法務が現場担当者に聞くべきこと|偽装請負ヒアリングの進め方
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第1話では偽装請負の基本構造を、第2話では37号告示と厚生労働省ガイドの読み方を整理しました。第3話は、その判断項目を、法務担当者が現場担当者に実際に聞ける質問へ落とし込む、シリーズの中核です。
偽装請負は、契約書の名称ではなく、現場で誰が誰に指示しているかという実態で判断されます。だからこそ、業務委託契約や請負契約を審査するときは、契約書だけでなく現場ヒアリングが欠かせません。この記事では、質問リスト、危険な回答例、追加確認すべき資料、ヒアリング記録の残し方までを、表を中心に整理します。法務部内の契約審査メモや、発注部門向けの偽装請負チェックリストとしても使えるよう、実務で確認しやすい形にしています。
読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。
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なぜ法務の現場ヒアリングが必要なのか
業務委託契約書や請負契約書に「受託者が自らの労働者を指揮命令する」と書いてあっても、現場がその逆の運用になっていれば、評価されるのは実態のほうです。偽装請負は契約形式ではなく、実態で判断されるためです。
法務部は現場に常駐していません。そのため、契約審査のときに現場担当者から実際の運用を聞き取らなければ、契約書と実態のズレに気づけません。やっかいなのは、現場担当者が悪気なく、委託先作業者を自社社員のように扱ってしまっているケースが少なくないことです。だからこそ、「違法ですよね」と責めるのではなく、事実を確認する聞き方が重要になります。
| 契約書上の記載 | 現場で起きがちな実態 | 法務が確認すべきこと |
|---|---|---|
| 受託者が作業者を指揮命令する | 発注者が毎朝、直接作業を割り振っている | 実際の指示ルート(誰が誰に指示しているか) |
| 受託者が労働時間を管理する | 発注者が出退勤や残業を確認・依頼している | 勤怠管理の主体(誰が時間を管理しているか) |
| 受託者が人員を配置する | 発注者が作業者を名指しで指定・交代させている | 人員配置・交代の決定者 |
| 受託者が自らの責任で業務を処理する | 発注者が設備も手順も用意し、委託先は人だけを出している | 設備・専門性・責任の所在(単なる労働力提供でないか) |
ヒアリングは、思いつきで質問するより、流れを決めて進めるほうが事実を引き出せます。全体像は次のとおりです。
ヒアリング前に準備すべき資料
現場に聞く前に、手元の資料を読んでおくと、ヒアリングが「事実確認」になり、契約書と実態のズレを見つけやすくなります。最低限、次の資料に目を通しておきましょう。
| 資料 | 確認するポイント | リスクサイン |
|---|---|---|
| 業務委託契約書・請負契約書 | 契約類型(請負・準委任)、指揮命令・責任の定め | 指揮命令や責任の所在が曖昧、名称だけ「業務委託」 |
| 仕様書・業務範囲書 | 成果・業務範囲が具体的に定められているか | 範囲が漠然とし、実質「人を出す」だけになっている |
| 見積書・発注書 | 成果・業務単位か、人数×期間(人月)単位か | 成果ではなく人数だけで金額が決まっている |
| 業務フロー | 指示・報告の流れ、責任者の位置づけ | 発注者から作業者へ直線的に指示が流れている |
| 進捗報告書・日報・月報 | 誰が誰に報告しているか | 作業者本人が発注者へ直接報告している |
| チャット・メールのやり取り | 日々の指示・依頼の宛先と内容 | 発注者が作業者本人へ直接作業指示を出している |
| 勤怠表・シフト表 | 労働時間を誰が管理しているか | 発注者が出退勤・残業を管理・指示している |
| 要員表・体制図・スキルシート | 配置・交代の決定者、責任者の有無 | 発注者が個人を名指しで指定/就業拒否。氏名・年齢等の個人特定情報の取得や事前面談(実質的な採用面接)で発注者が直接人選 |
