新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務 第15話・最終話

新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること

シリーズ全15話 第15話(最終話)/法令・制度基準日 2026年8月21日/一次資料確認日 2026年8月22日

既存契約の調査は終わった。台帳にも入力した。では、新リース会計基準への対応は完了でしょうか。

まだです。契約を集めたことと、集めた情報が使える状態になっていることは別です。そして、適用開始日に間に合わせることと、その後も同じ精度で回り続けることも別です。

母集団、調査、経理判断、台帳と証跡、変更管理、新規契約審査、そして適用開始後の運用。この7つがつながって初めて、一度きりのプロジェクトではなく継続する契約管理プロセスになります。

シリーズ最終話となるこの記事は、第1話から第14話までの内容を説明し直す記事ではありません。適用開始までに何が終わっていればよいのかを、1本で確認できる状態にすることを目的としています。工程表、全42項目のチェックリスト、完了条件と完了証拠、部門別の最終確認までを一枚に集約しました。未完了の項目があれば、各項目の「関連話」から該当する記事へ戻ってください。

この記事の結論

  • 本記事の役割分担・工程・チェックリストは、会計基準が部署別に定めた義務ではありません。企業会計基準第34号も適用指針第33号も、法務部を主管部署と定めておらず、契約棚卸しや契約台帳の作成を法務部に課してもいません。以下はLegalGPTが企業実務向けに整理した対応例です。
  • まず自社の適用開始年度を確定してください。会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する期首からの早期適用も認められています(リース会計基準第58項)。全企業が同じ日に一斉に適用を開始するわけではありません。
  • 次に経理部の移行方針を確認してください。適用指針の経過措置(第118項ただし書き・第119項)の選択によって、既存契約について必要な調査の範囲と基準日が変わり得ます。
  • 経過措置を選ぶのは法務部ではありません。法務部は、経理部が選んだ方法に応じて必要な契約・期間・料金・証跡を提供する側です。
  • 契約一覧が完成しただけでは対応完了になりません。母集団、調査、経理判断、台帳、変更管理、新規契約審査、適用開始後の運用がつながって初めて、継続的に運用できます。
  • 各タスクには「完了証拠」を持たせてください。作業をしたかどうかではなく、終わったことを後から確認できるかどうかが基準です。
  • 未確認をゼロにするとは、未解決の論点が存在しないという意味ではありません。未確認事項がステータス化され、担当者・対応期限・判断ルートが決まっている状態を指します。
  • 契約変更とオプション行使は別の事象です。また、契約条件の変更が生じていない場合の見直しには、借手の統制下にあり、かつ行使の判断に影響を与える重要な事象または重要な状況という要件があります(リース会計基準第41項)。何か起きれば必ず見直す、という運用ではありません。
  • 新規契約の審査を変えなければ、適用開始後に同じ調査を繰り返すことになります。受付票は会計判定票ではなく事実質問にしてください。
  • この対応は2027年に終わるプロジェクトではありません。適用開始後の変更・更新・解約・オプション行使・料金改定・資産の追加返却を拾い続ける通常業務へ移行させることが、最後の工程です。

本記事は「新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務」全15話の第15話・最終話です。

このシリーズは、新リース会計基準への対応において法務部・契約管理部門が担うことになる契約調査と契約管理の実務を、順を追って解説することを目的としてきました。最終話では、第1話から第14話までの論点をチェックリストとして一枚に集約します。

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シリーズ全15話の構成

話数記事タイトルその記事で分かること
第1話新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わる?|2027年適用に向けた契約対応の全体像シリーズ全体像と、法務部が担う役割の範囲
第2話新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール適用時期・対象企業・準備工程の考え方
第3話リース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」契約がリースを含むかを判断する枠組み
第4話埋込リースとは?|業務委託・物流・IT契約に潜むリースの見つけ方サービス型契約に含まれるリースの探し方
第5話新リース会計基準で調査すべき契約書は?|法務部の契約棚卸しの進め方契約母集団の設定と棚卸しの実務手順
第6話「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準特定された資産と、供給者側の代替権の見方
第7話資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法使用の支配・経済的利益・使用指図権の確認
第8話リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方リース期間と、更新・解約条項の読み方
第9話契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理契約書から抽出すべき料金情報の範囲
第10話リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェックリース部分と非リース部分の区分の論点
第11話オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント不動産賃貸借契約に固有の調査ポイント
第12話契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務契約変更・更新時の再判定と管理実務
第13話新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理契約台帳の追加項目と証跡の残し方
第14話新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項新規契約審査への確認項目の組み込み方
第15話新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること(現在の記事)適用開始までの最終チェックリスト

第1章 まず自社の適用開始年度を確定する

LegalGPTとしての整理本記事のチェックリスト、工程表、部門別の役割分担は、ASBJが定めた部署別の義務ではありません。企業会計基準第34号および適用指針第33号は、主管部署、契約棚卸しの手順、契約台帳の様式、社内ワークフローを定めていません。ここでの「法務部」は、契約情報を保有・確認しやすい部署の一例として位置づけています。実際の分担は各社の組織と業務フローに応じて決めてください。

すべての起点は、自社がいつから適用するかです。会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされ、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することもできるとされています(リース会計基準第58項)。適用指針の適用時期も会計基準と同様です(適用指針第112項)。

ここで注意が必要です。2027年4月1日に全企業へ一斉に適用されるわけではありません。「以後開始する事業年度の期首から」であるため、決算期によって開始年度がずれます。

表1 決算期別の適用開始年度の例

決算期原則適用となる年度の例早期適用を選ぶ場合の例
3月決算2027年4月1日に開始する2028年3月期から2025年4月1日に開始する2026年3月期以後の期首から
12月決算2028年1月1日に開始する2028年12月期から2026年1月1日に開始する2026年12月期以後の期首から

上表は決算期の違いによる開始時期のイメージです。自社の適用開始年度、早期適用の可否、連結と個別の取扱いは、必ず経理部に確認してください。適用時期の詳細は第2話で扱っています。

