CIVIL LITIGATION DIGITALIZATION 企業法務のための民事訴訟IT化対応シリーズ 最終話 06 / 06

IT化時代に強い訴訟対応とは|証拠データ化から電子送達管理までのチェックリスト

法令・制度基準日:2026年8月1日

「mintsのマニュアルを作れば対応は終わりなのか」「証拠は誰がPDF化するのか」「裁判所の期限と社内の期限は同じでよいのか」「電子送達の通知は誰が確認するのか」「担当者が休暇中ならどうするのか」「電子判決書はどこへ保存するのか」「訴訟が終わったらアクセス権限はどうするのか」「訓練や監査まで必要なのか」。

結論から述べます。訴訟のIT化対応とは、mintsの操作を覚えることではありません。訴訟が起きる前、係属中、終了後の各段階で、誰が何を行い、何を記録として残すかを決めることです。

本記事はシリーズ最終話として、第1話から第5話で扱った制度を前提に、企業が実際に整備すべき事項を一つの訴訟対応体制として統合します。制度の再説明ではなく、自社の体制を点検し、足りない項目を特定するための記事です。

制度の全体像は第1話「民事訴訟のIT化で何が変わったか」で解説しています。

この記事の使い方

本記事に登場する事項は、法律・裁判所規則上の義務と、企業の内部統制としての推奨運用が混在します。両者を取り違えると、必要のない負担を抱えたり、逆に必要な対応を落としたりします。本記事では、法令上の義務は根拠を示し、推奨運用は「推奨されます」「望まれます」と明示して書き分けています。社内規程に落とし込む際は、この区別を維持してください。

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IT化で企業側の仕事はどう変わったのか

2026年5月21日の改正民事訴訟法の全面施行によって、企業の訴訟対応には「減った仕事」と「増えた仕事」があります。コピー、製本、郵送、裁判所への往訪といった物理的作業は、事件や手続によっては減少しました。ただし、訴状送達のための出力書面の作成、書証原本の持参、本人当事者による書面提出、旧法適用事件など、紙が残る場面もあります。

他方で確実に増えたのは、データの品質管理、版管理、アクセス管理、そして受領の確認です。次の表は、完全な置き換えではなく、対応の重心がどこへ移ったかを示すものとしてご覧ください。

図表1 訴訟対応の重心の変化(紙中心の対応とIT化後の対応)

項目 紙中心の対応 IT化後の対応 企業側で新たに必要になること
資料収集 紙のファイルを探す 紙・電子データの双方を探す。クラウド、チャット、退職者データにも及ぶ 収集範囲の設計と、自動削除の停止
証拠提出 コピーして製本し、持参・郵送 提出用データを作成し、代理人がmintsへアップロード 可読性、ページ順、証拠番号、マスキングの確認
期日参加 裁判所へ出頭 ウェブ会議による参加が選択肢に(裁判所が相当と認める場合) 会議室、端末、通信環境、同席者の管理
送達 郵便の到達を確認 システム送達。通知メールとシステムへのアクセスに依存 通知の確認体制と、送達の効力発生日の記録
判決書 紙で受領し、そのまま保管 電子判決書をダウンロードして社内保存 受領の都度の保存と、保存先の指定
期限管理 受領日を紙の記録から確認 送達の効力発生日を自ら記録・計算 代理人と企業の二重管理
記録の保存 紙のファイルを書庫へ データを共有フォルダ等へ 保存場所、保存期間、廃棄手順の設計
権限管理 書庫の施錠と持ち出し管理 複数のシステムのアクセス権限管理 付与・変更・棚卸し・削除の手順化
典型的な事故 紛失、郵送遅延、コピー漏れ 誤アップロード、版の取り違え、通知の見落とし、権限の放置 提出前確認と、事故時の初動の事前決定

この一覧から見えるのは、IT化対応の中心が「システム操作」ではなく「業務設計」にあるということです。そして、その設計は法務部門だけでは完結しません。証拠となる資料は事業部門が保有し、メールの受信設定と権限管理は情報システム部門が握り、保存期間は文書管理部門が決めています。訴訟対応体制の整備は、部門をまたぐ作業です。

まず訴訟対応の責任者と役割を決める

最初に決めるべきは、システムでも手順書でもなくです。次の役割を区別してください。一人が複数を兼ねても構いませんが、「誰が担当か決まっていない」状態だけは避けます。

訴訟対応で区別すべき役割

案件責任者 案件全体の進行に責任を持ち、社内の判断をまとめる
法務主担当 代理人との窓口。資料収集、期限管理、提出版の確定を実行する
法務副担当 主担当の不在時に同じ判断ができる。通知確認の二重化を担う
事業部門担当 事実関係の説明、原資料の提供、証人候補の調整
情報システム担当 メールの受信設定、アクセス権限、データ保全、端末・通信環境
文書管理担当 保存場所、保存期間、廃棄手順
経理・会計担当 引当金、費用処理、和解金の支払、税務
経営承認者 和解、上訴、重要な方針の決裁
外部弁護士 法的主張、提出証拠の選択、訴訟行為、裁判所との手続対応
広報・コンプライアンス担当 必要に応じ、開示や社外対応

役割を決めたら、作業ごとに「誰が決め、誰が実行し、誰に相談し、誰へ報告するか」を一覧にします。この整理方法は一般にRACIと呼ばれます。R(実行担当)、A(責任者)、C(協議先)、I(報告先)の頭文字です。用語自体は重要ではありません。1つの作業に責任者が複数いる状態と、責任者が不在の状態を発見できることが目的です。

図表2 訴訟対応の役割分担表(RACI表)

作業 責任者(A) 実行担当(R) 協議先(C) 報告先(I)
初動判断 案件責任者 法務主担当 外部弁護士 経営承認者
証拠保全の指示 案件責任者 法務主担当・情報システム担当 事業部門・外部弁護士 経営承認者
原資料の収集 法務主担当 事業部門担当 情報システム担当 案件責任者
提出版の確認・確定 法務主担当 法務副担当(作成者以外が確認) 外部弁護士 案件責任者
送達受領の事実と効力発生日の社内確認 法務主担当 法務主担当・副担当(代理人からの連絡を確認し、社内台帳へ登録) 外部弁護士 案件責任者
期限の登録 法務主担当 法務副担当 外部弁護士 案件責任者
和解の承認 経営承認者 法務主担当 外部弁護士・事業部門・経理 関係部門
上訴の判断 経営承認者 法務主担当 外部弁護士 関係部門
記録の保存 法務主担当 法務副担当・文書管理担当 情報システム担当 案件責任者
権限の削除 法務主担当 情報システム担当 外部弁護士(事務所環境) 案件責任者

