この記事の実務版
読んで終わりにせず、
次の案件で使える形に。
この記事のテーマを、チェックリスト・文例・AIプロンプト・業務ツールとして、明日の実務にそのまま落とせる形で揃えています。
チェックリスト
文例・ひな形
AIプロンプト
業務ツール
無料ツールあり買い切り商品あり30日無料トライアルあり

事実経過表を作った後、次に必要になるのが「争点整理」です。出来事を時系列に並べるだけでは、訴訟対応としては足りません。そのうち何が争われているのかを見極めることが、次のステップになります。

訴訟では、すべての事実が争いになるわけではありません。当事者の間で認識が一致している事実もあれば、真っ向から食い違う事実もあります。争点整理とは、この「食い違い」を明確にし、相手方の主張・自社の反論・証拠を対応させる作業です。

争点整理は、答弁書・準備書面・証拠説明書・尋問準備・和解判断・社内報告のすべてにつながります。事実経過表の作り方は第7話「事実経過表の作り方」で扱いました。本記事は、その先の「論点別の整理」に焦点を当てます。

この記事でわかること

  • 争点整理とは何か、なぜ重要か
  • 「事実の争点」と「法律上の争点」などの違い
  • 相手方主張・自社反論・証拠・未確認を対応させる方法
  • 架空事例による争点整理表のサンプルと簡易テンプレート
  • 準備書面・社内報告・和解判断とのつながり、やってはいけないこと
事実経過表
争点整理(本記事)
証拠説明書
準備書面

実務メモ
この記事の内容を、毎回ゼロから考えないために。
法務実務で効くのは、知識そのものよりも"再現できる型"です。記事で読んだ確認観点・依頼文・回答メモ・マスキングを次の案件でそのまま引き出せる形に残しておくと、判断と説明の質が一段安定します。
確認観点をチェックリスト化する
確認依頼文・回答文を文例に残す
相談回答・法改正対応を記録に残す
AIに入れる前の情報整理を安全に
無料ツールあり買い切り商品あり30日無料トライアルあり

争点整理とは何か

争点整理とは、相手方と自社との間で「何が争われているのか」を明確にする作業です。具体的には、次の3点を整理します。

  • 相手が何を主張しているか(相手方の主張)
  • 自社はどこを認め、どこを争うか(自社の認識・反論)
  • その根拠となる証拠は何か(関連する証拠)

なお、裁判所でも、審理を効率的に進めるために「争点及び証拠の整理手続」(弁論準備手続など)が行われます。これは裁判所・弁護士が関わる手続ですが、その前提として、会社側で社内の事実・証拠・方針を整理しておくことが役立ちます。本記事の「争点整理」は、この社内での準備作業を指します。

争点整理は強力な準備ですが、これだけで訴訟方針が決まるわけではありません。どの争点をどう主張・立証するかという戦略や、法的主張の最終判断は弁護士の専門領域です。法務担当者は、社内の事実・証拠・判断材料を整理して弁護士に渡す役割だと考えてください。

争点整理が必要な理由

役立つ場面 理由
答弁書の認否整理どこを認め・争うかが見えやすい
準備書面の検討何を主張すべきか確認しやすい
証拠と主張の対応争点ごとに証拠を結びつけられる
不足証拠の発見証拠が足りない争点に気づける
追加確認の明確化現場へ何を聞くべきかわかる
経営陣への説明争点ごとの強み・弱みを伝えやすい
和解か争うかの判断見通しを踏まえた検討ができる
弁護士との打合せ論点が整理され効率的になる

争点整理で見るべき要素

各争点について、最低限4つの要素をセットで見ます。さらに「法的評価」「経営判断への影響」を加えると、社内検討まで一気通貫になります。

要素 内容
① 相手方の主張相手が何を主張しているか(主張であって事実ではない)
② 自社の認識・反論自社はどう理解し、どう反論するか
③ 関連する証拠主張を裏づける資料
④ 未確認事項・追加調査まだ確認できていないこと
+ 法的評価法律上どう評価されるか(弁護士の領域)
+ 経営判断への影響費用・時間・取引関係・評判への影響
相手方主張
×
自社反論
×
証拠
×
未確認事項
この4つを「争点ごと」に対応させるのが争点整理

