フリーランスも公益通報者に|業務委託先からの通報にどう備えるか
2026年施行・公益通報者保護法改正対応シリーズ
第4話フリーランスも公益通報者に|業務委託先からの通報にどう備えるか
2026年12月施行の改正公益通報者保護法では、特定受託業務従事者、いわゆるフリーランスが公益通報者の範囲に追加されます。保護対象者、業務委託契約の解除・取引停止・報酬減額等の禁止、企業が見直すべき契約・窓口・運用を解説します。
外部のエンジニアやデザイナーから法令違反の通報があった場合、それは公益通報になるのでしょうか。通報後に契約を終了すると、公益通報者保護法違反になるのでしょうか。発注を減らしただけでも問題になるのでしょうか。
結論から整理します。改正法により、法律上「特定受託業務従事者」と呼ばれる、いわゆるフリーランスが公益通報者の範囲に追加されます。ただし、業務委託先や取引先法人であれば誰でも保護対象になるわけではありません。保護対象となる個人と、その個人に係る特定受託事業者を区別して理解する必要があります。公益通報を理由とする契約解除、発注数量の削減、取引停止、報酬減額等は禁止されますが、労働者向けの推定規定・直罰規定がそのままフリーランスへ適用されるわけではありません。
この記事で分かること
保護対象者の説明にとどめず、業務委託管理・契約終了判断・調達実務に使える記事とすることを目指します。
読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。
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改正でフリーランスの何が変わるのか
まず全体像を比較します。改正前も、フリーランスが一般法上まったく保護されていなかったわけではありません。改正前から、契約に基づく債務不履行や不法行為の一般法理、独占禁止法上の優越的地位の濫用規制、フリーランス法上の規律等は存在していました。今回の改正で新設されたのは、公益通報者保護法という枠組みの中で、フリーランスを公益通報者として位置付け、通報を理由とする特定の不利益取扱いを禁止する規定です。
| 論点 | 改正前 | 改正後 | 企業実務への影響 |
|---|---|---|---|
| 公益通報者の範囲 | 労働者、派遣労働者、役員、退職後1年以内の退職者等 | 左記に加え、特定受託業務従事者(フリーランス)を追加 | 業務委託先からの通報を公益通報として扱う体制が必要になる |
| 契約終了後の者 | フリーランスとしての保護規定自体がなし | 通報日前1年以内に業務委託関係にあった者も対象になり得る | 契約終了後の元委託先からの通報にも留意が必要 |
| 不利益取扱いの禁止 | 公益通報者保護法上の明文規定なし(一般法理・フリーランス法等による保護にとどまる) | 公益通報を理由とする不利益取扱いを第5条で明文禁止 | 契約解除・発注削減等の判断に通報の有無を確認する必要が生じる |
| 契約解除 | 公益通報者保護法上の規律なし | 公益通報を理由とする契約解除は第5条の禁止対象 | 解除理由の記録が重要になる |
| 取引数量削減 | 公益通報者保護法上の規律なし | 第5条の禁止対象として明記 | 発注数量変更の理由記録が必要 |
| 取引停止 | 公益通報者保護法上の規律なし | 第5条の禁止対象として明記 | 同上 |
| 報酬減額 | 公益通報者保護法上の規律なし(フリーランス法上の別の規律はあり) | 第5条の禁止対象として明記 | 単価改定理由の記録が必要 |
| 通報窓口 | フリーランスを想定した明文の受付義務なし | 第11条の法定体制整備義務がフリーランス通報へ直接拡張されたわけではないが、第5条対応のため受付方法の検討が実務上重要になる | 法定義務の範囲と自主的な実務対応を区別したうえで、フリーランスが通報できる連絡先・受付方法を検討する |
| 契約・発注管理 | 公益通報を意識した管理は前提とされていない | 契約解除・発注変更の判断過程に公益通報との関係確認が必要 | 調達・購買部門の決裁フローの見直しが必要 |
法律上のフリーランスとは誰か