※この配置は一例です。組織規模や体制に応じて調整してください。一人法務の場合は「責任者=実行担当」となる項目が増えますが、送達の受領確認と提出版の確認だけは、必ず別の人を関与させることが推奨されます。

関連記事:少人数でも属人化を防ぐ体制の作り方は「ひとり法務・少人数法務は何から整えるべきか」で整理しています。

訴訟発生時の初動フローを固定する

訴訟の初動は、判断に迷う時間が最も損失になる場面です。「何が起きたら初動を開始するか」と「最初の1週間で何をするか」を、あらかじめ決めておきます。

初動の開始点となる事象は、訴状の受領だけではありません。支払督促や呼出状の受領、相手方代理人からの通知、自社から訴訟を提起する方針の社内決定、重大な紛争の発生、証拠が消失するおそれの認識、行政調査・刑事手続・内部調査と並行する紛争。いずれも初動の起点になり得ます。

図表3 訴訟発生からの初動(推奨運用)

24時間以内

受領日・送達日を記録する(誰が、いつ、どの方法で受領したか)
期限を仮登録する(正確な計算は代理人に確認する前提で、まず枠を押さえる)
案件責任者と法務責任者へ通知する
代理人と協議し、必要な範囲のデータについて自動削除・上書き停止等の保全措置を講じる

3営業日以内

外部弁護士を選定・連絡し、委任の要否を判断する
事実関係の一次確認(時系列の作成)
原資料の保全を指示する
対応方針会議を開催する
保険会社への通知の要否を確認する

1週間以内

主張の骨子を代理人と整理する
資料一覧・証拠候補一覧を作成する
社内期限を設定する(裁判所の期限から逆算)
役割分担を確定する
経営報告・広報対応の要否を判断する

この時間区分は法令上の期限ではなく、企業の推奨運用です。事件の性質、期日の指定状況、請求額によって必要な速度は変わります。特に答弁書の提出期限や期日が迫っている場合は、この枠組みにこだわらず代理人の指示を優先してください。

初動で確認すべき項目は、次のとおりです。台帳の初期入力項目としてそのまま使えます。受領日・送達日、回答期限・期日、事件番号、裁判所、相手方、請求内容と金額、社内の案件責任者、外部弁護士の選任状況、証拠保全の指示状況、経営報告と広報対応の要否、保険会社への通知、関連する契約、関連する他の案件。

証拠保全と原資料収集を最初に行う

ここで最も重要な原則を述べます。提出する証拠の選択と、保全しておく資料の範囲は別のものです。

提出する証拠を選ぶのは代理人の判断です。他方、保全の範囲はそれより広く取ることが実務上望まれます。自社に不利に見えることだけを理由として、関係資料を恣意的に削除したり保全対象から外したりしないでください。後の手続で不利益に働くおそれがあるほか、企業としての姿勢そのものが問われます。具体的な保全範囲と収集方法は、代理人と協議して決定します。

この章の位置付け

以下に述べる保全措置は、すべての企業に一律の包括的な保全義務が法令上明文で課されているという趣旨ではありません。紛争が具体化し、関係資料が後の主張・立証に必要となる可能性がある場合に、代理人と協議のうえ、必要な範囲で自動削除や上書きを停止し、関係データを保全することが実務上推奨されるという位置付けです。保全すべき範囲は、紛争の内容、資料の性質、個人情報やプライバシーとの関係によって変わります。

そのうえで、実務上最も見落とされるのが通常業務による自動削除です。メールの保存期間、チャットの自動消去、ログの世代管理、退職者アカウントの削除、端末の初期化。これらは平時には適切な運用ですが、紛争が具体化した段階では、必要な範囲で停止を検討することになります。情報システム部門への依頼を初動の項目に入れているのはこのためです。

図表4 証拠保全対象一覧

資料類型 主な保管場所 担当部署 消失リスク 保全方法 原本の有無
契約書・覚書 文書保管庫、契約管理システム、電子契約サービス 法務・事業部門 低〜中(所在不明のリスク) 原本の所在確認とPDF化 紙原本または電子契約データ
注文書・請求書・納品/検収記録 基幹システム、経理システム 経理・事業部門 低(ただし保存期間経過に注意) 該当期間のデータ出力 あり(紙・電子)
メール メールサーバ、個人端末 情報システム 高(保存期間経過、退職者アカウント削除) 自動削除の停止、対象者・期間を指定して保全 電子データ
チャット・社内SNS クラウドサービス 情報システム 高(自動消去設定) 保持ポリシーの一時変更、エクスポート 電子データ
録音・動画・画像 端末、録画装置、クラウド 事業部門・情報システム 高(上書き、保存期間) 上書き停止、複製の保全 電子データ
システムログ・アクセス記録 各システム 情報システム 高(世代管理による消去) 保持期間の延長、抽出保存 電子データ
稟議・取締役会資料 ワークフローシステム、秘書部門 総務・法務 該当案件の決裁記録を特定 あり
人事資料 人事システム 人事 必要な範囲に限定して取得 あり
退職者のデータ・個人端末 バックアップ、貸与端末 情報システム・人事 最高(削除・初期化) 削除の停止、端末の確保 電子データ

※資料の収集にあたっては、個人情報の取扱い、従業員のプライバシー、通信の秘密、第三者の営業秘密との関係に留意し、必要な範囲で適法な方法により行う必要があります。特に個人端末や私的な通信が関わる場合は、収集の前に代理人と方法を協議してください。

保全の完了は、記録として残します。誰が、いつ、どこから、どの範囲を収集し、どこへ保存したか。この記録は、後に「保全は適切に行われたか」を説明する必要が生じたときの根拠になります。

