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訴状が届いた後、次に問題になるのが「答弁書(とうべんしょ)」です。裁判所から答弁書の提出を求められ、「何を、いつまでに、どう書けばいいのか」と戸惑う法務担当者は少なくありません。

答弁書は、単なる形式書類ではありません。会社側の最初の訴訟対応方針を示す、重要な書面です。ここでの認否や反論の方向性が、その後の進行に影響します。とはいえ、法務担当者がひとりで書き上げるものではなく、弁護士と連携しながら、社内の事実関係・証拠・方針を整理するのが基本です。

訴状が届いた直後の確認事項は第2話「訴状が届いたら最初に確認すること」で、全体像は第1話「訴訟対応とは何か」で扱っています。

この記事でわかること

  • 答弁書とは何か、何を書く書面か
  • 提出期限と第1回口頭弁論期日の関係(擬制陳述を含む)
  • 「認める・否認する・不知」など認否の意味と注意点
  • 弁護士が作った答弁書案を、法務部としてどこを見て確認するか
  • 初回期日までに会社側で準備しておくこと

実務メモ
この記事の内容を、毎回ゼロから考えないために。
法務実務で効くのは、知識そのものよりも"再現できる型"です。記事で読んだ確認観点・依頼文・回答メモ・マスキングを次の案件でそのまま引き出せる形に残しておくと、判断と説明の質が一段安定します。
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答弁書とは何か

答弁書とは、原告(訴えた側)の訴状に対して、被告(訴えられた側)が出す最初の応答書面です。訴状で示された相手の請求や主張に対して、「どう応じるか」を示します。

内容は、大きく次の2つに分かれます。

  • 請求の趣旨に対する答弁:相手が求める結論(例:「○○円を支払え」)に対し、どう応じるか。一般には「原告の請求を棄却する、との判決を求める」といった形で示されます。
  • 請求の原因に対する認否・反論:相手が並べた事実(請求の理由)の一つひとつについて、認めるか・否認するか・不知とするかを示し、被告側の言い分(反論)を述べます。
訴状
原告の請求と理由
答弁書
被告の最初の応答
準備書面
その後の主張・反論

答弁書に書かれる主な内容

答弁書には、おおむね次のような項目が書かれます。法務担当者は「どんな構成の書面か」をイメージできれば十分です。

項目 内容
事件番号訴状と同じ「令和○年(ワ)第○号」など
裁判所名提出先の裁判所・担当部
当事者原告・被告の表示
請求の趣旨に対する答弁相手の求める結論への応答(請求棄却を求める など)
請求の原因に対する認否相手の主張する事実への認める・否認する・不知
被告側の主張反論や、被告側の言い分(抗弁など)
証拠の引用主張を支える証拠への言及(乙号証など)
添付書類証拠説明書、委任状などの添付
作成日書面の作成日付
代理人表示委任した弁護士の表示
提出方法・押印等紙かオンラインか。書式・押印の要否は提出方法で異なり得る(後述)

初回の答弁書では、まず「請求の趣旨に対する答弁」を示し、具体的な認否や反論は追って準備書面で補充する、という運用も実務ではよく見られます。とはいえ、最初の認否や方針は重要なので、軽視はできません。準備書面との違いは記事後半で説明します。

答弁書提出期限と第1回口頭弁論期日

答弁書には提出期限が設定され、通常は第1回口頭弁論期日(最初の裁判の日)より前に出すよう求められます。ここで重要なのが、第1回期日の決め方と「擬制陳述(ぎせいちんじゅつ)」という扱いです。

擬制陳述とは(初心者向け・簡潔に)

第1回口頭弁論期日は、被告の都合を確認せずに、原告と裁判所の都合で決められることが多いものです。そこで、答弁書を期限までに提出しておけば、第1回期日に出頭できなくても、その答弁書を「法廷で述べた(陳述した)もの」として扱う取扱いがあります(民事訴訟法158条。これを擬制陳述といいます)。ただし、これは第1回期日に限られるのが原則です。逆に、答弁書も出さず期日にも出頭しないと、相手の主張を争わないものと扱われ(自白の擬制。民訴法159条参照)、被告に不利な結論につながるおそれがあります。だからこそ、提出期限を守ることが大切です。

