問題社員への退職勧奨はどう進める?退職強要にしない面談と記録
問題社員対応の実務
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
問題社員への退職勧奨はどう進める?
退職強要にしない面談と記録
法令・情報基準日:2026年9月4日
「これ以上改善が期待できないので、退職を勧めたいです」
「本人が辞めないと言ったら、何回まで面談できますか」
「解雇ではなく退職届を書いてもらえば問題ないですよね」
「退職金を上乗せして辞めてもらうことはできますか」
法務がこうした相談を受けたとき、最初に確認すべきことは1つです。
法務の結論
本人には、退職勧奨を断る自由があります。
退職勧奨は、会社が退職を提案し、本人が検討し、本人が自由意思で同意することによって成立する手続です。会社が一方的に退職を実現する制度ではありません。
退職勧奨の進め方は、本人の自由意思を確保しながら合意退職を提案する手続として設計します。 本人が拒否した後も執拗に説得を続けたり、不利益を示して退職を迫ったりすれば、退職強要として違法性が問題となり得ます。
裁判例
下関商業高校事件・最判昭和55年7月10日
最高裁も、地方公務員である市立高等学校の教員が退職勧奨に応じないことを表明し、優遇措置も打ち切られているにもかかわらず、担当者が退職するまで勧奨を続ける旨繰り返し述べて短期間内に多数回、長時間にわたり執拗に退職を勧奨し、かつ、退職しない限り所属組合の要求にも応じないとの態度を示すなどした事案について、その退職勧奨行為を違法としています。
第9話は、第7話・第8話で扱った懲戒とは性質が異なります。懲戒は会社の一方的な意思表示による制裁でした。退職勧奨は、本人との合意によって労働契約を終了する、独立した選択肢です。「解雇する前のワンクッション」ではありません。
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退職勧奨とは何か
退職勧奨とは、会社が社員に対して、労働契約を合意により終了することを提案する行為です。
提案を受けた本人は、次のいずれも選べます。
- 応じる
- 断る
- 条件を交渉する
- 検討する時間を求める
厚生労働省が国家戦略特別区域法に基づき定めた「雇用指針」も、下関商業高校事件を挙げて、退職勧奨は雇用関係のある者に自発的な退職意思の形成を慫慂するためになす説得等の行為であって、被勧奨者は何らの拘束なしに自由に意思決定できるという整理を示しています。
つまり、退職勧奨は説得行為であり、会社の意思表示によって効果が生じるものではありません。ここが解雇との決定的な違いです。
退職勧奨と解雇・自主退職はどう違う?
図表1|退職勧奨・解雇・自主退職の違い
| 観点 | 退職勧奨(合意退職) | 解雇 | 自主退職 |
|---|---|---|---|
| 誰が言い出すか | 会社 | 会社 | 本人 |
| 法的性質 | 会社の提案+本人の同意による合意 | 会社の一方的な意思表示 | 本人の一方的な意思表示または合意の申込み |
| 本人が断れるか | 断れる | 断ることはできない(争うことはできる) | — |
| 主な根拠 | 民法上の合意 | 労働契約法16条ほか | 民法627条ほか |
| 会社が確認すること | 本人の自由意思、条件、記録 | 解雇の要件・手続(第10話) | 意思表示の内容と経緯 |
| 雇用保険上の離職理由 | 後述(自己都合と一律に処理しない) | 原則として特定受給資格者。ただし、自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇等は除く | 事情による |
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注意
「退職届がある=必ず自主退職」ではありません。
会社が強く退職を迫り、形式上は本人が退職届を書いたとしても、その退職が実質的に本人の自由意思によるものだったかが問題になります。形式ではなく実質が見られる、という前提で設計してください。
退職勧奨を始める前に法務が確認すること
図表2|退職勧奨開始前チェック
| # | 確認事項 | 確認の視点 |
|---|---|---|
| 1 | なぜ退職勧奨を検討するのか | 会社として説明できる理由があるか |
| 2 | 事実関係 | 客観資料で確認できているか(第1話) |
| 3 | これまでの指導・改善支援 | 何を求め、何を支援し、どう記録したか(第2話・第6話) |
| 4 | 懲戒歴 | 過去の処分の有無と内容 |
| 5 | 本人の説明 | 本人がこれまで何を述べていたか |
| 6 | 他の選択肢の検討 | 継続雇用、指導・支援、配置変更等と比較検討したか |
| 7 | 配置・職務変更等の可能性 | 他に適する業務があるか。職種限定合意の有無 |
| 8 | 提示できる退職条件 | 金額、退職日、有休、引継ぎ等の決裁の見込み |
| 9 | 拒否された場合の次の対応 | 後述 |
| 10 | 通報・申告等との関係 | 公益通報、ハラスメント申告、育児介護制度の利用、組合活動との時期関係 |
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9番を決めずに退職勧奨を開始しない
これが最も重要です。「断られたらどうするか」を決めずに退職勧奨を始めないでください。
断られた場合の選択肢が「何としても辞めさせる」しかない状態で面談を始めると、そこから先の行動が退職強要に近づきます。開始前に、次のいずれを選ぶのかを社内で確認しておいてください。
「退職勧奨を断ったから解雇する」という筋道ではありません。 解雇を検討するなら、解雇自体の要件を独立して確認します。
退職勧奨を選ぶ場面
退職勧奨が選択肢として合理的なのは、たとえば次のような場合です。
- 能力・成果や働き方について、会社と本人の認識の差が大きく、埋まる見通しが立たない
- 改善指導を重ねても改善がみられず、本人自身も今後のキャリアを検討している
- 雇用の継続よりも、条件を整えたうえでの合意終了が双方にとって合理的といえる可能性がある
- 会社が一定の退職条件(特別退職金、退職日の調整、有休消化等)を提示できる
一方で、「解雇が難しいから退職勧奨」という位置づけは避けてください。 退職勧奨は解雇規制を潜脱する手段ではありません。解雇の要件を満たさない事案について、圧力によって同意を取り付けたのであれば、その同意の有効性自体が争われます。
会社は退職を勧める理由をどう説明する?
