注意書・指導書・始末書・顛末書の違い|会社でどう使い分ける?
問題社員対応の実務
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
注意書・指導書・始末書・顛末書の違い
会社でどう使い分ける?
法令・情報基準日:2026年9月1日
「本人に始末書を書かせた方がいいですか」
「始末書と顛末書の違いは何ですか」
「今回は注意書だけで足りますか」
「本人が始末書への署名を拒否しています」
法務がこうした相談を受けたとき、最初に確認すべきなのは文書の名前ではありません。会社は何をしたいのかです。
法務の結論
- 会社として問題行動を正式に指摘したい → 注意書
- 具体的な改善行動まで示したい → 指導書
- 本人から事実・経緯を報告させたい → 顛末書
- 事実に加えて再発防止や本人の認識まで求めたい → 始末書を検討
先に「始末書 顛末書 違い」への直接の答えを示します。一般的な企業実務では、顛末書は事実・経緯の報告が中心、始末書は事実・原因に加えて反省や再発防止を記載させる運用が多い、という違いがあります。ただし、これらは法律上の統一定義があるものではありません。同じ名称でも会社によって中身が違いますし、「経緯報告書」「事故報告書」を顛末書相当として使う会社、「反省文」を始末書と呼ぶ会社もあります。
したがって本記事では、名称ではなく機能で整理します。第2話では注意・指導の進め方と記録を扱いました(第2話:社員への注意・指導はどう行う?会社が残すべき記録と進め方)。第3話では、その場面で使う4つの文書を、目的・作成主体・記載内容・懲戒処分との関係から整理します。
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注意書・指導書・始末書・顛末書は何が違う?
まず全体像です。
図表1|4文書の比較
| 項目 | 注意書 | 指導書 | 顛末書 | 始末書 |
|---|---|---|---|---|
| 作成主体 | 会社 | 会社 | 本人 | 本人 |
| 宛先 | 社員本人 | 社員本人 | 会社(上司・人事等) | 会社(上司・人事等) |
| 主な目的 | 問題行動を正式に指摘する | 今後求める改善行動を示す | 事実・経緯・原因を報告させる | 事実・原因に加え、再発防止や本人の認識を求める |
| 記載の中心 | 何が問題だったか | 今後どうしてほしいか | 何が起きたか | 何が起きたか+今後どうするか |
| 反省・謝罪を求めるか | 求めない | 求めない | 原則として求めない | 求める運用が多いが、必要性は個別に検討 |
| 懲戒処分との関係 | それ自体は懲戒処分ではない | それ自体は懲戒処分ではない | それ自体は懲戒処分ではない | 就業規則の定め方によっては懲戒(けん責等)の内容の一部になり得る |
| 典型的な使用場面 | 初回または軽微な規律違反の指摘 | 反復する問題、改善期間を設ける場合 | 事故・トラブル・ミスの事実確認 | 一定の非違行為について、会社が本人の認識まで確認する場合 |
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会社発行文書と本人提出文書を分ける
4つを覚えるより、この2分類を先に押さえたほうが実務は安定します。
図表2|会社発行文書と本人提出文書の整理
| 区分 | 該当文書 | 会社が管理すべき点 | 本人が拒否した場合 |
|---|---|---|---|
| 会社発行文書 | 注意書、指導書 | 内容の正確性、決裁、交付方法、交付事実の記録 | 署名・受領を拒否されても、会社が交付した事実は記録として残せる |
| 本人提出文書 | 顛末書、始末書 | 何を報告させるのか(事実か、認識か)の切り分け | 提出がない状態が続く。会社側で事実調査を続ける必要がある |
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会社発行文書は会社が単独で完結できるのに対し、本人提出文書は本人の協力がなければ成立しません。「始末書を出させれば記録が残る」と考えていると、拒否された瞬間に会社の手元に何も残らないという事態になります。ここが実務上の分岐点です。
注意
