内部通報規程はどこを直すべきか|改正法対応の条項別改定ポイント
2026年施行・公益通報者保護法改正対応シリーズ
第8話内部通報規程はどこを直すべきか|改正法対応の条項別改定ポイント
2026年12月施行の改正公益通報者保護法に対応するため、内部通報規程のどこを見直すべきかを条項別に解説します。対象者、通報妨害・探索禁止、解雇・懲戒、フリーランス、従事者指定、周知、調査、情報管理、記録まで整理します。
「うちの内部通報規程は『従業員』しか対象にしていない。フリーランスと退職者を足せば改正対応は終わりだろうか」。「通報妨害や通報者探索の禁止は、どの条項に追記すればよいのか」。「従事者指定は規程本文に書くのか、別の要領にするのか」。「推定規定や刑事罰まで社内規程に書くべきなのか」。改正公益通報者保護法(公益通報者保護法の一部を改正する法律・令和7年法律第62号)の施行日である2026年12月1日が近づく中、こうした疑問を抱えている担当者は少なくありません。規程は改定したものの実際の窓口運用が変わっていない、秘密保持条項が公益通報を妨げる内容のまま残っている、親会社の共通窓口を使っている子会社は何を直せばよいか分からない、という声もよく聞かれます。
先に結論を示します。対象者条項の修正だけでは、改正法対応は完了しません。通報妨害・通報者探索の禁止、不利益取扱い、従事者指定、周知・啓発、調査・是正、情報管理まで、規程全体の見直しが必要です。その際、法律本文・法定指針・指針の解説を分けて確認すること、基本原則は規程に、詳細手続はマニュアルや様式に分けること、就業規則・懲戒規程・業務委託契約等との整合を取ること、そして規程の文言だけでなく実際の業務フローと証跡を変えることが重要です。
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改正で内部通報規程の何を直す必要があるか
改正法は2025年6月11日に公布され、2026年12月1日に施行されます(施行期日を定める政令・令和7年政令第408号)。改正を踏まえた法定指針と指針の解説の改正版も、2026年3月31日に消費者庁から公表されています。まず、改正内容と規程改定の対応関係を一覧で確認します。
| 項目 | 改正前 | 改正後 | 規程で確認する事項 | 関連文書 |
|---|---|---|---|---|
| 通報者の範囲 | 労働者、退職後1年以内の者、役員等 | 特定受託業務従事者(フリーランス)と業務委託終了後1年以内の者を追加(改正後第2条第1項) | 利用対象者条項・定義条項 | 業務委託契約、周知文 |
| 不利益取扱い | 禁止(民事上の効果のみ) | フリーランスへの契約解除等の禁止を追加(改正後第5条) | 不利益取扱い禁止条項の対象者別整理 | 人事規程、業務委託契約 |
| 解雇・懲戒 | 解雇無効・不利益取扱い禁止 | 通報後1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とすると推定(改正後第3条第3項)。直罰新設(改正後第21条第1項) | 処分前確認手続、記録 | 人事処分前チェックリスト |
| フリーランス | 保護対象外(取引先労働者を除く) | 公益通報者に追加、契約解除等の不利益取扱い禁止 | 対象者条項、窓口アクセス | 業務委託契約、案内文 |
| 通報妨害 | 明文の禁止規定なし | 通報しない合意の要求等を禁止、違反した法律行為は無効(改正後第11条の2) | 禁止行為条項の新設 | 秘密保持契約、誓約書、和解契約 |
| 通報者探索 | 指針上の防止措置 | 正当な理由のない探索行為を法律で禁止(改正後第11条の3) | 禁止行為条項、調査条項 | 調査マニュアル、ログ調査ルール |
| 従事者指定 | 指定義務(300人超) | 義務違反への命令・命令違反への罰則を新設(改正後第15条の2・第21条) | 従事者指定条項 | 従事者指定要領、指定書、名簿 |
| 周知・啓発 | 指針上の教育・周知措置 | 体制の周知義務を法律に明示(改正後第11条第2項) | 周知・啓発条項 | 周知文、研修資料、証跡 |
| 行政監督 | 助言・指導・勧告・公表 | 命令権・立入検査権と罰則を新設(改正後第15条の2・第16条・第21条) | 行政対応の役割分担 | 対応マニュアル、証跡管理 |
| 記録・情報管理 | 指針上の記録・範囲外共有防止措置 | 探索禁止の法定化等に伴い重要性が増大 | 記録保存・アクセス制限条項 | 情報管理ルール、文書保存規程 |
重要ポイント
この表から読み取るべきポイントは2つあります。第一に、改正事項の多くは「規程のどこか1条を直せば済む」性質のものではなく、対象者・禁止行為・手続・記録が相互に連動していることです。第二に、右端の「関連文書」欄が示すとおり、内部通報規程の外側にある契約書や様式にまで改定が波及することです。規程本文だけを見て作業を終えると、秘密保持契約や退職時誓約書に通報を妨げる条項が残る、といった不整合が生じます。
まず規程体系を整理する
条項の改定に着手する前に、自社の文書体系を確認してください。すべてを内部通報規程1本に書き込む必要はありません。法律上の基本原則は規程に定め、変更頻度の高い詳細手順は細則・マニュアル・様式に分けるという設計が考えられます。規程に細かく書きすぎると、運用を少し変えるたびに規程改定の決裁が必要になり、かえって形骸化を招きます。
ここで注意したいのは、「規程」「マニュアル」「業務フロー」「契約条項」は別物だということです。規程は社内の権利義務と手続の骨格を定める文書、マニュアルは担当者の作業手順書、業務フローは実際の運用の姿、契約条項は相手方との合意です。改正対応では、この4つがすべて整合している必要があります。規程に立派な条項を書いても、実際の運用が異なれば、行政対応や訴訟の場面でかえって問題になります。