関連記事:営業秘密として管理すべき情報の特定と管理状況は「営業秘密として守るための管理状況チェックリスト」で確認できます。

提出可能なデータを作り、一人で確定させない

収集した原資料は、そのままでは提出できません。原資料と提出版は別のものです。そして、この変換工程は、代理人がmintsを操作する事件であっても企業側に残ります。

法令上の義務として、電子提出義務の対象となる訴訟代理人は、書証の申出をする時までに書証の写しに代わる画像情報(PDF形式)を提出しなければならないとされています(改正民事訴訟規則137条)。あわせて、要証事実と関連性を有する部分とそれ以外の部分があるときは、関連性を明らかにするよう努める必要があります(同規則137条の2第2項)。裁判所の資料は、書証の画像情報を作成するにあたっては不鮮明なものにならないよう基本的にスキャナの利用を推奨し、提出の前にPDFデータを確認し、判読できない場合には再度PDF化した上で提出する必要があるとしています。この「確認して作り直す」作業を誰がいつ行うかが、企業側の設計事項です。

図表5 原資料からmints提出までの10工程と、直前確認の担当

1 収集する(保全範囲から、証拠候補を取り出す)事業部門・法務
2 原本の所在を確認する法務・文書管理
3 証拠候補を選別する(選択の最終判断は代理人)代理人・法務
4 PDF等の提出用データへ変換する法務
5 可読性・ページ順・向きを全ページ確認する法務(作成者)
6 個人情報・営業秘密・社内コメント・変更履歴を確認しマスキングする法務(作成者)
7 証拠番号・ファイル名・証拠説明書と照合する代理人・法務
8 社内承認を取得する案件責任者
9 提出版を確定する(作成者以外が最終確認)法務副担当
10 代理人へ安全な経路で共有し、代理人が提出する法務→代理人

※工程3と7には代理人の判断が関わります。工程9の二者確認は法令上の義務ではなく、実務上の推奨ですが、誤提出を防ぐ最も効果の高い手順です。

提出直前の確認は、作成した本人だけで完結させないことを原則にしてください。自分が作ったファイルの誤りは見つけにくいためです。

図表6 提出直前のダブルチェック表

提出対象一覧と、実際のファイルを1件ずつ照合した
数が合っているかではなく、1件ずつ開いて確認します。
提出版専用フォルダに、確定したファイルだけが入っている
検討版・旧版が同じ場所にない状態にします。
マスキング前の資料が混入していない
マスキング前後はフォルダ単位で分離します。
社内コメント・注釈・変更履歴が残っていない
PDF化後のファイルを開いて確認します。
ファイル名が証拠番号・証拠説明書と一致している
代理人が照合し直す手間を減らします。
全ページの可読性・向き・順序を確認した
先頭だけでなく中間と末尾も開きます。
送付先と共有経路が正しい
宛先の取り違えは、この段階でしか防げません。
作成者以外の者が確認した
確認者の氏名と日時を記録に残します。
誤アップロード時の連絡先を把握している
代理人の緊急連絡先と、社内の情報漏えい対応窓口です。

仮想事例(実在の事件ではありません)

ある企業では、提出予定の報告書について、社内検討用の注釈を削除した版を作成した。ところが提出版フォルダには、注釈付きの旧版が同名のファイルとして残っていた。担当者は更新したつもりでファイルを上書きしたが、実際に上書きされたのは別のフォルダのファイルだった。代理人は提出版フォルダのファイルを提出版と理解して受領し、そのままアップロードした――。

この事故は、注釈の削除に失敗したことではなく、提出版フォルダに1つのファイルしか置かない運用がなかったことから生じています。ファイル名に版と用途を明示し、確定したものだけを専用フォルダに置く。この単純な運用が、最も効きます。

証拠データの作り方、ファイル名のルール、誤アップロード時の対応は第2話「書類はオンライン提出の時代へ」で詳しく解説しています。社外へ資料を出す前の確認事項は「社外共有前チェックシート」に1枚でまとめています。

裁判所期限・代理人期限・社内期限を分ける

期限管理でよくある失敗は、裁判所の期限を、そのまま社内の期限として扱うことです。

「電子提出なら深夜でもアップロードできるのだから、期限当日に対応すればよい」という理解は成り立ちません。提出するのは代理人であり、代理人は内容を確認する時間を必要とします。企業側の資料に不備があれば作り直しが発生します。そして、システムの保守や障害が生じる可能性もあります。

法令上、準備書面の提出または証拠の申出をすべき期間が定められた場合において、当事者がその期間を経過した後に提出等をするときは、その期間を遵守することができなかった理由を裁判所に説明しなければならないとされています(民訴法162条2項)。裁判所の資料は、説明の内容によっては時機に後れた攻撃防御方法として却下される可能性があるとしています。社内の資料提供の遅れは、この場面で会社側の事情として説明を要することになります。

図表7 裁判所期限から逆算する期限階層

① 裁判所の法定・指定期限動かせない
② 代理人が最終確認・提出作業を完了する期限代理人と合意
③ 企業が最終承認し、提出版を確定する期限案件責任者
④ 法務が内容確認・マスキング・再PDF化を終える期限法務
⑤ 事業部門が資料提供・事実確認を完了する期限事業部門
⑥ 資料収集を開始する時点起点

※必要に応じて、翻訳、データ復元、外部専門家の確認、経営会議・取締役会の開催日程を、③と④の間にさらに組み込みます。各層に必要な日数は事案により大きく異なります。この階層構造は推奨運用であり、日数を固定するものではありません。

実務上の推奨は単純です。①が決まったら、その場で②から⑥までを逆算して設定し、関係者へ通知する。これを案件ごとに繰り返します。

ウェブ期日の環境と役割を標準化する

前提として、ウェブ会議で期日を行うかどうかは、企業が選べるものではありません。口頭弁論の期日における手続をウェブ会議の方法で行うのは、裁判所が相当と認めるときに、当事者の意見を聴いたうえでのことです(民訴法87条の2第1項)。証人尋問には、これとは別の法定要件があります(民訴法204条)。

