「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準
契約書に「車両番号○○」「専用サーバー○号機」と明記されている。では、この時点で「特定された資産あり」と判断してよいのか——答えは、必ずしもYesではありません。
新リース会計基準の「特定された資産」は、資産が契約に書かれているかどうかだけで決まらないからです。資産が明記されていても、供給者がその資産を他の資産に代替する実質的な権利を有していれば、特定された資産には該当しません。そして、その「実質的な権利」があるかどうかは、代替できる能力と、代替することで得られる経済的利益という2つの要件で判断されます。
逆方向も同じです。契約書に資産番号が書かれていないからといって、そこで検討を打ち切るのも適切ではありません。
この記事では、資産の特定、供給者の代替権、そして稼働能力の一部分の扱いを、法務担当者が契約書のどこを見るかという視点で整理します。リース識別の全体像は新リース会計基準におけるリース識別の判断フローで扱っているため、本記事はその第一関門に絞ります。
この記事の結論
- 特定された資産の有無は、リース識別の第一関門です。ここを通らなければ、使用の支配の検討には進みません。
- 資産は、通常は契約に明記されることにより特定されます(リース適用指針第6項)。
- ただし契約に明記されていても、供給者が代替する実質的な権利を有していれば、特定された資産には該当しません。
- 代替する実質的な権利は、代替する実質上の能力と代替による経済的利益の2要件をいずれも満たす場合に認められます。片方だけでは足りません。
- 契約書に資産名や番号がないことは、それだけで対象外とする理由にはなりません。
- 物理的に別個ではない稼働能力の一部分は、原則として特定された資産に該当しませんが、例外があります(同第7項)。
- 特定された資産が確認できても、リースに該当すると決まったわけではありません。次に使用の支配を確認します。
本記事は「新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務」全15話の第6話です。
このシリーズは、新リース会計基準への対応において法務部・契約管理部門が担うことになる契約調査と契約管理の実務を、順を追って解説することを目的としています。
無料・時短・仕組み化の3つから選ぶ
シリーズ全15話の構成
| 話数 | 記事タイトル | その記事で分かること |
|---|---|---|
| 第1話 | 新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わる?|2027年適用に向けた契約対応の全体像 | シリーズ全体像と、法務部が担う役割の範囲 |
| 第2話 | 新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール | 適用時期・対象企業・準備工程の考え方 |
| 第3話 | リース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」 | 契約がリースを含むかを判断する枠組み |
| 第4話 | 埋込リースとは?|業務委託・物流・IT契約に潜むリースの見つけ方 | サービス型契約に含まれるリースの探し方 |
| 第5話 | 新リース会計基準で調査すべき契約書は?|法務部の契約棚卸しの進め方 | 契約母集団の設定と棚卸しの実務手順 |
| 第6話 | 「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準(現在の記事) | 特定された資産と、供給者側の代替権の見方 |
| 第7話 | 資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法 | 使用の支配・経済的利益・使用指図権の確認 |
| 第8話 | リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方 | リース期間と、更新・解約条項の読み方 |
| 第9話 | 契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理 | 契約書から抽出すべき料金情報の範囲 |
| 第10話 | リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェック | リース部分と非リース部分の区分の論点 |
| 第11話 | オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント | 不動産賃貸借契約に固有の調査ポイント |
| 第12話 | 契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務 | 契約変更・更新時の再判定と管理実務 |
| 第13話 | 新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理 | 契約台帳の追加項目と証跡の残し方 |
