2026年施行・カスハラ義務化対応シリーズ

第3話 / 全10話

指針が求める措置の中身|方針明確化・相談体制・事後対応をどう整えるか

2026年10月1日 施行 法令・制度基準日:2026年7月14日

この記事でわかること

指針が定める10項目の措置の作り込み方、そろえる成果物、担当部署、整備済みといえる完了基準

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)防止のための雇用管理上の措置が、事業主の義務となります。厚生労働省の指針は、この措置を10項目に整理しています。

最も多い失敗が、「方針文書を1枚つくり、相談窓口の名称を決めて終わり」という対応です。厚生労働省の施行通達は、相談窓口について「形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていること」を明確に求めています。文書があることと、相談が届き、事実が確認され、被害者が保護される状態にあることは、まったく別の話です。

本記事では、10項目それぞれについて「何を決めるのか」「どの文書・様式を作るのか」「どの部署が担当するのか」「どうなれば整備済みといえるのか」を具体化します。制度の全体像は第1話、カスハラ該当性の判断基準は第2話で扱っているため、本記事では繰り返しません。

本記事の法令・制度基準日:2026年7月14日施行日:2026年10月1日
指針・通達・行政資料は今後変更され得ます。実際の対応にあたっては厚生労働省および都道府県労働局の最新情報をご確認ください。

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最初に結論:指針対応で最低限そろえる10の成果物

  1. 基本方針(カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する旨)
  2. カスハラの定義・具体例(自社の業種・業態に即したもの)
  3. 現場での対処内容(即時報告、単独対応の回避、記録、対応終了の基準等)
  4. 相談窓口と連絡先(担当者、連絡方法、代替連絡先、受付後の経路)
  5. 相談受付票・事実確認票(記録様式)
  6. 被害者保護の手順(直後・短期・中長期の3段階)
  7. 悪質事案への対処方針とエスカレーション基準(+関係部門の連携体制)
  8. プライバシー保護ルール(取扱担当者、保存、閲覧権限、廃棄)
  9. 不利益取扱いを行わない旨の定めと周知文
  10. 研修・定期点検の記録

文書を作ることが目的ではありません。10項目は、方針 → 周知 → 相談 → 事実確認 → 被害者保護 → 再発防止 → 点検、という一連の仕組みとして動いて初めて意味を持ちます。「作ったが誰も使えない書類」は、指針が求める水準を満たしません。

カスハラ防止で事業主が講ずべき措置とは

根拠となる3層を混同しない

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名称・番号位置付け
法律改正後の労働施策総合推進法 第33条(改正法=令和7年法律第63号/2025年6月11日公布)相談体制の整備、抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講ずる義務を課す。措置の中身は書かれていない
指針事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号/2026年2月26日告示)法第33条第4項に基づく告示。講ずべき措置の中身(10項目)と、望ましい取組を定める
通達・Q&A施行通達(令和8年4月24日付け雇均発0424第2号)/解釈Q&A「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年4月24日公表)行政の解釈を示す。新たな義務を追加するものではないが、指針の読み方を具体化し、実務水準を決める

社内説明では「法律で10項目が決まった」と言いがちですが、正確には「法第33条+指針で10項目」です。条文を確認した相手に指摘されないよう、根拠の示し方に注意してください。

10項目は企業規模を問わず必須/方法は選べる

施行通達は、10項目について「企業の規模や職場の状況の如何を問わず必ず講じなければならないもの」と明記する一方、「措置の方法については、企業の規模や職場の状況に応じ、適切と考える措置を事業主が選択できるよう具体例を示してあるものであり、限定列挙ではない」ともしています。

「方法に幅がある」ことと、「措置を省略できる」ことは別です。中小企業だから窓口を置かなくてよい、という結論は出てきません。

形式的対応と実効的対応の違い

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観点形式的な対応(不十分)実効的な対応確認方法
基本方針文書はあるが、現場が存在を知らない管理監督者を含む全労働者に周知され、内容を説明できる無作為に数名へ「会社の方針を知っているか」と聞く
相談窓口規程に記載はあるが、担当者・連絡先が未定担当者、連絡方法、代替連絡先、受付後の経路が定まり、全員が知っている現場に「今すぐ相談するなら誰に、どうやって」と聞く
現場マニュアル「毅然と対応する」と書いてあるだけ誰に報告し、いつ交代し、いつ通話を終えるかが判断できる模擬事案で判断させてみる
事実確認店長が口頭で聞き、記録が残らない様式に沿って事実が記録され、客観資料が保全される直近の事案の記録を実際に見る
被害者保護「大丈夫か」と聞いて終わり担当交代・引離し・産業保健連携が手順化され、記録されている事案後の勤怠・体調フォロー記録を確認する
研修資料を配って終わり対象・頻度・内容が決まり、理解度が確認されている研修記録と理解度確認の結果を見る
記録個人のメモ・記憶に依存様式が統一され、保存場所・閲覧権限が定まっている担当者交代時に引き継げるか確認する
再発防止「悪い客だった」で終了原因・背景(商品・サービス・接客・説明)まで遡って改善している改善記録と同種事案の再発状況を見る

必ず講じる10項目の全体像

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10項目のつながり
方針(①)
周知・研修(①②③⑨⑩)
何がカスハラか、何をするか、どこに相談するかを全員が知っている状態にする
相談・報告(③④)
該当性が微妙な相談、発生のおそれがある段階の相談も受ける
事実確認(⑤)
被害者保護・行為者への対処(⑥⑧)
再発防止(⑦)
定期点検・改善(望ましい取組)→ 方針・マニュアルの見直しへ戻る