なお、本記事の整理は一般的な企業実務の用法をまとめたものであり、法律上の定義ではありません。自社の就業規則・懲戒規程・過去の運用で、これらの文書がどう位置づけられているかを必ず確認してください。
注意書とは|会社から問題行動を正式に伝える文書
注意書は、会社が作成し、本人に交付する文書です。目的は、問題となる具体的行為を指摘し、会社としての注意を正式に伝えることにあります。
記載する基本項目は次のとおりです。
- 発生日(および場所・関係者)
- 問題となる具体的行為
- 関連する社内ルール(就業規則の条項等)
- 会社からの注意の内容
- 今後求めること
- 交付日・発行部署
注意書を交付すること自体は、懲戒処分ではありません。 会社が業務上の指摘を文書で行ったにすぎず、口頭注意を文書化したものと位置づけられます。
ただし、就業規則で「けん責:始末書を提出させ将来を戒める」「戒告:将来を戒める」といった懲戒の種類を定めている場合、会社が「注意書」と呼んでいる文書が、実質的にこれらの懲戒処分に当たると評価される余地があります。名称ではなく、就業規則上の位置づけと運用実態で判断されるという前提で設計してください。この点は本記事後半の「始末書は懲戒処分なのか?」で改めて整理します。
面談の進め方そのものは第2話で扱っています。
指導書とは|改善してほしい行動を具体的に示す文書
指導書も会社が作成する文書ですが、重点が異なります。
図表3|注意書と指導書の違い
| 観点 | 注意書 | 指導書 |
|---|---|---|
| 重点 | 何が問題だったか(過去) | 今後どう改善するか(将来) |
| 中心的な記載 | 問題行為とルール違反の指摘 | 期待する行動、改善期限、確認方法 |
| 想定場面 | 初回、単発、事実を明確にしたい | 反復、改善期間を設定する、後の判断につながり得る |
| 会社の支援 | 通常は記載しない | 手順書の提供、担当調整等を記載することが多い |
| 本人の受け止め | 「指摘された」 | 「何をすればよいかが分かった」 |
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実務上、この2つは重なります。注意書に改善要求を書けば指導書に近くなりますし、指導書で問題行為を特定しないと成立しません。厳密に区別することが目的ではなく、「今回の文書で会社は何を伝えたいのか」を明確にすることが目的です。
指導書に記載する改善要求は、第三者が後から実施の有無を判定できる水準まで具体化してください。「協調性を持つこと」ではなく「会議で他の社員の発言中は遮らないこと」と書きます。改善要求の具体化の方法と、改善期限・確認方法の設計は第2話で詳しく扱っています。
顛末書とは|事実・経緯を本人から報告させる文書
顛末書は、本人が作成し、会社に提出する文書です。目的は原則として事実確認・報告であり、反省や謝罪を求める文書ではありません。
記載を求める項目の例です。
| 項目 | 記載を求める内容 |
|---|---|
| 発生日時 | いつ起きたか |
| 発生場所 | どこで起きたか |
| 関係者 | 誰が関与したか |
| 何が起きたか | 事象そのもの |
| 発生までの経緯 | どのような流れで起きたか |
| 本人が行った対応 | 発覚後、本人が何をしたか |
| 原因 | 本人が認識している原因 |
| 現在の状況 | 未収束か、収束済みか |
| 再発防止策 | 必要に応じて(求めるかは事案による) |
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顛末書を扱う際の留意点は3つです。
(1)事実と評価を分けさせる
「私の不注意により」といった評価が混ざると、事実関係が見えにくくなります。求めるのは「何が起きたか」であり、「どう評価するか」は会社が判断します。
(2)会社が書いてほしい結論へ誘導しない
会社側が想定する原因や結論をあらかじめ示して書かせると、その顛末書は本人の説明としての価値を失います。後から「会社に書かされた」と主張された場合、会社の主張全体の信用性が下がります。
(3)顛末書の内容だけを事実として採用しない
本人の記憶と客観資料(勤怠記録、メール、ログ等)が食い違うことは珍しくありません。会社が本人の記載を勝手に書き換えるのではなく、食い違いは別途の調査で整理します。顛末書は事実認定の材料の一つであって、事実認定そのものではありません。
始末書とは|顛末書と何が違う?