| 第14話 | 新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項 | 新規契約審査への確認項目の組み込み方 |
| 第15話 | 新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること | 適用開始までの最終チェックリスト |
第1章 「特定された資産」とは何か
会計基準上の取扱い企業会計基準第34号は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むとしています(リース会計基準第26項)。この判断は契約の締結時に行います(同第25項)。
そして適用指針は、特定された資産の使用期間全体を通じて、(1)顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、(2)顧客が当該資産の使用を指図する権利を有する場合に、供給者から顧客に使用を支配する権利が移転しているとしています(リース適用指針第5項)。
ここで注目してほしいのが、条文の並び順です。「特定された資産」は、使用の支配を検討する前提として置かれています。資産が特定されていなければ、誰がその資産の使用を支配しているかという問い自体が成り立ちません。
図解1 リース識別の中で「特定された資産」が占める位置
本記事が扱うのは、次のうち第1関門だけです。
├ 契約に明記されているか
├ 供給者に代替する実質的な権利がないか
└ 稼働能力の一部分にとどまらないか
第1関門を通過しても、リースに該当すると決まったわけではありません。「特定された資産あり=リース」ではなく、「特定された資産あり=第2関門へ進む」です。この点を社内説明で取り違えると、結論が先走ります。
第2章 まず契約書に資産が明記されているか確認する
適用指針上の判断要素適用指針は、資産は、通常は契約に明記されることにより特定されるとしています(リース適用指針第6項)。したがって出発点は、契約書とその別紙に資産が書かれているかの確認です。
ただし、これはあくまで出発点です。同じ第6項が、契約に明記されている場合であっても供給者が代替する実質的な権利を有していれば特定された資産に該当しないと続けています。記載があることは、結論ではなく入口です。
表1 契約書で資産を特定する手掛かり
| 手掛かり | 典型的な契約 | 確認する資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 製造番号・シリアル番号 | 設備利用、保守、製造委託 | 契約別紙、納品書、機器台帳 | 納品時に個体が変わっていることがある |
| 車両番号・登録番号 | 物流、輸送、社用車 | 契約別紙、配車表 | 実際の配車と一致しているか要確認 |
| 機器番号・設備番号 | 業務委託、オンサイト設備 | 仕様書、設備一覧 | 番号体系が供給者側の管理番号のことがある |
| サーバー名・ホスト名 | データセンター、マネージドサービス | 構成図、申込書 | 論理名と物理機器が対応しない場合がある |
| ラック番号 | データセンター、通信 | ラック図、入退室記録 | ラック単位か区画単位かを確認する |
| 区画番号・面積 | 倉庫、店舗、駐車場 | 区画図、賃貸借契約別紙 | 位置の変更権の有無を併せて確認する |
| 発電所名・所在地 | 電力購入、エネルギー供給 | 設備概要書、系統情報 | 代替電源からの供給可否を確認する |
| 船名・機体番号・コンテナ番号 | 輸送、傭船 | 契約別紙、運航記録 | 用船の形態により扱いが異なり得る |
| 型式+設置場所の組合せ | 製造委託、施設管理 | 仕様書、設置図面 | 型式だけでは個体が特定されない |
| 図面上の位置・レイアウト | 製造ライン、倉庫 | 設計図、レイアウト図 | 図面が更新されているか確認する |
第3章 供給者に代替権があるとどうなるか
適用指針上の判断要素適用指針第6項は、資産が契約に明記されている場合であっても、次の(1)と(2)のいずれも満たすときは、供給者が当該資産を代替する実質的な権利を有しており、当該資産は特定された資産に該当しないとしています。
- (1) 供給者が使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有していること
- (2) 当該資産を他の資産に代替することからもたらされる経済的利益が代替から生じるコストを上回ると見込まれるため、代替する権利の行使により供給者が経済的利益を享受すること
実務上、最も誤解が多いのがここです。契約書に「供給者は設備を交換できる」と書いてあることは、(1)の一部の材料にすぎません。(2)まで満たさなければ、代替する実質的な権利があるとは判断されません。
図解2 実質的な代替権の2要件
問い:供給者は当該資産を代替する実質的な権利を有するか
- 要件1|代替する実質上の能力
