問題社員対応の実務

注意・指導から懲戒・退職・解雇まで、会社が整える実務

第10話 / 全10話(最終話) 退職・解雇 労務・人事コンプライアンス

問題社員を解雇できる?
会社が解雇を検討する前の最終チェックリスト

法令・情報基準日:2026年9月5日

「何度指導しても改善しません。もう解雇できますか」

「退職勧奨を断られました。次は解雇ですよね」

「30日前に通知すれば解雇できますか」

「能力不足を理由に普通解雇できますか」

シリーズ最終話は、これらの相談への回答から始めます。

法務の結論

「問題社員だから解雇できる」という法律上の基準はありません。

会社が確認するのは、具体的な解雇理由、その事実、これまでの会社の対応、改善可能性、本人の事情、解雇以外の選択肢、法令上の制限を踏まえたうえで、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえるかです。労働契約法16条は、これを欠く解雇を権利の濫用として無効としています。

そしてもう一つ、この記事で明確に否定しておきたい誤解があります。30日前の予告は、解雇を有効にする要件ではありません。

労働基準法20条の解雇予告は、解雇する場合に別途必要となる手続です。予告をしても、予告手当を支払っても、解雇理由が不合理であれば解雇の有効性が認められるわけではありません。実体(労契法16条)と手続(労基法20条)は別の話です。

第10話は、第1話から第9話までの全工程を経てもなお解雇を検討する場合の、最終ゲートとして設計しています。

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問題社員は解雇できる?

結論は、個別の事情によります。

「問題社員」というラベル自体は、解雇理由になりません。第1話から一貫している考え方ですが、最終局面でも同じです。次のように変換してください。

評価(そのままでは使えない)変換後(解雇理由の候補)
問題社員だから何をしたのか/何ができていないのか
能力がないどの職務の、どの水準に、どの程度達していないのか
協調性がないどの場面で、どの言動があったのか
会社に合わないどの労働契約上の義務に違反したのか
迷惑をかけている業務・顧客・他の社員にどのような影響が生じたのか

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法的根拠

労働契約法16条は、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とすると定めています。

ポイントは、この判断が「社員に問題があるか」ではなく「なぜ雇用契約を終了させる必要があるのか」を会社が説明できるかという形で行われることです。

普通解雇・懲戒解雇・整理解雇は違う

図表1|普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の違い

観点普通解雇懲戒解雇整理解雇
性質労働契約上の債務の不履行・適格性等を理由とする契約終了非違行為に対する懲戒として行う解雇経営上の理由による人員削減
典型的な理由能力不足、勤務成績不良、一定の勤怠不良、傷病、適格性欠如横領、重大な情報漏えい、重大な服務規律違反等経営不振、事業所閉鎖等
主な根拠条文労働契約法16条懲戒としては同法15条。解雇でもあるため16条との関係も検討同法16条
就業規則上の根拠解雇事由の定め(労基法89条3号)懲戒の種類・事由の定め(同条9号)+解雇事由解雇事由の定め
退職金通常は規程どおり規程により不支給・減額の定めがある場合がある通常は規程どおり
本記事での扱い中心判断は第7話、手続は第8話個人の問題とは別類型。本記事では扱わない

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懲戒解雇は「労働契約法15条だけを見ればよい」という関係ではありません。 懲戒処分としての枠組みで検討したうえで、労働契約を終了させる解雇でもあることから、解雇法理との関係も確認します。

最も避けるべき発想

「普通解雇が難しいので懲戒解雇にする」「懲戒解雇が難しいので普通解雇にする」

種類は、事案の性質から決まります。目的から逆算して種類を選ばないでください。 根拠も要件も別です。

最初に無期契約か有期契約かを確認する

見落とされやすく、しかし判断枠組みが根本から変わる論点です。

図表2|無期契約と有期契約の期間途中の解雇

観点無期労働契約有期労働契約(期間途中)
根拠条文労働契約法16条労働契約法17条1項
基準客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間において解雇することができない
実務上の位置づけ本記事の中心無期契約より厳格に判断される

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有期契約の期間途中の解雇について、無期契約と同じ説明をしないでください。 労働契約法17条1項は「やむを得ない事由」を要求しており、16条とは条文の構造そのものが異なります。

なお、契約期間の満了時の雇止めは、さらに別の問題です(労働契約法19条)。有期契約だからといって「更新しなければよい」と安易に処理できるものではありません。本記事では深入りしませんが、契約種別の確認を最初に行ってください。

あわせて、職種・勤務地の限定の有無も確認します。これは後述の配置転換の検討範囲に直結します。

解雇理由を1文で説明できる状態にする

法務としての実務的な到達点は、ここです。

NG

問題社員だから/能力がない/協調性がない/会社に合わない

OK(例)

◯◯業務について、2025年◯月から2026年◯月まで◯回にわたり具体的な指導・改善支援を行ったが、業務上不可欠な◯◯の処理について同一の重大な誤りが継続し、◯◯という影響が生じており、現職務を継続することが困難と判断した。

事案によって書き方は変わりますが、第三者が読んで「なぜ雇用契約を終了させる必要があるのか」を理解できる水準が目安です。

図表3|解雇理由整理シート

項目記載内容
契約種別無期/有期(有期の場合は契約期間と残期間)
職種・勤務地の限定限定合意の有無と内容
解雇の種類普通解雇/懲戒解雇
解雇理由(要旨)1〜3文で
該当する具体的事実日時・行為・不作為・結果(複数ある場合は時系列で)
認定の根拠各事実について、どの資料によるか
就業規則上の根拠解雇事由の条項(懲戒解雇の場合は懲戒事由も)
業務への影響具体的な支障、損害、他の社員の負担
会社がこれまで行った対応指導、支援、配置、処分の履歴
改善の状況改善機会の内容と結果
本人の説明本人が述べている事情(趣旨を変えず)
争いのある事実会社の認定と本人の説明が食い違う点
検討した他の選択肢配置変更、職務変更、退職勧奨等と、その結果
法定の解雇制限の確認図表7の確認結果

