オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント
オフィスの賃貸借契約は契約期間2年。では、新リース会計基準でも2年として登録すればよいのでしょうか。
そうとは限りません。新リース会計基準における不動産賃貸借の整理では、契約書に書かれた期間がそのまま借手のリース期間になるとは限らないためです。普通借家か定期借家か、自動更新条項があるか、中途解約できるのは誰か、内装にどれだけ投資しているか——これらが期間の判断に関わります。
さらに不動産契約には、賃料以外の要素が集中します。共益費や管理費、敷金、保証金、建設協力金、礼金、更新料、フリーレント、そして原状回復義務。これらは性質がそれぞれ異なり、「契約書に書かれた支払額を合計する」という整理ができません。
この記事では、第3話から第10話で扱ってきた論点を、オフィス・店舗・倉庫といった具体的な契約に当てはめ、法務部が契約書と関連資料から何を拾い、どう整理して経理部へ渡すかを解説します。
この記事の結論
- 契約書上の契約期間と、会計基準上の借手のリース期間は別の概念です。解約不能期間を出発点に、合理的に確実な延長・解約オプションの対象期間を加えて決定されます(リース会計基準第15項、第31項)。
- 「普通借家だから長期」「定期借家だから契約期間どおり」という一般化はできません。契約条件と事実に即して整理します。
- 自動更新条項は、更新拒絶権を誰が持つかを最初に確定してください。「自動更新だから無期限」も「当初期間だけ」も適切ではありません。
- 解約権については、借手のみが有する場合と貸手のみが有する場合で扱いが異なります(同第31項)。
- 「合理的に確実」の判断では、契約条件、大幅な賃借設備の改良、解約関連コスト、原資産の重要性、行使条件という5つの要因を考慮します(リース適用指針第17項)。
- 共益費や管理費は、名称ではなく内訳で整理します。区分と対価配分は経理部が判断します。
- 契約対価に含まれる固定資産税・保険料相当額を、借手側では単純に控除しません。
- 敷金は借手のリース料の5つの構成要素とは別の会計論点です。建設協力金等とも扱いが異なります。
- 原状回復義務も、費用をそのままリース料に含める性質のものではありません。契約上の義務内容を整理して渡します。
- 法務部は契約上の権利義務と事実を整理し、会計上の判断は経理部が行います。
本記事は「新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務」全15話の第11話です。
このシリーズは、新リース会計基準への対応において法務部・契約管理部門が担うことになる契約調査と契約管理の実務を、順を追って解説することを目的としています。
無料・時短・仕組み化の3つから選ぶ
シリーズ全15話の構成
| 話数 | 記事タイトル | その記事で分かること |
|---|---|---|
| 第1話 | 新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わる?|2027年適用に向けた契約対応の全体像 | シリーズ全体像と、法務部が担う役割の範囲 |
| 第2話 | 新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール | 適用時期・対象企業・準備工程の考え方 |
| 第3話 | リース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」 | 契約がリースを含むかを判断する枠組み |
| 第4話 | 埋込リースとは?|業務委託・物流・IT契約に潜むリースの見つけ方 | サービス型契約に含まれるリースの探し方 |
| 第5話 | 新リース会計基準で調査すべき契約書は?|法務部の契約棚卸しの進め方 | 契約母集団の設定と棚卸しの実務手順 |
| 第6話 | 「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準 | 特定された資産と、供給者側の代替権の見方 |
| 第7話 | 資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法 | 使用の支配・経済的利益・使用指図権の確認 |
| 第8話 | リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方 | リース期間と、更新・解約条項の読み方 |