「フリーランス」は日常語であり、公益通報者保護法自身がこの言葉を定義しているわけではありません。改正後第2条第1項は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス法)第2条第2項の「特定受託業務従事者」を引用する形で、保護対象を定めています。まず、フリーランス法上の概念関係を確認します。
ここで重要なのは、公益通報者として保護されるのは「特定受託事業者」ではなく「特定受託業務従事者」、つまり必ず自然人であるという点です。特定受託事業者が法人である場合、法人そのものではなく、その代表者が特定受託業務従事者として保護対象になります。この違いを踏まえ、対象になり得る者を整理します。
| 区分 | 対象になり得るか | 確認すべき条件 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 従業員を使用しない個人事業主 | 対象になり得る | 従業員を使用していないこと | 本人が特定受託業務従事者に当たる |
| 一人会社(代表者以外に役員がなく従業員もいない法人)の代表者 | 対象になり得る | 代表者以外に役員がなく、従業員も使用していないこと | 保護対象は法人自体ではなく代表者個人 |
| 労働者を雇用する個人事業主 | 個別確認が必要 | フリーランス法上の「従業員を使用」に該当するか(週所定労働時間20時間以上かつ継続31日以上の雇用見込みが目安とされる) | 短時間・短期間の一時的な雇用のみでは「従業員を使用」に当たらない場合がある。一定の派遣労働者の受入れも「従業員を使用」に該当し得るため、公的基準に沿って確認する |
| 複数役員がいる法人(の代表者) | 対象外 | 代表者以外に役員がいるかどうか | 役員が一人でもいれば特定受託事業者の定義から外れる |
| 副業で業務委託を受ける会社員 | 個別確認が必要 | 本業の雇用状況とは別に、従業員を使用しない個人として業務委託を受けているか | 実態を踏まえた個別確認が必要 |
| 派遣労働者 | 対象外(フリーランスとしては) | – | 派遣労働者としての保護(第4条等)は別途及ぶ |
| 請負会社の従業員 | 対象外(フリーランスとしては) | – | 継続的取引先の労働者としての保護は別途及び得る(後述) |
| 取引先法人そのもの | 対象外 | – | 保護対象は自然人。法人自体は公益通報者にならない |
| 再委託先の個人 | 対象になり得る | その個人または一人会社が特定受託事業者に該当するか、誰がその特定受託事業者へ直接業務委託をしているか | 元請・一次受託・再委託の関係だけで一律に決めず、各契約当事者と実際の委託関係を確認する |
誤解しやすい点
「個人事業主なら全員が対象」「業務委託契約なら全員が対象」という理解は誤りです。従業員の有無、役員構成が判定の鍵になります。また、契約書上の名称が「業務委託」「顧問」「パートナー」等であっても、実態として労働者性が認められる場合は、フリーランスとしてではなく労働者としての保護(第3条等)が問題になり得る点にも注意してください。
誰からの通報が保護対象になるか
現在の取引先か、取引が終了した者かによって、対象性の確認方法が変わります。
現在の業務委託関係にある場合
取引終了後の場合
改正後第2条第1項第3号は、現に特定受託業務従事者である者に加え「特定受託業務従事者であった者」も対象に含めていますが、これは単に本人が過去にフリーランスだったかだけで決まるものではありません。条文は、通報の相手方となる事業者が、その通報者に係る特定受託事業者へ業務委託をしているか、または通報の日前1年以内に業務委託をしていたかを基準としています。つまり、「誰が」「誰に係る特定受託事業者へ」「いつ業務委託をしていたか」という、対象事業者との関係で判定される点に注意してください。以下、代表的な場面を確認します。
どの発注者が不利益取扱い禁止義務を負うのか
不利益取扱いを禁止されるのは、通報者に係る特定受託事業者へ現に業務委託をしている事業者、または通報日前1年以内に業務委託をしていた事業者です。次の点に注意してください。
「関係会社であればすべて義務を負う」「現場で接点があれば発注者になる」といった単純化は避け、契約関係と業務委託の実態を個別に確認してください。
どのような取扱いが禁止されるか
