能力不足・勤務成績不良の社員に会社はどう対応する?改善指導と記録の実務
問題社員対応の実務
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
能力不足・勤務成績不良の社員に会社はどう対応する?
改善指導と記録の実務
法令・情報基準日:2026年9月3日
「何度教えても同じミスをします」
「周りの社員の半分くらいしか仕事ができません」
「評価が2年連続で最低ランクです」
「能力不足を理由に辞めてもらえませんか」
法務がこうした相談を受けたとき、最初に聞くべきなのは「本人は仕事ができるか」ではありません。聞くのは、会社は何を求めていて、本人は実際に何ができていないのかです。
法務の結論
能力不足・勤務成績不良の案件は、次の順序で進めます。
期待水準の確認 → 実績の確認 → 差の特定 → 原因の切り分け → 指導・支援 → 改善確認 → 記録
この順序が重要なのは、最初の2つを飛ばすと、以降がすべて「上司の主観」の上に積み上がってしまうからです。「能力不足」は人物評価であって、それ自体は検証できません。会社が扱えるのは、期待水準と実績の差という検証可能な事実だけです。
第5話では「できるのに正当な命令を履行しない」という業務命令違反を扱いました(第5話:業務命令に従わない社員への対応)。第6話が扱うのは、命令には従っているが、会社が求める水準の成果が出ないという類型です。この2つは、確認すべきことも、会社が取るべき対応も違います。
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能力不足・勤務成績不良とは何か
まず前提として、これらは法令が統一的に定義した用語ではありません。就業規則の解雇事由や人事制度上の用語として使われることが多く、その内容は会社ごとに異なります。
実務上の整理としては、次のように区別しておくと混乱が減ります。
- 能力不足:職務の遂行に必要な知識・技能・判断力等が、期待される水準に達していない状態
- 勤務成績不良:一定期間の業務結果や評価が、会社の期待水準に達していない状態
前者は「持っている力」、後者は「出た結果」に着目した言い方です。実際には重なりますが、能力・成果・勤務態度・命令違反の4つを混ぜないことが出発点になります。
能力不足と業務命令違反は違う
第5話との境界を明確にしておきます。
図表1|能力不足・勤務成績不良・勤務態度・業務命令違反の違い
| 類型 | 状態 | 会社が確認すること | 主な対応 |
|---|---|---|---|
| 能力不足 | やろうとしているが、期待水準に達しない | 期待水準、実績、原因、指導・支援の有無 | 改善指導、教育・支援、配置の検討 |
| 勤務成績不良 | 一定期間の結果が期待水準に達しない | 目標設定の内容、評価基準、業務量、外部要因 | 同上 |
| 勤務態度 | 報告しない、期限を守らない等の行動上の問題 | 具体的な行為、指導履歴 | 注意・指導(第2話) |
| 業務命令違反 | できるか否か以前に、正当な命令を履行しない | 命令の特定、指揮命令関係、必要性、拒否理由 | 命令の有効性確認、再命令(第5話) |
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実際の案件では重複します。「期限を守らない」という事象ひとつをとっても、原因は複数あり得ます。
- 処理能力が追いつかない(能力不足)
- 業務量が過大である(会社側の業務設計)
- 指示が不明確で優先順位が分からない(会社側の指示)
- 意図的に着手していない(業務命令違反の可能性)
注意
この分解をせずに「能力不足」とラベルを貼ると、対応を誤ります。 業務量過大が原因なのに改善計画を組んでも、改善するはずがありません。
「仕事ができない」という評価を具体的事実に変える
第1話で扱った「評価語を事実に変換する」作業を、この類型に当てはめます。
図表2|「仕事ができない」を具体的事実へ変換する
| NG(人物評価) | OK(検証可能な事実) |
|---|---|
| 仕事が遅い | 同職位の標準処理日数が3営業日の契約審査について、直近10件中8件が5営業日以上を要している |
| ミスが多い | 直近3か月の請求書入力60件のうち、金額・取引先・税区分の誤入力が計12件発生した |
| 理解力がない | 手順書の交付と口頭説明の後も、同一の確認工程を省略した案件が5件発生している |
| 戦力にならない | 担当案件20件中、期限内完了は9件。残り11件について上司または同僚による追加対応が必要となった |
| 報告ができない | 週次報告について、直近8週のうち5週で提出がなく、うち3週は上司からの督促後に提出された |
| 顧客対応が下手 | 直近6か月で、担当顧客から説明内容に関する苦情が4件寄せられ、うち2件は上司が再説明を行った |
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数値化できるものは数値化してください。ただし、数値だけで判断しないことも同じくらい重要です。担当案件の難易度、引き継ぎの状況、同時期の業務量、他の社員の水準といった文脈がなければ、数値は意味を持ちません。
会社が求める「期待水準」を先に確認する
能力不足を評価する前に確認するのは、会社側の期待値が明確だったかです。
| 確認資料 | 何が分かるか |
|---|---|
| 職務記述書・職務内容の定め | どの職務を担う契約か |
| 職位・等級の定義 | その等級に期待される役割・難易度 |
| 採用時の説明・求人票 | 採用時に何を期待していたか |
| 目標設定シート | 当期に何を求めていたか |
| 人事評価基準 | どの観点で評価されるか |
| 業務マニュアル・手順書 | 標準的な手順と所要時間 |
| 上司からの指示(記録) | 個別業務で何を求めたか |
| 同職位社員の一般的な水準 | 比較の基準(ただし相対評価の限界に注意) |
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「上司の頭の中だけにある期待水準」は使えません。 本人に伝えられていない基準で評価することは、後の説明が成り立ちません。
図表3|期待水準と実績のギャップ表
案件ごとに、この4列で整理してください。
| 項目 | 期待水準 | 実績 | 差 | 根拠資料 |