使用期間全体を通じて、他の資産に代替できるか - 要件2|代替による経済的利益
代替による経済的利益が代替コストを上回ると見込まれるか
判定の構造は次のとおりです。
- 要件1・要件2がともにYes → 供給者は代替する実質的な権利を有する → その資産は特定された資産に該当しない
- いずれかがNo → 代替する実質的な権利は認められない。資産が契約に明記されているなど、対象資産を特定できている場合には、特定された資産に該当する方向で検討する
- 情報不足 → 結論を出さず、確認事項を明示して経理部へ引き渡す
2つはAND条件です。「交換できる」だけでも、「交換すると得をしそう」だけでも足りません。
第4章 要件1|本当に他の資産へ代替できるのか
ASBJは、代替する実質上の能力の例として、顧客が供給者による資産の入替えを妨げることができず、かつ、供給者が代替資産を容易に利用可能であるか、または合理的な期間内に調達できる場合等を挙げています(リース適用指針BC11項)。
あわせて押さえておきたいのが、日本基準の作りです。ASBJは、IFRS第16号には代替権に関する詳細な定めがあるものの、それらを適用指針には取り入れないこととしたと説明しています(同BC11項)。したがって、IFRS第16号の細かなルールをそのまま日本基準上の要件として持ち込むことはできません。判断は第6項の2要件に即して行います。
表2 代替する実質上の能力を確認する質問
| 確認する質問 | 確認先・資料 |
|---|---|
| 入替えに自社の承諾が必要か | 代替・変更条項、覚書 |
| 事前通知だけで入れ替えられるか | 通知条項、実際の運用 |
| 供給者は同等の代替資産を保有しているか | 供給者への照会、設備一覧 |
| 代替資産を合理的な期間内に調達できるか | 供給者への照会、調達リードタイム |
| 資産が自社施設内に固定されているか | 設置図面、現場確認 |
| 取り外し・再設置に工事が必要か | 設置仕様書、施工記録 |
| 入替えにシステム設定や認証の変更が必要か | 構成図、IT部門への確認 |
| 入替えに業務の停止が必要か | 運用手順書、事業部への確認 |
| 法令・許認可・安全上の制限があるか | 関連法規、許認可書類 |
| 実際に入替えを行った実績があるか | 変更記録、事業部への確認 |
| 入替えできる場面が限定されていないか | 代替条項の条件部分 |
| 使用期間全体を通じて代替可能か | 契約期間と条項の適用範囲 |
上記はいずれも確認事項であって、単独で結論を決める要件ではありません。「承諾が必要だから代替権なし」「実績があるから代替権あり」といった一対一の対応づけは避けてください。
第5章 要件2|供給者は代替することで得をするのか
要件2は、代替によって供給者が得る経済的利益が、代替に要するコストを上回ると見込まれるかという観点です。会計に馴染みのない方向けに言い換えると、「供給者にとって、わざわざ入れ替えるだけの旨みがあるか」という問いです。
供給者側の利益として考えられるのは、より需要の高い顧客へ資産を回す、配車や設備配置を最適化する、高性能な機器を別案件へ移す、古い機器を入れ替えて保守費を減らす、稼働率を改善するといったものです。一方、代替に伴っては、撤去、運搬、再設置、設定変更、認証・試験、調整等のコストが生じ得ます。また、代替によって顧客側に業務停止等の影響が生じる場合には、その影響について供給者が負担する補償、違約金その他の契約上の負担があるかも確認します。
本シリーズでは、代替による経済的利益とコストの最終的な評価は経理部の会計判断と位置づけています。法務部が担うのは、契約上どちらが費用を負担するか、代替にどのような手続が必要か、実際にどう運用されているか、代替の実績があるかといった事実を整理し、経理部へ提供することです。
表3 代替による利益とコストを確認する事実
| 確認事項 | 法務部が確認できる資料 | 事業部・供給者へ聞くこと | 経理部へ渡す情報 |
|---|---|---|---|
| 代替費用の負担者 | 費用負担条項、変更条項 | 過去の負担実績 | 条項の内容と実際の負担者 |
| 移設・撤去費用 | 設置条項、工事に関する定め | 概算費用の規模感 | 費用が生じる工程の一覧 |
| 再設定・認証の要否 | 仕様書、SLA | 作業時間と停止の有無 | 必要な手続と所要期間 |
| 業務停止の影響 | SLA、稼働保証条項 | 停止時の業務影響 | 停止の要否と補償の定め |
| 供給者側の運用メリット | 契約に現れる範囲の記載 | 他顧客への転用可否 | 把握できた事実と未確認事項 |
| 代替の実績 | 変更契約、覚書、通知記録 | 入替えの回数と理由 | 実績の有無と経緯 |
| 補償・違約金の定め | 損害賠償条項、違約金条項 | 実際に請求された例 | 代替を抑制し得る条項の有無 |
第6章 保守・修理・故障時の交換権はどう考えるか
「故障したら交換します」という条項は、ほとんどの設備契約に入っています。この条項があると代替権があることになるのか——実務で最も質問が多い論点です。
