証拠説明書とは何か|書証番号・作成者・立証趣旨の基本
次の案件で使える形に。
訴訟で証拠を提出するとき、証拠そのものだけでなく、「証拠説明書」も重要になります。証拠説明書とは、提出する資料について「何の資料で、誰が作成し、いつ作られ、何を立証するためのものか」を整理して、裁判所と相手方に示す書面です。
証拠説明書は、通常は弁護士が作成します。ただし会社の法務担当者としては、弁護士作成案を見たときに、資料名・作成者・作成日・立証趣旨が社内資料の実態と合っているかを確認する役割があります。ここがずれていると、後の主張・立証に影響します。
証拠の集め方は第6話「訴訟対応で集める資料一覧」、争点との対応づけは第8話「争点整理とは何か」で扱いました。本記事は、その先の「証拠を提出する形に整える」段階を扱います。
この記事でわかること
- 証拠説明書とは何か、何を書く書面か
- 証拠番号(甲号証・乙号証)・標目・作成者・作成日・立証趣旨の意味
- 原本・写し・電子データの違いと注意点
- 弁護士作成案を法務部としてどこを見て確認するか
- 事実経過表・争点整理表とのつながり、やってはいけないこと
証拠説明書とは何か
証拠説明書とは、提出する証拠(書証)の内容を一覧化し、裁判所と相手方に説明する書面です。民事訴訟では、書証を提出する際に、あわせて証拠説明書を提出する運用になっています(民事訴訟規則137条1項)。
ここで大切なのは、証拠そのものと証拠説明書は別物だということです。資料を出すだけでなく、「その資料で何を示したいのか(立証趣旨)」を整理して伝える点に、証拠説明書の意味があります。単なる添付資料の目録ではありません。
どの証拠を・どう提出し・何を立証するかという判断は、弁護士の専門領域です。法務担当者は提出判断を代替するのではなく、資料の内容・出所・作成日・作成者・原本性が社内資料の実態と合っているかを確認する役割を担います。
証拠説明書に書かれる主な項目
裁判所の書式・記載例では、おおむね次の項目を記載します。中心となるのは号証・標目・原本/写しの別・作成者・作成年月日・立証趣旨の6項目です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 符号及び番号(号証) | 甲1、乙1など。枝番(甲1の1等)も |
| 標目 | 文書・資料の名称(例:基本契約書) |
| 原本・写しの別 | 原本か、写し(コピー)か |
| 作成者 | 誰が作成した資料か |
| 作成年月日 | いつ作成されたか |
| 立証趣旨 | その証拠で何を立証するか |
| 備考 | 補足(内容証明郵便である旨など) |
このほか、書面の上部に事件番号・当事者名・提出者・作成日などが記載されます。具体的な書式・記載順は裁判所や事件によって異なるため、裁判所の公式書式や代理人弁護士の指示に従ってください。
証拠番号(甲号証・乙号証)とは何か
証拠番号は、提出する証拠に付ける通し番号です。一般的な実務では、原告側の証拠を「甲号証」、被告側の証拠を「乙号証」と呼びます(甲1、甲2…/乙1、乙2…)。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 甲号証(甲1…) | 原告側が提出する証拠 |
| 乙号証(乙1…) | 被告側が提出する証拠 |
| 枝番(甲1の1、甲1の2…) | 密接に関連する書証をまとめるときに使う |
| 連番・追加提出 | 提出順に番号を付し、追加分は続きの番号で管理 |
自社の立場で番号が変わります。会社が原告なら甲号証、被告なら乙号証が自社側の証拠です。番号は1つの文書に1つ付すのが原則で、複数の文書に1つの番号をまとめて付けないのが一般的です。番号の付け方や運用は、弁護士・裁判所の運用に従って確認してください。
標目とは何か
標目(ひょうもく)とは、証拠となる文書・資料の名称です。資料の内容が分かるように、正確に記載します。
| 資料 | 標目の例 |
|---|---|
| 契約書 | 基本契約書/○○に関する覚書 |
| 請求書 | 請求書(No.1234) |
| メール | 電子メール(件名:納期変更の件) |
| 議事録 | ○月○日打合せ議事録 |
| チャット履歴 | ○○間のチャット履歴(○年○月分) |
