フリーランス法とは?初心者向けに目的・対象・基本ルールをわかりやすく解説
次の案件で使える形に。
「フリーランスに仕事を頼みたい」「業務委託で仕事を受けている」——そんな場面で、2024年11月1日から関係してくるのがフリーランス法です。この記事は、フリーランス法を初めて知る方に向けて、法律の目的・対象・基本ルールの全体像をやさしく整理する入門記事(全15話の第1話)です。発注企業の担当者、法務・総務・人事・コンプライアンス担当者、そしてフリーランス本人のいずれが読んでも、「自分に関係がありそうか」「まず何を確認すればよいか」がつかめる構成にしています。
1. はじめに|なぜ今「フリーランス法」なのか
個人で働くフリーランスに業務を依頼する企業は、年々増えています。デザイン、ライティング、システム開発、コンサルティング、各種専門業務など、社外の個人に委託する場面はますます一般的になりました。
一方で、フリーランスと発注者のあいだでは、次のようなトラブルが起こりやすいのも事実です。
- 報酬がなかなか支払われない、または一方的に減額された
- 発注内容や報酬額があいまいなまま作業が始まってしまった
- 突然、契約を打ち切られた/更新されなかった
- 発注者側からのハラスメントを受けた
こうした問題の背景には、フリーランスが「事業者」でありながら、取引の場面では立場が弱くなりやすいという構造があります。フリーランス法は、ざっくり言うと、事業者間の業務委託取引を「きちんと見える化」し、無理のある取引や不当な扱いを防ぐための法律です。
この記事では、細かい条文解釈には深入りせず、まず全体像をつかむことを優先します。ただし、法律用語はできるだけ正確に使い、第2話以降の詳しい解説につながるようにしています。
2. フリーランス法とは何か
正式名称・略称・施行日
| 正式名称 | 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号) |
|---|---|
| 一般的な呼び方 | フリーランス・事業者間取引適正化等法/フリーランス法 |
| 成立・公布 | 令和5年(2023年)4月28日成立、5月12日公布 |
| 施行日 | 令和6年(2024年)11月1日 |
法律の目的|2つの柱
フリーランス法の目的は、大きく分けて「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つです。ここで押さえておきたいのは、この法律が「フリーランスを労働者(会社員)にする法律」ではないということです。あくまで、フリーランスを「事業者」として扱ったうえで、事業者間(BtoB)の取引を適正化し、安心して働ける環境を整えることを狙っています。
| 柱 | 内容 | 主なルール | 主な担当官庁 |
|---|---|---|---|
| 取引の適正化 | 発注内容や報酬支払を明確にし、不当な取引を防ぐ | 取引条件の明示、報酬支払期日の設定・支払い、禁止行為の規制 | 公正取引委員会・中小企業庁 |
| 就業環境の整備 | フリーランスが安心して業務を行える環境を整える | 募集情報の的確表示、育児・介護等との両立配慮、ハラスメント対策、中途解除等の事前予告 | 厚生労働省(都道府県労働局) |
図解:フリーランス法の全体像
3. 誰が守られるのか|「フリーランス」の基本イメージ
フリーランス法で守られる側(保護される事業者)は、法律上「特定受託事業者」と呼ばれます。基本イメージは、業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しないものです。具体的には、次のような人が想定されます。
- 従業員を雇わず、一人で業務委託を受けている個人事業主
- 代表者1名のみで、他に役員や従業員がいない一人会社(法人)
つまり、「個人」だけでなく「一人会社」も対象になり得ます。逆に、従業員を使用している事業者は、保護される「フリーランス」にはあたりにくくなります。
| ケース | 対象になりやすいか | 理由 |
|---|---|---|
| 個人でデザイン業務を受けている | 対象になりやすい | 従業員を使わず、業務委託を受けている事業者にあたるため |
| 一人会社でシステム開発を受けている | 対象になり得る | 法人でも、代表者のみで他の役員・従業員を使用していない場合があるため |