条項別改定ポイント一覧
次に、内部通報規程の典型的な条項構成に沿って、改定ポイントの全体像を示します。
| 条項 | 現行規程でよくある記載 | 改正後の確認ポイント | 修正方向 | 本文か関連文書か | 注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 目的 | 会社の損失防止・信用維持 | 公益通報者の保護と自浄作用の趣旨 | 早期発見・是正、通報者保護、不利益取扱い・妨害・探索の防止を明記 | 本文 | 会社防衛だけを目的にしない |
| 適用対象者 | 「当社従業員」 | フリーランス・元フリーランスの追加、退職者・派遣・役員の明記 | 区分別に定義し別表活用 | 本文+別表 | 法律上の公益通報者と任意の窓口利用者を区別 |
| 用語定義 | 「通報」「相談」程度 | 内部公益通報、従事者、範囲外共有等の法定用語 | 法律より狭く定義しない | 本文 | 簡略化しても対象範囲を縮小しない |
| 通報対象 | 法令違反のみ | 公益通報とそれ以外のコンプライアンス相談の関係 | 広めに受け付け、受付段階で断定しない | 本文 | 「法律違反でなければ受けない」は不可 |
| 窓口 | 専用窓口のみ | 上司・他部門経由の通報も内部公益通報になり得る | 窓口間引継ぎと本人意向配慮を定める | 本文+マニュアル | 専用窓口以外を保護対象外にしない |
| 匿名通報 | 記載なし又は不受理 | 探索禁止との関係、連絡継続手段 | 受付の取扱いと制約を定める | 本文+マニュアル | 一律排除は制度趣旨に反する |
| 通報妨害禁止 | 記載なし | 改正後第11条の2 | 役職員への禁止行為として新設 | 本文 | 通報者向け注意書きにしない |
| 探索禁止 | 記載なし又は努力規定 | 改正後第11条の3 | 禁止行為として新設、正当な理由の判断手続 | 本文+調査マニュアル | 範囲外共有と別条項に |
| 不利益取扱い禁止 | 「不利益な取扱いをしない」の一文 | 対象者別の法的効果の違い | 労働者・派遣・フリーランス・役員を書き分け | 本文 | 全員同じ効果として書かない |
| 従事者指定 | 「窓口担当者を従事者とする」 | 2要件、案件別追加指定、命令・罰則 | 基本は本文、手続は指定要領へ | 本文+指定要領 | 一括指定・自動指定にしない |
| 守秘義務 | 一般的な秘密保持 | 従事者の法定守秘義務(第12条)と社内義務の区別 | 従事者とそれ以外を分けて規定 | 本文 | 罰則の根拠を混同しない |
| 範囲外共有防止 | 記載なし | 特定させる事項の共有制限 | 必要最小限の共有原則とアクセス制限 | 本文+情報管理ルール | 「必要に応じ共有」は広すぎる |
| 利益相反排除 | 記載なし | 指針上の措置 | 確認手続と代替ルート | 本文+様式 | 案件単位で確認 |
| 受付・初動 | 簡単な受付規定 | 記録・緊急性評価・アクセス制限 | 基本原則のみ本文、手順はマニュアル | マニュアル中心 | 詳細は第10話参照 |
| 調査 | 「必要な調査を行う」 | 独立性・利益相反・探索との区別 | 調査原則を条項化 | 本文+調査マニュアル | 通報者への過度な協力義務を課さない |
| 是正 | 「適切に対応する」 | 是正措置・再発防止・フォローアップ | 責任部署と確認手続 | 本文+マニュアル | 調査結果と処分判断を区別 |
| 通知 | 記載なし | 受付・進捗・結果の通知と限界 | 通知の原則と通知できない情報 | 本文+マニュアル | 全面開示義務と書かない |
| 記録保存 | 記載なし | 記録範囲・期間・アクセス | 文書保存規程と整合 | 本文+保存規程 | 期間を法定の一律年数と断定しない |
| 周知・啓発 | 「必要に応じ周知」 | 法律上の周知義務、指針上の対象拡大 | 対象者別の周知方法と証跡 | 本文+周知計画 | フリーランス・退職者を落とさない |
| 運用実績 | 記載なし | 指針上の運用実績の開示・評価 | 定期評価と見直し | 本文 | 個人が特定されない範囲で |
| 違反者対応 | 虚偽通報者の懲戒のみ | 妨害・探索・範囲外共有への処分 | 就業規則の懲戒事由と整合 | 本文+就業規則 | 通報者側だけを威嚇しない |
| グループ窓口 | 親会社規程の準用 | 各法人の義務主体性 | 各社の規程と共通窓口運用の整理 | 本文+運用規程 | 準用だけで完了としない |
| 外部委託 | 記載なし | 委託先の従事者性・契約管理 | 委託契約の見直し | 委託契約 | 再委託・情報返却も確認 |
| 規程見直し | 記載なし | 定期的な点検・改善 | 見直し条項を新設 | 本文 | 施行後レビューを組み込む |
| 施行日 | 過去の施行日のみ | 2026年12月1日までの改定・周知 | 附則に改定日・施行日を明記 | 本文附則 | 遡及した日付にしない |
以下、特に重要な条項を順に掘り下げます。
対象者条項はどう直すか
改正の目玉の一つが、公益通報者の範囲へのフリーランスの追加です。改正後の第2条第1項第3号により、事業者と業務委託関係にある特定受託業務従事者(フリーランス法第2条第2項に定める者。従業員を使用しない個人事業主、または一人会社の代表者個人)と、業務委託関係が終了して1年以内の者が公益通報者となり得ます。ここで注意すべきは、法人としての取引先事業者そのものは公益通報者にならないことです。一人会社の場合に代表者「個人」が特定受託業務従事者になり得る、という整理を正確に押さえてください。