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「争いのある事実」と「検討した他の選択肢」の欄が空白のまま解雇に進まないでください。

就業規則の解雇事由を確認する

確認項目確認の視点
適用される規則対象社員に適用される就業規則はどれか
解雇事由労基法89条3号により、退職に関する事項(解雇の事由を含む)は就業規則の記載事項
事実との対応認定した事実が、どの解雇事由に当たるか
施行時期行為・事情の時点で、その規定が適用されていたか
周知労働者が知り得る状態に置かれていたか(第7話

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ただし、「就業規則の解雇事由に当たれば解雇が有効」ではありません。 就業規則上の根拠は出発点であり、最後に労働契約法16条の判断が必要です。

事実と証拠は十分か

解雇理由ごとに、裏づけとなる資料を確認します。

解雇理由の類型主な資料
能力不足・勤務成績不良期待水準の資料、実績データ、指導記録、改善計画、人事評価、成果物
勤怠不良勤怠記録、連絡履歴、督促の記録、指導記録、診断書
業務命令違反命令の記録、伝達記録、本人の応答、再命令の記録
服務規律違反・非違行為客観資料、関係者の供述、本人の説明、調査記録
共通面談記録、本人説明、処分歴、過去事例、会社側の対応記録

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事実認定の考え方は第7話、初動での証拠保全は第1話を参照してください。

ここで確認していただきたいのは1点です。本人に不利な資料だけを集めていないか。 本人の説明、反対資料、会社側の対応に問題があったことを示す資料も含めて検討してください。「上司の評価」だけで判断された解雇は、後から説明できません。

類型別の最終確認

第4話から第6話で扱った各類型について、解雇を検討する段階での確認事項を整理します。

図表4|類型別の最終確認表

類型最終確認事項詳細
能力不足・勤務成績不良期待水準とその根拠/採用時に期待された能力/職位・専門性/具体的な実績と不足の程度/会社への影響/原因の切り分け/指導・教育・支援の内容/改善機会と結果/配置等の可能性第6話
遅刻・欠勤・無断欠勤期間・回数/正当な理由の有無/連絡の状況/会社の督促の記録/指導歴/本人の事情/健康状態/業務への影響/改善可能性/就業規則第4話
業務命令違反命令自体の有効性/指揮命令関係/内容の明確性/業務上の必要性/本人の理解/拒否理由/反復性/業務への影響/指導・再命令の経過第5話
服務規律違反・重大な非違行為事実認定/懲戒事由該当性/処分相当性/過去事例との均衡/二重処分/手続第7話第8話
健康・傷病休職制度の適用/休職期間/復職可能性/主治医・産業医の意見/就業上の措置/職務変更の可能性/合理的配慮/労基法19条後述

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能力不足・勤務成績不良の場合

すべての能力不足案件について、必ず特定回数の指導、研修、配置転換が法律上必要というわけではありません。 一方で、会社が何を求め、何を支援し、どう改善機会を与えたかは、多くの事案で重視される要素です。

そして、新卒・若手・長期雇用と、高度専門職・管理職・即戦力として中途採用された者とでは、評価が異なり得ます。この違いは第6話で、厚生労働省「雇用指針」の整理を踏まえて詳しく扱っています。

遅刻・欠勤・無断欠勤の場合

「◯日なら解雇」という日数基準は作らないでください。

「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」という例示を見ることがありますが、これは労働基準法20条の解雇予告除外認定に関する行政上の認定基準の例示です。解雇の民事上の有効性の基準ではありません。 この点は第4話で詳しく整理しています。

業務命令違反の場合

「1回拒否したから解雇」とはなりません。 前提として、その命令自体が有効だったか(指揮命令関係、業務上の必要性、内容の明確性、法令適合性)を確認してください。ただし、命令の重大性や違反の態様によっては、反復を待たずに評価が変わる場合もあります。

重大な非違行為の場合、改善指導は常に必要?

常に必要というわけではありません。 ここは明確にしておきます。

図表5|改善指導が重要になりやすい事案/必ずしも前提とならない事案

区分典型例会社の対応で重視されやすい点
改善指導が重要になりやすい能力不足、勤務成績不良、軽微な勤怠不良の反復、業務手順の不遵守何が問題かを伝えたか/改善すべき内容が明確か/合理的な改善機会があったか/必要な支援をしたか/結果を確認したか
改善指導が必ずしも前提とならない重大な横領・着服、重大な情報漏えい、重大な暴力行為、重大な背信行為事実認定の確実性/規程該当性/処分相当性/手続の適正

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右側の類型について、「必ず事前に3回注意する」といった一般ルールはありません。 ただし、指導が不要になるということは、事実認定と手続の確認がより重要になるということです。改善指導という工程がない分、事実の裏づけと手続の適正さで説明することになります。

懲戒解雇を検討する場合は、第7話の3段階(事実認定→懲戒事由該当性→処分相当性)と、第8話の手続を経てください。

健康・傷病を理由に解雇できる?

「働けないから解雇」という単純な処理はできません。

確認事項は次のとおりです。

確認事項確認の視点
就業規則の休職制度適用要件、休職期間、期間満了時の取扱い
休職の適用休職制度があるのに適用せずに解雇へ進んでいないか
復職可能性主治医・産業医の意見、就業上の措置の要否
職務変更の可能性現職務が困難でも、他の職務で就業可能か
障害に該当する場合合理的配慮の提供義務(障害者雇用促進法36条の3)
労基法19条の解雇制限業務上の傷病か、私傷病か(後述)

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法務・人事・上司だけで医学的な判断を行わないでください。 必要に応じて主治医、産業医その他の医療・産業保健の専門家の意見を確認し、就業規則や本人の職務内容を踏まえて、会社として就業上の措置を判断します。

裁判例

日本ヒューレット・パッカード事件・最判平成24年4月27日

最高裁は、精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者について、使用者としては精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで、その結果に応じて必要な場合は治療を勧め、休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであるとして、無断欠勤を理由とする諭旨退職処分を無効としています。

指導・改善機会は必ず必要?

