この記事の実務版
読んで終わりにせず、
次の案件で使える形に。
この記事のテーマを、チェックリスト・文例・AIプロンプト・業務ツールとして、明日の実務にそのまま落とせる形で揃えています。
チェックリスト
文例・ひな形
AIプロンプト
業務ツール
無料ツールあり買い切り商品あり30日無料トライアルあり

訴状や準備書面を確認するとき、法務担当者が必ず向き合うのが「認否(にんぴ)」です。認否とは、相手方が主張する事実について、認めるのか、否認するのか、不知とするのかを整理する作業です。一見すると書面上の形式的な回答に見えますが、実は争点整理・証拠提出・和解判断にまで影響する重要な実務です。

認否の最終的な法的表現は弁護士が判断します。会社法務の役割は、弁護士が作成した認否案を、社内の事実・証拠・現場確認と照らして確認し、正確な情報を弁護士に渡すことです。

答弁書での認否は第3話、準備書面の確認は第10話でも触れました。本記事は、その認否そのものの確認実務を掘り下げます。

この記事でわかること

  • 認否とは何か、なぜ重要か
  • 「認める・否認する・不知・争う・留保する」の違い
  • 事実の認否と法的評価の違い
  • 認める/否認/不知それぞれの確認ポイントと、認否確認表のサンプル
  • 現場確認・証拠照合のコツ、弁護士への伝え方、やってはいけないこと
相手方主張
事実確認
証拠照合
認否案
弁護士確認
書面反映

実務メモ
この記事の内容を、毎回ゼロから考えないために。
法務実務で効くのは、知識そのものよりも"再現できる型"です。記事で読んだ確認観点・依頼文・回答メモ・マスキングを次の案件でそのまま引き出せる形に残しておくと、判断と説明の質が一段安定します。
確認観点をチェックリスト化する
確認依頼文・回答文を文例に残す
相談回答・法改正対応を記録に残す
AIに入れる前の情報整理を安全に
無料ツールあり買い切り商品あり30日無料トライアルあり

認否とは何か

認否とは、相手方が主張する事実について、認めるのか、争うのか、知らないのかを明確にする作業です。答弁書や準備書面のなかで、相手方の請求原因や主張に対応して行われます。

認否は争点整理の出発点です。認める事実は争いがなくなり、否認する事実が争点として残ります。つまり、「何が争われているか」は、認否によって形づくられていきます。

用語メモ:相手の主張する事実を認めることを「自白」といい、自白した事実は争いのない事実として、原則として証拠による証明が不要になります(民訴法179条)。また、相手の主張を争うことを明らかにしないと、自白したものとみなされる扱い(擬制自白。民訴法159条1項)があります。知らない旨(不知)の陳述は、争ったものと推定されます(同条2項)。これらの法的効果は重要なので、認否の最終判断は必ず弁護士に確認してください。

認否が重要な理由

理由 説明
争点が明確になるどの事実が争われているか見える
書面の土台になる答弁書・準備書面の基礎
証拠収集の範囲が見える争う事実に証拠を集中できる
打合せが効率的になる弁護士との議論が整理される
不要な争いを避けられる争う必要のない事実を絞れる
安易な「認め」のリスク認めると後で争いにくくなる場合がある
不用意な否認のリスク根拠なき否認は信用性・戦略に影響し得る
和解・社内報告に影響認める事実の多寡が判断材料になる

認否で使われる主な表現

表現 意味 法務が確認すること
認めるその事実を認める(自白)証拠・資料と整合するか
否認するその事実は違うと争う否認の根拠資料があるか
不知知らない旨を述べる本当に確認不能か
争う主張(事実・評価)を受け入れない何をどう争うか
留保する現時点で明らかにせず追って示す後で補充できるか
一部認め、一部否認主張のうち一部を認め一部を争うどこを認め、どこを争うか
趣旨不明として争う主張の意味が不明確として争う不明確な点はどこか
法的評価は争う事実は認めても法的評価は争う事実と評価を分けているか

これらの正確な使い分けと法的効果は弁護士の判断によります。法務は、各表現の前提となる事実・証拠の確認を担います。

「認める」とは何か

「認める」とは、相手方が主張する事実を会社側として認めることです。認める対象は、基本的に「事実」です。契約締結日、請求書発行日、メール送信日など、資料で明らかな事実は、あえて争う必要がない場合もあります。