企業側が標準化すべきは、実施が決まった後の環境と役割です。案件ごとにゼロから考えるのではなく、確認シートを1枚用意しておきます。

図表8 ウェブ期日前確認シート

ウェブ実施が裁判所から正式に決まっている
希望の段階と決定の段階を区別します。
接続方法・開始時刻・入室手順を確認した
代理人から連絡を受け、事前に接続テストを行います。
参加者と発言者を代理人と決めた
裁判所への対応は代理人が中心です。企業担当者が事実関係を説明する場合の範囲も確認します。
施錠でき、音漏れ・画面の視認がない個室を確保した
清掃担当者等の入室予定も確認します。
デスクトップ通知を停止した
画面共有時にメールやチャットのポップアップが出ない状態にします。
無許可の録音・録画をしないことを参加者へ周知した
法廷における録音・録画等は裁判長の許可を要します(民事訴訟規則77条)。社内共有目的でも無許可では行えません。
社内チャットを使うかどうかを代理人と決めた
使う場合も、画面共有時の表示と記録の残存に注意します。
和解に関する社内承認範囲を整理した
その場で回答できる範囲と持ち帰る事項を切り分けます。
証人の出頭場所を裁判所・代理人と確認した
規則上の場所要件があり、裁判所が相当と認める場所である必要があります。
証人候補者へ当日の進行と禁止事項を説明した
証言内容の作り込みとは区別します。
予備回線・予備端末と、紙に控えた緊急連絡先を用意した
端末が使えない状況を想定します。

ウェブ期日の要件、証人の出頭場所、通信障害時の対応は第3話「口頭弁論もウェブ会議で」で詳しく扱っています。

送達と期限を二重管理する

ここがシリーズを通じて最も事故が起きやすい領域です。

裁判所の資料によれば、システム送達の効力は次のいずれか早い時に発生します。①送達対象のデータを閲覧した時、②ダウンロードした時、③閲覧またはダウンロードすることができる措置がとられた旨の通知が発せられた日から1週間を経過した時(改正民訴法109条の3、109条の4第2項)。

「通知から1週間の猶予がある」と考えないでください

1週間の経過は、閲覧もダウンロードもしなかった場合の最終的な効力発生時点です。誰かが開けば、その時点で効力が生じます。裁判所の資料は、弁護士等が事務員のアカウントを補助者アカウントとして設定している場合について、事務員がそのアカウントで電子判決書を閲覧・ダウンロードした時点で送達の効力が生じ、控訴期間が進行すると注意喚起しています。

他方で、通知を見落とした場合も効力は生じ得ます。迷惑メールへの振り分け、担当者の休暇・異動・退職、社内転送の停止があったとしても、それだけで当然に送達が無効になるわけではありません。閲覧もダウンロードもしなかった場合でも、原則として通知が発せられた日から1週間を経過した時に効力が生じます。個別事情による例外的な取扱いが問題となる場合は、直ちに代理人へ確認してください。

ここで、事件のかたちによって企業側の役割が変わる点に注意してください。外部弁護士が代理する事件では、企業がmints上の通知を直接確認するのではなく、代理人が確認した送達効力発生日を企業側でも受領・記録する運用が中心になります。法人本人が手続を行う事件では、企業側がシステム通知そのものを確認します。いずれの場合も、確認を1人に依存させないことが重要です。

そのうえで、企業側では次の2つを分けて記録します。「送達の効力が発生した日」と「会社がその事実を知った日」です。この2つを混同すると、期限の計算そのものを誤ります。

図表9 送達・期限管理台帳の必須項目と、記録の保存タイミング

区分 項目 記録・保存のタイミング
事件の特定 事件名/裁判所/事件番号/相手方/代理人 初動時
受領の事実 裁判書類の名称/通知が発せられた日/閲覧日/ダウンロード日 受領の都度
効力と期限 送達の効力発生日会社が知った日/法定期限/社内期限 受領の都度。法定期限の計算は代理人に確認
担当 主担当/副担当/確認者/代理人からの連絡日 初動時に設定し、変更の都度更新
対応状況 社内承認の状況/対応完了日/未了事項 随時
保存すべき記録 電子判決書和解調書/決定・命令/自社提出書面/相手方提出書面/証拠/期日調書/送達に関する記録 受領・アップロードの都度。事件終了時にまとめて保存しない

電子判決書や和解調書を「事件が終わってからまとめて保存する」運用は成り立ちません。裁判所の手引では、終局事由ごとに定められた時点と、最後の記録アップロードから一定期間が経過した時点を踏まえて、事件情報と当事者アカウントの関連付けが解除される運用が示されています。解除後の閲覧等には手数料が必要になります。

さらに注意すべき点があります。同資料は、終局事由が判決の場合について、控訴が提起されると、控訴審への事件情報の移管のため、確定前に関連付けが解除されることがあるとしています。「判決が確定するまでは見られるはずだ」という前提は成り立ちません。受領したら、その都度保存してください。

システム送達の仕組み、電子判決書、関連付け解除の詳細は第4話「訴訟記録が電子化された後の管理実務」で扱っています。

アクセス権限を3つに分けて管理する

「訴訟記録へのアクセス権限」と一括りにすると、必ず管理が漏れます。管理者も、付与の仕組みも、削除の手順も異なる3つを分けてください。

図表10 3種類のアクセス権限の管理表

環境 管理主体 主な付与対象 付与の時点 削除の時点 棚卸しの頻度(推奨)
① mintsの事件情報 事件情報への関連付けは裁判所。アカウント・認証情報・利用者の社内管理は各利用者および所属組織 訴訟代理人。法人本人が手続を行う事件では企業側 申立て時または関連付け時 終局・控訴移管等に伴い裁判所側で関連付けが解除される。企業側では担当者の変更、認証情報、補助的な利用者の設定等を別途管理する 担当者の変更時(企業側の管理範囲について)
② 法律事務所の共有環境 法律事務所と企業の双方 案件に関与する企業側担当者 委任時・担当者の追加時 案件終了時。事務所側任せにしない 案件終了時+半期ごと
③ 社内の文書管理・共有フォルダ 情報システム部門・法務 案件担当者、経営層、必要な範囲の事業部門 案件開始時。案件単位で付与 退職・異動・休職・案件終了・保存期間満了 四半期または半期ごと

棚卸しの頻度は一例であり、法令上の義務ではありません。自社の情報セキュリティ規程や内部統制の枠組みに合わせて設定してください。削除を行った場合は、いつ、誰が、どの権限を削除したかを記録に残すことが推奨されます。