|---|---|---|---|---|
| 契約審査のリードタイム | 標準案件は受領から3営業日以内 | 直近10件中8件が5営業日以上 | 平均2.4営業日の超過 | 審査管理台帳(◯年◯月〜◯月) |
| 請求書入力の正確性 | 誤入力率3%以下 | 60件中12件(20%) | 17ポイント | 経理チェック記録 |
| 週次報告 | 毎週金曜17時までに提出 | 直近8週中3週のみ期限内 | 5週未提出 | 報告フォルダの更新履歴 |
| 顧客からの苦情 | 説明内容に関する苦情の発生なし | 6か月で4件 | 4件 | 顧客対応記録 |
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「期待水準」の根拠を具体化できない項目は、少なくとも能力不足・勤務成績不良を理由とする重要な人事判断の根拠として用いるには弱くなります。 明文化された基準がない場合も、職務内容、職位、個別の業務指示、採用時の説明、過去の評価等から、会社が何を求めていたのかを具体的に整理してください。
それでも根拠を示せない場合は、まず期待水準を明確化し、本人に伝えたうえで、その後の実績を確認することが重要です。
人事評価が低い=能力不足とは限らない
実務でよく混同されるのが、人事評価制度と改善指導です。
| 観点 | 人事評価 | 改善指導 |
|---|---|---|
| 目的 | 一定期間の総合的な評価 | 特定の問題の改善 |
| 使途 | 昇給・賞与・昇格・配置 | 業務遂行の是正 |
| 対象 | 期間全体の成果・行動 | 具体的な問題と改善行動 |
| 相手への提示 | 評価結果とフィードバック | 期待水準・現状・目標・期限・支援 |
| 記録 | 評価シート | 面談記録・改善計画 |
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「評価Cだから能力不足」「最低評価だから解雇」という単純化はできません。 特に、相対評価を採用している場合には注意が必要です。相対評価では、どれだけ全体の水準が高くても、必ず下位の者が生まれます。下位に位置することと、職務遂行能力が著しく劣ることは別の話です。
裁判例
セガ・エンタープライゼス事件・東京地決平成11年10月15日
この点は裁判例でも指摘されています。厚生労働省が国家戦略特別区域法に基づき定めた「雇用指針」は、能力不足を理由とする解雇について、下位10パーセント未満の考課順位であっても、当該人事考課が相対評価であって絶対評価ではないことから、直ちに労働能率が著しく劣り向上の見込みがないとまではいえないとされた事案を紹介しています。
評価そのものの妥当性も確認してください。
- 評価者によるばらつきはないか
- 評価期間中に目標が変更されていないか
- 期中の異動・引継ぎ・欠員の影響はないか
- 業務量が他の社員と大きく異なっていないか
- 評価基準が本人に事前に示されていたか
能力不足の原因を切り分ける
ここが第6話の中心です。能力不足に見えても、原因が本人の能力とは限りません。
図表4|能力不足の原因切り分け表
| # | 原因 | 典型的な兆候 | 会社が取るべき対応 |
|---|---|---|---|
| 1 | 知識・技能の不足 | 特定の手順・ツールで一貫してつまずく | 手順書、研修、OJT |
| 2 | 経験の不足 | 定型業務はできるが、例外処理で止まる | 難易度の段階的引き上げ、レビュー体制 |
| 3 | 指示・期待水準が不明確 | 本人が「何をどこまで」を説明できない | 期待水準の明示、優先順位の提示 |
| 4 | 教育・引継ぎの不足 | 前任者不在のまま業務を承継している | 引継ぎのやり直し、メンター配置 |
| 5 | 業務量の過大 | 全項目で遅延。残業が常態化 | 業務量の調整、人員配置の見直し |
| 6 | 業務とのミスマッチ | 特定領域だけ極端に成果が出ない | 担当業務の見直し、配置の検討 |
| 7 | 役割変更への適応不足 | 昇格・異動の直後から低下 | 移行期間の設定、支援の追加 |
| 8 | システム・業務設計の問題 | 同じ工程で複数の社員がミスをする | 業務プロセスの改善(本人の問題ではない) |
| 9 | 健康問題 | 従前できていたことができなくなった | 産業保健職へ連携(後述) |
| 10 | 障害等への配慮の必要性 | 特定の作業環境・手順で著しく支障 | 合理的配慮の検討(後述) |
| 11 | 人間関係・ハラスメント | 特定の上司・チームでのみ低下 | 相談窓口で受ける。指導ラインから切り離す |
| 12 | 意欲・行動上の問題 | できる業務も着手しない | 別類型として整理(第5話) |
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8番は特に見落とされます。同じ工程で複数の社員がミスをしているなら、それは個人の能力の問題ではありません。 原因の切り分けをせずに個人の改善計画を組むと、問題は解決せず、記録だけが積み上がります。
本人の事情を確認する
面談で「なぜ成果が出ないんですか」と問い詰めないでください。責任追及の場になると、原因の情報が出てきません。
聞き方の例
- 「現在の業務について、どこに難しさを感じていますか」
- 「会社から求められている水準を、どのように理解していますか」
- 「業務を進めるうえで、不足している情報や支援はありますか」
- 「時間がかかっている工程はどこですか」
本人の説明は、趣旨を変えず正確に記録してください。会社側に原因があることを示す説明も、省略せずに記録します。 本人が次のような事情を述べた場合は、それぞれ別に確認します。
| 本人の申告 | 確認すること |
|---|---|
| 指示が不明確だった | 指示の記録、期待水準の伝達状況 |
| 研修・引継ぎがなかった | 教育記録、前任者の在籍状況 |
| 業務量が多い | 労働時間データ、担当件数、他の社員との比較 |
| 体調が悪い | 産業保健職へ連携(内容の当否を上司が判断しない) |
| ハラスメントを受けている | 相談窓口で受ける。指導ラインから切り離す |
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能力不足社員への改善指導はどう進める?