説明の質が、そのまま面談の適法性に影響します。
抽象的な人格評価
「会社に向いていない」
「みんな迷惑している」
「もう君の居場所はない」
事実に基づく説明
これまでの具体的な経緯(いつ、何を求め、何が起きたか)/会社が求めていた水準と、その根拠/改善指導の内容と、実施した支援/現時点での会社としての評価/雇用の継続について会社が懸念している理由
そのうえで、本人に事実でない説明をしないでください。 特に注意すべきは次の表現です。
重大リスク
「退職しなければ必ず懲戒解雇になります」
まだ決定していない処分を断定することは、それ自体が心理的圧力になります。懲戒の可否は第7話の3段階で独立に判断されるものであり、退職勧奨の場で結論を先取りできるものではありません。
退職勧奨を行う前に社内承認を取る
現場上司の判断だけで退職勧奨を始めないでください。 「上司がその場で退職を勧めた」という状態は、会社としての説明が最も難しくなります。
会社として整備する
決めておく事項は次のとおりです。
- 誰が退職勧奨の実施を承認するか
- 退職条件を提示する権限は誰にあるか
- 特別退職金・解決金の決裁権限と上限
- 面談の担当者
- 法務の事前確認のタイミング
- 人事の関与範囲
面談の参加者・場所・時間をどう設計する?
図表3|面談参加者・時間・場所の設計
| 項目 | 設計の考え方 | 避けるべき状態 |
|---|---|---|
| 参加者 | 人事担当者を中心に、必要に応じて直属上司。必要最小限にする | 会社側4〜5人が社員1人を囲む |
| 法務の関与 | 事前設計、説明内容の確認、リスク確認。必ず同席する必要はない | 法務が同席して威圧感を高める |
| 場所 | プライバシーが確保でき、かつ閉鎖的すぎない場所 | 密室で、退室しにくい配置 |
| 時間帯 | 就業時間内 | 深夜、休日、終業直前からの長時間 |
| 所要時間 | 必要な説明ができる範囲。長時間化させない | 数時間に及ぶ面談 |
| 退室 | 本人が退室したいと述べた場合は応じる | 「退職届を書くまで帰さない」 |
| 頻度 | 検討期間を挟む | 連日の呼び出し |
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「会議室から出さない」「退職届を書くまで帰さない」といった対応は、それ自体が違法性を基礎づける事情になります。
退職勧奨面談では何を伝える?
図表4|退職勧奨面談の基本フロー
面談の目的を伝える
- 「退職という選択肢についてご相談する場です」
- 決定事項の通知ではないことを明確にする
会社の認識・評価を伝える
- 事実に基づく。人格評価をしない
これまでの経緯を確認する
- 指導内容、支援内容、本人の説明
退職を選択肢として提案する
- 断ることができる前提で伝える
退職条件を提示する
- 口頭だけでなく書面で(後述)
本人の意見・質問を聞く
- その場で答えられないものは持ち帰る
検討期間を伝える
- 即答を求めない
回答方法を伝え、記録する
- 誰宛に、どの方法で回答するか
- 面談内容を記録する
決定事項として伝えない
これが面談設計の核心です。
「会社として、あなたには辞めてもらいます」
「会社として、退職という選択肢をご検討いただきたいと考えています。お断りいただくこともできますので、条件をご覧いただいたうえでお考えください」
ただし、定型文を読み上げれば適法になるわけではありません。 「断ってもよい」と述べながら、実際には連日呼び出して同じ説得を繰り返しているのであれば、実質は変わりません。実質を見てください。
本人に即答を求めてよい?
原則として、その場での即答・署名を求めない設計を推奨します。
特に、次のような条件が含まれる場合、本人が内容を理解して判断するには時間が必要です。
- 特別退職金・解決金の金額と支払時期
- 権利放棄条項(清算条項)
- 秘密保持条項
- 競業避止条項
- 退職日と有休の取扱い
「今日中に決めないと条件はなくなります」といった圧力のかけ方は慎重に判断してください。条件に有効期限を設けること自体が直ちに違法というわけではありませんが、極端に短い期限は、自由な意思決定を妨げる事情として評価され得ます。
なお、法律上一律の最低検討日数があるわけではありません。 事案と条件の複雑さに応じて、本人が弁護士や家族に相談できる程度の期間を確保してください。
退職勧奨は何回までできる?
検索でもよく問われる論点です。結論から書きます。
法律上の固定回数はありません。 同時に、「何回でもよい」ということでもありません。
判断は回数だけでなく、態様全体で行われます。確認すべき事情は次のとおりです。
- 本人が明確に拒否の意思を示したか
- 拒否後も、同じ理由・同じ条件で説得を続けていないか
- 本人自身が再検討を希望したか
- 会社から新しい条件の提示があるか
- 面談の間隔(連日か、期間を置いているか)
- 1回あたりの面談時間
- 面談での言動
- 職務上の不利益を伴っていないか
- 心理的圧力の有無と程度
下関商業高校事件では、退職勧奨に応じない意思を示していた教員に対し、3〜4か月の間に11〜13回の出頭を命じ、20分から2時間に及ぶ勧奨が行われたこと、退職するまで勧奨を続ける旨を述べたこと、勧奨に応じなければ組合の要求に応じないと述べたことなどが問題とされました。回数だけを切り出して「何回までなら適法」と読むべき事案ではありません。
本人が「辞めません」と明確に拒否したら?
