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「非上場会社の株式を譲渡したので、すぐに株主名簿を書き換えてよいのでしょうか」——この問いに、すぐ「はい」と答えてはいけない場合があります。

非上場会社では、株式に譲渡制限が付いていることが多くあります。譲渡制限株式では、株式譲渡契約だけでなく、会社の承認手続を確認する必要があります。承認決議を確認しないまま株主名簿を書き換えると、後で株主総会・議決権・配当・役員選任に影響するおそれがあります。

この第8話では、承認決議と名義書換の順番を整理します。名義書換をしない場合の影響は第7話「株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか」をご覧ください。

実務メモ
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法務実務で効くのは、知識そのものよりも"再現できる型"です。記事で読んだ確認観点・依頼文・回答メモ・マスキングを次の案件でそのまま引き出せる形に残しておくと、判断と説明の質が一段安定します。
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1. 譲渡制限株式とは何か

譲渡制限株式とは、株式を譲渡によって取得するには会社の承認を要する旨の定款の定めがある株式です。会社法では、その発行する全部または一部の株式について譲渡制限を設けていない会社を「公開会社」と定義しています(会社法2条5号)。逆に言えば、発行するすべての株式に譲渡制限が付いている会社は、公開会社でない会社(非公開会社)です。

「非上場会社=必ず譲渡制限株式」ではありません

実務上、上場していない会社の多くは譲渡制限を付けていますが、非上場=必ず譲渡制限とは限りません。まずは定款と登記事項証明書で、自社株式に譲渡制限の定めがあるかを確認してください。株式の譲渡制限は、定款に定められ、登記で公示されます。

会社法は株式の譲渡を自由にできることを原則としていますが(会社法127条)、譲渡制限株式は、その例外として、会社の承認を要する仕組みになっています。

2. 譲渡制限株式では何を確認するのか

譲渡制限株式の名義書換を受ける前に確認すべき資料を整理します。

表1:譲渡制限株式で確認する資料
確認資料確認する内容注意点
定款譲渡制限の定めの有無、承認機関最新の現行定款か確認
登記事項証明書譲渡制限に関する登記定款と整合しているか
株式譲渡承認請求書譲渡しようとする株式・当事者記載事項を確認(後述)
承認決議の議事録承認機関での承認の有無承認機関・決議日を確認
承認通知請求者への決定内容の通知通知日を記録
名義書換請求書名簿更新の請求承認を前提にしているか
株券(株券発行会社の場合)株券の交付・呈示株券発行会社か要確認

3. 株式譲渡契約と承認手続は別の問題

譲渡人と譲受人の間で株式譲渡契約を締結しても、それは当事者間の合意にすぎず、会社の承認手続とは別に確認する必要があります。譲渡制限株式では、承認決議を確認したうえで名義書換に進みます。

表2:株式譲渡契約・承認請求・名義書換の違い
手続誰が行うか目的株主名簿への影響
株式譲渡契約譲渡人・譲受人当事者間で株式譲渡を合意これだけでは名簿は変わらない
譲渡承認請求株主または株式取得者会社に承認の可否を求める承認の前提手続
承認決議・通知承認機関(株主総会/取締役会等)譲渡を承認するか決定・通知名義書換の前提
名義書換請求株式取得者(原則、共同請求)名簿の記載・記録を求める名簿更新の直接の根拠
承認のない譲渡の効力

会社の承認がない譲渡も、譲渡当事者間では有効と解されていますが、会社に対してその譲渡を主張できない(会社との関係で株主として扱われない)という形で問題になります。断定的に単純化はできない論点ですので、会社との関係で慎重に整理してください。

4. 譲渡承認請求は誰が行うのか

譲渡承認の請求は、誰が行うかによって会社法上の根拠が分かれます。

表3:譲渡承認請求の請求者と記載事項
請求者会社法上の根拠明らかにすべき事項(会社法138条)注意点
株主(譲渡しようとする人)会社法136条譲渡する株式の数/取得する者の氏名・名称/不承認時に買取りを請求するときはその旨譲渡前に会社へ請求
株式取得者(譲り受けた人)会社法137条取得した株式の数/取得者の氏名・名称/不承認時に買取りを請求するときはその旨原則、名簿上の株主等と共同して請求