確認ポイント 補足
証拠・資料と整合するか手元資料と一致するか確認
現場確認と一致するか実態と合っているか
明らかな事実か争う実益がない事実か
認めることの影響を確認したか訴訟上の意味は弁護士に確認

安易に認めないこと。認めた事実は撤回が制限されることがあり、後で争いにくくなる場合があります。現場の感覚だけで認めず、証拠・資料と照合し、影響を弁護士に確認してから判断します。

「否認する」とは何か

「否認する」とは、相手方の主張する事実を「違う」として争うことです。ただし、単に「違うと思う」だけでは足りません。なぜ違うのか、どの証拠と矛盾するのかを確認する必要があります。

確認ポイント 補足
なぜ違うのかを確認否認の理由を整理する
どの証拠と矛盾するか反論の裏づけを確認
反論資料があるか契約書・メール・議事録・ログ等
「違うと思う」で止まっていないか記憶だけの否認は危うい
否認と法律上の主張を混同しない事実の否認と評価の主張を分ける

「不知」とは何か

「不知」とは、会社側としてその事実を知らない、または確認できないという趣旨で使われることがある表現です。前述のとおり、不知の陳述は争ったものと推定されます(民訴法159条2項)。

ただし、会社内部の事実を安易に不知とするのは不自然な場合があります。自社の担当者・社内資料・システム記録で確認できる事項かどうかを、まず調べる必要があります。

確認ポイント 補足
社内で確認できる事項か担当者・資料・ログで確認可能か
調査を尽くしたか確認努力をした上での不知か
相手方内部・第三者の事情か会社が関与していない事実なら不知もあり得る
弁護士と相談したか不知とするかは弁護士の判断を仰ぐ
相手方の主張する「事実」に対して
資料と一致 → 認める
資料と矛盾 → 否認する
社内で確認不能 → 不知
いずれも最終判断は弁護士と確認

「事実の認否」と「法的評価」の違い

初心者がもっとも混同しやすいのが、「事実」と「法的評価」です。認否の対象は基本的に「事実」で、法的評価は別途「争う」かたちになります。

事実(認否の対象) 法的評価(争う対象)
2026年6月1日に契約書へ押印したその契約が有効に成立した
商品を納品した債務不履行はない
相手方から解除通知が届いたその解除は有効である

左の「事実」は認める/否認する/不知の対象になりますが、右の「法的評価」は、事実を認めても「法的評価は争う」という整理になり得ます。この切り分けが、認否の精度を左右します。

認否確認の基本手順

順番 やること
相手方の主張を一文ごとに分解する
事実主張と法律上の主張を分ける
事実経過表と照合する
争点整理表と照合する
関連証拠を確認する
現場担当者に確認する
不明点を未確認事項として残す
弁護士に確認すべき点を整理する
認める・否認・不知の案を弁護士と確認する
版管理する

相手方の主張を一文ごとに分解するのがコツです。長い主張のまま認否すると、認めるべきでない部分まで認めてしまう危険があります。

認否確認表に入れるべき項目

項目 内容
No./相手方主張分解した主張ごとに記載
事実か法律評価か区別して整理
自社確認結果資料・現場で確認した内容
関連証拠/現場確認先裏づけ資料・確認相手
認否案認める/否認/不知の暫定案
弁護士確認事項/未確認事項確認したい点・残課題
社内判断事項/備考経営判断に関わる点・補足

認否確認表のサンプル(架空事例)

これまでと同じ架空の取引トラブルを例にしたサンプルです(実在の企業・案件ではありません)。原告を「株式会社A」、自社を「当社(被告)」とします。認否案はあくまで暫定で、最終判断は弁護士によります。

No. 相手方の主張 事実/評価 自社確認結果 認否案(暫定)
12025-04-01に基本契約を締結した事実契約書で確認認める
2個別発注を行った事実注文書で確認認める
3納期変更の合意はなかった事実メール要精査否認(要確認)
4仕様不適合があった事実検査記録を確認中否認または不知(要確認)
5請求額は○○円である事実請求書で金額確認金額の事実は認める(評価は別)
6損害が発生した事実+評価因果関係・額を精査争う
7解除は有効である法的評価通知の受領は事実法的評価は争う