| 第9話 | 契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理 | 契約書から抽出すべき料金情報の範囲 |
| 第10話 | リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェック | リース部分と非リース部分の区分の論点 |
| 第11話 | オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント(現在の記事) | 不動産賃貸借契約に固有の調査ポイント |
| 第12話 | 契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務 | 契約変更・更新時の再判定と管理実務 |
| 第13話 | 新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理 | 契約台帳の追加項目と証跡の残し方 |
| 第14話 | 新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項 | 新規契約審査への確認項目の組み込み方 |
| 第15話 | 新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること | 適用開始までの最終チェックリスト |
第1章 不動産賃貸借契約のどこが問題になるのか
オフィス、店舗、倉庫、営業所の賃貸借契約は、多くの企業が相当数を保有しています。金額規模も大きく、新リース会計基準への対応では中心的な調査対象になります。
この類型の難しさは、1本の契約に論点が集中する点にあります。期間の判断だけでも、契約期間、更新条項、中途解約条項、内装投資が関わります。金額の面でも、賃料に加えて共益費、敷金、礼金、更新料、原状回復費用が並びます。
図解1 不動産賃貸借契約で確認する6つの領域
1本の不動産賃貸借契約
- (1) 期間:契約期間、解約不能期間、更新・再契約、中途解約、通知期限
- (2) 料金:賃料、段階賃料、フリーレント、賃料改定、売上歩合
- (3) 役務対価:共益費、管理費、清掃費、警備費、水光熱費
- (4) 一時金:敷金、保証金、建設協力金、礼金、権利金、更新料
- (5) 資産・工事:内装、造作、附属設備、原状回復義務
- (6) 継続管理:更新の決定、賃料改定、移転計画、解約の決定
これら6領域は、それぞれ異なる会計論点につながります。すべてを「賃料」としてまとめて記録すると、後工程で分解できなくなります。領域ごとに分けて整理してください。
第2章 契約期間と借手のリース期間は別のもの
会計基準上の取扱い会計基準は「借手のリース期間」を、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、借手が行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間の両方を加えた期間としています(リース会計基準第15項、第31項)。
不動産契約に当てはめると、確認の順序は次のようになります。
- 契約書上の契約期間を確認する(ここは出発点にすぎません)
- 中途解約の可否と解約権者を確認し、解約不能期間を特定する
- 更新・延長・再契約に関する定めを抽出する
- 第17項の5要因に関する事実を整理する
- これらを経理部へ渡し、経理部が借手のリース期間を判断する
リース期間の一般的な考え方はリース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方で詳しく解説しています。本記事では、不動産契約に固有の確認事項に絞ります。
第3章 普通借家契約をどう整理するか
実務で最も多く、そして最も判断が分かれるのがこの類型です。
注意|「普通借家だから長期リース」という整理はできません
借地借家法上、貸主が更新を拒絶するには正当の事由が必要とされます。この点をとらえて「借主は事実上いつまでも使えるのだから長期になる」と考えるのは、会計上の判断としては誤りです。
借手のリース期間は、延長オプションを行使することが合理的に確実かどうかを、経済的インセンティブを生じさせる要因から判断して決定されます。契約類型そのものが結論を決めるわけではありません。
表1 普通借家契約で法務部が整理する事項
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|
| 契約期間 | 期間条項、始期・終期 | 契約上の期間と起算日 |