図表5|改善指導の基本フロー
期待水準を伝える
- 職務、等級、目標に照らして何を求めているか
現状との差を具体的に伝える
- 図表3のギャップ表を用いる。評価語は使わない
本人の説明を聞く
- 遮らずに聞く。会社に不利な内容も記録する
原因を確認する
- 図表4で切り分ける。会社側の原因も特定する
会社が行う支援を決める
- 誰が、何を、いつまでに提供するか
本人が行う改善行動を決める
- 実施の有無を第三者が判定できる水準まで具体化
改善期間を設定する
- 業務の性質に応じて。固定の月数は使わない
途中確認を行う
- 最終日まで放置しない
結果を評価し、記録する
- 客観資料に基づき、改善の有無と程度を確認
「もっと頑張ってください」で終わる面談は、指導ではありません。面談の進め方と記録の残し方の基本は第2話を参照してください。
会社はどこまで教育・支援すべき?
図表6|会社が行う支援の例
| 支援 | 内容 | 適する原因(図表4の番号) |
|---|---|---|
| 業務手順書・チェックリスト | 手順と確認項目を文書化する | 1、2、4、8 |
| OJT・メンター配置 | 経験者が伴走する | 1、2、4、7 |
| 研修・外部講習 | 体系的な知識・技能の付与 | 1、2 |
| 上司によるレビュー | 提出前に確認する工程を設ける | 1、2、7 |
| 業務量の調整 | 担当件数・範囲を見直す | 5 |
| 優先順位の明確化 | 何を先に処理するかを示す | 3、5 |
| 難易度の調整 | 段階的に難易度を上げる | 2、7 |
| 担当業務の見直し | 適性のある業務へ振り向ける | 6 |
| 作業環境・手順の調整 | 環境面の支障を取り除く | 10 |
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ここで法的な注意点を1つ。すべての能力不足案件について、会社に無制限の教育義務や、特定回数の研修を行う法的義務があるわけではありません。 一方で、会社が指導・支援を行ったかどうかは、後に解雇等の相当性が問題となる場面で重視される要素です。
法的根拠
厚生労働省の「雇用指針」は、裁判例の一般的傾向として、長期雇用システムの下で勤務する労働者については、単に能力不足・成績不良・勤務態度不良・適格性欠如というだけでなく、その程度が重大なものか、改善の機会を与えたか、改善の見込みがないか等について慎重に判断し、容易に解雇を有効と認めない事例もある、としています。他方で、上級の管理者・技術者・営業社員などが高度の技術・能力を評価・期待されて特定の職務のために即戦力として中途採用されたが、期待した技術・能力を有しなかった場合については、比較的容易に解雇を有効と認める事例もある、ともしています。
つまり、会社に求められる支援の程度は、採用区分・職位・期待されていた能力水準によって変わります。 この点は後述の図表11で整理します。
改善目標は具体的に設定する
図表7|改善目標のNG/OK
| NG(抽象的) | OK(判定可能) |
|---|---|
| ミスをなくしてください | 次の1か月間、請求書入力について◯◯チェックリストを使用し、上司レビュー前の入力誤り率を5%以下にする |
| 契約審査を早くしてください | 標準案件について、受領から3営業日以内に一次レビューを完了する。難易度が高い案件は受領当日中に上司へ相談する |
| 報告を改善してください | 進行中案件について、毎週金曜17時までに進捗・問題点・翌週予定を一覧で報告する |
| 顧客対応の質を上げてください | 提案書の送付前に上司のレビューを受け、指摘事項を反映してから送付する |
| もっと自分で考えてください | 判断に迷った案件について、自分の案と根拠を添えて上司へ相談する |
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目標を設定する際は、それが合理的かを必ず検証してください。確認する点は次のとおりです。
- 同職位・同業務の他の社員が達成している水準か
- 本人の経験・担当範囲に照らして到達可能か
- 会社が行う支援を前提として達成可能か
- 期間内に成果が確認できる指標か
重大リスク
達成できない目標を設定して退職に追い込むような運用は避けてください。 目標の合理性が否定されれば、その改善指導自体が、会社の対応の相当性を裏づける材料になりません。
改善期間は何か月必要?
結論から書きます。法律上の固定期間はありません。 「1か月」「3か月」「6か月」といった数字を基準として扱わないでください。
期間は、次の要素から個別に決めます。
| 要素 | 考え方 |
|---|---|
| 問題の内容 | 手順の遵守か、判断力か、専門知識か |
| 改善に必要な時間 | 研修・実務経験が必要なものは長くなる |
| 職務の性質 | 日次業務は短期で確認可能。プロジェクト成果は一定期間必要 |
| 成果確認のサイクル | 月次・四半期など、成果が出る周期 |
| 本人の経験 | 未経験か、経験者として採用されたか |
| 支援の内容 | 支援を実施してから効果が出るまでの時間 |
| 業務への影響 | 顧客対応・安全に関わる場合は緊急性が高い |
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目安としては、日次の定型業務であれば比較的短期間でも確認できますし、営業成績やプロジェクト成果であれば一定の期間が必要です。専門能力の習得を伴う場合は、研修と実務経験を含めてさらに長期になることもあります。
いずれの場合も、途中確認を必ず入れてください(後述)。
PIP(改善計画)を使えば解雇できる?