改正後第5条は、特定受託業務従事者である自然人が公益通報をしたことを理由として、発注事業者が、その者に係る特定受託事業者に対して、業務委託に係る契約の解除、取引数量の削減、取引停止、報酬の減額その他不利益な取扱いをすることを禁止しています。契約当事者が一人会社である場合、契約解除等を受けるのは代表者個人ではなく、契約当事者である法人(特定受託事業者)である点に注意してください。ただし、これらの行為すべてが当然に第5条違反になるわけではありません。公益通報を「理由として」行われたことが必要であり、独立した契約上の正当な理由がある場合は、個別の証拠・経緯の確認が必要です。
| 取扱い | 条文上の位置付け | 判断上の条件 | 必要な記録 |
|---|---|---|---|
| 契約期間途中の解除 | 第5条に明示(契約解除) | 独立した解除理由(債務不履行等)の有無 | 解除理由、経緯、通知記録 |
| 更新拒否 | 契約解除、取引停止またはその他不利益な取扱いに該当し得る(条文上の分類は個別事情による) | 契約期間、更新慣行・更新期待の有無、拒否理由 | 更新判断の理由記録 |
| 発注数量削減 | 第5条に明示(取引数量の削減) | 事業上の必要性、他の委託先との比較 | 発注数量変更の理由記録 |
| 取引停止 | 第5条に明示 | 独立した停止理由の有無 | 停止理由、経緯 |
| 報酬単価引下げ | 第5条に明示(報酬の減額) | 市況・契約条件変更等の独立した理由の有無 | 単価改定理由、交渉記録 |
| 検収拒否 | 「その他不利益な取扱い」に該当するか個別判断 | 品質基準に照らした客観的理由の有無 | 検収基準、不合格理由の記録 |
| 支払遅延 | 「その他不利益な取扱い」に該当するか個別判断 | 正当な支払保留事由の有無(フリーランス法上の支払期日規制とも関係) | 支払遅延の理由 |
| 一部業務の除外 | 取引数量の削減に該当するか個別判断 | 業務再編等の独立した理由の有無 | 業務再編の経緯 |
| アカウント停止・プラットフォーム排除 | 「その他不利益な取扱い」に該当するか個別判断 | 規約違反等の独立した理由の有無 | 停止理由、規約適用の経緯 |
| 取引先への悪評の流布 | 「その他不利益な取扱い」に該当するか個別判断 | 事実に基づく正当な情報提供か、不当な信用毀損か | 発言内容、経緯 |
| 損害賠償請求・違約金請求 | 「その他不利益な取扱い」に該当するか個別判断 | 契約違反の客観的事実の有無 | 請求根拠となる契約違反の証拠 |
| 通常より厳しい条件への一方的変更 | 「その他不利益な取扱い」に該当するか個別判断 | 他の委託先と比較した条件の不均衡 | 条件変更の理由、比較資料 |
この表で重要なのは、「禁止」か「対象外」かを名称だけで二分できないということです。品質不良や納期遅延など独立した正当な理由に基づく契約解除・発注削減は、直ちに第5条違反になるわけではありません。一方で、その正当な理由が後付けで作られたものであったり、通報時期との近接性が不自然であったりする場合は、公益通報を理由とするものと評価される可能性が高まります。
契約解除は当然に無効になるのか
労働者の解雇・懲戒、派遣契約の解除と異なり、フリーランスとの契約解除には、法律上の明文の無効規定は置かれていません。この違いを正確に理解してください。
| 区分 | 禁止規定 | 明文の無効規定 | 推定規定 | 直罰規定 | 個別検討事項 |
|---|---|---|---|---|---|
| 労働者の解雇・懲戒 | 第3条第1項 | あり(第3条第2項) | あり(第3条第3項) | あり(第21条第1項) | – |
| 派遣契約の解除 | 第4条第1項第1号 | あり(第4条第2項) | 準用なし | 準用なし | 派遣先による交代要求その他の不利益取扱いは第4条第1項第2号で別途禁止 |
| フリーランスとの契約解除 | 第5条 | 明文の無効規定なし | 準用なし | 準用なし | 民法上の一般法理、フリーランス法上の規律、損害賠償請求の可能性を個別検討 |
| 役員の解任 | 第6条 | 明文の無効規定なし(解任は有効を前提) | 準用なし | 準用なし | 解任による損害賠償請求権を規定 |
