社員への注意・指導はどう行う?会社が残すべき記録と進め方
問題社員対応の実務
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
社員への注意・指導はどう行う?
会社が残すべき記録と進め方
法令・情報基準日:2026年9月1日
「口頭では何度も注意しています」
「本人は聞いていないと言っています」
「上司はかなり強く注意したそうですが、記録がありません」
「次に同じことをしたら懲戒にしたいです」
法務がこうした相談を受けたとき、確認すべきなのは「何回注意したか」ではありません。回数は、それ自体では何も証明しないからです。
法務の結論
社員への注意・指導で会社が押さえるべきなのは、次の5点です。
- 何を問題として指摘したか(評価ではなく、具体的な行為)
- どの行動を、どう改善するよう求めたか(会社が期待する行動の明示)
- 本人がどう説明したか(本人の言い分も含めて記録する)
- 改善期限と確認方法をどう設定したか
- その一連の内容を記録として残したか
この5点が揃っていない「注意」は、後から会社が説明できません。逆にいえば、この5点さえ揃っていれば、注意が1回でも、会社の対応履歴として意味を持ちます。
第1話では、問題行動が確認された段階での初動を整理しました(第1話:問題社員への対応は何から始める?法務が確認する初動チェックリスト)。第2話では、その次の工程である注意・指導の進め方と記録を扱います。文書の種類(注意書・指導書・始末書・顛末書)の使い分けは第3話で扱いますので、本記事では「どう伝え、どう残すか」に絞ります。
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社員への注意・指導は何のために行うのか
最初に目的を確認します。注意・指導は、社員を罰するための手続でも、感情をぶつける場でも、退職を促すための布石でもありません。
図表1|注意・指導の5つの目的
| # | 目的 | 具体的に何をするか |
|---|---|---|
| 1 | 問題行動を具体的に示す | 「いつ・どこで・何が」起きたかを本人に伝える |
| 2 | 会社が求める行動を明確にする | 期待する行動を、実行可能な形で提示する |
| 3 | 改善の機会を与える | 期限と支援内容を設定し、改善できる条件を整える |
| 4 | 改善状況を確認する | 期限までの経過と結果を会社側が確認する |
| 5 | 会社の対応履歴を残す | 何を指摘し、何を求め、本人が何と答えたかを記録する |
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このうち5番目だけが目的化すると、指導は「処分の準備」に変質します。記録は重要ですが、それは1〜4を実際に行った結果として残るものです。指導していないのに記録だけがある状態は、実務上も法的にも意味がありません。
業務上の指導と、感情的な叱責は違う
法的根拠
厚生労働省のパワーハラスメント指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、職場のパワーハラスメントを、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、と定義したうえで、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しないとしています。
指針は「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の例として、業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、行為の回数や行為者の数などの態様・手段が社会通念上許容される範囲を超える言動を挙げています。判断にあたっては、言動の目的、労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮するとされ、さらに、労働者の行動が問題となる場合には、その内容・程度と、それに対する指導の態様等との相対的な関係性が重要な要素になると明記されています。
注意
法務にとっての含意は明確です。「本人に問題行動があったこと」と「指導の態様が相当だったこと」は、セットで説明できなければならないということです。問題行動の内容・程度を記録していなければ、指導が強かったことだけが残ります。
指針は「精神的な攻撃」に該当すると考えられる例として、人格を否定するような言動、業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責の繰り返し、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責の繰り返し、相手の能力を否定し罵倒する内容の電子メール等を本人を含む複数の労働者宛てに送信することを挙げています。