| システムログ | ○○システムの操作ログ |
注意点として、社内のファイル名と標目は必ずしも一致しません。また「メール一式」「資料一式」のような大ざっぱな標目は、内容が分かりにくく特定が不十分になりがちです。同じ種類の文書が複数ある場合は、作成日などで区別します。
作成者・作成日を確認する意味
作成者と作成日は、その資料が「いつ・誰によって作られたか」を示す基本情報です。資料の種類によって、何を「作成日」とみるかが変わります。
| 資料 | 作成日として見るもの |
|---|---|
| 契約書・請求書 | 書面に記載された作成日付 |
| メール | 送信日時 |
| チャット | 投稿日時 |
| 議事録 | 会議日と議事録の作成日(両方確認) |
| システムログ | 記録された日時 |
作成者・作成日が不明な場合は、無理に断定せず「不明」と扱い、弁護士と相談します。推測で記載するのは避けてください。
原本・写し・電子データの違い
証拠説明書では「原本か写しか」を記載します。近年は電子データが多く、扱いに注意が必要です。
| 種類 | ざっくりした説明 |
|---|---|
| 原本 | もともとの正式な文書そのもの |
| 写し | 原本のコピー |
| PDF・スキャンデータ | 紙を電子化したもの。元の紙の有無を確認 |
| 電子契約データ | 電子署名等を伴うことがある |
| メールデータ | ヘッダ情報(送受信日時等)も重要 |
| チャットのエクスポート | 取得方法・範囲を確認 |
| スクリーンショット | 補助資料として扱う場合がある。元データの有無を確認 |
| システムログ | 取得方法・記録日時を確認 |
なお、原本があるものは証拠調べの期日に原本を持参するのが一般的です。録音データや外国語文書などは別途対応が必要になる場合があります。どの形式で・どう提出するかの最終判断は弁護士と相談してください。
立証趣旨とは何か
立証趣旨とは、その証拠によって何を証明しようとしているのかを示す説明です。証拠説明書のなかでも特に重要な欄で、できるだけ具体的に書くことが望ましいとされています。
| 証拠 | 立証趣旨の例 |
|---|---|
| 契約書 | 契約が成立したこと、契約条件の内容 |
| 請求書 | 請求金額、請求日 |
| メール | 納期変更の連絡があったこと |
| 議事録 | 協議内容・合意内容 |
| チャット | 担当者間でのやり取りの内容 |
立証趣旨は、争点整理表の「争点」と対応させると理解しやすくなります。「この証拠は、どの争点を支えるために出すのか」を意識しましょう。
証拠説明書と事実経過表・争点整理表の関係
これまで作ってきた3つの資料は、役割が異なりますが連動します。
| 資料 | 整理する内容 |
|---|---|
| 事実経過表 | いつ何が起きたか(時系列) |
| 争点整理表 | 何が争われているか(論点別) |
| 証拠説明書 | どの証拠で何を示すか(証拠別) |
この3つを連動させると、弁護士との打合せや社内報告がスムーズになります。第7話・第8話で振った証拠候補番号を、証拠説明書の号証へ引き継ぐイメージです。
証拠説明書案を弁護士から受け取ったときの確認ポイント
弁護士が作成した証拠説明書案を受け取ったら、法務部として「社内資料の実態と合っているか」を中心に確認します。法的な提出判断ではなく、事実情報の正確さを見るのがコツです。
| 確認ポイント | 見る理由 |
|---|---|
| 証拠番号が資料一覧と合っているか | 番号と現物の取り違えを防ぐ |
| 標目が資料内容と合っているか | 名称のずれをなくす |
| 作成者・作成日に誤りがないか | 基本情報の正確性 |
| 原本・写しの別が正しいか | 手元資料の実態と一致するか |
| 立証趣旨が資料内容とずれていないか | 資料が示せる範囲と合っているか |
| 争点整理表と対応しているか | 争点との整合を確認 |
| 個人情報・機密情報が含まれていないか | 取扱いの確認 |
| マスキング要否を確認したか | 不要な情報の保護 |
| 不利な記載のある資料を弁護士と確認したか | 隠さず、対応を相談する |