第2章 「対応完了」とは何を指すのか

契約一覧が完成した時点を完了とみなすと、適用開始後に必ず手戻りが発生します。調べた結果が経理判断に届いていない、判断結果が台帳に戻っていない、新規契約は従来どおり流れている、といった状態になるためです。

図解1 新リース対応の全ライフサイクル

  1. 母集団:どの契約を調べるかを確定する
  2. 調査:資産・使用・期間・料金・役務の事実を集める
  3. 経理判断:リースの識別、期間、料金、構成部分の区分を決定する
  4. 台帳・証跡:事実と判断結果、根拠資料を保存する
  5. 変更管理:契約変更・更新・オプション行使を検知する
  6. 新規契約審査:入口で必要な事実を取得する
  7. 継続運用:以上を通常業務として回し続ける

この7つは一方通行ではありません。経理判断の結果は台帳へ戻り、変更管理で拾った事象は再び調査と判断に流れます。棚卸しの終了は、この循環の入口が整ったことを意味するにすぎません。

第3章 Phase 1|プロジェクトの設計

図解3 6つのフェーズ

  • Phase 1 プロジェクト設計(適用時期・移行方針・担当・判断ルート)
  • Phase 2 契約母集団の確定(データ所在・抽出条件・漏れの照合)
  • Phase 3 既存契約の調査(資産・使用・期間・料金・役務・不動産)
  • Phase 4 変更・台帳・証跡の整備
  • Phase 5 新規契約フローの改訂
  • Phase 6 適用開始前の最終確認と、適用開始後の運用

Phase 1で決めるのは4つです。

1.自社の原則適用時期を確認する。決算期、原則適用となる年度、早期適用の有無を経理部から共有してもらいます。日程が確定しないと、以降のすべての工程の期限が決まりません。

2.経理部の移行方針と経過措置を確認する。適用指針第118項の移行方法、第119項のリースの識別に関する取扱い、必要な既存契約データの範囲と基準日を確認します。詳細は第11章で扱います。

3.担当部署を決める。経理、法務、総務、購買、IT、事業部のうち、どの工程を誰が担うかを決めます。複雑な責任分担表を作る必要はありませんが、「誰が何をするか」が空欄のまま進むと、後で必ず止まります。

4.問い合わせと判断のルートを決める。事業部から法務・契約管理、法務から経理、必要に応じて監査法人や公認会計士へ、という経路を先に決めておきます。個別案件が発生してから調整すると、調査全体が滞ります。

第4章 Phase 2|契約母集団を確定する

5.契約データの所在を洗い出す。契約管理システム、共有フォルダ、紙の契約書、電子契約、購買システム、発注書、不動産一覧、固定資産・リース一覧、経費データ、事業部が個別に保管している契約。法務部が把握している契約だけでは母集団になりません。

6.抽出条件を決める。ここで契約名称による絞り込みを行うと、拾うべき契約を取りこぼします。会計基準は契約の名称などにかかわらず適用されます(リース会計基準BC14項)。賃貸借、レンタルに加えて、業務委託、物流、IT、専用設備、不動産、車両、回線なども候補に含めます。考え方は第3話第4話、手順は第5話で扱っています。

7.母集団の漏れをチェックする。抽出した一覧を、経理の支払データ、購買の発注データ、総務の不動産・車両一覧、事業部の運用実態と照合します。照合した日付と差異の内容を記録に残してください。これが母集団に関する完了証拠になります。

第5章 Phase 3|リースの識別を完了させる

ここからが既存契約の調査です。確認すべき事実は、特定された資産、経済的利益、使用を指図する権利の3領域に整理できます(適用指針第5項から第8項)。

8.対象資産を確認する。資産名称、所在地、区画、型式、製造番号、車両番号、台数、面積、容量、契約別紙での特定状況を記録します。契約書に資産が明記されていないという事実自体も記録対象です。第6話

9.供給者の代替権を確認する。交換条項の有無だけで結論を出さず、自社の承諾の要否、交換できる事由、費用の負担者、過去の交換実績まで事実を集めます(適用指針第6項)。

10.経済的利益を確認する。資産が自社専用か他の顧客と共用か、産出物や処理能力を誰が取得するかを、事業部への照会で確認します(適用指針第5項(1))。

11.使用を指図する権利を確認する。使用目的、稼働、使用場所を決めるのは誰か、実際に操作するのは誰かを確認します(適用指針第5項(2)・第8項)。(第7話

12.経理によるリースの識別結果を記録する。ここが重要です。法務部が識別結果を決めるのではありません。経理部が判断した結果、判断日、根拠資料、未確認事項を台帳へ記録します。判断の枠組みは第3話で扱っています。

第6章 Phase 3|期間・料金・構成部分を調査する

13.契約期間、原資産が使用可能となった日、解約不能期間を整理する。契約上の開始日・終了日と契約期間中の解約に関する定めに加えて、貸手が借手による原資産の使用を可能にした日を確認できる引渡日・利用可能日等を収集します。会計基準上の「リース開始日」は、貸手が借手による原資産の使用を可能にする日と定義されており(リース会計基準第18項)、契約上の開始日や実際に使用を開始した日と必ずしも一致しません。法務部は事実となる日付を整理し、リース開始日は経理部が確認します。あわせて、契約期間と借手のリース期間も別のものです。借手のリース期間は解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定されます(リース会計基準第15項・第31項)。

14.更新・延長・解約オプションを抽出する。自動更新、延長オプション、再リース、解約権者、通知期限、違約金、更新料、更新後の料金を条項単位で抽出します。(第8話

15.適用指針第17項の判断材料を収集する。オプション対象期間に係る契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、解約に関連して生じるコスト、事業内容に照らした原資産の重要性、行使条件という5つの要因に関係する事実を集めます。これらを点数化して結論を出す運用にはしないでください。判断は諸要因を総合的に勘案して行われます(適用指針BC33項)。

16.料金を種類別に抽出する。固定リース料、指数またはレートに応じて決まる変動リース料、その他の変動料金、残価保証、購入オプション、解約違約金、一時金を分けて記録します(リース会計基準第19項・第35項)。月額総額だけでは足りません。(第9話

