株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応
次の案件で使える形に。
株主から「株主名簿を見せてください」と言われたら、すぐに見せてよいのでしょうか。
株主名簿には、株主の氏名・住所・株式数などが含まれるため、管理上の注意が必要です。一方で、会社法上、株主や債権者には株主名簿の閲覧・謄写請求が認められています。会社は、請求者・請求理由・拒絶事由・閲覧方法・個人情報管理を確認する必要があります。
この第14話では、株主名簿の閲覧請求を受けた場合の社内対応を整理します。株主名簿記載事項証明書の対応は第10話「株主名簿記載事項証明書とは」をご覧ください(混同しやすいので後述します)。
1. 株主名簿の閲覧・謄写請求とは何か
会社は株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合はその営業所)に備え置かなければなりません(会社法125条1項)。そのうえで、株主・債権者は閲覧・謄写を請求できます。
株主及び債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、請求の理由を明らかにして、次の請求をすることができる。
一 株主名簿が書面で作成されているとき その書面の閲覧又は謄写の請求
二 株主名簿が電磁的記録で作成されているとき 法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求 ※ 引用は要点のみ。正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。
「閲覧」とは見ること、「謄写」とは写しを取ることです。株主名簿が紙か電磁的記録かで、閲覧・謄写の方法が変わる点も押さえておきましょう。
| 確認事項 | 見る資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 請求者は誰か | 請求書、本人確認資料 | 株主・債権者・親会社社員の別 |
| 請求の対象 | 請求書 | 株主名簿か(証明書・会計帳簿と区別) |
| 請求理由 | 請求書(理由欄) | 理由を明らかにさせる |
| 拒絶事由の有無 | 請求理由・経緯 | 125条3項を確認 |
| 閲覧・謄写方法 | 定款、株式取扱規程 | 紙か電磁的記録か |
2. 誰が請求できるのか
会社法125条2項により、株主及び債権者が請求できます。株主からの請求か、債権者からの請求かを確認しましょう。また、株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て請求できる場合があります(会社法125条4項。許可申請は非訟事件)。
| 請求者 | 請求可否の基本 | 確認資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 株主本人 | 請求できる(125条2項) | 株主名簿、本人確認資料 | 名簿上の株主か |
| 法人株主の担当者 | 請求できる | 登記、社内権限資料 | 代表者・担当者の権限 |
| 代理人 | 請求できる | 委任状、代理権の資料 | 代理権の範囲 |
| 債権者 | 請求できる(125条2項) | 債権の存在を示す資料 | 債権者であることの確認 |
| 親会社社員 | 裁判所の許可を得て請求(125条4項) | 裁判所の許可、請求理由 | 許可の有無を確認 |
いずれの場合も、請求者の本人確認・資格確認が重要です。
3. 請求理由を確認する
会社法125条2項は、請求にあたり請求の理由を明らかにすることを求めています。請求理由を確認せずに開示してはいけません。請求理由は、後述の拒絶事由の有無を検討する前提になります。
請求理由を記載してもらうこと自体と、その理由が会社法上問題ないか(拒絶事由に当たらないか)を検討することは、別の作業です。口頭請求のままにせず、書面・メール等で請求内容と理由を記録化する実務をおすすめします。
4. 会社は自由に拒否できるのか
適法な請求について、会社が自由に拒否できるわけではありません。ただし、会社法125条3項には拒絶できる事由(拒絶事由)が定められています。拒否できるかどうかは、請求者・請求理由・目的・過去の行為などを確認して判断します。
拒否の判断は法的リスクを伴います。「嫌だから見せない」「個人情報だから見せない」といった単純な対応は避け、拒絶事由への該当性を慎重に検討し、必要に応じて弁護士等に確認してください。
5. 会社法125条3項の拒絶事由
会社が株主名簿の閲覧・謄写請求を拒める事由は、会社法125条3項に定められています。
| 拒絶事由 | 初心者向けの意味 | 確認すべき事情 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1号:権利の確保・行使に関する調査以外の目的 | 株主等の権利と関係ない目的での請求 | 請求理由・目的 | 目的を具体的に確認 |
| 2号:業務妨害・株主共同の利益を害する目的 | 会社の業務を妨げる、株主全体の利益を損なう目的 | 請求の態様・経緯 | 濫用的かどうか |
| 3号:知り得た事実を利益を得て第三者に通報する目的 | 名簿で知った情報を売る・有償提供する目的 | 提供先・対価の有無 | 通報目的の有無 |