どこか1か所が切れると、その先はすべて動きません。「窓口はあるが周知されていない」なら相談は届かず、「相談は届くが記録がない」なら事実確認も再発防止もできません。

措置1・2|基本方針と対処内容を明確にする

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観点措置①:基本方針措置②:カスハラの内容と対処内容
性質経営としての立場の表明発生時の具体的な行動基準
読み手管理監督者を含む全労働者(+任意で顧客等)管理監督者を含む全労働者
主な内容 ・カスハラを容認しない
・労働者を保護する
・正当な申入れとは区別する
・労働者を一人で対応させない
・相談・報告を推奨する
・相談を理由とする不利益取扱いをしない
・悪質事案には組織として対応する
・企業側のミスは別途是正する
・消費者の権利や合理的配慮に留意する
・管理監督者への即時報告と指示
・可能な限り一人で対応させない/管理監督者が代わって対応
・録音・録画(個人情報保護法等の遵守が前提)
・十分な説明後もなお要求が続く場合の退店要請・通話終了
・犯罪に該当し得る言動は警察へ通報
・現場対応が困難な場合は本社・本部へ情報共有し指示を仰ぐ
・法的手続が必要な場合は法務部門等と連携し弁護士へ相談
成果物基本方針、トップメッセージ、社内周知文定義・具体例、対処内容一覧、現場マニュアル
詳細第4話第7話

指針は、対処内容についてカスハラは発生したその場で直ちに対応が必要な場合もあることを踏まえて内容を定めるよう求めています。この点がパワハラ・セクハラと大きく異なります。「相談窓口へどうぞ」では、目の前で怒鳴られている従業員は守れません。なお、施行通達は「法務部門等と連携」の「等」に社会保険労務士等との連携も含まれるとしています。

実務で外しやすい3点

  • 顧客対応がない部署も周知の対象。Q&Aは、顧客対応が発生しない部署の労働者にも方針の周知や研修が必要であり、対処の内容についても社外の人と接する機会の有無を問わず全ての労働者に周知する必要があるとしています。「うちは内勤だから対象外」は通りません。
  • 顧客等への周知は「義務」ではない。Q&Aは、方針を顧客等に周知することまでは義務付けていないと明言しています。一方で指針は、顧客等への周知・啓発は被害の防止に効果的としています。Webサイト掲載や店頭掲示は「義務ではないが実効性を高める取組」という整理です。
  • 業界団体のマニュアルを配るだけでは足りない。Q&Aは、業界団体の業種別マニュアルを単に配布するだけでは措置義務を果たしたことにならないとしています。自社の実情に応じた調整を行い、方針の明確化と対処内容の策定を行って周知して初めて、措置を講じたことになります。

措置3・4|相談窓口を設置し、実際に機能させる

指針が認める窓口の設置方法は3つです。①相談に対応する担当者をあらかじめ定める、②相談に対応するための制度を設ける、③外部の機関に相談への対応を委託する。どれでも構いません。

厚生労働省のQ&Aは、さらに次の2点を明らかにしています。

  • パワハラ・セクハラ等、他のハラスメントの相談窓口と一体的なものとする必要はない(一体的に設置することも妨げない)
  • カスハラは、その場ですぐ相談することや、現場の状況に精通している上司等に相談することが適切な場合もあるため、相談担当者として、労働者の上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられる

ただし上司を相談担当者とする場合は、その上司自身が相談できる窓口を別途設けることも検討してください。上司が抱え込む構造は、現場管理職に負担を集中させます。

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形式的な窓口(不十分)実効的な窓口
担当者が誰か決まっていない担当者と代替連絡先が氏名・部署レベルで特定されている
連絡先が労働者に周知されていない全労働者が連絡方法を答えられる(掲示、カード、イントラ等)
相談を受けた後の手順がない受付→記録→関係部門連携→事実確認の経路が決まっている
窓口担当者が指針を理解していない担当者研修を実施し、対応マニュアルがある
時間外・緊急時の連絡先がない時間外・緊急時の報告先が明確(本部、当番、外部窓口等)
相談内容が無断で現場へ拡散されるプライバシー保護ルールがあり、共有範囲が限定されている
相談したことで評価が下がる不利益取扱い禁止が定められ、周知されている
「カスハラと断定できない」相談を受け付けない該当性が微妙な相談、発生のおそれがある相談、周囲の労働者からの相談も受ける

「広く相談に対応する」の意味

指針は、カスハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応するよう求めています。施行通達は「発生のおそれがある場合」として次の例を挙げます。

  • 当初は正当な申入れであったが、対応する中で要求内容が増えており、徐々に対応が著しく困難な要求に発展するおそれがある場合
  • 繰り返し来店するなかで、特段の事情もなく質問の回数が増加し、対応時間が長くなる傾向にあり、徐々に継続的・執拗な言動に発展するおそれがある場合

さらに、言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談にも応じることが必要です。「見せしめ」として行われたと客観的に認められる場合、周囲の労働者に対するカスハラとも評価できる場合があります。

外部委託しても、事業主の責任はなくなりません。外部機関への委託は指針が認める方法の一つですが、委託先から報告を受け、事実確認を行い、被害者への配慮や再発防止を実行するのは、あくまで事業主です。窓口の設計は第6話で扱います。

