契約書AIレビューを使う前の情報整理シート
法務実務を、記事で学ぶだけで終わらせない。
契約レビュー、ハラスメント対応、契約管理、マスキング、AI法律相談など、 目的に合わせて使える実務ツール・プロンプト集をまとめています。
契約書本文だけをAIに渡しても、実務で使いやすいレビュー結果になるとは限りません。自社の立場、契約類型、取引背景、交渉方針、リスク許容度、マスキング対象を整理してからAIレビューに進みましょう。本記事では、無料の情報整理シート・レビュー観点表・指示メモ・入力前チェックリストを使った前処理の手順を整理します。
01この記事で配布する無料テンプレート
本記事では、AIレビュー前の前提情報整理に使える無料テンプレートを4種類配布します。いずれも単体で使えますが、組み合わせて使うと、AIレビューの精度と再現性が安定しやすくなります。
契約名、自社の立場、契約類型、取引背景、契約金額、リスク許容度などをA4 1枚に整理するシートです。AIに渡す前に手元で記入することで、AIへの指示文がぶれにくくなります。
PDFをダウンロードNDA、業務委託、請負、売買、ライセンスなど契約類型ごとに、AIに重点確認させたい観点と人間が最終確認すべき点を一覧化したExcelです。観点の抜け漏れを防ぎたい場合に使えます。
ExcelをダウンロードAIに渡す指示文のひな形をまとめたWord文書です。「自社の立場」「契約類型」「重点確認条項」「依頼する作業」を埋めるだけで、レビュー指示の骨子が整います。プロンプト例も同梱しています。
Wordをダウンロード個人情報、営業秘密、契約金額、相手方名など、AIに入力する前にマスキング要否を確認すべき項目を一覧化したPDFです。社外ツール利用時の情報管理ルールづくりにも使えます。
PDFをダウンロード02契約書AIレビューがうまくいかない理由
AIレビューを試したものの「指摘が一般論で終わる」「自社の立場と合わない」「結局、法務担当者が最初から読み直すことになる」と感じる方は少なくありません。原因の多くは、AIの性能ではなく、契約書本文以外の前提情報が渡されていないことにあります。
前提情報がないままAIに渡したときに起こりやすい流れ
同じ契約書でも、自社が発注者なのか受注者なのか、買主なのか売主なのか、ライセンサーなのかライセンシーなのかによって、注目すべきリスクと修正の方向性は大きく変わります。前提情報をそろえないままAIに渡すと、AIは「中立的・一般的な観点」で回答することになり、自社にとっての具体的なリスクが見えにくくなります。
また、契約類型や取引背景を伝えていないと、AIは契約書本文から類型を推測することになります。NDA・業務委託・請負・売買などは条文だけで判別できる場合もありますが、共同開発契約と業務委託契約のように境界が曖昧な類型もあり、AIの推測が外れると以後の指摘も大きくずれます。
AIレビューを実務で安定させるコツは、AIの出力を頑張って引き出すことではなく、「契約書本文」と「前提情報」を一緒に渡す前処理にあります。本記事の無料テンプレートは、この前処理を1枚のシートに収めるためのものです。
03AIレビュー前に整理すべき情報
AIに契約書を渡す前に、最低限以下の情報を整理しておくと、AIの指摘がぐっと実務寄りになります。各項目について「なぜ必要か」「入力例」を示します。
| 項目 | なぜ必要か | 入力例 |
|---|---|---|
| 契約名 | 契約書を特定し、覚書や別紙との関係を整理するため | システム開発業務委託契約書 |
| 契約類型 | 類型ごとに見るべきリスクが大きく異なるため | 業務委託(準委任)/請負/NDA/売買 など |
| 自社の立場 | 発注者か受注者かで不利条項の方向が逆転するため | 当社が発注者/当社が受注者 |
| 相手方 | 取引関係・力関係・既存契約の有無を踏まえるため | 初回取引の中堅システム会社 |
| 取引背景 | 交渉余地・優先事項を判断するため | 事業部主導で進行中、納期がタイト |
| 契約目的 | 条項の解釈とリスク評価の基準にするため | 社内基幹システム刷新の一部開発委託 |
| 契約金額 | 金額帯によりリスク許容度・社内承認権限が変わるため | 3,000万円程度 |
| 契約期間 | 期間中のリスクと自動更新条項の確認に必要 | 2026年4月1日から2027年3月31日 |
| 納期・履行期限 | 遅延時の責任範囲・損害賠償と紐づくため | 2026年9月末本番リリース |
