2026年施行・カスハラ義務化対応シリーズ

第5話 / 全10話

就業規則・社内規程はどこを直すか|カスハラ義務化対応の改定ポイント

2026年10月1日 施行 法令・制度基準日:2026年7月14日

この記事でわかること

改定要否の判断、文書別の役割分担、12の規定例、労使手続(意見聴取・届出・周知)、不利益取扱いの境界、施行前チェックリスト

カスタマーハラスメント(カスハラ)義務化に備えるとき、必ず出てくる質問が「就業規則を変えなければならないのか」です。

結論から言うと、すべての企業に一律で「就業規則にカスハラ専用条項を新設する義務」が課されているわけではありません。厚生労働省の施行通達も、信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定等の既存の規定に基づいて必要な措置を講ずることが可能な場合には、必ずしも就業規則等を改正してカスハラに係る規定を新たに設ける必要はない、としています。

一方で、これを「就業規則は一切いじらなくてよい」と読むのは誤りです。指針は、相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨を定め、労働者に周知・啓発することを義務としています。この「定める」場所として就業規則が使われることは多く、また、既存の懲戒規定や服務規律が自社の実態に合っているかの点検は避けられません。

本記事は、制度全体やカスハラの3要素の説明は繰り返しません(第1話第2話を参照)。「どの事項を、どの文書に書くか」「就業規則の改定が必要か否か」「自社の労働者が加害側になった場合の服務規律・懲戒」「被害者保護と不利益取扱いの境界」「派遣労働者」「意見聴取・届出・周知の手続」に絞り、12種類の規定例、文書別の役割分担、施行前チェックリストまで具体化します。

本記事の法令・制度基準日:2026年7月14日施行日:2026年10月1日
指針・通達・行政資料は今後変更され得ます。実際の対応にあたっては厚生労働省および都道府県労働局の最新情報をご確認ください。本記事の規定例は一般的な参考例であり、そのまま採用すればすべての企業で適法・有効となることを保証するものではありません。

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最初に結論:就業規則対応で押さえる7点

  1. カスハラ専用条項の新設は、全企業一律の義務ではない/既存の懲戒・服務規律で対応可能なら新設は必須でない
  2. ただし「不利益取扱いをしない旨」の定めと周知は義務/就業規則以外(社内報・社内ホームページ等)でも可
  3. まず既存規程を点検する/就業規則、ハラスメント防止規程、相談窓口規程、顧客対応マニュアルを棚卸しする
  4. 顧客(社外)への懲戒はあり得ない/就業規則の懲戒は自社の労働者が加害者の場合の話
  5. 被害者に一律の報告義務を課さない/一般従業員は「相談・報告できる」、管理職に認識時の報告・安全確保義務
  6. 就業規則を変えるなら労基法の手続が必要/意見聴取(第90条)・届出(第89条)・周知(第106条)。労働契約上の効力は労契法第7条・第10条の問題
  7. 保護条項は有利・中立と評価されやすいが、義務・懲戒の追加は個別に検討/不利益変更の視点を持つ

「就業規則を直せば措置義務を果たした」わけではありません。就業規則の改定は、10項目の措置のうち一部(主に不利益取扱いの禁止、自社労働者が加害者の場合の懲戒)を下支えするものにすぎません。方針、相談窓口、事実確認、被害者保護、再発防止といった他の措置は、別途整備が必要です(第3話)。

就業規則の改定は必要か|切り分けの考え方

指針・通達が求めていること/求めていないこと

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論点指針・通達の立場就業規則への影響
相談等を理由とする不利益取扱いの禁止 定めて周知・啓発することが義務(指針4⑸ロ)。ただし、定める場所は就業規則その他の服務規律等を定めた文書のほか、社内報・パンフレット・社内ホームページ等でもよい 就業規則に定めても、別文書で定めてもよい。いずれかで必ず定める
自社の労働者が他社の労働者にカスハラを行った場合の懲戒 事実が確認できた場合、就業規則その他の服務規律等を定めた文書の規定等に基づき、行為者に必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましい(指針5⑵)。既存の懲戒規定で対応可能なら、カスハラに係る規定を新たに設ける必要はない(施行通達) 既存の懲戒規定で足りる場合は新設不要。足りない場合は新設・改定を検討
カスハラの内容・対処内容の周知 管理監督者を含む労働者への周知が義務(指針4⑴ロ)。ただし、周知の方法は就業規則に限らず、マニュアル・研修等でよい 就業規則に書く必要はない。マニュアル等で可
相談窓口の設置・周知 義務(指針4⑵)。ただし、規程の形式は問わない 就業規則に書いても、相談窓口規程・社内通知でもよい
顧客等(社外の行為者)への制裁 改正法は事業主に新たな権利を与える制度ではない(Q&A)。就業規則で顧客を規律することはできない 就業規則の対象外。出入禁止等は施設管理権・契約・利用規約等の別の根拠で検討(第8話

フローチャート:改定が必要かを判断する

Q1 相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨を、既存の文書(就業規則、ハラスメント防止規程、社内報、社内ホームページ等)のどこかで定め、労働者に周知しているか
いいえ定める必要がある。就業規則に定めるか、別文書に定めるかを選択(義務)
はい → Q2へ
Q2 自社の労働者が他社の労働者等にカスハラを行った場合に、既存の懲戒規定・服務規律で懲戒その他の措置を講じられるか
講じられるカスハラ独自の懲戒規定の新設は必須ではない(施行通達)。服務規律の表現を点検し、必要なら補強
講じにくい/不明確 → 服務規律・懲戒規定の改定を検討
Q3 カスハラ対応(一人で対応させない、対応の終了、被害者配慮等)を根拠づける社内規程・マニュアルはあるか
ある → 就業規則の改定は必須ではない。マニュアル等の整備で対応
ない → 就業規則本則ではなく、マニュアル・規程で整備するのが通常(第7話

つまり、多くの企業にとって最低限の義務は「不利益取扱いをしない旨の定めと周知」であり、これは就業規則に書いても別文書で対応してもよい、という整理になります。そのうえで、既存の懲戒・服務規律の点検を行い、自社の実態に合わなければ改定する、という順序で進めます。

点検すべき規程・文書の一覧

就業規則だけを見ていては不十分です。カスハラ対応に関係する文書を、横断的に棚卸ししてください。

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文書点検の観点典型的な過不足対応
就業規則(本則)服務規律、懲戒、安全配慮、相談・苦情処理の規定があるかハラスメントはパワハラ・セクハラのみを想定し、カスハラ(社外からの言動)への言及がない不利益取扱い禁止の定めを確認。服務規律・懲戒の点検
ハラスメント防止規程「職場のハラスメント」にカスハラが含まれるか。相談窓口、不利益取扱い禁止、プライバシー保護があるか行為者を「労働者」に限定しており、顧客等が想定されていないカスハラを対象に加えるか、カスハラ独立の規程を新設
相談窓口規程カスハラ相談を受ける窓口・経路・記録が定められているかパワハラ・セクハラ窓口のみで、カスハラの受付・現場報告ルートがないカスハラを受付対象に追加。即時報告ルートを明記
安全衛生管理規程心身の健康、産業保健スタッフとの連携、メンタル相談が定められているかカスハラ被害後のメンタルフォローが想定されていない被害者配慮・産業保健連携の観点を追記
顧客対応マニュアル初動、エスカレーション、対応の終了、記録が定められているか「お客様第一」の記述のみで、対応終了の基準がない現場対応基準を整備(第7話
個人情報・情報管理規程相談記録、録音・録画データの取扱いが定められているか録音・録画データの利用目的・保存・閲覧権限が未整備取扱いルールを追記
権限規程・職務権限表出入禁止、取引停止、契約解除、法的手続を誰が決定するか定められているか悪質事案でだれが最終判断するかが不明決裁権限を明確化(後述の役割分担表)
利用規約・約款・契約書顧客等に対するサービス利用条件、BtoBの取引停止・解除条項があるか迷惑行為時の利用停止・解除の根拠がない利用規約・契約条項を点検(第8話
派遣・業務委託関連の取決め派遣契約・覚書にカスハラ発生時の連絡・対応が定められているか派遣先での被害時の対応・連絡ルートがない契約・覚書に条項を追加

