和解協議で金額がまとまりそうになった後、最後に重要になるのが和解条項です。和解条項は、紛争を本当に終わらせるための約束を文章化したものです。金額だけを見ていると、清算範囲・守秘義務・不履行時対応・支払条件・再発防止のところで、後からトラブルになることがあります。

法務担当者の役割は、弁護士が作成・確認する条項案について、社内承認内容・支払実務・会計処理・現場運用・情報管理・履行管理と整合しているかを確認することです。条項設計や法的効力の判断は弁護士の領域です。

和解協議の進め方は第15話で扱いました。本記事は、その「条項一つひとつの読み方」を掘り下げます。

この記事でわかること

  • 和解条項とは何か、裁判上の和解・訴訟外和解契約・和解調書の違い
  • 支払条件・分割払い・期限の利益喪失の読み方
  • 清算条項・守秘義務・口外禁止・非誹謗条項の確認ポイント
  • 不履行時対応・費用負担・再発防止策の読み方
  • 弁護士・経理財務・現場との確認、履行管理表、チェックリスト
和解協議
→
条項案確認(本記事)
→
社内承認照合
→
成立
→
履行管理

和解条項とは何か

和解条項とは、和解で合意した内容を定める条文です。和解契約書、裁判上の和解、和解調書などの形があります。中身としては、「誰が、誰に、いつ、何をし、その後どの権利義務をどう扱うか」を定めるものです。

和解条項は定型文ではありません。同じ「清算条項」「守秘義務」でも、範囲や例外の書き方で意味が変わります。法務担当者は、条項案が社内承認内容と実務運用に合っているかを確認します。

裁判上の和解・訴訟外和解契約・和解調書の違い

まず、和解の「形」を区別しておきましょう。とくに履行確保(相手が守らなかったときどうなるか)が大きく違います。

比較項目 裁判上の和解 訴訟外の和解契約
どこで成立するか訴訟係属中、裁判所で当事者間で
形式和解調書(電子調書)に記載和解契約書(合意書)
強制執行との関係確定判決と同一の効力(民訴法267条)→債務名義(民事執行法22条7号)になり、不履行時に強制執行の基礎になり得るそれ自体は当然には債務名義にならない。公正証書の活用等の手当てが必要な場合がある
法務の注意点調書の文言が承認内容と一致するか履行確保の手段が十分か

細かな法的効力(既判力の範囲、無効・取消しの可否、強制執行の可否など)は、案件や条項によって異なります。どの方式をとるか、履行確保をどう設計するかは、必ず弁護士に確認してください。

和解条項で確認すべき全体像

分類 条項
当事者・金額当事者、和解金額
支払支払期限・方法、分割払い、遅延損害金、期限の利益喪失
後始末清算条項
情報守秘義務、口外禁止、非誹謗
関係・物取引継続・終了、物品・資料の返還
予防再発防止策
費用・不履行費用負担、不履行時対応
手続・管理管轄・紛争解決、履行管理、会計・開示対応
金額条項
×
清算条項
×
守秘義務
×
不履行時対応
どれか一つでも欠けると後でトラブルになり得る

和解金額・支払条件の読み方

確認ポイント 補足
金額が社内承認額と一致するか承認の範囲内か
税込・税抜、消費税の扱い明確になっているか
支払期限が明確か日付の特定
振込先・振込手数料の負担者どちらが負担するか
分割払いの各回の期日・金額明確か
遅延時の扱い遅延損害金等
経理・財務で実行可能か実務処理の可否
予算・稟議と整合するか承認内容との一致

分割払い・期限の利益喪失条項の読み方

和解金を分割で支払う(受け取る)場合、期限の利益喪失という考え方が重要になります。

  • 分割払い:和解金を複数回に分けて支払うこと。
  • 期限の利益:「期日までは支払わなくてよい」という、支払う側の利益のこと。
  • 期限の利益喪失:一定の事由(支払の遅延など)が生じると、この利益を失い、残額を直ちに一括で請求できる扱いになること。
確認ポイント 補足
どの事由で期限の利益を失うか支払遅延・倒産事由など
何回の遅延で失うか1回でか、複数回でか
催告を要するか無催告か、催告後か
遅延損害金の発生時期・利率いつから・何%か
履行管理を誰が行うか担当の明確化
経理・財務との連携入金・支払の管理