事実の争点と法律上の争点の違い

争点には種類があります。初心者がつまずきやすいのが、「事実の争点」と「法律上の争点」の区別です。あわせて「証拠上の争点」「経営判断上の論点」も整理しておきましょう。

種類 問われること
事実の争点何が起きたか(事実の有無)納品したか、検収したか、通知したか、合意があったか
法律上の争点法的にどう評価されるか契約解除が有効か、損害賠償が認められるか、時効が成立するか
証拠上の争点その事実を裏づける証拠があるか合意を示す書面・メールがあるか
経営判断上の論点勝敗以外に何を考えるか費用、時間、取引関係、評判、事業影響

特に大切なのは、法律上の争点と経営判断上の論点を混同しないことです。前者は弁護士の専門領域、後者は経営の判断領域です。法務は両方を整理して橋渡しします。

争点整理表に入れるべき基本項目

項目 内容
No./争点名争点の通し番号と見出し
相手方の主張相手の言い分
自社の認識自社としての理解
自社の反論方針どう反論するか(弁護士と要相談)
関連する事実事実経過表の該当箇所
関連証拠/証拠の強さ裏づけ資料とその強弱の見立て
未確認事項/現場確認先追加で確認すること・確認相手
弁護士確認事項法的に確認したい点
社内判断・和解判断への影響経営判断に関わる点
備考補足

争点整理表のサンプル(架空事例)

第7話と同じ架空の取引トラブルを例にしたサンプルです(実在の企業・案件ではありません)。原告を「株式会社A」、自社を「当社(被告)」とします。証拠の強さはあくまで暫定的な見立てで、最終評価は弁護士・裁判所によります。

No. 争点 種類 相手方の主張 自社の認識・反論 関連証拠(強さ)
1納期遅延があったか事実当初納期に遅れた納期は変更合意済みと考える納品書・メール(中)
2納期変更の合意があったか事実合意していないメールで合意したと認識メール(要精査・中〜弱)
3検収拒否に正当な理由があるか事実+法律仕様不適合があった仕様は満たしていると考える仕様書・検査記録(要確認)
4追加費用の請求が認められるか法律追加費用は不要変更に伴う追加費用が生じた見積・やり取り(中)
5損害額が相当か法律高額の損害が発生損害額・因果関係を争う算定根拠を要精査(弱)

このように並べると、「証拠が弱い争点」「未確認の争点」が一目で見えてきます。たとえば争点2・3・5は、追加の資料収集や現場確認、弁護士との検討が必要だと分かります。

争点整理の作成手順

順番 やること
訴状・答弁書・準備書面を読む
相手方の主張を抜き出す
認める事実・争う事実・未確認の事実に分ける
事実経過表と照合する
関連証拠を紐づける
不足している証拠を洗い出す
現場への追加確認事項を出す
弁護士に確認すべき点を整理する
経営判断が必要な点を分ける
版管理する

訴状の読み方は第2話、答弁書は第3話、資料収集は第6話もあわせてどうぞ。

相手方の主張を抜き出す方法

争点整理の出発点は、相手が何を主張しているかを正確に拾うことです。ここで大切なのは、「相手が主張していること」と「事実として確定したこと」を混同しないことです。

手順・注意点 ポイント
請求の趣旨と原因を分けて読む結論(趣旨)と理由(原因)を区別
強調点を拾う答弁書・準備書面で相手が押す点
事実主張と法律主張を分ける「起きたこと」と「法的評価」を区別
金額・日付・契約条項に注意具体的な数字・条項を正確に拾う
評価表現に注意「不当に」等は相手の評価であり事実ではない

自社の反論を整理する方法

相手の主張を拾ったら、自社の立場を正直に仕分けます。反論したいが証拠が弱い部分も、隠さず把握しておくことが重要です。

仕分け 扱い
認める部分争いのない事実として整理
争う部分反論の根拠を確認
不知・未確認の部分確認方法を検討
証拠がある反論証拠を紐づける
証拠が弱い反論補強できる資料を探す
法的主張が必要な部分弁護士に確認する
経営判断が必要な部分争うか否かを経営と検討