PIP(Performance Improvement Plan、業績改善計画)という名称の制度を導入している会社があります。ここは明確にしておきます。
PIPという制度自体に、日本法上の特別な法的効力はありません。 「PIPを実施したから解雇できる」という関係にはなりません。PIPは、改善指導の内容を文書化した社内の仕組みであり、その中身と運用実態が問われます。
むしろ注意すべきは、PIPを退職勧奨・解雇の前段階として設計してしまうことです。達成不能な目標を設定し、形式的に期間を経過させ、「改善しなかった」として退職を求める運用は、目標の合理性・支援の実施状況・途中確認の有無といった点から、その実質を見られます。
図表8|改善計画(PIP等)の項目例
| # | 項目 | 記載内容 |
|---|---|---|
| 1 | 対象となる問題 | どの業務の、どの点が期待水準に達していないか |
| 2 | 期待水準 | 求める水準と、その根拠(職務・等級・目標設定等) |
| 3 | 現状 | 客観資料に基づく実績 |
| 4 | 原因についての認識 | 会社側の分析と、本人の説明の双方 |
| 5 | 改善目標 | 判定可能な水準まで具体化した目標 |
| 6 | 本人が行う行動 | 具体的な行動 |
| 7 | 会社が行う支援 | 誰が、何を、いつまでに |
| 8 | 改善期間 | 開始日・終了日と、その期間とした理由 |
| 9 | 途中確認日 | 複数回設定する |
| 10 | 確認方法 | 誰が、どの資料で確認するか |
| 11 | 最終評価日 | 評価者と評価方法 |
| 12 | 本人の意見欄 | 目標や支援内容に対する本人の意見 |
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12番を設けておくと、目標の合理性について本人の認識を確認でき、運用の透明性も上がります。
改善指導の記録は何を残す?
図表9|能力改善記録表(項目例)
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 評価期間 | 対象とする期間 |
| 期待される職務 | 職務内容・等級・役割 |
| 期待水準 | 何をどの水準で求めているか、その根拠 |
| 問題となる実績 | 期待水準との差(図表3) |
| 具体例 | 個別の案件・日付・内容 |
| 根拠資料 | 台帳、システムログ、チェック記録等 |
| 本人の説明 | 趣旨を変えず正確に |
| 原因分析 | 図表4のどれか。会社側の原因も記載 |
| 会社の支援 | 実施した支援、実施日、担当者 |
| 本人の改善行動 | 合意した行動と実施状況 |
| 改善期限 | 年月日と設定理由 |
| 途中確認 | 確認日、確認内容、修正した点 |
| 改善結果 | 客観資料に基づく結果 |
| 次の対応 | 通常管理へ戻す/期間延長/配置検討等 |
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記録に書いてはいけないのは、第2話と同じです。「能力がない」「向いていない」「この仕事は無理」といった評価は書かず、客観的な事実を書いてください。 将来の処分を先に書くことも避けてください。
途中確認を必ず行う
改善期間の最終日に突然「改善しませんでした」と評価する運用は、避けてください。
たとえば3か月の改善期間であれば、開始から2週間後、1か月後、2か月後に確認の機会を設けます。途中確認の目的は、評価ではなく軌道修正です。
| 途中確認で判明すること | 会社が取る対応 |
|---|---|
| 改善が進んでいる | 継続。改善点を記録する |
| 目標が現実的でなかった | 目標を修正する。修正した事実と理由を記録 |
| 別の原因が判明した | 原因を切り分け直す(業務量、健康、環境等) |
| 支援が不足していた | 支援を追加する |
| 支援が実施されていなかった | 実施する。会社側の履行漏れとして記録 |
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改善計画は、途中で変更して構いません。 むしろ、途中確認で問題が見つかったのに計画を変えなかった場合、その計画が改善目的で設計されていたのかを問われます。
改善しない場合、もう一度原因を確認する
改善しなかったことは、本人の能力不足が確定したことを意味しません。 次を再確認してください。
図表10|改善しない場合の再評価表
| # | 再確認する事項 | 「いいえ」の場合にすること |
|---|---|---|
| 1 | 改善目標は明確だったか | 目標を具体化して再設定する |
| 2 | 目標は合理的だったか | 水準を見直す |
| 3 | 本人は目標を理解していたか | 説明し直す |
| 4 | 会社の支援は実際に実施されたか | 実施する |
| 5 | 支援の内容は原因に対応していたか | 図表4に照らして支援を選び直す |
| 6 | 業務量は適切だったか | 業務配分を調整する |
| 7 | 期間中に環境変化はなかったか | 変化の影響を評価に反映する |
| 8 | 健康上の問題はないか | 産業保健職へ連携する |
| 9 | 職務とのミスマッチではないか | 配置・職務変更を検討する |
| 10 | 改善の兆候はあるか | 期間の延長や目標の段階化を検討する |
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この再評価を経ずに次の段階へ進むと、後で「会社は何を検討したのか」を説明できません。
配置転換・職務変更を検討する場合
改善が見られない場合の選択肢の一つが、配置転換・職務変更です。ただし、「能力不足なら必ず配置転換してから解雇しなければならない」という一律のルールがあるわけではありません。 検討の要否と範囲は、事案によって変わります。
| 検討要素 | 確認すること |
|---|---|
| 他に適する業務があるか | 空きポジション、必要なスキル |
| 会社規模 | 配置可能な部署・職務の広がり |
| 本人の経験・適性 | これまでの職務経歴 |
| 職位 | 管理職か、一般職か |
| 職種限定合意の有無 | 労働契約上、職種が限定されていないか |
| 勤務地限定の有無 | 転居を伴う異動が可能か |