「始末書 顛末書 違い」への回答を、あらためて整理します。
図表4|顛末書と始末書の違い
| 観点 | 顛末書 | 始末書 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 事実・経緯の報告 | 事実・原因の報告に加え、再発防止や本人の認識の表明 |
| 中心的な記載 | 何が起きたか | 何が起きたか+今後どうするか+(運用によっては)反省・謝罪 |
| 本人の内心に関わるか | 原則として関わらない | 関わり得る |
| 想定場面 | 事故、トラブル、業務上のミス | 一定の非違行為 |
| 懲戒処分との関係 | 通常は無関係 | 就業規則の定め方により、懲戒の内容の一部となる場合がある |
| 提出を求める際のハードル | 比較的低い | 内容次第で高くなる |
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繰り返しになりますが、これは法律上の定義ではなく、企業実務上の一般的な用法です。会社によっては、事実報告だけを求める文書を「始末書」と呼んでいることもあります。自社での定義を確認してください。
「始末書=謝罪文」と単純化しない
実務で最も多い誤りが、「何か起きたら、とりあえず始末書」という運用です。始末書に含まれ得る要素を分解すると、次の4つになります。
| 要素 | 会社が求める内容 | 代替手段 |
|---|---|---|
| ① 事実報告 | 何が起きたか | 顛末書、事情聴取記録 |
| ② 原因分析 | なぜ起きたか | 顛末書、上司による分析 |
| ③ 再発防止 | 今後どうするか | 改善計画書、指導書 |
| ④ 反省・謝罪 | 本人の内心の表明 | 代替できない。必要性を個別に検討 |
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会社が本当に必要としているのが①②であれば、顛末書で足ります。③が必要なら、改善計画や指導書のほうが具体的で運用しやすい。④まで必要かどうかは、別途慎重に検討すべきです。ここを分けずに「始末書」という一語で処理していることが、後述するトラブルの原因になります。
始末書に「反省」「謝罪」を書かせてよい?
ここは法的な精度が必要な部分です。次の3つを区別してください。
| 区分 | 内容 | 性質 |
|---|---|---|
| A | 事故や問題行動について、事実・経緯・原因を報告させる | 業務に関する報告。就業規則の服務規律(上司への報告義務等)に根拠を求めやすい |
| B | 再発防止策を考えさせる | 業務改善の一環。業務との関連性を説明しやすい |
| C | 「深く反省しています」「申し訳ありません」など、本人の内心や謝罪意思の表明を求める | 本人の意思決定・良心の自由など人格的利益との関係が問題となり得る。憲法19条の趣旨も背景にあるが、民間企業と労働者の関係では、労働契約上の義務、企業秩序維持の必要性、人格的利益への制約の程度等を踏まえて具体的に判断する必要がある |
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AとBは、業務上の必要性と社内ルール上の根拠を示せば、報告を求めることが比較的説明しやすい領域です。他方でCは、本人が「そう思っていない」と述べている場合に、会社がその表明を強いてよいのかという問題を含みます。
この点について、確立した最高裁判例は見当たりませんが、下級審裁判例には参考になるものがあります。
図表5|始末書提出命令に関する裁判例
裁判例
西福岡自動車学校事件・福岡地判平成7年9月20日
労働者は労働契約上、企業秩序維持に協力する一般的義務を負うとし、始末書等の提出の強制が労働者の人格を無視し、意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものでない限り、使用者は非違行為をした労働者に始末書等の提出を命ずることができ、正当な理由なくこれに従わない場合には、これを理由として懲戒処分をすることができるとした。もっとも同事件では、和解成立後の経緯等から、始末書の不提出等を理由とする第二次懲戒処分は不当労働行為に当たると判断されている。
柴田女子高校事件・青森地裁弘前支判平成12年3月31日
同様の一般論を示しつつ、事案の下では、始末書の提出を命ずる前提となる就業規則上の非違行為の存否等が問題とされ、その不提出を理由とする処分は認められなかった。
整理すると、始末書の提出命令は常に有効でも常に無効でもなく、個別判断です。判断の分かれ目になるのは、次の要素です。
- 提出命令の前提となる非違行為が実際に認められるか
- 就業規則上の根拠があるか
- 求めている文面の内容(事実報告か、謝罪・反省の表明か、その程度)
- 業務上・企業秩序維持上の必要性
- 本人の人格・意思決定や良心の自由への制約の程度
- 本人が拒否している理由
実務上重要なのは、判例の帰趨を予測することではなく、AとBで足りる場面でCまで求めていないかを会社として点検することです。
法務としての実務的な結論は次のとおりです。
- 事実確認が目的なら、Cを求めない。顛末書または報告書で足りる
- Cを求める場合は、その必要性を説明できるようにしておく。説明できないなら求めない
- Cを拒否されても、それだけで直ちに懲戒できると考えない。上記6要素を個別に確認する。特に、前提となる非違行為の存否が固まっていない段階で提出を強いることは避ける
- 同一行為への重ねての処分にならないかを確認する。減給等の処分をしたうえで、始末書の不提出を理由にさらに処分を重ねる構成は、後述のとおり別の論点を生む
- 文書名を「始末書」としつつ、実際にはAとBしか求めていないのであれば、様式にその旨を明記する(「本書は事実の報告を求めるものであり、謝罪の表明を求めるものではありません」等)
最後の点は、様式を1行変えるだけで運用が安定します。おすすめです。
始末書・顛末書の提出を拒否されたらどうする?