措置5|事実関係を迅速かつ正確に確認する

事実確認は、相談者を疑うための手続ではありません。適切な保護、適切な対処、再発防止のために必要な事実を把握する作業です。ここを窓口担当者と管理職に徹底しないと、相談者が二次被害を受けます。

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確認対象確認する内容留意点
相談者からの聴取日時、場所、発言内容、態様、回数、継続時間、影響心身の状況や受け止めに配慮する。同じ説明を過度に繰り返させない
目撃者・周囲の労働者見聞きした事実、周囲への影響必要に応じて聴取。周囲の労働者からの相談自体も受け付ける
管理職・同僚その場で確認した事実、講じた措置その場で管理監督者が事実を確認し対応することも、指針が認める例
録音・録画発言内容、音量、継続時間個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱う
メール・チャット・SNS要求内容、頻度、脅迫的文言の有無スクリーンショット等で保全する
通話履歴・防犯カメラ・対応記録回数、時間、来店頻度保存期間内に確実に保全する
契約書・約款・利用規約要求に契約上の根拠があるか要求内容の相当性の評価に必要
企業側のミス・説明不足発端となる対応があったか指針も、事業主・労働者側の不適切な対応が原因や背景となっている場合への留意を求める
顧客等(行為者)への確認事実関係についての言い分一律に必須ではない(下記)
取引先企業への協力要請行為者が他社の労働者・役員である場合相手方には応じる努力義務がある(法第33条第3項)

顧客本人への直接聴取は、一律に必須ではない

指針は、行為者からの聴取について「必要かつ可能な場合には」と条件を付しています。Q&Aも、行為者に連絡を取ることが不可能な場合にまで、行為者から事実関係を確認する必要はないと明言しています。行為者が既に立ち去り、連絡先も分からない場面は現実に多いためです。その場合は、相談者からの聴取に加え、必要に応じて周囲の労働者からの聴取や、録音・録画等の客観的証拠の確認によって事実関係を確認します。

聴取時の実務ルール

  • 誘導質問を避ける(「怖かったですよね?」ではなく「そのとき何が起きましたか」)
  • 事実と評価を分けて記録する(「態度が悪かった」ではなく発言の原文と回数)
  • 日時、発言内容、回数、態様、継続時間を具体化する
  • 相談者に同じ説明を過度に繰り返させない(記録を引き継ぐ)
  • 録音等の客観資料を優先的に確認する
  • 必要以上に機微な情報(健康状態、性的指向等)を聞かない
  • 相談者と行為者を同席させることを、当然の手順としない
  • 相談者が行為者に迎合的な言動をしていたとしても、それだけでカスハラを受けたことを否定しない(施行通達が明示)
  • 確認結果を必ず記録に残す
事実確認フロー
相談受付(該当性が微妙でも受ける)
緊急性の確認
暴行・脅迫・器物損壊・退去拒否等 → 該当性の評価を待たず、安全確保・警察通報を検討
証拠保全(録音・録画・メール・カメラ映像・対応記録)
相談者からの聴取(心身の状況への配慮を伴う)
関係者・客観資料の確認(目撃者、管理職、契約・約款、企業側の対応)
必要かつ可能な場合に、行為者・相手方企業へ確認
3要素に沿った評価(法務・人事が担う)
対応方針の決定(被害者保護/行為者への対処/再発防止)

判断主体は事業主。ただし現場担当者ではありません。Q&Aは、個々の言動がカスハラに該当するか否かを都道府県労働局が判断することはなく、事実関係を確認し、該当性を含めて判断するのは事業主であるとしています。その責任は企業が負いますが、現場担当者一人に最終判断を背負わせてはいけません。現場が担うのは、安全確保・記録・報告です。3要素の当てはめは第2話を参照してください。

録音・録画と個人情報保護法。録音・録画は指針が挙げる対処の例であり、一律の義務ではありません。行う場合、Q&Aは次の点を示しています。①取得した個人情報を事実関係の確認に使用するなら、その旨を利用目的としてできる限り特定し、通知または公表する義務がある(プライバシーポリシー等への記載が方法の一例)。②利用目的の通知・公表義務は、必ずしもその場で録音・録画している旨を伝える義務まで含むものではないが、カメラの設置状況等から本人が容易に認識できない場合には、認識可能とするための措置が必要。施行通達は遵守例として、「サービス品質の向上」等の目的を伝えたうえでの通話録音、「防犯カメラ作動中」の掲示(顔識別機能付きの場合はその旨も明示)を挙げています。

措置6|被害を受けた労働者へ配慮する

「大丈夫か」と一声かけて終わり、は配慮措置ではありません。指針が求めるのは速やかに、適正に行われる措置です。3段階で設計してください。

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段階主な措置実務ポイント
A.直後の安全確保 管理監督者が被害者に代わって対応/担当者の交代/複数名対応/行為者からの引離し/別室への移動/警備・警察への連絡/帰宅・休養への配慮 該当性の最終評価を待たずに実施する。犯罪に該当し得る言動は警察へ通報。「その場で守る」が最優先
B.短期的な就業支援 勤務・配置の一時調整/管理職によるフォロー/産業医・保健師・事業場内産業保健スタッフ等への相談/医療機関受診への配慮/勤怠・体調の確認/行為者からの再接触防止 本人の申告だけに依存せず、勤怠・業務への影響という客観的事情も確認する。医学的判断は企業担当者が行わない
C.中長期的な支援 継続就業が困難にならない環境整備/休業した場合に本人が希望するときの原職・原職相当職への復帰支援/定期的なフォロー/配置変更の見直し/本人の意向確認/二次被害の防止 施行通達は、継続就業が困難にならないよう環境を整備すること、休業を余儀なくされた場合に本人が希望するときは原職または原職相当職への復帰ができるよう積極的な支援を行うことも含まれるとしている