株式取得者から承認請求をする場合は、原則として、その株式の株主として株主名簿に記載・記録された者またはその一般承継人と共同して請求する必要があります(会社法137条2項)。例外(共同が不要な場合)は会社法施行規則に定めがあるため、必要に応じて確認してください。詳細な申請書式は、名義書換請求とあわせて第9話で扱います。

5. 承認決議は誰が行うのか

譲渡を承認するか否かの決定は、原則として株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によります。

会社法第139条第1項(譲渡等の承認の決定等)
株式会社が第136条又は第137条第1項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。 ※ 正確な条文は記事末尾の e-Gov 法令検索でご確認ください。

ここで重要なのが、「ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない」という点です。取締役会設置会社でも定款で承認機関を株主総会としていたり、代表取締役などに承認権限を委ねていたりする場合があります。承認機関を誤ると、名義書換の前提に疑義が出るおそれがあるため、必ず定款を確認してください。

表4:承認機関の確認ポイント
会社の類型原則的な承認機関定款確認のポイント注意点
取締役会設置会社取締役会定款で株主総会等に変更していないか定款の別段の定めが優先
取締役会非設置会社株主総会定款で別の機関を定めていないか機関設計を登記で確認
定款に別段の定めがある場合定款で定めた機関承認権限の所在・基準権限委任は無制限ではない

6. 承認通知と期限管理(みなし承認に注意)

会社は、承認するか否かを決定したら、その決定の内容を請求者に通知しなければなりません(会社法139条2項)。ここで特に注意したいのが、みなし承認です。

みなし承認(会社法145条1号)に注意

会社が、譲渡承認請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に、承認するか否かの決定の通知(会社法139条2項の通知)をしなかった場合、承認をしたものとみなされます(会社法145条1号)。つまり、不承認にするつもりでも、通知が遅れると承認扱いになってしまうおそれがあります。なお、この期間は請求者と会社の合意で別途定めることもできます。正確な要件は必ずe-Govの条文でご確認ください。

なお、会社が承認しない場合には、会社または指定買取人による買取りなど、別途の会社法上の手続が問題になります(会社法140条以下)。本記事ではその詳細には立ち入りません。株主名簿管理担当者としては、請求受付日・承認決議日・通知日・名義書換日を分けて管理することが重要です。

7. 承認決議と名義書換の順番

譲渡制限株式の原則的な流れは、次のとおりです。承認前に名義書換を行わないことがポイントです。

1. 譲渡制限の確認 定款・登記で譲渡制限の有無を確認
2. 承認請求 株主または株式取得者から承認請求
3. 承認決議・通知 株主総会・取締役会等で承認し、通知を残す
4. 名義書換・株主名簿更新 請求書と根拠資料を確認して更新
表5:承認決議から名義書換までの流れ
手順確認資料株主名簿管理上の注意点
① 株式譲渡契約・譲渡予定の合意株式譲渡契約書当事者間の合意。名簿はまだ変えない
② 譲渡承認請求譲渡承認請求書請求者・記載事項を確認(138条)
③ 承認機関による承認決議承認決議の議事録承認機関を定款で確認(139条)
④ 承認通知承認通知通知日を記録(みなし承認に注意)
⑤ 名義書換請求名義書換請求書承認を前提に受領(第9話で詳述)
⑥ 株主名簿更新株主名簿新株主・株式数・取得日を記載
⑦ 議決権数・通知先・配当先へ反映株主名簿、基準日関係事務へ反映