基本は、退職勧奨を終了する方向で検討することです。
少なくとも、本人が明確に拒否した後に、同じ理由・同じ条件で何度も説得を続けることは避けてください。
図表5|本人が拒否した場合の対応
| 本人の反応 | 会社の対応 | 記録する内容 |
|---|---|---|
| 「退職するつもりはありません」と明確に拒否 | 退職勧奨を終了する方向で検討。継続雇用を前提とした対応へ | 拒否の日時、本人の発言、会社の対応 |
| 「少し考えさせてください」 | 検討期間を設け、回答方法と期限を確認する | 設定した期限、次回の連絡方法 |
| 「条件次第では検討したい」 | 条件を整理し、書面で提示する | 本人の希望条件、会社の検討事項 |
| 「弁護士に相談したい」 | 相応の期間を設ける。相談すること自体を不利益に扱わない | 申出内容、設定した期限 |
| 拒否したが、後日本人から再度相談があった | 本人の希望による再協議として対応する | 本人からの申出であることを明記 |
| 拒否後、会社から新たな条件を提示したい | 再提案の必要性と理由を社内で確認したうえで行う | 再提案の理由、承認者 |
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拒否された後の会社の選択肢は、次のとおりです。
そして、「拒否したから態度が悪い」として不利益を与えないでください。 退職勧奨を拒否したことを理由とする嫌がらせ目的の配転や昇給停止等が違法とされた裁判例があります。
もっとも、これは退職勧奨を断った社員に対して一切の人事措置をしてはいけないという意味ではありません。押さえるべきは次の2点です。
- 退職勧奨を拒否したことを理由とする不利益措置は行わない
- 業務上独立した理由に基づく配置・評価等を行う場合は、その理由を客観的に説明・記録できるようにする
どこから退職強要になる?
この記事の中心です。固定回数ではなく、総合判断です。
裁判例(下級審の判断枠組み)
退職勧奨は労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるから、その手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為として行い得る。他方、説得活動が、本来の目的の実現のために社会通念上相当と認められる程度を超えて、不当な心理的圧力を加えたり、名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりして、自由な退職意思の形成を妨げた場合には、その限度を超えたものとして不法行為を構成する、という整理です。
図表6|退職強要になり得る事情
| 分類 | 具体的な事情 |
|---|---|
| 面談の量 | 長時間の面談、多数回の面談、連日の呼び出し |
| 拒否後の継続 | 本人が明確に拒否した後も、同じ理由・条件で説得を続ける |
| 人数・場所 | 多人数で1人を囲む、退室しにくい状況を作る |
| 言動 | 人格否定、侮辱、名誉感情を害する発言、威圧的な態度 |
| 断定・脅し | 「辞めなければ必ず懲戒解雇」など、未決定の処分を断定する |
| 物理的圧力 | 退職届を書くまで帰さない |
| 職務上の不利益 | 仕事を与えない、業務から外す、嫌がらせ目的の配転、不昇給 |
| 私生活への働きかけ | 家族へ連絡して説得を依頼する、繰り返し自宅を訪問する |
| 実現可能性のない前提 | 実際には行えない解雇・処分を前提とした説明 |
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公的な判例集でも、衆人環視の下で侮蔑的な表現を用いて名誉を毀損する態様の退職強要や、懲戒免職処分をちらつかせて降格・減給・配置換えを受け入れるか自ら辞職するかの選択を迫る行為などが、違法とされた例として整理されています。
他方で、「1回でも強く退職を勧めれば違法」ということではありません。 経営上の必要性がある場合や、会社側の対応が適切であれば、退職勧奨が違法とされるわけではないとされています。適法と判断された裁判例も存在します。
退職勧奨の適法性を判断するチェック軸
図表7|退職勧奨の適法性チェック(13項目)
| # | チェック軸 | 確認の視点 |
|---|---|---|
| 1 | 退職を勧める理由 | 事実に基づき、会社として説明できるか |
| 2 | 本人の自由意思 | 断る自由があることを前提に進めているか |
| 3 | 面談回数 | 必要な説明・交渉の範囲にとどまっているか |
| 4 | 面談時間 | 1回あたりの時間が過度でないか |
| 5 | 面談間隔 | 検討期間を挟んでいるか。連日になっていないか |
| 6 | 参加人数 | 会社側の人数が過大でないか |
| 7 | 言葉・態様 | 人格否定、侮辱、威圧がないか |
| 8 | 本人の拒否意思 | 明確な拒否があったか。あった場合、その後どうしたか |
| 9 | 退職条件 | 内容が明確で、本人が判断できる形で示されているか |
| 10 | 検討時間 | 即答を求めていないか |
| 11 | 本人への不利益 | 勧奨と並行して不利益な取扱いをしていないか |
| 12 | 面談後の会社対応 | 拒否後に態度が変わっていないか |
| 13 | 通報・申告等との関係 | 保護された権利行使との時期関係を確認したか |
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退職条件を提示してもよい?