期限管理の観点で、次の点を確認しておきましょう。

確認すること ポイント
答弁書の提出期限いつまでか。逆算して弁護士相談・社内確認の時間を確保
第1回口頭弁論期日いつか。出頭の要否、ウェブ会議の可否
提出先・提出方法どの裁判所・担当部へ、紙かオンラインか
擬制陳述の前提期限までに答弁書を出しているか(出していないと扱いが変わる)
社内での期限把握弁護士任せにせず、会社側でも期日・期限を管理

期限直前の相談はリスクになります
期限ギリギリで弁護士に相談すると、事実確認や証拠収集が不十分なまま答弁書を出すことになりかねません。できるだけ早く相談し、社内の事実・資料を整理して渡すことが、質の高い対応につながります。期限管理を含む初動の手順は第4話「訴訟対応の初動チェックリスト」をご覧ください。

「認否」とは何か

答弁書の中心になるのが「認否(にんぴ)」です。相手の主張する事実の一つひとつに、どう応じるかを示すもので、用語の意味を正しく理解しておく必要があります。

用語 意味 注意点
認める(自白)相手の主張する事実を認めること認めた事実は争いのない事実として扱われ、原則証拠調べが不要に。撤回が制限されることもあり、慎重に
否認するその事実は違う、と否定すること単に否定するだけでなく、理由を添えた否認(理由付否認)を求められることが多い
不知(知らない)その事実を知らない、と述べること争ったものと推定される(民訴法159条2項)。本当に社内で確認できないかを要確認
争う相手の主張(事実や法的評価)を受け入れない姿勢を示すこと何を、どの理由で争うのかを整理する必要がある
留保する現時点で認否を明らかにせず、追って示すこと後の準備書面で補充する前提。いつまでも留保はできない

これらの認否は法的な効果を伴うため、最終的な判断は弁護士の専門領域です。認否の考え方をさらにくわしく知りたい場合は第11話「認否とは何か」で掘り下げます。

認否で法務担当者が確認すべきこと

認否そのものは弁護士が判断しますが、その前提となる事実と証拠の整理は法務担当者の重要な役割です。弁護士に正確な材料を渡すために、次の点を確認しましょう。

  • 現場担当者に確認した事実か:伝聞や推測ではなく、当事者に確認したか。
  • 証拠と整合するか:契約書・メール・議事録などと食い違っていないか。
  • 過去のやり取りと矛盾しないか:相手方との従前の連絡と整合するか。
  • 社内資料に反対の記載がないか:稟議書やメモに逆の事実が残っていないか。
  • 「たぶん違う」「記憶にない」だけで否認していないか:根拠の薄い否認は後で覆る危険があります。
  • 認めることの効果を弁護士と確認しているか:安易に認めると不利になることがあります。
  • 不知とする場合、本当に確認不能か:社内で調べれば分かることを不知にしていないか。

答弁書案を弁護士から受け取ったときの確認ポイント

弁護士が作成した答弁書案(ドラフト)を受け取ったら、法務部として確認すべき点があります。法的な当否ではなく、「事実関係の正確さ」と「社内方針との整合性」を中心に見るのがコツです。

確認ポイント 見る理由
会社名・当事者名の誤り表記ミスは基本だが見落としやすい
請求金額の誤り数字の取り違えがないか
事実経過が社内認識と合うか現場の説明・記録と一致しているか
認否が証拠と整合するか手元資料と矛盾しないか
反論が社内方針と合うか会社として取りたい方向と一致しているか
不利な事実を過度に隠していないか隠すと後で立場を悪くすることがある
経営判断が必要な事項の有無役員レベルの判断が要る内容か
社内承認が必要な主張か承認手続きを踏むべき内容か
今後の和解方針と矛盾しないか将来の選択肢を狭めていないか

気になる点があれば、自分で書き換えるのではなく、弁護士に質問・相談するのが基本です。法的な意図があってその表現になっている場合もあるためです。役割分担の考え方は第12話「弁護士との役割分担」で扱います。