「職場におけるハラスメント」の定義に注意。既存のハラスメント防止規程の多くは、行為者を「事業主、上司、同僚等」に限定しています。この定義のままだと、顧客等(社外)からの言動であるカスハラが対象に入りません。規程を流用する場合は、行為者の範囲を確認してください。

どの事項を、どの文書に書くか|役割分担マトリクス

この記事の主題は、ここに集約されます。カスハラ対応に必要な事項は、1つの文書に押し込むものではなく、性質に応じて適切な文書に振り分けるものです。凡例:◎=主に定める/○=定めることが多い/△=任意・補助的/―=通常は定めない。

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事項就業規則ハラスメント防止規程相談窓口規程対応マニュアル約款・利用規約/契約書権限規程
基本方針(毅然対応・労働者保護)△(顧客向け掲示)
カスハラの定義(3要素)
該当し得る言動の例△(顧客向け)
不利益取扱いの禁止
相談窓口の設置・経路
プライバシー保護
現場の初動・一人で対応させない
顧客対応の終了・退店要請・通話終了
被害者への配慮措置
自社労働者が他社労働者へ行うカスハラの禁止○(服務規律)
懲戒(自社労働者が加害者の場合)△(本則を参照)
出入禁止・利用停止(顧客等に対する)○(現場手順)◎(決裁)
BtoB取引の停止・契約解除◎(決裁)
録音・録画データの取扱い△(顧客告知)

この表の要点は、「顧客に対する措置(出入禁止・利用停止・取引解除)は、就業規則ではなく、約款・利用規約・契約書・権限規程で扱う」という点です。就業規則は自社の労働者に対するルールであり、顧客等(社外)を規律できません。誰が最終決定するかは権限規程で、顧客との関係での根拠は約款・利用規約・契約書で押さえます。悪質事案の法的対応は第8話で扱います。

2つの整備方針|既存規程への追記か、独立規程の新設か

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観点方針A:既存のハラスメント防止規程に統合方針B:カスハラ対応規程を独立して新設
向いている企業既にパワハラ・セクハラ規程が整備されているカスハラ特有の対応(現場即応、悪質事案対処)を明確に切り出したい
メリット体系がシンプル。相談窓口を一体運用しやすいカスハラ固有の初動・エスカレーション・悪質事案対処を書き込みやすい
デメリット行為者が社外である点、現場即応が必要な点を書き分ける必要がある規程が増える。他規程との整合を取る手間
行為者の扱い「社内の行為者(パワハラ等)」と「社外の行為者(カスハラ)」を明確に区別して記載行為者は顧客等(社外)に限定して記載
懲戒との関係自社労働者の加害は既存の懲戒規定で処理顧客への懲戒はあり得ないため、懲戒条項は自社労働者の加害についてのみ(または既存規定を参照)
相談窓口統合窓口。ただし現場即時報告ルートを別途確保統合も分離も可。現場報告ルートを明記

どちらでも指針の要求は満たせます。重要なのは、①行為者が社外であるという性質を踏まえること、②相談等を理由とする不利益取扱いの禁止を必ずどこかに定めて周知すること、③現場が即座に報告・交代・対応終了できることが、規程またはマニュアルのどこかで担保されていることです。

規定例|カスハラ対応に関する12の条項

以下は一般的な参考例です。自社の規程体系、既存条項との整合、業種の実態に合わせて必ず調整し、必要に応じて専門家(弁護士・社会保険労務士)の確認を受けてください。各規定例には「この条文の狙い」「自社用に調整すべき点」「避けるべき書き方」を付します。

規定例1|目的条項

(目的)
第◯条 本規程は、顧客、取引先その他当社の事業に関係を有する者(以下「顧客等」という。)による、社会通念上許容される範囲を超えた言動であって、従業員の就業環境を害するもの(以下「カスタマーハラスメント」という。)を防止し、これに適切に対応することにより、従業員が安心して働くことのできる就業環境を確保することを目的とする。

  • この条文の狙い:規程の適用範囲と目的(就業環境の確保)を示す。行為者が「顧客等(社外)」であることを冒頭で明確にする。
  • 自社用に調整すべき点:「顧客等」の範囲に、自社の業態に即した対象(施設利用者、近隣住民、潜在顧客等)を反映する。
  • 避けるべき書き方:「従業員のクレーム対応能力の向上を目的とする」等、従業員側に問題があるかのような目的設定。

規定例2|会社の方針・正当な申入れとの区別

(会社の方針)
第◯条 当社は、カスタマーハラスメントに対して毅然とした態度で対応するとともに、これを受けた従業員を保護する。
2 顧客等からの意見、要望又は苦情のうち、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであり、カスタマーハラスメントには該当しない。当社は、正当な申入れには誠実に対応する。
3 当社は、障害のある顧客等から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮を行う。当該意思の表明自体は、カスタマーハラスメントには該当しない。

  • この条文の狙い:指針が義務として求める「毅然対応・労働者保護」を明記し、同時に正当な申入れ・合理的配慮を除外して、顧客対応の放棄を防ぐ。
  • 自社用に調整すべき点:合理的配慮の具体的な提供方法(筆談、時間確保等)は、マニュアルや別途の対応要領に委ねる。
  • 避けるべき書き方:「顧客の要求はすべて拒否できる」等、正当な申入れまで排除し得る表現。

規定例3|会社の対応(1名店舗の代替措置を含む)

(会社の対応)
第◯条 当社は、カスタマーハラスメント又はそのおそれのある事案が生じた場合、可能な限り従業員を一人で対応させず、管理監督者による引継ぎ、複数名による対応、本社又は本部への連絡、退店の要請、通話の終了その他事案に応じた安全確保の措置を講ずる。
2 従業員を一人で対応させないことが困難な状況においては、当社は、本社又は本部への報告、対応の終了、警察への通報その他の代替的な措置を講ずる。
3 当社は、犯罪に該当し得る言動その他緊急を要する場合には、従業員の安全を最優先とし、警察への通報その他の必要な措置を講ずる。
4 当社は、事案の内容及び状況に応じ、記録の作成並びに録音及び録画を行うことがある。この場合、個人情報の保護に関する法律その他の関係法令を遵守する。

  • この条文の狙い:現場が「一人で耐える」ことを避ける。1名店舗など複数対応が物理的に困難な場合の代替措置(第2項)を条文上に置き、「原則」だけで終わらせない。
  • 自社用に調整すべき点:本社・本部の連絡先、警備会社の有無、店舗形態に応じて代替措置を具体化する。
  • 避けるべき書き方:「必ず複数名で対応する」という実現不可能な断定。守れない規程は、かえって責任問題を招く。

規定例4|従業員の相談・報告(一律の報告義務を課さない構造)

(従業員の相談及び報告)
第◯条 従業員は、カスタマーハラスメント又はそのおそれのある言動を受けたときは、管理監督者又は相談窓口に相談し、又は報告することができる。
2 当社は、従業員が当該言動を受けた場合に、一人で対応を継続することを求めない。
3 管理監督者は、カスタマーハラスメント又はそのおそれのある事案を認識したときは、速やかに所定の部署へ報告し、必要な安全確保及び被害者保護の措置を講じなければならない。
4 カスタマーハラスメントに該当するか否かの判断が困難な場合であっても、第1項の相談又は報告を妨げない。