他方で、該当しないと考えられる例として、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること、および、その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすることが挙げられています。
つまり、必要な注意をためらう必要はありません。分かれ目は、強さそのものではなく、人格に向かっているか、行為に向かっているか、そして態様が行為の内容・程度に見合っているかです。
注意・指導の前に確認すること
第1話で扱った初動と重なる部分は、ここでは要点のみです。指導面談を設定する前に、最低限次を確認します。
| 確認事項 | 確認しないまま指導すると |
|---|---|
| 問題となる具体的事実(日時・場面・行為) | 「そんな事実はない」と言われた時点で面談が止まる |
| 就業規則・社内ルール上の根拠 | 会社の要求が個人的な好みなのかルールなのか区別できない |
| これまでの注意・指導履歴 | 初回なのか反復なのかを取り違え、伝え方を誤る |
| 本人側の事情(業務量、健康、ハラスメント被害等) | 会社側に原因がある問題を本人の責任として扱ってしまう |
| 他の社員との対応の均衡 | 特定社員だけを狙った指導と受け取られる |
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詳細は第1話の初動チェックリストを参照してください。
口頭注意と書面指導をどう使い分けるか
実務でよく質問を受けるのが、この点です。結論からいえば、回数で機械的に切り替えるルールは作らないことをおすすめします。事案の重大性によっては、初回から書面で行うべき場合があるからです。
図表2|口頭注意と書面指導の使い分け
| 観点 | 口頭注意が中心でよい場面 | 書面による指導を検討する場面 |
|---|---|---|
| 行為の重大性 | 軽微で、業務への影響が限定的 | 業務・顧客・他の社員への影響が大きい |
| 反復性 | 初回、または偶発的 | 同種の問題が繰り返されている |
| 改善の容易さ | その場で修正できる | 手順や習慣の変更を要する |
| 認識の一致 | 本人が事実を認め、理解している | 本人が事実や評価を争っている |
| 関与範囲 | 当該上司と本人の間で完結 | 複数部署・複数の関係者が関与している |
| 将来の判断 | 特に想定されない | 配置変更・処分等の検討につながり得る |
| 記録 | 簡潔な記録は残す(日時・指摘内容・本人の反応) | 指導書等の書面と面談記録の双方を残す |
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ここで強調したいのは、右の列だけでなく左の列にも「記録を残す」が入っている点です。「口頭注意だから記録は不要」という運用では、後になって、会社が実際に注意を行っていたことを客観的に説明・立証しにくくなります。口頭注意の記録は、日付・場面・指摘した行為・本人の反応を3〜5行で残せば足ります。
なお、書面の種類(注意書、指導書、始末書、顛末書)をどう選び、どう書き分けるかは第3話で扱います。本記事では「書面で指導する」という機能面のみを扱います。
指導面談はどう進めるか
指導面談は、進め方を標準化できます。次の7ステップを社内フォーマットにしてください。
図表3|指導面談の基本フロー
面談の目的を伝える
- 「今日は○○について事実を確認し、改善をお願いするための面談です」
- 処分の場ではないことを明示する
問題となる事実を具体的に伝える
- 日時、場面、行為、業務への影響を示す
- 「態度」「やる気」などの評価語は使わない
本人の認識・説明を確認する
- 遮らずに最後まで聞く
- 事実を争う場合は、どこをどう争うのかを確認する
- 体調、業務量、指示の分かりにくさ等の申告があれば記録する
会社が求める改善内容を伝える
- 行動レベルまで具体化する(次章参照)
- 必要な支援(手順書、担当変更、研修等)も併せて示す
期限・確認方法を決める
- いつまでに、何をもって、誰が確認するか
本人の理解を確認する
- 「何をすればよいと理解したか」を本人の言葉で確認する
- 質問・異議があれば、その場で記録する
面談記録を作成する
- 実務上は、記憶が新しいうちに、原則として面談当日中に作成する
- 必要に応じて本人へ内容を共有する
進め方のポイント