| 中途解約の可否 | 中途解約条項 | 解約できる時期と権利者 |
| 解約通知期限 | 通知条項 | 何か月前までか、方法は何か |
| 解約時の違約金 | 違約金条項 | 算定方法と想定額 |
| 更新に関する定め | 更新条項 | 合意更新か、自動更新か |
| 更新拒絶に関する定め | 更新拒絶条項、通知期限 | 拒絶権者と手続 |
| 更新料 | 更新料条項 | 金額と算定基準 |
| 更新後の賃料 | 賃料改定条項 | 改定方法(市場レートか固定か) |
| 過去の更新履歴 | 更新契約書、覚書 | 更新の回数と時期、背景事情 |
| 内装・造作の投資 | 工事に関する定め、原状回復条項 | 投資額、移設可否、除去費用 |
| 移転の計画 | — | 決定済みか検討中かの別 |
| 代替物件の有無 | — | 代替可能性に関する事実 |
| 事業上の重要性 | 目的条項、用途 | 拠点の位置づけに関する事実 |
第4章 定期借家契約をどう整理するか
定期建物賃貸借契約は、契約期間の満了により終了し、更新がないことを定める類型です。普通借家契約との実務上の違いは、期間満了後に契約関係を継続するには再契約という新たな合意が必要になる点にあります。
注意|「定期借家だから契約期間がそのままリース期間」とは限りません
再契約に関する定めがどう置かれているか、実際に再契約が繰り返されているか、内装投資や事業上の重要性がどうかによって、評価は変わり得ます。契約類型を根拠に結論を出すのではなく、再契約に関する条件と事実を整理して経理部へ渡してください。
表2 定期借家契約で法務部が整理する事項
| 確認項目 | 確認する資料 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|
| 定期建物賃貸借であることの確認 | 契約書の表題・条項、事前説明書面 | 契約類型と根拠となる書面の有無 |
| 契約期間 | 期間条項 | 始期・終期と期間 |
| 中途解約の可否 | 中途解約条項 | 解約できる時期と権利者 |
| 再契約に関する定め | 再契約条項、覚書 | 再契約の予定・条件の有無 |
| 再契約時の賃料 | 再契約条項、協議に関する定め | 賃料の決め方 |
| 終了通知の手続 | 通知条項 | 通知の時期と方法 |
| 過去の再契約実績 | 過去の契約書、稟議記録 | 再契約の回数と経緯 |
| 内装・造作の投資 | 工事契約、原状回復条項 | 投資額と除去に関する義務 |
| 満了後の使用予定 | — | 継続予定か退去予定かの別 |
第5章 自動更新・更新・再契約の読み方
「期間満了の6か月前までに当事者いずれからも申出がないときは、本契約は同一条件でさらに2年間更新されるものとし、以後も同様とする」——不動産契約で頻出する条項です。
図解2 更新・自動更新条項の確認手順
「自動更新だから無期限」も「自動更新だから当初期間だけ」も適切ではありません。自動更新は、延長オプションとしても、更新拒絶権という形の解約オプションとしても契約に現れ得ます。権利の帰属を確定したうえで、会計基準第31項に沿った整理を経理部が行います。
第6章 中途解約・通知期限・違約金
会計基準上の取扱いここで最初に確定すべきは解約権者です。会計基準第31項は、借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして借手のリース期間の決定にあたり考慮するとし、貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は借手の解約不能期間に含まれるとしています。
不動産契約では、貸主側にのみ一定の解約権が留保されている例があります。この場合、その期間は借手の解約不能期間に含まれるため、借手のリース期間を短くする理由にはなりません。
表3 中途解約に関する確認事項
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 | 留意点 |
|---|---|---|
| 解約権者(借主・貸主・双方) | 中途解約条項の主体 | 第31項の区別に直結する最重要項目 |
| 解約可能となる時期 | 解約条項 | 据置期間の有無を確認する |
| 通知期限 | 通知条項 | 期限を過ぎると次期間に入る場合がある |
| 予告に代わる金銭 | 解約条項 | 通知期間短縮時の金銭的負担 |
| 違約金・清算金 | 違約金条項 | 算定方法と上限 |
