議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方
次の案件で使える形に。
株主総会議事録に議決権数を書くとき、株主名簿上の株式数をそのまま使っていないでしょうか。
実は、株式数と議決権数は、常に一致するとは限りません。自己株式・種類株式・議決権制限株式・単元株式などがあると、株式数と議決権数がズレます。議決権数を誤ると、株主総会の定足数・賛成数の計算、議事録、登記書類にまで影響します。
この第6話では、株主名簿を管理する人が、株主総会前にどの資料を見て、どの数字を確認すべきかを実務目線で整理します。招集通知と基準日の関係は第5話「株主総会の招集通知は誰に送るのか」をご覧ください。
1. 議決権数とは何か
議決権数とは、株主総会で議案に賛成・反対するために投票できる数です。会社法308条は、原則として一株につき一個の議決権があると定めています。
株主(…相互保有株式に該当する株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。
第2項 前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。 ※ 引用は要点のみ。正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。
まずは、「株式数=持っている株の数」「議決権数=株主総会で投票できる数」と整理してください。原則は一株一議決権ですが、自己株式・単元株式・議決権制限株式・種類株式などにより、この2つが一致しないことがあります。
| 項目 | 意味 | 株主名簿管理上の注意点 |
|---|---|---|
| 株式数 | その株主が保有する株式の数 | 株主名簿で確認できる基本情報 |
| 議決権数 | 株主総会で投票できる数 | 株式数から自己株式・議決権制限などを調整して算定 |
| 原則の関係 | 一株一議決権(単元株式制度があれば一単元一議決権) | 例外(自己株式など)があると一致しない |
2. 発行済株式総数・自己株式・議決権数の違い
混同しやすい3つの言葉を整理します。
| 項目 | 確認資料 | 議決権数への影響 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 登記事項証明書 | そのままでは総議決権数にならない | 自己株式を含む数字 |
| 自己株式 | 株主名簿、取得・処分資料、会計資料 | 議決権なし。母数から除く | 発行済株式総数には含まれる |
| 議決権数 | 株主名簿、定款、発行済株式総数 | 定足数・賛成数の母数になる | 単元・種類・議決権制限も加味 |
発行済株式総数が 100株、うち会社が保有する自己株式が10株の場合(種類株式・単元株式制度はないと仮定):
議決権の基礎になる株式数 = 100株 − 10株(自己株式)= 90株
このように、発行済株式総数(100)をそのまま総議決権数として使うと誤りになります。なお、種類株式・単元株式・議決権制限株式がある場合は、さらに別の調整が必要です。
3. まず株主名簿で何を確認するか
議決権数の確認は、株主名簿から出発します。次の項目を確認しましょう。
ただし、株主名簿だけでは議決権数が完結しないこともあります。単元株式や議決権制限株式の有無は定款で、発行済株式総数は登記で、議決権の前提となる基準日や決議要件は定款・議事録で——というように、複数の資料と突合する必要があります。
4. 自己株式がある場合の注意点
会社が保有する自己株式には、議決権がありません(会社法308条2項)。これは議決権数の確認で最も基本的かつ重要なポイントです。
自己株式を議決権数に含めてしまうと、定足数や賛成割合の計算を誤るおそれがあります。自己株式を取得・処分した場合は、株主名簿・会計資料・決議資料と整合しているかを確認してください。古い名簿の整備手順は第3話「株主名簿が古い会社はどう整備するか」で扱っています。
5. 単元株式がある場合の注意点
定款で単元株式数を定めている場合、一単元の株式につき一個の議決権になります(会社法308条1項ただし書)。たとえば1単元を100株と定めていれば、100株で議決権1個です。
本記事では単元株式制度の詳細には深入りしませんが、「自社が単元株式制度を採用しているか」をまず定款で確認してください。
6. 種類株式・議決権制限株式がある場合の注意点
種類株式発行会社では、株式の種類ごとに権利内容が異なる可能性があります。特に議決権制限株式がある場合、株主名簿上の株式数が多くても、議決権を行使できない、または一部の議案について議決権が制限されることがあります。
「株式数が多い=必ず議決権が多い」とは限りません。種類株式・議決権制限株式がある場合は、定款、種類株式の発行要項、株主名簿、過去の決議資料を確認し、どの議案でどれだけの議決権を行使できるかを整理してください。
7. 相互保有株式・特殊な議決権制限に注意する
会社法308条1項は、自己株式以外にも、相互保有株式の議決権を制限しています。これは、ある株式会社が、その株主である会社等の議決権の総数の4分の1以上を有するなど、経営を実質的に支配できる関係にある場合に、その株主(相互保有株式)には議決権を認めない、という仕組みです(具体的な基準は会社法施行規則67条)。