- 人格を評価しない。指摘の対象は行為であり、性格や資質ではありません
- 抽象的な注意で終えない。「しっかりやって」では、何をすれば改善なのかが決まりません
- 「普通は分かるだろう」と言わない。会社が明示していないルールは、指導の前提になりません
- 本人の説明を遮らない。反論を封じた面談は、記録としての価値も下がります
- その場で処分をほのめかさない。「次は懲戒だ」は、指導ではなく予告であり、後述のとおり記録にも残すべきではありません
- 面談の長さと人数に配慮する。長時間・多人数の詰問は、指導としての相当性を疑わせます
「改善してください」ではなく具体的な行動を伝える
指導が機能しない最大の原因は、求める内容が抽象的なままであることです。抽象的な要求は、本人が実行できないだけでなく、改善したかどうかを会社が判定できません。
もっと協調性を持ってください
会議で他の社員が発言中は遮らず、異論がある場合は発言者が話し終わってから述べてください
図表4|抽象的な指導→具体的な改善要求(NG/OK例)
| 場面 | NG(抽象的な評価) | OK(具体的な行動) |
|---|---|---|
| 会議での言動 | もっと協調性を持ってください | 会議で他の社員が発言中は遮らず、異論がある場合は発言者が話し終わってから述べてください |
| 出退勤 | 遅刻しないでください | 始業時刻9時までに業務を開始できる状態で出社してください。遅れる場合は8時30分までに上司へ電話で連絡してください |
| 進捗管理 | もっと仕事を頑張ってください | 毎週金曜17時までに進捗表を更新し、未完了案件について理由と翌週の対応予定を記載してください |
| 報告 | 報告が遅い | 顧客からクレームを受けた場合は、当日中に上司へメールで一次報告をしてください |
| 指示への対応 | 指示にきちんと従ってください | 指示内容に疑問がある場合は、着手前に上司へ確認してください。着手しないまま期限を経過させないでください |
| 品質 | ミスを減らしてください | 提出前に○○チェックリストの全項目を確認し、確認済みの記録を添付してください |
| 言葉づかい | 態度を改めてください | 他の社員に対し、「使えない」「無能」等、能力を否定する表現を用いないでください |
| 情報管理 | 情報の扱いに気をつけてください | 顧客データを個人所有の端末や個人アカウントへ送信しないでください。共有は社内の○○システム経由で行ってください |
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変換のコツは、「その行動をとったかどうかを、第三者が後から判定できるか」を基準にすることです。判定できない表現は、指導としても記録としても機能しません。
改善期限と確認方法を決める
「今後気をつけてください」で終わる面談は、改善の有無を評価できないまま時間だけが経過します。次の6項目をセットで決めてください。
| 項目 | 決める内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 改善対象 | どの行動か | 始業時刻までの出勤と、遅延時の事前連絡 |
| 期待水準 | どの状態なら改善といえるか | 始業時刻までに出勤。やむを得ない場合は8時30分までに上司へ連絡 |
| 期限 | いつまでか | 本日から1か月間(○月○日まで) |
| 途中確認 | 中間でいつ確認するか | 2週間後(○月○日)に上司と面談 |
| 確認方法 | 誰が何をもって確認するか | 上司が勤怠記録と連絡履歴で確認 |
| 支援 | 会社が提供するもの | 業務開始時刻の変更希望がある場合は人事へ相談可能である旨を案内 |
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期限の長さに一律の正解はありません。勤怠のように日々確認できるものは短く、業務手順の習得や成果の改善のように時間を要するものは長く設定するのが自然です。能力不足・勤務成績不良の類型における改善期間の設計は、第6話で詳しく扱います。
注意
注意していただきたいのは、改善期限を設定すれば自動的に処分が可能になるわけではないという点です。期限は「改善のための区切り」であり、「処分の予告」ではありません。期限経過後の対応は、その時点の事実に基づいて改めて判断します。
指導記録には何を書くか
指導記録は、社内の情報共有・引継ぎのための業務記録であり、同時に、後に対応の相当性を説明する資料にもなります。次の項目を標準フォーマットにしてください。
図表5|指導記録テンプレート(項目例)
| 項目 | 記載内容 | 記載上の注意 |
|---|---|---|