| 採用経緯 | 特定の職務のために採用されたか |
| 本人への不利益 | 賃金、通勤、生活への影響 |
| 業務上の必要性 | 会社側の必要性を説明できるか |
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裁判例
社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件・最判令和6年4月26日
ここで注意が必要なのが職種限定合意です。最高裁は、労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと判示し、原審を破棄して差し戻しています。この事案では、解雇を回避するための配転であっても、限定合意に反する以上、命令権がそもそもなかったと整理されています。
職種限定合意がある場合、会社が自由に別職種へ配置転換できるわけではありません。 配置転換を検討する場合は、まず契約上の職種・勤務地の限定の有無を確認してください。転勤命令権の濫用に関する判断枠組み(東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日)を含め、配転命令一般の検討事項は第5話で整理しています。
健康問題・障害等が背景にある場合
成果の低下の背景に、傷病、精神的な不調、障害、治療、妊娠・育児・介護といった事情がある場合、単純な能力不足として処理してはいけません。
なお、これらは一括りにできません。傷病・精神的不調、障害、妊娠、育児・介護では、確認すべき法令・制度が異なります。障害については障害者雇用促進法上の合理的配慮、育児・介護については育児介護休業法上の制度等をそれぞれ確認し、「能力不足」という一つの評価で処理しないことが重要です。
確認と切り分けの手順は次のとおりです。
- 従前できていた業務ができなくなった、という変化があるか
- 本人から体調・治療・通院に関する申告があるか
- 診断書の提出や、休職制度の利用の相談があるか
- 産業保健職へ連携し、就業上の措置の要否について意見を得る
- 育児・介護等の事情がある場合、利用可能な制度を案内したか
注意
健康状態について、上司や法務が医学的な判断をしないでください。 「うつ気味だと思う」「精神的に不安定」といった記載を面談記録に残すことも避けてください(第2話)。
法的根拠
障害がある労働者については、障害者雇用促進法36条の3が、事業主に対し、障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じることを義務づけています(事業主に過重な負担を及ぼすこととなる場合を除く)。厚生労働省の合理的配慮指針は、採用後の合理的配慮について、事業主が職場において支障となっている事情の有無を確認し、措置の内容について話し合い、内容を確定するという手順を示しています。
成果が出ていない原因が、配慮の不足にある可能性を検討しないまま改善指導を進めることは、リスクになります。 該当し得る場合は、人事・産業保健職・法務で切り分けてください。
能力不足を理由に懲戒処分できる?
出発点として、「能力不足」と「非違行為」は別です。
能力不足・勤務成績不良それ自体は、通常、直ちに懲戒の対象となる非違行為とは異なります。 成果が期待水準に達しないというだけで、当然に懲戒処分へ進むものではありません。能力不足への対応は、原則として、指導・支援・配置・(最終的には)雇用契約の終了という枠組みで検討します。
もっとも、能力不足と評価されている事象の中に、就業規則上の懲戒事由に該当し得る別個の行為が含まれている場合には、その行為を切り分けて検討します。
- 明確に定められた手順への違反
- 重大な過失
- 実績や進捗についての虚偽の報告
- 合意した改善行動を、実施可能であるのに意図的に実施しないこと
- 正当な業務命令への不服従(第5話)
「ミスが多い」という事象も、単に習熟が不足しているのか、明確な手順を守らなかったのか、著しい注意義務違反があったのかで、位置づけが変わります。まず事実として切り分けてください。
この場合も、懲戒の対象は「能力不足」ではなく、特定された当該行為です。どの懲戒事由に該当し、どの処分が相当かの検討手順は第7話を参照してください。
採用区分・職位によって見方は変わる
「全社員に同じ改善プロセス」を適用する必要はありませんし、適用すべきでもありません。
図表11|採用区分・職位別の確認ポイント
| 区分 | 確認すること | 会社の支援に関する考え方 |
|---|---|---|
| 新卒・若手 | 育成を前提とした採用か。教育計画はあったか | 教育・指導の実施状況が重視されやすい |
| 未経験中途 | 採用時にどの程度の経験を期待したか | 同上。引継ぎ・OJTの有無が問われやすい |
| 経験者中途 | 特定の能力を前提に採用したか。求人票・採用時の説明の内容 | 期待した能力の内容が契約上明確かが鍵になる |
| 高度専門職 | どの専門能力を契約上期待したか。処遇水準との対応 | 即戦力として採用された場合、評価が異なり得る |
| 管理職 | マネジメント能力を含む期待水準が示されていたか | 職責に応じた水準で判断される |
| 職務限定型 | 契約で職務がどこまで特定されているか | 配置転換の検討範囲が契約上限定される |
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厚生労働省の「雇用指針」も、外部労働市場型の人事労務管理を行う企業について、管理職または相当程度高度な専門職であって相応の待遇を得て即戦力として採用された労働者であり労働者保護に欠ける点がない場合には、労働者の担う職務・職責・必要な能力を労働契約書にできる限り具体的に記載すること、記載された職務・職責を相当程度果たすことができない場合等には解雇することがある旨を記載すること、定期的に業績評価を行いその内容を労働者に通知することなどを、紛争を未然に防止する方策として挙げています。
会社として整備する
特に、高度専門職、管理職、即戦力の経験者など、特定の能力を評価して採用する場合には、採用時に期待する職務・職責・必要な能力をできる限り具体化し、労働契約書その他の採用関係資料に残しておくことが重要です。
一般の社員についても、職務、等級、目標設定等を通じて、会社が何を期待しているのかを後から説明できる状態にしておくことが望まれます。
能力不足を理由に解雇できる?