もちろん可能です。むしろ、本人が判断するための材料として、条件を明確に提示することが重要です。
図表8|退職条件一覧(提示前に整理する項目)
| # | 項目 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 1 | 退職日 | 年月日。引継ぎ期間との関係 |
| 2 | 特別退職金・解決金 | 金額、支払日、支払方法 |
| 3 | 通常の賃金 | 退職日までの賃金の取扱い |
| 4 | 退職金 | 退職金規程に基づく額と、支給時期 |
| 5 | 賞与 | 支給対象期間との関係、支給の有無 |
| 6 | 年次有給休暇 | 残日数、退職日までの取得の取扱い |
| 7 | 引継ぎ | 対象業務、引継ぎ先、期限 |
| 8 | 会社貸与品 | 返還対象、返還期限 |
| 9 | 会社情報 | 返還・削除の対象と方法 |
| 10 | 秘密保持 | 対象情報の範囲、期間 |
| 11 | 競業避止 | 必要性を個別に検討。範囲・期間・地域 |
| 12 | 相互清算 | 清算条項の範囲 |
| 13 | 社会保険・雇用保険 | 資格喪失日、離職証明書の提出と離職票の交付時期 |
| 14 | 離職理由 | 後述(会社が自由に決めるものではない) |
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図表9|退職条件の提示例(書面での整理)
| 条件項目 | 会社の提示内容 |
|---|---|
| 退職日 | 2026年◯月◯日(合意退職) |
| 特別退職金 | ◯◯円(退職日の翌月◯日までに指定口座へ振込) |
| 年次有給休暇 | 残◯日について、◯月◯日から退職日までの取得を認める |
| 引継ぎ | ◯月◯日までに担当案件を◯◯へ引き継ぐ |
| 貸与品 | PC、社員証、鍵を◯月◯日までに返還 |
| 退職金 | 退職金規程に基づき支給(別途計算書を交付) |
| 回答期限 | 2026年◯月◯日(人事部◯◯宛に書面またはメールで) |
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「退職条件を提示する=金で辞めさせる」という発想は避けてください。 条件の提示は、本人が判断するために必要な情報の提供です。条件が曖昧なまま合意させることのほうが、後の紛争を招きます。
解決金・特別退職金はいくら必要?
法律上の一律の相場や最低額はありません。 「賃金の◯か月分が相場」といった基準を社内ルールにしないでください。
金額を決める際に考慮する要素は、次のとおりです。
- 勤続年数
- 役職・賃金水準
- 会社側が抱えるリスク(事実関係の立証可能性、手続の履践状況)
- 退職日までの期間
- 本人の再就職可能性
- 未消化の年次有給休暇
- 退職金制度の内容
- 交渉の状況
金額は、会社として決裁を得たうえで提示してください。面談の場で担当者が上乗せを口約束する運用は、後で撤回できず、他の事案との均衡も崩します。
本人に回答期限を設けてもよい?
合理的な期限を設けること自体は可能です。ただし、次の点に注意してください。
- 即日・数時間といった極端に短い期限は慎重に。自由な意思決定を妨げる事情として評価され得ます
- 本人が弁護士相談、家族との相談、条件の確認を行える程度の期間を考慮する
- 期限を延長してほしいという申出があった場合、合理的な範囲で応じることを検討する
注意
「期限までに回答がなければ退職に同意したものとみなす」という扱いはできません。 合意退職は本人の同意によって成立するものであり、沈黙を同意とみなす仕組みではありません。
本人が録音していても問題ない?
会社側の基本姿勢は1つです。
録音されて困ることを言わない。
本人が録音している可能性を前提に面談を設計してください。そのうえで、次の対応は避けてください。
- 録音していることを理由に面談を打ち切る
- 録音を理由に不利益な取扱いをする
- 録音データの削除を求める、強要する
録音の適法性そのものについては、状況によって評価が分かれ得るため、断定的な判断は避けてください。会社側でも記録目的で録音する場合は、社内ルール、利用目的、保存・管理方法を確認したうえで行ってください。
弁護士・労働組合が関与した場合
本人が弁護士に相談する、労働組合に加入する、合同労組に相談するといった行動をとることがあります。
これらの行動自体を不利益に扱わないでください。 労働組合への加入や組合活動を理由とする不利益取扱いは、労働組合法7条により禁止されています。
なお、面談への同席を認めるかという問題と、組合から団体交渉の申入れを受けた場合の応諾義務は、別の問題です。 同席を認めなかったことが、団体交渉に応じなくてよいことを意味するわけではありません。団体交渉の申入れを受けた場合は、労働組合法7条2号、労働協約の定め、申入れの時期・内容等を別途確認してください。
弁護士や組合が関与した後に面談を続けるかどうかは、個別の判断になります。窓口を一本化し、判断の理由を記録してください。
退職届と退職合意書は何が違う?
図表10|退職届と退職合意書の違い
| 観点 | 退職届 | 退職合意書 |
|---|---|---|
| 作成主体 | 本人 | 会社と本人(双方) |
| 性質 | 本人による退職の意思表示を記載した書面として使われることが多い | 退職の条件について双方が合意する契約 |
| 記載内容 | 退職の意思と退職日が中心 | 退職日、金銭、引継ぎ、秘密保持、清算条項等 |
| 条件の明確性 | 条件は書かれないことが多い | 条件が明示される |
| 退職勧奨での適否 | 条件交渉を伴う場合、内容が残らない | 条件交渉を伴う場合はこちらが適することが多い |
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退職勧奨では、会社が条件を提示し、双方で交渉することが通常です。したがって、退職合意書のほうが適する場合が多いといえます。退職届だけを受け取る運用では、どのような条件で合意したのかが後に残りません。
ただし、文書の名称だけで法的性質が決まるわけではありません。 「退職届」と題された書面が、辞職(労働者による一方的な労働契約の解約)の意思表示なのか、合意退職の申込みなのかは、その文言と作成に至る経緯によって判断されます。この違いは、次に述べる撤回の可否にも関わります。
退職合意書には何を書く?