  • この条文の狙い:一般従業員には「相談・報告できる」権利とし、管理監督者に「報告・安全確保の義務」を課す。被害を受けて報告できなかった労働者が、服務規律違反として責められる構造を避ける。
  • 自社用に調整すべき点:「所定の部署」を自社の報告ルート(本部、人事、法務等)に置き換える。
  • 避けるべき書き方「従業員は速やかに報告しなければならない」と一般従業員に一律の報告義務を課すこと。被害者が沈黙したことを理由に不利益を課す余地を生む。義務は管理職側に置く。

規定例5|相談窓口

(相談窓口)
第◯条 当社は、カスタマーハラスメントに関する相談(苦情を含む。)に対応するため、相談窓口を設置する。相談窓口の担当者及び連絡方法は、別に定めて周知する。
2 相談窓口は、カスタマーハラスメントが現に生じている場合のほか、その発生のおそれがある場合及び該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に応じる。
3 相談窓口は、言動を直接受けた従業員のほか、これを認識した周囲の従業員からの相談にも応じる。
4 当社は、相談への対応に当たり、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずる。

  • この条文の狙い:指針が求める「広く相談に応じる」範囲(おそれ・微妙・周囲の労働者)を規程に落とす。
  • 自社用に調整すべき点:既存のハラスメント窓口と統合するか、外部委託するかを反映。担当者・連絡方法は別途定めて周知(詳細は第6話)。
  • 避けるべき書き方:「カスハラに該当する事案のみ受け付ける」という限定。該当性が微妙な段階の相談を締め出してしまう。

規定例6|事実関係の確認への協力(必要かつ相当な範囲に限定)

(事実関係の確認への協力)
第◯条 従業員は、当社がカスタマーハラスメントに関する事実関係を確認するため、業務上必要かつ相当な範囲で協力を求めた場合には、これに協力するものとする。
2 当社は、前項の協力を求めるに当たり、関係者の心身の状況、プライバシー及び二次被害の防止に配慮する。

  • この条文の狙い:事実確認への協力を求める根拠を置きつつ、「業務上必要かつ相当な範囲」に限定して、被害者・協力者への過度な負担を避ける。
  • 自社用に調整すべき点:協力の具体的内容(聴取、記録提出等)は運用に委ねる。
  • 避けるべき書き方:範囲を限定しない包括的な協力義務。被害者に繰り返しの聴取を強いる根拠になりかねない。

規定例7|被害者への配慮(不利益が生じないよう配慮)

(被害者への配慮)
第◯条 当社は、カスタマーハラスメントを受けた従業員に対し、事案の内容、本人の心身の状態及び意向を踏まえ、担当者の交代、行為者との引離し、勤務上の配慮、産業保健スタッフ等への相談その他必要な措置を講ずる。
2 前項の措置により、当該従業員の賃金、評価、雇用契約の更新その他の労働条件に不利益な影響が生じないよう配慮する。
3 一時的な業務変更等を行う場合は、その目的、期間、待遇への影響及び復帰の方法について、本人と協議する。

  • この条文の狙い:被害者配慮を規程化しつつ、配慮が不利益取扱いに転化しないための歯止め(第2項・第3項)を置く。後述の「保護と不利益取扱いの境界」に対応する中核条項。
  • 自社用に調整すべき点:産業保健体制(産業医、地域産業保健センター等)を自社の実態に合わせる。
  • 避けるべき書き方:「被害者を顧客対応から外す」とだけ定めること。本人の意向・協議・復帰方法がないと、不利益取扱いと受け取られる。

規定例8|自社労働者による他社労働者等へのカスハラ禁止(服務規律)

(服務規律)
第◯条 従業員は、取引先、顧客その他の他の事業主が雇用する労働者又は個人事業主等に対し、社会通念上許容される範囲を超えて、その就業環境を害する言動を行ってはならない。

  • この条文の狙い:指針6⑷・7が望ましい取組とする「自社の労働者が他社の労働者等に対してカスハラを行わない旨」を服務規律として明確化し、次の懲戒接続条項につなぐ。
  • 自社用に調整すべき点:既存の服務規律に一号を加える形が自然。既存条項(信用失墜行為等)で読める場合は、新設せず既存条項の活用でもよい。
  • 避けるべき書き方:「一切の苦情・要求を行ってはならない」等、正当な業務上の申入れまで禁じる過度に広い表現。

規定例9|懲戒規定への接続(申告のみで懲戒しない)

(懲戒の判断)
第◯条 従業員が、前条に違反し、取引先その他の他の事業主が雇用する労働者等に対して、社会通念上許容される範囲を超え、その就業環境を害する言動を行った場合には、当社は、事実関係、行為の目的、態様、反復性、結果その他の事情を確認した上で、就業規則第◯条に定める服務規律違反又は懲戒事由に該当するかを判断する。
2 相談又は申告がなされたことのみをもって、懲戒処分を行わない。

  • この条文の狙い:服務規律(規定例8)と既存の懲戒規定を接続する。申告の事実のみで懲戒しない(第2項)ことを明記し、事実確認・相当性を担保する。
  • 自社用に調整すべき点:「就業規則第◯条」に、既存の服務規律違反・懲戒事由の条番号を入れる。既存規定で足りるなら独立の懲戒事由を新設しない。
  • 避けるべき書き方:「カスハラを行った者は懲戒解雇とする」等、行為の軽重を問わず一律に重い処分を科す規定。相当性を欠き、懲戒権濫用の問題を生む。

規定例10|プライバシー保護・秘密保持(会社側の取扱担当者が主たる名宛人)

(プライバシーの保護及び秘密保持)
第◯条 当社は、カスタマーハラスメントに関する相談者等の情報が当該相談者等のプライバシーに属するものであることに鑑み、その保護のために必要な措置を講ずる。
2 前項の情報には、性的指向、ジェンダーアイデンティティその他の機微な個人情報を含む。
3 相談対応、事実確認又は措置の実施を職務として担当する者は、業務上必要な範囲を超えて、相談者、協力者その他の関係者に関する情報を第三者に開示してはならない。
4 前項は、法令に基づく申告若しくは報告、又は行政機関、弁護士、労働組合、医療機関その他正当な相談先への相談を妨げるものではない。

  • この条文の狙い:秘密保持義務の主たる名宛人を「会社側の取扱担当者」に限定する。相談者本人まで広く拘束しないことで、労働局・弁護士・医療機関等への相談を萎縮させない。
  • 自社用に調整すべき点:取扱担当者の範囲(窓口担当者、人事、法務等)を明確にする。
  • 避けるべき書き方「相談に関与した者は知り得た情報を漏らしてはならない」と一般的に定めること。相談者本人・協力者まで含み得て、外部への正当な相談を妨げる。第4項の例外を必ず置く。

規定例11|不利益取扱いの禁止(義務に対応する中核条項)

(不利益取扱いの禁止)
第◯条 当社は、従業員が次の各号のいずれかに該当することを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしない。
 一 カスタマーハラスメントに関し相談をしたこと。
 二 事実関係の確認その他の当社の雇用管理上の措置に協力したこと。
 三 都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め又は調停の申請を行ったこと。
 四 前号の調停に係る出頭の求めに応じたこと。

  • この条文の狙い就業規則対応の中核。指針が義務として求める「不利益取扱いをしない旨の定めと周知」に対応する。4つの保護行為(相談・協力・労働局への相談等・調停出頭)を漏らさない。
  • 自社用に調整すべき点:就業規則に置くか、ハラスメント防止規程に置くか、社内報・社内ホームページ等に記載するかを選ぶ。ただしいずれかで必ず定め、周知する。
  • 避けるべき書き方:保護行為を「相談したこと」だけに限定すること。協力・労働局への相談・調停出頭を落とすと、指針の要求を満たさない。