「公益通報を理由とした契約解除は当然に無効になる」と断定することはできません。第5条には、第3条第2項や第4条第2項のような明文の無効規定が置かれていないためです。もっとも、「無効規定がないから何の責任も生じない」というのも誤りです。第5条に違反する取扱いがあった場合には、契約関係や具体的事情に応じて、債務不履行、不法行為その他の一般法理に基づく損害賠償請求等が問題となり得ます。ただし、第5条違反のみから当然に一定の民事効果が生じると一律に断定することはできず、請求原因、損害、因果関係等を個別に確認する必要があります。契約上の地位確認や継続的契約の解除法理についても、当然に認められるものではなく、公的資料で契約解除の民事効果が一律に明示されているわけではないため、個別の事案ごとに、契約条項、解除の態様、フリーランス法上の規律等を踏まえた検討が必要です。
労働者との保護内容の違い
フリーランスが保護対象に追加されたことは、労働者とまったく同じ保護を受けることを意味しません。この誤解は特に注意が必要です。
| 比較項目 | 労働者 | フリーランス(特定受託業務従事者) |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 第3条 | 第5条 |
| 保護対象 | 労働者・労働者であった者 | 特定受託業務従事者・であった者(通報日前1年以内) |
| 禁止される行為 | 解雇その他不利益な取扱い | 契約解除、取引数量削減、取引停止、報酬減額その他不利益な取扱い |
| 明文の無効規定 | あり(解雇・懲戒について) | なし |
| 1年以内の推定規定 | あり(第3条第3項) | 準用なし |
| 刑事罰 | あり(第21条第1項) | 準用なし |
| 法人処罰(両罰規定) | あり(第23条第1項第1号) | 準用なし |
| 契約終了後の者 | 退職者(在職中の通報が前提となる場面が中心) | 通報日前1年以内に業務委託関係があった者を含む |
| 主な企業実務 | 人事評価・懲戒記録の整備、処分前の法務確認 | 発注・契約解除理由の記録、調達部門の判断プロセス整備 |
誤解しやすい点
推定規定や直罰規定は、労働者を対象とする第3条の枠内の規定であり、フリーランスを対象とする第5条には準用されていません。「推定規定がないから企業が自由に契約解除できる」という意味ではなく、契約解除等の理由を平時から記録しておくことの重要性は労働者の場合と変わりません。第3条第3項のような法定推定が設けられていないため、通報と不利益取扱いとの関係は、契約変更の時期、理由、社内記録、担当者の発言、他の委託先との比較等の証拠から個別に判断されることになります。
公益通報者保護法とフリーランス法の違い
公益通報者保護法の改正を「フリーランス法改正」と呼ぶのは誤りです。両者は別の法律であり、目的も規律内容も異なります。改正後第8条第3項は、公益通報者保護法第5条の規定が、フリーランス法第5条および第6条第3項の適用を妨げるものではないと定めており、両法が並行して適用され得ることを前提としています。もっとも、これは両法が自動的に同時に成立することを意味するのではなく、それぞれの法律が定める要件を別個に満たすかどうかを確認する必要があります。
| 項目 | 公益通報者保護法 | フリーランス法 |
|---|---|---|
| 法律の目的 | 公益通報者の保護、法令遵守の促進 | フリーランスの取引適正化、就業環境の整備 |
| 対象となる当事者 | 労働者、派遣労働者、役員、フリーランス等(通報者側) | 特定受託事業者・特定業務委託事業者(取引当事者一般) |
| 主な義務・禁止 | 公益通報を理由とする不利益取扱いの禁止等 | 契約条件の明示、報酬支払期日、募集情報の的確表示、ハラスメント対策等 |
| 通報との関係 | 公益通報を理由とする不利益取扱いを禁止(第5条) | 相談・申出等を理由とする不利益取扱いを別途禁止(フリーランス法上の規律) |
| 不利益取扱い | 契約解除、取引数量削減、取引停止、報酬減額等(公益通報を理由とする場合) | 報酬減額、受領拒否、不当な給付内容の変更等(フリーランス法上の禁止行為) |
| 行政機関 | 消費者庁 | 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省(適用条項により異なる) |