| 社内承認が必要な提出ではないか | 承認手続きの要否 |
気になる点は、自分で書き換えず弁護士に確認・相談します。役割分担は第12話「弁護士との役割分担」もどうぞ。
証拠候補を証拠説明書に載せる前に確認すること
| 確認すること | ポイント |
|---|---|
| どこから出てきた資料か | 出所を記録する |
| 原本があるか | 原本の所在を確認 |
| 作成者・作成日が確認できるか | 不明なら不明と扱う |
| 改ざん・上書きされていないか | 元の状態を保つ |
| 関連する事実・争点は何か | 立証趣旨につなげる |
| 秘密保持義務上の問題はないか | 個人情報・営業秘密の確認 |
| 第三者の秘密情報が含まれないか | 相手方・第三者の情報に注意 |
| 提出範囲を限定できるか/マスキング要否 | 必要部分に絞れるか |
| 弁護士確認が必要か | 迷ったら相談 |
メール・チャット・スクリーンショットを証拠にする場合の注意点
| 資料 | 確認すること |
|---|---|
| メール | 送信者・受信者・送信日時・件名・添付ファイル |
| チャット | 投稿者・投稿日時・スレッド・編集や削除の有無 |
| スクリーンショット | 取得日時・取得者・元データの有無 |
| 共通 | 可能ならエクスポートデータや元データも保存 |
どの形式で提出するか(スクリーンショットか、エクスポートデータか等)は、弁護士と相談して決めます。
電子データ・mints時代の証拠説明書で確認すべきこと
民事訴訟手続のデジタル化を定めた改正民事訴訟法等は令和8年(2026年)5月21日に全面施行され、書面や記録の電子化・オンライン提出が進んでいます。証拠の提出も、この影響を受けます。
- 事件によって運用が異なる場合がある:事件の種類、申立ての時期、代理人の有無、mints(民事裁判書類電子提出システム)の利用状況などで取扱いが変わり得ます。
- ファイル形式ごとの扱い:PDF・画像・音声・動画・ログなどで、提出方法や留意点が異なる場合があります。
- ファイル名・版管理:提出済みファイルの管理が重要です。社内ファイル名と号証の対応を保ちます。
提出方法・書式の詳細は、移行期で変動し得ます。最終的には裁判所の公式情報と代理人弁護士に確認してください(参考リンクは記事末尾)。
証拠説明書の社内管理
証拠は、提出状況を社内で管理しておくと混乱を防げます。
| 管理項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出済み・未提出の別 | どの証拠を出したか |
| 証拠番号と社内ファイル名の対応 | 号証と現物を紐づける |
| 弁護士共有済みか | 共有状況の記録 |
| 裁判所提出済みか | 提出状況の記録 |
| 相手方開示済みか | 開示状況の記録 |
| マスキング済みか | 処理状況の記録 |
| 版管理・アクセス権限 | 最新版の管理と閲覧範囲 |
証拠説明書でやってはいけないこと
| やってはいけないこと | なぜ問題か |
|---|---|
| 資料名を曖昧に書く | 特定が不十分になる |
| 作成者・作成日を確認せず記載 | 誤った情報になる |
| 立証趣旨を資料内容とずらす | 証拠が示せる範囲を超える |
| 不利な部分を見落とす | 後で問題になり得る |
| マスキング要否を確認しない | 不要な情報まで開示するおそれ |
| 個人情報・営業秘密を無制限に共有 | 情報管理上のリスク |
| 原本と写しを混同する | 記載の正確性を損なう |
| 電子データを上書きする | 元の状態が失われる。改ざんと疑われ得る |
| ファイル名だけで証拠内容を判断 | 中身を確認せず誤る |
| 弁護士に資料の背景説明をしない | 適切な立証趣旨が立てられない |
| 旧版の証拠説明書を使い続ける | 最新の整理と食い違う |
| 号証と社内ファイル名の対応を管理しない | 現物を探せなくなる |
証拠説明書の簡易テンプレート
理解の助けになる簡易テンプレートです。実際の書式・記載方法は、裁判所の公式情報や代理人弁護士の指示に従ってください。