図表11|退職合意書の項目例
| # | 項目 | 記載上の注意 |
|---|---|---|
| 1 | 退職日 | 年月日を特定 |
| 2 | 合意による退職であること | 双方の合意により労働契約を終了する旨 |
| 3 | 特別退職金・解決金 | 金額、支払期日、支払方法 |
| 4 | 通常の賃金 | 退職日までの賃金の取扱い |
| 5 | 退職金 | 退職金規程に基づく支給 |
| 6 | 年次有給休暇 | 取得の取扱い |
| 7 | 賞与 | 支給の有無 |
| 8 | 貸与品の返還 | 対象物、返還期限 |
| 9 | 秘密保持 | 対象と期間を特定する |
| 10 | 会社情報の返還・削除 | 対象データ、方法、確認方法 |
| 11 | 競業避止 | 必要性を個別に検討。範囲・期間・地域・代償の有無 |
| 12 | 相互清算 | 清算の対象範囲 |
| 13 | 退職後の連絡先 | 書類送付先 |
| 14 | 離職理由 | 事実に沿った記載(後述) |
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過度に広範な権利放棄条項、秘密保持条項、競業避止条項を、確認せずに入れないでください。 特に競業避止条項は、範囲・期間・地域・代償措置等によって有効性の評価が変わります。定型の条項をそのまま使い回すのではなく、各条項の必要性と有効性を個別に確認してください。
退職届・退職合意への署名をその場で求めない
原則として、本人が内容を検討できる状態を作ってください。
避けるべき典型例は次のとおりです。
重大リスク
長文の退職合意書を当日初めて提示し、広範な権利放棄条項を含んだまま、その場で署名を求める。
この進め方は、本人が内容を理解したうえで合意したのかという点で、後から争われる余地を残します。 合意書の案を事前に交付し、検討期間を設け、質問に回答したうえで署名を受けるという流れが安全です。
一度退職に同意したら撤回できない?
「署名したら絶対に撤回できない」とは限りません。 ここは法的に精密に整理してください。
退職届の法的性質による違い
| 性質 | 内容 | 撤回の可否 |
|---|---|---|
| 辞職の意思表示 | 労働者による一方的な労働契約の解約 | 会社に到達した後は、原則として一方的な撤回は困難とされる |
| 合意退職の申込み | 会社の承諾によって契約が成立する申込み(民法522条) | 会社が承諾するまでは、撤回の余地があるとされる |
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どちらに当たるかは、書面の文言、作成に至る経緯、会社側の対応などから判断されます。「退職届」という名称だけでは決まりません。
意思表示の瑕疵の問題
これとは別に、退職の意思表示について次の問題が生じ得ます。
- 錯誤(民法95条):法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要な錯誤があった場合、意思表示を取り消すことができる
- 詐欺・強迫(民法96条1項):詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる
- 公序良俗違反(民法90条)
- 意思能力(民法3条の2)
つまり、形式上の署名があっても、退職の意思表示の効力が争われることはあります。 「解雇すると告げて退職届を書かせた」「事実と異なる説明をして同意させた」といった経緯があれば、その点が問題になります。
署名を取ることをゴールにしないでください。 目標は、本人が内容を理解したうえで自由な意思で合意したという状態を作ることです。
退職日・年次有給休暇・引継ぎはどう決める?
合意退職ですので、退職日は双方の合意で設定できます。次を確認してください。
| 確認事項 | 確認の視点 |
|---|---|
| 引継ぎ | 対象業務、引継ぎ先、必要な期間 |
| 年次有給休暇 | 残日数と、退職日までの取得の取扱い |
| 賞与・退職金 | 支給対象期間との関係 |
| 社会保険 | 資格喪失日 |
| 本人の再就職 | 次の就業開始日との関係 |
| 貸与品・アクセス権 | 返還時期、システムのアクセス権停止時期 |
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「明日から来なくてよい」とその場で決めないでください。 引継ぎ、有休、賃金、社会保険の扱いがすべて未整理のまま就労を止めると、後から精算をめぐる争いになります。
年次有給休暇については、本人の時季指定を前提に、退職日までの残日数と取得希望を早めに確認し、可能な範囲で引継ぎ日程を調整してください。
法的根拠
ここで注意が必要なのは、時季変更権の限界です。会社には一定の場合に時季変更権がありますが(第4話)、退職日を越えて年休の取得日を変更することはできません。 したがって、退職日までに他に変更可能な日がない場合、「引継ぎが終わっていない」という理由だけで年休の取得を拒むことはできません。
有休の残日数が多い場合は、退職日の設定と引継ぎ計画を、条件提示の段階から一体で検討してください。「有休を使わせない代わりに退職金を上乗せする」といった雑な処理は避けてください。
雇用保険の離職理由はどう処理する?