| フリーレントの返還 | 特約条項 | 早期解約時に無償期間分の返還義務があるか |
| 原状回復義務との関係 | 原状回復条項 | 解約時に別途生じる負担 |
| 未償却の内装投資 | —(社内資料) | 解約時に生じる除却の影響 |
| 移転費用 | —(社内資料) | 実務上の負担規模 |
第7章 「合理的に確実」を不動産でどう見るか
適用指針上の判断要素適用指針第17項は、延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実かどうかを判定するにあたり、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮するとし、例として5つの要因を挙げています。不動産契約に当てはめると次のようになります。
図解3 第17項の5要因を不動産契約に当てはめる
→ 不動産では、更新後の賃料水準、更新料、違約金、市場相場との関係
→ 内装工事、造作、厨房設備、専用配線などの投資
→ 原状回復、移転、撤去、新拠点の確保
→ 本社・旗艦店・主要拠点としての位置づけ、代替物件の有無
→ 更新・解約に付された条件、通知手続
これは例示であり、点数化はできません。「5要因のうち3つに該当すれば合理的に確実」といった基準は存在しません。判断は諸要因を総合的に勘案して行われ、その評価は経理部が担います。
第8章 大規模内装・造作をどう扱うか
店舗の内装、オフィスの造作、厨房設備、クリーンルーム——不動産契約では、賃借した物件に相当額の投資を行うことがあります。これは第17項(2)の「大幅な賃借設備の改良」に関わります。
適用指針上の判断要素ASBJは、賃借設備の改良が「大幅な賃借設備の改良」に該当するか否かについて、例えば、賃借設備の改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実および状況に基づく総合的な判断が必要になると説明しています(リース適用指針BC34項(2)①)。
注意|「内装の耐用年数=リース期間」ではありません
ASBJは、借手のリース期間とリース物件における附属設備の耐用年数は相互に影響を及ぼす可能性があるものの、それぞれの決定における判断およびその閾値は異なるため、必ずしも整合しない場合があるとしています。一方で、附属設備について借手のリース期間中の除去およびリース期間後の使用を見込んでいない場合には、当該附属設備の耐用年数がリース期間と整合する場合もあると考えられる、とも述べています(同BC34項(2)②)。
また、「内装投資が大きいから更新は確実」という結論も出せません。金額基準を社内で設けることは避けてください。
表4 内装・造作・附属設備に関する確認事項
| 確認項目 | 確認先・資料 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|
| 工事の内容と金額 | 工事請負契約、見積書、固定資産台帳 | 投資額と工事の範囲 |
| 工事の実施時期 | 工事契約、竣工記録 | いつ投資したか |
| 造作の所有関係 | 賃貸借契約の造作に関する定め | 誰の資産として扱われるか |
| 移設の可否 | 仕様書、施設部門への確認 | 他物件へ転用できるか |
| 撤去義務の有無 | 原状回復条項 | 退去時に除去が必要か |
| 除去に要する費用 | 見積書、過去実績 | 費用の規模感 |
| 造作買取請求の可否 | 造作買取に関する定め | 買取請求権の排除の有無 |
| 残存使用期間 | 固定資産台帳 | 会計上の耐用年数と経過期間 |
| リニューアル計画 | —(社内資料) | 改装の予定と周期 |
第9章 本社・店舗・倉庫の事業上の重要性
第17項(4)は「企業の事業内容に照らした原資産の重要性」を挙げています。不動産では、本社、旗艦店、主要物流拠点、工場、データセンター、許認可と結び付いた施設などが問題になります。
ただし「重要な拠点だから更新は確実」という結論にはなりません。重要性は5要因の1つにすぎず、他の要因とあわせて総合的に判断されます。
表5 事業上の重要性を確認する質問
| 確認する質問 | 主な確認先 |
|---|---|
| 同等の条件を満たす代替物件は市場にあるか | 総務、不動産管理、事業部 |
| 移転にどの程度の期間と費用を要するか | 総務、施設管理 |
| 許認可の再取得が必要になるか | 法務、事業部 |
| 立地が売上や顧客アクセスに直結しているか | 営業、事業部 |
| 物流網やサプライチェーンへの影響はあるか | 調達、物流 |