実務で最も抜けやすいのは、②の法律事務所の共有環境と、③のうち「一時的に見せた」経営層や事業部門の権限です。前者は「事務所側が消してくれるだろう」という相互の期待で放置され、後者は付与の記録すら残っていないことがあります。案件終了時のチェック項目に、この2つを明示的に入れてください。

事故の初動を、起きる前に決めておく

訴訟のIT化によって、これまでになかった種類の事故が生じ得ます。共通するのは、発生後の対応より、事前に連絡経路を決めてあるかどうかで結果が変わるという点です。

図表11 訴訟IT事故の初動対応表

事故 最初の連絡先 初動でやること 記録すべきこと
誤アップロード(誤ファイルが提出された) 企業担当者は直ちに代理人へ。代理人から担当部の裁判所書記官へ連絡(法人本人事件では、裁判所の案内に従い本人側から担当書記官へ) アップロードした側がmints上で自由に削除・差替えできるものではありません。速やかに書記官へ連絡し、消去を申し出る。相手方が事件情報に関連付いているか、通知が配信されたかを確認する アップロード日時、混入した情報の種類、連絡日時、裁判所の対応
代理人への誤ファイル送付 代理人 提出前であれば直ちに差し替えを依頼。提出済みなら上記に準じる 送付日時、誤送付の内容、差替えの完了確認
マスキング漏れ・社内コメント残存 代理人 → 裁判所 提出状況を確認。個人情報が含まれる場合は社内の情報漏えい対応手続と連携する 混入した情報の範囲、影響を受ける本人の特定、報告の要否
送達通知の見落とし 代理人 まず送達の効力発生日を確定する。残存期間を計算し、対応可能な範囲を代理人と協議する 通知の発信日、気付いた日、原因、再発防止策
ウェブ期日中の通信障害 代理人(電話) 再接続を試み、復旧しなければ代理人へ電話。裁判所への連絡は代理人または事前に決めた者が行う。予備回線へ切替え、以後は裁判所の指示に従う 発生時刻、状況、復旧時刻、期日の取扱い
証拠データの消失 情報システム部門 → 代理人 バックアップからの復元可否を確認。復元できない場合は、消失の経緯を記録し代理人と対応を協議する 消失した範囲、原因、復元の試行内容、結果
端末紛失・アカウント侵害 情報システム部門 アカウントの停止、リモートワイプ、アクセスログの保全。訴訟資料が含まれる場合は代理人へ通知する 紛失日時、含まれていた資料、実施した措置
権限削除漏れの発覚 情報システム部門・法務 直ちに削除し、当該期間のアクセスログを確認する 放置されていた期間、アクセスの有無、削除日

※誤アップロードについて、裁判所の資料は、一度アップロードすると自由に消去等ができないこと、間違ってアップロードした場合には電磁的記録からの消去措置の対象となることから速やかに担当部の書記官に連絡し消去を申し出ることが重要であるとしています。裁判所へ連絡すれば必ず相手方に見られなかったことになる、というものではありません。相手方が事件情報に関連付いている場合、閲覧可能な状況が生じ得ます。なお、企業担当者が裁判所へ直接連絡するのではなく、代理人が就いている事件では代理人経由で連絡することが基本です。

秘密情報の管理と社外提供前の確認については「情報漏えい・マスキング地獄を防ぐ実務ガイド」で整理しています。

本人対応を続けるか、弁護士へ切り替えるか

少額の債権回収などを自社で対応している場合、どの時点で方針を見直すかを、着手前に決めておくことが推奨されます。事態が動いてから判断すると、必ず後手に回ります。

図表12 弁護士への切替えを検討する事象(判断目安)

事象 本人対応を継続する場合のリスク 必要になる専門的判断
通常訴訟へ移行した 手続の前提が変わり、簡易・迅速な処理を想定した体制では対応できない 主張の再構成、立証計画、移行先裁判所での期日対応
相手方に代理人が就いた 主張・立証の水準が同じ土俵で評価される 法的主張の組立て、反論への対応
反訴・相殺・損害賠償の主張が出た 請求が複線化し、争点が拡大する 反訴への応訴、相殺の可否、損害額の検討
契約解釈が争点になった 条項の意味そのものが争われ、社内の理解が通用しない 解釈論、裁判例の調査
証人尋問が必要になった 準備と当日の対応に高度な技術を要する 尋問事項の設計、出頭場所の要件、証人の準備
時効・管轄が問題になった 判断を誤ると請求自体が失われ得る 時効の完成猶予・更新、管轄の判断
営業秘密・個人情報を多く含む 提出範囲の判断を誤ると回復困難な漏えいにつながる 閲覧等制限の申立ての検討、提出範囲の判断
海外に当事者がいる/請求額が増大した/信用への影響が大きい 手続・費用・レピュテーションの各面で影響が広がる 国際的な手続、経営判断への助言

これらに該当しても、弁護士の選任が法的に義務付けられるわけではありません。また、該当しない場合に相談してはいけないという趣旨でもありません。あくまでリスク判断の目安です。

法人本人訴訟の要件、代表・代理資格、少額訴訟と支払督促の選び方は第5話「企業が弁護士を付けずに訴訟する場合はどう変わるか」で扱っています。

訴訟終了後に行うこと

判決や和解で手続が終わっても、企業側の作業は残ります。ここを放置すると、次の紛争のときに同じ苦労を繰り返します。

図表13 訴訟終了時チェックリスト

確定・成立を確認した
判決の確定、和解の成立を、日付とともに記録します。
関連付けが解除される前に、必要な記録をすべて取得した
控訴があれば確定前に解除されることがあります。受領の都度保存していれば、ここで慌てません。
履行期限と入金を管理する仕組みに引き渡した
和解条項の分割払い等は、法務ではなく経理・営業管理で継続的に管理します。
強制執行の要否を判断した
任意の履行がない場合の対応方針と期限を決めます。
会計・税務処理を関係部門と確認した
引当金の取崩し、和解金の処理、消費税の扱いなど。
保険・保証の請求手続を確認した
該当する契約があれば、期限内に手続します。
関連契約の見直しの要否を検討した
同種の紛争を防ぐための条項の改定です。
3種類のアクセス権限をすべて削除した
mints、法律事務所の共有環境、社内フォルダ。削除の記録も残します。
保存期間と廃棄期限を設定した
バックアップと個人フォルダの複製も対象に含めます。
振り返りを行い、記録に残した
何が遅れ、何が事故になりかけたかを、担当者を責めない形で記録します。
マニュアルを更新した
振り返りの結果を反映しなければ、次も同じことが起きます。
経営への最終報告を行った
結果、費用、教訓、再発防止策を報告します。