具体的な文言や効果(無催告失期とするか等)は弁護士に確認してください。法務は、合意した条件が条項に正しく反映され、社内で管理できるかを確認します。

清算条項とは何か

清算条項とは、当事者間に、和解条項に定めるもの以外の債権債務がないことを確認する条項です。「これで紛争は終わり」という線を引く、重要な条項です。

ただし、どの範囲の権利義務を清算するのかが極めて重要です。書き方によって範囲が大きく変わります。

書き方の例 想定される範囲
「本件に関し」この紛争に関する範囲
「本契約に関し」特定の契約に関する範囲
「当事者間の一切の関係」広く一切の債権債務に及び得る

清算条項は万能ではありません。範囲が広すぎると、別取引の未払債権や将来の正当な請求まで放棄してしまうおそれがあります。逆に狭すぎると、蒸し返しの余地が残ります。範囲の最終判断は弁護士に確認してください。

清算条項で確認すべきポイント

確認ポイント
清算対象の範囲(本件のみか、関連契約全体か)
別取引への影響
未払債権・未履行債務の有無
保証・担保・第三者請求への影響
知的財産権・秘密保持義務への影響
既存契約の存続条項との関係
将来発生する損害への影響
グループ会社への影響
社内承認内容との整合性

守秘義務条項の読み方

守秘義務条項は「広く書けば安全」とは限りません。必要な社内共有・開示義務までできなくなると、かえって会社が困ります。

確認ポイント 補足
秘密の対象和解内容か、協議経緯か、訴訟の存在自体か
社内共有は可能か役職員への共有の可否
専門家・関係者への開示親会社・監査役・監査法人・弁護士・税理士・金融機関等
法令・取引所規則に基づく開示との関係開示義務が優先する場合の例外
違反時の効果違約金・損害賠償等
期間いつまで義務が続くか

上場会社では、法令・金融商品取引所規則に基づく開示義務との関係が問題になることがあります。守秘義務の例外規定が必要十分か、開示担当・弁護士と確認してください。

口外禁止・非誹謗条項の読み方

確認ポイント 補足
口外禁止と守秘義務の違い対象・範囲の違いを確認
非誹謗条項の意味相手を貶める言動の禁止
SNS・プレスリリース・取引先/従業員説明への影響必要な説明ができるか
事実説明まで禁止されるか業務上必要な説明の余地
広報・IRとの連携対外発信の整合
違反時対応効果の確認

取引継続・契約終了に関する条項

確認ポイント
既存契約を継続するか終了するか
今後の発注・取引の扱い
解除日・終了日
未履行債務の扱い
納品物・成果物の扱い
保守・保証・アフターサービス
競業・独占・販売代理店関係への影響
現場部門で実行可能か

物品・資料・データの返還・廃棄条項

確認ポイント 補足
返還対象/廃棄対象何を返し、何を廃棄するか
データ削除/バックアップデータバックアップまで含むか
証明書提出の有無/返還期限・費用完了の証跡と期限
個人情報・秘密情報取扱いの確認
証拠保全・文書保存規程との関係保存義務と矛盾しないか
訴訟終了後の保存資料との関係残す資料との切り分け

返還・廃棄条項は、第5話「訴訟ホールド」で扱った証拠保全・文書保存規程と矛盾しないかに注意してください。和解で「廃棄」とした資料が、別の保存義務の対象になっていないか確認します。

再発防止策・業務改善条項

確認ポイント
実行可能な内容か
期限が明確か
誰が担当するか
実施報告義務があるか
違反時の扱い
現場・内部監査・コンプラ部門との連携
過度に広すぎる義務を負っていないか

費用負担条項の読み方

費用 確認
訴訟費用・弁護士費用各自負担か、一方負担か
和解費用・送金手数料負担者の明確化
鑑定・調査費用扱いの確認
社内稟議・予算との整合承認内容と一致するか

和解では「訴訟費用・弁護士費用は各自負担」とすることが多くあります。費用の考え方は第13話「訴訟費用・弁護士費用の社内説明」を参照してください。

不履行時対応の読み方

相手方(または自社)が和解を守らなかったときの定めです。「終わったはずなのに守られない」事態に備える重要な条項です。

不履行の場面 想定される対応
支払遅延・分割払い不履行遅延損害金、期限の利益喪失、一括請求
守秘義務違反・返還義務違反損害賠償、差止め等
再発防止策不履行追加協議・是正要求
金銭支払の不履行(裁判上の和解)和解調書を基礎とした強制執行(可否は要弁護士確認)
紛争解決管轄・協議条項