詳細なグループ会社法務には深入りしませんが、子会社・関連会社・グループ会社が株主になっている場合は、定款や資本関係の確認が必要になることがあります。初心者としては、「グループ会社が株主の場合は、単純に株式数だけで議決権を見ない」と覚えておけば十分です。
| 株式・制度 | 議決権への影響 | 確認資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自己株式 | 議決権なし(308条2項) | 株主名簿、取得・処分資料、登記 | 母数から除く |
| 単元株式 | 一単元一議決権、単元未満は議決権なし | 定款(単元株式数)、株主名簿 | 採用の有無を定款で確認 |
| 議決権制限株式 | 全部または一部の議案で議決権なし | 定款、発行要項、株主名簿 | 議案ごとに行使可否を確認 |
| 種類株式 | 種類ごとに権利内容が異なる | 定款、登記、株主名簿 | 種類別に整理 |
| 相互保有株式 | 一定の支配関係で議決権なし(308条1項) | 定款、資本関係、施行規則67条 | 4分の1以上の保有関係に注意 |
| 名義書換未了の譲渡株式 | 原則、名簿上の株主が議決権を行使 | 譲渡契約書、書換請求書、受付記録 | 契約と名義書換は別 |
8. 議決権数は、株式数から調整して確認する
ここまでの内容を、確認の流れとして整理します。
9. 株主総会の定足数・賛成数との関係
議決権数は、株主総会の定足数や賛成数を確認する前提になります。決議の種類によって要件が異なるため、正しい議決権数を把握していないと、そもそも決議要件を判断できません。
| 決議の種類 | 議決権数がなぜ重要か | 確認すべき資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 普通決議(会社法309条1項) | 定足数・賛成数の母数になる | 定款、株主名簿 | 定款で定足数を調整・排除している場合がある |
| 役員の選任・解任(会社法341条) | 定足数の母数になる(特則普通決議) | 定款、株主名簿 | 定足数は3分の1未満には下げられない |
| 特別決議(会社法309条2項) | 加重された賛成要件の母数になる | 定款、株主名簿 | 出席株主の議決権の3分の2以上などの加重要件 |
決議要件の詳細はここでは深入りしません。重要なのは、「正しい議決権数を確認しないと、定足数・賛成数を判断できない」ということです。定款で決議要件が修正されている場合があるため、必ず定款を確認してください。役員選任との関係は第4話「株主名簿と役員選任」で整理しています。
10. 株主総会議事録に記載する議決権数との整合性
株主総会議事録では、出席株主数・出席議決権数・賛成議決権数などが記載されます。これらが株主名簿上の株式数・議決権数と整合しているかを確認しましょう。
| 議事録上の項目 | 株主名簿で確認すること | よくあるミス |
|---|---|---|
| 議決権を行使できる株主の総議決権数 | 自己株式・議決権制限を除いた数 | 発行済株式総数をそのまま使う |
| 出席株主数・出席議決権数 | 出席株主の議決権数(委任・書面行使含む) | 自己株式を含めて数える |
| 賛成議決権数 | 賛成株主の議決権数 | 株式数で数えてしまう |
| 定足数の充足 | 定款・会社法の決議要件 | 定款の加重・調整を見落とす |
議事録作成時に自己株式や議決権制限株式を見落とすと、数字が合わなくなります。議事録の詳しい書き方には立ち入りませんが、数字の根拠を株主名簿・定款と照合する習慣をつけてください。
11. 議決権数確認でよくあるミス
| ミス | 起きやすい場面 | 実務上のリスク | 防止策 |
|---|---|---|---|
| 発行済株式総数をそのまま総議決権数にする | 自己株式の存在を失念 | 定足数・賛成割合の誤り | 自己株式を除いて算定 |
| 自己株式を議決権数に含める | 自己株式の見落とし | 決議の前提を誤る | 308条2項を確認 |
| 株主名簿の株式数だけで議決権数を確定 | 単元・種類・制限の未確認 | 議決権数の誤算 | 定款・登記と突合 |
| 単元株式を見落とす | 単元株式制度のある会社 | 議決権数の誤り | 定款で単元株式数を確認 |
| 種類株式・議決権制限株式を見落とす | 種類株式発行会社 | 議決権の有無を誤る | 定款・発行要項を確認 |
| 名義書換未了の譲渡を見落とす | 譲渡後の手続漏れ | 議決権者を取り違える | 承認・書換・受付記録を確認 |
| 基準日後の株式移動を混同する | 基準日の理解不足 | 権利行使者を誤る | 基準日時点の名簿で確定 |
| 定款の決議要件を確認しない | 定款の未確認 | 定足数・加重要件を誤る | 現行定款で確認 |
12. 議決権数確認チェックリスト
| 確認項目 | 完了欄 | 注意点 |
|---|---|---|
| 発行済株式総数を確認したか | ☐ | 登記で確認 |
| 株主別株式数の合計と整合しているか | ☐ | 発行済株式総数と突合 |
| 自己株式を除外したか | ☐ | 議決権なし |
| 単元株式制度の有無を確認したか | ☐ | 定款で確認 |