保護のつもりが不利益取扱いになる危険。被害を受けた労働者を、本人の意向や必要性を確認せずに顧客対応から一律に外す、閑職へ異動させる、シフトを削る——こうした対応は「相談したら不利に扱われた」と受け取られ得ます。①本人と協議し、②必要性・期間・待遇への影響・復帰方法を明確にし、③記録に残す、という手順で行ってください。

従業員が1名の店舗など、管理監督者が代わりに対応することや引離しが難しい場合について、Q&Aは、退店要請・通話終了、警察への通報、本社・本部への情報共有といった対処内容を定めておくことを挙げます。そのうえで、1名店舗であっても、カスハラが生じた事実が確認できた場合には、担当者の変更、配置転換、産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応等の配慮措置を講ずる必要があるとしています。「1人しかいないからできない」は理由になりません。

措置7|再発防止を行う

最も重要な一点。指針は、カスハラが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずると明記しています。「カスハラと認定されなかったから再発防止は不要」という運用は、指針に反します。

  • 改めてカスハラに関する方針を周知・啓発する
  • 必要な場合には、発生の原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や、顧客等とのコミュニケーションの不足などの改善を図る
  • 必要に応じて、接客等における慣行の見直しなどの職場環境の改善や組織風土の見直しを行う(施行通達は「接客等における慣行」の例として過度に顧客等を優先した対応をするような慣行を挙げる)
  • 必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し、再発防止に活用する
  • 行為者が他社の労働者・役員である場合、必要に応じて相手方事業主に再発防止への協力を求める
再発防止の4層分析
第1層|顧客等の言動
何が行われたか。悪質度、継続性、行為者の特定可否
↓ ここで止めない
第2層|現場の初動
報告は上がったか。単独対応が続いていないか。記録は残ったか。対応終了の判断はできたか
第3層|企業の制度・運用
方針は周知されていたか。窓口は機能したか。エスカレーション基準は使えたか。研修は届いていたか
第4層|商品・サービス・説明方法
説明不足、案内の分かりにくさ、待ち時間、仕様、約款の記載——発端に企業側の問題がなかったか

「悪い顧客がいた」で分析を終えると、同じ事案が別の店舗・別の担当者で必ず再発します。第4層まで遡って初めて再発防止になります。

同種事案は、個人が特定されない形に加工して他店舗・他部署へ共有し、マニュアル、FAQ、約款、掲示、研修の見直しにつなげます。運用状況の把握には、①相談件数と傾向(部署別・時期別・チャネル別)、②1件あたりの対応時間とエスカレーション件数、③同一行為者・同種事案の再発件数、④被害を受けた労働者の休職・離職の状況、⑤研修の実施状況と理解度、といった指標が使えます。

措置8|特に悪質な事案への対処方針を定める

これはカスハラ特有の措置です。パワハラ・セクハラの指針にはありません。指針は、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならないとしています。

義務なのは「方針+周知+体制整備」

  • 個々の措置(出入禁止など)を必ず実施することが義務なのではありません。Q&Aは、対処方針に出入禁止を定めた場合でも、必ず出入禁止措置を講じなければならないわけではなく、整備した体制の下で、対処方針に基づき講じるか否かを判断する必要があるとしています。
  • 改正法は、事業主に新たな権利を与える制度ではありません。Q&Aは、改正法は雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けるものであり、事業主が何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるというものではないと明言しています。「カスハラと判断したから、当然に出入禁止・取引拒絶ができる」とはなりません。可否は、契約、約款、業法、公共性、生命・身体への影響、合理的配慮等を踏まえて個別に検討する必要があります。
  • 体制整備=関係部門の連携。施行通達は「体制を整備」の例として、人事部門、カスタマーサービス部門、法務部門等の関係部門が適切かつ迅速に連携できる体制を設け、悪質事案が生じた際に関係部門が連携して取るべき対処を判断するように定めること等を挙げます。方針だけあって連携先が未定なら、体制整備とはいえません。
  • 別文書である必要はない。Q&Aは、悪質事案への対処方針を措置②の対処内容とは別に作成する必要はなく、対処内容を明確化・周知する際に併せて定めて周知することが可能としています。

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レベル対応の例判断主体検討すべき前提
1担当者の交代/管理職による対応/複数名対応/記録の作成現場管理職
2対応時間・方法の制限/書面・メール対応への切替/窓口の一本化/口頭での警告現場管理職+本部説明を尽くしたか。記録は十分か
3退店要求/通話の終了/施設利用条件の制限/警告文の発出本部+法務約款・利用規則に根拠があるか。業法上のサービス提供義務はないか
4法令の制限内での商品販売・サービス提供の停止/施設への出入禁止/契約解除の検討法務+経営業法(例:旅館業法の宿泊拒否事由、航空法の安全阻害行為等の禁止)、公共性、生命・身体への影響、合理的配慮との関係
5警察への相談・通報/弁護士対応/民事保全法に基づく仮処分命令の申立て等法務+経営+外部専門家証拠の保全状況。犯罪該当性の評価は個別具体的に判断される