| 支払条件 | 支払サイト・分割払の有無で資金リスクが変わるため | 検収後翌月末払い、一括 |
| 個人情報の有無 | 個人情報保護法・委託管理・マスキング要否に影響 | 顧客個人情報を委託する |
| 営業秘密の有無 | 秘密保持・AI入力時のマスキング要否に影響 | 未公表の新製品仕様を共有予定 |
| 再委託の有無 | 再委託先管理・責任範囲の整理に必要 | 再委託を許容する想定 |
| 知的財産の有無 | 権利帰属・利用許諾の方針確認に必要 | カスタム開発成果物の権利帰属を整理したい |
| 成果物の有無 | 検収・契約不適合責任の整理に必要 | 納品物:要件定義書、設計書、ソースコード |
| 損害賠償上限の方針 | 上限額・上限基準・除外事由の確認に必要 | 原則、契約金額を上限としたい |
| 解除・中途解約の重要性 | 柔軟に抜けたい契約か継続性重視かで方針が変わる | 事業判断で中途解約できる余地を残したい |
| 相手方との交渉状況 | 残っている論点・譲歩済み事項の把握に必要 | 損害賠償条項で交渉が膠着している |
| 自社として譲れない条件 | 必須条件と妥協可能条件の切り分けに必要 | 個人情報の再委託は事前承認制を維持したい |
| 事業上優先したい事項 | 法務的にベストでも事業的に困る修正案を避けるため | 納期確保が最優先、軽微な条項は妥協可 |
| AIに依頼したい作業 | リスク抽出/修正文案/説明文など作業を分けるため | 不利条項の抽出と、上位5項目の修正文案作成 |
すべての項目を完璧に埋める必要はありません。少なくとも「自社の立場」「契約類型」「契約目的」「重点確認したい条項」「AIに依頼する作業」の5項目を埋めるだけでも、AIの出力は実務寄りになります。
04AIレビュー前提情報チェックリスト
整理状況を1枚で確認するためのチェックリストです。すべて埋まっていなくても着手は可能ですが、未確認項目があれば「AIに渡す前にこの点は不明である」と明示することで、AIの誤った前提推測を抑えやすくなります。
AIレビュー前の前提情報を整理したい方は、以下の無料テンプレートから着手できます。
05契約類型別レビュー観点表
契約類型ごとに、AIに重点的に確認させたい観点と、AIの出力を受けたうえで人間側が必ず最終確認したい点を一覧化しました。AIレビューの指示文に「重点確認させたい観点」を直接コピーして使うと、回答の的を絞りやすくなります。
| 契約類型 | AIに重点確認させたい観点 | 追加で人間が確認すべき点 | 関連する無料・有料導線 |
|---|---|---|---|
| NDA | 秘密情報の定義/目的外利用禁止/開示範囲/返還・廃棄/残存条項/有効期間 | 共有予定情報の重要度/既存NDAとの重複/自社ひな形との差分 | NDAレビュー10観点チェックリスト/契約書AIレビュー プロンプト集 |
| 業務委託契約(準委任) | 業務範囲/報酬・支払条件/再委託/善管注意義務/秘密保持/知的財産/中途解約/損害賠償 | 実態が請負か準委任か/業務範囲のずれ/指揮命令関係 | 発注者向け契約実務AIスターターセット/法務AIプロンプト集100選 |
| 請負契約 | 成果物定義/納期/検収条件/契約不適合責任/追加費用/中途解約/知的財産帰属 | 仕様変更時の運用/検収基準の明確性/納品物リスト | 契約書AIレビュー プロンプト集/発注者向け契約実務AIスターターセット |
| 売買契約 | 目的物特定/引渡し・所有権移転/検査・契約不適合責任/支払条件/危険負担/解除 | 取引基本契約との関係/量・品質保証の運用 | 契約書AIレビュー プロンプト集/法務AIプロンプト集100選 |
| 代理店契約 | 独占/非独占/報酬体系/競業避止/最低購入数量/契約期間/解除事由/在庫処理 | 独禁法・下請法等関連規制との整合性/海外法令 | 法務AIプロンプト集100選 |
| ライセンス契約 | 許諾範囲/独占性/対価/改良発明/第三者侵害/保証/契約終了後の取扱い | 対象知財の特定/既存ライセンスとの整合/監査条項 | 契約書AIレビュー プロンプト集 |
| 共同開発契約 | 役割分担/費用負担/成果物の権利帰属/改良技術の取扱い/競業避止/秘密保持 | 背景知財の切り分け/成果の事業化判断 | 契約書AIレビュー プロンプト集/法務AIプロンプト集100選 |
| システム開発契約 | 要件・仕様/工程・検収/変更管理/瑕疵・契約不適合責任/知的財産/再委託/保守 | 多段階契約の整合/ベンダーロックインリスク | 発注者向け契約実務AIスターターセット/契約書AIレビュー プロンプト集 |