保存期間については、訴訟記録一式に共通する一律の保存期間が定められているわけではありません。他方で、個々の書類には会社法、税法その他の法令上の保存義務が及ぶ場合があります。自社の文書保存規程、和解条項の履行期間、消滅時効、監査・税務調査への対応、再訴のリスクを踏まえて設定してください。

関連記事:保存場所、命名規則、版管理、検索性の設計は「契約書が見つからない問題の解決|検索性を高める管理設計」で解説しています。

マニュアル・訓練・監査をどう回すか

ここが、この記事で最も強調したい部分です。チェックリストを作っただけでは、事故は防げません。

マニュアルに含めるべき事項

分厚い規程は読まれません。初動時に開いて使える形にしてください。最低限、次を含めます。

  • 初動フロー(何が起きたら、誰に、いつまでに連絡するか)
  • 連絡先一覧(案件責任者、外部弁護士、情報システム、保険会社。夜間・休日の連絡方法を含む
  • 役割分担表
  • 証拠保全の手順(自動削除の停止依頼の宛先と方法を含む)
  • 提出前確認の手順とチェック表
  • 送達・期限管理の方法と台帳の様式
  • ウェブ期日の準備事項
  • 事故時の初動対応
  • 終了時の処理
  • 更新履歴(いつ、何を、なぜ変えたか)

まずは年1回・1時間程度の訓練から始める

訓練の目的は、制度を覚えているかを試すことではありません。実際に連絡が回り、判断ができ、記録が残るかを確認することです。次のような想定で、実際に手を動かしてもらいます。

  • 訴状が届いた――誰に連絡が回り、いつ証拠保全の指示が出るか
  • 電子判決書の通知が来た――送達の効力発生日を正しく記録できるか、上訴判断の会議がいつ設定されるか
  • 主担当が不在――副担当が同じ判断と記録をできるか
  • 誤アップロードが起きた――最初に誰へ連絡するか、何分で連絡がつくか
  • ウェブ期日で通信が切れた――紙の連絡先を持っているか、誰が裁判所へ連絡するか
  • 事業部門が資料を期限までに出さない――誰がエスカレーションし、どの時点で代理人へ相談するか
  • 退職者のアカウント権限が残っていた――発見の経路と、削除までの時間

小さく始めて、続けることが重要です

大掛かりな演習は続きません。訓練を初めて導入する企業では、1つのシナリオを選び、連絡・判断・記録までを年1回、1時間程度で試す方法から始めることが考えられます。分厚い規程を作って放置するより効果があります。必要な頻度と内容は、訴訟件数、事業規模、事故リスク、過去に生じた問題点に応じて調整してください。また、訓練の実施記録(日時、参加者、シナリオ、発見された課題)を残すことが推奨されます。この記録自体が、監査時の証跡になります。

監査は「記録があるか」を見る

監査といっても、大がかりなものである必要はありません。年1回、次の項目について「記録が残っているか」を確認するだけでも、体制の実効性は大きく変わります。

図表14 年次訴訟IT化対応監査表

1.期限台帳 全係属案件について記入されているか。空欄が放置されていないか
2.送達の効力発生日 「会社が知った日」と別の欄に、正しく記録されているか
3.提出版の確認記録 作成者以外の確認者名と日時が残っているか
4.アクセス権限(3種類) 棚卸しが実施され、記録が残っているか
5.退職者・異動者の権限 削除が完了しているか。削除の記録があるか
6.記録の保存 判決書・和解調書等が受領の都度保存されているか
7.事故記録 ヒヤリハットを含めて記録され、再発防止策が反映されているか
8.マニュアルの更新日 直近1年以内に見直されているか
9.代理人との連絡ルール 委任時に取り決められ、文書化されているか
10.訓練の実施記録 実施され、発見された課題が反映されているか

※これらの監査項目は企業の内部統制としての推奨であり、法令上の義務ではありません。内部監査部門がある企業では既存の監査計画に組み込み、ない企業では法務責任者による自己点検として実施することが考えられます。

更新管理を忘れない

最後に、見落とされやすい点を挙げます。裁判所の運用やシステムの仕様は変わります。実際、mintsの操作マニュアルや裁判所の手引は、施行後も繰り返し更新されています。ファイル形式、提出場所、書式が変わることもあります。

したがって、マニュアルには「いつ、何を確認したか」を記録し、少なくとも年1回、裁判所の公表情報を確認して更新することが推奨されます。「一度作れば終わり」の文書は、いずれ実態と乖離します。

自社の対応レベルを3段階で確認する

ここまでの内容を踏まえ、自社の現状を大まかに把握してください。これは法的な評価ではなく、次に何へ着手するかを決めるための整理です。

図表15 訴訟IT化対応の3段階

レベル1 担当者依存
主担当しか手順を知らない/期限をメールや個人の手帳で管理している/提出版フォルダがない/送達通知の確認者が1人/事件終了後も権限が残っている
次の一手:期限台帳と提出版フォルダを作り、副担当を決める
レベル2 基本運用あり
チェックリストがある/主担当・副担当が決まっている/期限台帳がある/保存場所が決まっている/代理人との連絡ルールがある
次の一手:権限の棚卸しを定例化し、年1回の訓練を始める
レベル3 継続運用
訓練を実施している/年次監査を行っている/事故・ヒヤリハットを記録している/権限棚卸しが定例化している/マニュアルを更新している/法改正やシステム変更を反映している
次の一手:グループ会社・海外拠点への展開、事業部門を含めた訓練

※レベル3であることが法令上要求されているわけではありません。事業規模、紛争の頻度、業種特性に応じて、必要な水準は異なります。重要なのは段階を上げること自体ではなく、自社にとって不足している項目を特定することです。