| 種類株式の有無を確認したか | ☐ | 種類ごとの内容 |
| 議決権制限株式の有無を確認したか | ☐ | 議案ごとの行使可否 |
| 相互保有株式・グループ会社株主の有無を確認したか | ☐ | 4分の1以上の保有関係 |
| 基準日を確認したか | ☐ | 基準日時点の名簿 |
| 名義書換未了の譲渡を確認したか | ☐ | 契約と名義書換は別 |
| 定款の決議要件を確認したか | ☐ | 加重・調整の有無 |
| 議事録案の出席議決権数と整合しているか | ☐ | 数字の根拠を照合 |
結論は、会社の種類、定款や株式取扱規程、株券発行会社か、種類株式・議決権制限株式・単元株式制度の有無、資本関係などで変わります。個別案件では、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・登記情報を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。なお本シリーズは主に非上場会社・子会社・中小企業の実務を想定し、相続対応は扱いません。
まとめ
次回(第7話)は、株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるかを整理します。
このシリーズで扱うテーマ(全15話)
| 話数 | 記事タイトル | 主なテーマ |
|---|---|---|
| 第1話 | 株主名簿とは何か|登記簿を見ても株主が分からない理由 | 株主名簿の基礎・登記簿との違い |
| 第2話 | 株主名簿の記載事項とは|氏名・住所・株式数・取得日をどう管理するか | 記載事項の管理実務 |
| 第3話 | 株主名簿が古い会社はどう整備するか|過去の譲渡・増資・自己株式を確認する手順 | 名簿の再整備 |
| 第4話 | 株主名簿と役員選任|誰の議決権で取締役・監査役を選ぶのか | 役員選任と議決権 |
| 第5話 | 株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係 | 招集通知と基準日 |
| 第6話 | 議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方(本記事) | 議決権数の確認 |
| 第7話 | 株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか | 名義書換と対抗要件 |
| 第8話 | 譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理 | 譲渡制限株式 |
| 第9話 | 株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務 | 書換請求への対応 |
| 第10話 | 株主名簿記載事項証明書とは|株主から証明書を求められた場合の対応 | 記載事項証明書 |
| 第11話 | 借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か | 株式質権の基礎 |
| 第12話 | 株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係 | 質権と議決権・配当 |
| 第13話 | 登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務 | 質権者への通知・配当 |
| 第14話 | 株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応 | 閲覧・謄写請求 |
| 第15話 | 株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと | 年次チェックリスト |
◀ 前回(第5話):株主総会の招集通知と基準日の関係を確認したい方は、第5話「株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係」もあわせてご確認ください。
▶ 次回(第7話):次回は、株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるかを整理します。
第7話:株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか
株主総会・役員変更・取締役会議事録などの会社法実務については、Legal GPT のコーポレート法務関連記事もあわせてご確認ください。
参考情報・参照先
本記事は、以下の一次情報(公的機関の法令データベース)を確認したうえで作成しています。条文の正確な内容・最新の改正状況は、必ず以下のリンクからご確認ください。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応にあたっては、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・登記情報などを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
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