検索でもよく問われるため、整理します。

すべての解雇について、法律上、固定回数の指導が必要とされているわけではありません。 「3回注意すれば解雇できる」「PIPを3か月実施すれば解雇できる」といった基準に法的根拠はありません。逆に、「3回注意しなければ解雇できない」という基準もありません。

重要なのは事案の性質です。改善可能性のある類型(能力不足、勤怠不良等)では、次の点が重視されやすくなります。

  1. 何が問題かを本人に伝えたか
  2. 何を改善すべきかが明確だったか
  3. 合理的な改善機会があったか
  4. 必要な支援を行ったか
  5. 結果を確認したか

これらは第2話第6話で扱った内容そのものです。解雇の段階で新たに用意するものではなく、これまでの記録が使えるかどうかが問われます。

配置転換・職務変更を必ず行う必要がある?

常に法律上必須とはいえません。 ただし、検討したかどうかが重要となる場合があります。

図表6|配置転換等を検討する際の要素

要素検討が重要となりやすい方向検討の必要性が下がる方向
雇用の性質長期雇用を前提とした採用特定の職務のための即戦力採用
職務の限定職務が広く限定されていない職種限定合意がある
勤務地の限定限定がない勤務地限定がある
会社規模配置可能な部署・職務が多い選択肢が乏しい
問題の範囲能力不足が特定職務に限定されている職務を問わず生じている
職位一般職管理職・高度専門職
適した職務の有無他に適した職務がある見当たらない

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裁判例

社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件・最判令和6年4月26日

最高裁は、労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと判示し、原審を破棄して差し戻しています。この事案では、解雇を回避するための配転であっても、限定合意に反する以上、命令権がそもそもなかったと整理されています。

つまり、「解雇の前に必ず配置転換を1回する」という機械的な運用は成り立ちません。 検討すべきは、①契約上そもそも配置転換ができるのか、②できるとして他に適した職務があるのか、という2段階です。検討した内容と結果は、必ず記録してください。

退職勧奨を断られたら解雇できる?

退職勧奨を断ったこと自体は、解雇理由になりません。

退職勧奨解雇
性質会社の提案+本人の同意による合意会社による一方的な労働契約の終了
本人の同意必要不要
断られた場合原則として終了する方向で検討(第9話

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解雇を検討する場合は、退職勧奨の拒否ではなく、もともとの事実・事情をもとに、労働契約法16条の判断を独立して行います。

重大リスク

退職勧奨に応じなかったことを、本人の協調性不足や適格性欠如として評価する。

これは、拒否を実質的に解雇理由に組み込むものです。退職勧奨を拒否したことを理由とする不利益な取扱いが違法とされた裁判例もあります(第9話)。

他の社員との取扱い・過去事例を確認する

同種の事案について、会社が過去にどう対応してきたかを確認します。

  • 同種の行為・状況に対する過去の対応(解雇、懲戒、配置転換、指導継続)
  • 能力不足事案・勤怠事案での過去の判断
  • 現在、同種の状況にある他の社員の取扱い

同じ結果でなければならないわけではありません。 事実関係、程度、職位、過去の指導歴、会社側の事情が違えば、結論が異なることには理由があります。ただし、違いがあるなら、その理由を説明でき、記録できる状態にしてください第7話)。

法令上「解雇してはいけない」場合を先に確認する

労働契約法16条で相当だと判断できれば終わり、ではありません。 別途、法令上の解雇制限・不利益取扱い禁止を確認してください。ここに該当する場合、16条の判断以前の問題になります。

図表7|解雇前に確認する法定の解雇制限・不利益取扱い禁止・配慮義務(主なもの)

#場面根拠内容
1業務上の傷病による療養休業労基法19条1項業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない
2産前産後休業労基法19条1項産前産後の女性が労基法65条により休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない
3上記1・2の例外労基法19条1項但書・2項労基法81条に基づき、療養開始後3年を経過しても傷病が治らない場合に打切補償を支払う場合、または天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合。後段の場合は行政官庁の認定が必要
4妊娠・出産等均等法9条3項妊娠、出産、産前産後休業の請求等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止
5妊娠中・出産後1年以内均等法9条4項妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効。ただし、事業主が同条3項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときはこの限りでない
6育児・介護の制度利用育児介護休業法10条ほか育児休業・介護休業等の申出や取得を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止
7労働組合労組法7条1号組合員であること、加入・結成しようとしたこと、正当な組合活動をしたこと等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止
8公益通報公益通報者保護法公益通報をしたことを理由とする解雇は無効。その他の不利益取扱いも禁止
9ハラスメント相談労働施策総合推進法ほか相談を行ったこと等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止
10監督機関への申告労基法104条2項労働基準監督署等への申告を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止
11障害障害者雇用促進法36条の3ほか合理的配慮の提供義務(事業主に過重な負担を及ぼす場合を除く)
12国籍・信条・社会的身分労基法3条差別的取扱いの禁止

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労基法19条は「一切解雇不可」ではない

条文どおりに読んでください。例外があります。

  • 業務上傷病の療養開始後3年を経過しても治らない場合に、労基法81条の打切補償(平均賃金の1200日分)を支払う場合
  • 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(この場合は行政官庁の認定が必要)

また、制限の対象は「業務上」の傷病による療養休業です。私傷病による休業は同条の制限の対象ではありません(ただし、休職制度の適用や復職可能性の検討は別途必要です)。