17.リース部分と非リース部分に関する資料を収集する。役務の範囲、項目別金額、単独購入の可否といった価格情報を集めます。法務部が区分や配分を最終決定するわけではありません。配分は独立価格の比率に基づいて行われ、独立価格が明らかでない場合は観察可能な情報を最大限に利用して見積られます(適用指針第11項、BC17項)。(第10話

第7章 不動産契約は別枠で確認する

18.不動産契約を重点確認する。件数は少なくても金額的影響が大きく、かつ論点が集中するのが不動産です。普通借家か定期借家か、更新の仕組み、共益費、敷金・保証金、建設協力金、内装工事、原状回復。適用指針には借地権の設定に係る権利金等(第27項)、建設協力金等の差入預託保証金(第29項から第36項)に関する定めがあり、経過措置も置かれています(第127項から第130項)。

法務部が行うのは、これらの契約条件と関連資料を揃えて経理部へ渡すことです。敷金・保証金・権利金・建設協力金をまとめて「一時金」として登録しないでください。性質と返還条件が異なります。詳細は第11話で扱っています。

第8章 契約変更・更新まで追えているか

19.当初の契約条件に含まれていなかった範囲・対価の変更を確認する。変更覚書、発注書、追加注文、利用申込、Web管理画面での操作等、文書・手続の形式を問わず、当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲または対価の変更が生じていないかを確認し、時系列で記録します。

一方、当初から契約に定められていた延長・解約オプションの行使や、指数・レートに基づく料金変動等は、それだけで第24項の「リースの契約条件の変更」になるわけではありません。これらは次の20で別のイベントとして管理します。(第12話

20.オプション行使や指数改定等を、契約変更と同じ扱いにしない。リースの契約条件の変更とは、当初の契約条件の一部ではなかった範囲または対価の変更をいいます(リース会計基準第24項)。一方、契約条件の変更が生じていない場合でも、借手のリース期間やリース料に変更があるときはリース負債の見直しが行われます(同基準第40項)。この2つは別の事象として記録してください。なお、適用指針でいう「リースの契約条件の変更の発効日」は、契約の両方の当事者がリースの契約条件の変更に合意した日をいう定義語です(適用指針第4項(10))。オプションの行使や料金改定の記録に、この語を一律に用いないでください。

21.契約書を伴わない重要な事象を拾える仕組みを作る。ただし、ここは正確に扱う必要があります。契約条件の変更が生じていない場合の借手のリース期間の見直しは、(1)借手の統制下にあり、かつ(2)延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与える、という両方を満たす重要な事象または重要な状況が生じたときに行われます(リース会計基準第41項)。この統制下という要件は、市場動向による変化のたびに見直しを要しないようにするために置かれたものです(同基準BC51項)。

「何か事象が起きたら必ず見直す」という自動トリガーにはしないでください。法務部が行うのは、例えば、リース開始日に予想されていなかった大幅な賃借設備の改良、原資産の大幅な改変、リース期間終了後の期間に係る原資産のサブリース契約の締結、延長・解約オプションの判断に直接関連する事業上の決定などを経理部へ連絡できる経路を作ることです(リース会計基準BC51項)。拠点の統廃合等についても、それ自体で直ちに第41項の見直し事象になるのではなく、借手の統制下にあり、かつ延長・解約オプションに関する判断に影響を与えるかを経理部が評価します。

第9章 契約台帳と証跡を完成させる

22.契約台帳を整備する。台帳本体、更新ルール、管理責任者の3点が揃って初めて運用開始といえます。

23.契約上の事実と経理判断を分離する。台帳の列を「契約書に書かれている事実」と「経理部が判断した結果」に分けます。混在させると、後から根拠をたどれなくなります。

24.判断根拠・証拠資料を紐付ける。契約書、別紙、仕様書、事業部の回答、経理への照会記録を、台帳の各項目から参照できるようにします。

25.変更前の情報を上書きしない。更新日、更新者、変更前の値を残します。上書き運用の台帳は、変更履歴の説明ができません。

26.再確認トリガーを設定する。契約変更、更新、解約、オプション行使、価格改定、資産の追加・返却などを検知したときに、誰へ連絡するかを定義します。(第13話

図解4 法務・経理・事業部の情報循環

  1. 事業部・法務が契約情報と運用実態の事実を集める
  2. 経理が会計判断を行う(必要に応じて監査法人・公認会計士に確認する)
  3. 契約台帳に、事実と判断結果、根拠資料を保存する
  4. 変更イベント(変更・更新・解約・行使・改定)を検知する
  5. 該当する契約について再確認し、1へ戻る

第10章 新規契約審査を日常業務に組み込む

ここを変えないまま適用開始を迎えると、締結済み契約を後から掘り返す作業が永久に続きます。

27.契約受付票を改訂する。「この契約はリースに該当しますか」という会計判断の質問ではなく、どの資産を使うのか、誰が選ぶのか、相手方は入れ替えられるのか、といった事実質問にします。

28.経理確認のトリガーを決める。どの案件を経理部へ回すかの社内トリアージを作ります。1項目該当すればリースに該当する、という意味の表ではありません。

29.契約レビュー項目を追加する。資産、代替、使用、期間、料金、サービス、変更の7領域を、通常の契約レビューに組み込みます。

30.事業部への追加照会ルールを決める。契約書だけでは分からない事実を、いつ、誰に、どの様式で聞くかを決めておきます。回答が「不明」でも、不明として記録します。

31.経理へ渡す確認パッケージを決める。契約書案、別紙、仕様書、受付票、資産情報、料金情報、見積書、事業部回答、未確認事項の一覧を一式にします。

32.締結後の台帳登録をフローに組み込む。締結と同時に登録することを必須工程にします。ここが切れると、審査を前倒しした意味がなくなります。(第14話

第11章 経過措置と移行方針を経理部と確認する

適用初年度には経過措置が置かれています。これを選択するのは経理部であり、法務部ではありません。それでも法務部が内容を把握しておくべき理由は1つです。どの方法を選ぶかによって、既存契約について必要な調査の範囲と基準日が変わり得るからです。