認否の考え方は第11話「認否とは何か」で詳しく扱います。最終的な認否・反論は弁護士の判断によります。

証拠と争点を対応させる

争点ごとに証拠を紐づけると、どこが強く、どこが弱いかが見えてきます。

対応のしかた ポイント
争点ごとに証拠を紐づける「この争点を支える証拠は何か」を確認
証拠の有無で分類する証拠がある/弱い/ない争点に分ける
1つの証拠が複数争点に関係同じ証拠を複数争点に対応づける
証拠候補番号を使う事実経過表と同じ仮番号で管理

この対応づけは、第9話「証拠説明書とは何か」の作成につながります。

事実経過表と争点整理表の違い

資料 整理する内容 並べ方
事実経過表何がいつ起きたか時系列
争点整理表何が争われているか論点別

両者は行き来しながら使うものです。争点を検討するうちに事実経過表の抜けに気づいたり、事実経過表を見直すうちに新たな争点が見えたりします。

争点整理と準備書面の関係

準備書面は、主張・反論を整理して裁判所に提出する書面です。争点整理表があると、弁護士が作成した準備書面のドラフトを確認するとき、事実の漏れ・証拠の漏れに気づきやすくなります。

  • 「この争点に対する反論が書かれているか」
  • 「この主張を支える証拠が引用されているか」
  • 「未確認事項が確定事実のように書かれていないか」

といった観点で確認できます。準備書面の確認ポイントは第10話「準備書面とは何か」で扱います。

争点整理と社内報告・和解判断の関係

争点整理表は、経営陣への報告や和解判断にも役立ちます。

  • 経営陣には、争点ごとの強み・弱みを整理して説明できます。
  • 争点ごとの証拠の強弱は、和解金額や和解条件の検討に影響することがあります。
  • 判断にあたっては、勝敗見通しだけでなく、費用・時間・取引関係・評判・事業影響もあわせて見ます。

社内報告は第14話「訴訟中の社内報告書の作り方」、和解の進め方は第15話「和解協議の進め方」で扱います。

争点整理でやってはいけないこと

やってはいけないこと なぜ問題か
相手方の主張を事実として扱う主張は事実ではない。混同は誤りのもと
都合のよい争点だけ整理する弱点を見落とし、判断を誤る
不利な争点を外す隠蔽はリスクを高める
証拠がないのに強い反論と評価後で覆る危険がある
現場の説明だけで争点を決める資料との照合が抜ける
事実と法律の争点を混同する検討の枠組みが崩れる
弁護士確認事項を社内で断定法的判断は弁護士の領域
経営判断を法務だけで決める経営の判断領域を越える
争点整理表を更新しない新事実・新証拠が反映されない
旧版を上書きして消す検討の経緯を失う
社内共有範囲を広げすぎる情報管理上のリスク

争点整理表の簡易テンプレート

そのまま使える簡易テンプレートです。項目は案件に応じて、弁護士と相談しながら調整してください。

No. 争点 相手方主張 自社認識 自社反論 関連事実 関連証拠 証拠の強弱 未確認事項 弁護士確認事項 社内判断事項 備考
1           
2           
3           

よくある誤解

  • 「争点整理は弁護士だけがやるもの」ではありません。社内の事実・証拠の整理は会社側でできます。
  • 「訴状を読めば争点はすぐわかる」とは限りません。答弁書・準備書面のやり取りを経て見えてきます。
  • 「自社が正しいと思う点だけ整理すればよい」ではありません。弱点も含めて整理します。
  • 「証拠がなくても現場が説明できれば足りる」とは限りません。証拠による裏づけが重要です。
  • 「不利な争点は社内資料に残さない方がよい」は誤りです。隠すとかえって対応を誤ります。
  • 「争点整理表は一度作れば更新不要」ではありません。進行に応じて更新します。
  • 「法的争点と経営判断は同じ」ではありません。区別して扱います。
  • 「和解を考える段階になってから争点を見ればよい」とは限りません。早めの整理が判断を助けます。