| 検収書・成果物一覧 | 成果物単位で検収しているか | 成果物ではなく「稼働したか」だけを確認している |
| 運用マニュアル・SOP | 作業手順を誰が定めているか | 発注者が細部まで手順を指定し、裁量がない |
※見積りや管理上「人月(人数×期間)」を用いること自体が、直ちに偽装請負を意味するわけではありません。IT開発・保守などの請負・準委任でも人月は使われます。契約の実態が成果・業務範囲ではなく、発注者の指示に従って労働力を提供するだけになっている場合に、偽装請負リスクが高まります。
※スキルシート(技術・経験の確認資料)の提出を求めること自体が、直ちにリスクサインになるわけではありません。厚生労働省の疑義応答集(第3集)でも、個人を特定できないスキルシートで、発注者がそれによって個々の労働者を指名したり就業を拒否したりできないものであれば、提出を求めても直ちに偽装請負とは判断されない、とされています。リスクが高まるのは、氏名・年齢等の個人特定情報の取得や、事前面談(実質的な採用面接)によって発注者が直接人選する場合です。
法務が最初に聞くべき10の質問
ここがこの記事の中心です。37号告示の観点に対応させた10の質問を用意しました。上から順に、事実ベースで聞いていきます。「危険な回答例」に近い答えは、ただちに違法という意味ではなく、追加確認が必要な「リスクサイン」として受け止めてください。
| No. | 質問 | 37号告示上の観点 | 危険な回答例(リスクサイン) | 追加確認資料 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 委託先作業者への日々の作業指示は誰が出していますか | 業務遂行方法・指揮命令 | 当社担当者が作業者本人に直接出しています | 業務フロー、作業依頼メール、チャット履歴 |
| 2 | 作業の順番や方法は誰が決めていますか | 業務遂行方法 | 当社が手順まで細かく決めています | 仕様書、業務フロー、手順書 |
| 3 | 作業者本人に直接依頼・修正指示をすることはありますか | 直接指示の有無 | 急ぎのときは本人に直接言っています | チャット履歴、メール |
| 4 | 出退勤、休憩、残業は誰が管理していますか | 労働時間管理 | 当社が出退勤を確認し、残業も依頼しています | 勤怠表、シフト表、残業依頼メール |
| 5 | 作業者の配置や交代は誰が決めていますか | 人員配置・服務規律 | 当社が人を名指しで指定・交代させています | 要員表、体制図、交代依頼メール |
| 6 | 作業者の評価やクレームはどのように伝えていますか | 評価・服務規律 | 作業者本人に直接評価・注意しています | 評価記録、クレーム連絡、面談メモ |
| 7 | 進捗報告は誰から、どのような形式で受けていますか | 報告ルート | 作業者本人から毎日直接受けています | 日報・週報、報告メール、会議資料 |
| 8 | 委託先責任者は現場でどのような役割を持っていますか | 労務管理上の独立性(責任者の実在) | 名前だけで、実際には機能していません | 体制図、責任者からの指示記録 |
| 9 | 業務に使う設備・システム・材料は誰が用意していますか | 事業経営上の独立性 | 当社が全部用意し、委託先は人だけです | 契約書、貸与品リスト、費用負担資料 |
| 10 | 契約書・仕様書に書かれていない作業を頼むことはありますか | 業務範囲・脱法目的 | 必要に応じて口頭で追加を頼んでいます | 契約書、仕様書、追加依頼メール |
質問の聞き方|現場を責めずに事実を引き出す
現場担当者は、偽装請負を意識せずに運用していることがほとんどです。そこで「それは違法です」と詰めてしまうと、身構えてしまい、本当の実態が出てこなくなります。大切なのは、評価を一度脇に置いて、淡々と事実を確認することです。
| 避けたい聞き方 | 望ましい聞き方 | 理由 |
|---|---|---|
| 直接指示していませんよね | 作業依頼は普段どのルートで伝えていますか | 誘導せず、実態を確認できる |
| 勤怠は管理していませんね | 出退勤や残業は、どなたがどのように確認していますか | 「ない」と言わせず、運用の事実を聞ける |