| 4号:過去2年以内に同様の通報をしたことがある | 過去に名簿情報を有償で第三者に通報した実績 | 過去の行為・記録 | 2年以内かどうか |
かつては「請求者が会社と実質的に競争関係にある事業を営む」ことが拒絶事由とされていましたが、平成26年改正で株主名簿についてはこの事由が削除されました。会計帳簿の閲覧請求(会社法433条)とは異なる点なので、混同しないよう注意してください。競争関係にあるというだけでは拒否できず、上記1号〜4号などの濫用的事情があるかで判断します。なお、拒絶事由を会社都合で拡張して解釈しすぎないことも重要です。
6. 株主名簿記載事項証明書との違い
混同しやすいのが、株主名簿記載事項証明書(会社法122条)です。これは当該株主についての記載事項を記載した書面であり、株主名簿そのものを見せる閲覧・謄写とは別の制度です。
| 項目 | 株主名簿記載事項証明書 | 閲覧・謄写請求 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 根拠条文 | 会社法122条 | 会社法125条 | 制度が異なる |
| 対象 | 当該株主についての記載事項 | 株主名簿そのもの | 個別か全体か |
| 請求者 | その株主(質権者は149条) | 株主・債権者(親会社社員は許可) | 請求主体が異なる |
| 拒否 | —(自分の記載の証明) | 125条3項の拒絶事由 | 閲覧は拒否できる場合がある |
登記申請時に添付する「株主リスト」や、会社法433条の会計帳簿閲覧請求も、株主名簿の閲覧・謄写とは別の制度です。請求が「どの制度に基づくものか」をまず確認してください。株主名簿記載事項証明書は第10話「株主名簿記載事項証明書とは」で整理しています。
7. 開示範囲と個人情報管理
株主名簿には、株主の氏名・住所・株式数・取得日などが含まれます。個人株主の住所等は個人情報に当たり得るため、閲覧・謄写の場面でも管理が重要です。記載事項の詳細は第2話「株主名簿の記載事項とは」で整理しています。
個人情報であることだけを理由に、会社法上の適法な閲覧・謄写請求を当然に拒否できるわけではありません。一方で、個人情報管理を無視してよいわけでもありません。会社法上の請求権と個人情報管理を両立させる必要があります。
| 場面 | リスク | 管理方法 |
|---|---|---|
| 閲覧時 | 無断撮影・書き写し | 立会い・撮影ルールの明確化 |
| 謄写時 | 不要な範囲の複写 | 必要範囲の確認・記録 |
| 交付時 | 第三者への流出 | 交付先・部数の管理 |
| 保管時 | 名簿原本の持ち出し | 持ち出し禁止・保管場所の限定 |
8. 閲覧・謄写の方法をどう決めるか
| 管理項目 | 実務上の対応例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 名簿の形式 | 紙/電磁的記録 | 電磁的記録は表示方法を決める |
| 閲覧場所 | 本店等の指定場所 | 持ち出し禁止 |
| 閲覧時間 | 営業時間内 | 事前予約・日時調整 |
| 謄写方法 | 会社側で写しを用意/コピー対応 | 範囲・部数を管理 |
| 担当者の立会い | 立会いを付ける | 原本の保全 |
| 写真撮影・スキャン | 会社ルールで可否を決める | ルールを事前に明示 |
| 手数料 | 謄写の実費等 | 規程に基づく |
定款・株式取扱規程・社内規程がある場合は、あわせて確認してください。
9. 請求を受けたときの社内確認フロー
10. 拒否する場合の注意点
| 確認事項 | 見る資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| どの拒絶事由に該当するか | 会社法125条3項、請求理由 | 号を特定して整理 |
| 該当を基礎づける事情 | 請求の経緯・証拠 | 記録を残す |
| 社内承認 | 法務・役員の確認 | 現場判断で断らない |
| 拒否通知の内容 | 通知文案 | 感情的・曖昧な理由にしない |
| 専門家確認 | 弁護士の意見 | 紛争化の可能性に備える |
拒否は株主との紛争につながる可能性があります。会社法125条3項のどの事由に該当すると考えるのかを明確にし、証拠・経緯を記録したうえで、必要に応じて弁護士に確認しましょう。
11. 株主名簿閲覧請求でよくあるミス
| ミス | 起きやすい場面 | 防止策 |
|---|---|---|
| 請求者確認をしない | 顔見知りの株主 | 本人・資格・権限を確認 |
| 請求理由を確認しない | 口頭での依頼 | 理由を記録化(125条2項) |
| 個人情報だからと即拒否する | 住所開示への抵抗 | 拒絶事由を検討して判断 |
| 何も確認せず全体コピーを渡す | 急いだ対応 | 範囲・方法・記録を管理 |
| 記載事項証明書と混同する | 請求内容の取り違え | 122条と125条を区別 |
| 会計帳簿閲覧請求と混同する | 制度の混同 | 433条と区別 |
| 閲覧・謄写履歴を残さない | その場対応 | 実施記録を保存 |
| 電磁的記録の閲覧方法を決めていない | 名簿が電子データ | 表示方法を事前に整備 |
| 代理人・法人担当者の権限確認をしない | 代理請求 | 委任状・権限を確認 |
| 拒否事由を会社都合で広げる | 請求を避けたい場面 | 条文に即して判断 |
12. 株主名簿閲覧請求対応チェックリスト
| 確認項目 | 完了欄 | 注意点 |