前述のとおり、裁判上の和解は和解調書(電子調書)への記載により確定判決と同一の効力を持ち(民事訴訟法267条)、債務名義として強制執行の基礎になり得ます(民事執行法22条7号)。ただし、具体的に強制執行できるか・どの範囲かは条項の書き方や事案によります。必ず弁護士に確認してください。

和解条項案を弁護士から受け取ったときの法務部チェック

チェック項目
社内承認内容・和解金額と一致しているか
支払期限が実行可能か
清算条項の範囲が広すぎないか
守秘義務の例外が必要十分か
取引継続・終了条件が現場方針と合うか
経理・財務処理が可能か
開示・IR上の問題がないか
不履行時対応が実効的か
履行管理担当が決まっているか
既存契約・別案件に影響しないか
経営判断事項が残っていないか
弁護士確認
→
法務確認
→
経理確認
→
現場確認
→
経営承認

経理・財務・会計・開示担当と確認すべきこと

確認事項
和解金の支払・入金/支払時期
勘定科目/税務処理確認要否
引当金・偶発債務
監査法人確認要否/開示・IR確認要否
予算消化/分割払い管理
支払証跡/入金確認

会計処理・税務・引当・開示は、法務だけで判断せず、経理・財務・監査法人・税理士・開示担当等と連携してください。

現場部門と確認すべきこと

確認事項
和解条項の実行可能性
取引継続・終了の実務
商品・資料・データの返還
再発防止策
相手方との今後の連絡窓口
現場担当者への説明
既存契約・別案件・類似案件への影響
社内マニュアル改訂要否

和解成立後の履行管理

管理項目
支払・入金期限管理/分割払い管理
返還・廃棄管理
守秘義務の社内周知
再発防止策の実施確認
証跡保存
弁護士への完了報告/経営陣への終了報告
文書管理
訴訟ホールド解除判断
会計・開示対応

社内報告・終了報告は第14話、訴訟ホールドの解除判断は第5話を参照してください。

和解条項でやってはいけないこと

やってはいけないこと なぜ問題か
金額だけ確認し条項全体を読まない後でトラブルになる
清算条項の範囲を確認しない想定外の権利を失う/残す
守秘義務の例外を確認しない必要な開示ができなくなる
支払期限が経理処理に間に合うか確認しない履行できない
分割払いの管理方法を決めない遅延に気づけない
不履行時対応を確認しない守られない場合に対応できない
現場で実行できない再発防止策を入れる義務違反になる
既存契約・別案件への影響を見ない他の権利義務に波及
会計・開示確認をしない後で問題化する
社内承認と異なる内容で合意する権限を逸脱する
成立後の履行管理を忘れる不履行に対応できない
和解書・和解調書を保管しない必要時に確認できない
守秘義務を社内に周知しない不用意な漏えいが起きる

和解条項チェックリスト

✓ 確認項目
☐当事者・和解金額が正しい
☐支払期限・方法・分割払い・遅延時対応を確認した
☐清算条項の範囲を確認した
☐守秘義務・口外禁止・非誹謗の範囲と例外を確認した
☐取引継続・終了、返還・廃棄を確認した
☐再発防止策・費用負担を確認した
☐不履行時対応を確認した
☐会計・開示確認をした
☐社内承認と一致している
☐履行管理担当・保管場所を決めた

和解成立後の履行管理表

そのまま使える履行管理表です。義務ごとに担当・期限・証跡を管理します。

No. 義務内容 担当部署 担当者 期限 必要資料 完了証跡 弁護士確認 経理確認 ステータス
1和解金の支払/入金    振込控等要/否要/否 
2物品・資料の返還/廃棄    受領書等要/否要/否 
3守秘義務の社内周知    周知記録要/否要/否 
4再発防止策の実施    実施報告要/否要/否 