| 人物 | 法律上の公益通報者になり得るか | 規程上の利用対象とするか | 期間・関係の確認 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 正社員 | なり得る | 対象 | 在職中 | 出向中の扱いも確認 |
| 契約社員 | なり得る | 対象 | 契約期間中 | 更新拒絶も不利益取扱いになり得る |
| パート・アルバイト | なり得る | 対象 | 在職中 | 周知が届きにくい層 |
| 派遣労働者 | なり得る | 対象 | 派遣就業中・終了後1年以内 | 派遣元と派遣先の双方に通報し得る |
| 退職者 | なり得る | 対象 | 退職後1年以内 | 連絡手段の確保 |
| 役員 | なり得る | 対象 | 在任中(現に役員である者) | 保護の内容は労働者と異なる |
| 元役員 | 原則として含まれない(役員としての法定の通報主体) | 任意に窓口利用を認めることは可能 | 労働者・フリーランスのような退任後1年以内という法定期間は設けられていない | 規程上の利用対象とする場合も、法律上の公益通報者との区別を明確にする |
| フリーランス | なり得る(改正で追加) | 対象 | 業務委託関係の存在 | 特定受託業務従事者の定義該当性を確認 |
| 元フリーランス | なり得る(改正で追加) | 対象 | 委託終了後1年以内 | 案内・連絡手段の確保 |
| 取引先労働者 | 役務提供関係によりなり得る | 個別確認の上で対象化を検討 | 契約・役務提供関係の有無 | 一律対象外にしない |
| 請負会社従業員 | 役務提供関係によりなり得る | 同上 | 同上 | 元請・下請関係を確認 |
| 出向者 | なり得る | 対象 | 出向元・出向先の関係 | どちらの窓口も使えるよう整理 |
| 匿名で通報する者 | 本人が労働者・派遣労働者・役員・フリーランス等の人的要件を満たし、通報が保護要件を満たせば、匿名であっても公益通報者になり得る | 匿名通報も受付対象として制度設計する | 匿名のまま連絡を継続できる方法を用意する | 会社が氏名を把握していないことと、法律上保護されないことは同じではない |
| 代理人・家族 | 本人の通報の代理・支援として扱い得る | 任意に受付対象化を検討 | 本人確認・委任関係 | 受付条件を規程で明確化 |
規程改定の実務では、「法律上の公益通報者となり得る者」と「自社が規程上、任意に窓口利用を認める者」を区別してください。前者は法律で決まる範囲であり、規程で狭めることはできません。後者は自社の設計判断であり、たとえば求職者や取引先からの相談を任意に受け付けることもできます。ただし、任意に広げた相手を無条件に法律上の公益通報者として扱う必要はなく、逆に法律上保護される者を規程の文言で取りこぼしてもいけません。「従業員」という一語で済ませている規程は、派遣労働者・退職者・役員・フリーランスを漏らしている可能性が高く、対象者を一文に詰め込まず、定義条項や別表で区分を明示する方法が有効です。
通報窓口・受付条項はどう直すか
見落とされがちですが、内部公益通報は専用窓口への通報に限られません。上司への報告、コンプライアンス部門や人事・ハラスメント窓口への相談、監査役への報告も、法律上の要件を満たせば内部公益通報になり得ます。したがって、「本規程で定める窓口以外への通報は本制度の対象外とする」という条項は作ってはいけません。このような条項は、実態として通報妨害と評価されるおそれもあります。
窓口条項の修正方向としては、次の点を短く定めることが考えられます。専用窓口以外の部署や上司が通報を受けた場合の受付窓口への引継ぎルール、引継ぎ時の通報者本人の意向への配慮、利益相反がある場合や経営幹部が関与する事案での代替・独立ルート、匿名通報の受付方法、退職者・フリーランスなど社内システムにアクセスできない者の連絡手段(社外からアクセスできるWebフォーム、メール、郵送等)です。完成した条項全文をここで示すことはしませんが、いずれも「窓口を1本化して他を排除する」のではなく「どこに届いても適切に受付窓口へつながる」方向で設計するのが基本です。
匿名通報については、法律本文に受付義務が独立して明記されているわけではありません。一方、改正後の指針の解説および消費者庁Q&Aは、匿名の内部公益通報についても、通報者と窓口担当者が連絡を取ることができる仕組み(個人を特定できないメールアドレス、外部窓口、専用チャット等)を導入するよう求めています。したがって、匿名であることのみを理由として一律に受付対象外とする規程は見直す必要があります。そのうえで、追加質問や調査結果の通知を匿名のまま行う方法、匿名ゆえの調査上の制約を、規程またはマニュアルで整理してください。なお、氏名・所属を必須入力とするフォームは、匿名通報を利用できない設計となるため、匿名通報を受け付ける体制を採用する場合は、匿名のまま連絡を継続できる別の入力手段や外部窓口等を用意する必要があります。もっとも、通報者が自ら氏名を入力する受付項目を設けること自体が、直ちに改正後第11条の3の通報者探索に当たるわけではありません。探索として問題になるのは、通報後に、正当な理由なく通報者を特定する目的で行われる行為です。
通報妨害・探索禁止をどう条文化するか
改正後の第11条の2は、事業者が正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意を求める行為や、公益通報をした場合に不利益な取扱いをする旨を告げる行為をすることを禁止し、これに違反してされた合意その他の法律行為を無効とします。改正後の第11条の3は、正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的とする行為(探索)を禁止します。この2つに、指針上の概念である範囲外共有(通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有すること)を加えた3つは、それぞれ別の概念です。規程でも別条項として書き分けてください。