段階を必ず順番に踏む必要はありません。暴行、脅迫、器物損壊等が現に行われている場合には、初期段階から安全確保と警察への通報を優先します。「まずレベル1から」と機械的に運用すると、従業員が危険にさらされます。

医療、福祉、交通、電気・ガス等のインフラ、行政分野などでは、業法によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があります。施行通達は例として医師法第19条第1項などを挙げています。自社の業種に適用される業法を確認したうえで、法令の範囲内で対処方針を設計してください。法的対応の詳細は第8話で扱います。

措置9・10|プライバシー保護と不利益取扱いの防止

措置9:相談者等のプライバシー保護

指針は、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に周知することを求めています。守られていると労働者が認識できて初めて、相談は届きます。相談者等のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれます。

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管理対象主なリスク必要な対策
相談記録・事実確認記録現場への無断共有、噂の拡散取扱担当者の限定/保存場所の指定/閲覧権限の設定/保存期間と廃棄方法の明文化
録音・録画データ目的外利用、流出利用目的の特定と通知・公表/アクセス制限/保存期間の設定
メール・チャット誤送信、宛先の一括指定送信前の宛先確認ルール/機微情報は本文・添付に書かない運用
SNS投稿の保存被害者の氏名等が含まれる保存範囲・共有先の限定
健康情報・受診情報人事評価への流用産業保健スタッフによる管理/人事評価情報と分離
障害情報不当な取扱いにつながる取得範囲の限定/必要最小限の共有
性的指向・ジェンダーアイデンティティ本人の了解なき暴露取扱担当者の限定/担当者研修/記録への記載可否のルール化
聞き取り場所・面談日程相談の事実が周囲に知られる個室・時間帯の配慮/面談理由を周囲に説明しない運用
外部委託先へ渡す情報委託先経由の漏えい秘密保持契約/委託先の監督/共有範囲の限定
取引先へ共有する情報必要以上の個人情報の提供目的と範囲の明示/必要最小限の情報のみ/双方の労働者のプライバシーへの配慮

施行通達は、指針にいう「相談者等の情報」に顧客等の情報は含まれないとしつつ、顧客等の個人情報についても、個人情報保護法および「雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドライン」(平成24年厚生労働省告示第357号)に基づき適切に取り扱う必要があることは当然としています。行為者の情報を社内共有する際も、目的と範囲を限定してください。

措置10:相談等を理由とする不利益取扱いの防止

指針は、次の①〜④を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することを求めています(改正労働施策総合推進法第33条第2項、第36条第2項、第37条第2項を踏まえたもの)。

  1. カスハラに関し相談をしたこと
  2. 事実関係の確認等、事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと
  3. 都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め、または調停の申請を行ったこと
  4. 調停の出頭の求めに応じたこと

定める場所は、就業規則その他の服務規律等を定めた文書のほか、社内報、パンフレット、社内ホームページ等に記載する方法も指針が認める例です。就業規則の改定が全企業一律に義務づけられているわけではありません(詳細は第5話)。

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行為不利益取扱いとなり得る例適切な対応例
配置変更相談を理由に、本人の意向を確認せず閑職へ異動させる行為者との接触を避けるため、本人と協議のうえ一時的に配置を調整。必要性・期間・待遇への影響・復帰方法を明確にし記録する
顧客対応からの離脱「顧客対応に向かない」と評価し、一律に外す本人の状態と意向を確認し、期間を定めて対応を軽減。本人が希望する場合は原職・原職相当職への復帰を支援
シフト変更相談を理由にシフトを削減し、収入を減らす本人の希望を踏まえ、行為者の来店時間帯を避ける等の調整。収入減を伴う変更は特に慎重な協議と記録が必要
人事評価「クレーム対応ができない人」として評価を下げるカスハラ被害の有無を評価要素から除外し、評価者へ周知する
派遣労働者の受入れ派遣労働者が相談したことを理由に、派遣の役務の提供を拒む派遣元と連携し就業環境を改善する。派遣先による受入拒否も禁止の対象
契約更新有期契約労働者が相談したことを理由に更新しない更新の可否は相談の有無と切り離して判断し、理由を記録で説明できるようにする
事情聴取への協力協力した目撃者を「余計なことを言った」と扱う協力者にも不利益取扱いを行わない旨を周知する

ただし、保護のための一時的な業務変更が当然に不利益取扱いになるわけではありません。本人の意向、必要性、期間、待遇への影響を踏まえて判断されます。ポイントは本人と協議したか、記録が残っているかです。「良かれと思って外した」が最も紛争になります。

派遣社員・取引先が関係する場合の対応

A.派遣労働者が被害を受けた場合

「派遣社員は派遣元の社員だから、派遣先は対応不要」は誤りです。労働者派遣法第47条の4により、派遣先も、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、改正労働施策総合推進法第33条第1項(措置義務)および第34条第2項(事業主の責務)が適用されます。相談等を理由とする不利益取扱いの禁止についても派遣労働者は対象に含まれ、派遣先が、派遣労働者がカスハラの相談を行ったこと等を理由として、派遣の役務の提供を拒む等の不利益な取扱いを行ってはならないとされています。