No.5やNo.7のように、事実は認めても評価は争う、という整理が出てきます。事実と評価を分けると、認否がぐっと正確になります。

現場確認で注意すべきこと

注意点 理由
記憶だけで認否を決めない記憶は誤りを含む
記憶と資料を分ける「思う」と「確認できる」は別
誰が・いつ・何を確認したか記録後から経緯を辿れる
説明の違いを記録する担当者間の認識差を残す
感情的な評価を事実扱いしない評価と事実を混同しない
弁護士同席を検討重要案件では進め方を相談

証拠との照合で注意すべきこと

資料 認否確認での使い方
契約書締結・条件に関する事実の確認
メール・チャット合意・連絡の有無、経緯の確認
議事録打合せでの合意・決定の確認
請求書・納品書・検収書金額・履行・検収の事実確認
稟議資料社内の意思決定の確認
システムログ操作・記録の日時の確認
交渉記録紛争前後のやり取りの確認

資料の集め方は第6話、時系列整理は第7話、証拠説明書は第9話を参照してください。

認否と準備書面・争点整理の関係

認否は答弁書だけでなく、準備書面でも繰り返し問題になります。認める事実・争う事実・不知の事実は、そのまま争点整理につながります。

事実経過表
×
争点整理表
×
認否確認表
準備書面

認否確認表・争点整理表(第8話)・証拠説明書を対応させると、準備書面(第10話)の確認がスムーズになります。

認否と社内報告・和解判断の関係

  • どの事実を認めるかは、社内報告の内容に影響します。
  • 認める事実が多い場合、和解判断に影響することがあります。
  • 否認する事実が多くても、証拠が弱ければリスクが残ります
  • 経営陣には、法的評価だけでなく「認めている事実・争っている事実」を整理して報告します。

社内報告は第14話、和解は第15話で扱います。

認否でやってはいけないこと

やってはいけないこと なぜ問題か
現場の感覚だけで認める証拠と矛盾するおそれ。撤回も難しい
証拠を確認せず否認する根拠なき否認は後で覆る
社内の事実を調べず不知とする不自然と見られ得る
事実と法的評価を混同する認否の枠組みが崩れる
相手方主張を事実扱いする主張は事実ではない
不利な事実を弁護士に共有しない適切な認否ができなくなる
認めることの影響を確認しない後で争えなくなる場合がある
否認の根拠を整理しない反論が弱くなる
未確認事項を隠す検討の前提を誤らせる
認否案を現場に丸投げする事実と評価が混ざる
経営判断を法務だけで決める判断領域を越える
古い認否表を更新せず使う最新の確認状況と食い違う

弁護士への確認・修正依頼の出し方

コツ 理由
根拠資料を示す「違うと思う」だけでは伝わらない
確認状況を分けて伝える確認済み/現場確認中/未確認/経営判断待ち
認めることに不安がある点を明示影響を一緒に検討できる
否認したいが証拠が弱い点を明示補強策を相談できる
不知としたい理由を説明調査の有無を共有する
修正希望と質問を分ける論点が整理される
提出期限を意識する逆算して相談する

よくある誤解

  • 「認否は弁護士だけが決めるもの」ではありません。前提の事実確認は法務の役割です。
  • 「法務は法律がわからないから確認不要」ではありません。確認するのは事実・証拠との整合性です。
  • 「事実として正しければ何でも認めてよい」とは限りません。認めることの影響を弁護士に確認します。
  • 「とりあえず全部否認すれば安全」ではありません。根拠なき否認はかえって不利になり得ます。
  • 「不利な事実は不知にすればよい」は誤りです。確認できる事実を不知とするのは不自然です。
  • 「現場が知らないと言えば不知でよい」とは限りません。社内資料・ログでの確認が必要です。
  • 「認否は後で自由に変えられる」とは限りません。認めた事実は撤回が制限されることがあります。
  • 「認否と和解判断は関係ない」ではありません。認める事実の多寡は判断に影響します。