提出拒否は珍しくありません。「始末書を書かなければさらに処分する」という対応に直行しないでください。 手順を分解します。
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 拒否の理由を確認する(事実を争っているのか、謝罪を拒んでいるのか、体調によるものか) |
| 2 | 会社が求めているものを再確認する(前章のA・B・Cのどれか) |
| 3 | Cが拒否の理由であれば、AまたはBに限定した報告書への切り替えを検討する |
| 4 | 求めるものがAである場合、業務上の必要性と社内ルール上の根拠を整理する |
| 5 | 提出を求めた事実、拒否された事実、その理由を記録する |
| 6 | 会社側で事実調査を継続する(客観資料、関係者からの聴取) |
| 7 | 事情聴取を行い、その記録を残す(本人が口頭では説明する場合がある) |
| 8 | 提出拒否そのものを直ちに懲戒事由として扱わない |
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3番と4番が実務上の要点です。「反省文としての始末書」を拒否されているのか、「業務上の報告」まで拒否されているのかでは、意味がまったく違います。前者であれば、報告書に切り替えれば会社の目的(事実確認)は達成できます。後者であれば、業務上の報告義務との関係で別途の検討が必要になりますが、その場合でも、いきなり処分ではなく、まず何を求めているかを書面で明確にしてください。
そして、提出がなくても会社の対応は止まりません。顛末書は事実認定の材料の一つにすぎず、客観資料と関係者の説明によって事実を確定させることは可能です。「本人が書かないから進められない」という状態にならないよう、調査は並行して進めます。
署名・押印を拒否された場合はどうする?
会社発行文書(注意書・指導書)の署名拒否については第2話でも触れましたので、ここでは署名欄の設計に絞ります。
実務で最も多い混乱は、署名欄が何を意味するのか会社自身が決めていないことです。次の3つを分けてください。
図表6|受領確認/内容確認/同意の違い
| 署名欄の意味 | 本人が確認していること | 拒否された場合の影響 | 様式の記載例 |
|---|---|---|---|
| 受領確認 | 文書を受け取ったという事実のみ | 交付記録・同席者で代替できる | 「本書を受領しました」 |
| 内容確認 | 記載内容を読んだこと(内容の正誤は問わない) | 面談記録で代替できる | 「本書の内容について説明を受けました」 |
| 同意 | 記載内容を事実として認め、または改善に合意すること | 代替できない。同意がないという事実が残るだけ | 「本書の内容に相違ありません」 |
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「署名すれば事実を認めたことになる」と単純化しないでください。署名欄が受領確認の趣旨であれば、署名は「受け取った」ことしか意味しません。逆に、同意を意味する欄に署名を求めているのであれば、拒否されるのは当然のことがあります。
押さえるべきは次の点です。
- 署名を拒否されても、会社が文書を交付した事実がなくなるわけではない
- 無理に署名・押印させない。強要すれば任意性が争われ、資料としての価値がむしろ下がる
- 本人が内容に異議を述べた場合、その異議の内容も記録する
- 同席者、交付日時、交付方法(手交・メール・郵送)を記録する
- 押印自体を目的化しない
様式を見直す際は、署名欄の直上に「本欄は受領の確認であり、記載内容への同意を意味するものではありません」と明記しておくと、現場での押し問答が減ります。
始末書は懲戒処分なのか?