| 証拠番号 | 標目 | 原本・写し | 作成者 | 作成年月日 | 立証趣旨 | 関連争点 | 関連事実 | 社内ファイル名 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 乙1 | |||||||||
| 乙2 | |||||||||
| 乙3 |
※「証拠番号」「立証趣旨」などの正式な記載順・表現は裁判所により異なります。「社内ファイル名」「関連争点」「関連事実」は社内管理用の補助項目です。
よくある誤解
- 「証拠説明書は単なる添付資料リスト」ではありません。立証趣旨を示す重要な書面です。
- 「証拠番号は法務部が自由に付ければよい」とは限りません。弁護士・裁判所の運用に従います。
- 「立証趣旨は大まかでよい」ではありません。具体的に書くことが望ましいとされています。
- 「ファイル名がわかれば標目は適当でよい」ではありません。内容が分かる正確な標目が必要です。
- 「メールやチャットはスクリーンショットだけで十分」とは限りません。元データの確認が必要な場合があります。
- 「不利な資料は証拠説明書に載せなければよい」は誤りです。隠す対応はリスクを高めます。弁護士と相談します。
- 「証拠説明書は弁護士だけが見ればよい」ではありません。社内資料との照合は法務の役割です。
- 「一度作れば更新不要」ではありません。追加提出などで更新します。
第9話のまとめ
- 証拠説明書は、提出する証拠について証拠番号・標目・作成者・作成年月日・原本/写しの別・立証趣旨を整理する書面です(民訴規則137条1項)。
- 会社法務は、証拠説明書案と社内資料の実態が合っているかを確認する役割を担います。
- 立証趣旨は、争点整理表と対応させると理解しやすくなります。
- 電子データ・メール・チャット・スクリーンショット・ログの扱いには注意が必要です。
- 証拠説明書は、準備書面・尋問準備・社内報告・和解判断にもつながります(尋問準備は第17話で扱います)。
次回・第10話「準備書面とは何か|弁護士ドラフトを法務が確認するときの見方」では、主張を整理して提出する準備書面について、法務部としての確認の視点を解説します。認否の考え方は第11話「認否とは何か」で扱います。
証拠の「整理・対応づけ」を効率化
訴訟対応では、証拠・事実経過・争点・社内判断の整理が重要です。Legal GPTでは、法務実務に役立つテンプレート・プロンプト・実務支援ツールをご用意しています。これらは訴訟対応そのものを代替するものではなく、社内整理や検討メモの作成を補助する位置づけです。証拠提出・立証方針の判断は、必ず弁護士にご相談ください。
シリーズ全20話のリンク一覧
「法務担当者のための訴訟対応実務20選」の全記事です。気になるテーマからお読みいただけます。保存版としてブックマークをどうぞ。
参考情報
本記事は一般的な解説です。証拠説明書の書式・記載方法や提出方法、デジタル化の運用は、裁判所・事件・代理人の方針によって異なり得ます。各地の裁判所サイトでは証拠説明書の記載例・書式が公開されていますので、実際の対応にあたっては最新の公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。
- 裁判所(手続案内・各種書式・証拠説明書記載例):https://www.courts.go.jp/
- 裁判所|民事裁判手続のデジタル化:https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/index.html
- e-Gov法令検索(民事訴訟法・民事訴訟規則):https://laws.e-gov.go.jp/
- 法務省|民事訴訟法等の一部を改正する法律について:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00316.html
- 日本弁護士連合会:https://www.nichibenren.or.jp/
※本記事は企業の法務担当者向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。証拠提出・立証方針など個別の判断は弁護士にご相談ください。
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