検索需要が高い論点なので、答えを示します。「能力不足」という評価だけでは決まりません。
解雇は、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合には、権利濫用として無効となります。判断は個別事案の総合判断であり、確認される要素としては次のようなものがあります。
- どの能力・成果が、どの程度不足しているか
- 期待水準が合理的で、本人に明確に伝えられていたか
- 不足の程度と、業務への具体的な影響
- 改善の可能性と、その見込み
- 会社が行った指導・支援の内容と実施状況
- 改善指導の結果
- 採用時に期待された能力、職位、専門性、処遇
- 配置転換・職務変更の可能性
- 健康問題・障害等の背景事情の有無
- 過去の評価と、他の社員との取扱いの均衡
これらがすべての解雇案件で必ず満たすべき法定要件である、という関係ではありません。 職務、地位、採用経緯、職種限定の有無、期待されていた能力水準、不足の程度、会社規模、改善可能性等によって、重視される要素は変わります。
図表12|能力不足等を理由とする解雇に関する裁判例(厚生労働省「雇用指針」掲載例)
| 裁判例 | 結論 | 裁判所が重視した点 |
|---|---|---|
| セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平成11年10月15日) | 無効 | 平均的な水準に達していないというだけでは不十分で、著しく労働能力が劣り、かつ向上の見込みがないときでなければならない。考課順位は相対評価であり、下位10%未満でも直ちには該当しない。さらに体系的な教育・指導により労働能率の向上を図る余地があった |
| エース損害保険事件(東京地決平成13年8月10日) | 無効 | 長期雇用システムで勤続してきた労働者については、単に成績不良ではなく、企業経営に現に支障・損害を生じ、または重大な損害を生じるおそれがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ改善の見込みがないこと等を考慮すべき。研修や適切な指導がなく、早い段階から排除を意図していた |
| 日水コン事件(東京地判平成15年12月22日) | 有効 | SEとして中途採用された者について、期待水準に達しないというにとどまらず著しく劣り職務遂行に支障が生じていた。指導教育によっては改善の余地がないと判断された |
| 日本ストレージ・テクノロジー事件(東京地判平成18年3月14日) | 有効 | 特定のスキル・経験を買われて中途採用された者について、ミスの反復、他部門や顧客からの苦情、上司の指示への不服従、再三の改善要求にもかかわらず改善がなかった |
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同指針自身が、裁判例の分析は一般的傾向を記述したものであり、個別判断においては個々の事案ごとの状況等を考慮して判断がなされる、と注記しています。「この裁判例では解雇が有効だったから、◯回指導すれば解雇できる」という読み方はできません。
解雇を検討する場合の最終確認事項は第10話で扱います。
能力不足対応フロー
図表13|能力不足・勤務成績不良への対応フロー
事実へ変換し、期待水準を確認する
- 「仕事ができない」を具体的な実績・事象へ変換する(図表2)
- 期待水準が明確で本人に伝わっているか。伝わっていなければ会社側で明確化し伝達する
- 期待水準と実績の差を特定する(図表3)
原因を切り分ける(図表4)
- 指示・教育・業務量・業務設計の問題 → 会社側で対応する
- 健康問題・障害等 → 産業保健職・人事へ(別ルート)
- ハラスメント等 → 相談窓口へ(別ルート)
- 業務とのミスマッチ → 配置・職務の検討
- 意図的な不履行 → 業務命令違反として整理(第5話)
- 知識・技能・経験の不足 → 次のステップへ
改善指導と支援を実施する
- 改善指導+支援(図表5・図表6)
- 具体的な改善目標と期間を設定(図表7・図表8)
- 途中確認(必要に応じて計画を修正)
- 改善した → 通常の人事管理へ戻す
改善しない場合
- 原因を再評価する(図表10)
- 配置・職務変更・追加支援を検討する
- なお改善が困難な場合、必要に応じて退職・解雇等の検討(第9話・第10話)
会社として能力不足対応ルールをどう整備する?