骨格だけ押さえます。適用初年度は会計方針の変更として取り扱い、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。ただし、適用初年度の期首より前に遡及適用した場合の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできます(適用指針第118項)。

このただし書きの方法を選択する場合、リースの識別について次の(1)と(2)のいずれか、または両方を適用することができます(適用指針第119項)。

  • 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期末日において企業会計基準第13号を適用しているリース取引について、契約にリースが含まれているか否かの判断を行わずに会計基準を適用すること
  • 適用初年度の期首時点で存在する企業会計基準第13号を適用していない契約について、当該時点で存在する事実及び状況に基づいて、契約にリースが含まれているか否かを判断すること

つまり、既存契約のすべてについて一律に一から識別をやり直す、と決まっているわけではありません。経理部がどの方法を選ぶかによって、法務部が用意すべき契約の範囲と、どの時点の事実を集めるべきかが変わります。この確認を後回しにすると、集める必要のないデータを集めたり、必要な基準日の資料が足りなかったりします。

表2 経過措置・移行時に経理部と確認する事項

確認事項主担当例法務側の作業への影響
遡及適用か、期首残高から適用する方法か(適用指針第118項)経理過年度の契約条件まで遡って集めるかどうかが決まる
リースの識別に関する取扱いの選択(適用指針第119項(1)(2))経理既存のリース取引を識別し直すか、未適用契約のみを判断するかが決まる
必要データの基準日(前期末か、適用初年度の期首か)経理どの時点の契約条件・料金を提出するかが決まる
従来ファイナンス・リースに分類していたリースの取扱い(適用指針第120項から第122項)経理既存リース資産一覧との突合範囲が決まる
従来オペレーティング・リースに分類していたリース等の取扱い(適用指針第123項・第124項)経理期首時点の残存期間・残リース料の提出が必要になる場合がある
短期リース・少額リースに関する簡便的な取扱いの適用方針(適用指針第20項・第22項)
※第20項・第22項自体は通常時の簡便的な取扱いであり、経過措置そのものではありません。移行時にも適用関係を確認します(適用指針第123項(4)・第124項(2)参照)
経理契約単位・グルーピングの情報提供の粒度が変わる
不動産関連(借地権の設定に係る権利金等)の取扱い(適用指針第127項から第129項)経理・総務権利金等の計上日・償却状況の調査が必要になる場合がある
建設協力金等の差入預託保証金の取扱い(適用指針第130項)経理・総務従来の会計処理と契約条件の突合が必要になる場合がある
セール・アンド・リースバック取引の有無(適用指針第126項)経理該当取引の契約書一式を別途抽出する
サブリース取引の有無と、貸手側の経過措置(適用指針第133項。第92項・第93項の例外的取扱いを適用する場合を除く)経理・事業部ヘッドリースとサブリースの契約条件を対で提出する

本記事では経過措置の会計処理そのもの(現在価値の算定、割引率、仕訳)は扱いません。移行方法の決定と適用は経理部の領域であり、必要に応じて監査法人・公認会計士に確認する事項です。法務部は、選ばれた方法に応じて必要な契約・期間・料金・証跡を提供する側に立ちます。また、自社が貸手となるリースが重要な場合は、貸手側の経過措置(適用指針第131項から第133項)についても経理部で確認してください。

第12章 適用開始直前に「未確認」をゼロにする

ここでいうゼロは、未解決の論点が1つも存在しない状態を指しません。実務上、判断が保留になる契約や、相手方からの回答待ちの契約は必ず残ります。

目指すのは次の状態です。

  • すべての契約にステータスが付いている(完了/経理確認待ち/追加資料待ち/判断保留 など)
  • 保留・待ちの契約に担当者が割り当てられている
  • 対応期限が入っている
  • 誰が最終的に判断するかという判断ルートが決まっている

禁物なのは空欄です。空欄は「確認した結果、該当なし」と読まれる可能性があり、後から誰も気づけません。分からないことを分からないと明示して記録するほうが、はるかに安全です。

本記事でいう「未確認をゼロにする」とは、準備プロジェクトの途中で未解決事項が1件も存在してはならないという意味ではありません。一方で、財務諸表の作成に必要なリースの識別、リース期間、リース料その他の会計判断は、各社が財務報告上必要となる時点までに適切に確定する必要があります。適用開始準備の段階で未確認事項が残る場合には、少なくとも対象契約、論点、担当者、期限、判断ルートを明確にし、必要な時点までに解消できる管理状態にしてください。

第13章 完成版|新リース会計基準対応チェックリスト

この記事の中心です。社内のプロジェクト管理表へそのまま転記できる粒度で作成しています。主担当例は一律に法務部としていません。自社の分担に置き換えてください。未完了の項目は、右端の「関連話」から該当記事へ戻ることができます。

表3 新リース会計基準対応チェックリスト(全42項目)