| 行為 | 通報妨害 | 通報者探索 | 範囲外共有 | 規程上の禁止方向 | 例外・正当な理由 | 関連マニュアル |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 通報しない合意の要求 | 該当し得る | ─ | ─ | 禁止行為として明記 | 正当な理由の有無を個別判断 | 契約審査基準 |
| 不利益取扱いの予告 | 該当し得る | ─ | ─ | 禁止行為として明記 | 同上 | 管理職研修資料 |
| 通報撤回の要求 | 該当し得る | ─ | ─ | 原則として行わない。通報を断念・撤回させる目的で行う行為は妨害に該当し得る | 正当な理由の有無を個別確認。通報内容への反論や事実確認を名目に撤回を迫らない | 対応マニュアル |
| 秘密保持条項の利用 | 該当し得る | ─ | ─ | 公益通報を妨げない旨の確認 | 営業秘密等の正当な保護は別 | NDA・誓約書ひな形 |
| 社外通報の一律禁止 | 該当し得る | ─ | ─ | 2号・3号通報を妨げる文言を削除・修正 | 営業秘密・個人情報の通常の管理まで否定するものではない | 就業規則・服務規律 |
| 氏名開示の強要 | ─ | 該当し得る | ─ | 禁止 | 調査上真に必要な場合の限定的確認 | 調査マニュアル |
| 通報者の聞き回り | ─ | 該当し得る | ─ | 禁止 | ─ | 調査マニュアル |
| 特定目的のログ・メール調査 | ─ | 該当し得る | ─ | 目的・範囲・記録の統制 | 情報漏えい調査等との区別を記録 | ログ調査ルール |
| 情報漏えい調査 | ─ | 目的次第で該当し得る | ─ | 目的の事前確認と記録 | 正当な調査目的の明確化 | ログ調査ルール |
| 通報者判明後の共有 | ─ | ─ | 該当し得る | 必要最小限の共有に限定 | 調査上不可欠な範囲 | 情報管理ルール |
重要ポイント
規程化のポイントは3つです。第一に、これらは通報者向けの「注意事項」ではなく、役職員・関係者に課す「禁止事項」として規定することです。第二に、探索については、調査の過程で結果的に通報者が判明しただけで当然に違反となるわけではなく、「特定することを目的とする行為」を「正当な理由なく」行うことが禁止されるという構造を踏まえ、調査目的・対象・期間・範囲を記録し、正当な理由の有無を個別に確認する手続をマニュアル側に置くことです。国会審議では、匿名通報について通報内容の具体性を確認しなければ必要な調査ができない場合に従事者が確認する行為などが正当な理由の例として示されています。第三に、退職金や解決金、契約継続を「通報しないこと」の条件とする合意は無効となり得るため、和解契約・退職合意・誓約書のひな形も同時に点検することです。
不利益取扱い禁止条項は対象者別に分ける
改正後の法律は、対象者ごとに異なる法的効果を定めています。労働者に対する解雇・懲戒には明文の無効規定(改正後第3条第2項)があり、通報の日(外部通報を事業者が知った場合はその日)から1年以内の解雇・懲戒は公益通報を理由とすると推定されます(改正後第3条第3項)。さらに、公益通報を理由として解雇・懲戒をした者には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には両罰規定として3,000万円以下の罰金という直罰が新設されました(改正後第21条第1項・第23条)。一方、フリーランスについては契約解除・取引数量の削減・取引停止・報酬減額等の不利益取扱いが禁止されますが(改正後第5条)、契約解除を当然に無効とする明文規定はなく、推定規定・直罰規定の適用もありません。役員の解任についても、無効ではなく損害賠償請求が法律上の救済です(第6条)。
| 対象者 | 根拠条文 | 禁止される行為の例 | 明文の無効規定 | 推定規定 | 直罰規定 | 規程上の書き方 | 関連部署 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 労働者 | 第3条 | 解雇、懲戒、降格、減給、不利益な配置転換、低評価、嫌がらせ、退職強要 | あり(解雇・懲戒。第3条第2項) | あり(1年以内。第3条第3項) | あり(第21条第1項) | 禁止行為を列挙し、処分前確認手続へ接続 | 人事・法務 |
| 派遣労働者 | 第4条 | 派遣契約の解除、交代要求 | あり(派遣契約解除) | 適用なし | 適用なし | 派遣先としての禁止行為を明記 | 人事・調達 |
| フリーランス | 改正後第5条 | 業務委託契約の解除、取引数量削減、取引停止、報酬減額 | 明文の無効規定なし(民事上の効力は個別判断) | 適用なし | 適用なし | 契約解除等の禁止と解除前確認手続を明記 | 調達・購買・法務 |
| 役員 | 第6条 | 解任、報酬上の不利益 | 解任は無効とならず損害賠償で救済 | 適用なし | 適用なし | 役員特有の救済構造を踏まえて記載 | 取締役会事務局・法務 |
注意
規程改定でやってはいけないのは、この違いを無視して「すべての対象者への不利益取扱いは無効とし、刑事罰の対象となる」などと一括りに書くことです。社内規程は法律の効果を作り出せません。規程には、対象者ごとの禁止行為を正確に書き分けたうえで、「してはならない」という行為規範と、違反した場合の社内処分・是正を定めるのが適切です。推定規定や刑事罰そのものを規程に転載する必要はありませんが、管理職・人事・調達の判断者に向けた注意喚起として、処分・解除前の確認手続(後述)に接続しておくことには実益があります。