| 日時 | 面談日・開始/終了時刻 | 所要時間も残す(長時間化の防止にもなる) |
| 場所 | 会議室名等 | オンラインの場合はその旨 |
| 参加者 | 本人、上司、人事等 | 役職と氏名。同席者の役割も記載 |
| 面談の目的 | 事実確認/指導/改善状況の確認 | 冒頭で本人に伝えた内容と一致させる |
| 問題となった事実 | 日時・場面・行為・業務への影響 | 評価語を使わず、行為として記述する |
| 確認した資料 | 勤怠記録、メール、報告書等 | 資料名と該当日付を特定 |
| 会社から伝えた内容 | 指摘事項と、その根拠となる社内ルール | 就業規則等の条項を特定できるとよい |
| 本人の説明 | 本人が述べた内容 | 趣旨を変えず正確に記録する。重要な発言や争点となり得る表現は、必要に応じて本人の言葉をそのまま記載する |
| 会社が求めた改善事項 | 具体的な行動 | 前章のOK例の水準で記載 |
| 会社が提供する支援 | 手順書、担当調整、相談窓口の案内等 | 支援を行った事実も記録として残す |
| 改善期限 | 年月日 | 期間の長さを設定した理由も一言添える |
| 途中確認・次回確認日 | 年月日、確認方法 | 確認を実施したかどうかも後日追記する |
| 本人の質問・異議 | 本人が述べた疑問や反論 | 会社に不利な内容も省略しない |
| 面談後の対応 | 書面交付の有無、共有範囲 | 交付日と交付方法(手交・メール等) |
| 作成者・作成日 | 記録者名と作成日 | 当日中の作成を原則とする |
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これはあくまで項目例です。法定の書式ではありませんので、自社の運用に合わせて調整してください。
記録は「本人に読まれる可能性がある」前提で書く
法的根拠
指導記録には従業員本人に関する情報が含まれるため、個人情報に該当します。また、人事システムや従業員別ファイルなど、検索可能な形で体系的に管理され、会社が開示等の権限を有する場合には、個人情報保護法上の「保有個人データ」に該当し得ます。保有個人データに該当する場合、本人は同法33条に基づく開示請求を行うことができます。もっとも、開示することにより事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合には、その全部または一部を開示しないことができます(同条2項2号)。
この点について個人情報保護委員会は、雇用管理情報には人事評価や選考に係る情報など非開示とすることが想定される情報が含まれることを踏まえ、事業者は、あらかじめ労働組合等と必要に応じ協議したうえで、非開示とすることが想定される保有個人データの開示に関する事項を定め、従業者に周知するための措置を講ずることが望ましい、としています(同委員会「ガイドラインに関するQ&A」Q9-11)。
実務上の結論はシンプルです。開示・非開示の判断は別途あり得るとしても、記録は「本人に読まれても説明できる内容」で書く。これが最も安全で、かつ結果的に質の高い記録になります。
保存期間の考え方
労働基準法109条は、労働者名簿、賃金台帳のほか、「雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類」を保存対象としています。指導記録という名称が個別に列挙されているわけではありませんが、内容や当該案件における位置づけによっては、「その他労働関係に関する重要な書類」に該当する可能性があります。
同条の保存期間は法律上5年間ですが、労基法143条の経過措置により、当分の間は3年間です。もっとも、個別労働紛争への対応や人事管理上の必要性も踏まえ、会社として保存期間・保存場所・アクセス権限を定めておくことが重要です。上司個人のPCやメールボックスにのみ存在する状態は避けてください。
他方で、保存期間を必要以上に長期化しない視点も必要です。個人情報は利用目的の達成に必要な範囲内で保有すべきものであり、保存年限の設計は、紛争対応上の必要性と個人情報管理上の必要性の双方から検討してください。
指導記録に書いてはいけないこと
指導記録は、書き方を誤ると会社側の不利な証拠になります。特に次の表現は避けてください。
図表6|指導記録に書いてはいけない表現
| NG表現 | なぜ問題か | 書き換え例 |
|---|---|---|
| 性格が悪い/協調性が欠如している | 人格・資質の評価であり、行為の記録ではない | ○月○日の会議で、他の社員の発言中に3回発言を遮った |
| この会社に向いていない | 雇用の継続を否定する評価。指導の目的と矛盾する | 現在の担当業務で求められる○○が実施されていない |