実務上とても重要な論点です。まず、書類の役割を区別します。
| 書類 | 作成・交付する主体 | 内容 |
|---|---|---|
| 雇用保険被保険者離職証明書 | 会社がハローワークへ提出 | 離職理由等を会社が記載する |
| 離職票 | ハローワークが交付 | 離職証明書の内容等をもとに交付される |
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雇用保険上の離職理由は、会社が自由に決めるものではありません。 会社が離職証明書に記載した内容がそのまま確定するのではなく、事業主と離職者で離職理由についての主張が異なる場合には、ハローワークが事実関係を確認して判定します。
法的根拠
そのうえで、ハローワークインターネットサービスが公表している「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」によれば、特定受給資格者の範囲には、事業主から直接又は間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者が含まれています(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しないとされています)。
したがって、退職勧奨を受けたことにより離職した場合は、原則として雇用保険上の特定受給資格者の範囲に含まれます。ただし、最終的な離職理由はハローワークが具体的事実を確認して判定します。
実務上の注意点は次のとおりです。
- 離職証明書の離職理由は、事実に沿って記載する
- 退職合意書の文言と、離職証明書の離職理由を意図的に食い違わせない(合意書には退職勧奨の経緯が残っているのに、離職証明書は自己都合、という状態を作らない)
- 本人が離職理由に異議を申し立てることができる
「会社都合にすると助成金に影響するから自己都合にしたい」という相談を受けることがありますが、事実と異なる記載を行うことの問題は、それとは別の次元の話です。 最新の取扱いは、ハローワークの一次資料を確認してください。
退職勧奨と不利益取扱い・報復リスク
本人が、次のような行動をとった後に退職勧奨を行う場合は、特に慎重な確認が必要です。
- 公益通報・内部通報
- ハラスメントの相談・申告
- 育児・介護に関する制度の利用、妊娠・出産
- 労働組合への加入、組合活動
- その他、法令上保護された権利の行使
「退職勧奨は解雇でも懲戒でもないから自由にできる」という整理はできません。 これらの行為を理由とする退職勧奨であれば、不利益取扱い・報復として問題になります。
確認する点は次のとおりです。
- 通報・申告等の時期と、退職勧奨の検討開始時期の前後関係
- 同種の状況にある他の社員との取扱いの差
- 退職勧奨の検討が、通報・申告等と無関係に開始されたことを示す資料
なお、2026年12月1日施行の改正公益通報者保護法により、公益通報を理由とする解雇・懲戒に刑事罰が新設され、原則として公益通報をした日から1年以内にされた解雇・懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定する規定が導入されます。本記事の基準日である2026年9月4日時点では施行前です。同規定は解雇・懲戒についてのものですが、通報者に対する不利益取扱いを慎重に扱うという方向性は、退職勧奨の場面にも及ぶものとして設計してください。
退職勧奨の面談記録は何を残す?
図表12|退職勧奨面談記録表
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 面談日時 | 開始・終了時刻 |
| 場所 | 会議室名等。オンラインの場合はその旨 |
| 所要時間 | 実際の時間 |
| 参加者 | 会社側・本人側の氏名と役職 |
| 面談の目的 | 冒頭で本人に伝えた内容 |
| 会社の説明 | 退職を提案する理由として説明した内容 |
| 提示した条件 | 金額、退職日、有休等(書面交付の有無も) |
| 本人の回答 | 趣旨を変えず正確に |
| 本人の質問 | 質問内容と、会社の回答 |
| 本人の拒否意思 | 拒否の有無、日時、発言内容 |
| 次回面談の希望 | 本人からの申出か、会社からの提案か |
| 検討期限 | 設定した期限と、回答方法 |
| 本人提出資料 | あれば名称と受領日 |
| 会社側の宿題 | 持ち帰った事項と回答期限 |
| 次回対応 | 予定と担当 |
| 面談終了時刻 | 記載 |
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特に「本人が拒否した日時と内容」を明確に記録してください。 これは会社を守る記録でもあります。拒否があった後に再度面談する場合は、なぜ再提案したのかという理由(本人からの申出か、新たな条件提示か)を必ず残してください。
記録に書いてはいけないこと
- 「あと3回説得する」
- 「本人が折れるまで続ける」
- 「解雇できないので退職届を書かせる」
- 「家族に連絡して説得してもらう」
- 「業務を外して居づらくする」
- 「評価を下げて退職に追い込む」
これらは、記録に残ればそれ自体が退職強要を裏づける資料になります。記録には、事実と会社の判断を書いてください。
退職勧奨フロー
図表13|退職勧奨フロー
開始前の確認と社内承認
- これまでの事実・対応を確認する(図表2)
- 退職勧奨を選択肢として検討する
- 拒否された場合の次の対応を決める
- 法務・人事の確認、社内承認、条件の決裁
面談を設計し、実施する
- 面談を設計する(参加者・場所・時間/図表3)
- 面談:会社の理由の説明+条件提示(図表4・図表9)
本人の意思を確認する
- 明確に拒否 → 原則として退職勧奨を終了 → 継続雇用/指導・支援/配置検討/懲戒・解雇を独立して検討
- 検討したい → 検討期間 → 再面談
- 応じる意向 → 次のステップへ
条件を確定し、合意する
- 条件の詳細を確認する
- 退職合意書案を交付する
- 本人の検討期間(即日署名を求めない)
- 署名・合意
退職手続と記録
- 退職手続(退職日、有休、引継ぎ、貸与品、離職証明書の提出)
- 記録を保存し、レビューを行う
会社として退職勧奨ルールをどう整備する?