参考になるのがASBJ公式設例2(鉄道車両)の要約です。
設例2-1では、契約で鉄道車両の種類のみが指定され、供給者が輸送する物品の日程・内容に応じて使用する車両を決定します。供給者は顧客の承認なしに車両を入れ替えることができ、その入替えによって業務効率化という経済的利益を得ます。この事実関係の下で、資産は特定されていないと判断されました。
これに対し設例2-2では、鉄道車両が契約で指定され、供給者は保守または修理が必要な場合には車両を入れ替えることが求められるものの、それ以外の場合には車両を入れ替えることができません。この場合、供給者は使用期間全体を通じて代替する実質上の能力を有していないため、資産は特定されていると判断されています。
注意|「故障時の交換権は常に無視してよい」ではありません
日本基準は、IFRS第16号の代替権に関する詳細な定めを取り入れていません(リース適用指針BC11項)。そのため、「故障時だけなら代替権ではない」「修理時に限られるなら必ず特定された資産になる」といった一般ルールが日本基準上に置かれているわけではありません。
設例2-2は、あくまでその設例の事実関係の下での結論です。保守・故障・修理時の入替えを定める契約については、適用指針第6項の2要件に即して、契約条件と実態を個別に確認してください。
法務部として整理しておきたいのは、次の3点です。入替えができる場面が契約上どこまで限定されているか。限定を超えた入替えが実際に行われていないか。そして、その限定が使用期間全体を通じて維持されるものか。
第7章 契約書に資産番号が書かれていない場合
ここは正確さが求められる論点です。IFRS第16号には、資産が契約に明記されない場合でも黙示的に定められることによって特定され得るとの定めがありますが、ASBJはこの定めと、これに関するIFRS第16号の設例を適用指針に取り入れていません(リース適用指針BC10項)。
したがって、「日本基準にも黙示的特定という要件がある」と説明するのは誤りです。
一方で、「だから契約書に書かれていなければ対象外」というのも誤りです。ASBJは取り入れなかった理由として、当該定めを置かなくとも、顧客が経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ使用を指図する権利を有している場合には、資産が契約に明記されていなくとも事実と状況によりリースが含まれることが明らかであるときがあり、このときにはリースの識別に関する適切な判断がなされると考えられるためと説明しているからです(同BC10項)。
法務実務としては、調査対象とした契約について、契約書に資産の記載がないことだけを理由に検討を打ち切らず、必要に応じて実際に何が使われているかを確認します。そのうえで、確認できた事実と未確認の事項を分けて経理部へ渡します。
図解3 契約書に資産名がない場合の確認フロー
この確認は、日本基準上の「黙示的特定」という独立した要件を判定するためのものではありません。事実と状況を把握し、経理部が第6項に即して判断できる材料を揃えるための作業です。
第8章 物理的に別個の資産と「容量の一部分」
適用指針上の判断要素適用指針第7項は、顧客が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合には、当該稼働能力部分は特定された資産に該当しないとしています。
ただし例外があります。物理的に別個のものではない場合であっても、顧客が使用することができる資産の稼働能力が当該資産の稼働能力のほとんどすべてであることにより、顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているときは、特定された資産に該当します(同項)。
表4 物理的に別個の部分と稼働能力の一部分
| 例 | 区分の目安 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 倉庫の独立した区画 | 物理的に別個となり得る | 間仕切り・施錠・専用出入口の有無 |
| 建物の特定フロア | 物理的に別個となり得る | 独立して利用・施錠できるか |
| 専用ラック | 物理的に別個となり得る | 他ラックと物理的に区分されているか |
| 特定のタンクそのもの | 物理的に別個となり得る | タンク単位で割り当てられているか |
| 特定の車両・サーバー・設備 | 物理的に別個となり得る | 個体が固定されているか、代替権はあるか |
| タンク容量の一定割合 | 稼働能力の一部分 | 物理的に区分されているか、割合はどの程度か |
| 発電設備の出力の一部 | 稼働能力の一部分 | 残りを供給者が他へ供給できるか |
| 通信回線帯域の一部 | 稼働能力の一部分 | 物理資産との対応関係があるか |
| サーバークラスタの処理能力の一部 | 稼働能力の一部分 | 物理機器が特定できるか |
| 倉庫全体の保管能力の一定割合 | 稼働能力の一部分 | 保管場所が固定されているか |