規定例12|派遣労働者の相談・保護/別規程・マニュアルへの委任

(派遣労働者に関する取扱い)
第◯条 当社は、当社において就業する派遣労働者について、労働者派遣に関する法令に基づき当社が講ずべきとされる範囲で、本規程に定める相談対応、事実関係の確認、被害者への配慮その他の措置に準じた取扱いを行う。
2 当社は、派遣労働者がカスタマーハラスメントに関し相談をしたこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等の不利益な取扱いを行わない。
3 当社は、前二項の実施に当たり、必要に応じて派遣元事業主と連携する。

(委任)
第◯条 本規程の実施に関し必要な事項、カスタマーハラスメントに該当し得る言動の例、現場における対応の手順その他の細目は、別に定めるマニュアル等による。

  • この条文の狙い:派遣労働者は派遣先である自社の就業規則の一般的な適用対象ではないため、「準じた取扱い」として別条を立てる。相談を理由とする派遣受入拒否の禁止を明記。具体例・手順はマニュアルに委任し、規程本文の頻繁な改定を避ける。
  • 自社用に調整すべき点:派遣元との連携方法(連絡ルート、情報共有)を派遣契約・覚書と整合させる。
  • 避けるべき書き方「当社の従業員(派遣社員を含む)」と一括りにすること。雇用関係が異なるため、「当社が雇用する労働者」と「当社で就業する派遣労働者」を区別する。

懲戒規定はどう扱うか|社外の行為者と社内の行為者を区別する

ここが最も誤解されるところです。就業規則の懲戒は、自社の労働者に対するものです。顧客等(社外の行為者)を懲戒することはできません。

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場面行為者就業規則の懲戒の可否対応の枠組み
場面1:自社の従業員が、顧客・取引先・他社の従業員等に対してカスハラを行った 自社の労働者 懲戒の対象となり得る 就業規則その他の服務規律等を定めた文書の規定に基づく。既存の懲戒規定で対応可能なら新設は不要(施行通達)
場面2:顧客等が、自社の従業員に対してカスハラを行った 顧客等(社外) 懲戒の対象にならない(指揮命令関係がない) 施設管理権、契約、利用規約、法的手続(出入禁止、仮処分、警察対応等)で対応(第8話

場面1で、既存の懲戒規定が使える場合が多い

指針5⑵は、他社から協力を求められて事実確認を行い、自社の労働者による他社の労働者へのカスハラの事実が確認できた場合、就業規則その他の服務規律等を定めた文書の規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましいとしています。

ここで重要なのが施行通達の次の一文です。信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定等の既存の規定に基づき、必要な措置を講ずることが可能である場合には、必ずしも就業規則等を改正し、カスタマーハラスメントに係る規定を新たに設ける必要はない。

多くの企業が既に持っている次のような懲戒事由・服務規律で、自社労働者の加害に対応できる場合があります。

  • 会社の名誉・信用を毀損する行為をしたとき
  • 取引先その他社外の関係者に対して不適切な言動を行ったとき
  • 職務上の地位又は権限を利用して不当な行為を行ったとき
  • その他前各号に準ずる、服務規律に違反する行為をしたとき

これらで読める場合、カスハラ独自の懲戒条項の新設は必須ではありません。読みにくい場合、または明確化したい場合には、前掲の規定例8(服務規律)と規定例9(懲戒接続)を用います。

懲戒を行う場合の一般的な留意点

自社労働者に懲戒を行う場合、カスハラであるか否かにかかわらず、労働契約法第15条(懲戒権濫用法理)等を踏まえた一般的な適正手続が求められます。

  • 懲戒事由と懲戒の種類が就業規則等にあらかじめ定められ、周知されていること
  • 事実関係を確認し、証拠に基づいて認定すること
  • 行為の性質・態様に照らして処分が重すぎないこと(相当性)
  • 本人に弁明の機会を与えること
  • 同種事案との均衡を欠かないこと
  • 相談・申告がなされた事実のみをもって懲戒しないこと(規定例9第2項)

懲戒は、行為の軽重を問わず一律に重い処分を科すものではありません。事案の内容に応じた相当な処分を、適正な手続で行ってください。個別事案の処分は、弁護士・社会保険労務士に相談することを推奨します。

被害者保護と不利益取扱いの境界

この記事のもう一つの中核論点です。カスハラ被害者を守るための措置が、本人の意向を確認しないまま行われると、「相談したら不利に扱われた」という不利益取扱いになりかねません。保護のつもりの配置転換・評価・シフト調整が、最も紛争になりやすい場面です。

保護される行為と、問題となり得る取扱い

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保護される行為問題となり得る取扱い適切な対応例記録すべき事項
社内で相談したこと 本人の意向を確認しない配置転換、評価の引下げ、閑職への異動 行為者との接触回避のため、本人と協議のうえ一時的に配置を調整。必要性・期間・復帰条件を明確化 本人の意向、措置の必要性、期間、待遇への影響、復帰方法
事実確認に協力したこと 協力した目撃者・同僚への不利益、「余計なことを言った」扱い 協力者も保護対象であることを周知。協力を理由とする不利益を行わない 協力した日時、内容、協力者への取扱い
都道府県労働局へ相談・援助の求め・調停申請をしたこと 解雇、雇止め、契約更新拒否 相談・申請の有無と、人事上の判断を明確に分離する 人事判断の客観的理由、相談・申請との時系列
調停の出頭の求めに応じたこと シフト削減、担当業務の縮小 出頭を理由とする不利益を与えない。業務変更は別の合理的理由に基づく 変更の理由、他の従業員との比較資料

「配慮」と「不利益」を分けるポイント

同じ「顧客対応から一時的に外す」という措置でも、次の違いで評価が分かれます。

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観点配慮と評価されやすい不利益と評価されやすい
本人の意向本人と協議し、希望を踏まえている本人に確認せず、一方的に決めた
期間期間を定め、復帰を前提としている無期限で、復帰の見通しがない
待遇への影響賃金・評価・手当に不利益が生じないよう配慮手当停止・評価引下げを伴う
復帰方法復帰の条件・手順を明示している復帰の道筋が示されていない
記録目的・必要性・協議経過が記録されている記録がなく、後から説明できない

「良かれと思って外した」が最も紛争になります。被害者保護の措置は、①本人と協議し、②必要性・期間・待遇への影響・復帰方法を明確にし、③記録に残す、という手順で行ってください。前掲の規定例7は、この歯止めを条文化したものです。

派遣労働者に関する取扱い

派遣労働者については、雇用関係が派遣元にあるため、就業規則の適用関係が正社員等と異なります。ここを正確に理解しないと、規程の書き方を誤ります。

労働者派遣法第47条の4の効果は「限定的」

よくある誤解が、「派遣先が派遣労働者を一般的に雇用する事業主になる」というものです。正確には、労働者派遣法第47条の4は、同条が掲げる労働施策総合推進法の規定(措置義務等)の適用について、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなす、という限定的な効果を持つものです。派遣労働者が、あらゆる場面で派遣先の労働者になるわけではありません。

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場面派遣先(自社)の立場
カスハラ防止の措置義務(労働施策総合推進法第33条第1項)労働者派遣法第47条の4により、派遣先も雇用する事業主とみなされ、措置を講ずる必要がある
相談等を理由とする不利益取扱いの禁止派遣労働者も対象。派遣の役務の提供を拒む等の不利益取扱いをしてはならない
就業規則(労働条件・賃金・懲戒等)の一般的な適用派遣労働者は派遣先の就業規則の一般的な適用対象ではない(雇用関係は派遣元にある)