訴訟IT化対応 最終チェックリスト

この記事の成果物です。5段階に分けています。印刷し、自社の状況を書き込みながらお使いください。

図表16-1 平時に整えること

案件責任者・法務主担当・副担当が決まっている
名前で決めます。「法務部が担当」では機能しません。
外部弁護士の候補と連絡方法が決まっている
紛争が起きてから探すと初動が遅れます。
証拠保全の手順がある
代理人との協議を経て、自動削除・上書きの停止を依頼する先と方法を定めておきます。
訴訟資料の保存場所が決まっている
案件単位のフォルダ構成を定義します。
訴訟記録と社内検討資料を分離する運用がある
フォルダ単位で分け、権限も分けます。
3種類のアクセス権限の管理者が決まっている
mints、法律事務所の共有環境、社内フォルダ。
訴訟対応マニュアルがあり、更新履歴が残っている
初動時に開いて使える分量にします。
年1回の訓練を実施している
知識テストではなく、連絡と記録の確認です。
年1回の監査(自己点検)を実施している
記録が残っているかを見ます。

図表16-2 訴訟発生時に行うこと

受領日・送達日を記録した
誰が、いつ、どの方法で受領したかを残します。
期限を仮登録した
正確な計算は代理人に確認しますが、まず枠を押さえます。
証拠保全を指示した
代理人と協議し、必要な範囲のデータについて自動削除・上書きの停止等の措置を講じます。
代理人へ連絡し、委任の要否を判断した
本人対応を選ぶ場合も、切替え基準を決めておきます。
社内の案件責任者を確定した
役割分担表に落とし込みます。
事業部門へ通知し、協力体制を確保した
資料提供の窓口を決めます。
保険・広報・経営報告の要否を判断した
通知期限がある契約に注意します。

図表16-3 係属中に行うこと

資料一覧・証拠候補一覧を作成した
収集の完了状況を可視化します。
原本の所在を確認した
PDFから原本を追跡できる状態にします。
PDFの可読性・ページ順・向きを全ページ確認した
提出前に自分の目で開きます。
個人情報・営業秘密・社内コメントを確認しマスキングした
マスキング前後をフォルダで分離します。
提出版を、作成者以外の者が確認した
確認者名と日時を記録します。
裁判所期限から逆算して社内期限を設定した
期限当日の対応を前提にしません。
ウェブ期日の環境と発言者を確認した
確認シートを使います。
送達の受領を複数名が把握できる体制にした
外部弁護士事件では代理人からの送達連絡を、法人本人事件ではシステム通知を、主担当・副担当の双方が把握できるようにします。
期限台帳に送達の効力発生日を記録した
「会社が知った日」とは別欄にします。
和解に関する社内承認範囲を整理した
その場で回答できる範囲を事前に決めます。

図表16-4 判決・和解の時に行うこと

電子判決書・和解調書を受領後速やかに保存した
事件終了まで待ちません。
送達の効力発生日を確定・記録した
期限計算の基準となる日です。
上訴期限を代理人と二重に確認した
mintsは末日を表示しません。
上訴判断の社内決裁を実施した
取締役会付議が必要な場合は日程も確認します。
履行期限を管理する部門へ引き渡した
分割払いは継続的な管理が必要です。
強制執行の要否を判断した
別途の申立てが必要な手続です。

図表16-5 終了後に行うこと

必要な記録をすべて取得済みであることを確認した
関連付けの解除に備えます。
3種類のアクセス権限を削除した
法律事務所の共有環境も忘れずに。
保存期間を設定した
個別の法定保存義務、時効、監査を踏まえます。
廃棄期限と方法を決めた
バックアップと個人フォルダの複製も対象です。
振り返りを実施し、記録に残した
担当者を責めない形で行います。
マニュアルを更新した
更新履歴に理由も書きます。
再発防止策を関係部門へ展開した
契約条項の見直しを含みます。

訴訟IT化対応についてよくある誤解

図表17 訴訟IT化対応についてよくある誤解

よくある誤解 実際
mintsの操作マニュアルがあれば対応は完了 操作は代理人が行う事件が多く、企業側に残るのは証拠の準備、期限管理、権限管理、記録保存です。操作手順書は対応の一部にすぎません
外部弁護士がいれば会社は期限を管理しなくてよい 代理人が受領したことと、会社がその事実を知ったことは別です。上訴判断には社内決裁の時間が必要で、mintsは控訴期間の末日を表示しません
紙をPDFにすれば証拠データ化は完了 可読性、ページ順、要証事実との関連性の明示、マスキング、証拠番号との照合、原本の所在確認まで含めて、はじめて提出できるデータになります
電子提出なら期限当日でも間に合う 提出するのは代理人であり、確認の時間が必要です。資料に不備があれば作り直しが生じ、システムの保守や障害の可能性もあります
通知メールを見なければ送達されない 閲覧した時、ダウンロードした時、通知が発せられた日から1週間を経過した時のうち、最も早い時点で効力が生じます
判決書は事件終了後にまとめて保存すればよい 事件終了後は関連付けが解除され、閲覧等に手数料が必要になります。判決事件では、控訴により確定前に解除されることもあります
mintsは訴訟記録の永久保管庫である 係属中の事件について記録を確認し書類を受領するシステムであり、企業の文書保管庫ではありません
法務部員全員が記録を見られる方が安全 訴訟記録には相手方の主張、証拠、個人情報、営業秘密が含まれ得ます。案件単位で権限を設定し、社内検討資料とは分離してください
ウェブ期日は通常の社内会議と同じ 正式な裁判手続です。口頭弁論は公開の手続であり、ウェブ参加者の様子も傍聴の対象となります
録音しておけば社内報告が楽になる 法廷における録音・録画等は裁判長の許可を要します(民事訴訟規則77条)。社内共有目的でも無許可では行えません
本人訴訟は弁護士費用がないので必ず安い 弁護士費用は生じませんが、社内の作業時間が発生します。争われた場合の工数を人件費に換算すると、想定と異なることがあります
一度マニュアルを作れば更新は不要 裁判所の運用やシステムの仕様は変わります。実際、裁判所の手引や操作マニュアルは施行後も繰り返し更新されています
チェックリストがあれば訓練は不要 チェックリストは、使われて初めて機能します。連絡が回るか、記録が残るかは、実際にやってみないと分かりません
事故がなければ監査は不要 事故が起きていないのか、気付いていないだけなのかは、記録を確認しなければ判別できません