人事処分や業務委託契約の解除を行う前の確認は、規程本文に細かい手順をすべて書くのではなく、基本原則(通報の有無にかかわらず客観的な理由と証拠に基づき判断すること、通報者情報を処分判断者と共有しないこと、法務・コンプライアンス部門の確認を経ること)を規程に置き、公益通報の有無の確認、処分理由の証拠、同種事案との均衡、利益相反、本人の弁明、決裁記録といった具体的項目は人事処分前チェックリスト・契約解除前チェックリストに落とす二層構造が実務的です。特に通報後1年以内の解雇・懲戒は推定規定の対象となるため、通報と無関係であることを示す記録の作成・保存が重要になります。施行日前後の事案については経過措置の適用関係を個別に確認してください。
従事者指定・守秘義務はどこへ書くか
公益通報対応業務従事者の指定義務(第11条第1項)自体は2022年施行の前回改正で導入済みですが、今回の改正で、指定義務違反への勧告に従わない場合の命令権と命令違反への罰則(常時使用する労働者数300人超の事業者が対象)が新設され、立入検査権限も加わりました(改正後第15条の2・第16条・第21条第2項)。従事者指定の適切さと証跡が、行政監督の場面で直接問われるようになったということです。
誤解しやすい点
この2要件が意味するのは、「通報者情報に触れた者は全員自動的に従事者になる」わけでも、「役員・法務担当者・外部弁護士は当然に従事者」なわけでもない、ということです。従事者は事業者が指定によって定めるものであり、指定は、従事者の地位に就くことが本人に明らかとなる方法により行う必要があります。書面の交付そのものが法定の必須要件とされているわけではありませんが、指定日・対象業務・守秘義務等を後から説明できるよう、指定書やメール等の証跡を残すことが望ましい対応です。また、規程に部署・役職単位で指定対象を記載する方法であっても、該当者本人が自ら従事者として指定されていることを明確に認識できなければ、指定方法として不十分となるおそれがあります。逆に、常設窓口の担当者だけを指定し、案件ごとに調査へ加わる担当者を追加指定する仕組みがないと、調査の実務が回りません。
| 文書 | 定める内容 |
|---|---|
| 規程本文 | 従事者を定めること、従事者の基本的責務、守秘義務、利益相反排除、情報管理の原則 |
| 従事者指定要領・個別指定通知 | 指定対象者の考え方、指定・案件別追加指定・解除の手続、本人への通知方法、名簿管理、研修、罰則の説明、アクセス権限との連動 |
| 対応マニュアル | 受付から是正までの具体的手順の中での従事者の動き方 |
守秘義務については、従事者が負う法定守秘義務(第12条。違反には第22条の罰則)と、従事者以外の役職員に社内規程で課す秘密保持義務、そして範囲外共有の防止措置を区別して規定してください。通報者を特定させる事項には、氏名だけでなく、所属・役職、通報内容や文体、添付資料など、組み合わせれば特定につながる情報も含まれ得ます。役員や人事部だからといって当然に通報者の氏名を知る権限があるわけではなく、調査に必要な情報と通報者本人の特定情報を分離して共有する運用(マスキング、アクセス権限の限定、保存場所の分離)を情報管理ルールで具体化します。本人の同意がある場合でも、同意の範囲を超えた無制限の共有は許されません。
調査・是正・通知条項の見直し
調査・是正・通知の条項は、改正で直接の条文変更があった部分ではありませんが、探索禁止の法定化と行政監督の強化により、規程と運用の整合がより厳しく見られる領域です。受付から是正までの流れを俯瞰し、各段階で規程本文とマニュアルの役割を切り分けてください。
調査条項では、調査の独立性と利益相反排除、調査対象・範囲の設定、証拠保全、外部専門家の利用、経営幹部が関与する事案やグループ会社事案での調査主体、匿名通報・フリーランスからの通報での調査上の工夫、調査を行わない場合の判断と記録を扱います。注意点が2つあります。第一に、調査と通報者探索を混同しないこと。事実解明のための調査は必要ですが、通報者の特定を目的とする行為は別物です。第二に、「通報者は会社の調査に全面的に協力しなければならない」といった過度な義務条項を作らないこと。通報者を調査対象者のように扱う条項は、通報を萎縮させます。
是正の段階では、違反行為の停止、被害回復、行政報告、規程・業務フローの改定、再発防止策の実施確認とフォローアップ、経営会議・取締役会への報告を定めます。ここでも、通報があったという事実だけで関係者を処分するのではなく、調査で認定された事実に基づいて処分を判断するという原則を明確にしてください。通知については、受付通知・調査開始・経過・終了・是正措置の通知を原則としつつ、第三者の個人情報、営業秘密、懲戒処分の詳細など通知できない情報があることも定めます。法令がすべての情報の全面開示を義務付けているわけではなく、指針上求められる措置と、個別に通知する内容の設計は区別して考えます。
記録・保存については、受付記録から調査資料、是正措置、従事者指定、周知・研修の記録まで、何をどこに何年保存するかを文書保存規程と整合させて定めます。保存期間は法律で一律の年数が定められているものではありません。指針の解説の考え方、自社の文書保存規程、民事の時効や訴訟・行政調査時の保全の必要性を踏まえて設計してください。
周知・啓発条項の見直し