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項目派遣先が担うこと派遣元が担うこと
相談先自社の相談窓口を派遣労働者にも周知する派遣元の相談窓口を周知する
初動対応その場の安全確保、担当交代、引離し(自社労働者と同様に)派遣先からの連絡を受け、本人をフォローする
事実確認就業場所で発生した事実を確認する本人からの聴取、派遣先との情報共有
被害者への配慮担当者の変更、業務・配置の調整、産業保健連携就業継続・就業先変更等の相談対応
情報共有必要な範囲で派遣元へ共有(本人の同意・プライバシーに配慮)受領した情報の適切な管理
不利益取扱いの防止相談を理由に派遣の受入れを拒まない相談を理由に不利益な取扱いをしない
契約上の連携派遣契約・覚書にカスハラ発生時の連絡・対応の取決めを入れる同左

B.取引先の従業員・役員が行為者の場合

行為者が他社の労働者や役員である場合、相手方事業主に事実関係の確認等への協力を求めることができます。相手方には応じる努力義務があります(法第33条第3項)。Q&Aは、相手方が協力に応じない場合、都道府県労働局に相談することが可能であり、労働局は協力の求めに応ずるよう助言する等の対応を行うとしています。

協力要請フロー(自社が被害側の場合)
1.社内で事実関係を確認し、被害者保護を先行して実施する
2.協力要請の要否を判断する(法務・人事)
※行為者が私的な場面で行った言動については、勤務先への協力要請は想定されていない(Q&A)
3.協力要請書を作成する
目的/確認したい事実の範囲/回答期限/連絡窓口/秘密保持
4.相手方へ送付(窓口は法務・人事に一本化。現場担当者間で交渉させない)
5.回答を受領し社内で評価。必要に応じて再発防止への協力も求める

禁止事項:必要以上の個人情報を共有しない/相手方へ一方的な懲戒処分を要求しない/取引関係上の圧力をかけない/双方の労働者のプライバシーに配慮する。

自社が協力要請を受けた側になる場合のフローも決めておいてください。①受付窓口(法務・人事)、②事実確認の実施、③協力した自社労働者への不利益取扱いを行わない旨の周知(指針は望ましい取組とする)、④事実が確認できた場合の対応(就業規則その他の服務規律等を定めた文書の既存の規定に基づく懲戒その他の措置を講ずることが望ましいとされる。Q&Aは、既存の懲戒規定で対応可能ならカスハラ独自の規定を新設する必要は必ずしもないとしています)。

なお指針は、事業主が、他の事業主から協力を求められたことを理由として、その事業主との契約を解除する等の不利益な取扱いを行うことは望ましくないとしています。協力要請を「取引上のカード」に使わないでください。

中小企業の現実的な整備方法

中小企業も10項目すべてを講じる必要があります。一方で、大企業と同じ専用部署や24時間窓口が必要なわけではありません。施行通達も、措置の方法は企業の規模や職場の状況に応じて選択できるとしています。

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措置中小企業の実装例最低限の完了条件
①②方針・対処内容A4で1〜2枚に統合。業界団体のひな形を自社向けに調整する全労働者(顧客対応のない部署を含む)に配布・掲示され、内容を説明できる
③④相談窓口既存のハラスメント窓口と統合。代表者または人事責任者を社内責任者に指定。現場管理職を一次相談先とする担当者・連絡方法・代替連絡先・受付後の経路が全員に周知されている
⑤事実確認相談受付票と対応記録票を1つの様式に統合し、全店舗で共通化する直近の事案について、日時・発言・回数・態様・措置が記録されている
⑥被害者配慮担当交代・引離し・休養の3つを標準手順化。産業保健は地域産業保健センター等の外部資源を活用事案後のフォローが記録されている
⑦再発防止月次または四半期で事案を振り返り、マニュアルへ反映する改訂履歴が残っている
⑧悪質事案レベル3以上は必ず代表者・顧問弁護士・顧問社労士へ連絡する基準を1枚で定める連絡先と判断者が特定され、周知されている
⑨プライバシー記録は鍵付き保管またはアクセス制限フォルダ。閲覧者を2〜3名に限定保存場所・閲覧権限・廃棄方法が定まっている
⑩不利益取扱い就業規則を改定しない場合、社内通知文で「相談を理由に不利益な取扱いをしない」旨を明記して配布定めがあり、全労働者へ周知されている

外部委託しても、事業主の責任は残ります。相談対応を社労士事務所やEAP等に委託すること自体は指針が認める方法です。ただし、報告を受け、事実確認を行い、被害者への配慮と再発防止を実行するのは事業主です。委託先へ丸投げした状態は、措置を講じたことになりません。

架空事例で確認する|措置が動いたケース

以下は説明のために作成した架空の事例です。実在の事案・裁判例ではありません。

【架空事例】小売店舗で、顧客が従業員を約1時間拘束し、人格を否定する発言を繰り返した

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段階実施した対応対応する措置
発生時担当者が店長へ即時報告。店長が対応を交代し、別室へ移動。防犯カメラ映像を保全②現場の対処内容
当日担当者から相談を受け付け、相談受付票に日時・発言内容・回数・継続時間を記録③④相談窓口/⑤事実確認
翌営業日目撃した同僚から聴取。カメラ映像と対応記録を突き合わせ、法務・人事が3要素を評価⑤事実確認
同時並行担当者の勤務を一時調整(本人と協議のうえ、期間と復帰方法を明示)。産業保健スタッフへの相談を案内⑥被害者への配慮
1週間後発端となった商品説明の不足を確認し、店頭POPと接客トークを改訂。同種事案を全店舗へ共有⑦再発防止(第4層まで遡及)
再来店時あらかじめ定めた対処方針に従い、法務・CS・人事が連携して対応を判断。警告文の発出を検討⑧悪質事案への対処と体制
全期間相談記録の閲覧を3名に限定。相談を理由とする不利益取扱いをしない旨を改めて社内通知⑨プライバシー/⑩不利益取扱い