| 従業員を雇っている制作会社 | 対象から外れる場合がある | 従業員を使用しているため、保護される「フリーランス(特定受託事業者)」にはあたりにくいため |
| 会社に雇用されている社員 | 通常は対象外 | 雇用契約であり、労働基準法などの労働関係法令の問題になるため |
なお、フリーランスに「業務委託をする側」も、法律上は「業務委託事業者」または「特定業務委託事業者」として整理されます。どちらにあたるかで義務の範囲が変わるため、これも第2話で詳しく解説します。詳細は第2話:フリーランス法の対象者とは?をご確認ください。
4. どのような取引が対象になるのか
フリーランス法が対象とするのは、基本的に事業者から事業者への「業務委託」です。実務でよく登場する次のような契約類型が中心になります。
- 請負(成果物の完成を約束するもの。例:Web制作、デザイン納品)
- 準委任・委託業務(事務や役務の提供を委ねるもの。例:コンサルティング、運用支援)
- 物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供の委託
一方で、次のものは性質が異なるため、区別が必要です。
- 雇用契約:これは労働関係法令(労働基準法など)の世界であり、フリーランス法ではなく労働法が問題になります。
- 単なる商品の売買:仕様などを指定して委託する「業務委託」とは区別されます。
- 消費者からの依頼:事業者間(BtoB)の取引が対象であり、一般の消費者からの委託は対象外です。
どの取引が対象になり、どの取引が対象外になるかは、第3話:業務委託なら全部対象?フリーランス法が適用される取引・されない取引で詳しく扱います。
5. 発注者に求められる基本ルール
フリーランス法は、フリーランス本人ではなく、主に発注者側に義務を課す法律です。第1話では全体像として、発注者が押さえるべき7つの基本ルールを整理します。
| ルール | 初心者向けの意味 | 実務で注意する場面 | 詳しく読む記事 |
|---|---|---|---|
| ① 取引条件の明示 | 業務委託をしたら、直ちに書面または電磁的方法(メール等)で取引条件を示す | 口頭発注のまま作業を始めてしまう/メールに金額や納期を書き忘れる | 第4話 |
| ② 報酬支払期日の設定・期日内支払い | 成果物等を受け取った日から原則60日以内のできる限り早い日に支払期日を設定し、守る | 「月末締め翌々月払い」などで60日を超えていないか/支払遅延 | 第5話 |
| ③ 7つの禁止行為 | 受領拒否・報酬減額・買いたたきなど、フリーランスに不利な一定の行為をしない | 一方的な減額や追加作業の押し付け/理由のない受領拒否 | 第6話 |
| ④ 募集情報の的確表示 | フリーランス募集の広告などで、虚偽・誤解を与える表示をせず、正確かつ最新に保つ | 募集終了後も掲載を続ける/条件と実際が食い違う | 第9話 |
| ⑤ 育児・介護等との両立配慮 | 一定期間以上の業務委託で、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をする | 育児・介護に関する申出を無視する/検討すらしない | 第11話 |
| ⑥ ハラスメント対策 | セクハラ・マタハラ・パワハラを防ぐため、相談体制など必要な措置を整える | 相談窓口がない/フリーランスが対象に含まれていない | 第10話 |
| ⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示 | 一定期間以上の継続的な業務委託を解除・不更新する場合、原則30日前までに予告し、求めに応じて理由を開示する | 突然の打ち切り/更新しない旨を直前に伝える | 第12話 |
6. フリーランス本人が確認すべきこと
フリーランス法は発注者側の義務を定める法律ですが、フリーランス本人にとっても、自分の取引条件を自分で確認し、記録に残しておくことはとても重要です。法律が守ってくれる場面でも、「何を、いくらで、いつまでに、いつ支払ってもらう約束だったか」が証拠として残っていれば、トラブル時の解決がスムーズになります。
| 確認項目 | 確認する理由 | 証拠として残すもの |
|---|---|---|