妊娠中・出産後1年以内は証明責任が会社にある

重大リスク

均等法9条4項は特に重要です。妊娠中の女性労働者および出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効とされ、事業主が、妊娠・出産等を理由とする解雇でないことを証明したときに限り、この限りでないとされています。

つまり、この期間の解雇については、会社側が「妊娠・出産等を理由とするものではない」ことを証明する立場に立ちます。 「別の理由があるから大丈夫」と考えるのではなく、その別の理由を客観的に説明・立証できる状態にあるかを確認してください。

公益通報については施行前の改正にも注意

公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由とする解雇を無効とし、その他の不利益な取扱いを禁止しています。

さらに、2026年12月1日施行の改正公益通報者保護法により、公益通報を理由とする解雇・懲戒に刑事罰が新設され、原則として公益通報をした日から1年以内にされた解雇・懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定する規定が導入されます(行政機関等や外部への公益通報について、事業者が当該通報を知った後に解雇・懲戒した場合は、事業者が通報を知った日から1年以内が推定期間となります)。

本記事の基準日である2026年9月5日時点では施行前ですが、施行後は、推定が及ぶ期間内の解雇について、会社側が公益通報以外の理由によるものであることを説明する負担が実質的に重くなります。

なお、パワーハラスメント措置義務の根拠条文は、2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法により30条の2から31条へ移ります。基準日時点では現行の30条の2です。

ここまで確認して、初めて労契法16条の最終判断

図表8|労働契約法16条の最終判断(18項目)

#判断要素確認の視点
1解雇理由の具体性1文で説明できるか。抽象語だけになっていないか
2事実の認定可能性客観資料で裏づけられるか。争点は特定されているか
3就業規則上の根拠解雇事由への該当。行為時点の規程か。周知されていたか
4問題の程度雇用契約の継続を困難にする程度か
5業務への影響具体的な支障・損害。回復可能性
6反復性単発か、継続しているか
7本人の責任の程度故意か、過失か、能力の問題か
8会社側の事情指示の明確性、業務量、教育体制、黙認の有無
9指導・改善機会何を伝え、何を求め、どの期間与えたか
10改善結果客観資料で確認できるか
11本人の事情健康、家庭、障害、その他配慮すべき事情
12配置等の可能性契約上可能か。他に適した職務があるか
13採用時の期待何を前提に採用したか。求人票・契約書・採用時の説明
14職位・専門性職責に応じた水準で判断されているか
15過去事例との均衡同種事案との差異と、その理由
16解雇制限・不利益取扱いの問題図表7の確認結果
17解雇以外の措置での対応可能性指導継続、配置変更、懲戒(より軽い処分)等
18雇用継続を求めることの困難性会社にとってどの程度困難か。それを説明できるか

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この18項目すべてが法定要件というわけではありません。 事案の性質によって、重みは大きく変わります。重大な非違行為の事案で9番・10番が薄いことは当然にあり得ますし、能力不足の事案では9番・10番・12番が中心になります。

判断の最後に置く問い

法務として、この解雇を推奨できる状態か。

できない場合、何が足りないのか。追加調査か、より軽い措置か、解雇を行わないという判断か。

30日前に予告すれば解雇できる?

できません。 ここは明確に否定します。

図表9|労働契約法16条と労働基準法20条の違い

観点労働契約法16条労働基準法20条
対象解雇そのものの有効性(実体)解雇する場合の予告手続(手続)
内容客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効少なくとも30日前の予告、または30日分以上の平均賃金の支払
制度の役割解雇の実体的な有効性を規律する解雇予告・予告手当を規律する
行政上の認定予告除外を求める場合は労働基準監督署長の認定が必要
違反の効果解雇が無効罰則の対象。予告手当の支払義務
相互関係予告をしても、16条の判断が補われるわけではない16条を満たしても、20条の手続は別途必要

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解雇理由が不合理であれば、30日前に予告しても、予告手当を支払っても、解雇の有効性が認められるわけではありません。 逆に、解雇理由が合理的であっても、予告や予告手当の手続は別途必要です。

「30日前に言えばいい」「予告手当を払えば即日でも大丈夫」という理解は、実体と手続を取り違えています。

裁判例

細谷服装事件・最判昭和35年3月11日

なお、解雇予告をしないことと、解雇が労働契約法16条により無効となることも区別する必要があります。労基法20条に違反して予告・予告手当なしに即時解雇を通知した場合の民事上の効力について、最高裁は、使用者が即時解雇に固執しない限り、通知後30日を経過するか、必要な予告手当が支払われた時点で解雇の効力が生じ得るとしています。

もっとも、これは労働契約法16条上の解雇理由が合理的・相当であることを意味するものではありません。

解雇予告はどうする?

図表10|解雇予告・予告手当の整理

場面対応
原則少なくとも30日前に予告する
予告日数が30日に満たない場合不足する日数分の平均賃金を支払う(予告日数と手当の日数は通算できる)
即時解雇30日分以上の平均賃金を支払う
天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合予告等を要しない(労働基準監督署長の認定が必要
労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合同上(労働基準監督署長の認定が必要

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解雇予告が不要な場合

労働基準法21条は、次の労働者について解雇予告の規定を適用しないと定めています。ただし、それぞれ但書に定める期間を超えて引き続き使用されるに至った場合には、適用があります。

対象但書(この期間を超えると適用あり)
日日雇い入れられる者1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合
2か月以内の期間を定めて使用される者所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合
季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合
試の使用期間中の者14日を超えて引き続き使用されるに至った場合

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ここで適用が除外されるのは、労働基準法20条の「解雇予告・解雇予告手当」です。解雇そのものの有効性についての規制がなくなるわけではありません。

たとえば、試用期間中であっても、解雇の合理性・相当性は別途問題となります。また、有期労働契約の期間途中の解雇については、労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」の有無を確認する必要があります。

「試用期間中だから予告は不要」という理解は正確ではありません。 14日を超えて引き続き使用されている場合は、解雇予告の規定が適用されます。そして、試用期間中であっても、解雇の有効性は労働契約法16条の枠組みで判断されます。

懲戒解雇なら解雇予告手当はいらない?