上表の「区分の目安」は出発点です。「専用ラックだから必ず物理的に別個」「特定フロアだから必ず特定された資産」とは限りません。契約上の記載と現地の実態を確認したうえで、経理部へ事実を渡してください。
第9章 ASBJ設例4|70%と99.9%は何を意味するか
稼働能力の一部分について、ASBJ公式設例4(ガスの貯蔵タンク)の要約が明確な対比を示しています。
設例図1 ガス貯蔵タンクの容量割合による違い
- 設例4-1|容量の70%
貯蔵タンク内は物理的に区分されておらず、顧客が使用できるのは容量の70%です。残りの30%は供給者が使用でき、他の顧客に貯蔵させることもできます。
→ 顧客が使用できる稼働能力は当該資産の稼働能力のほとんどすべてに該当しないため、特定された資産に該当しないと判断されました。 - 設例4-2|容量の99.9%
顧客が使用できる容量が99.9%とされています。
→ 稼働能力のほとんどすべてに該当するため、特定された資産に該当すると判断されています。
注意|70%・99.9%は一般的な閾値ではありません
これらは設例に示された固有の数値であり、「何%以上なら特定された資産」という基準が会計基準や適用指針に置かれているわけではありません。90%以上なら該当、95%ルール、99%ルールといった独自の閾値を社内で設定しないでください。
「ほとんどすべて」に当たるかどうかの具体的な評価は会計上の判断であり、経理部および監査法人・公認会計士に確認する事項です。法務部が担うのは、契約上の割合、物理的な区分の有無、残りの容量を供給者が他に使用できるかという事実を整理することです。
第10章 ASBJ設例3|区画が指定されていても結論が分かれる理由
代替権の2要件がどう働くかを示すのが、ASBJ公式設例3(小売区画)の要約です。いずれの設例でも供給者は区画を変更できますが、結論は逆になっています。
設例図2 小売区画における代替権の比較
- 設例3-1|空港の搭乗エリア内の区画
面積と割り当てられた区画は契約で指定されています。しかし、空港内には契約の仕様を満たす区画が多数存在し、供給者はいつでも区画を変更する権利を有しています。顧客は容易に移動可能な自社所有の売店を使用することが求められ、区画変更のコストは限定的です。
→ 供給者は代替する実質的な権利を有していると判断され、資産は特定されていないとされました。 - 設例3-2|小売エリア内の区画X
供給者は区画を変更する権利を有しますが、契約で定められた面積・仕様を満たす区画を提供し、かつ顧客の移転コストを全額負担する必要があります。移転コストを上回る経済的利益を得られるのは新たな大口テナントと契約したときのみで、その可能性は高くないと見込まれます。
→ 代替による経済的利益の要件が満たされないため、資産は特定されていると判断されています。
この2つの違いは、変更権があるかどうかではありません。変更に伴うコストを誰が負担し、変更によって供給者が得をするかという点です。法務部としては、変更条項を見つけたら「誰がコストを負担するか」まで必ず確認してください。
第11章 専用設備・車両・サーバーをどう確認するか
LegalGPTとしての推奨資産の類型ごとに、確認すべき事実を整理しました。「この類型なら特定された資産」という表ではありません。確認漏れを防ぐためのものです。
表5 資産類型別の確認ポイント
| 資産類型 | 特定の手掛かり | 代替条項で見る点 | 運用実態で確認する点 | 追加で集める資料 |
|---|---|---|---|---|
| 専用設備 | 設備番号、設置場所 | 変更・入替えの条件、承諾の要否 | 他顧客への転用の有無 | 仕様書、設置図面 |
| 車両 | 車両番号、車種+台数 | 配車変更の裁量、入替え条件 | 実際の配車が固定されているか | 配車表、運行記録 |
| サーバー | ホスト名、物理機器の指定 | 機器変更の通知・同意 | 論理名と物理機器の対応 | 構成図、機器一覧 |
| ラック | ラック番号、区画 | ラック移設の権利 | 施錠・入退室管理の状況 | ラック図、入退室記録 |
| 倉庫区画 | 区画番号、面積 | 区画変更権、移転費用の負担 | 物理的な区分の有無 | 区画図、現場写真 |
| 発電設備 | 発電所名、所在地 | 代替電源からの供給可否 | 出力の帰属、他顧客への供給 | 設備概要書、供給実績 |
| タンク | タンク番号、容量 | タンク変更の可否 | 内部が区分されているか、割合 | 設備図、貯蔵記録 |
| 製造ライン | ライン番号、金型番号 | ライン変更・転用の可否 | 他社製品の生産有無 | レイアウト図、生産記録 |
| 船舶・コンテナ | 船名、コンテナ番号 | 代船・振替の条件 | 実際の配船が固定されているか | 運航記録、契約別紙 |
| 複合機等の事務機器 | 機種、製造番号 | 機器交換の条件 | 設置場所の固定性 | 納品書、保守記録 |
第12章 法務部は契約書のどこを見るか