結論は、名称だけでは決まらないです。次の3つを区別してください。
| 位置づけ | 内容 | 懲戒処分か |
|---|---|---|
| ① 単なる報告書 | 事故・トラブルの事実報告として提出させる | 懲戒処分ではない |
| ② 指導の一環 | 注意・指導の過程で本人の認識を確認するため提出を求める | 懲戒処分ではない |
| ③ 就業規則上の懲戒の内容 | 「けん責:始末書を提出させ将来を戒める」等の規定に基づく | 懲戒処分の内容の一部 |
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法的根拠
労働基準法89条9号は、表彰及び制裁の定めをする場合には、その種類及び程度に関する事項を就業規則に記載すべきものとしています。多くの会社は、これに基づき「戒告」「けん責」等を定めており、けん責の内容として始末書の提出を組み込んでいることがあります。
ここで実務上の危険が生じます。現場が「指導のつもり」で始末書を出させ、会社としては就業規則上のけん責に当たると整理されているという状態です。この食い違いは、後の懲戒判断に影響します。
重大リスク
- 同一の行為について、指導としての始末書提出の後にあらためて懲戒処分を行うと、同一行為に対する重複した処分ではないかという論点が生じ得ます
- 逆に、けん責として始末書を提出させたのに、決裁も通知もしていない場合、懲戒処分としての手続を欠いているという指摘を受け得ます
懲戒処分の可否と処分相当性の判断は第7話、手続の整備は第8話で扱います。第3話の段階で会社がやるべきことは1つです。始末書の提出が、就業規則上の懲戒に当たるのか、当たらないのかを、社内で統一しておくこと。この整理がないまま運用している会社が非常に多く、後になって説明できなくなります。
なお、けん責・戒告は減給を伴わないため、減給の制裁の制限を定める労働基準法91条の適用場面とは異なります。始末書の提出を求めることと賃金を減額することは、まったく別の話です。混同しないでください。
注意書・指導書には何を書く?
会社発行文書の共通項目です。自社様式を作る際の項目例として使ってください。
| # | 項目 | 記載上の注意 |
|---|---|---|
| 1 | 文書名 | 社内で定義した名称と一致させる |
| 2 | 対象社員 | 所属・氏名 |
| 3 | 発行日 | 交付日と一致させる |
| 4 | 問題となった具体的事実 | 日時・場面・行為。評価語を使わない |
| 5 | 関連する社内ルール | 就業規則・規程の条項を特定 |
| 6 | 会社の評価 | 事実がどのルールに抵触するか。感想を書かない |
| 7 | 求める改善内容 | 行動レベルまで具体化 |
| 8 | 改善期限 | 年月日 |
| 9 | 確認方法 | 誰が、何をもって確認するか |
| 10 | 問い合わせ先 | 不明点があった場合の連絡先 |
| 11 | 発行部署・決裁者 | 誰の判断で発行されたかを明示 |
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注意|書いてはいけないもの
- 人格評価(「協調性がない」「性格に問題がある」等)
- 未確認の事実(調査中の事項を確定事実のように書く)
- 医学的判断(「精神的に不安定」等、根拠のない健康状態の断定)
- 将来の懲戒を断定する表現(「次回は懲戒解雇とする」等)
最後の点について補足します。懲戒の可否と相当性は、その時点の事実に基づいて改めて判断すべきものです。文書に結論を先に書いてしまうと、後の手続が結論ありきで進められたという主張を招きます。
顛末書・始末書には何を書かせる?