そうではありません。

懲戒解雇であることは、それ自体で解雇予告の適用を除外するものではありません。予告等を要しないのは、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けた場合です。

図表11|懲戒解雇と解雇予告除外認定の違い

観点解雇予告除外認定懲戒解雇の民事上の有効性
根拠労基法20条1項但書・3項労働契約法15条・16条
判断主体労働基準監督署長最終的には裁判所
判断の対象解雇予告・予告手当を要しないかどうか解雇そのものが有効か無効か
効果予告義務・予告手当支払義務の免除解雇の効力

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除外認定を受けたからといって、懲戒解雇が有効であることが保証されるわけではありません。 逆に、除外認定を受けていないことが、懲戒解雇を無効にするわけでもありません。これは第7話第8話でも繰り返し確認した点です。

なお、認定基準の例示については第4話で詳しく扱っています。厚生労働省は、認定にあたって必ずしも個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断することとされ、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由にも拘束されないとしています。

解雇通知書には何を書く?

図表12|解雇通知書の項目例

#項目記載上の注意
1宛先所属・氏名
2通知日交付日と一致させる
3解雇する旨普通解雇か懲戒解雇かを明示
4解雇日年月日を特定
5解雇理由具体的な事実を記載。抽象表現に頼らない
6就業規則上の根拠条・項・号まで特定
7解雇予告・予告手当の取扱い予告期間、または支払う予告手当の額と支払日
8貸与品の返還対象物と返還期限
9問い合わせ先手続に関する連絡先
10発行者決裁権限を持つ者の名義

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法令が、すべての普通解雇の通知書についてこれらを一律の必要的記載事項としているわけではありません。 上記は実務上の推奨項目です。ただし、5番と6番が曖昧なまま通知すると、後述する解雇理由証明書との整合が取れなくなります。

本人が解雇通知書を受け取らない場合

本人の署名・同意は、解雇の成立要件ではありません。 解雇は会社の一方的な意思表示であり、本人の同意を要しません。

ただし、別の論点があります。意思表示の「到達」です。

民法97条1項は、意思表示はその通知が相手方に到達した時からその効力を生ずると定めています。また同条2項は、相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなすと定めています。

図表13|本人が解雇通知を受け取らない場合の対応

場面会社の対応記録する内容
手交を拒否された無理に署名させない。その場で拒否の事実を記録日時、場所、同席者、本人の発言
出社していない郵送等、自社の運用と事案に応じた方法で送付送付日時、方法、宛先
郵便の受取を拒否された送付経過を記録。必要に応じて別の方法も検討発送記録、返送された事実と日付
連絡が取れない連絡を試みた経過を記録(第4話日時、手段、応答の有無

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「送ったから必ず到達した」と単純化しないでください。 具体的な事案では到達の評価そのものが争点になります。会社が管理すべきなのは「署名を取れたか」ではなく、どのように通知し、いつ本人の支配領域に到達したと評価できるかです。交付・送付の経過の記録が、その資料になります。

また、解雇日と到達の関係にも注意してください。本人への通知が到達する前の日に遡って解雇の効力を生じさせる運用は避けてください。

解雇理由証明書を求められたら?

労働基準法22条は、退職時等の証明について定めています。

場面内容
退職の場合(同条1項)労働者が、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金または退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付しなければならない
解雇予告期間中(同条2項)労働者が、解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付しなければならない(ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合は、退職の日以後はこの限りでない)
記載事項の限定(同条3項)使用者は、これらの証明書に、労働者の請求しない事項を記入してはならない

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実務上、最も重要なのは次の点です。

解雇時に会社が依拠した解雇理由、解雇通知書の記載、解雇理由証明書の記載が、不整合にならないようにする。

決裁文書、通知書、証明書で理由が食い違えば、会社の判断過程そのものへの疑義になります。後から解雇理由を自由に変えないでください。

なお、第7話で扱ったとおり、懲戒処分については、処分当時に使用者が認識していなかった非違行為をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできないとする最高裁の判断があります(山口観光事件・最判平成8年9月26日)。「後から判明した事情は一切考慮できない」という単純化はできませんが、処分時に依拠した理由を特定し、その後の文書間で一貫させることが実務上の要請です。

解雇日までの賃金・有休・引継ぎ

項目確認事項
賃金解雇日までの賃金精算、予告手当の額と支払日。労基法23条(権利者の請求があった場合は7日以内の支払・返還)の確認
年次有給休暇残日数と取得希望。退職日を越えて時季変更はできない
引継ぎ対象業務、引継ぎ先、期限
貸与品PC、社員証、鍵等の返還
アクセス権社内システムのアクセス権停止の時期
秘密情報返還・削除の対象と方法
社会保険資格喪失日、手続

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なお、退職に伴う賃金その他の金品について本人から請求があった場合は、労働基準法23条による7日以内の支払・返還も確認してください(賃金または金品に関して争いがある場合でも、異議のない部分は7日以内に支払い、または返還する必要があります)。

年次有給休暇については、会社には一定の場合に時季変更権がありますが、退職日を越えて年休の取得日を変更することはできません。 したがって、解雇日までに他に変更可能な日がない場合、「引継ぎが終わっていない」という理由だけで年休の取得を拒むことはできません(第9話)。

雇用保険の離職理由はどうなる?