No.フェーズ対応項目確認内容主担当例完了条件完了証拠関連話
1Phase 1自社の適用開始年度を確認決算期、原則適用となる年度、早期適用の有無経理適用開始年度が社内で共有されている適用開始年度を記載した社内通知・プロジェクト計画第2話
2Phase 1経理部の移行方針・経過措置を確認適用指針第118項の方法、第119項のリース識別の取扱い、必要な既存契約データ経理移行方針と必要データの範囲が法務へ伝わっている経理部からの回答記録・データ要件一覧第2話
3Phase 1担当部署を決める経理・法務・総務・購買・IT・事業部の分担経理・法務各工程に担当が決まっている役割分担表・体制図第1話
4Phase 1問い合わせ・判断ルートを決める事業部→法務→経理→必要に応じ監査法人等の経路法務照会経路が文書化されている業務フロー図・社内マニュアル第1話
5Phase 2契約データの所在を洗い出す契約管理システム、共有フォルダ、紙、電子契約、購買、発注書、不動産・車両一覧、経費データ、事業部保管法務・契約管理保管場所の一覧ができているデータ所在一覧・棚卸し計画第5話
6Phase 2母集団の抽出条件を決める契約名称だけで絞らない。賃貸借、レンタル、業務委託、物流、IT、専用設備、不動産、車両、回線等法務抽出条件と除外条件が文書化されている抽出条件書・除外理由の記録・抽出日第4話
7Phase 2母集団の漏れをチェック経理の支払データ、購買の発注データ、総務・事業部の情報と照合法務・経理突合が行われ差異が解消または記録されている突合表・差異リスト・照合日第5話
8Phase 3対象資産を確認資産名称、所在地、区画、型式、番号、台数、面積、容量、別紙での特定状況法務・事業部契約ごとに資産情報が記録されている資産情報一覧・根拠条項の抜粋第6話
9Phase 3供給者の代替権を確認交換条項の有無、承諾の要否、交換事由、費用負担、過去の実績法務・事業部代替に関する事実が記録されている条項抜粋・事業部回答第6話
10Phase 3経済的利益を確認自社専用か共用か、産出物・処理能力の帰属事業部使用実態が記録されている事業部回答・仕様書第7話
11Phase 3使用を指図する権利を確認使用目的・稼働・場所の決定者、操作の主体事業部使用の指図に関する事実が記録されている事業部回答・運用ルール第7話
12Phase 3経理によるリース識別結果を記録識別結果、判断日、根拠資料、未確認事項(法務が判定しない)経理契約ごとに識別結果が台帳へ記録されている判定一覧・判断日・根拠資料第3話
13Phase 3契約期間・原資産使用可能日・解約不能期間を整理契約上の開始日・終了日、原資産が使用可能となった日、解約に関する契約条件法務期間情報と使用可能時点に関する事実が契約ごとに揃い、経理部がリース開始日を確認できる期間条項、引渡記録、利用開始通知等第8話
14Phase 3更新・延長・解約オプションを抽出自動更新、延長、再リース、解約権者、通知期限、違約金、更新料法務オプション条件が記録されている条項抜粋・過去の更新履歴第8話
15Phase 3適用指針第17項の判断材料を収集契約条件、大幅な賃借設備の改良、解約関連コスト、原資産の重要性、行使条件(点数化しない)法務・事業部5要因に関係する事実が経理へ渡っている資料一覧・事業部回答・投資額の記録第8話
16Phase 3料金を種類別に抽出固定、指数・レート連動、その他変動、残価保証、購入オプション、解約違約金、一時金法務・購買料金が種類別に記録されている料金一覧・料金表・条項抜粋第9話
17Phase 3リース部分・非リース部分の資料を収集役務の範囲、項目別金額、単独購入の可否(配分は経理が判断)法務・購買価格情報が収集され経理へ渡っている見積内訳・単価表・単独販売の可否の回答第10話
18Phase 3不動産契約を重点確認普通借家・定期借家、更新、共益費、敷金・保証金、建設協力金、内装、原状回復法務・総務不動産固有の情報が契約ごとに揃っている契約書・別紙・工事関係資料・一時金の内訳第11話
19Phase 4リースの契約条件の変更履歴を確認当初条件になかった資産・範囲・期間・対価の変更。文書形式ではなく変更内容で分類法務変更履歴が時系列で整理されている変更契約・追加注文等、変更内容、当事者の合意日、変更後条件第12話
20Phase 4オプション行使・指数改定等を区別契約条件の変更と、変更を伴わない見直しを分けて記録法務・経理事象が区別して記録されているイベント記録・行使日/通知日/料金改定の適用日等・根拠資料第12話
21Phase 4契約書を伴わない事象を拾う経路を作る大幅な賃借設備の改良、原資産の大幅な改変、サブリース、延長・解約判断に直接関連する事業上の決定等を経理へ連絡(該当性の判断は経理)法務・事業部連絡経路と記録様式が決まっている連絡ルール・記録様式・連絡実績第12話
22Phase 4契約台帳を整備追加項目、更新ルール、管理責任者法務・契約管理台帳が運用を開始している台帳本体・項目定義書・管理責任者名第13話
23Phase 4契約上の事実と経理判断を分離事実欄と会計判断欄を別の列にする法務・経理台帳上で列が分かれている台帳の項目定義書第13話
24Phase 4判断根拠・証拠資料を紐付ける契約書、別紙、仕様書、事業部回答、照会記録との対応付け法務各項目から根拠資料をたどれる資料保管場所・ファイル名規則・参照リンク第13話
25Phase 4変更前情報を上書きしない履歴管理、更新日、更新者、変更前の値法務・契約管理履歴が保持される仕組みになっている履歴テーブル・版管理の記録第13話
26Phase 4再確認トリガーを設定契約変更、更新、解約、オプション行使、価格改定、資産の追加・返却等法務・経理トリガーと連絡先が定義されているトリガー一覧・運用ルール第12話
27Phase 5契約受付票を改訂会計判断の質問ではなく事実質問にする法務改訂後の受付票が運用されている改訂受付票・改訂日・運用開始の通知第14話
28Phase 5経理確認トリガーを決める社内トリアージ(1項目該当=リースという意味ではない)法務・経理トリガーが経理部と合意されているトリアージ基準・経理部の合意記録第14話
29Phase 5契約レビュー項目を追加資産・代替・使用・期間・料金・サービス・変更の7領域法務レビュー項目が社内手順に組み込まれている社内マニュアル・レビューシート第14話
30Phase 5事業部への追加照会ルールを決める何を、いつ、誰に聞くか。不明は不明として記録する法務照会と回答が記録される運用になっている照会様式・回答記録第14話
31Phase 5経理へ渡す確認パッケージを決める契約書案、別紙、仕様書、受付票、資産情報、料金情報、未確認事項法務・経理パッケージの構成が合意されているパッケージ定義・提出記録第14話
32Phase 5締結後の台帳登録をフローに組み込む締結と同時に登録することを必須工程にする法務・契約管理登録が漏れない仕組みになっているワークフロー定義・登録記録第13話
33Phase 6未確認契約を洗い出す完了/経理確認待ち/追加資料待ち/判断保留のステータス化。空欄を作らない法務・経理すべての契約にステータスが付いている未確認一覧・担当者・対応期限第5話
34Phase 6重要契約を重点レビュー社内のリスクベースの優先順位(重要契約だけを調べればよいという意味ではない)法務・経理優先度と確認結果が記録されている優先度一覧・レビュー記録第5話
35Phase 6経理へのデータ引渡し完了を確認引渡し範囲、形式、日付法務・経理引渡しと受領が記録されている引渡し記録・データ受領確認第13話
36Phase 6経理システム等への登録状況を確認登録件数と台帳件数の照合(法務が入力主体とは限らない)経理件数と主要項目が照合されている照合記録・差異理由第13話
37Phase 6経理判定結果が台帳へ戻っているか確認双方向連携(判断結果と判断日の反映)経理・法務判定結果が台帳に反映されている台帳の判定欄・反映日第13話
38Phase 6社内マニュアルを更新契約受付、変更連絡、更新、解約、価格変更の手順法務改訂版が公開されているマニュアル改訂履歴・公開日第14話
39Phase 6関係部門へ周知法務・経理・総務・購買・IT・事業部への説明法務・経理周知が完了し記録がある説明会資料・周知記録・出席記録第1話
40Phase 6適用開始後の運用責任者を決める台帳、トリガー、照会窓口の責任者(適用開始で終わらせない)経理・法務責任者が決まり共有されている体制表・責任者名・引継ぎ記録第13話
41Phase 6変更・イベント監視を開始新規、変更、更新、解約、オプション行使、料金改定、資産の追加・返却法務・事業部監視運用が始まっている監視記録・イベント連絡記録第12話
42Phase 6定期レビューの時期を決めるイベントトリガーに加えた定期確認(LegalGPTによる実務上の推奨)法務・経理レビュー時期と範囲が決まっている年間スケジュール・レビュー記録第13話