答弁書ができるまでの流れ(一例)
現場事実の確認
法務が整理
弁護士がドラフト
社内で確認
提出

答弁書作成のために社内で集めるべき情報

弁護士が的確な答弁書を作るには、会社側からの正確な事実と資料が欠かせません。次のような情報を、できる範囲で集めて整理しておきましょう。

情報・資料 役割
契約書権利義務・条件の確認
注文書・発注書取引内容の合意
請求書金額・履行の事実関係
納品書・検収書納品・検収の有無の確認
メール経緯・当時の認識
チャット口頭に近いやり取りの記録
議事録打合せでの合意・決定
交渉メモ交渉経緯の補足
稟議書意思決定の経緯・前提
社内承認記録誰がいつ承認したか
現場担当者の説明当事者しか知らない事実
過去トラブルの履歴背景事情の把握
相手方との和解交渉履歴紛争前後のやり取り

資料の探し方は第6話「訴訟対応で集める資料一覧」、削除・上書きを防ぐ取り組みは第5話「訴訟ホールドとは何か」、時系列の整理は第7話「事実経過表の作り方」で扱います。

初回期日までに会社側で準備すること

答弁書の提出だけが準備ではありません。第1回口頭弁論期日までに、会社側では次のような準備を並行して進めます。

準備すること ねらい
答弁書の提出期限内の提出(擬制陳述の前提を満たす)
代理人弁護士との打合せ方針・認否・反論の方向性の共有
事実経過表の作成時系列で事実を整理
証拠候補の整理使えそうな資料の洗い出し
関係部署へのヒアリング現場の事実確認
経営陣への初期報告重要判断の準備
費用見通しの確認弁護士費用・対応コストの把握
和解可能性の初期検討選択肢としての和解の検討
次回以降の期日対応方針今後の進め方の見通し

答弁書対応でやってはいけないこと

初動でやりがちな対応のうち、会社の立場を悪くしかねないものを整理します。

やってはいけない対応 なぜ問題か
提出期限を放置する不利な扱い(擬制自白など)につながるおそれ
とりあえず全面否認にする根拠のない否認は後で覆り、信用も損なう
証拠を確認せずに認める認めた事実は覆しにくい。安易な自白は危険
現場の説明だけで認否を決める記録・証拠との突き合わせが必要
弁護士に訴状だけ渡して説明しない事実が伝わらず、検討の前提を誤る
経営陣に報告せず方針を決める経営判断事項を独断で進めるのは不適切
不利な資料を弁護士に共有しない後から出ると対応が後手に回る
社内チャットで感情的な反論を書くその記録自体が後で問題になり得る
相手方に不用意に連絡する不利な発言になりかねない。窓口は弁護士と相談
「初回期日は形式的」と軽視する準備すべきことがある。軽視は禁物

答弁書とその後の準備書面の違い

答弁書とよく混同されるのが「準備書面」です。違いを整理すると次のとおりです。

  • 答弁書:被告側の最初の応答書面。請求の趣旨への答弁と、請求の原因への認否・反論の出発点を示します。
  • 準備書面:その後の主張・反論を整理して提出していく書面。論点を深めたり、相手の主張に再反論したりします。

初回の答弁書で詳細を書き切れない場合でも、後続の準備書面で補充していく運用は珍しくありません。ただし、最初の認否や方針は重要なので、「後で直せばよい」と軽く考えないことが大切です。準備書面の確認ポイントは第10話「準備書面とは何か」で扱います。

電子化・mints時代の答弁書対応で確認すべきこと

民事訴訟手続のデジタル化を定めた改正民事訴訟法等は、令和8年(2026年)5月21日に全面施行されました。これにより、書面の提出や記録の閲覧をオンラインで行えるようになり、弁護士などの訴訟代理人は原則として裁判所のシステム「mints(ミンツ)」を通じたオンライン提出が義務化されています。答弁書の提出も、この枠組みの影響を受けます。

  • 事件によって提出方法・書式・押印の要否が異なる場合がある:紙かオンラインかで取扱いが変わり得ます。
  • mints利用の有無:自社代理人がmintsで手続きするのか確認します。
  • 紙提出・オンライン提出の確認:本人訴訟では書面提出も可能ですが、代理人がいる場合は原則オンラインです。
  • 社内での電子ファイル管理:保管場所、アクセス権、版(バージョン)管理を整えます。
  • 代理人弁護士とのファイル共有方法:安全な共有手段を決めておきます。

補足:移行期は、旧法適用事件(全面施行前に提起)と新法適用事件(施行後に提起)で取扱いが異なることがあります。今後、新システム(TreeeS)の導入も予定されており、申立て方法の異なる事件が併存し得るとされています。提出方法や押印・書式の詳細は、代理人弁護士や裁判所の公式情報で確認してください(参考リンクは記事末尾)。