用語を区別してください。会社が作成・提出するのは「雇用保険被保険者離職証明書」ハローワークが交付するのが「離職票」です。最終的な離職理由の判定は、ハローワークが事実関係を確認して行います。

ハローワークインターネットサービスが公表している「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」によれば、特定受給資格者の範囲には、解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く)により離職した者が含まれています。

したがって、実務上の整理は次のとおりです。

  • 解雇による離職は、原則として特定受給資格者の範囲に含まれる
  • ただし、自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇は除外される
  • 「懲戒解雇だから必ず除外される」という単純化はできない。 具体的な事実関係を踏まえてハローワークが判定する
  • 離職証明書の離職理由は事実に沿って記載する。解雇通知書や解雇理由証明書との整合を確認する

解雇案件では何を記録しておく?

図表14|解雇判断ファイルの構成

#文書主な内容
1案件受付記録相談の経緯、受付日、受付者
2雇用契約関係労働契約書、労働条件通知書、職種・勤務地の限定の有無
3就業規則適用される規則、解雇事由、改定履歴、周知記録
4解雇理由整理シート図表3
5事実・証拠一覧各事実と裏づけ資料の対応
6本人の説明面談記録、提出資料
7指導・改善記録指導履歴、改善計画、面談記録
8会社が行った支援教育、業務調整、配置等
9改善結果客観資料に基づく確認
10配置等の検討記録検討した範囲と結果、契約上の制約
11過去事例比較同種事案との比較と差異の理由
12法定解雇制限チェック図表7の確認結果
13労契法16条検討図表8に沿った検討
14法務意見検討結果と留意点
15決裁文書決裁者、決裁日
16解雇通知書交付した版そのもの
17通知・到達の記録交付・送付の経過
18予告・予告手当の記録予告日、手当の額と支払日
19解雇理由証明書請求があった場合の交付記録
20退職・離職手続賃金精算、貸与品、社会保険、離職証明書

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目標は、「誰が、いつ、何を根拠に解雇を判断したか」を後から再現できる状態にすることです。

会社として解雇判断ルールをどう整備する?

図表15|会社として整備する解雇判断ルール

#決めること具体的内容主管
1解雇相談の受付現場・人事からの申出先と申出様式人事
2法務エスカレーション基準解雇の検討開始時点で必ず法務へ法務
3雇用契約種別の確認無期/有期、職種・勤務地の限定人事・法務
4解雇理由整理シート図表3を社内版に法務
5証拠確認の手順何をもって事実を認定するか法務
6本人説明の確認実施の要否、方法、記録人事・法務
7指導・改善履歴の確認どこから取得するか、何を見るか人事
8他の選択肢の確認配置、職務変更、より軽い措置の検討手順人事・法務
9法定解雇制限チェック図表7を社内版チェックリストに法務
10過去事例比較事案データベースの参照手順人事・法務
11労契法16条判断シート図表8を社内版に法務
12外部弁護士へ相談する基準争う姿勢、通報等との近接、重大事案法務
13最終決裁権限誰が解雇を決裁するか経営・人事
14解雇予告・予告手当算定方法、支払手続人事・給与
15解雇通知書の様式図表12の項目法務
16解雇理由証明書請求への対応手順、様式人事・法務
17到達の記録交付・送付の手順と記録方法人事
18退職・離職手続賃金、有休、貸与品、社会保険、離職証明書人事
19記録保存保存場所、保存年限、アクセス権限人事
20紛争発生時の対応窓口労働審判・訴訟・労働局あっせん等への対応体制法務

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「現場が『もう無理』と言ったら解雇検討」という運用をやめることが、このルール整備の目的です。

問題社員解雇の最終判断フロー

図表16|解雇の最終判断フロー

STEP 1

契約種別と解雇理由を確認する

  • 有期契約の期間途中 → 労働契約法17条1項(やむを得ない事由)へ
  • 無期契約 → 解雇理由を具体的な事実に変換する(図表3)
STEP 2

事実・証拠・就業規則を確認する

  • 事実を認定できないとき → 解雇へ進まない/追加調査
  • 就業規則の解雇事由を確認する(適用・施行時期・周知)
STEP 3

会社の対応と他の選択肢を確認する

  • これまでの会社対応(指導・支援・処分)
  • 改善可能性・本人の事情
  • 配置等の他の選択肢(契約上の制約を含む/図表6)
  • 過去事例・他の社員との均衡
STEP 4

法定の解雇制限を確認する

  • 解雇制限・不利益取扱い禁止(図表7)
  • 問題があるとき → 原則として解雇へ進まない/別途法的検討
STEP 5

労契法16条の最終判断と決裁

  • 図表8の18項目で判断する
  • 相当といえないとき → 解雇しない(指導継続/配置変更/より軽い措置)
  • 相当といえるとき → 最終決裁
STEP 6