| みんな迷惑している | 主語が不明で、事実として確認できない | 同じ部署の担当者2名から、○○について業務が滞ったとの報告があった |
| 辞めた方がいい/次は解雇 | 退職強要・処分の予告と受け取られる。指導記録に残す内容ではない | (記載しない。処分の検討は所定の手続で別途行う) |
| 精神的におかしい/病気だと思われる | 医学的根拠のない健康状態の断定。プライバシー侵害にもなり得る | 本人から「体調が優れない」との申告があったため、産業保健職への相談を案内した |
| わざとやっている/悪意がある | 証拠のない内心の推測 | 指示内容を確認したうえで着手しなかった旨、本人が説明した |
| 前から問題社員だった | ラベル貼り。具体的事実を示していない | ○年○月、○年○月にも同種の事象について注意を行っている(各記録番号を付記) |
| (本人の説明を記載しない) | 会社が一方的に決めつけたという評価につながる | 本人の説明を、趣旨を変えず正確に記載する(争点となり得る発言はそのままの表現で) |
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軸は3つです。
- 評価ではなく事実を書く
- 推測ではなく本人の説明を書く
- 将来の処分を先に決めない
3つ目は特に重要です。指導の段階で「次は懲戒」と書いてしまうと、その後の懲戒手続が、結論ありきで進められたという主張を招きます。懲戒の可否と相当性は、その時点の事実に基づいて改めて判断すべきものです(第7話)。
本人が指導内容に納得しない・署名しない場合
指導書への署名を拒否される、受領そのものを拒否される、という場面は実務でよく起きます。整理しておきます。
- 署名を拒否されたからといって、会社が注意・指導を行った事実が当然になくなるわけではありません。署名は、書面を確認・受領したことを示す資料の一つです。署名の有無だけに依存せず、面談記録、交付記録、同席者等によって経緯を残してください
- 無理に署名させない。強要すれば、署名の任意性が争われ、かえって資料としての価値が下がります
- 交付した事実を記録する。交付日時、交付方法(手交・メール送信・郵送)、交付者、同席者を残します
- 本人の異議内容を記録する。「何に納得していないのか」は、後の判断にとって重要な情報です。異議があること自体は問題ではありません
- 必要に応じて立会者を置く。人事担当者等が同席し、交付の事実を確認できる体制にします
- 受領拒否の場合は、その場で「受領を拒否された」旨を記録し、メールや郵送等、自社の運用と事案に応じた方法で改めて送付したうえで、送付日時・方法を記録する方法が考えられます
いずれにせよ、署名・押印の法的効力を過大評価しないことです。会社が説明できる材料は、署名欄ではなく、記録の内容そのものにあります。
注意・指導を繰り返しても改善しない場合
ここで、機械的な回数基準を作りたくなりますが、避けてください。「3回指導したら懲戒」「注意を5回すれば解雇できる」といった基準に法的根拠はありません。
法的根拠
懲戒については、労働契約法15条が、懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効とすると定めています。解雇についても同法16条が同様の枠組みを置いています。いずれも総合判断であり、回数は考慮要素の一つにすぎません。
改善が見られない場合、次に進む前に確認するのは以下です。
| 確認事項 | 確認の視点 |
|---|---|
| 事実の再確認 | 改善がないという評価の根拠は、客観的に確認できるか |
| 指導内容の明確性 | 会社が求めた行動は、実行可能な具体性があったか |
| 本人の認識 | 本人は何を求められていると理解していたか |
| 改善可能性 | 能力・健康・環境の面で、改善が可能な状態だったか |
| 会社側の支援 | 手順の提示、担当調整、研修等を行ったか |
| 反復性 | 同種の行為か、別種の行為か。期間と頻度は |
| 就業規則 | 該当し得る服務規律・懲戒事由は何か |
| 過去対応 | 同種事案で、他の社員にどう対応してきたか |
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そのうえで、事案に応じて、書面による指導、改善計画の設定、配置・業務の調整、(必要な場合には)懲戒の検討へ進みます。順番は固定ではありません。行為の重大性が高い事案では、指導を重ねる前に懲戒を検討すべき場合もあります。
なお、後に懲戒を検討する場合、その有効性は原則として処分時に会社が認識していた事由との関係で判断されます。日々の指導記録は、その「認識していた事由」を具体的に示す資料になります。この点は第1話で扱いました。