第8話のまとめ

  • 争点整理は、相手方と自社の間で何が争われているかを明確にする作業です。
  • 相手方主張・自社反論・関連事実・証拠・未確認事項を対応させることが重要です。
  • 事実の争点・法律上の争点・証拠上の争点・経営判断上の論点を区別します。
  • 法務担当者は、弁護士の専門判断を代替せず、社内の事実・証拠・判断材料を整理する役割を担います。
  • 争点整理は、証拠説明書・準備書面・社内報告・和解判断につながります。

次回・第9話「証拠説明書とは何か|書証番号・作成者・立証趣旨の基本」では、整理した証拠を裁判所に提出するときの「証拠説明書」について解説します。

争点・証拠の「整理」を効率化

訴訟対応では、事実経過・争点・証拠・社内判断の整理が重要です。Legal GPTでは、法務実務に役立つテンプレート・プロンプト・実務支援ツールをご用意しています。これらは訴訟対応そのものを代替するものではなく、社内整理や検討メモの作成を補助する位置づけです。法的主張・訴訟方針の判断は、必ず弁護士にご相談ください。

Legal GPT トップ LegalOS を見る

シリーズ全20話のリンク一覧

「法務担当者のための訴訟対応実務20選」の全記事です。気になるテーマからお読みいただけます。保存版としてブックマークをどうぞ。

タイトル
第1話訴訟対応とは何か|会社の法務担当者が知っておくべき全体像
第2話訴状が届いたら最初に確認すること|訴状・呼出状・答弁書催告状の見方
第3話答弁書とは何か|提出期限・認否・初回期日までの実務対応
第4話訴訟対応の初動チェックリスト|社内共有・弁護士相談・期限管理
第5話訴訟ホールドとは何か|メール・チャット・資料を削除しないための対応
第6話訴訟対応で集める資料一覧|契約書・メール・請求書・議事録の探し方
第7話事実経過表の作り方|訴訟対応で時系列を整理する方法
第8話争点整理とは何か|相手の主張・こちらの反論・証拠を対応させる(この記事)
第9話証拠説明書とは何か|書証番号・作成者・立証趣旨の基本
第10話準備書面とは何か|弁護士ドラフトを法務が確認するときの見方
第11話認否とは何か|訴訟対応で「認める・否認する・不知」をどう確認するか
第12話弁護士との役割分担|法務・現場・経営陣は何を担当するか
第13話訴訟費用・弁護士費用の社内説明|予算・稟議・見通しのまとめ方
第14話訴訟中の社内報告書の作り方|経営会議・取締役会への報告ポイント
第15話和解協議の進め方|金額・条件・社内承認で見るべきポイント
第16話和解条項の読み方|清算条項・守秘義務・不履行時対応の基本
第17話尋問対応の基本|証人候補・陳述書・想定問答をどう準備するか
第18話判決が出た後の対応|控訴・支払・会計処理・社内説明
第19話こちらから訴えるときの準備|請求原因・証拠・回収可能性の検討
第20話訴訟対応チェックリスト|法務担当者が保存しておきたい実務一覧

参考情報

本記事は一般的な解説です。争点及び証拠の整理手続(弁論準備手続など)や準備書面・証拠提出の取扱い、デジタル化の運用は事件や時期によって異なり得るため、実際の対応にあたっては最新の公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

※本記事は企業の法務担当者向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。争点の評価・訴訟方針など個別の判断は弁護士にご相談ください。

この記事を実務にする
読み終えた内容を、次の案件でそのまま使える形に。
法務記事で理解した内容は、チェックリスト・文例・記録・検索・ツール化まで落とし込まないと、次の案件で再利用しにくいまま終わってしまいます。下の道具は、今日の業務にすぐ差し込める順に並べています。
01
すぐ使いやすい入口
LegalOS 契約書一発整形
Word契約書の条番号・インデント・余白・見出し崩れを1クリックで整えるWindowsツール。
詳細を見る →
法務AIプロンプト集100選
契約・相談・調査・社内説明など、法務実務でそのまま使えるAIプロンプトを100本収録。
詳細を見る →
02
業務を整理するツール
迷ったら
今の業務に合う道具を、1分で診断します。
担当領域・体制・優先したい改善ポイントを選ぶだけで、入口になる道具をご案内します。