本人提出文書の項目を比較します。
| 項目 | 顛末書 | 始末書 |
|---|---|---|
| 日時・場所 | ○ | ○ |
| 事実(何が起きたか) | ○ | ○ |
| 経緯 | ○ | ○ |
| 原因 | ○ | ○ |
| 本人が行った対応 | ○ | ○ |
| 再発防止策 | 必要に応じて | ○ |
| 本人の認識 | 通常は求めない | 必要に応じて |
| 反省・謝罪 | 求めない | 必要性を個別に検討 |
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運用上の注意を2点。
(1)反省文の提出を常に必須としない
様式に反省欄を設けてしまうと、事実確認だけで足りる事案でも、機械的に反省を書かせることになります。様式を分ける(報告書様式と始末書様式)か、反省欄を任意記載とする設計を検討してください。
(2)会社が文章例を丸ごと渡して書かせない
記載例の提示自体は親切な運用ですが、文面を丸ごと渡してそのまま書き写させると、本人自身の説明なのか会社が作った文章なのか区別できなくなります。提示するのは項目と記載単位(「日時は年月日と時刻まで」等)にとどめ、内容は本人に書かせてください。
4つの文書をどう選ぶ?会社の文書選択フロー
図表7|4文書の選択フロー
会社は何をしたいのか?
- 会社から本人へ伝えたいのか
- 本人から会社へ報告させたいのか
注意書/指導書
- 問題行動を正式に指摘したい → 注意書
- さらに、今後の改善行動まで示したい → 指導書(改善期限・確認方法を併せて設定)
顛末書/始末書
- 事実・経緯・原因を確認したい → 顛末書(または報告書)
- 事実に加え、再発防止・本人の認識まで求めたい → 始末書を検討
反省・謝罪の表明まで求める必要が本当にあるか?
- ないなら → 顛末書+指導書で足りる
- あるなら → 就業規則上の位置づけ(懲戒か否か)を確認
実務では、複数の文書を組み合わせて使うのが自然です。典型的な流れは次のとおりです。
- 事象が発生する
- 本人に顛末書を提出させ、事実・経緯を確認する
- 客観資料と照合し、会社として事実を確定させる
- 会社から指導書を交付し、改善内容・期限・確認方法を示す
- 期限到来時に改善状況を確認し、記録する
この流れなら、始末書を使わずに、事実確認・改善要求・記録のすべてが成立します。「始末書を書かせるかどうか」から検討を始めないでください。
会社として文書運用をどう整備する
ここがLegalGPTらしい部分です。個別の文書をうまく書くことよりも、部署ごとに文書の意味が違う状態をなくすことが重要です。
始末書が、A部署では単なる報告書、B部署では懲戒処分、C部署では反省文として使われている——という状態は、後になって「会社としての扱いが説明できない」という形で表面化します。処分の均衡を問われたときに、比較対象が成立しないためです。
図表8|会社として整備する文書管理ルール
| # | 決めること | 具体的内容 | 主管 |
|---|---|---|---|
| 1 | 各文書の名称と目的 | 社内で使う文書名を確定し、それぞれの目的を1文で定義する | 法務・人事 |
| 2 | 作成主体 | 会社発行か本人提出かを明示 | 人事 |
| 3 | 使用する場面 | どの類型でどの文書を使うか(図表7のフローを社内版に) | 人事 |
| 4 | 起案者 | 現場上司か人事か | 人事 |
| 5 | 法務・人事への相談基準 | 懲戒を検討している、本人が争っている、健康問題がある等 | 法務 |
| 6 | 決裁者 | 文書ごとの決裁権限 | 人事 |
| 7 | 交付・提出方法 | 手交・メール・郵送。交付事実の記録方法 | 人事 |
| 8 | 署名欄の意味 | 受領確認/内容確認/同意のいずれかを様式上明記 | 法務・人事 |
| 9 | 保存場所 | 人事システム、従業員別ファイル等 | 人事・情報システム |
| 10 | 保存期間 | 文書種別ごとの年限 | 人事・法務 |
| 11 | アクセス権限 | 誰が閲覧できるか | 人事・情報システム |
| 12 | 懲戒処分との関係 | 始末書提出が就業規則上の懲戒に当たるか否かを統一 | 法務 |
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会社として整備する
12番が最重要です。ここが曖昧なまま他の11項目を整えても、意味がありません。
保存と個人情報の扱い
注意書・指導書・顛末書・始末書には、いずれも従業員本人に関する個人情報が含まれます。人事システムや従業員別ファイルなど、検索可能な形で体系的に管理され、会社が開示等の権限を有する場合には、個人情報保護法上の「保有個人データ」に該当し得ます。保有個人データに該当する場合、本人は同法33条に基づいて開示を請求できます。会社は原則として開示する必要がありますが、開示によって業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合など、同条2項各号に該当するときは、全部または一部を非開示とすることができます。