今回の改正では、内部公益通報対応体制の周知が法律上の義務として明示されました(改正後第11条第2項)。詳細は本シリーズ第7話で扱ったとおりですが、規程条項の観点では、法律本文が求める「労働者等」への周知と、法定指針が求める労働者等・役員・退職者に加えた特定受託業務従事者・元特定受託業務従事者への周知・啓発を区別して整理する必要があります。
| 対象 | 周知・啓発の方法の例 | 証跡の例 |
|---|---|---|
| 一般従業員(パート・アルバイト含む) | イントラ掲示、社内報、eラーニング、入社時研修 | 掲示記録、受講記録 |
| 管理職・役員 | 不利益取扱い・妨害・探索の禁止と刑事罰リスクを含む教育 | 研修資料、出席記録 |
| 派遣労働者 | 就業場所での掲示、派遣元経由の案内 | 掲示記録、案内文 |
| 退職者 | 在職中の周知に加え退職時の案内 | 退職時交付書面 |
| フリーランス・元フリーランス | 業務委託契約書への記載、発注時メール、取引先ポータル | 契約条項、送信記録 |
| 海外拠点・現場勤務者 | 多言語資料、紙媒体、朝礼等での案内 | 配布記録 |
規程条項としては、「周知は人事部が適宜行う」の一文で済ませず、周知の対象者区分、責任部署、窓口変更時の再周知、周知の証跡の保存、認知度の定期的な評価を定めることが考えられます。フリーランスへの案内を単なる任意対応と位置付けないでください。フリーランスが公益通報者に加わり、指針上も周知・啓発の対象とされている以上、業務委託契約やメール等による案内の仕組みを整えることは、体制整備の一部として求められる対応です。
関連規程・契約も確認する
内部通報規程を完璧に改定しても、周辺の規程や契約に矛盾する条項が残っていれば、対応は完了しません。とりわけ通報妨害禁止(第11条の2)との関係で、秘密保持契約や誓約書の点検は必須です。
| 対象文書 | 内部通報規程との関係 | 確認すべき条項 | 不整合の例 | 修正方向 |
|---|---|---|---|---|
| 就業規則 | 服務規律・懲戒の根拠 | 秘密保持、社外への情報提供禁止、懲戒事由 | 社外通報を一律禁止する服務規律 | 公益通報を妨げない旨を確認・修正 |
| 懲戒規程 | 違反者処分の根拠 | 懲戒事由の列挙 | 妨害・探索・範囲外共有が懲戒事由にない | 懲戒事由への追加を検討 |
| 人事評価規程 | 不利益取扱いの防止 | 評価手続・情報の取扱い | 通報情報が評価者に共有される運用 | 情報分離の明確化 |
| 業務委託契約 | フリーランス保護・周知 | 解除条項、秘密保持、窓口案内 | 通報を解除事由と読める条項 | 公益通報を理由とする解除をしない整理 |
| 秘密保持契約 | 通報妨害の防止 | 秘密保持の範囲・例外 | 公益通報の例外がない包括的守秘条項 | 法令に基づく通報を妨げない旨の整理 |
| 退職時誓約書 | 退職者の通報保護 | 秘密保持・非開示条項 | 通報を封じる誓約文言 | ひな形の見直し |
| 和解契約 | 通報しない合意の無効 | 清算条項・口外禁止条項 | 通報しないことを条件とする解決金 | ひな形と審査基準の見直し |
| 派遣契約 | 派遣労働者の保護 | 解除・交代条項 | 通報を理由とする交代要求の余地 | 運用ルールの整理 |
| 外部窓口委託契約 | 受付業務の委託 | 守秘、従事者性、再委託、情報返却 | 委託先従業員の従事者指定漏れ | 契約と指定手続の整合 |
| グループ規程 | 共通窓口の運用 | 各社の義務主体性、情報共有 | 親会社規程の準用のみ | 各法人の規程整備 |
| 個人情報保護規程 | 通報者情報の取扱い | 利用目的、第三者提供、国外移転 | 通報情報の位置付けが不明確 | 取扱いルールの明確化 |
| 文書保存規程 | 記録の保存 | 保存期間・保存場所・廃棄 | 通報記録の保存区分がない | 保存区分の新設 |
| 情報システム利用規程 | ログ調査との関係 | モニタリング・調査の目的と手続 | 探索に転用され得る無限定の調査権限 | 目的・手続・記録の統制 |
実務上の留意点
この表の実務上の要点は、「規程改定チーム」の視野を内部通報規程の外へ広げることです。特に、施行前に締結された既存の誓約書や和解契約について、施行後にその条項を援用して通報を妨げる行為に及べば、改正法との抵触が問題になり得ます。ひな形の改定と併せて、既存契約の取扱い方針も決めておくべきです。
新旧対照表の作り方
規程改定の決裁と後日の説明責任のために、新旧対照表を必ず作成してください。最低限、次の項目を含めることを推奨します。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 条番号 | 現行と改定案の条番号(条ずれも明記) |
| 現行条文 | 改定前の条文全文 |
| 改定案 | 改定後の条文全文 |
| 改定理由 | 「法改正対応」の一言で終わらせず、どの改正事項にどう対応するかを具体的に記載 |
| 法的根拠 | 改正後の条文番号、法定指針・指針解説の該当箇所 |
| 運用変更 | 条文変更に伴い実際に変わる業務・権限・システム設定 |
| 関連様式 | 併せて改定する様式・マニュアル・契約 |
| 担当部署 | 運用変更の実施責任部署 |
| 施行日 | 規程改定の施行日(2026年12月1日またはそれ以前) |
| 周知方法 | 対象者別の周知手段と時期 |
改定理由欄が「法改正対応」だけの新旧対照表は、決裁者にも後任者にも役立ちません。「改正後第11条の3の探索禁止に対応し、調査目的のログ調査に事前の目的確認と記録を義務付ける。情報システム部の調査申請フローを変更する」のように、条文と運用変更をセットで記載してください。
規程本文へ書きすぎない事項
逆に、規程本文に書き込みすぎると改定の機動性を失う事項もあります。次のような仕分けが考えられます。