名義書換請求の具体的な受付実務(請求者・添付書類・社内確認)は、第9話「株主名簿書換請求を受けたらどうするか」で詳しく扱います。

8. 承認前に株主名簿を書き換えると何が危ないか

表6:承認前に名義書換した場合のリスク
リスク起きやすい場面防止策
会社として譲渡を承認したか不明になる承認決議の確認漏れ承認議事録を確認してから更新
本来の株主への招集通知・議決権行使が問題になる名簿が実態と食い違う承認・名義書換の順番を守る
役員選任や決議の前提に影響する株主・議決権数の誤認名簿・議事録の整合を確認
配当先が問題になる配当基準日との関係基準日時点の名簿で確定
譲渡人・譲受人・会社の間で争いになる承認なき譲渡の処理根拠資料を残して慎重に対応
更新履歴の信用性が下がる根拠なき書換え請求・承認・通知の記録を保存

9. 株券発行会社の場合の注意点

株券発行会社では、株式譲渡に株券の交付が関わります(株券の交付が効力発生要件。会社法128条)。譲渡承認請求や名義書換請求の確認資料も、株券の呈示など、株券不発行会社とは変わる場合があります。

自社が株券発行会社かどうかは、定款・登記・過去の株券発行状況で確認します。
古い非上場会社では、株券発行会社のままになっている場合があります。

詳細に踏み込みすぎず、「まず株券発行会社かどうかを確認する」という点を押さえてください。株券発行会社の論点は第7話でも整理しています。

10. 譲渡制限株式の名義書換でよくあるミス

表7:譲渡制限株式の名義書換でよくあるミス
ミスなぜ危ないか正しい確認方法
定款を確認せず譲渡制限の有無を判断承認手続の要否を誤る現行定款で譲渡制限を確認
登記情報だけで十分だと思い定款を見ない承認機関の別段の定めを見落とす登記+定款をセットで確認
株式譲渡契約だけで名義書換する承認の有無が不明になる承認決議・通知を確認
承認機関を間違える名義書換の前提に疑義定款で承認機関を確認(139条)
承認決議の議事録がない承認の根拠が残らない議事録を作成・保存
承認通知を残していないみなし承認等の判断ができない通知日を記録(145条)
請求受付日・承認日・通知日・名義書換日を混同期限管理・取得日を誤る日付を分けて管理
承認しない場合の手続を軽く見る買取手続等の見落とし140条以下を確認し専門家に相談
株券発行会社かどうかを確認しない確認資料・効力の扱いを誤る定款・登記で確認

11. 株主名簿管理担当者の確認チェックリスト

表8:株主名簿管理担当者の確認チェックリスト
確認項目完了欄注意点
定款で譲渡制限の有無を確認したか非上場=必ず譲渡制限ではない
登記事項証明書と定款が整合しているか両方を突合
承認機関を確認したか定款の別段の定めに注意
株式譲渡承認請求書を確認したか記載事項(138条)
請求者が誰か確認したか136条/137条
承認決議の議事録を確認したか承認機関・決議日
承認通知を確認したか通知日・みなし承認
名義書換請求書を確認したか承認を前提にしているか
株券発行会社かどうか確認したか株券の呈示・交付
基準日・株主総会・配当への影響を確認したか関係事務へ反映
更新履歴と根拠資料を保存したか請求・承認・通知の記録
個別案件では一次資料の確認を

結論は、会社の種類、定款や株式取扱規程、取締役会設置会社か、株券発行会社か、種類株式の有無などで変わります。承認しない場合の買取り・指定買取人の手続や、みなし承認の正確な要件は、必ずe-Govの条文と定款を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。なお、株主名簿と登記申請時の「株主リスト」は別物です。本シリーズは主に非上場会社・子会社・中小企業の実務を想定し、相続対応は扱いません。

まとめ

譲渡制限株式では、株式譲渡契約だけで株主名簿を書き換えないようにします。
まず定款で、譲渡制限の有無と承認機関を確認します(非上場=必ず譲渡制限ではありません)。
譲渡承認請求 → 承認決議 → 承認通知 → 名義書換請求 → 株主名簿更新、の順番が重要です。
通知が遅れると承認したものとみなされる場合があります(会社法145条1号、原則2週間・定款で短縮可)。
承認前の名義書換は、議決権・招集通知・配当・役員選任に影響するおそれがあります。