まとめ|担当者が変わっても同じ品質で処理できるか

シリーズ全6話を通じた結論を整理します。

  • IT化対応はシステム操作ではなく業務設計です。mintsに習熟することが目的ではありません。
  • 責任者と役割を決めます。1つの作業に責任者が複数いる状態と、不在の状態を無くします。
  • 証拠保全は初動で行います。提出する証拠の選択とは別に、保全範囲は広く取り、自動削除を止めます。
  • 原資料と提出版を分けます。そして提出版は、作成者以外が確認して確定させます。
  • 期限を階層化します。裁判所期限、代理人期限、社内期限、事業部門の回答期限。
  • ウェブ期日の環境と発言者を標準化します。実施の可否は裁判所が判断します。
  • 送達と期限を二重管理します。効力発生日と、会社が知った日を別に記録します。
  • 重要記録は受領の都度保存します。事件終了を待つと間に合わないことがあります。
  • アクセス権限を3種類に分けます。管理者も削除の手順も異なります。
  • 事故の初動を、起きる前に決めます。誤アップロードは自分で消せません。
  • 本人対応を見直す基準を持ちます。通常訴訟への移行が最大の転換点です。
  • 終了後に権限を削除し、振り返ります。そして、マニュアルを更新します。
  • マニュアル、訓練、監査を継続します。作っただけの文書は事故を防ぎません。

IT化時代に強い訴訟対応とは、特定の担当者が詳しい状態ではありません。担当者が変わっても、同じ期限、同じ確認、同じ保存、同じ判断経路で処理できる状態です。

その状態は、紛争が起きてから作ることはできません。今日、責任者を決め、保存場所を決め、通知の確認者を2人にする。そこから始まります。

本シリーズは全6話で完結です。制度の理解は第1話から第5話、体制の整備は本記事をご活用ください。

よくある質問(FAQ)

mintsの操作マニュアルを作れば、企業のIT化対応は完了ですか。

完了しません。外部弁護士が代理する事件では、mintsを操作するのは通常は代理人です。企業側に残るのは、証拠保全、原資料の収集、提出用データの作成と確認、社内承認、期限管理、記録の保存、アクセス権限の管理です。操作手順書は、対応全体の一部にすぎません。

外部弁護士がいる場合も、会社で送達日や期限を管理する必要がありますか。

必要です。代理人が受領したことと、会社がその事実を知ったことは別の問題です。上訴の判断には、判決内容の確認、リスクの整理、社内決裁の時間が必要で、取締役会の付議が必要な事案では日程調整も生じます。また、裁判所の資料によれば、mints上に控訴期間の末日を明示する仕様はなく、当事者側で把握・計算する必要があるとされています。

証拠保全は、提出する資料だけを対象にすればよいですか。

いいえ。提出する証拠の選択と、保全すべき範囲は別のものです。保全は提出範囲より広く取り、自社に不利に見える資料も削除したり対象から外したりしてはいけません。特に、メール、チャット、ログの自動削除は、紛争が発生した時点で停止する必要があります。なお、収集にあたっては、個人情報、従業員のプライバシー、通信の秘密等に留意し、必要な範囲で適法な方法により行ってください。

電子送達の通知確認は、法務担当者1人だけでもよいですか。

推奨できません。システム送達の効力は、閲覧した時、ダウンロードした時、通知が発せられた日から1週間を経過した時のうち最も早い時点で生じます。担当者の休暇、異動、退職、迷惑メールへの振り分けがあっても、それだけで当然に送達が無効になるわけではなく、原則として通知の発信日から1週間の経過により効力が生じます。個別事情による例外的な取扱いが問題となる場合は、直ちに代理人へ確認してください。体制としては、外部弁護士が代理する事件では代理人からの送達連絡を、法人本人が手続を行う事件ではシステム通知そのものを、主担当・副担当の双方が把握できるようにすることが推奨されます。

電子判決書は、事件終了時にまとめて保存すればよいですか。

いいえ。受領の都度保存してください。裁判所の資料によれば、事件終了後は事件情報と当事者アカウントの関連付けが解除され、閲覧等には手数料が必要になります。しかも判決事件では、控訴の提起があると控訴審への事件情報の移管のため、確定前に解除されることがあるとされています。「確定するまでは見られるはず」という前提は成り立ちません。

訴訟記録には法務部員全員がアクセスできる方が安全ですか。

逆に危険です。訴訟記録には、相手方の主張書面や証拠、個人情報、営業秘密が含まれ得ます。案件単位でアクセス権限を設定し、社内検討資料とは分離してください。そのうえで、担当者不在時に業務が止まらないよう、権限を広げるのではなく副担当を指名するという方向で対応します。

訴訟対応マニュアルは、どのくらいの頻度で更新すべきですか。

法令上の定めはありませんが、実務上は、①案件が終了した都度(振り返りの結果を反映)、②年1回の定期見直し、③裁判所の運用やシステム仕様に変更があった時、の3つの契機で更新することが推奨されます。裁判所の手引や操作マニュアルは施行後も繰り返し更新されているため、少なくとも年1回は公表情報を確認してください。

訓練や監査まで行う必要がありますか。

法令上の義務ではありません。ただし、チェックリストや規程は、実際に使われなければ事故を防げません。訓練は、1つのシナリオで実際に連絡を回し記録を残すところまでを年1回・1時間程度行うだけでも効果があります。監査も、期限台帳、送達の効力発生日、提出版の確認記録、権限の棚卸し、事故記録、マニュアルの更新日といった項目について「記録が残っているか」を確認する自己点検で十分に機能します。

参考資料・公的情報

本記事は、次の公的資料を確認して作成しています(いずれも最終確認日:2026年8月1日)。

本記事は2026年8月1日時点の公表情報に基づく一般的な解説であり、個別の事件についての法的助言ではありません。必要な対応は、事件の内容、係属する裁判所、届出の状況、代理人の有無により異なります。法定期限、送達の効力、上訴期間、訴訟上の代表・代理資格、証拠の提出方法等は、個別にご確認ください。また、mints、ウェブ会議、督促手続オンラインシステム等の仕様は変更される可能性があります。自社の対応体制を整える際には、担当の裁判所、裁判所書記官、代理人弁護士、および情報システム部門とご確認ください。

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