この事例の要点。①現場は「カスハラかどうか」を判断していない。報告・記録・安全確保だけを担い、評価は法務・人事が行った。②被害者の勤務調整は、本人と協議し、期間と復帰方法を明示して記録した。③再発防止が「悪い客がいた」で終わらず、商品説明の不足という企業側の問題まで遡った。この3点が、形式的対応との分かれ目です。

10項目チェックリスト

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措置整備すべきもの完了の判断基準担当
①方針基本方針、トップメッセージ、周知文管理監督者を含む全労働者が内容を説明できる経営企画・人事
②対処内容カスハラの定義・具体例、対処内容一覧、現場マニュアル現場が「その場で何をするか」を判断できる人事・法務・現業
③相談窓口窓口規程、周知文、連絡先カード・掲示全労働者が連絡方法を答えられる人事・総務
④窓口の実効性窓口対応マニュアル、担当者研修記録、連携フロー微妙な相談・おそれの段階の相談も受け付けている人事・法務
⑤事実確認相談受付票、事実確認票、証拠保全ルール直近事案の記録から3要素の評価ができる人事・法務・管理職
⑥被害者配慮被害者対応手順書、産業保健連携ルール、フォロー記録直後・短期・中長期の措置が手順化されている人事・産業保健
⑦再発防止再発防止記録、マニュアル改訂履歴、事例共有資料事実確認できなかった事案でも措置を講じている人事・現業・品質
⑧悪質事案対処方針、エスカレーション基準、関係部門連携体制方針が周知され、連携先と判断者が特定されている法務・CS・人事
⑨プライバシー保護ルール、記録管理台帳、担当者研修記録保存場所・閲覧権限・廃棄方法が定まり、労働者に周知されている人事・法務
⑩不利益取扱い不利益取扱い禁止の定め、周知文4つの保護行為(相談・協力・労働局への相談等・調停出頭)が対象に含まれている人事・法務

指針対応に関するFAQ

Q1.方針文書を作れば措置を講じたことになりますか

なりません。方針は10項目のうちの1つにすぎず、周知されていることが要件です。Q&Aは、顧客対応が発生しない部署の労働者を含め、全ての労働者に方針と対処内容を周知する必要があるとしています。

Q2.相談窓口は既存のハラスメント窓口と兼ねてよいですか

兼ねられます。ただしQ&Aは、他のハラスメント窓口と一体である必要はないとも述べています。カスハラは「その場ですぐ相談する」必要がある点が特徴なので、統合する場合でも、現場から管理監督者への即時報告ルートは別途確保してください。

Q3.相談担当者を上司にしてもよいですか

可能です。Q&Aは、現場の状況に精通している上司等に相談することが適切な場合もあることから、相談担当者として管理監督者等を定めることも考えられるとしています。その場合、その上司自身が相談できる窓口を別途設けることも検討してください。

Q4.事実確認では顧客本人に直接確認しなければなりませんか

一律には必要ありません。指針は「必要かつ可能な場合には」と条件を付し、Q&Aも、行為者に連絡を取ることが不可能な場合にまで確認する必要はないとしています。相談者・周囲の労働者からの聴取と、録音・録画等の客観証拠で確認します。

Q5.カスハラと認定できなかった場合、再発防止は不要ですか

必要です。指針は、事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずると明記しています。方針の再周知、原因・背景の改善、記録の共有などを行ってください。

Q6.出入禁止を方針に定めたら、必ず出入禁止にしなければなりませんか

いいえ。Q&Aは、対処方針に出入禁止を定めた場合でも、必ず講じなければならないわけではなく、整備した体制の下で、方針に基づき講じるか否かを判断する必要があるとしています。義務なのは「方針を定め、周知し、実行できる体制を整えること」です。

Q7.改正法で、企業は顧客を出入禁止にする権利を得たのですか

いいえ。Q&Aは、改正法は事業主に措置義務を課すものであり、事業主が何らかの措置を行う法的な権利や権限を新たに設けるものではないと明言しています。可否は、契約・約款・業法・公共性・生命身体への影響・合理的配慮等を踏まえて個別に検討する必要があります(第8話)。

Q8.悪質事案の対処方針は、別の文書で作る必要がありますか

ありません。Q&Aは、措置②の対処内容を明確化・周知する際に、併せて悪質事案への対処方針を定めて周知することが可能としています。

Q9.業界団体のマニュアルを配れば措置を講じたことになりますか

なりません。Q&Aは、単に配布するだけでは足りず、業界団体のマニュアルを参考に自社の実情に応じた調整を行い、方針の明確化と対処内容の策定を行って周知すれば措置義務を果たしたことになるとしています。自社が策定に参画したマニュアルを自社労働者に周知した場合も同様です。

Q10.顧客への周知(Webサイト・店頭掲示)は義務ですか

義務ではありません。Q&Aは、方針を顧客等に周知することまでは義務付けていないとしています。一方、指針は顧客等への周知・啓発を効果的としており、顧客接点の多い業種では実施を推奨します。

Q11.録音・録画は義務ですか

義務ではありません。指針が挙げる対処の例の一つです。行う場合は個人情報保護法等の遵守が前提で、事実関係の確認に使うなら利用目的として特定し、通知または公表する必要があります(Q&A)。