よくある誤解

  • 「弁護士が見るので法務は金額だけ見ればよい」ではありません。社内運用との整合確認は法務の役割です。
  • 「清算条項は定型文なので深く見なくてよい」は誤りです。範囲で意味が大きく変わります。
  • 「守秘義務は広く書けば安全」とは限りません。必要な社内共有・開示までできなくなります。
  • 「和解金を払えばすべて終わる」ではありません。履行管理・各条項の対応が必要です。
  • 「口頭合意も当然に反映される」ではありません。条項に書かれているか確認します。
  • 「裁判上の和解と訴訟外和解契約は同じ」ではありません。履行確保の効力が異なります。
  • 「和解成立後は法務の仕事は終わり」ではありません。履行管理まで続きます。
  • 「不履行時対応は問題が起きてから考えればよい」ではありません。条項段階で備えます。
  • 「会計・開示は経理だけが考えればよい」ではありません。法務が情報を共有します。

第16話のまとめ

  • 和解条項は、金額だけでなく支払条件・清算条項・守秘義務・不履行時対応・履行管理を確認する重要な文書です。
  • 清算条項は、どの範囲の権利義務を終了させるかが重要です。
  • 守秘義務・口外禁止・非誹謗条項は、例外・社内共有・開示義務との関係を確認します。
  • 不履行時対応では、期限の利益喪失・遅延損害金・強制執行可能性・履行管理を確認します。
  • 法務担当者は、弁護士・経理財務・現場・経営陣と連携し、社内承認内容と和解条項を照合します。

次回・第17話「尋問対応の基本|証人候補・陳述書・想定問答をどう準備するか」では、和解に至らず尋問へ進む場合の準備を解説します。判決後の対応は第18話、保存版の総まとめは第20話「訴訟対応チェックリスト」で扱います。

和解条項の「照合・履行管理」を効率化

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シリーズ全20話のリンク一覧

「法務担当者のための訴訟対応実務20選」の全記事です。気になるテーマからお読みいただけます。保存版としてブックマークをどうぞ。

話 タイトル
第1話訴訟対応とは何か|会社の法務担当者が知っておくべき全体像
第2話訴状が届いたら最初に確認すること|訴状・呼出状・答弁書催告状の見方
第3話答弁書とは何か|提出期限・認否・初回期日までの実務対応
第4話訴訟対応の初動チェックリスト|社内共有・弁護士相談・期限管理
第5話訴訟ホールドとは何か|メール・チャット・資料を削除しないための対応
第6話訴訟対応で集める資料一覧|契約書・メール・請求書・議事録の探し方
第7話事実経過表の作り方|訴訟対応で時系列を整理する方法
第8話争点整理とは何か|相手の主張・こちらの反論・証拠を対応させる
第9話証拠説明書とは何か|書証番号・作成者・立証趣旨の基本
第10話準備書面とは何か|弁護士ドラフトを法務が確認するときの見方
第11話認否とは何か|訴訟対応で「認める・否認する・不知」をどう確認するか
第12話弁護士との役割分担|法務・現場・経営陣は何を担当するか
第13話訴訟費用・弁護士費用の社内説明|予算・稟議・見通しのまとめ方
第14話訴訟中の社内報告書の作り方|経営会議・取締役会への報告ポイント
第15話和解協議の進め方|金額・条件・社内承認で見るべきポイント
第16話和解条項の読み方|清算条項・守秘義務・不履行時対応の基本(この記事)
第17話尋問対応の基本|証人候補・陳述書・想定問答をどう準備するか
第18話判決が出た後の対応|控訴・支払・会計処理・社内説明
第19話こちらから訴えるときの準備|請求原因・証拠・回収可能性の検討
第20話訴訟対応チェックリスト|法務担当者が保存しておきたい実務一覧

参考情報

本記事は一般的な解説です。和解条項の効力・履行確保や会計・開示の取扱いは、条項・事案・時期によって異なり得るため、実際の対応にあたっては最新の公式情報をご確認のうえ、弁護士・会計専門家・開示担当にご相談ください。

※本記事は企業の法務担当者向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的・会計的アドバイスではありません。和解条項の効力・会計・開示など個別の判断は弁護士・会計専門家・開示担当にご相談ください。