契約1件ごとに埋めていくシートです。チェックを付けた結果で特定された資産の有無が決まる表ではありません。経理部が第6項・第7項に即して判断するための事実を集める道具として使ってください。
表6 特定された資産・代替権の契約チェックシート
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 | 現場に聞くこと | 証拠資料 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|---|---|
| 対象資産・型式・番号 | 目的条項、別紙、仕様書 | 実際に使っている機器は何か | 機器一覧、納品書 | 資産の名称・個体識別の有無 |
| 設置場所 | 設置・納入場所の条項 | 移設の可否と決定権 | 設置図面、現場写真 | 所在地と移設の権限 |
| 専用性 | 専用・占有に関する定め | 実際に専用で使えているか | 運用記録 | 専用の範囲と根拠条項 |
| 他顧客との共用 | 共用に関する定め | 他社利用の実態 | 供給者への照会記録 | 共用の有無と割合 |
| 代替・入替え条項 | 変更条項、代替機条項 | 条項が実際に使われたか | 変更通知、覚書 | 代替の可否と条件 |
| 顧客の承諾・通知義務 | 同意条項、通知条項 | 運用上どう処理しているか | 過去の通知記録 | 妨げることができるかの事実 |
| 同等資産の保有・調達 | —(契約外) | 供給者の保有状況 | 供給者への照会記録 | 容易な利用可否、調達期間 |
| 入替えできる場面の限定 | 代替条項の条件部分 | 限定を超えた入替えの有無 | 変更記録 | 限定の内容と実態 |
| 保守・修理時の交換 | 保守条項、代替機条項 | 交換の頻度と理由 | 保守報告書 | 交換が生じる場面の整理 |
| 代替・移設費用の負担 | 費用負担条項 | 実際の負担実績 | 請求書、精算記録 | 誰が負担するかの定めと実態 |
| 再設定・認証の要否 | 仕様書、SLA | 作業内容と所要時間 | 作業手順書 | 手続の内容と負担 |
| 入替え実績 | 変更契約、覚書 | いつ、なぜ入れ替えたか | 通知記録、作業記録 | 実績の有無と経緯 |
| 容量・割合 | 数量条項、料金表 | 実際の使用量 | 使用実績データ | 契約上の割合と実績 |
| 物理的な区分 | 区画図、設備図 | 間仕切り・施錠の状況 | 図面、現場写真 | 区分の有無と態様 |
| 不明事項 | — | 未回答の質問 | 照会記録 | 未確定事項と判断への影響 |
ここで集めた項目のうち、適用開始後も継続的に管理する必要があるものは契約台帳へ移します。台帳の基本項目は契約台帳の作り方|最低限必要な項目一覧と実務で使える設計を、新リース会計基準対応で追加すべき項目は新リース会計基準対応の契約台帳に追加すべき項目をご覧ください。
第13章 契約書だけでは分からない場合の進め方
代替権は、契約書の文言だけで確定できないことが多い論点です。とくに要件2の経済的利益は、供給者側の事情に関わるため、社内資料だけでは見えません。
図解4 代替権が契約書だけでは分からない場合
「代替できるはず」「交換しないはず」「供給者に利益があるはず」といった推測で空欄を埋めないでください。未確定のまま提出するほうが、後の監査対応で説明できます。
照会記録や確認資料は、初回調査で終わらず、契約変更のたびに更新されます。どこに蓄積するかを先に決めておくと後工程が楽になります。継続管理の考え方は契約管理とは何か|なぜExcel管理では限界なのかを実務視点で解説を参照してください。
第14章 特定された資産の判断で起こりやすい誤り
表7 よくある誤りと正しい確認方法
| よくある誤り | なぜ誤りか | 正しい確認方法 |
|---|---|---|
| 資産番号があれば特定された資産である | 明記されていても供給者に実質的な代替権があれば該当しない | 第6項の2要件を確認する |
| 専用設備なら特定された資産である | 「専用」という表示は契約上の呼称にすぎない | 代替条項と運用実態を確認する |
| 契約に交換権があれば特定された資産ではない | 要件1の材料にすぎず、要件2の充足が別に必要 | 代替の能力と経済的利益の両方を確認する |
| 一度でも交換実績があれば実質的な代替権がある | 交換の理由と場面によって評価が異なる | 交換の経緯・条件・頻度を確認する |
| 交換実績がなければ代替権はない | 実績がないだけで能力の有無は決まらない | 契約条項と供給者の保有状況を確認する |
| 保守時に交換できるなら代替権がある | 入替えの場面が限定されている可能性がある | 限定の範囲と使用期間全体での可否を確認する |
| 契約書に資産名がなければ対象外である | 事実と状況からリースが含まれることが明らかな場合がある | 仕様書・機器一覧・現場確認を行う |
| 日本基準にも「黙示的特定」という正式要件がある | IFRS第16号の当該定めは適用指針に取り入れられていない | 第6項の枠組みで事実を整理する |