| 他の拠点・設備との一体性があるか | 事業部、施設管理 |
| その拠点を前提とした事業計画があるか | 経営企画、事業部 |
| 撤退・統廃合の検討がなされているか | 経営企画 |
第10章 ASBJ設例8|不動産契約の思考プロセス
会計基準第31項は、借手のリース期間の決定にあたって適用指針の設例8-1から設例8-5を参照するよう示しています。これらは普通借地契約および普通借家契約における借手のリース期間を扱う設例であり、不動産契約を検討する法務担当者にとって直接の参考になります。
設例8の柱書き(ASBJの説明)
適用指針は、設例8について次のとおり述べています。解約不能期間の判断、経済的インセンティブの分析、シナリオ、借手のリース期間の判断等については、借手のリース期間の決定に至る思考プロセスや借手のリース期間の判断のための手掛かりの例示であり、前提条件や企業のビジネスモデルが異なる場合には結論も異なり得ることに留意する必要がある。また、各設例は、会計基準および本適用指針における借手のリース期間の判断に資するために示すものであり、借地借家法等の法的解釈を示すものではない。
表6 ASBJ設例8-1から8-5の比較
| 設例 | 契約・解約不能期間 | 主な判断材料 | 借手のリース期間 | 不動産実務での示唆 |
|---|---|---|---|---|
| 設例8-1 普通借家 | 契約期間1年。3か月前の通知で解約できるため、解約不能期間は3か月 | 借地借家法上、貸手が更新を拒絶する正当な事由があると認められるとは考えられないことを踏まえ、契約期間1年を超える期間について延長オプションを有すると判断 | この設例では最終的な期間までは決定せず、延長オプションの存在とその後の判断手順を示す | 契約書上の1年だけを見て期間を決めない。解約不能期間は3か月と整理される |
| 設例8-2 普通借家(店舗) | 契約期間・解約不能期間は1年。1年経過後は更新時の市場レートの賃料で毎年更新可能 | 重要な建物附属設備を設置しており早期退出で除却が生じる一方、店舗は戦略的に重要とはされず、概ね5年でリニューアルが必要 | 5年 | 設備投資があっても、更新可能な全期間を含めるわけではない |
| 設例8-3 普通借家(店舗) | 契約期間・解約不能期間は1年。1年経過後は更新時の市場レートの賃料で毎年更新可能 | 他店舗より多額の投資、重要な建物附属設備、戦略的に重要な立地・店舗という事情を総合的に考慮 | 10年 | 同じ1年契約・毎年更新でも、投資額と事業上の重要性により設例8-2と結論が分かれる |
| 設例8-4 普通借地 | 契約期間40年。ただし6か月前の通知で解約できるため、解約不能期間は6か月 | 土地上に店舗用の建物を建設しており、早期解約時には建物の除却・解体費用が生じる。建物の物理的使用可能期間等も考慮 | 20年 | 契約上は短期間で解約可能でも、解約しない経済的インセンティブにより期間が大幅に長くなり得る |
| 設例8-5 普通借家(オフィス) | 契約期間・解約不能期間は5年。その後は更新時の市場レートの賃料で更新可能 | 重要な建物附属設備なし、代替立地を探すことが可能。過去に他の立地で10年間賃借した経験はあるが、将来の経済的インセンティブとして特に考慮すべきものはない | 5年 | 過去に長期間使用した実績だけでは延長期間を含めない |
この5例から読み取れることは明確です。設例8-2と設例8-3は、いずれも契約期間・解約不能期間が1年で毎年更新可能という同じ契約構造でありながら、借手のリース期間は5年と10年に分かれています。また設例8-4では、解約不能期間が6か月であるにもかかわらず20年とされ、設例8-5では5年の解約不能期間を超えて更新可能であり過去に10年間賃借した経験もあるにもかかわらず5年とされています。
※上表はASBJ設例8-1から設例8-5の思考プロセスを要約したものです。各設例の結論はそれぞれに設定された前提条件および事実・状況に基づくものであり、5年・10年・20年等を一般的なリース期間の基準として使用することはできません。実際の判断にあたっては公式設例を直接ご確認ください。
第11章 共益費・管理費・水光熱費をどう整理するか
賃料に加えて、共益費、管理費、清掃費、警備費、水光熱費が請求される契約は一般的です。ここで名称による分類はできません。