次回(第9話)は、実際に株主名簿書換請求を受けた場合の、請求者・添付書類・社内確認の実務を整理します。

このシリーズで扱うテーマ(全15話)

表9:株主名簿管理で忘れがちな会社法実務15選
話数記事タイトル主なテーマ
第1話株主名簿とは何か|登記簿を見ても株主が分からない理由株主名簿の基礎・登記簿との違い
第2話株主名簿の記載事項とは|氏名・住所・株式数・取得日をどう管理するか記載事項の管理実務
第3話株主名簿が古い会社はどう整備するか|過去の譲渡・増資・自己株式を確認する手順名簿の再整備
第4話株主名簿と役員選任|誰の議決権で取締役・監査役を選ぶのか役員選任と議決権
第5話株主総会の招集通知は誰に送るのか|株主名簿と基準日の関係招集通知と基準日
第6話議決権数はどう確認するか|株主名簿・発行済株式数・自己株式の見方議決権数の確認
第7話株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか名義書換と対抗要件
第8話譲渡制限株式と株主名簿|承認決議と名義書換の順番を整理(本記事)譲渡制限株式
第9話株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務書換請求への対応
第10話株主名簿記載事項証明書とは|株主から証明書を求められた場合の対応記載事項証明書
第11話借入時に株式を担保にする場合の株主名簿|登録株式質権者とは何か株式質権の基礎
第12話株式質権を設定したら議決権・配当はどうなるか|株主と質権者の関係質権と議決権・配当
第13話登録株式質権者への通知・配当対応|株主名簿管理で忘れがちな担保実務質権者への通知・配当
第14話株主名簿の閲覧請求を受けたらどうするか|拒否できる場合と社内対応閲覧・謄写請求
第15話株主名簿管理チェックリスト|役員・法務・総務が毎年確認すべきこと年次チェックリスト

◀ 前回(第7話):株式譲渡後に株主名簿を書き換えない場合の影響を確認したい方は、第7話「株式譲渡後に株主名簿を書き換えないとどうなるか」もあわせてご確認ください。

▶ 次回(第9話):次回は、株主名簿書換請求を受けた場合の請求者・添付書類・社内確認の実務を整理します。
第9話:株主名簿書換請求を受けたらどうするか|請求者・添付書類・社内確認の実務

株主総会・役員変更・取締役会議事録などの会社法実務については、Legal GPT のコーポレート法務関連記事もあわせてご確認ください。

参考情報・参照先

本記事は、以下の一次情報(公的機関の法令データベース)を確認したうえで作成しています。条文の正確な内容・最新の改正状況は、必ず以下のリンクからご確認ください。

e-Gov 法令検索「会社法」(参照条文:第2条5号 公開会社の定義/第107条 株式の内容についての特別の定め/第108条 異なる種類の株式/第121条 株主名簿/第127条 株式の譲渡/第128条 株券発行会社の株式の譲渡/第130条 株式の譲渡の対抗要件/第133条 株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録/第134条 株主名簿記載事項の記載又は記録の請求/第136条 株主からの承認の請求/第137条 株式取得者からの承認の請求/第138条 譲渡等承認請求の方法/第139条 譲渡等の承認の決定等/第140条以下 買取り・指定買取人/第145条 株式会社が承認をしたとみなされる場合)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
e-Gov 法令検索「会社法施行規則」(参照規定:第22条 株主名簿記載事項の記載等の請求、第24条ほか、譲渡承認請求・名義書換請求に関する規定)
https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的な対応にあたっては、定款・株式取扱規程・過去の議事録・株主総会資料・株主名簿・株式譲渡契約書・譲渡承認資料・登記情報などを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

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法務記事で理解した内容は、チェックリスト・文例・記録・検索・ツール化まで落とし込まないと、次の案件で再利用しにくいまま終わってしまいます。下の道具は、今日の業務にすぐ差し込める順に並べています。
01
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