| マニュアル向き | 様式向き |
|---|---|
| 受付後24時間以内の初動手順、具体的なヒアリング質問、メール・ログ調査の方法、証拠保全手順、通報者への連絡テンプレート、案件別追加指定の手順、行政機関への報告フロー、外部弁護士への相談基準、人事処分前チェックリスト、契約解除前チェックリスト | 受付票、利益相反確認票、従事者指定書、調査計画書、是正計画書、通知書、記録保存台帳、アクセス権限表 |
規程本文には「初動対応・調査・是正の手続は別に定めるマニュアルによる」といった委任規定を置き、マニュアル・様式側を機動的に改善できる構造にします。ただし、通報妨害・探索・範囲外共有の禁止や従事者の守秘義務といった、権利義務の核心に関わる事項はマニュアルではなく規程本文に置くべきです。
ケース別に規程不備を考える
ここからは、実際の規程点検でよく見つかる不備を、ケース別に整理します。
ケース1 利用対象者が「当社従業員」に限定されている問題点:派遣労働者、退職者、役員、フリーランスが文言上落ちており、改正後の公益通報者の範囲(改正後第2条第1項)を規程がカバーしていません。
規程改定:対象者を区分別に定義し、必要に応じ別表化します。
関連運用:退職者・フリーランスが実際にアクセスできる窓口手段を用意します。
結論を左右する条件:取引先労働者等をどこまで任意の利用対象とするかは、自社の取引構造によって判断が分かれます。
ケース2 専用窓口以外の通報は本規程の対象外と書かれている問題点:上司や他部門への通報も内部公益通報になり得るため、法律上の保護範囲を規程で狭める外観になり、運用次第では通報妨害と評価されるおそれもあります。
規程改定:対象外とする文言を削除し、窓口間の引継ぎと本人意向配慮の条項を新設します。
関連運用:管理職に「部下からの通報を受けたときの動き方」を研修します。
関連文書:対応マニュアル、管理職研修資料。
ケース3 「虚偽通報者は懲戒する」とだけ記載されている問題点:通報者側への威嚇だけが目立ち、妨害・探索・範囲外共有をした側への処分規定がありません。通報を萎縮させる規程構造です。
規程改定:不正の目的による通報への対応は残しつつ、妨害・探索・範囲外共有・守秘義務違反を違反行為として明記します。
関連文書:就業規則・懲戒規程の懲戒事由との整合。
結論を左右する条件:「虚偽」の認定は容易でなく、誤信による通報を懲戒対象としない限定が必要です。
ケース4 通報妨害・通報者探索に関する条項がない問題点:改正後第11条の2・第11条の3で法律上の禁止行為となったにもかかわらず、社内の行為規範として周知されません。
規程改定:禁止行為条項を新設し、両者を別条項に書き分けます。
関連運用:ログ調査の目的確認手続、和解・誓約書ひな形の点検。
根拠:改正後第11条の2(違反した合意等は無効)、第11条の3。
ケース5 フリーランスへの契約解除等の禁止がない問題点:改正後第5条が禁止する契約解除・取引数量削減・取引停止・報酬減額等への手当てがなく、調達・購買部門が改正を知らないまま解除判断を行うリスクがあります。
規程改定:フリーランスへの不利益取扱い禁止と契約解除前の確認手続を定めます。
関連文書:業務委託契約、契約解除前チェックリスト。
注意:労働者と同じ推定規定・直罰規定があるかのように書かないでください。
ケース6 従事者が窓口担当者だけで、案件別の追加指定ルールがない問題点:調査で通報者を特定させる事項を伝達される調査担当者・是正担当者が未指定のまま業務にあたることになり、指定義務との関係で問題が生じます。
規程改定:案件別追加指定と指定解除の仕組みを規程・指定要領に定めます。
関連運用:指定書の交付、名簿更新、アクセス権限の連動。
結論を左右する条件:誰を指定すべきかは2要件(業務への主体的関与+特定事項の伝達)への該当性で個別に判断します。
ケース7 「通報内容は必要に応じ関係部署へ共有する」とだけ書かれている問題点:共有の範囲・目的・手続が無限定で、範囲外共有を規程が許容する外観になっています。
規程改定:共有は調査・是正に必要な最小限の範囲に限る原則と、通報者を特定させる事項の分離・マスキングを定めます。
関連文書:情報管理ルール、アクセス権限表。
関連運用:人事処分・契約解除の判断ラインへ通報者情報を流さない情報分離。
ケース8 規程改定後も、就業規則・退職時誓約書・業務委託契約に外部通報禁止条項が残っている問題点:内部通報規程と周辺文書が矛盾し、周辺文書の条項を援用した対応が通報妨害と評価されるおそれがあります。改正後第11条の2に違反してされた合意等は無効となります。
規程改定:規程側に「関連規程・契約は本規程の趣旨に反しないよう整備する」旨を置くとともに、ひな形を一斉点検します。
関連運用:契約審査部門のチェック項目への追加。
結論を左右する条件:営業秘密や個人情報の正当な保護を目的とする条項まで一律に削除する必要はなく、公益通報を妨げない範囲の整理が求められます。
改定時のNG対応
規程改定の現場で実際に起こりがちなNG対応を一覧にします。
注意
最後の2点は特に注意してください。規程と運用の乖離は、行政の立入検査や訴訟の場面で規程自体の信頼性を損ないます。また、改定日や指定日を遡らせる処理は、文書の真実性そのものを疑わせる行為であり、絶対に行うべきではありません。
なお、消費者庁は2026年6月30日、改正法準拠版の内部通報制度導入支援キットとして、内部規程例、従事者指定書、受付票、周知ポスター、研修動画等を公表しています。民間ひな形と異なり公的資料として参照価値が高く、改定作業の出発点として有用です。ただし、これらもあくまでサンプルであり、各社の組織、窓口体制、対象者、グループ構造に応じて調整する必要があります。サンプルをそのまま適用すれば対応が完了するものではない点は、民間ひな形の場合と同じです。