|---|---|---|
| 請求者は株主または債権者か | ☐ | 資格を確認 |
| 親会社社員の場合、裁判所の許可があるか | ☐ | 125条4項 |
| 本人確認・権限確認をしたか | ☐ | 代理人は委任状 |
| 請求理由を確認したか | ☐ | 125条2項 |
| 請求対象は株主名簿か | ☐ | 証明書・会計帳簿と区別 |
| 証明書請求と混同していないか | ☐ | 122条と125条 |
| 拒絶事由を確認したか | ☐ | 125条3項 |
| 閲覧・謄写方法を決めたか | ☐ | 紙/電磁的記録 |
| 個人情報管理上の措置を取ったか | ☐ | 立会い・範囲管理 |
| 実施記録を残したか | ☐ | 履歴の保存 |
| 拒否する場合、法的根拠と社内承認を確認したか | ☐ | 弁護士確認も検討 |
対応は、請求者・請求理由・拒絶事由・会社の状況・定款・株式取扱規程によって変わります。拒否できるかどうかは個別事情に左右されるため、安易に「拒否できる」と断定せず、個別案件では定款・株式取扱規程・社内規程・請求書・本人確認資料・請求理由・過去の閲覧履歴を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。なお、本シリーズは主に非上場会社・子会社・中小企業の実務を想定し、相続対応は扱いません。
まとめ
次回(第15話)は、株主名簿管理全体のチェックリストを、役員・法務・総務向けに整理します。
このシリーズで扱うテーマ(全15話)
| 話数 | 記事タイトル | 主なテーマ |
|---|---|---|
| 第1話 | 株主名簿とは何か|登記簿を見ても株主が分からない理由 | 株主名簿の基礎・登記簿との違い |
| 第2話 | 株主名簿の記載事項とは|氏名・住所・株式数・取得日をどう管理するか | 記載事項の管理実務 |
| 第3話 | 株主名簿が古い会社はどう整備するか|過去の譲渡・増資・自己株式を確認する手順 | 名簿の再整備 |
| 第4話 | 株主名簿と役員選任|誰の議決権で取締役・監査役を選ぶのか | 役員選任と議決権 |
| 第5話 | 株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係 | 招集通知と基準日 |
| 第6話 | 議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方 | 議決権数の確認 |
| 第7話 | 株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか | 名義書換と対抗要件 |
| 第8話 | 譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理 | 譲渡制限株式 |
| 第9話 | 株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務 | 書換請求への対応 |
| 第10話 | 株主名簿記載事項証明書とは|株主から証明書を求められた場合の対応 | 記載事項証明書 |
| 第11話 | 借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か | 株式質権の基礎 |
| 第12話 | 株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係 | 質権と議決権・配当 |
| 第13話 | 登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務 | 質権者への通知・配当 |
| 第14話 | 株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応(本記事) | 閲覧・謄写請求 |
| 第15話 | 株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと | 年次チェックリスト |
◀ 前回(第13話):登録株式質権者への通知・配当対応を確認したい方は、第13話「登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務」もあわせてご確認ください。
▶ 次回(第15話):次回は、株主名簿管理全体のチェックリストを、役員・法務・総務向けに整理します。
第15話:株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと
株主総会・役員変更・取締役会議事録などの会社法実務については、Legal GPT のコーポレート法務関連記事もあわせてご確認ください。
参考情報・参照先
本記事は、以下の一次情報(公的機関の法令データベース等)を確認したうえで作成しています。条文の正確な内容・最新の改正状況は、必ず以下のリンクからご確認ください。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応にあたっては、定款・株式取扱規程・社内規程・請求書・本人確認資料・請求理由・過去の閲覧履歴などを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
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