| それは偽装請負では? | 緊急のときは、誰にどう連絡していますか | 身構えさせず、例外運用を引き出せる |
| 人を替えさせたりしてないですよね | 担当を替えたいとき、どなたにどう伝えていますか | ルート(責任者経由か直接か)を確認できる |
危険な回答が出たときの追加質問
リスクサインとなる回答が出たら、その場で「違法です」と評価するのではなく、事実を一段深く確認します。誰に・どの媒体で・どのくらいの頻度で、を押さえ、証跡で裏取りすることがポイントです。
| 危険な回答 | 追加で聞く質問 | 確認したいこと | 見るべき資料 |
|---|---|---|---|
| 当社が毎日作業を指示しています | どのような内容を、誰に、どの媒体で伝えていますか | 直接指揮命令の有無・程度 | チャット履歴、作業依頼メール |
| 当社が残業をお願いしています | 委託先責任者を通していますか、それとも作業者本人にですか | 労働時間管理への関与 | 勤怠表、残業依頼メール |
| あの人は合わないので替えてもらいました | 品質の問題として責任者に伝えたのか、個人を指定して交代を求めたのか | 人員配置・評価への関与 | 交代依頼メール、要員表 |
| 朝礼で当社が指示しています | 朝礼は情報共有にとどまりますか。発注者の要望を個々の作業者へ割り振る際、受託者側の現場責任者(差配者)が介在していますか | 協議か指揮命令(差配)か。タスクを割り振っているのは誰か | 朝礼の議事・チャット、当日の指示記録 |
| 直接は言っていません(実態が曖昧) | 例外的に直接言う場面はありますか、一次窓口は誰ですか | 例外運用の有無・一次窓口 | 連絡網、一次窓口の記録、チャット履歴 |
ヒアリング結果のリスク整理
聞き取った事実は、印象で「グレー」と片づけず、段階に分けて整理します。ここでも、高リスク=ただちに違法、ではなく、実態を踏まえて優先的に見直すべき状態、という意味で使います。最終的な評価は個別事情を踏まえた総合判断になります。
| リスク区分 | 状態 | 法務の対応 |
|---|---|---|
| 低リスク | 委託先責任者を通じた依頼・報告ルートが明確で、発注者は成果・納期・品質を管理している | 現状の運用を維持。記録を残し、契約更新時などに定期的に再確認する |
| 要注意 | 一部で作業者本人との直接やり取りがあるが、内容は情報共有・確認にとどまっている | ルートを責任者経由に整理。直接指示へ発展しないよう運用ルールを明確化する |
| 高リスク | 発注者が作業者本人に直接、作業指示・勤怠管理・残業依頼・人員評価/交代をしている | 速やかに運用を見直し、契約・体制を是正。実態が派遣に近い場合は契約形態の見直しや、所轄労働局・専門家への相談を検討する |
※特に常駐型の準委任契約(IT保守・運用やBPO等)では、発注者の既存チームに受託者メンバーが混在しやすく、日常の連絡がいつの間にか指揮命令へグラデーション化しやすいため、報告・指示ルートの分離をより厳格に保つ必要があります。
ヒアリング記録に残すべき項目
ヒアリングは、その場で終わらせず記録に残すことで、契約審査・更新の判断材料になり、担当者が替わっても引き継げます。最低限、次の項目を記録しておきましょう。
| 項目 | 記録内容 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 契約名・案件名 | 対象の契約・案件 | どの契約についての確認かを特定する |
| 委託先名 | 受託者の名称 | 取引先単位でリスクを管理する |
| ヒアリング日時 | 実施日・時刻 | 運用は変わるため、いつ時点の事実かを残す |
| ヒアリング対象者 | 回答した現場担当者・役職 | 誰の認識に基づく事実かを明確にする |
| 業務内容 | 実際に行っている業務 | 契約・仕様との整合を確認する |
| 指示ルート | 誰が誰に作業指示しているか | 指揮命令の所在を記録する |
| 報告ルート | 誰が誰に報告しているか | 報告先と指示先の分離を確認する |