よくある誤解

  • 「答弁書は形式的に出せばよい」とは限りません。会社の最初の方針を示す重要書面です。
  • 「初回期日は重要ではない」とは限りません。準備すべきことがあります。
  • 「認否は後で自由に変えられる」とは限りません。一度認めた事実は撤回が制限されることがあります。
  • 「全面否認にしておけば安全」ではありません。根拠のない否認はかえって不利になり得ます。
  • 「弁護士に任せれば会社側で確認は不要」ではありません。事実関係と社内方針の確認は会社の役割です。
  • 「不利な資料は出さない方がよい」ではありません。隠す対応は推奨されません。弁護士と共有して対応を相談します。
  • 「答弁書だけで勝敗が決まる」わけではありません。その後の主張・証拠・進行を含めて判断されます。

第3話のまとめ

  • 答弁書は、会社側の最初の正式な応答書面です。請求の趣旨への答弁と、請求の原因への認否・反論を示します。
  • 提出期限と第1回口頭弁論期日を必ず管理します。期限内提出は擬制陳述の前提にもなります。
  • 認否は、証拠・現場確認・弁護士の判断を踏まえて慎重に行います。
  • 法務担当者は、弁護士・現場・経営陣をつなぎ、事実と資料を整理する役割を担います。

次回・第4話「訴訟対応の初動チェックリスト|社内共有・弁護士相談・期限管理」では、ここまでの初動対応を一枚で確認できるチェックリストとして整理します。

認否・事実整理の「材料づくり」を効率化

答弁書対応では、認否・事実経過・証拠・社内判断の整理が要になります。Legal GPTでは、法務実務に役立つテンプレート・プロンプト・実務支援ツールをご用意しています。これらは訴訟対応そのものを代替するものではなく、社内整理や検討メモの作成を補助する位置づけです。認否や反論方針など法的な判断は、必ず弁護士にご相談ください。

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シリーズ全20話のリンク一覧

「法務担当者のための訴訟対応実務20選」の全記事です。気になるテーマからお読みいただけます。保存版としてブックマークをどうぞ。

タイトル
第1話訴訟対応とは何か|会社の法務担当者が知っておくべき全体像
第2話訴状が届いたら最初に確認すること|訴状・呼出状・答弁書催告状の見方
第3話答弁書とは何か|提出期限・認否・初回期日までの実務対応(この記事)
第4話訴訟対応の初動チェックリスト|社内共有・弁護士相談・期限管理
第5話訴訟ホールドとは何か|メール・チャット・資料を削除しないための対応
第6話訴訟対応で集める資料一覧|契約書・メール・請求書・議事録の探し方
第7話事実経過表の作り方|訴訟対応で時系列を整理する方法
第8話争点整理とは何か|相手の主張・こちらの反論・証拠を対応させる
第9話証拠説明書とは何か|書証番号・作成者・立証趣旨の基本
第10話準備書面とは何か|弁護士ドラフトを法務が確認するときの見方
第11話認否とは何か|訴訟対応で「認める・否認する・不知」をどう確認するか
第12話弁護士との役割分担|法務・現場・経営陣は何を担当するか
第13話訴訟費用・弁護士費用の社内説明|予算・稟議・見通しのまとめ方
第14話訴訟中の社内報告書の作り方|経営会議・取締役会への報告ポイント
第15話和解協議の進め方|金額・条件・社内承認で見るべきポイント
第16話和解条項の読み方|清算条項・守秘義務・不履行時対応の基本
第17話尋問対応の基本|証人候補・陳述書・想定問答をどう準備するか
第18話判決が出た後の対応|控訴・支払・会計処理・社内説明
第19話こちらから訴えるときの準備|請求原因・証拠・回収可能性の検討
第20話訴訟対応チェックリスト|法務担当者が保存しておきたい実務一覧

参考情報

本記事は一般的な解説です。答弁書の書式・提出方法・期限・デジタル化の運用は事件や時期によって異なり得るため、実際の対応にあたっては最新の公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

※本記事は企業の法務担当者向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。認否・反論方針など個別の判断は弁護士にご相談ください。

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01
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