派遣先・派遣元の役割分担

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項目派遣先(自社)が担うこと派遣元が担うこと
相談先自社の相談窓口を派遣労働者にも利用できるようにし、周知する派遣元の相談窓口を周知する
初動対応就業場所での安全確保、担当交代、引離し(自社労働者と同様に)派遣先からの連絡を受け、本人をフォローする
事実確認就業場所で発生した事実を確認する本人からの聴取、派遣先との情報共有
被害者への配慮担当者の変更、業務・配置の調整、産業保健連携就業継続・就業先変更等の相談対応
情報共有必要な範囲で派遣元へ共有(本人の同意・プライバシーに配慮)受領した情報の適切な管理
不利益取扱いの防止相談を理由に派遣の受入れを拒まない相談を理由に不利益な取扱いをしない
契約上の連携派遣契約・覚書にカスハラ発生時の連絡・対応の取決めを入れる同左

規程の書き方の注意。就業規則や社内規程で「当社の従業員(派遣社員を含む)」と一括りにしないでください。雇用関係が異なるため、「当社が雇用する労働者」と「当社で就業する派遣労働者」を区別し、派遣労働者については前掲の規定例12のように「準じた取扱い」として別条を立てるのが適切です。

就業規則を変更する場合の労使手続

就業規則本則または就業規則の一部を成す規程(服務規律、懲戒、ハラスメント防止規程等)を変更する場合、労働基準法上の手続が必要です。手続と、変更の労働契約上の効力は、根拠となる条文が異なります。ここを混同しないことが重要です。

3つの手続と、周知の「2つの意味」

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手続根拠内容注意点
1.労働者代表からの意見聴取 労働基準法第90条 就業規則の作成・変更にあたり、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、意見書を作成する 同意までは不要だが、聴取は必須。反対意見でも、意見書を添付すれば届出は可能
2.労働基準監督署への届出 労働基準法第89条 常時10人以上の労働者を使用する事業場は、変更後の就業規則を、意見書を添付して所轄労働基準監督署長に届け出る 電子申請(e-Gov)も可。違反は労基法第120条により30万円以下の罰金の対象。届出・受理は、変更の民事上の効力や合理性を保証するものではない
3.労働者への周知(労基法上の周知義務) 労働基準法第106条 就業規則を、掲示・備付け、書面交付、記録媒体への記録と各作業場での確認機器の設置等の方法で、労働者が常時確認できる状態にして周知する これは労基法上の周知義務・周知方法の規定。届出だけでは周知を行ったことにならない

「周知して初めて効力が生じる」の正確な整理

就業規則と「周知」の関係は、2つの異なる法的問題に分けて理解する必要があります。

就業規則は、労働基準法第106条に基づき、労働者が常時確認できる状態にして周知しなければなりません。これは労基法上の周知義務・周知方法の規定です。

これとは別に、就業規則を労働契約の内容とするためには労働契約法第7条上の周知が、就業規則の変更により労働条件を変更するためには同法第10条上の周知が必要です。労働基準監督署への届出だけでは、労働者への周知を行ったことにはなりません。

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論点根拠条文内容
周知義務・周知方法(行政上の義務)労働基準法第106条掲示・備付け・書面交付・記録媒体等の方法で、労働者が常時確認できる状態にする義務
就業規則が労働契約の内容となる要件労働契約法第7条合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に周知させていた場合、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となる
変更後の就業規則による労働条件変更の要件労働契約法第10条変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が合理的であるときは、変更後の就業規則の内容が労働条件となる

「就業規則を作成・変更しただけ」では足りません。労基法第106条の周知義務を果たすとともに、労働契約上の効力を生じさせるには労契法第7条・第10条の周知が必要です。この2つは根拠が異なるため、社内資料では区別して説明してください。

届出の時期について(断定を避ける)

労働基準法第89条は、就業規則を作成・変更した場合の届出を義務づけています。もっとも、条文上、「施行日前に届け出なければ変更が無効になる」とは定められていません。変更の民事上の効力(労契法第10条の周知・合理性等)と、行政上の届出義務(労基法第89条)は、分けて理解する必要があります。

労働基準法第89条は、就業規則を作成・変更した場合の届出を義務づけています。実務上は、施行日までに意見聴取、届出および周知を完了させることが望ましいですが、労働基準監督署への届出・受理それ自体が、変更内容の合理性や民事上の有効性を保証するものではありません。

手続の流れ

1 変更案の作成(新旧対照表を併せて作成すると、意見聴取・届出・周知がスムーズ)
2 労働者代表への説明と意見聴取(第90条)
3 意見書の作成(署名を得る。反対意見でも可)
4 経営承認
5 所轄労働基準監督署長へ届出(意見書を添付)(第89条)
6 労働者への周知(掲示・備付け・書面交付・イントラ等)(第106条/労働契約上の効力は労契法第7条・第10条)
7 施行

就業規則を変更せず、別文書(社内通知・社内ホームページ等)で不利益取扱いの禁止を定める場合は、労基法第89条・第90条の手続は必須ではありません。ただし、その文書が確実に労働者へ周知されていることが必要です。どちらの方法を採るかは、既存の規程体系と改定の手間を踏まえて判断してください。

過半数代表者の適正な選出

就業規則を変更する場合、意見聴取の相手となる過半数代表者は、適正な手続で選ばなければなりません。選出が不適正だと、意見聴取の有効性が問題になります。

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要件内容
目的の明示就業規則の作成・変更について意見を聴かれる者を選出することを明らかにして実施する
民主的な手続投票、挙手、労働者の話合い、持ち回り決議等の民主的な方法によること
過半数の支持その事業場の労働者の過半数が支持していること
使用者の指名は不可使用者(会社)が一方的に指名した者ではないこと。使用者の意向に基づいて選出された者でないこと
管理監督者でないこと労働基準法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと
事業場ごとに選出意見聴取・意見書の作成は事業場ごとに行う必要があるため、代表者も事業場ごとに選出する

過半数を代表する労働組合がある場合は、その労働組合が意見聴取の相手になります。労働組合がない場合に、上記の手続で過半数代表者を選出します。「会社が指名した人に意見書に署名してもらう」やり方は、選出要件を満たしません。

複数事業場と本社一括届出

複数の事業場を持つ企業では、就業規則の届出をどう行うかが問題になります。原則は事業場ごとの届出ですが、一定の要件を満たせば本社一括届出が利用できます。

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論点取扱い
原則就業規則の届出は、事業場ごとに、その所在地を所轄する労働基準監督署長に対して行う
本社一括届出の要件本社と各事業場の就業規則が同一内容であること等の要件を満たす場合、本社を所轄する労働基準監督署を経由して一括して届け出ることができる
意見書の扱い本社一括届出の場合でも、意見聴取および意見書の作成は各事業場ごとに行う必要がある。一括届出だからといって、意見聴取を本社だけで済ませることはできない
各事業場で内容が異なる場合就業規則の内容が事業場ごとに異なる場合、本社一括届出の要件(同一内容)を満たさないため、事業場ごとに個別に届け出る
事業場ごとに労働者代表が異なる場合労働者代表は事業場ごとに選出されるため、意見聴取・意見書も事業場ごとに行う。代表者が異なること自体は問題ない

一括届出は「届出の手間」を軽減するものであり、意見聴取まで省略できるものではありません。カスハラ対応で全社共通の条項を追加する場合でも、各事業場で意見聴取を行い、意見書を揃えてください。詳細は所轄の都道府県労働局・労働基準監督署の案内をご確認ください。

不利益変更に当たらないか

就業規則の変更が労働者に不利益な内容を含む場合、労働契約法上の制約があります。カスハラ対応の規定整備は多くが従業員保護の内容ですが、報告義務・服務規律・懲戒・録音・監視・配置変更等を同時に追加する場合は、個別に検討が必要です。

労働契約法の枠組み

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条文内容
労働契約法第9条使用者は、労働者と合意することなく、就業規則の変更により労働者の不利益に労働条件を変更することはできない(原則)
労働契約法第10条就業規則の変更が、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件変更の必要性、③変更後の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的であり、かつ変更後の就業規則を周知させた場合には、変更後の就業規則の内容が労働条件となる(合理的変更の例外)