施行日前の改定ロードマップ
施行日である2026年12月1日から逆算した、標準的な改定ステップを示します。企業規模や決裁ルートに応じて調整してください。
改正法・指針・Q&Aの確認
改正後条文、2026年3月31日公表の改正指針・指針解説、消費者庁Q&Aの最新版を確認します。
現行規程・関連文書の収集
内部通報規程だけでなく、就業規則、誓約書、業務委託契約ひな形、委託契約まで集めます。
現行業務フローのヒアリング
規程ではなく実際の運用を確認します。
ギャップ分析
改正事項×現行規程×現行運用の3点で不足を洗い出します。
規程体系の決定
規程・要領・マニュアル・様式の役割分担を決めます。
条項別改定案の作成
関連規程・契約・様式の改定
関係部署レビュー
運用可能性を確認します。
弁護士等の確認
就業規則との関係は社会保険労務士の確認も検討します。
労使手続・取締役会等の社内承認
内部通報規程が就業規則の一部に当たるか、服務規律・懲戒を変更するかにより、労働者代表からの意見聴取や労働基準監督署への届出の要否が変わり得ます。「必ず届出が必要」「内部規程だから一切不要」と一律には言えないため、自社の規程の位置付けを確認してください。承認方法(取締役会決議か、規程管理規程上の決裁権者か)も自社ルールによります。
従事者指定・アクセス権限変更
施行日までに新体制での指定と権限を整えます。
周知・研修
対象者別に実施し、証跡を残します。
施行
施行日を明記します。
旧版の回収・アーカイブ
イントラの旧版を差し替えます。
施行後レビュー
運用実績を確認し、必要な改善を行います。
よくある誤解
対象者へフリーランスを追加すれば対応完了
妨害・探索禁止、従事者指定、周知、情報管理など規程全体と運用の見直しが必要
規程に法律条文を転載すればよい
自社の窓口・手続・責任部署に落とし込んだ行為規範にする必要がある
内部通報規程1本に全手順を書く必要がある
基本原則は規程、詳細はマニュアル・様式へ分けることが考えられる
専用窓口以外の通報は保護しなくてよい
上司等への通報も内部公益通報になり得る
匿名通報は規程上何も書かなくてよい
受付方法・連絡継続・制約を定めないと運用が混乱し、一律排除は制度趣旨に反する
通報妨害と探索は同じ行為
改正後第11条の2と第11条の3の別個の禁止行為であり、範囲外共有ともそれぞれ別概念
通報者情報を知った者は全員従事者
従事者は2要件を満たす者を事業者が指定して定める
役員・外部弁護士は必ず従事者
役職ではなく2要件への該当性と指定の有無で決まる
フリーランス契約解除にも解雇と同じ刑事罰がある
直罰・推定規定は労働者の解雇・懲戒が対象
役員解任は無効になる
法律上の救済は損害賠償請求
契約解除・人事処分の判断過程は記録しなくてよい
推定規定への反証や説明責任のため客観的な記録が重要
周知はイントラに規程を載せれば完了
対象者別の到達手段と証跡、認知度の評価まで求められる
役員・退職者・フリーランスへの周知は任意
法定指針上の周知・啓発の対象に含まれる
記録の保存期間は法律で一律に決まっている
一律の法定年数はなく、指針解説や自社の保存規程・時効等を踏まえて設計する
内部通報規程は必ず労基署へ届出が必要
就業規則との関係・規程の位置付けにより異なる
内部規程だから労使手続は一切不要
服務規律・懲戒に関わる変更では手続が必要になり得る
親会社規程があれば子会社規程は不要
体制整備義務は各法人が負い、子会社側の整理が必要
規程改定日を施行日に遡らせてよい
遡及処理は文書の信頼性を損なう不適切な対応
規程を改定すれば運用変更は不要
規程・運用・権限・記録の一致が求められる
実務チェックリスト
このチェックリストは点検の抜け漏れを防ぐための道具であり、すべてにチェックが付けば規程改定の適法性が保証されるというものではありません。個別の条項の適否は、自社の体制と一次資料に照らした検討が必要です。
シリーズ全11話のご案内
まとめ
本記事の要点を整理します。第一に、対象者条項だけの修正では改正法対応は完了しません。通報妨害・探索禁止、不利益取扱い、従事者指定、周知・啓発、調査・是正、情報管理まで、規程全体を見直す必要があります。第二に、検討の際は法律本文・法定指針・指針の解説を区別し、労働者・派遣労働者・フリーランス・役員で法的効果が異なることを正確に書き分けてください。第三に、専用窓口以外への通報も内部公益通報となり得ることを前提に、窓口間の引継ぎと本人意向への配慮を設計します。第四に、基本原則は規程に、詳細手順はマニュアル・様式に分け、就業規則・懲戒規程・業務委託契約・秘密保持契約等との整合を取ります。第五に、規程と実際の運用・アクセス権限・記録を一致させ、新旧対照表で改定理由と運用変更を残し、社内承認・周知・従事者指定・研修まで含めて施行日前に完了させ、施行後には運用状況のレビューを行ってください。
もっとも、ここまでの内容は主に一定規模の体制を持つ企業を想定した整理です。従業員300人以下の企業や、法務担当者が1人しかいない会社では、「どこまでやれば足りるのか」という優先順位の悩みが加わります。次回の第9話では、中小企業・ひとり法務の視点から、努力義務と義務の線引き、限られたリソースでの現実的な対応順序を解説します。
主な参照資料
本記事は2026年7月13日時点の法令・公的資料に基づいています。指針・Q&A等は今後更新される可能性があるため、実際の規程改定にあたっては消費者庁ウェブサイト等で最新の一次資料を必ずご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。
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