「上司が『使えない』と判断したら能力不足案件」という運用をなくすことが目的です。
図表14|会社として整備する能力不足対応ルール
| # | 決めること | 具体的内容 | 主管 |
|---|---|---|---|
| 1 | 相談受付ルート | 現場からの申出先と申出様式 | 人事 |
| 2 | 「能力不足」の具体化ルール | 評価語を事実へ変換する様式(図表2・図表3) | 人事・法務 |
| 3 | 期待水準の確認方法 | 職務記述、等級定義、目標設定との照合 | 人事 |
| 4 | 根拠資料 | 何をもって実績とするか(台帳、ログ、評価記録) | 人事・現場 |
| 5 | 本人面談の方法 | 質問設計、参加者、記録様式 | 人事 |
| 6 | 原因切り分けの手順 | 図表4を社内版に | 人事・法務 |
| 7 | 支援・教育の選択肢 | 自社で提供可能な支援の一覧(図表6) | 人事 |
| 8 | 改善計画フォーマット | 図表8の項目を反映した様式 | 人事・法務 |
| 9 | 改善期間の考え方 | 判断要素。固定の月数は定めない | 法務・人事 |
| 10 | 途中レビュー | 実施時期と実施者 | 人事・現場 |
| 11 | 最終評価 | 評価者、評価資料、決裁 | 人事 |
| 12 | 配置転換等の検討ルート | 誰が候補を探し、誰が判断するか | 人事 |
| 13 | 健康・障害案件の切り分け | 産業保健職への連携基準 | 人事・産業保健職 |
| 14 | 法務相談基準 | 職種限定、配置検討、退職・解雇の検討時 | 法務 |
| 15 | 記録の保存 | 保存場所・保存年限・アクセス権限 | 人事 |
| 16 | 退職・解雇検討へのエスカレーション | 起案者・決裁者・確認事項 | 法務 |
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2番と9番が特に重要です。9番に固定の月数を書き込むと、事案の性質に合わない改善期間が機械的に運用され、かえって会社の説明が苦しくなります。
よくあるNG対応
図表15|能力不足対応のNG例と改善
| NG対応 | なぜ問題か | 代わりにすること |
|---|---|---|
| 「仕事ができない」とだけ記録する | 検証できない人物評価にすぎない | 期待水準・実績・差を事実で記録する |
| 評価ランクだけで能力不足と判断する | 相対評価では必ず下位が生じる | 絶対的な水準と実績で確認する |
| 本人に期待水準を伝えていない | 伝えていない基準で評価している | 先に期待水準を明示する |
| 達成不能な目標を設定する | 改善目的の計画とはいえなくなる | 他の社員の実績・支援内容に照らして設定する |
| 突然PIPを開始し「3か月後に解雇」と告げる | 結論ありきの運用と評価される | 改善目的で設計し、処分の予告を書かない |
| 途中レビューをしない | 軌道修正の機会がない | 複数回の確認日を設定する |
| 会社側の教育・引継ぎ不足を無視する | 原因の切り分けができていない | 会社側の原因も記録し、対応する |
| 健康問題を能力不足として処理する | 必要な対応を欠いたまま進めることになる | 産業保健職へ連携する |
| 障害への配慮の要否を検討しない | 合理的配慮の提供義務との関係が問題になる | 支障となっている事情を確認し、話し合う |
| 全社員に同じ改善期間を適用する | 業務の性質に合わない | 業務の性質・成果確認サイクルから設定する |
| 改善しないから懲戒処分を行う | 能力不足は非違行為ではない | 別個の非違行為の有無を確認する |
| 職種限定合意を確認せずに配置転換を命じる | 命令権がそもそもない場合がある | 契約上の限定の有無を先に確認する |
| 配置可能性を全く検討せずに解雇を検討する | 検討の経緯を説明できない | 検討した内容と結果を記録する(検討が常に法律上必須という意味ではない) |
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能力不足・勤務成績不良対応チェックリスト
図表16|能力不足・勤務成績不良対応チェックリスト
| No | チェック項目 | 確認内容 | 担当 | 残す記録 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | □ 期待される職務を確認した | 職務内容、等級、役割 | 人事 | 職務記述・等級定義 |
| 2 | □ 期待水準を明確にした | 何をどの水準で求めるか、その根拠 | 現場・人事 | ギャップ表 |
| 3 | □ 期待水準を本人に伝えていた | 伝達の時期と方法 | 現場上司 | 目標設定シート・面談記録 |
| 4 | □ 実績を客観資料で確認した | 台帳、ログ、チェック記録 | 現場・人事 | 根拠資料一覧 |
| 5 | □ 評価語を具体的事実に変換した | 人物評価が残っていないか | 法務 | ギャップ表 |
| 6 | □ 人事評価だけで判断していない | 相対評価の限界を踏まえたか | 人事・法務 | 検討メモ |
| 7 | □ 本人の説明を確認した | 趣旨を変えず記録したか | 人事 | 面談記録 |
| 8 | □ 指示・教育・引継ぎの不足を確認した | 会社側の原因の有無 | 人事 | 原因分析メモ |
| 9 | □ 業務量を確認した | 労働時間、担当件数、他の社員との比較 | 人事 | 業務量データ |
| 10 | □ 業務設計・システム面の問題を確認した | 他の社員も同じ工程でつまずいていないか | 現場 | 確認メモ |
| 11 | □ 健康問題の可能性を確認した | 産業保健職への連携の要否 | 人事・産業保健職 | 連携記録 |
| 12 | □ 障害等への配慮の要否を確認した | 支障となっている事情の有無を確認したか | 人事 | 話合いの記録 |
| 13 | □ ハラスメント等の背景を確認した | 特定の上司・チームでのみ低下していないか | 相談窓口 | 切り分け記録 |
| 14 | □ 会社が行う支援を決めた | 誰が、何を、いつまでに | 現場・人事 | 改善計画 |
| 15 | □ 本人の改善行動を具体化した | 判定可能な水準か | 現場上司 | 改善計画 |
| 16 | □ 改善目標の合理性を検証した | 他の社員の実績、支援を前提に到達可能か | 法務・人事 | 検討メモ |
| 17 | □ 改善期間を合理的に設定した | 業務の性質・成果確認サイクルに照らしたか | 人事 | 改善計画 |
| 18 | □ 途中確認日を設定した | 複数回設定したか | 人事 | 改善計画 |
| 19 | □ 途中確認を実施した | 実施日、確認内容、修正点 | 現場・人事 | 途中確認記録 |