カスハラ対応規定の性質

被害者保護、相談窓口、プライバシー保護、不利益取扱い禁止など、労働者を保護する条項は、一般に労働者に有利または中立な内容と評価されやすいと考えられます。ただし、同時に報告義務、服務規律、懲戒事由、録音・監視、配置変更等を追加する場合には、各条項が労働条件に与える影響を個別に検討する必要があります。労働契約法第9条・第10条は、規程の名称ではなく変更内容の実質で判断します。

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規定性質不利益変更の評価
会社の方針、対応、被害者保護従業員を保護する内容一般に有利・中立と評価されやすい
相談窓口、プライバシー保護、不利益取扱い禁止従業員に有利一般に有利・中立と評価されやすい
協力義務(必要かつ相当な範囲に限定)従業員に一定の負担合理的な範囲であれば、通常問題とならない。範囲を限定する
服務規律への追加(他社労働者へのカスハラ禁止)遵守事項の追加合理的な範囲であれば、通常問題とならない。「社会通念上許容される範囲を超える言動」という限定を付す
録音・監視、配置変更労働条件・就業環境に影響し得る個別に検討。目的の正当性、範囲、影響を確認する
懲戒事由の新設・拡張懲戒の対象を明確化・拡張慎重な設計が必要。既存の服務規律違反・信用失墜行為で読める場合は新設せず、既存規定を活用する方が無用な争いを避けられる

懲戒事由の新設・拡張、録音・監視、配置変更に関する条項は、特に慎重に。従業員保護の規定と異なり、これらは「不利益」と評価される余地があります。まず既存規定で読めるかを検討し、必要最小限の範囲でのみ改定するのが安全です。改定の要否・内容は、弁護士・社会保険労務士に相談することを推奨します。

常時10人未満の事業場の対応

常時10人未満の事業場には、労働基準法上の就業規則の作成・届出義務はありません。しかし、カスハラ防止の措置義務そのものは、企業規模を問わず課されます。就業規則がないことは、措置を省略できる理由になりません。

10人未満でも省略できない措置

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措置10人未満での対応
不利益取扱いをしない旨の定めと周知就業規則がなくても義務。社内規程、従業員ハンドブック、社内通知文等で定め、全員に配布・周知する
方針の明確化・周知代表者名の方針文・通知文で対応。全員に配布
相談窓口の設置・周知代表者・担当者を相談先として指定。連絡方法を全員に周知
事実確認・被害者配慮・再発防止手順を簡潔に文書化。産業保健は地域産業保健センター等の外部資源を活用
悪質事案への対処方針と体制だれに連絡し、だれが判断するかを1枚で定める

小規模事業場で特に検討すべき論点

  • 代表者だけが相談窓口となる場合の問題。相談先が代表者一人だと、相談しづらい、代表者が多忙で機能しない、という事態が起きやすい。人事担当者や外部窓口を併設することを検討する。
  • 代表者自身が事案の関係者となった場合の代替窓口。代表者が対応にあたっていた事案や、代表者自身が関与する事案では、代表者に相談できない。外部の社会保険労務士、弁護士、外部相談窓口(EAP等)を代替の相談先として用意しておく。
  • 外部専門家の活用。相談対応や事実確認を社会保険労務士・弁護士・外部相談窓口に委託することは、指針が認める方法の一つ。ただし、報告を受けて被害者配慮・再発防止を実行するのは事業主本人であり、委託しても責任はなくならない。
  • 就業規則を作らない場合の文書。就業規則の代わりに、社内規程、従業員ハンドブック、通知文で、方針・相談窓口・不利益取扱い禁止を定める。全員が確認できる形にする。
  • 記録の保管。相談受付票・対応記録の様式を用意し、鍵付き保管またはアクセス制限フォルダで保存する。閲覧者を限定する。

就業規則がない企業でも、義務は免除されません。「不利益取扱いをしない旨の定めと周知」は、就業規則の有無にかかわらず必要です。就業規則がなければ、社内通知・従業員ハンドブック・社内ホームページ等で定めてください。

架空事例で確認する

以下はいずれも説明のために作成した架空の事例です。実在の事案・裁判例ではありません。

架空事例1:「報告するものとする」と一文だけ追加して終わった企業

状況:【架空のサービス企業A社】は、施行対応として、就業規則の服務規律に次の一文だけを追加した。

「従業員は、カスタマーハラスメントを受けたときは、速やかに上長に報告するものとする。」

何が問題だったか

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問題内容
被害者に報告義務を課す構造「報告するものとする」は、被害者本人の義務。被害を受けて報告できなかった従業員が、服務規律違反として責められる余地を生む
不利益取扱い禁止がない指針が義務とする「相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の定めと周知」が、どこにもない。この一文だけでは、義務の中核を満たしていない
会社側の対応義務がない一人で対応させない、管理職が引き継ぐ、被害者を配慮する、という会社側の措置が定められていない
相談窓口・事実確認・再発防止がない10項目の措置の大半が手当てされていない

修正の方向:前掲の規定例4(相談・報告を「できる」とし、管理職に報告・安全確保義務を課す)、規定例11(不利益取扱いの禁止)、規定例3(会社の対応)、規定例7(被害者配慮)を組み合わせる。「報告義務を課す一文」ではなく、「会社が守る仕組み」を規程・マニュアルに落とすのが正しい方向です。

架空事例2:被害者を営業職から外し、営業手当を停止した企業

状況:【架空のBtoB企業B社】で、営業担当者が取引先の担当者から長時間の暴言を受け、相談窓口に相談した。B社は「本人を守るため」として、本人に確認しないまま当該担当者を内勤へ異動させた。異動に伴い、営業手当(月◯万円)を停止した。本人には「しばらく内勤で」とだけ伝え、復帰の見通しは示さなかった。

何が問題だったか

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観点B社の対応問題
本人の意向確認していない「相談したら異動させられた」と受け取られ得る
待遇への影響営業手当を停止相談を契機に収入が減少。不利益取扱いと評価される余地が大きい
期間・復帰方法示していない無期限・復帰の見通しなし。配慮ではなく不利益と評価されやすい
記録協議も目的も記録なし後から「配慮だった」と説明できない

本来あるべき対応

  • まず本人と協議し、希望(営業を続けたいか、一時的に離れたいか)を確認する
  • 行為者との接触回避の方法を、異動以外も含めて検討する(担当替え、複数名対応、取引先への協力要請等)
  • やむを得ず一時的に業務を変更する場合も、営業手当等の待遇に不利益が生じないよう配慮する
  • 期間と復帰の条件・手順を明示する
  • 目的・必要性・協議経過・期間・待遇への影響を記録する

この事例の教訓。被害者保護は、本人の意向・期間・待遇・復帰方法・記録の5点を欠くと、「保護」ではなく「不利益取扱い」と評価されます。前掲の規定例7は、この5点を条文化したものです。「守るため」という主観は、免罪符になりません。

よくある失敗例

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失敗例なぜ問題か正しい方向
被害者に「速やかに報告する義務」を課す報告できなかった被害者が責められる余地一般従業員は「相談・報告できる」、管理職に報告・安全確保義務
不利益取扱い禁止をどこにも定めていない指針が義務とする定めと周知を欠く就業規則または別文書で必ず定め、周知する
就業規則で顧客を出入禁止にする条項を置く就業規則は社外を規律できない約款・利用規約・契約書・権限規程で対応
秘密保持義務を「関与した者」全般に課す相談者本人の外部相談を萎縮させる会社側の取扱担当者を主たる名宛人とし、正当な相談先への相談を妨げない旨を置く
「当社の従業員(派遣社員を含む)」と一括表現雇用関係が異なる派遣労働者を混同「雇用する労働者」と「就業する派遣労働者」を区別
被害者を本人の同意なく異動・減給配慮が不利益取扱いに転化本人と協議、期間・待遇・復帰方法を明確化、記録
懲戒事由を「カスハラ=懲戒解雇」と一律に定める相当性を欠き懲戒権濫用事実確認・相当性・弁明の機会を経て、事案に応じた処分
会社が指名した者に意見書へ署名させる過半数代表者の選出要件を満たさない目的を明示し、投票・挙手等の民主的手続で選出
本社一括届出だからと意見聴取を本社だけで済ませる意見聴取は事業場ごとに必要各事業場で意見聴取・意見書作成
具体例を規程本文に細かく列挙例の追加のたびに規程変更(労基法手続)が必要3要素の枠組みを規程に、具体例はマニュアルに委任