| 容量の50%以上なら特定された資産である | そのような割合基準は置かれていない | 物理的な区分の有無と割合の事実を整理する |
| 90%以上なら「ほとんどすべて」である | 独自の閾値を設定する根拠がない | 評価は経理部・監査法人等に確認する |
| 区画番号があれば特定された資産である | 変更権と移転コストの負担により結論が分かれる | 変更条項と費用負担条項を確認する |
| サーバーが自社施設にあれば特定された資産である | 設置場所は判断の決め手ではない | 個体の特定と代替権を確認する |
| 特定された資産があればリースに該当する | 使用の支配の検討が別に必要 | 経済的利益と使用指図権を確認する(第7話) |
| 法務部が代替の経済性を判断する | 採算評価は法務部の役割ではない | 費用負担・手続・実績という事実を整理する |
| 契約書だけで全て判断する | 契約書の記載と運用が異なることがある | 現場確認とヒアリングを併せて行う |
第15章 法務部向けチェックリスト
まとめ
特定された資産は、リース識別の第一関門です。ただし、契約書に資産が書かれているかどうかだけで決まるものではありません。
資産は通常、契約に明記されることで特定されます。しかし明記されていても、供給者が使用期間全体を通じて代替する実質上の能力を有し、かつ代替することで経済的利益を得ると見込まれる場合には、特定された資産に該当しません。この2つはAND条件であり、契約上の交換権があるというだけでは足りません。
逆に、契約書に資産名がないことは対象外の理由になりません。日本基準はIFRS第16号の黙示的特定に関する定めを取り入れていませんが、事実と状況からリースが含まれることが明らかな場合があるためです。稼働能力の一部分については第7項に沿って確認し、独自の数値基準は置かないでください。
そして最も重要な点として、特定された資産が確認できても、リース判断はまだ終わっていません。次は、その資産の使用を支配しているのが誰かを確認する段階です。経済的利益のほとんどすべてを享受する権利と、使用を指図する権利——この2つを資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法で扱います。
よくある質問(FAQ)
特定された資産とは何ですか
契約がリースを含むかどうかを判断する際の前提となる概念です。企業会計基準第34号は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むとしています。適用指針では、資産は通常、契約に明記されることにより特定されるとしたうえで、供給者が当該資産を代替する実質的な権利を有する場合には特定された資産に該当しないとされています。
契約書に資産番号があれば特定された資産ですか
そうとは限りません。適用指針は、資産が契約に明記されている場合であっても、供給者が使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、代替による経済的利益が代替から生じるコストを上回ると見込まれるときは、供給者が代替する実質的な権利を有しており、当該資産は特定された資産に該当しないとしています。資産番号の記載は確認の出発点であり、結論ではありません。
専用設備なら特定された資産ですか
「専用」という表示だけでは決まりません。契約上そう呼ばれていても、供給者が実質的な代替権を有していれば特定された資産には該当しないためです。代替に関する条項、供給者が同等の資産を保有しているか、入替えに自社の承諾が必要か、実際に入替えが行われた実績があるかといった事実を確認したうえで、経理部に判断材料として渡してください。
供給者に交換権があれば特定された資産ではありませんか
契約上の交換権があるだけでは、そう結論づけることはできません。適用指針が定める2つの要件、すなわち使用期間全体を通じて代替する実質上の能力があること、および代替による経済的利益が代替コストを上回ると見込まれることの、いずれも満たす必要があるためです。片方だけでは代替する実質的な権利があるとは判断されません。
故障や保守時に交換できる場合はどう考えますか
個別に確認する必要があります。ASBJの公式設例では、車両が契約で指定され、供給者は保守または修理が必要な場合には入れ替えることが求められるものの、それ以外の場合には入れ替えることができないという事実関係の下で、使用期間全体を通じた代替する実質上の能力がないとされた例が示されています。ただし、日本基準はIFRS第16号の代替権に関する詳細な定めを取り入れていないため、「保守時の交換権であれば常にこう扱う」という一般ルールがあるわけではありません。適用指針第6項の2要件に即して、契約条件と実態を確認してください。
契約書に資産が書かれていない場合は対象外ですか