図表14|会社として整備する退職勧奨ルール
| # | 決めること | 具体的内容 | 主管 |
|---|---|---|---|
| 1 | 退職勧奨を開始できる者 | 現場上司の独断で開始させない | 人事 |
| 2 | 事前の法務確認 | 確認事項(図表2)と確認時期 | 法務 |
| 3 | 社内承認 | 承認者、承認の記録 | 人事 |
| 4 | 提示条件の決裁 | 金額の上限、決裁ルート | 人事・経営 |
| 5 | 面談参加者 | 人数の上限、法務の関与範囲 | 人事 |
| 6 | 面談時間・場所 | 時間帯、所要時間の目安、場所の条件 | 人事 |
| 7 | 面談記録様式 | 図表12を社内版に | 法務 |
| 8 | 本人拒否時の停止基準 | 明確な拒否があった場合の扱い | 法務 |
| 9 | 再提案を行う場合の承認 | 誰が、どの理由で承認するか | 法務・人事 |
| 10 | 特別退職金等の基準 | 一律の相場を作らない。考慮要素と決裁 | 人事・法務 |
| 11 | 検討期間 | 標準的な期間の目安と、延長への対応 | 人事 |
| 12 | 退職条件一覧 | 図表8を社内版に | 人事 |
| 13 | 退職合意書様式 | 図表11の項目。定型条項を毎回確認する | 法務 |
| 14 | 弁護士・組合対応 | 窓口の一本化、判断の記録 | 法務 |
| 15 | 不利益取扱いチェック | 通報・申告等との時期関係の確認手順 | 法務 |
| 16 | 離職理由の確認 | 事実に沿った記載の確認手順 | 人事 |
| 17 | 記録保存 | 保存場所、保存年限、アクセス権限 | 人事 |
| 18 | 退職後レビュー | 経緯の振り返り、規程・運用の見直し | 法務・人事 |
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8番が最も重要です。 面談回数に固定の上限を設けるより、本人の拒否意思を確認し、拒否があった場合に手続を止める運用を作ってください。回数の上限だけを決めても、「上限内なら何をしてもよい」という運用になりかねません。
よくあるNG対応
図表15|退職勧奨のNG例と改善
| NG対応 | なぜ問題か | 代わりにすること |
|---|---|---|
| 「今日退職届を書けば円満退職にします」 | 即答を迫る圧力になる | 条件を書面で示し、検討期間を設ける |
| 本人が拒否した後も毎日面談する | 執拗な勧奨として違法性が問題になる | 拒否があれば原則として終了する |
| 会社側4〜5人で社員1人を囲む | 自由な意思決定を妨げる状況を作る | 参加者を必要最小限にする |
| 数時間に及ぶ長時間面談 | 同上 | 必要な説明の範囲にとどめる |
| 「退職しなければ必ず懲戒解雇です」 | 未決定の処分の断定。心理的圧力になる | 現時点の会社の懸念を事実に基づいて説明する |
| 退職を拒否したので仕事を外す | 拒否を理由とする不利益取扱い | 通常の雇用関係を継続する |
| 退職届を書くまで帰さない | 違法性を基礎づける典型的な事情 | 本人が退室を求めれば応じる |
| 本人の家族へ連絡して説得を依頼する | 私生活への働きかけ | 本人とのみ協議する |
| その場で初めて退職合意書を出し、即署名を求める | 内容を理解したうえでの合意か争われる | 事前に案を交付し、検討期間を設ける |
| 「合意退職」と書けば自由意思が確保されると考える | 形式ではなく実質が見られる | 経緯全体を記録し、実質を確保する |
| 退職勧奨であるのに、離職証明書の離職理由を事実に反して自己都合退職と記載する | 事実と異なる記載。合意書との整合も取れない | 事実に沿って記載し、退職合意書の内容と整合させる |
| 公益通報後の退職勧奨で報復リスクを確認しない | 不利益取扱いと評価され得る | 時期関係と検討経緯を確認・記録する |
| 面談記録を残さない | 適法性を後から説明できない | 図表12の様式で記録する |
| 特別退職金を面談の場で口約束する | 決裁を欠き、他事案との均衡も崩れる | 決裁を得たうえで書面で提示する |
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退職勧奨チェックリスト
図表16|退職勧奨チェックリスト
| No | チェック項目 | 確認内容 | 担当 | 残す記録 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | □ 退職勧奨を検討する理由を整理した | 事実に基づき説明できるか | 法務 | 検討メモ |
| 2 | □ 事実関係を確認した | 客観資料で裏づけられるか | 法務・人事 | 事実整理表 |
| 3 | □ 過去の指導・改善対応を確認した | 何を求め、何を支援したか | 人事 | 指導履歴 |
| 4 | □ 本人の説明を確認した | これまでに本人が述べていた事情 | 人事 | 面談記録 |
| 5 | □ 他の選択肢と比較検討した | 継続雇用、指導・支援、配置等と比較したか | 人事・法務 | 検討メモ |
| 6 | □ 配置・職務変更の可能性を確認した | 職種限定合意の有無を含む | 法務 | 検討メモ |
| 7 | □ 拒否された場合の対応を決めた | 何を選択するかを事前に確認 | 法務・人事 | 方針メモ |
| 8 | □ 法務確認を受けた | 説明内容とリスクの確認 | 法務 | 確認記録 |
| 9 | □ 社内承認を受けた | 承認者と承認日 | 人事 | 承認記録 |
| 10 | □ 退職条件の決裁を受けた | 金額、退職日、有休等 | 人事・経営 | 決裁記録 |
| 11 | □ 面談参加者を必要最小限にした | 会社側の人数 | 人事 | 面談計画 |
| 12 | □ 面談場所を適切に設定した | プライバシーと退室のしやすさ | 人事 | 面談計画 |
| 13 | □ 面談時間を管理した | 開始・終了時刻を記録したか | 人事 | 面談記録 |
| 14 | □ 退職勧奨であることを明確にした | 決定事項として伝えていないか | 人事 | 面談記録 |
| 15 | □ 本人が断れる前提で説明した | 説明の文言と、実際の運用 | 人事 | 面談記録 |
| 16 | □ 退職を勧める理由を具体的に説明した | 人格評価になっていないか | 人事 | 面談記録 |
| 17 | □ 未決定の解雇・懲戒を断定していない | 「必ず懲戒解雇」等がないか | 法務 | 面談記録 |
| 18 | □ 本人の意見・質問を確認した | 回答すべき事項を持ち帰ったか | 人事 | 面談記録 |
| 19 | □ 即答を求めていない | その場での署名を求めていないか | 人事 | 面談記録 |
| 20 | □ 検討期間を設けた | 期限と回答方法を伝えたか | 人事 | 面談記録 |
| 21 | □ 本人の拒否意思を記録した | 日時と発言内容 | 人事 | 面談記録 |
| 22 | □ 拒否後の再提案の必要性を確認した | 本人の申出か、新条件か。承認を得たか | 法務・人事 | 承認記録 |
| 23 | □ 面談回数・時間を通算で記録した | 全体の量が過度でないか | 人事 | 面談記録一覧 |