施行前チェックリスト(規程整備)

規程整備に特化したチェックリストです。自社の状況に照らして確認してください。

1.規程体系

  • カスハラ対応に関係する文書(就業規則、ハラスメント防止規程、相談窓口規程、安全衛生規程、顧客対応マニュアル、情報管理規程、権限規程、約款・利用規約)を棚卸ししたか
  • 既存のハラスメント防止規程の「行為者」に顧客等(社外)が含まれるか確認したか
  • 統合方針か独立規程新設かを決定したか

2.相談・不利益取扱い

  • 相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨が、いずれかの文書に定められているか
  • 保護される4行為(相談・協力・労働局への相談等・調停出頭)を漏れなく含んでいるか
  • 相談窓口の設置・経路・周知が定められているか
  • 「発生のおそれ・微妙・周囲の労働者」も相談対象に含めているか

3.服務規律・懲戒

  • 自社労働者が他社労働者等に加害した場合、既存の懲戒規定で対応できるか確認したか
  • 対応できない場合、服務規律・懲戒接続条項を検討したか
  • 「申告のみで懲戒しない」旨を担保しているか
  • 懲戒の相当性・弁明の機会等の適正手続を確認したか

4.被害者保護

  • 被害者配慮の措置(担当交代・引離し・産業保健連携等)を定めたか
  • 配慮措置が不利益取扱いに転化しないための歯止め(本人の意向・期間・待遇・復帰方法・記録)を置いたか
  • 一般従業員に一律の報告義務を課していないか

5.派遣労働者

  • 「雇用する労働者」と「就業する派遣労働者」を区別しているか
  • 派遣先の相談窓口を派遣労働者も利用できるようにしたか
  • 相談を理由とする派遣受入拒否の禁止を定めたか
  • 派遣元との連携・派遣契約への条項追加を検討したか

6.個人情報・記録

  • 相談記録・録音録画データの利用目的・保存・閲覧権限を定めたか
  • 秘密保持義務の名宛人を会社側の取扱担当者に限定したか
  • 正当な相談先(労働局・弁護士・労働組合・医療機関)への相談を妨げない旨を置いたか
  • 記録の保管方法(アクセス制限等)を定めたか

7.対外規約・約款

  • 顧客に対する措置(利用停止・出入禁止)の根拠を約款・利用規約で確認したか
  • BtoB取引の停止・解除の根拠を契約書で確認したか
  • 誰が決定するかを権限規程で明確化したか
  • 業法上のサービス提供義務(応招義務、宿泊拒否事由等)を確認したか

8.意見聴取・届出

  • 就業規則を変更する場合、過半数代表者を適正な手続で選出したか
  • 各事業場で意見聴取・意見書作成を行ったか
  • 所轄労働基準監督署への届出(意見書添付)を行うか
  • 複数事業場の場合、一括届出の要件(同一内容)を満たすか確認したか

9.周知・研修

  • 労基法第106条に基づく周知(掲示・備付け・交付・イントラ等)を行ったか
  • 労働契約上の効力に必要な労契法第7条・第10条の周知を意識したか
  • 管理監督者を含む全労働者(顧客対応のない部署を含む)に周知したか
  • 就業規則を変更しない場合、別文書の周知を確実に行ったか

10.施行後点検

  • 規程と実際の運用(相談・対応の実務)が整合しているか点検する体制があるか
  • 見直しの頻度と責任者を決めたか
  • 相談・対応の記録が規程どおり残っているか確認するか

就業規則・規程に関するFAQ

Q1.カスハラ対応のために就業規則の改定は必須ですか

全企業一律の義務ではありません。施行通達は、信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定等の既存の規定で必要な措置を講ずることが可能な場合には、必ずしも就業規則等を改正してカスハラに係る規定を新設する必要はないとしています。ただし、相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨を定めて周知することは義務で、これは就業規則以外の文書でも構いません。

Q2.不利益取扱いの禁止は、どこに定めればよいですか

指針は、就業規則その他の服務規律等を定めた文書のほか、社内報・パンフレット・社内ホームページ等に記載する方法も認められる例としています。いずれかで定め、労働者に周知・啓発してください。就業規則に定める場合は労基法の手続が必要です。

Q3.既存のパワハラ・セクハラ規程を流用できますか

流用できますが、行為者の範囲に注意してください。多くのハラスメント防止規程は行為者を「事業主、上司、同僚等」に限定しており、そのままでは社外からのカスハラが対象に入りません。行為者に顧客等を加えるか、カスハラの節・独立規程を設けてください。

Q4.就業規則で顧客を出入禁止にできますか

できません。就業規則は自社の労働者に対するルールであり、顧客等(社外)を規律できません。改正法も事業主に新たな権利を与える制度ではありません(Q&A)。出入禁止等は、施設管理権、契約、利用規約、権限規程、法的手続といった別の根拠で検討します(第8話)。

Q5.自社の社員が取引先の社員にカスハラをした場合、懲戒できますか

懲戒の対象となり得ます。就業規則その他の服務規律等を定めた文書の規定に基づいて行います。施行通達は、信用失墜行為や服務規律違反の既存の懲戒規定で対応可能なら、カスハラ独自の規定を新設する必要はないとしています。懲戒は、事実確認、相当性、弁明の機会等の適正手続を踏んで行ってください。

Q6.申告があっただけで懲戒できますか

できません。相談・申告がなされた事実のみをもって懲戒するのは、懲戒権の濫用となり得ます。事実関係、行為の目的・態様・反復性・結果等を確認し、服務規律違反・懲戒事由への該当性を判断したうえで、相当な処分を行ってください(規定例9第2項)。

Q7.就業規則を変更するとき、従業員の同意は必要ですか

労働基準法第90条が求めるのは意見聴取であり、同意までは要求されていません。反対意見であっても、意見書を添付すれば届出は可能です。ただし、労働者に不利益な変更を行う場合は、労働契約法第9条・第10条により、変更の合理性が問題となり得ます。

Q8.過半数代表者を会社が指名できますか

できません。過半数代表者は、就業規則について意見を聴く者を選出することを明示したうえで、投票・挙手・話合い等の民主的な方法で、過半数の支持を得て選出する必要があります。使用者による指名や、使用者の意向に基づく選出は認められません。また、管理監督者は代表者になれません。

Q9.反対意見が出た場合、就業規則の変更は届け出られますか

届け出られます。労基法第90条は意見聴取を求めるもので、同意は要件ではありません。反対意見であっても、その意見書を添付して届け出れば受理されます。ただし、労働者に不利益な変更の場合は、労契法第10条の合理性が別途問題となります。

Q10.本社一括届出はどんな場合に使えますか

本社と各事業場の就業規則が同一内容であること等の要件を満たす場合に使えます。ただし、意見聴取・意見書の作成は事業場ごとに必要です。就業規則の内容が事業場で異なる場合は、一括届出の要件を満たさないため、事業場ごとに届け出ます。

Q11.届出と周知は何が違いますか

別のものです。届出は、労基法第89条に基づき労働基準監督署へ提出する手続。周知は、労基法第106条に基づき労働者が常時確認できる状態にすること。届出しただけでは周知にならず、周知しただけでは届出にならず、両方が必要です。さらに、就業規則の労働契約上の効力には、労契法第7条・第10条の周知が問題となります。