| 20 | □ 支援を実際に実施した | 実施日、担当者、内容 | 現場・人事 | 支援実施記録 |
| 21 | □ 改善結果を客観資料で確認した | 何をもって改善の有無を判断したか | 人事 | 最終評価記録 |
| 22 | □ 改善しない原因を再評価した | 図表10で再確認したか | 法務・人事 | 再評価メモ |
| 23 | □ 配置・職務変更の可能性を検討した | 検討した範囲と結果 | 人事 | 検討記録 |
| 24 | □ 職種限定合意の有無を確認した | 契約上、職種・勤務地が限定されていないか | 法務 | 契約確認メモ |
| 25 | □ 懲戒と能力不足を混同していない | 別個の非違行為の有無を区別したか | 法務 | 検討メモ |
| 26 | □ 他の社員との取扱いを確認した | 同種事案での過去の対応 | 人事 | 前例メモ |
| 27 | □ 退職・解雇等を検討する前の記録を整理した | 時系列で説明できる状態か | 法務 | 案件記録一式 |
| 28 | □ 法務へのエスカレーションを判断した | 相談時期と決裁者 | 人事・法務 | 決裁ルート |
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能力不足対応は「本人の能力」だけでなく会社側の設計も確認する
能力不足・勤務成績不良の社員への対応で、会社が押さえるべき点をまとめます。
- 能力不足を人物評価で扱わない。期待水準と実績の差で整理する
- 業務命令違反と分ける。「できない」のか「やらない」のかは別の問題
- 人事評価だけで判断しない。相対評価では必ず下位が生じる
- 原因を切り分ける。会社側の指示・教育・業務量・業務設計の問題かもしれない
- 本人の説明を聞き、記録する。会社に不利な内容も省略しない
- 必要な支援を行い、実施した事実を残す
- 改善目標は判定可能な水準まで具体化する。ただし合理性を検証する
- 固定的な改善期間を作らない。業務の性質から個別に決める
- PIPに特別な法的効力はない。中身と運用実態が問われる
- 途中確認を行う。最終日に突然評価しない
- 改善しなければ、原因を再評価する。能力不足が確定したわけではない
- 配置転換等は個別事情に応じて検討する。職種限定合意の有無を先に確認する
- 健康問題・障害等を切り分ける。医学的判断を上司や法務が行わない
- 能力不足と懲戒を混同しない。懲戒の対象は特定された非違行為
- 解雇は最終的に個別の総合判断。評価だけでは決まらない
- 会社として再現可能な運用を整える
この類型で会社が問われるのは、本人の能力そのものよりも、会社が何を求め、何を伝え、何を支援し、何を確認したかです。記録が残っていない期間は、会社がどのような指導・支援を行ったのかを、後から客観的に説明・立証しにくい期間になります。
次回からは懲戒に入ります。第4話から第6話で扱った類型を踏まえ、懲戒処分の可否と相当性をどう判断するかを整理します。
次に読む 第7話 懲戒処分はどう決める?就業規則・事実認定・処分相当性の確認手順 詳しく見るシリーズ:問題社員対応の実務|注意・指導から懲戒・退職・解雇まで会社が整えること(全10話)
問題社員対応の実務(全10話)
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
類型別の対応
参考資料・一次資料
法令(e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/ )
- 労働契約法(平成19年法律第128号)3条5項、7条、15条、16条
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)89条3号(解雇の事由)、109条
- 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)36条の2、36条の3、36条の4(合理的配慮の提供義務)
- 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)
行政資料
- 厚生労働省「雇用指針」(国家戦略特別区域法37条2項に基づき策定。能力不足、成績不良、勤務態度不良、適性欠如による解雇に関する裁判例の一般的傾向を含む)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042687.html
(雇用労働相談センターによる該当箇所の掲載:https://aichi-elcc.mhlw.go.jp/employment-policy/12-2/ ) - 厚生労働省「合理的配慮指針」(雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/0000078976.pdf - 厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html
裁判例
- セガ・エンタープライゼス事件・東京地決平成11年10月15日(能力不足を理由とする解雇。無効)
- エース損害保険事件・東京地決平成13年8月10日(長期雇用下の勤務成績不良を理由とする解雇。無効)
- 日水コン事件・東京地判平成15年12月22日(中途採用者の能力不足を理由とする解雇。有効)
- 日本ストレージ・テクノロジー事件・東京地判平成18年3月14日(中途採用者の能力不足・勤務態度不良を理由とする解雇。有効)
※上記4件は、いずれも厚生労働省「雇用指針」に参考裁判例として掲載されているものです - 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件・最判令和6年4月26日(職種限定合意と配置転換命令権)
- 東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日(転勤命令権の濫用の判断枠組み)
裁判所ウェブサイト「裁判例検索」 https://www.courts.go.jp/
注記
本記事は2026年9月3日時点の法令・公表資料に基づいています。「能力不足」「勤務成績不良」は法令上定義された用語ではなく、就業規則の定めや人事制度上の位置づけは会社ごとに異なります。また、本記事で紹介した裁判例は個別事案に関するものであり、厚生労働省「雇用指針」自身も、裁判例の分析は一般的傾向を記述したものであって、個別判断においては個々の事案ごとの状況等を考慮して判断がなされる旨を注記しています。改善指導、教育、配置転換等が、あらゆる事案において法律上必須の前提条件となるわけではありません。個別の事案については、自社の就業規則・規程、労働契約の内容、事実関係および最新の法令を確認のうえ、必要に応じて弁護士等の助言を得てください。
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