的株主本人への記載事項の証明一定の登記申請の添付書類目的が異なる
提出先請求した株主等法務局提出先が異なる
根拠会社法122条商業登記規則等制度が異なる
記載内容当該株主の記載事項上位株主等を代表者が証明内容が異なる

登記申請実務の詳細には立ち入りませんが、名称が似ていても役割がまったく違うことを押さえてください。

11. 発行履歴・控えの管理

証明書は個人情報を含む重要書類です。発行のたびに履歴・控えを残し、アクセス権限を管理しましょう。

表7:発行履歴で管理すべき事項
管理項目管理目的注意点
発行日いつ時点の証明か特定名簿の基準時点と整合
請求者・証明対象株主誰の請求で誰について発行したか本人/代理人を区別
発行部数重複発行の管理原本・写しの区別
提出目的・提出先第三者提供の妥当性個人情報の取扱い
作成者・確認者社内のチェック体制作成と確認を分ける
代表取締役の署名・押印日122条2項の充足誰が署名・押印したか
控えの保存場所後からの検証アクセス権限を制限

12. 株主名簿記載事項証明書でよくあるミス

表8:株主名簿記載事項証明書でよくあるミス
ミス起きやすい場面防止策
株主名簿全体をそのまま渡してしまう証明書と名簿写しの混同当該株主の記載事項のみを証明
本人確認なしで第三者に応じる第三者からの請求本人確認・同意・権限を確認
代理権を確認しない代理人請求委任状・代理権を確認
古い株主名簿をもとに発行する名簿の更新漏れ最新性を確認(第3話)
名義書換未了なのに発行する譲渡後の手続漏れ名義書換の有無を確認
代表取締役の署名・記名押印を忘れる担当者印刷のみ122条2項を確認
株券発行会社かどうかを確認しない機関設計の未確認定款・登記で確認(122条4項)
発行履歴を残さないその場限りの対応履歴・控えを保存
個人情報の管理を軽く見る第三者提供・保管アクセス権限・目的を管理

13. 発行対応の実務手順

請求を受け付ける
請求者・代理権を確認する
株主名簿上の記載事項を確認する
名義書換未了・譲渡制限・株券発行会社かどうかを確認する
記載事項を作成する(当該株主についての事項)
社内確認を行う
代表取締役の署名または記名押印を受ける(電子提供は施行規則の措置)
交付・送付する
発行履歴と控えを保存する

14. 株主名簿記載事項証明書発行チェックリスト

表9:株主名簿記載事項証明書発行チェックリスト
確認項目完了欄注意点
請求者は株主本人か本人確認資料
代理人の場合、代理権を確認したか委任状
法人株主の場合、権限確認をしたか代表者・担当者の権限
株主名簿は最新か更新履歴を確認
対象株式数は正しいか発行済株式総数と整合
種類株式の有無を確認したか種類・種類ごとの数
株式取得日を確認したか取得原因資料
名義書換未了の株式譲渡がないか譲渡契約・書換請求
株券発行会社かどうか確認したか122条の適用関係
代表取締役の署名・記名押印を手配したか122条2項
発行履歴と控えを保存したか後からの検証
個人情報の取扱いに注意したか提出先・目的・アクセス管理
個別案件では一次資料の確認を

結論は、会社の種類、定款や株式取扱規程、株券発行会社か、電磁的記録で提供するか、請求者の立場によって変わります。個別案件では、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・株式譲渡契約書・譲渡承認資料・登記情報を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。なお、本シリーズは主に非上場会社・子会社・中小企業の実務を想定し、相続対応は扱いません。

まとめ

株主名簿記載事項証明書は、当該株主についての株主名簿記載事項を記載した書面です(会社法122条)。
株主名簿全体の写しや、登記申請時の株主リストとは違います。
書面には代表取締役の署名または記名押印が必要です(122条2項)。電子提供は施行規則の措置を確認します。
株券発行会社には会社法122条が適用されません(122条4項)。まず株券発行会社かを確認します。
発行前に、請求者・代理権・名簿の最新性・名義書換未了・株式数・種類株式・個人情報管理を確認します。

次回(第11話)は、借入時に株式を担保にする場合の株主名簿、登録株式質権者とは何かを整理します。

このシリーズで扱うテーマ(全15話)

表10:株主名簿管理で忘れがちな会社法実務15選
話数記事タイトル主なテーマ
第1話株主名簿とは何か|登記簿を見ても株主が分からない理由株主名簿の基礎・登記簿との違い
第2話株主名簿の記載事項とは|氏名・住所・株式数・取得日をどう管理するか記載事項の管理実務
第3話株主名簿が古い会社はどう整備するか|過去の譲渡・増資・自己株式を確認する手順名簿の再整備
第4話株主名簿と役員選任|誰の議決権で取締役・監査役を選ぶのか役員選任と議決権
第5話株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係招集通知と基準日
第6話議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方議決権数の確認
第7話株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか名義書換と対抗要件
第8話譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理譲渡制限株式
第9話株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務書換請求への対応
第10話株主名簿記載事項証明書とは|株主から証明書を求められた場合の対応(本記事)記載事項証明書
第11話借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か株式質権の基礎
第12話株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係質権と議決権・配当
第13話登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務質権者への通知・配当
第14話株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応閲覧・謄写請求
第15話株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと年次チェックリスト

◀ 前回(第9話):株主名簿書換請求を受けた場合の確認手順は、第9話「株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務」もあわせてご確認ください。

▶ 次回(第11話):次回は、借入時に株式を担保にする場合の株主名簿、登録株式質権者とは何かを整理します。
第11話:借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か

株主総会・役員変更・取締役会議事録などの会社法実務については、Legal GPT のコーポレート法務関連記事もあわせてご確認ください。

参考情報・参照先

本記事は、以下の一次情報(公的機関の法令データベース)を確認したうえで作成しています。条文の正確な内容・最新の改正状況は、必ず以下のリンクからご確認ください。

e-Gov 法令検索「会社法」(参照条文:第121条 株主名簿/第122条 株主名簿記載事項を記載した書面の交付等/第124条 基準日/第125条 株主名簿の備置き及び閲覧等/第126条 株主に対する通知等/第130条 株式の譲渡の対抗要件/第133条 株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録/第134条 株主名簿記載事項の記載又は記録の請求)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
e-Gov 法令検索「会社法施行規則」(参照規定:第225条 署名又は記名押印に代わる措置〔電子署名〕ほか、株主名簿記載事項に関する規定)
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応にあたっては、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・株式譲渡契約書・譲渡承認資料・登記情報などを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

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法務記事で理解した内容は、チェックリスト・文例・記録・検索・ツール化まで落とし込まないと、次の案件で再利用しにくいまま終わってしまいます。下の道具は、今日の業務にすぐ差し込める順に並べています。
01
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02
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