会社として注意・指導ルールをどう整備するか
ここからがLegalGPTらしい部分です。個々の面談をうまくやることよりも、現場上司ごとにやり方が違う状態をなくすことのほうが、会社全体としては効果があります。
図表7|会社として整備する注意・指導ルール(9項目)
| # | 整備項目 | 決めておく内容 | 主管 |
|---|---|---|---|
| 1 | 相談受付ルート | 現場が問題行動を認識した際の報告先と報告様式 | 人事 |
| 2 | 口頭注意・書面指導の使い分け基準 | 判断要素(重大性・反復性・争いの有無等)と相談先。回数基準は設けない | 法務・人事 |
| 3 | 面談記録フォーマット | 図表5の項目を反映した統一様式 | 人事 |
| 4 | 指導書の作成・承認ルール | 誰が起案し、誰が確認・承認するか | 人事・法務 |
| 5 | 本人への交付方法 | 手交・メール等の方法と、交付事実の記録方法 | 人事 |
| 6 | 記録の保存 | 保存場所(人事システム等)、保存年限、アクセス権限 | 人事・情報システム |
| 7 | 役割分担 | 現場=事実把握と日常指導/人事=手続運営と記録管理/法務=法的評価と手続設計 | 全社 |
| 8 | エスカレーション基準 | 法務・人事へ必ず相談する場面(争いがある、健康問題、ハラスメント申告、処分検討等) | 法務 |
| 9 | 定期的な案件レビュー | 進行中案件の棚卸し(改善期限の到来、確認の実施状況、次の判断) | 人事・法務 |
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とくに2番と8番は、放置すると属人運用になります。「厳しい上司の部署だけ書面が多い」「別の部署では重大な事案でも記録がない」という状態は、後に取扱いの不均衡として問題になります。
会社として整備する
指導記録と人事評価は切り分けてください。 注意・指導記録は、問題行動と改善経過を記録するためのものであり、人事評価票の代替ではありません。人事評価制度と連動させる場合も、それぞれの目的・評価期間・決裁プロセスを区別して運用します(6番の保存ルールを設計する際に、保存場所とアクセス権限も分けて検討してください)。
管理職向けの研修も、抽象的なハラスメント研修ではなく、図表4のNG/OK変換と、図表5の記録フォーマットの使い方に絞ったほうが、実務上の効果が出ます。
社員への注意・指導チェックリスト
面談の前後で使えるよう、確認事項・担当・残す記録を一体にしました。
図表8|社員への注意・指導チェックリスト
| No | チェック項目 | 確認内容 | 担当 | 残す記録 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | □ 問題となる具体的事実を確認した | 日時・場面・行為・業務への影響 | 現場上司 | 事実整理メモ |
| 2 | □ 就業規則・社内ルールを確認した | 該当する服務規律・業務ルール | 法務・人事 | 規程照合メモ |
| 3 | □ 過去の指導履歴を確認した | 同種事象の有無、前回の指導内容と期限 | 人事 | 指導履歴一覧 |
| 4 | □ 本人側の事情を把握した | 業務量、健康、指示の明確性、ハラスメント被害の有無 | 人事 | 事前確認メモ |
| 5 | □ 他の社員との均衡を確認した | 同種事案での過去の対応 | 人事 | 前例メモ |
| 6 | □ 面談の目的を決めた | 事実確認/指導/改善状況の確認のいずれか | 人事・現場 | 面談計画 |
| 7 | □ 口頭か書面かを判断した | 重大性・反復性・争いの有無 | 法務・人事 | 判断理由メモ |
| 8 | □ 参加者と進行を決めた | 誰が同席し、誰が記録するか | 人事 | 面談計画 |
| 9 | □ 事実を具体的に伝えた | 評価語を使わず行為として伝えたか | 現場上司 | 面談記録 |
| 10 | □ 本人の説明を確認した | 遮らずに聞き、本人の説明の趣旨を変えず正確に記録したか | 人事 | 面談記録 |
| 11 | □ 改善すべき行動を具体的に伝えた | 第三者が実施の有無を判定できる水準か | 現場上司 | 面談記録・指導書 |
| 12 | □ 会社が行う支援を伝えた | 手順書、担当調整、相談窓口等 | 現場・人事 | 面談記録 |
| 13 | □ 改善期限を設定した | 期限と、その長さを設定した理由 | 現場・人事 | 面談記録・指導書 |
| 14 | □ 確認方法・次回確認日を決めた | 誰が、何をもって確認するか | 現場上司 | 面談記録 |