| 業務内容 | 何を求められているかが曖昧だと、後で「やり直し」「追加作業」でもめやすい | 発注書、仕様書、依頼メール |
| 報酬額 | 金額が決まっていないと、買いたたきや減額の判断もしにくい | 見積書、合意メール、契約書 |
| 支払期日 | いつ支払われるかを確認しないと、未払い・遅延に気づきにくい | 取引条件の明示書面、メール |
| 納期 | 納期があいまいだと、受領拒否や評価のトラブルにつながる | スケジュール表、合意メール |
| 成果物の範囲 | どこまでが納品物かを決めておかないと、際限なく作業が増える | 仕様書、要件定義書 |
| 修正回数・修正範囲 | 無償修正の範囲を決めておかないと、追加対応が前提化しやすい | 契約書、条件メール |
| 追加作業の扱い | 追加発注の単価・手続きが不明だと、無償対応を求められやすい | 追加発注の合意記録 |
| 契約終了・キャンセル条件 | 解除や不更新の条件を知らないと、突然の打ち切りに備えられない | 契約書の解除条項 |
| 連絡手段 | 記録が残らない手段だけだと、後から確認できない | メール、チャットのログ |
| 担当者名 | 窓口が不明だと、相談・請求の宛先が分からなくなる | 名刺、メール署名 |
7. よくある誤解
フリーランス法については、初心者が誤解しやすいポイントがいくつかあります。代表的なものを整理します。
| 誤解 | 実際の考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| フリーランスを会社員にする法律だ | フリーランスを「事業者」として扱い、取引の適正化と就業環境の整備を図る法律。雇用に切り替える法律ではない | 労働者性が問題になる場合は、別途労働法が関係する |
| 契約書がなければ法律は関係ない | 契約書の有無にかかわらず、業務委託の実態があれば適用され得る。むしろ取引条件の明示が義務 | 「書面がない=適用外」ではない |
| メールやチャットで発注していれば十分 | 電磁的方法での明示自体は認められるが、明示すべき項目を満たしているかが重要 | 金額・支払期日・業務内容などの記載漏れに注意 |
| 報酬は合意があればいつ払ってもよい | 受け取った日から原則60日以内のできる限り早い日に支払期日を設定し、支払う必要がある(特定業務委託事業者の場合) | 「合意さえあれば何日後でもよい」わけではない |
| フリーランス側が弱ければ何でも違法 | 違反かどうかは、行為の内容や要件に照らして判断される。立場が弱いことだけで自動的に違法になるわけではない | 個別事案では実態に応じた判断が必要 |
| 下請法だけ見ていればよい | フリーランス法は下請法と適用範囲・要件が異なる。資本金要件がなく、対象が広い場面もある | どの法律が適用されるかは第13話で整理 |
8. 発注企業が最初にやるべきこと
「何から手をつければよいか分からない」という発注企業向けに、まず確認したい実務対応を整理します。いきなり完璧を目指す必要はありません。まずは現状把握から始めるのが現実的です。
| 対応 | 確認する内容 | 担当部門の例 |
|---|---|---|
| ① 取引の洗い出し | 社内で個人事業主・一人会社へ業務委託している取引を把握する | 調達・各事業部・法務 |
| ② 発注書・契約書・メールテンプレの見直し | 取引条件の明示項目(業務内容・報酬額・支払期日など)が漏れていないか | 法務・総務・各事業部 |
| ③ 支払フローの確認 | 受領日から原則60日以内に支払う設計になっているか | 経理・財務 |
| ④ 募集文の見直し | フリーランス募集の表示が正確・最新か、誤解を与えていないか | 人事・広報・採用 |
| ⑤ ハラスメント相談体制・解除フローの整備 | フリーランスを含む相談窓口の整備、中途解除・不更新時の予告フロー | 人事・法務・コンプライアンス |
9. このシリーズで学べること(全15話)
第1話はシリーズの入口です。第2話以降では、対象者・取引範囲・取引条件・報酬支払・禁止行為・募集情報・ハラスメント・中途解除へと、順を追って具体的に掘り下げていきます。最後にチェックリストで実務に落とし込める構成です。
- 第1話:フリーランス法とは?初心者向けに目的・対象・基本ルールをわかりやすく解説(この記事)