| 24 | □ 並行して不利益な取扱いをしていない | 業務外し、配転、評価等 | 人事 | 確認メモ |
| 25 | □ 退職条件を書面で整理した | 口頭との食い違いがないか | 人事 | 条件提示書 |
| 26 | □ 特別退職金等の金額の決裁を得た | 面談での口約束がないか | 人事 | 決裁記録 |
| 27 | □ 退職届と退職合意書の性質を区別した | どちらを用いるか判断したか | 法務 | 検討メモ |
| 28 | □ 合意書の各条項の必要性を確認した | 秘密保持、競業避止、清算条項 | 法務 | 条項確認メモ |
| 29 | □ 合意書の検討時間を確保した | 事前交付から署名までの期間 | 人事 | 交付記録 |
| 30 | □ 署名を強要していない | その場での署名を求めていないか | 法務 | 面談記録 |
| 31 | □ 退職日を確認した | 引継ぎ・有休・社会保険との関係 | 人事 | 合意書 |
| 32 | □ 年次有給休暇を確認した | 残日数と取得の取扱い | 人事 | 合意書 |
| 33 | □ 引継ぎを確認した | 対象業務、引継ぎ先、期限 | 現場・人事 | 合意書 |
| 34 | □ 離職理由を事実に沿って処理する | 合意書の内容と整合しているか | 人事 | 離職証明書 |
| 35 | □ 公益通報・ハラスメント等との関係を確認した | 時期関係と検討経緯 | 法務 | 検討メモ |
| 36 | □ 労働組合等への対応を確認した | 窓口一本化、団交申入れへの対応 | 法務 | 対応記録 |
| 37 | □ 面談記録を保存した | 保存場所とアクセス権限 | 人事 | 保存台帳 |
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退職勧奨は「辞めさせるための手続」ではない
退職勧奨について、会社が押さえるべき点をまとめます。
- 退職勧奨は合意退職の提案であり、会社の一方的な措置ではない
- 本人には拒否する自由がある。これが設計の出発点
- 解雇とは違う。退職勧奨を断ったことは、解雇の理由にならない
- 自主退職とも違う。退職届があるだけで自由意思が証明されるわけではない
- 会社側の理由を事実に基づいて整理する。人格評価をしない
- 開始前に社内承認を取る。現場上司の独断で始めない
- 面談の人数・時間・回数・間隔を管理する
- 人格否定・威圧・未決定の処分の断定を避ける
- 即答・即日署名を求めない。検討期間を設ける
- 本人の拒否意思を尊重し、記録する。拒否後の執拗な説得を避ける
- 固定の面談回数基準はない。回数だけでなく態様全体で判断される
- 退職条件は書面で明確にする。特別退職金に法律上の一律相場はない
- 退職合意書には検討時間を与える。定型条項を毎回確認する
- 離職理由を会社だけで決めない。事実に沿って処理する
- 公益通報等との時期関係を確認する
- 面談の経過を記録する。特に拒否の日時と内容
- 会社として再現可能な退職勧奨手続を整える
退職勧奨で会社が問われるのは、退職に至ったかどうかではなく、本人が自由に判断できる状況を会社が確保したかです。「辞めさせる」というゴールから逆算した瞬間に、その確保は難しくなります。
次回はシリーズの最終話です。退職勧奨に本人が応じない場合、会社が一方的に雇用関係を終了させるには、「退職勧奨を断った」という事実ではなく、解雇自体について法的要件を独立して確認する必要があります。解雇を検討する前の最終チェックリストを整理します。
次に読む 第10話 問題社員を解雇できる?会社が解雇を検討する前の最終チェックリスト 詳しく見るシリーズ:問題社員対応の実務|注意・指導から懲戒・退職・解雇まで会社が整えること(全10話)
問題社員対応の実務(全10話)
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
類型別の対応
退職・解雇
参考資料・一次資料
法令(e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/ )
- 民法(明治29年法律第89号)3条の2(意思能力)、90条(公序良俗)、95条(錯誤)、96条(詐欺又は強迫)、97条(意思表示の効力発生時期)、522条(契約の成立)、627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
- 労働契約法(平成19年法律第128号)16条
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)22条(退職時等の証明)、39条(年次有給休暇)
- 労働組合法(昭和24年法律第174号)7条(不当労働行為)
- 雇用保険法(昭和49年法律第116号)
- 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)5条/公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号、2026年12月1日施行)
行政資料
- ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」(特定受給資格者の範囲に、事業主から直接又は間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者が含まれる旨)
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_range.html - 厚生労働省「雇用指針」(国家戦略特別区域法37条2項に基づき策定。退職勧奨に関する裁判例の整理を含む)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042687.html
裁判例
- 下関商業高校事件・最判昭和55年7月10日(退職勧奨の限界と違法性)
裁判所ウェブサイト「裁判例検索」 https://www.courts.go.jp/
公的参考資料
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「雇用関係紛争判例集」(82)【退職】肩たたき(退職勧奨・退職強要に関する裁判例の整理。適法とされた事例・違法とされた事例の双方を含む)
https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/10/82.html
注記
本記事は2026年9月4日時点の法令・公表資料に基づいています。退職勧奨の適法性は、面談の回数・時間・態様、本人の拒否意思、会社側の言動、並行して行われた措置等を総合して判断されるものであり、「◯回までなら適法」といった固定的な基準はありません。また、退職の意思表示の性質(辞職か合意退職の申込みか)や撤回の可否、意思表示の瑕疵の有無は、書面の文言と経緯によって判断されます。雇用保険上の離職理由は最終的にハローワークが判断するため、最新の取扱いは同機関の資料を確認してください。個別の事案については、自社の就業規則・規程、事実関係および最新の法令を確認のうえ、必要に応じて弁護士等の助言を得てください。
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