| 勤怠管理主体 | 労働時間を管理しているのは誰か | 労働時間管理の所在を記録する |
| 人員配置・交代の決定者 | 配置・交代を誰が決めているか | 人員配置への関与を記録する |
| 追加確認資料 | 確認した証跡(チャット・勤怠等) | 回答の裏付けを残す |
| リスク評価 | 低・要注意・高の区分と理由 | 対応の優先度を判断する |
| 改善アクション | 是正の内容と担当 | 再発防止につなげる |
| 次回確認時期 | 再ヒアリングの目安 | 運用変化を継続的に把握する |
ヒアリング後に行う改善アクション
ヒアリングで見つかったズレは、運用ルール・契約書・現場教育に反映して初めて再発防止につながります。代表的な改善アクションを整理します。
| 課題 | 改善アクション | 注意点 |
|---|---|---|
| 発注者が作業者本人に直接指示している | 指示・依頼ルートを委託先責任者経由に変更する | 形だけでなく、実際の連絡先を切り替える |
| 報告を作業者本人から直接受けている | 報告書の提出者を委託先責任者にする | 報告先と指示先を分ける |
| 残業・休日対応を本人に直接頼んでいる | 依頼ルートを責任者経由に整理し、稼働条件は契約・業務設計で定める | 緊急時のルートも事前に決めておく |
| 個人を名指しで交代させている | 業務品質の改善要望として委託先責任者に伝える | 個人評価ではなく品質の問題として扱う |
| 契約書・仕様書が実態と合っていない | 契約書・仕様書・業務フローを実態に合わせて見直す | 書面だけ整えて運用が伴わないのは逆効果 |
| 実態が労働者派遣に近い | 労働者派遣契約や直接雇用への切替えを検討する | 個別事情を踏まえ、必要に応じ労働局・専門家に相談 |
| 現場が「やってよいこと」を理解していない | 現場担当者向けのOK・NG行動リストを配布・周知する | 第4話の内容を教育資料として活用する |
現場担当者に伝えるべき一言
最後に、現場担当者へ短く伝えるメッセージを整理します。難しい条文ではなく、次のことを具体的に共有するのが効果的です。
| 場面 | NG例 | OK例 |
|---|---|---|
| 作業の指示 | 作業者本人に「今日はこれをやって」と直接指示する | 委託先責任者に、必要な業務内容・成果・期限を伝える |
| 残業・休日対応 | 作業者本人に「今日は残業して」と頼む | 納期や業務量を委託先責任者と調整する |
| 勤怠・出退勤 | 作業者の出退勤や休憩時刻を発注者が決める | 労務管理は委託先に委ね、稼働条件は契約で整理する |
| 人員交代 | 「この人を外して」と個人を名指しで交代させる | 品質の問題として委託先責任者に改善を求める |
| 進捗確認 | 作業者本人から日々の報告を受け、その場で指示する | 委託先責任者から進捗報告を受ける |
| 追加作業 | 契約・仕様にない作業を口頭で本人に頼む | 範囲外は、責任者と契約・仕様の変更として協議する |
第4話「現場担当者がやってはいけないこと|直接指示・勤怠管理・評価のNG例」では、本記事のヒアリングで浮かびやすい論点を踏まえ、現場担当者が避けるべき具体的なNG行動を、場面ごとにOK例とあわせて詳しく解説します。
偽装請負リスクを防ぐには、法務担当者だけが契約書を見るのではなく、現場からの情報を契約審査・承認・更新判断に残していくことが重要です。確認事項を属人的にせず記録として残せる仕組みや、現場・営業の一次チェックに使える無料ツールも、その助けになります。
ヒアリングで見つかった指示ルートや報告ルートのズレを、仕様書・検収・変更管理・報告ルートなどの運用資料に反映したい場合は、請負契約・業務委託契約 運用雛形集も参考になります。なお、偽装請負にあたるかどうかの最終的な判断は個別事情によって変わります。ツールや記録はあくまで確認・運用の補助であり、実際の判断にあたっては、最新の法令・告示や厚生労働省の資料を確認し、必要に応じて所轄の労働局や専門家にご相談ください。
参考資料
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