Q12.規程の施行日はいつにすればよいですか

カスハラ防止措置の施行日は2026年10月1日です。就業規則を変更する場合、この日に運用を開始できるよう、意見聴取・届出・周知を計画的に進めてください。周知して初めて労働者に効力が及ぶ(労契法第7条・第10条)ため、施行日から逆算して周知の期間を確保します。届出日自体が変更の効力を決めるわけではありませんが、実務上は施行日前に届出まで済ませるのが適切です。

Q13.常時10人未満の会社はどうすればよいですか

労基法上、就業規則の作成・届出義務はありません。ただし、不利益取扱いをしない旨の定めと周知の義務は免除されません。社内規程・従業員ハンドブック・社内通知等で定め、全従業員へ周知してください。代表者一人が窓口の場合の代替窓口、記録の保管も検討が必要です。

Q14.カスハラの具体例は規程に書くべきですか

書いても構いませんが、マニュアルに委ねる方が運用しやすいです。具体例を規程本文に書くと、例を追加・修正するたびに規程変更(就業規則の場合は労基法手続)が必要になります。規程では3要素の枠組みを定め、具体例はマニュアルで示す構成(規定例2・12参照)を推奨します。

Q15.相談記録などの保存期間はどう定めればよいですか

カスハラ相談記録の保存期間について、一律の法定期間が定められているわけではありません。事案対応・再発防止・紛争対応の必要性と、個人情報保護の観点を踏まえて、社内で合理的な期間を定め、保存場所・閲覧権限・廃棄方法を明確にしてください。個人情報保護法や、雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドラインに沿った取扱いが前提です。

Q16.派遣社員に関して規程で手当てすべきことはありますか

派遣労働者は派遣先の就業規則の一般的な適用対象ではないため、「準じた取扱い」として別条を立てるのが適切です(規定例12)。相談を理由とする派遣受入拒否の禁止を明記し、派遣元との連携や派遣契約・覚書への条項追加も検討してください。「当社の従業員(派遣社員を含む)」と一括りにしないことが重要です。

Q17.懲戒事由を新設すると不利益変更になりますか

懲戒の対象を広げる変更は「不利益」と評価される余地があります。まず既存の服務規律違反・信用失墜行為で読めるかを検討し、読める場合は新設しない方が無用な争いを避けられます。新設する場合は、必要最小限の範囲とし、専門家の確認を受けてください。

Q18.規程は毎年見直す必要がありますか

毎年の見直しが法的に義務づけられているわけではありません。ただし、法令・指針の改正、重大事案の発生、相談傾向の変化、新サービス・新チャネルの開始、業法・約款の変更等があった場合には、その都度見直すべきです。定期的に運用状況を点検し、必要に応じて改訂する体制を整えてください。

Q19.規程整備は専門家に確認してもらうべきですか

推奨します。特に、懲戒事由の新設・拡張、不利益変更の該当性、就業規則変更の手続、既存規程との整合は、判断が難しい論点です。弁護士、社会保険労務士、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)等への相談をご検討ください。本記事の規定例は一般的な参考例であり、そのまま採用すれば適法・有効となることを保証するものではありません。

Q20.規程を整備すれば措置義務を果たしたことになりますか

なりません。規程整備は10項目の措置の一部を下支えするものです。方針の明確化・周知、相談窓口の設置、事実確認、被害者への配慮、再発防止、悪質事案への対処方針と体制整備、プライバシー保護は、別途整備が必要です(第3話)。

シリーズ全10話の案内

話数タイトルこの記事で分かること
第1話カスハラ対策が全企業の義務に|2026年10月施行の改正法でやるべきこと全体像制度の全体像、対象事業主、10項目の措置、リスク、準備工程表
第2話どこからがカスハラか|正当なクレームとの線引きを3要件で判断する3要素、正当な申入れとの線引き、合理的配慮、判断フロー、記録
第3話指針が求める措置の中身|方針明確化・相談体制・事後対応をどう整えるか10項目の措置の作り込み方、成果物、担当部署、完了基準
第4話カスハラ対応基本方針の作り方|社内外への表明文をひな形付きで解説方針の記載事項、社内向け方針・トップメッセージ・顧客向け掲載文のひな形
第5話就業規則・社内規程はどこを直すか|カスハラ義務化対応の改定ポイント(本記事)改定要否の判断、文書別の役割分担、12の規定例、労使手続、不利益取扱いの境界、チェックリスト
第6話カスハラ相談窓口をどう作るか|既存のハラスメント窓口と一本化する方法窓口の設計、担当者の指名と研修、二次被害の防止、記録様式
第7話現場が迷わないカスハラ対応マニュアルの作り方|初動・エスカレーション・記録初動対応、エスカレーション基準、録音・証拠保存、対応記録の実務
第8話それでも止まらない相手への法的対応|取引拒絶・出入禁止・警察対応の実務警告文、販売・サービス提供の停止、出入禁止、仮処分、警察通報の判断基準
第9話同時施行の求職者等セクハラ対策も忘れずに|関連する法改正・条例への対応改正男女雇用機会均等法による求職者等セクハラ対策、自治体の条例
第10話2026年10月までにやることリスト|カスハラ義務化対応の工程表と総まとめチェックリスト形式の総まとめ、成果物一覧、施行後の点検方法

まとめ

  • カスハラ専用条項の新設は、全企業一律の義務ではありません。既存の懲戒・服務規律で対応可能なら、新設は必須ではありません(施行通達)。
  • ただし、相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の定めと周知は義務です。就業規則でも、社内報・社内ホームページ等でも構いません。
  • 「どの事項を、どの文書に書くか」が要点です。顧客への措置(出入禁止・取引解除)は就業規則ではなく、約款・利用規約・契約書・権限規程で扱います。
  • 被害者に一律の報告義務を課さないでください。一般従業員は「相談・報告できる」、管理職に認識時の報告・安全確保義務、という構造にします。
  • 秘密保持義務の主たる名宛人は、会社側の取扱担当者です。相談者本人の外部相談(労働局・弁護士・医療機関等)を妨げない旨を必ず置きます。
  • 被害者保護は、本人の意向・期間・待遇・復帰方法・記録を欠くと、「配慮」ではなく「不利益取扱い」と評価されます。
  • 派遣労働者は「雇用する労働者」と「就業する派遣労働者」を区別し、労働者派遣法第47条の4の限定的な効果を正確に踏まえます。
  • 就業規則を変更する場合、労基法第89条・第90条・第106条の手続を行い、労働契約上の効力は労契法第7条・第10条の周知が問題になります。届出・受理自体が民事上の効力を保証するものではありません。

本記事の規定例は一般的な参考例であり、そのまま採用すればすべての企業で適法・有効となることを保証するものではありません。自社の規程体系、既存条項との整合、業種の実態に応じて必ず調整してください。就業規則の変更、懲戒規定の設計、不利益変更の該当性など、個別の判断については、弁護士、社会保険労務士、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)等への相談をご検討ください。本記事は2026年7月14日時点の法令・指針・通達・Q&A等に基づいています。

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「どの規程を、どこまで直せばよいのか」——就業規則、ハラスメント防止規程、相談窓口規程、顧客対応マニュアル、約款・権限規程を横断的に棚卸しし、不足箇所を洗い出し、改定案と新旧対照表を作る。この一連の作業は、担当者の負担が大きく、抜け漏れも生じがちです。

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参考資料

このほか、労働基準法第89条・第90条・第106条・第120条、労働契約法第7条・第9条・第10条・第15条、労働者派遣法第47条の4・第30条の6の各規定を参照しています。就業規則の一括届出や電子申請(e-Gov)については、所轄の都道府県労働局・労働基準監督署の案内をご確認ください。

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