Q12.従業員1名の店舗はどう対応すればよいですか

Q&Aは、退店要請・通話終了、警察への通報、本社・本部への情報共有といった対処内容を定めておくことを挙げます。そのうえで、1名店舗であっても、事実が確認できた場合には担当者の変更、配置転換、産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応等の配慮措置を講ずる必要があるとしています。

Q13.派遣社員への対応は派遣元の責任ですか

派遣先にも責任があります。労働者派遣法第47条の4により派遣先も雇用する事業主とみなされ、措置義務が適用されます。相談を理由に派遣の受入れを拒むことも、不利益取扱いとして禁止されます。

Q14.取引先が協力に応じない場合はどうすればよいですか

Q&Aは、都道府県労働局に相談することが可能であり、労働局は協力を求められた事業主に対し、協力の求めに応ずるよう助言する等の対応を行うとしています。

Q15.どこまで整備すれば「措置を講じた」といえますか

10項目すべてについて、文書があるだけでなく、実際に運用できる状態にあることが必要です。判断基準は本記事の「10項目チェックリスト」を参照してください。中小企業も同じ10項目が必要ですが、方法は規模と実態に応じて選択できます。

シリーズ全10話の案内

話数タイトルこの記事で分かること
第1話 カスハラ対策が全企業の義務に|2026年10月施行の改正法でやるべきこと全体像 制度の全体像、対象事業主、10項目の措置、リスク、準備工程表
第2話 どこからがカスハラか|正当なクレームとの線引きを3要件で判断する 3要素、正当な申入れとの線引き、合理的配慮、判断フロー、記録
第3話 指針が求める措置の中身|方針明確化・相談体制・事後対応をどう整えるか(本記事) 10項目の措置の作り込み方、成果物、担当部署、完了基準
第4話 カスハラ対応基本方針の作り方|社内外への表明文をひな形付きで解説 基本方針の記載事項、社内周知文、Webサイト掲載文のひな形
第5話 就業規則・社内規程はどこを直すか|カスハラ義務化対応の改定ポイント 既存規程の点検方法、改定要否の判断、労使手続と届出
第6話 カスハラ相談窓口をどう作るか|既存のハラスメント窓口と一本化する方法 窓口の設計、担当者の指名と研修、二次被害の防止、記録様式
第7話 現場が迷わないカスハラ対応マニュアルの作り方|初動・エスカレーション・記録 初動対応、エスカレーション基準、録音・証拠保存、対応記録の実務
第8話 それでも止まらない相手への法的対応|取引拒絶・出入禁止・警察対応の実務 警告文、販売・サービス提供の停止、出入禁止、仮処分、警察通報の判断基準
第9話 同時施行の求職者等セクハラ対策も忘れずに|関連する法改正・条例への対応 改正男女雇用機会均等法による求職者等セクハラ対策、自治体の条例
第10話 2026年10月までにやることリスト|カスハラ義務化対応の工程表と総まとめ チェックリスト形式の総まとめ、成果物一覧、施行後の点検方法

まとめ

  • 指針が求める措置は10項目。企業規模・職場の状況を問わず、すべて講じる必要があります。方法は選択できますが、省略はできません。
  • 10項目は独立していません。方針 → 周知 → 相談 → 事実確認 → 被害者保護 → 再発防止 → 点検という一連の仕組みとして動く必要があります。
  • 相談窓口は「形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能」であることが求められます。
  • 該当性の判断は事業主の責任ですが、現場担当者に最終判断を負わせない設計にしてください。
  • 事実が確認できなかった場合も、再発防止措置は必要です。
  • 悪質事案について義務なのは「方針+周知+体制整備」。改正法は事業主に新たな権利を与える制度ではありません。
  • 被害者保護は、本人と協議し、期間と復帰方法を明確にし、記録に残してください。良かれと思った一律の配置変更が、不利益取扱いと受け取られます。

本記事は2026年7月14日時点の法令・指針・通達・Q&A等に基づいています。今後変更され得ますので、実際の対応にあたっては厚生労働省および都道府県労働局の最新情報をご確認ください。個別の事案については、弁護士、社会保険労務士、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)等への相談もご検討ください。

10項目の成果物づくりを効率化する

10項目を整備するということは、方針、対処内容、窓口周知文、相談受付票、事実確認票、被害者対応手順、悪質事案対処方針、プライバシー保護ルール、不利益取扱い禁止の周知文、研修資料——これらをすべて自社の言葉で書き起こすということです。施行日まで、手を動かす時間はそれほど残っていません。

カスハラ対応プロンプト集|顧客対応記録・従業員保護・上長報告・エスカレーションの実務テンプレート

顧客対応記録、従業員保護、上長報告、エスカレーション判断といった実務場面ごとに、たたき台を作成するためのプロンプトをまとめた実務ツールです。ゼロから書き起こす手間を減らし、自社の実態に合わせて調整する作業に集中できます。

法令対応を補助するためのツールです。これだけで措置義務の履行が完了するものではなく、専門家への相談に代わるものでもありません。作成した文書は、必ず自社の実態と最新の法令・指針に照らして確認してください。

カスハラ対応プロンプト集を見る

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参考資料

このほか、労働契約法第5条、労働安全衛生法第18条第1項、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第8条、民事保全法、雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドライン(平成24年厚生労働省告示第357号)の各規定を参照しています。

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