契約書に資産が書かれていないという理由だけで対象外と判断することは適切ではありません。ASBJは、IFRS第16号にある黙示的に特定され得るという定めとその設例を適用指針に取り入れていませんが、その理由として、資産が契約に明記されていなくとも事実と状況によりリースが含まれることが明らかであるときがあると説明しています。一方で、リースが含まれていないことが明らかな場合にまでリース識別の判断を行う必要はないとも説明しています。調査対象とした契約について資産の記載だけでは判断できない場合には、仕様書、機器一覧、配車表、構成図、現場の状況、事業部へのヒアリングなどから事実関係を確認してください。なお、日本基準に「黙示的特定」という独立した要件があるわけではありません。
タンク容量の何%なら特定された資産になりますか
割合による一般的な基準は置かれていません。適用指針は、物理的に別個ではない稼働能力の一部分は原則として特定された資産に該当しないとしたうえで、顧客が使用できる稼働能力が当該資産の稼働能力のほとんどすべてであることにより経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有するときは該当するとしています。公式設例では容量70%の例と99.9%の例が対比されていますが、これらは設例固有の数値であり、閾値として定められたものではありません。「ほとんどすべて」に当たるかの評価は、経理部および監査法人・公認会計士に確認してください。
特定された資産があればリースに該当しますか
該当するとは限りません。特定された資産の存在は前提となる要件の一つであり、これに加えて、顧客が使用期間全体を通じて当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、当該資産の使用を指図する権利を有しているかを確認する必要があります。この2つを満たして初めて使用を支配する権利が移転していると判断されます。最終的な会計判断は経理部が行います。
主な参照資料
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企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日修正)
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第25項、第26項 -
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日・2025年10月16日修正)
公式ページ:企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第5項、第6項、第7項、BC10項、BC11項 -
企業会計基準適用指針第33号 設例(リースの識別に関する設例1から設例6)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式資料:企業会計基準適用指針第33号 設例(ASBJ公式PDF)
本文で要約した設例:設例2(鉄道車両)、設例3(小売区画)、設例4(ガスの貯蔵タンク) -
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表(ASBJ 公式サイト) -
企業会計基準適用指針 一覧(公表日・修正日の確認用)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/最終確認日:2026年8月7日
公式ページ:企業会計基準適用指針 一覧(ASBJ 公式サイト)
※本文中の設例は、ASBJ公式設例の事実関係と結論を要約したものです。適用指針は、設例に示されている会計処理について、実務を行うための手掛かりを与えるための例示であり、各企業のリースの実情等に応じて例示されていない会計処理も適当と判断される場合があることに留意する必要があるとしています。実際の判断にあたっては公式設例を直接ご確認ください。
※設例PDFは2024年9月13日公表版です。本記事では、2026年8月7日時点でASBJ公式サイトに掲載されている当該設例を参照しています。適用指針本文については、2025年10月16日までの修正を反映した現行版を優先しています。
本記事は2026年8月7日時点で公表されている資料に基づいています。個別の契約について特定された資産があるか否かの判断は、契約条件と運用実態により異なります。会計基準上の最終的な判断については、経理部門および監査法人・公認会計士にご確認ください。
シリーズナビゲーション
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次回予告
第7話では、リース識別の第2関門である「使用を支配する権利」を扱います。顧客が資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているか、そして資産の使用を指図する権利を有しているか。使用方法があらかじめ決まっている場合の取扱いも含めて、契約書のどこを確認するかを整理します。
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