また、労働基準法109条は「雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類」を保存対象としており、これらの文書も、内容や当該案件における位置づけによっては同条の対象となる可能性があります。保存期間は法律上5年間ですが、同法143条の経過措置により当分の間は3年間です。
実務上の結論は第2話と同じです。保存期間・保存場所・アクセス権限を会社として定め、上司個人のPCやメールボックスにのみ存在する状態を避けること。詳細は第2話を参照してください。
よくあるNG運用
何か起きたら、とりあえず始末書
事実報告なら顛末書、改善要求なら指導書。目的から選ぶ
図表9|文書運用のNG例と改善
| NG運用 | なぜ問題か | 代わりにすること |
|---|---|---|
| 何か起きたら、とりあえず始末書 | 目的が不明なまま文書名だけが先行する | 事実報告なら顛末書、改善要求なら指導書。目的から選ぶ |
| 始末書の全文を会社が作り、本人に写させる | 本人の説明なのか会社の文章なのか区別できなくなる | 項目と記載単位のみ示し、内容は本人に書かせる |
| 署名しなければ処分すると迫る | 署名の任意性が争われ、資料としての価値が下がる | 署名欄の意味を明示し、拒否された事実を記録する |
| 始末書提出を懲戒と位置づけているのか不明 | 二重処分・手続不備のいずれの指摘も受け得る | 就業規則上の位置づけを社内で統一する |
| 部署ごとに文書の意味が違う | 取扱いの均衡を説明できなくなる | 文書名と目的を全社で定義する |
| 本人の反省の強さだけで処分を判断 | 事実の重大性・反復性等を無視した判断になる | 事実・ルール・過去対応に基づいて判断する(第7話) |
| 顛末書の内容だけを事実として採用する | 客観資料との食い違いを見落とす | 勤怠記録・メール・ログ等と照合する |
| 顛末書に会社の想定する原因を書かせる | 本人の説明としての価値を失う | 誘導せず、食い違いは別途調査で整理する |
| 反省欄のある様式しか用意していない | 事実確認で足りる事案でも反省を求めることになる | 報告書様式と始末書様式を分ける |
| 交付したが記録がない | 交付した事実を説明できない | 交付日・方法・同席者を記録する |
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注意書・指導書・始末書・顛末書チェックリスト
図表10|4文書運用チェックリスト
| No | チェック項目 | 確認内容 | 担当 | 残す記録 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | □ 文書の目的を決めた | 事実確認/改善要求/認識確認のどれか | 法務・人事 | 起案メモ |
| 2 | □ 作成主体を確認した | 会社発行か本人提出か | 人事 | 起案メモ |
| 3 | □ 文書名と機能が一致している | 社内定義と照合したか | 人事 | 文書一覧との照合記録 |
| 4 | □ 事実確認と反省要求を区別した | A(事実)・B(再発防止)・C(反省)のどれを求めるか | 法務 | 検討メモ |
| 5 | □ 未確認事実を書いていない | 調査中の事項を確定事実として書いていないか | 法務・人事 | 事実整理表 |
| 6 | □ 人格評価・医学的判断を書いていない | 評価語や健康状態の断定がないか | 法務 | 起案の確認記録 |
| 7 | □ 改善要求を具体化した | 第三者が実施の有無を判定できる水準か | 現場上司 | 指導書 |
| 8 | □ 改善期限と確認方法を設定した | いつまでに、誰が、何をもって確認するか | 現場・人事 | 指導書 |
| 9 | □ 将来の懲戒を断定していない | 「次は解雇」等の記載がないか | 法務 | 起案の確認記録 |
| 10 | □ 就業規則上の位置づけを確認した | けん責等の懲戒に当たるか否か | 法務 | 規程照合メモ |
| 11 | □ 懲戒処分との関係を確認した | 同一行為への重複対応になっていないか | 法務 | 検討メモ |
| 12 | □ 決裁者を確認した | 誰の判断で発行・受理するか | 人事 | 決裁記録 |
| 13 | □ 署名欄の意味を明示した | 受領確認/内容確認/同意のいずれか | 人事 | 様式 |
| 14 | □ 提出・署名を強制していない | 拒否時の対応が処分の予告になっていないか | 法務・人事 | 面談記録 |