| 違反時の効果 | 民事上の禁止・第5条違反の効果は個別検討、刑事罰は労働者の解雇・懲戒に限定 | 適用条項に応じた助言・指導、勧告、命令、公表、罰則等 |
同じ事案でも、両方の法律が並行して問題になり得ます。例えば、公益通報を理由とする報酬減額は、公益通報者保護法第5条の問題であると同時に、フリーランス法上の報酬減額規制の問題にもなり得ます。「フリーランス法上の申出はすべて公益通報になる」わけでも、「公益通報者保護法に対応すればフリーランス法対応も完了する」わけでもありません。それぞれ別の法律として確認する必要があります。
既存の通報窓口をどう見直すか
改正後第11条の体制整備義務が、フリーランスからの通報にそのまま拡張されたわけではありません。同条第1項・第2項が直接対象とする内部公益通報は、労働者等による第3条第1項第1号の通報と、役員による第6条第1項第1号の通報です。もっとも、改正後第5条により、特定受託業務従事者が公益通報をしたことを理由とする契約解除、取引数量の削減、取引停止、報酬減額その他の不利益取扱いは禁止されます。そのため、企業が第5条違反を防ぎ、法令違反を早期に把握・是正する方法として、既存窓口の利用対象を自主的に拡大すること、専用窓口を設けること、契約担当部署以外の連絡先を案内すること等が実務上考えられます。「すべての企業に専用窓口の設置義務がある」という明文規定はありませんが、保護対象となる者からの通報を受け付け、調査・是正につなげる実効的な方法を検討する意義はあります。
| 選択肢 | メリット | リスク・注意点 |
|---|---|---|
| 既存の従業員向け窓口を開放する | 新たな窓口整備が不要、既存の運用ノウハウを活用できる | フリーランス向けの案内・本人確認・契約終了後の利用方法を別途整理する必要がある |
| フリーランス・業務委託先専用窓口を設ける | フリーランス特有の事情(契約構造、通報対象となる発注者の特定等)に対応しやすい | 整備・運用コストが増える。委託先数が少ない企業には過大な場合もある |
| 調達・購買部門を一次受付とする | 契約関係を把握している部門が対応できる | 調達部門自体が通報対象となる場合の利益相反に注意が必要 |
| 外部窓口を利用する | 独立性・秘密保持の観点で優れる | コストが生じる、社内是正までの連携体制が必要 |
| Webフォーム等で共通受付し、内部で振り分ける | 従業員・フリーランス双方から一元的に受け付けられる | 振り分けルールと担当部署間の引継ぎ・秘密保持の設計が必要 |
どの選択肢が最適かは、企業規模、委託先数、案件の特性、既存の体制によって変わり、「専用窓口が必ず最適解」とは限りません。常時使用する労働者数が300人を超える事業者では、労働者等・役員向けの体制整備義務(第11条第1項・第2項)が法的義務となりますが、これはフリーランス通報への対応を直接義務付けるものではありません。もっとも、既に整備された体制やノウハウを、第5条対応のためにフリーランスへも自主的に活用しやすいという実務上の関係はあります。300人以下の事業者では労働者等向けの体制整備義務自体が努力義務にとどまりますが、第5条の不利益取扱い禁止は企業規模を問わず適用されるため、業務委託先の数が多い企業では、規模にかかわらず実務上の対応を検討する意義があります。
業務委託契約書で確認すべき条項
契約書の完成したひな形をこの記事だけで示すことはできませんが、確認すべき視点を整理します。詳細な条項改定は第8話で扱います。
| 条項 | 問題になり得る文言 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 秘密保持 | 「業務上知り得た情報を一切開示してはならない」等の無限定な条項 | 通常の秘密保持条項が直ちに無効になるわけではないが、法令違反の通報まで一律に禁止する運用にならないよう確認する |
| 対外発信禁止・信用毀損 | 「会社の信用を害する行為を一切禁止する」等の包括条項 | 公益通報を行ったこと自体を契約違反として扱わないよう、運用面での配慮を確認する |
| 契約解除 | 「会社が不適当と認めたときは解除できる」等の広範な解除事由 | 解除条項があること自体が、公益通報を理由とする解除を正当化するものではない点を確認する |