予告・通知・到達

  • 労基法20条:予告または予告手当(除外認定の要否を確認)
  • 解雇通知(通知書の交付)
  • 到達の確認と記録(民法97条)
STEP 7

退職・離職手続と記録

  • 解雇理由証明書・賃金精算・有休・貸与品・社会保険・離職証明書
  • 記録保存/案件レビュー

よくあるNG判断

図表17|解雇判断のNG例と改善

NG判断なぜ問題か代わりにすること
「3回指導したので解雇」固定回数の法的基準はない事案の性質に応じて図表8で総合判断する
「PIPを3か月やったので解雇」同上。PIPに特別な法的効力はない目標の合理性、支援、途中確認、結果を確認する
「本人も能力不足を認めているから解雇」自認は一材料。相当性の判断は別事実・影響・会社対応・他の選択肢を確認する
「退職勧奨を断ったので解雇」拒否は解雇理由にならないもともとの事実をもとに16条を独立して判断する
「就業規則に書いてあるから解雇」就業規則上の根拠は出発点にすぎない16条の判断を行う
「30日前に通知すれば解雇できる」実体と手続の取り違え16条と20条を分けて検討する
「予告手当を払えば即日解雇できる」同上同上
「無断欠勤が2週間なので解雇」除外認定の行政上の例示と民事上の有効性の混同理由、連絡、督促、指導歴、影響を確認する
「懲戒解雇だから予告不要」除外認定を受けた場合の話労基法20条の要件を別に確認する
「除外認定が出たので懲戒解雇は有効」認定の対象が違う民事上の有効性を独立して検討する
「能力不足だから必ず配転を1回してから解雇」配置転換は常に必須ではない。職種限定がある場合は命令権自体がない契約上の制約と他職務の有無を2段階で確認する
「有期契約なので途中でも普通に解雇できる」労契法17条1項の枠組みが適用される「やむを得ない事由」の有無を検討する
「妊娠中だが、別の解雇理由を用意すればよい」均等法9条4項により、会社側が証明責任を負う客観的に説明・立証できるかを確認する
「公益通報後だが、別の理由を書けばよい」報復と評価され得る。改正法施行後は推定規定も時期関係と検討経緯を確認・記録する
「本人が通知書を受け取らないから解雇できない」署名は成立要件ではない到達の評価に足りる記録を残す
解雇通知書と解雇理由証明書で理由が違う判断過程への疑義を生む依拠する理由を特定し、文書間で一貫させる

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問題社員解雇・最終チェックリスト

図表18|問題社員解雇・最終チェックリスト

【A 雇用契約】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
A1□ 無期・有期を確認した契約書、労働条件通知書人事契約確認メモ
A2□ 有期の期間途中なら労契法17条を確認した「やむを得ない事由」の有無法務検討メモ
A3□ 職種・勤務地の限定を確認した限定合意の有無と内容法務契約確認メモ

【B 解雇理由】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
B1□ 解雇理由を具体的事実に変換した日時・行為・結果法務解雇理由整理シート
B2□ 抽象語だけになっていない「問題社員」「能力不足」等法務同上
B3□ 解雇理由を1文で説明できる第三者が読んで理解できるか法務同上
B4□ 普通解雇か懲戒解雇かを判断した目的から逆算していないか法務検討メモ

【C 根拠】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
C1□ 就業規則の解雇事由を確認した該当する条項法務規程照合メモ
C2□ 対象社員に適用される規則を確認した正社員規則/別規程法務同上
C3□ 行為時点の規程を確認した改定履歴と施行日法務規程改定履歴
C4□ 周知を確認した知り得る状態にあったことを示せるか人事・法務周知記録

【D 事実】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
D1□ 客観資料を確認した各事実と資料の対応法務証拠一覧
D2□ 本人説明を確認した趣旨を変えず記録したか人事面談記録
D3□ 反対証拠を検討した本人提出資料法務検討メモ
D4□ 争いのある事実を整理した争点を特定したか法務解雇理由整理シート

【E 会社対応】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
E1□ 指導履歴を確認した何を、いつ、どう伝えたか人事指導履歴一覧
E2□ 改善目標を確認した判定可能な水準だったか人事改善計画
E3□ 支援内容を確認した実際に実施されたか人事支援実施記録
E4□ 改善結果を確認した客観資料に基づくか人事最終評価記録
E5□ 重大事案で指導が前提とならない理由を確認した事案の性質を説明できるか法務検討メモ

【F 他の選択肢】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
F1□ 配置・職務変更の可能性を確認した検討範囲と結果人事検討記録
F2□ 常に法的義務ではないことを踏まえ個別判断した事案の性質に照らしたか法務検討メモ
F3□ 職種限定合意を確認した命令権の有無法務契約確認メモ
F4□ 退職勧奨の拒否を解雇理由にしていない協調性不足等への読み替えもしていないか法務解雇理由整理シート

【G 均衡】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
G1□ 過去の類似事案を確認した対応内容と結果人事過去事例比較表
G2□ 他の社員との取扱いを確認した現在の同種事案人事同上
G3□ 異なる取扱いの理由を説明できる差異の根拠法務判断理由メモ

【H 法定制限】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
H1□ 労基法19条を確認した業務上傷病の療養休業/産前産後+各30日間法務制限チェック表
H2□ 妊娠・出産を確認した均等法9条3項・4項(証明責任)法務同上
H3□ 育児・介護制度の利用を確認した育児介護休業法法務同上
H4□ 労働組合活動を確認した労組法7条法務同上
H5□ 公益通報を確認した時期関係、2026年12月1日施行の改正内容法務同上
H6□ ハラスメント相談を確認した相談を理由とする不利益取扱いでないか法務同上
H7□ 障害・合理的配慮を確認した配慮の検討を経ているか人事・法務話合いの記録
H8□ その他保護された権利行使を確認した監督機関への申告等法務制限チェック表

【I 最終判断】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
I1□ 客観的に合理的な理由があるか図表8の1〜10法務16条判断シート
I2□ 社会通念上の相当性があるか図表8の11〜18法務同上
I3□ 解雇以外の措置では足りないかより軽い措置を検討したか法務検討メモ
I4□ 法務として解雇を推奨できる状態か足りない点は何か法務法務意見

【J 手続】

Noチェック項目確認内容担当残す記録
J1□ 決裁権限を確認した誰が決裁するか人事決裁文書
J2□ 解雇予告の要否・日数を確認した労基法20条・21条人事・法務予告記録
J3□ 予告手当の額を算定した平均賃金の計算給与計算記録
J4□ 除外認定の要否を確認した認定を受けるか否かの判断法務検討メモ
J5□ 解雇通知書を作成した図表12の項目法務通知書
J6□ 解雇日を確定した到達との関係を確認したか人事通知書
J7□ 到達の記録を残した交付・送付の経過人事交付記録
J8□ 解雇理由証明書の請求に備えた労基法22条。通知書との整合人事・法務様式・交付記録
J9□ 賃金を精算した解雇日までの賃金、予告手当。労基法23条(7日以内の支払・返還)給与精算記録
J10□ 年次有給休暇を確認した残日数、取得希望、時季変更の限界人事処理記録
J11□ 貸与品・アクセス権を処理した返還、権限停止人事・情報システム返還記録
J12□ 社会保険の手続を行った資格喪失人事手続記録
J13□ 離職証明書を事実に沿って作成した通知書・証明書との整合人事離職証明書
J14□ 記録を所定の場所に保存した図表14の構成人事保存台帳