| 個人情報取扱いを伴う契約 | 委託の範囲/第三者提供の有無/安全管理措置/再委託承認/漏えい時対応/監査 | 個人情報保護法・委託先管理基準/越境移転の有無 | 法務AIプロンプト集100選/LegalOS マスキング |
| フリーランス・個人事業主との契約 | 業務内容/報酬・支払期日/知的財産/秘密保持/中途解約/ハラスメント防止 | フリーランス保護法・下請法・偽装請負該当性 | 法務AIプロンプト集100選/発注者向け契約実務AIスターターセット |
06AIに依頼する作業を分ける
AIレビューで「結果が散漫」「修正文案と説明文が混ざって読みにくい」と感じる場合、原因は1回のプロンプトで複数の作業をまとめて依頼していることが多いです。AIに依頼する作業は、リスク抽出・修正文案・説明文作成・要約のように分けて段階的に依頼するほうが、実務で使いやすい出力になります。
| 依頼する作業 | AIに向いている使い方 | 注意点 | 人間が最終確認すべきこと |
|---|---|---|---|
| リスク抽出 | 条文ごとに自社にとってのリスクを表形式で列挙させる | 「すべて列挙」と指示すると粒度がばらつく | 抽出漏れ/自社特有の論点/取引背景に照らした重要度 |
| 不利条項の洗い出し | 自社の立場を明示したうえで、相手方ひな形の不利点を列挙させる | 「不利」の判断基準は自社方針による | 譲歩可・不可の切り分け/優先度付け |
| 修正文案の作成 | 抽出済みリスク項目について、修正前後の対比で文案を作成させる | そのまま使うと自社ひな形と表現がずれることがある | 用語統一/自社ひな形との整合/法的整合性 |
| 相手方へのコメント案 | 修正理由を相手方に伝えるための文面を作成させる | 断定的・攻撃的になりやすい | 関係性に応じた表現調整/交渉戦略との整合 |
| 事業部向け説明文 | 法的論点をかみ砕いて事業部に説明する文面を作成させる | 専門用語が残ることがある | 事業部の理解レベルに合わせた調整 |
| 契約要約 | 長文契約を1ページ程度の要約にまとめさせる | 重要条項が省略されることがある | 重要条項の保持/要約による誤読防止 |
| 契約台帳項目の抽出 | 契約名、契約期間、自動更新、解約通知期限、金額などを表形式で抽出させる | 別紙・覚書を読まないと正確に取れない項目あり | 覚書・変更契約との整合/日付の表記揺れ |
| チェックリスト化 | 類型別・案件別のレビュー観点をチェックリストに整理させる | 網羅性は人間の確認が必要 | 過不足/自社運用との整合 |
| 論点メモ作成 | 交渉中の論点を整理し、自社方針・相手方主張・落としどころ案を整理させる | 事実誤認のまま結論を出すことがある | 事実確認/法的根拠の精査 |
「リスク抽出 → 修正文案 → 説明文」を別々のプロンプトで依頼し、前のステップの出力を次のステップに渡す多段階運用にすると、各ステップの精度を点検しながら進められます。最初のリスク抽出が外れていれば、修正文案の作業に進む前に方向を修正できるため、無駄な手戻りも減ります。
07AI入力前のマスキング・情報管理チェック
AIレビューを実務で使ううえで、もう一つ重要な前処理が、AIに入力してよい情報・してはいけない情報の切り分けです。社内で利用しているAIツールの契約条件、データ取扱いポリシー、社内のAI利用規程によって、入力可否は変わります。一律のルールはありませんが、以下のような情報は、入力前にマスキング要否を必ず確認してください。
| 情報の種類 | マスキング要否の目安 | 例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 個人名 | 原則マスキング(社内AI利用規程に従う) | 担当者氏名/代表者氏名 | 「A氏」「担当者X」など匿名化 |
| 住所 | 原則マスキング | 個人住所/本店所在地 | 地域名のみ残すなど粒度を調整 |
| 電話番号 | 原則マスキング | 個人携帯/代表電話 | レビューに不要であれば削除 |
| メールアドレス | 原則マスキング | 担当者メール/代表メール | ドメインのみ残す等の選択肢 |
| 会社名・相手方名 | 事案に応じて検討 | 「甲」「乙」「A社」など匿名化 | 類型別の関係性が分かるよう注意 |