- 第2話:フリーランス法の対象者とは?「フリーランス」と「発注事業者」の考え方
- 第3話:業務委託なら全部対象?フリーランス法が適用される取引・されない取引
- 第4話:取引条件の明示義務とは?発注時に書くべき項目をわかりやすく解説
- 第5話:フリーランスへの報酬支払ルール|支払期日・遅延・未払いの注意点
- 第6話:フリーランス法の禁止行為7つ|受領拒否・報酬減額・買いたたきとは
- 第7話:「買いたたき」とは何か?フリーランス法で問題になる報酬交渉の境界線
- 第8話:やり直し・追加作業はどこまで頼める?フリーランス法と仕様変更の注意点
- 第9話:募集情報の的確表示とは?フリーランス募集でNGになりやすい表現
- 第10話:フリーランスへのハラスメント対策|発注企業が整備すべき相談体制
- 第11話:育児・介護との両立配慮とは?フリーランス法で発注者に求められる対応
- 第12話:契約解除・中途解約の注意点|フリーランス法の事前予告と理由開示
- 第13話:下請法・独占禁止法・労働法との違い|フリーランス法だけ見ればよいのか
- 第14話:フリーランス法違反が疑われたら?相談先・申出・社内対応の流れ
- 第15話:フリーランス法対応チェックリスト|発注前・発注時・終了時に確認すべきこと
10. まとめ
- フリーランス法は、フリーランス本人だけでなく、発注企業にとっても重要な法律です。義務の多くは発注者側に課されています。
- 関係するのは契約書だけではありません。発注書、メール、チャット、募集文、社内の相談体制・解除フローまで広く関わります。
- まずは「誰に、どの業務を、いくらで、いつまでに、いつ支払うのか」を明確にすることが基本です。
- 業務委託でも、実態によっては労働者性が問題になり得ます。「業務委託だから労働法は無関係」とは限りません。
- 個別の事案では、契約内容・取引の実態・発注者と受注者の属性によって判断が変わります。本記事は行政資料に基づく制度の全体像であり、具体的な対応は専門家への相談もご検討ください。
次回は、フリーランス法の「対象者」をテーマに、「特定受託事業者(フリーランス)」と「発注事業者」の考え方を、より具体的に解説します。第2話:フリーランス法の対象者とは?へお進みください。
フリーランス法対応を、契約書・発注書・社内フローから見直したい方へ
フリーランス法への対応では、契約書だけでなく、発注書、メール、募集文、支払フロー、ハラスメント相談体制まで、幅広い確認が必要になります。「どこから手をつければよいか分からない」という方は、まず関連する基礎記事から確認してみてください。
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参考情報
本記事は、以下の公的資料に基づいて制度の全体像を整理しています(いずれも公開情報。最新の内容や詳細は各官庁の公式サイトをご確認ください)。
- 公正取引委員会
- 「フリーランス法特設サイト」/「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」
- 中小企業庁
- 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」
- 厚生労働省
- 「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務委託を行う事業者の方等へ」
- 内閣官房
- 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)等に係る取組について」
- 政府広報オンライン
- 「フリーランスが安心して働ける環境づくりのための法律、2024年11月からスタート!」
- 公正取引委員会・厚生労働省
- 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和6年5月)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談ではありません。具体的な取引・契約への対応は、契約内容や取引実態に応じて、必要に応じて専門家にご相談ください。
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