第11話のまとめ

  • 認否は、相手方の主張について認める・否認する・不知とするなどを整理する重要な作業です。
  • 会社法務は、弁護士の法的判断を支えるため、事実・証拠・現場確認・社内方針を整理します。
  • 事実と法的評価を分けることが重要です。
  • 認める・否認・不知のいずれも、根拠と確認状況を残します
  • 認否は、争点整理・準備書面・証拠説明書・社内報告・和解判断につながります。

次回・第12話「弁護士との役割分担|法務・現場・経営陣は何を担当するか」では、ここまで繰り返し触れてきた「弁護士・法務・現場・経営陣の役割の線引き」を、あらためて整理します。

認否の前提となる「事実・証拠の整理」を効率化

認否確認では、事実経過・証拠・争点・社内判断の整理が重要です。Legal GPTでは、法務実務に役立つテンプレート・プロンプト・実務支援ツールをご用意しています。これらは訴訟対応そのものを代替するものではなく、社内整理や検討メモの作成を補助する位置づけです。認否の法的判断は、必ず弁護士にご相談ください。

Legal GPT トップ LegalOS を見る

シリーズ全20話のリンク一覧

「法務担当者のための訴訟対応実務20選」の全記事です。気になるテーマからお読みいただけます。保存版としてブックマークをどうぞ。

タイトル
第1話訴訟対応とは何か|会社の法務担当者が知っておくべき全体像
第2話訴状が届いたら最初に確認すること|訴状・呼出状・答弁書催告状の見方
第3話答弁書とは何か|提出期限・認否・初回期日までの実務対応
第4話訴訟対応の初動チェックリスト|社内共有・弁護士相談・期限管理
第5話訴訟ホールドとは何か|メール・チャット・資料を削除しないための対応
第6話訴訟対応で集める資料一覧|契約書・メール・請求書・議事録の探し方
第7話事実経過表の作り方|訴訟対応で時系列を整理する方法
第8話争点整理とは何か|相手の主張・こちらの反論・証拠を対応させる
第9話証拠説明書とは何か|書証番号・作成者・立証趣旨の基本
第10話準備書面とは何か|弁護士ドラフトを法務が確認するときの見方
第11話認否とは何か|訴訟対応で「認める・否認する・不知」をどう確認するか(この記事)
第12話弁護士との役割分担|法務・現場・経営陣は何を担当するか
第13話訴訟費用・弁護士費用の社内説明|予算・稟議・見通しのまとめ方
第14話訴訟中の社内報告書の作り方|経営会議・取締役会への報告ポイント
第15話和解協議の進め方|金額・条件・社内承認で見るべきポイント
第16話和解条項の読み方|清算条項・守秘義務・不履行時対応の基本
第17話尋問対応の基本|証人候補・陳述書・想定問答をどう準備するか
第18話判決が出た後の対応|控訴・支払・会計処理・社内説明
第19話こちらから訴えるときの準備|請求原因・証拠・回収可能性の検討
第20話訴訟対応チェックリスト|法務担当者が保存しておきたい実務一覧

参考情報

本記事は一般的な解説です。認否・自白・擬制自白の取扱いや、争点整理・主張立証の流れ、デジタル化の運用は事件や時期によって異なり得るため、実際の対応にあたっては最新の公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

※本記事は企業の法務担当者向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。認否の判断・法的効果など個別の判断は弁護士にご相談ください。

この記事を実務にする
読み終えた内容を、次の案件でそのまま使える形に。
法務記事で理解した内容は、チェックリスト・文例・記録・検索・ツール化まで落とし込まないと、次の案件で再利用しにくいまま終わってしまいます。下の道具は、今日の業務にすぐ差し込める順に並べています。
01
すぐ使いやすい入口
LegalOS 契約書一発整形
Word契約書の条番号・インデント・余白・見出し崩れを1クリックで整えるWindowsツール。
詳細を見る →
法務AIプロンプト集100選
契約・相談・調査・社内説明など、法務実務でそのまま使えるAIプロンプトを100本収録。
詳細を見る →
02
業務を整理するツール
迷ったら
今の業務に合う道具を、1分で診断します。
担当領域・体制・優先したい改善ポイントを選ぶだけで、入口になる道具をご案内します。