| 契約金額 | 事案に応じて検討(高額・機密性高い案件は要マスキング) | 具体額/単価/総額 | 桁感だけ残すなど粒度調整 |
| 口座情報 | 原則マスキング | 銀行口座/支店/口座番号 | レビューに通常不要 |
| 未公表プロジェクト名 | 原則マスキング | コードネーム/新商品名 | 記号化(プロジェクトX等) |
| 営業秘密 | 原則マスキングまたは入力回避 | 製造ノウハウ/顧客リスト | 営業秘密管理規程と整合させる |
| 技術情報 | 事案に応じて検討 | 仕様書/設計書/パラメータ | 競合優位性に関わる情報は要注意 |
| 顧客情報 | 原則マスキング | 顧客名/取引履歴 | 個人情報保護法・委託規律に注意 |
| 取引条件 | 事案に応じて検討 | 値引率/支払条件 | 類似案件への波及リスクを考慮 |
| 紛争・クレーム情報 | 原則マスキングまたは入力回避 | クレーム経緯/訴訟関連事実 | 係争中案件は特に慎重に |
AI入力前のマスキングや、社外への契約書共有時の情報整理を体系的に運用したい場合は、社外共有前チェックシートで運用ルールを整え、必要に応じてLegalOS マスキングなどのツールでマスキング作業自体を効率化する選択肢もあります。
08悪い指示例・良い指示例
同じ契約書でも、AIへの指示文の作り方で出力品質は大きく変わります。指示文には、自社の立場、契約類型、重点確認させたい条項、依頼する作業、出力形式の5要素を含めるのが基本です。
「この契約書をレビューしてください。」
「当社は発注者です。相手方ひな形の業務委託契約(準委任)について、損害賠償、再委託、知的財産、検収、解除条項を中心に、当社に不利な点を整理してください。まずリスク項目を表で整理し、その後、重要度が高い上位5項目について、修正前後対比の修正文案と、事業部向け説明文を作成してください。最終判断は人間の法務担当者が行う前提で、断定しすぎない表現にしてください。」
| 要素 | 悪い指示例 | 良い指示例 | 違いのポイント |
|---|---|---|---|
| 自社の立場 | 不明 | 発注者と明示 | 不利点の方向が決まり一般論を回避 |
| 契約類型 | 不明 | 業務委託(準委任)と明示 | 類型別観点が反映される |
| 重点確認条項 | 不明 | 損害賠償・再委託・知財・検収・解除 | 論点が絞られ網羅性より深さが出る |
| 依頼作業 | 「レビュー」とだけ | リスク抽出 → 修正文案 → 説明文の3段階 | 出力構造が安定する |
| 出力形式 | 不明 | 表+上位5項目について修正対比+説明文 | そのまま社内資料化しやすい |
| 留保表現 | 不明 | 断定しすぎない表現を指定 | 過信を避け人間判断の余地を残す |
09AI出力を法務実務で使うときの注意点
AIレビューは強力な支援ツールになり得ますが、出力をそのまま法務判断として扱うことには注意が必要です。AIの出力は、あくまで「レビュー観点の整理」「論点の下書き」「修正案のたたき台」として位置づけ、最終判断は人間の法務担当者が行う前提を維持してください。
10AIレビューの型を毎回作るのが大変な場合は
無料テンプレートで、AIレビュー前の前提情報を整理することは有効です。
ただし、契約類型ごとのレビュー観点、リスク抽出、修正文案、相手方へのコメント案、事業部向け説明文まで、毎回ゼロから指示文を書くのは手間がかかります。
そのような場合は、契約書AIレビュー プロンプト集や法務AIプロンプト集100選のように、実務場面ごとの指示文の型を使うことも選択肢になります。また、AIに入力する前の個人情報・秘密情報・契約金額などの伏せ処理が負担になる場合は、LegalOS マスキングのようなツールでマスキング作業を支援する方法もあります。
契約レビューの観点整理、修正文案、相手方へのコメント案、事業部向け説明文をAIで継続的に作りたい方向けに、実務場面別のプロンプトを整理した有料商品です。
商品ページを見るAIレビュー前の段階で、条番号・インデント・別紙番号などの体裁を整えることを支援するツールです。前回・第5話で扱った体裁チェックを実務寄りに自動化したい方向けです。
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12まとめ
記事内で紹介したテンプレートをまとめて再掲します。手元に置いて、次の契約書AIレビューから順次お使いください。
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