このチェックリストはASBJが定めた要求事項ではなく、LegalGPTによる実務上の整理です。完了条件・完了証拠・主担当例は、自社の会計方針、組織、システムに応じて調整してください。

第14章 2026年8月からの進め方|工程表の一例

本記事の基準日は2026年8月21日です。以下は、3月決算で2027年4月1日開始年度から原則適用する企業を想定した工程表の一例です。

表4 工程表の一例(3月決算・原則適用の場合)

時期主な作業この時期の完了の目安
2026年8月から9月プロジェクト設計、経理部の移行方針・経過措置の確認、契約母集団の確定、大口契約・不動産契約の調査開始母集団一覧と抽出条件が固まり、必要データの範囲が経理部と合意されている
2026年10月から12月既存契約の調査、事業部への照会、経理部によるリース識別、契約台帳の構築主要契約の事実収集が終わり、識別結果の記録が始まっている
2027年1月から3月未完了案件の解消、台帳とシステムの連携、新規契約審査フローの導入、社内周知、データの最終確定全契約にステータスが付き、新フローが運用開始されている
2027年4月以降新しい運用の開始、契約変更・更新・オプション行使の継続管理、定期レビューイベント検知と台帳更新が通常業務として回っている

この工程表はASBJが定めた期限ではありません。自社の決算期、契約件数、システム環境、監査スケジュールに応じて変更してください。12月決算会社にそのまま当てはめないでください。12月決算で原則適用の場合、開始年度は2028年1月1日に始まる事業年度となるため、工程全体が後ろにずれます。

第15章 部門別の最終確認

LegalGPTとしての整理以下の分担は本シリーズが前提としてきた標準的な実務であり、ASBJが部署別の担当を定めているわけではありません。実際の分担は各社の組織に応じて決めてください。

表5 部門別の最終確認事項

部門最終確認する事項残す証拠
法務・契約管理母集団、契約上の事実の抽出、変更履歴、台帳と証跡、新規契約審査フロー母集団一覧、条項抜粋、変更履歴、台帳、改訂受付票
経理適用開始年度、移行方針と経過措置、リースの識別・期間・料金・構成部分の判断、システム登録判定一覧、判断日、移行方針の決定記録、登録件数の照合記録
総務・施設不動産・車両の契約と現況、内装工事、原状回復、一時金の授受物件一覧、工事関係資料、一時金の内訳
購買見積内訳、単価、単独購入の可否、発注書による範囲変更の運用見積書、単価表、発注記録
IT・システム専用サーバー・回線・SaaSの契約形態、容量変更の手続、管理画面での操作記録契約一覧、構成資料、操作ログの保存方針
事業部使用実態、専用か共用か、稼働の決定者、初期投資、使用予定期間照会への回答記録、稟議・工事見積

第16章 「対応した」ではなく「完了証拠がある」へ

チェックリストの各項目に完了証拠を持たせた理由は単純です。作業をしたかどうかは記憶に依存しますが、証拠は残ります。担当者が交代しても、翌年度の決算でも、同じ状態から再開できます。

図解2 完了証拠の作り方

  1. 作業:何をしたか(例:契約母集団の抽出)
  2. 結果:何が出来上がったか(例:母集団一覧)
  3. 証拠:どこに何が残っているか(例:抽出条件・除外理由・抽出日)
  4. 担当:誰が管理するか(例:契約管理担当)
  5. 次回トリガー:いつ見直すか(例:新規契約の締結時、年次レビュー時)

完了証拠の例としては、母集団一覧、判定一覧、契約台帳、未確認事項一覧、経理確認の記録、改訂受付票、社内マニュアル、周知記録などが挙げられます。

ここに挙げた資料はLegalGPTによる実務上の整理であり、監査法人が必ず要求する資料という意味ではありません。また、すべての証拠を永久に保存する必要があるという趣旨でもありません。保存範囲と保存期間は、自社の文書管理規程と経理部・監査法人との協議により決めてください。