| 違約金・損害賠償 | 公益通報を理由とする請求を排除しない包括的な条項 | 請求の根拠となる契約違反が、通報とは独立した事実に基づくかを確認する運用にする |
| 報酬変更・発注数量変更 | 変更理由を要求しない条項 | 変更理由を記録する運用と整合させる |
| 検収 | 検収基準が曖昧な条項 | 基準を明確にし、恣意的な検収拒否が疑われないようにする |
| 再委託 | 再委託先の範囲が不明確な条項 | 再委託先も特定受託業務従事者に当たり得ることを踏まえて確認する |
| 通報窓口・法令遵守 | 窓口案内がない、または連絡先が古い | 通報窓口の案内を契約書・発注書等に明記することを検討する |
| 契約終了後の義務 | 契約終了後の秘密保持義務が公益通報を萎縮させる形になっていないか | 契約終了後も通報自体は制限されないことを踏まえて確認する |
修正例を2つ示します。「会社の信用を毀損する一切の行為を禁止する」という条項であれば、「本条は、公益通報者保護法その他の法令に基づく通報、申告、相談または行政機関等への情報提供を妨げるものではない」といった除外規定を設けることが考えられます。「業務上知り得た情報を第三者に開示してはならない」という秘密保持条項についても、同様に法令に基づく通報・相談・情報提供を妨げない旨を注記することが考えられます。もっとも、これらは完成された条項ではなく方向性の例であり、実際の条項は契約全体との整合性を確認したうえで、個別の契約内容に応じて確認してください。
契約解除・発注削減前の判断フロー
契約解除や発注削減を検討する際は、次の手順で確認することをお勧めします。
次のいずれかに該当する場合は、追加確認が必要な警告サインとして扱ってください。該当すること自体が直ちに違法を意味するわけではありませんが、慎重な検討が必要です。
ケース別に考える
ケース1:契約期間中のフリーランスが発注者の法令違反を内部窓口へ通報し、翌月発注が半減した
第5条の取引数量削減に該当し得ます。発注削減に独立した事業上の理由(受注量の減少、予算縮小等)があるか、その理由が通報前から存在していたか、他の委託先の発注量も同様に減っているかを確認します。通報との時間的近さだけで結論が決まるわけではありませんが、削減幅や時期が不自然であれば、通報を理由とするものと評価されるリスクが高まります。
ケース2:成果物に重大な品質不良があり、通報後に契約を解除した
品質不良が客観的資料(検収記録、指摘履歴等)で裏付けられ、通報前から問題が把握されていたのであれば、通報とは独立した解除理由として扱われやすくなります。改善機会を与えたか、解除条項に沿った手続を踏んだかも確認します。
ケース3:契約終了8か月後の元フリーランスが通報した後、再契約候補から除外された
通報日前1年以内の業務委託関係に当たるため、保護対象になり得ます。再契約候補からの除外は「その他不利益な取扱い」に当たり得るため、選考理由を記録し、他の候補者との比較を確認する必要があります。
ケース4:一人会社を通じて受託している代表者が通報した
まず、その法人が特定受託事業者の要件(代表者以外に役員がなく、従業員も使用しないこと)を満たすかを確認します。満たす場合、保護対象となるのは代表者個人(特定受託業務従事者)であり、契約当事者である法人そのものに対する取扱いも、実質的には代表者への不利益取扱いとして問題になり得ます。
ケース5:業務委託先法人の一般従業員が発注者の不正を通報した
その従業員は、通常、特定受託業務従事者には該当しません(特定受託事業者は従業員を使用しない個人・一人会社に限られるため)。一方、改正後第2条第1項第4号の労働者等として保護対象となる可能性があります。ただし、単に取引先企業の従業員であるだけで足りるわけではなく、役務提供先等との関係、通報対象事実、通報先ごとの保護要件を個別に確認する必要があります。取引先法人自体は、いずれにせよ公益通報者にはなりません。
ケース6:契約解除はしなかったが、報酬単価を20%引き下げた
第5条の報酬減額に該当し得ます。市況変動、契約更新時の通常の価格改定交渉など、独立した理由があるかを確認します。他の委託先の単価改定状況との比較、値下げ幅の大きさ、通報時期との近さも、判断材料になります。
企業側のNG対応
次のような対応は、第5条違反や通報妨害の問題を生じさせ、紛争リスクを高めます。