| 15 | □ 拒否があった場合、その事実と理由を記録した | 何を拒否しているのかを特定したか | 人事 | 面談記録 |
| 16 | □ 交付・提出の記録を残した | 交付日・方法・同席者 | 人事 | 交付記録 |
| 17 | □ 客観資料と照合した | 本人の記載と資料の食い違いを確認したか | 現場・人事 | 照合メモ |
| 18 | □ 保存場所・保存期間・アクセス権限を決めた | 個人管理になっていないか | 人事 | 保存台帳 |
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文書名ではなく「会社が何をしたいか」で選ぶ
注意書・指導書・始末書・顛末書について、会社が押さえるべき点をまとめます。
- 名称に法律上の統一定義はない。自社の就業規則と運用実態を確認する
- 注意書=会社から問題行動を正式に指摘する文書
- 指導書=会社が求める改善行動を具体的に示す文書
- 顛末書=本人から事実・経緯・原因を報告させる文書
- 始末書=事実に加え、再発防止や本人の認識を求める運用が多い文書
- 「始末書 顛末書 違い」の実務的な答えは、事実報告が中心か、本人の認識まで含めるか
- 反省や謝罪を機械的に強制しない。事実確認が目的なら顛末書で足りる
- 提出拒否だけで直ちに懲戒しない。何を拒否しているのかを分解する
- 署名欄の意味を明示する。受領確認・内容確認・同意を混同しない
- 懲戒との位置づけを曖昧にしない。始末書提出が就業規則上の懲戒に当たるかを統一する
- 会社として文書体系を統一する。部署ごとの属人運用をなくす
文書は、事実確認と改善のための道具です。処分のための証拠集めとして設計した瞬間に、本来の目的である改善から遠ざかります。
次回からは類型別の対応に入ります。まずは、相談件数が多く、記録の積み上げがそのまま判断材料になる勤怠の問題を扱います。
次に読む 第4話 遅刻・欠勤・無断欠勤を繰り返す社員への対応|注意から懲戒までの進め方 詳しく見るシリーズ:問題社員対応の実務|注意・指導から懲戒・退職・解雇まで会社が整えること(全10話)
問題社員対応の実務(全10話)
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
指導と記録
類型別の対応
参考資料・一次資料
法令(e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/ )
- 日本国憲法 19条(思想及び良心の自由)
- 労働契約法(平成19年法律第128号)7条、15条
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)89条9号(表彰及び制裁の定めをする場合の記載事項)、91条(制裁規定の制限)、109条、143条
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)33条
行政資料
- 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q9-11(雇用管理情報の開示請求への対応)
https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q9-11/ - 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/APPI_QA/
裁判例
- 西福岡自動車学校事件・福岡地判平成7年9月20日(始末書等の提出命令と、その不提出を理由とする懲戒処分)
厚生労働省「労働委員会関係裁判例データベース」
https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h00642.html - 柴田女子高校事件(学校法人柴田学園懲戒事件)・青森地裁弘前支判平成12年3月31日(始末書の提出命令の前提となる非違行為の存否等)
裁判所ウェブサイト「裁判例検索」 https://www.courts.go.jp/
注記
本記事は2026年9月1日時点の法令・公表資料に基づいています。注意書・指導書・顛末書・始末書は、いずれも法令上定義された文書ではなく、名称・内容は会社ごとに異なります。本記事の整理は一般的な企業実務の用法をまとめたものであり、自社での位置づけは就業規則・懲戒規程・過去の運用に照らして確認してください。
なお、始末書の提出命令や反省・謝罪の表明を求めることの可否については、確立した最高裁判例は見当たらず、下級審裁判例も、前提となる非違行為の存否や求める文面の内容等を踏まえた個別判断を行っています。自社の具体的事案について判断が必要な場合は、最新の裁判例を確認のうえ、弁護士等の助言を得てください。
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