第17章 適用開始後に続けること

最終話で最も伝えたいのはここです。この対応は、適用開始日に終わるプロジェクトではありません。

図解5 適用開始後の通常運用

  • 新規契約:受付票で事実を取得し、必要な案件を経理へ回し、締結後に台帳登録
  • 契約条件の変更:当初条件になかった範囲・対価の変更を検知し、当事者の合意日(適用指針上の「リースの契約条件の変更の発効日」)等を記録
  • 更新・解約・オプション行使・料金改定:既存の契約条件に基づくイベントは契約条件の変更と区別し、行使日・通知日・適用日等を記録して経理へ連絡
  • 資産の追加・返却:数量・面積・容量の増減を、手続の種類を問わず拾う
  • 台帳更新・証跡保存:変更前情報を残したまま更新する

これらは特別な作業ではなく、契約管理の通常業務として設計されるべきものです。プロジェクトとしての体制を解散させる場合でも、台帳の管理責任者、イベント連絡の窓口、定期レビューの時期の3つは決めたうえで引き継いでください。

なお、法務部が適用開始後のすべてに恒久的な責任を負う、という整理を推奨するものではありません。会計上の判断は経理部が担い、法務部は契約上の事実と変更の検知を担う、という分担を維持することが現実的です。

第18章 よくある最後の失敗

よくある状態何が起きるか代わりにどうするか
契約一覧を作った時点で完了としている判断・台帳・新規契約フローが未整備のまま適用開始を迎える母集団から継続運用までを一連の工程として扱う
経理の判定結果が台帳へ戻っていない次年度に同じ調査を最初からやり直す判定結果と判断日を台帳へ反映する工程を必須にする
未確認項目が空欄のままになっている「確認済みで該当なし」と読まれ、漏れに気づけないステータス・担当者・期限を必ず入れる
契約期間をそのままリース期間として登録している更新・解約オプションの評価が抜ける契約期間と借手のリース期間を別項目にする(リース会計基準第31項)
更新・解約に関する情報がない期間の判断に必要な材料が揃わない権利者・通知期限・違約金・更新後料金まで抽出する
料金を総額だけで登録している変動料金・一時金・改定条項が消える料金を種類別に記録する(同基準第19項・第35項)
不動産の一時金をまとめて登録している敷金・保証金・権利金・建設協力金の性質の違いが失われる種類・金額・返還条件を分けて記録する
契約条件の変更の履歴が残っていない当初条件になかった範囲・対価の変更がいつ生じたのか説明できない変更内容で分類し、変更文書と当事者の合意日を時系列で保存する
オプション行使を拾えていない期間の変更が会計処理へ伝わらない行使日・通知日を、契約条件の変更とは別のイベントとして記録する
経過措置を法務だけで判断している移行方法と調査範囲が食い違う移行方針は経理部が決定し、法務は必要データを提供する
新規契約フローを変えていない適用開始後も後追い調査が続く受付票・レビュー項目・台帳登録をフローへ組み込む
契約変更を覚書だけで監視している発注書・申込・管理画面での変更を見逃す覚書以外の変更経路と証跡の所在を決めておく
証拠資料が項目に紐付いていない根拠を聞かれたときに再調査になる台帳の各項目から資料をたどれるようにする
適用開始後の責任者がいない台帳の更新が止まり、数か月で実態と乖離する台帳・連絡窓口・定期レビューの責任者を決める
社内で担当が誰か分からない状態になっている照会が滞留し、判断が遅れる役割分担表を作成し、関係部門へ周知する
監査対応のためだけの一時的なプロジェクトになっている体制解散とともに運用が止まる契約管理の通常業務として設計し直す
法務が会計判断まで抱え込んでいる判断が独り歩きし、後で覆る事実と根拠条項を示し、判断は経理部へ渡す

第19章 最終チェック|この状態なら通常運用へ移行できる

  • Green(通常運用へ移行可能) 母集団が確定し、識別・期間・料金の事実が経理へ渡り、判定結果が台帳へ戻り、変更を検知でき、新規契約フローが動いている
  • Yellow(要フォロー) 未確認事項は残っているが、対象契約・担当者・期限・判断ルートが明確で、必要な時点までに解消する管理ができている
  • Red(優先対応が必要) 対象となる契約の母集団が分からない、担当が決まっていない、判断の根拠資料がない、契約変更を検知できない

Yellowは、財務報告に必要な重要な会計判断を未確定のまま先送りしてよいことを意味しません。この3段階は準備プロジェクトの管理状況を示すLegalGPT独自の表示であり、ASBJの評価基準ではありません。社内で進捗を共有するための目安として使ってください。

まとめ

新リース会計基準は、法務部に契約調査や台帳作成を義務づけているわけではありません。それでもこのシリーズが法務部の実務として整理してきたのは、会計判断に必要な事実の大半が契約書とその周辺資料にあり、それを扱っているのが法務・契約管理部門だからです。

適用開始までにやることは、突き詰めれば3つです。どの契約を対象とするかを確定すること。判断に必要な事実を集めて経理部へ渡し、判断結果を台帳へ戻すこと。そして、締結後も変わり続ける契約を検知し続ける仕組みを、通常業務として残すことです。

全15話は以上で完結です。未完了の項目があれば、第13章のチェックリストから該当する回へ戻ってください。

よくある質問

新リース会計基準はいつから適用されますか

企業会計基準第34号は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされています。また、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することもできます(リース会計基準第58項)。適用指針第33号の適用時期も会計基準と同様です(適用指針第112項)。したがって、2027年4月1日に全企業へ一斉に適用されるわけではありません。3月決算会社であれば原則として2027年4月1日に開始する2028年3月期から、12月決算会社であれば原則として2028年1月1日に開始する2028年12月期からとなります。自社の適用開始年度は経理部にご確認ください。

法務部には契約調査の義務がありますか

会計基準上、法務部に契約調査を義務づける定めはありません。企業会計基準第34号も適用指針第33号も、主管部署、契約棚卸しの手順、契約台帳の様式、社内ワークフローを定めていません。本記事の役割分担やチェックリストは、LegalGPTが企業実務向けに整理した対応例です。それでも法務・契約管理部門が中心になることが多いのは、会計判断に必要な事実の多くが契約書、別紙、仕様書、覚書といった契約関連資料に含まれているためです。実際の分担は各社の組織と業務フローに応じて決めてください。