| 15 | □ 本人の理解を確認した | 本人の言葉で内容を確認したか | 現場上司 | 面談記録 |
| 16 | □ 本人の質問・異議を記録した | 会社に不利な内容も省略していないか | 人事 | 面談記録 |
| 17 | □ 記録を当日中に作成した | 作成者・作成日を明記 | 記録担当 | 面談記録 |
| 18 | □ 書面を交付し、交付事実を記録した | 交付日時・方法・同席者。拒否時はその旨 | 人事 | 交付記録 |
| 19 | □ 記録を所定の場所に保存した | 保存場所・アクセス権限 | 人事 | 保存台帳 |
| 20 | □ 必要なエスカレーションを判断した | 法務・産業保健職・通報窓口への連携要否 | 人事・法務 | 連携記録 |
| 21 | □ 期限到来時の確認を実施した | 改善の有無と、その根拠資料 | 現場・人事 | 確認記録 |
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注意・指導は「回数」ではなく「内容と記録」で管理する
社員への注意・指導について、会社が押さえるべき点をまとめます。
- 何回注意したかだけでは足りない。回数は考慮要素の一つにすぎない
- 何を指摘し、何を改善するよう求めたかが重要。行為レベルまで具体化する
- 本人の説明も記録する。会社に不利な内容を省略しない
- 改善期限と確認方法を決める。ただし、期限の設定が処分を自動的に正当化するわけではない
- 指導履歴を会社として継続管理する。上司個人の手元に置かない
- 人格評価ではなく具体的行為で記録する。記録は本人に読まれる前提で書く
- 現場上司ごとの属人運用を避ける。様式・基準・保存ルールを会社として整える
そして最も大切な点として、注意・指導の第一の目的は改善であり、記録はその過程で残るものです。記録を「処分のための証拠集め」と位置づけた瞬間に、指導は機能しなくなります。
次回は、指導を書面で行う際に必ず出てくる文書の使い分けを扱います。注意書、指導書、始末書、顛末書は、それぞれ性質も、本人に求めるものも異なります。
次に読む 第3話 注意書・指導書・始末書・顛末書の違い|会社でどう使い分ける? 詳しく見るシリーズ:問題社員対応の実務|注意・指導から懲戒・退職・解雇まで会社が整えること(全10話)
問題社員対応の実務(全10話)
注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務
指導と記録
類型別の対応
参考資料・一次資料
法令(e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/ )
- 労働契約法(平成19年法律第128号)5条、15条、16条
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)89条、109条、143条/労働基準法施行規則56条(記録の保存の起算日)
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)30条の2
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)33条
行政資料
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001595731.pdf - 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q9-11(雇用管理情報の開示請求への対応)
https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q9-11/ - 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/APPI_QA/
裁判例(裁判所ウェブサイト「裁判例検索」 https://www.courts.go.jp/ )
- 山口観光事件・最判平成8年9月26日(懲戒の有効性は処分時に認識していた非違行為との関係で判断される)
注記
本記事は2026年9月1日時点の法令・公表資料に基づいています。パワーハラスメント措置義務の根拠条文は、2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法により、30条の2から31条へ移ります(同日適用の指針改正を含む)。個別の事案については、自社の就業規則・規程、事実関係および最新の法令を確認のうえ、必要に応じて弁護士等の助言を得てください。
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