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解雇は問題社員対応の「ゴール」ではない

シリーズ全10話の結論をまとめます。

  • 「問題社員」というラベルでは解雇できない。最初は具体的な事実の確認から始まる
  • 注意・指導では記録を残す。記録が残っていない期間は、後から会社の対応を説明・立証しにくい期間になる
  • 問題類型ごとに対応を分ける。勤怠、業務命令違反、能力不足では、確認すべきことが違う
  • 懲戒は3段階。事実認定 → 懲戒事由該当性 → 処分相当性
  • 退職勧奨は本人が断れる合意手続。断られたことは解雇理由にならない
  • 解雇は、本人の同意なしに会社が労働契約を終了させる最終措置
  • 能力不足等では、会社の対応と改善可能性が重要になりやすい
  • 重大な非違行為では、同じプロセスを機械的に適用しない。ただし事実認定と手続はより重要になる
  • 配置転換は常に必須ではない。他方、職種限定合意がある場合は命令権自体がない
  • 法定の解雇制限・不利益取扱い禁止を別途確認する
  • 労契法16条の実体判断と、労基法20条の予告手続を分ける
  • 30日前の予告や予告手当だけで、解雇が有効になるわけではない
  • 判断の経過を後から再現できる記録を残す

シリーズ全体を通じての結論

問題社員対応の実務で会社が整えるべきなのは、「辞めさせる方法」ではありません。

整えるべきは、次の再現可能な意思決定プロセスです。相談受付 → 事実確認 → 記録 → 注意・指導 → 改善支援 → 類型別対応 → 懲戒判断 → 懲戒手続 → 必要に応じ退職勧奨 → 最後に解雇の可否を独立して判断する。

このプロセスが会社にあれば、個々の判断の精度が上がるだけでなく、担当者が代わっても同じ水準の対応ができます。逆に、プロセスがないまま個別の判断だけを積み重ねると、案件ごとに結論がぶれ、その説明ができなくなります。

解雇は、このプロセスの最後にある選択肢の一つであって、ゴールではありません。 多くの事案は、その手前で解決するか、あるいは解決すべきものです。

全10話シリーズ総まとめフロー

図表19|問題社員対応の全体フロー

第1話

初動

  • 事実の特定/証拠の保全/規程確認/役割分担
第2話

注意・指導

  • 期待する行動の具体化/改善期限/記録
第3話

文書化

  • 注意書・指導書(会社発行)/顛末書・始末書(本人提出)の使い分け
第4〜6話

類型別対応

  • 第4話 勤怠:欠勤と連絡義務を分ける
  • 第5話 業務命令違反:命令の有効性の確認から始める
  • 第6話 能力不足:期待水準と改善プロセスの設計
第7話

懲戒の判断

  • 非違行為があり、懲戒を検討する場合
  • 事実認定 → 懲戒事由該当性 → 処分相当性
第8話

懲戒の手続

  • 規程確認/本人説明・弁明/審議・決裁/通知/記録
  • 新事実が出たら第7話へ戻る
第9話

退職勧奨

  • 本人との合意による終了
  • 本人には断る自由がある
  • 拒否は解雇理由にならない
第10話

解雇

  • 会社の一方的な終了
  • 労契法16条(実体)/労基法20条(手続)
  • 案件レビュー・再発防止(原因分析/規程改定/研修/内部統制)

シリーズ:問題社員対応の実務|注意・指導から懲戒・退職・解雇まで会社が整えること(全10話)

参考資料・一次資料

法令(e-Gov法令検索:https://laws.e-gov.go.jp/

  • 労働契約法(平成19年法律第128号)15条、16条、17条1項(有期労働契約の期間途中の解雇)、19条(有期労働契約の更新等)
  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)3条、19条(解雇制限)、20条(解雇の予告)、21条(解雇予告の適用除外)、22条(退職時等の証明)、23条(金品の返還)、65条、81条(打切補償)、89条3号・9号、104条2項
  • 民法(明治29年法律第89号)97条(意思表示の効力発生時期)
  • 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)9条3項・4項
  • 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)10条ほか
  • 労働組合法(昭和24年法律第174号)7条
  • 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)36条の2〜36条の4
  • 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)30条の2
  • 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)/公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号、2026年12月1日施行)

行政資料

裁判例(裁判所ウェブサイト「裁判例検索」 https://www.courts.go.jp/

  • 社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件・最判令和6年4月26日(職種限定合意と配置転換命令権)
  • 日本ヒューレット・パッカード事件・最判平成24年4月27日(精神的不調が疑われる労働者への対応)
  • 山口観光事件・最判平成8年9月26日(懲戒処分当時に認識していなかった非違行為の扱い)
  • 細谷服装事件・最判昭和35年3月11日(労基法20条に違反する即時解雇の民事上の効力)

公的参考資料

注記

本記事は2026年9月5日時点の法令・公表資料に基づいています。解雇の有効性は個別事案の総合判断であり、本記事に掲げた判断要素は、すべての事案で必ず検討すべき法定要件を列挙したものではありません。事案の性質(改善可能性のある類型か、重大な非違行為か)、雇用契約の内容(無期/有期、職種・勤務地の限定)、採用の経緯、職位・専門性、会社規模等によって、重視される要素は大きく異なります。また、公益通報者保護法の改正は2026年12月1日、労働施策総合推進法の改正は2026年10月1日に施行が予定されており、基準日時点では施行前です。雇用保険上の離職理由は最終的にハローワークが判定します。個別の事案については、自社の就業規則・規程、労働契約の内容、事実関係および最新の法令を確認のうえ、必要に応じて弁護士等の助言を得てください。

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