施行日前に企業が整備すべきこと
次の取り組みには、法律上の明文義務だけでなく、実務上の推奨策も含まれます。
また、施行日は2026年12月1日であり、施行前にされた公益通報についても、罰則を除く改正後の規定は原則として適用されます。第5条違反そのものには、労働者への解雇・懲戒に関する第21条第1項と同じ直罰規定は設けられていません。ただし、通報妨害(第11条の2)、従事者の秘密保持義務、フリーランス法その他の法令上の問題は別途生じ得るため、これらについては別途確認が必要です。施行前に締結された契約であっても、施行日以後に契約解除・発注削減等が行われる場合は、改正後の枠組みが問題になり得ます。施行前から続く取引数量削減や取引停止についても、通報との関係が問題となる場面では、経過措置を含めて個別に確認してください。
よくある誤解
業務委託先ならすべてフリーランスとして保護される
特定受託事業者・特定受託業務従事者の要件(従業員の不使用等)を満たす必要があります
個人事業主なら全員が特定受託業務従事者である
従業員を使用している個人事業主は対象外です
取引先法人そのものが公益通報者になる
保護対象は自然人(特定受託業務従事者)であり、法人自体は公益通報者になりません
一人会社は法人なので対象外である
代表者以外に役員がなく従業員も使用しない一人会社では、代表者が特定受託業務従事者として対象になり得ます
契約終了後は保護されない
通報日前1年以内に業務委託関係があった者は保護対象になり得ます
通報から1年以内なら必ず保護される
1年以内であることに加え、通報が公益通報の要件を満たすことが必要です
フリーランスへの契約解除はすべて無効になる
第5条には明文の無効規定がなく、契約解除の民事効果は個別の検討が必要です
フリーランスにも労働者と同じ推定規定が適用される
第3条第3項の推定規定は第5条に準用されていません
フリーランスとの契約解除にも同じ刑事罰がある
第21条の直罰規定は労働者への解雇・懲戒を対象とし、フリーランスの契約解除には適用されません
発注数量を減らすだけなら問題ない
取引数量の削減も第5条の禁止対象として明示されています
正当な品質不良があっても契約を終了できない
独立した正当な理由に基づく契約終了まで禁止するものではありません
フリーランス法に対応すれば公益通報者保護法対応も完了する
両法は別の法律であり、それぞれ確認が必要です
秘密保持条項はすべて無効になる
通常の秘密保持条項が直ちに無効になるわけではありません
既存の従業員窓口を必ずそのまま開放しなければならない
開放方法は複数の選択肢があり、専用窓口の設置が一律に義務付けられているわけでもありません
300人以下の企業は何もしなくてよい
体制整備義務は努力義務ですが、第5条の不利益取扱い禁止は企業規模を問わず適用されます
契約書を改定すれば対応は完了する
契約書の見直しに加え、窓口運用、発注・解除判断プロセス、記録整備が必要です
実務チェックリスト
実務上の留意点
このチェックリストは確認事項の一覧であり、これだけで個別案件の適法性が判断できるものではありません。個別の事案については、記録を踏まえたうえで、法務部門や弁護士による具体的な検討が必要です。
シリーズ全11話の案内
まとめ
改正法により、特定受託業務従事者、いわゆるフリーランスが公益通報者の範囲に追加されます。ただし、すべての業務委託先や取引先法人が対象になるわけではなく、特定受託事業者と特定受託業務従事者を区別して理解する必要があります。通報日前1年以内に業務委託関係があった者も対象になり得ます。
公益通報を理由とする契約解除、取引数量削減、取引停止、報酬減額等は禁止されますが、フリーランスには労働者と同じ推定規定・直罰規定は適用されません。契約解除が当然に無効になるとも一律には断定できません。公益通報者保護法とフリーランス法は別の法律であり、並行して適用され得ます。
契約書の見直しだけでなく、通報窓口、発注・解除の判断プロセス、情報管理の運用を見直し、契約変更・終了理由を平時から記録しておくことが重要です。
次の記事では、通報をしない旨の合意を無効とする通報妨害の禁止と、通報者探索の禁止について解説します。
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