契約一覧を作れば対応完了ですか

完了ではありません。契約母集団の確定は入口にすぎず、その後に、契約上の事実の調査、経理部による会計判断、判断結果と根拠資料の台帳への記録、契約変更・更新の検知、新規契約審査への組み込み、適用開始後の継続運用が続きます。特に、経理部の判断結果が契約台帳へ戻っていない状態と、新規契約のフローが従来のままである状態は、翌年度に同じ調査を繰り返す原因になります。

すべての契約を法務部だけで確認する必要がありますか

現実的ではありませんし、必要でもありません。契約書に書かれていない事実、たとえば実際に使用する設備、他社との共用の有無、稼働の決定者、初期投資、使用予定期間などは事業部に確認する必要があります。また、見積内訳や単価は購買部門、不動産や車両の現況は総務部門、専用サーバーや回線の構成はIT部門が把握していることが多くあります。会計上の判断は経理部が行い、必要に応じて監査法人や公認会計士に確認します。法務部の役割は、契約上の事実を抽出し、不足を照会し、整理して渡すことです。

既存契約についてリース識別をすべてやり直しますか

一律にやり直すと決まっているわけではありません。適用初年度は原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用しますが、累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する方法も選択できます(適用指針第118項)。このただし書きの方法を選択する場合、前期末において企業会計基準第13号を適用しているリース取引について契約にリースが含まれているか否かの判断を行わずに会計基準を適用すること、および、適用初年度の期首時点で存在する企業会計基準第13号を適用していない契約について当該時点で存在する事実及び状況に基づいて判断すること、のいずれか又は両方を適用することができます(適用指針第119項)。したがって、経理部が選択する移行方法を確認したうえで、法務側の調査範囲を決めてください。

経過措置は法務部が決めますか

決めません。経過措置の選択は会計方針に関する事項であり、経理部が決定し、必要に応じて監査法人や公認会計士に確認する領域です。法務部が行うのは、選ばれた方法に応じて必要な契約、期間、料金、証跡を提供することです。ただし、移行方法によって調査対象となる契約の範囲や必要データの基準日が変わり得るため、調査に着手する前に経理部の方針を確認しておくことをおすすめします。

契約台帳には何を残しますか

契約上の事実と、経理部による判断結果を分けて残します。事実としては、対象資産、代替・交換の条件、使用に関する事実、契約期間、原資産が使用可能となった日、更新・解約の条件、料金の種類別内訳、役務の範囲、一時金、初期投資、変更手続と証跡の所在などが挙げられます。判断結果としては、リースの識別結果、経理部が確認したリース開始日、借手のリース期間、リース料の範囲、構成部分の区分と、その判断日および根拠資料が挙げられます。あわせて、未確認事項、変更履歴、更新日と更新者を残し、変更前の情報を上書きしないようにします。

新規契約の審査も変更する必要がありますか

会計基準が変更を義務づけているわけではありません。ただし、契約がリースを含むか否かの判断は契約の締結時に行うものとされており(リース会計基準第25項)、契約期間中は契約条件が変更されない限りその判断を見直さないこととされています(同基準第27項)。締結時点の事実がその後の会計処理の出発点になるため、受付票に事実質問を追加し、経理確認のトリガーを決め、締結後に台帳へ登録する流れを作っておくと、後追い調査を減らせます。受付票は会計判定票にせず、事実を聞く質問にしてください。

適用開始までに判断が終わっていない契約がある場合はどうしますか

準備プロジェクトの途中で未確認事項が1件残っているだけで直ちに基準を適用できなくなる、という意味ではありません。ただし、財務報告に必要な会計判断は、各社が財務報告上必要となる時点までに適切に確定する必要があります。そのうえで重要なのは、未確認の契約が管理から漏れていない状態を作ることです。具体的には、すべての契約にステータス(完了、経理確認待ち、追加資料待ち、判断保留など)を付け、保留や待ちの契約に担当者と対応期限を割り当て、誰が最終的に判断するかという経路を決めておきます。最も避けるべきは空欄です。空欄は確認済みで該当なしと読まれる可能性があり、後から漏れに気づけません。

適用開始後も契約管理を続ける必要がありますか

続きます。適用開始後も、新規契約の締結、契約変更、更新、解約、オプションの行使、料金改定、資産の追加や返却は発生します。これらを検知して台帳を更新し、必要なものを経理部へ連絡する運用が続かなければ、台帳は数か月で実態と乖離します。適用開始でプロジェクト体制を解散する場合でも、台帳の管理責任者、イベント連絡の窓口、定期レビューの時期の3つは決めたうえで引き継いでください。なお、法務部が適用開始後のすべてに恒久的な責任を負うという整理を推奨するものではなく、会計上の判断は経理部が担う分担を維持することが現実的です。

参照資料

※2024年に公表された概要資料・解説動画資料は、公表時点の内容を解説したものです。その後の修正を反映した取扱いについては、ASBJ会計基準検索システムに掲載された現行の会計基準・適用指針本文を優先してください。

本記事は2026年8月21日時点で公表されている資料に基づいています。本記事のチェックリスト、工程表、部門別の役割分担、完了条件・完了証拠は、会計基準が法務部その他の部署に義務づけた作業ではなく、新リース会計基準を適切に適用するための社内実務としてLegalGPTが整理したものです。適用開始年度、移行方法および経過措置の選択、個別の契約がリースを含むか否か、借手のリース期間、リース料の範囲、構成部分の区分といった会計上の判断については、経理部門および監査法人・公認会計士にご確認ください。

シリーズナビゲーション

このシリーズを実務で使うなら

  1. 第13章のチェックリストで、未完了の項目を洗い出す
  2. 未完了項目の「関連話」から該当記事へ戻り、論点を確認する
  3. その項目の完了証拠を作る(一覧、記録、様式、マニュアル)
  4. 集めた事実と経理部の判断結果を契約台帳へ反映する
  5. 変更の検知と定期レビューを通常運用へ移行する

全15話は以上で完結です。適用開始までの工程表と、適用開始後に残す運用の設計に、本シリーズをご活用ください。

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