会計基準上の取扱いリースを含む契約は、原則としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理します(リース会計基準第28項)。借手は、契約の対価をそれぞれの部分の独立価格の比率に基づいて配分します(リース適用指針第11項)。一方で、一定の単位ごとに、リース部分と関連する非リース部分を分けずに合わせて処理する選択肢もあります(会計基準第29項)。
つまり、共益費が非リース部分に当たるかどうか、また区分して処理するかどうかは、いずれも会計上の判断です。法務部が「共益費だから除外」と決めることはできません。
表7 共益費等について収集する資料
| 資料・確認項目 | 確認できること | 入手先 |
|---|---|---|
| 賃貸借契約書の料金条項 | 賃料と共益費の区分、金額 | 法務、総務 |
| 共益費の内訳明細 | 共益費に含まれる項目と金額 | 貸主、管理会社 |
| 管理仕様書 | 管理業務の範囲と頻度 | 管理会社、総務 |
| 清掃・警備の仕様書 | 作業の対象範囲と実施回数 | 管理会社 |
| 年間管理費の予算・実績 | 費目別の内訳 | 貸主、管理会社 |
| 請求書 | 実際の請求区分と金額 | 経理、総務 |
| 水光熱費の負担方法 | 実費精算か定額か、按分方法 | 契約書、請求書 |
| 共益費の改定条項 | 改定の手続と根拠 | 契約書 |
| 単独での役務調達の可否 | 清掃等を別途契約できるか | 総務、購買 |
| 類似物件の共益費水準 | 独立価格の手掛かり | 不動産管理、市場資料 |
区分と対価配分の詳細は、リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェックで解説しています。
第12章 固定資産税・保険料相当額は差し引かない
不動産契約では、固定資産税相当額や火災保険料を借主が負担する定めが置かれることがあります。ここは旧基準の実務感覚が通用しない論点です。
注意|借手側では契約対価から単純に控除しません
適用指針第11項は、借手は、契約における対価の中に、借手に財又はサービスを移転しない活動及びコストについて借手が支払う金額が含まれる場合、当該金額を契約における対価の一部としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分するとしています。ASBJも、当該金額を契約における対価から控除せず配分することとしている旨を明記しています(同BC18項)。
ここでいう「借手に財又はサービスを移転しない活動及びコスト」には、固定資産税および保険料のほか、例えば契約締結のために貸手に生じる事務コストの借手への請求等が含まれるとされています(同BC15項)。
さらにASBJ設例7では、借手が固定資産税及び保険料の金額を把握していたとしても、これを対価から控除することはしないと明記されています。
なお貸手については、契約対価に維持管理費用相当額が含まれる場合に、当該金額を契約対価から控除する方法も選択できます(リース適用指針第13項(2))。借手と貸手で扱いが異なるため、資料を渡す際には自社が借手であることを明示してください。
法務部が整理するのは、契約上どのような名目で誰が負担することとされているか、金額が明示されているか、算定根拠は何かという事実です。
第13章 敷金はリース料ではない
不動産契約で最も混同されやすいのが敷金です。契約書に記載された支払額であることと、借手のリース料に含まれることは別の問題です。
会計基準上の取扱い借手のリース料は、固定リース料、指数またはレートに応じて決まる変動リース料、残価保証に係る支払見込額、行使が合理的に確実な購入オプションの行使価額、一定の場合の解約違約金という5つで構成されます(リース会計基準第19項、第35項)。敷金はこの5要素のいずれにも当然には該当しません。
また、適用指針には差入預託保証金に関する定めが別途置かれています(リース適用指針第29項から第36項)。敷金は別の会計論点として扱われるということです。
図解4 敷金・保証金の整理手順
敷金を賃料に合算しないでください。また、償却部分と返還部分を区別せずに記録すると、後工程で分解できなくなります。法務部としては、契約上の性質と条件を正確に記録するところまでを担い、会計処理の判断は経理部に委ねます。
第14章 保証金・建設協力金・礼金・更新料
敷金以外にも、不動産契約には多様な一時金が登場します。それぞれ性質が異なるため、「一時金」として一括りにせず、名称と条件をそのまま記録してください。
なお、建設協力金については適用指針に定めがあり(リース適用指針第29項)、ASBJ公式設例14「建設協力金」も置かれています。同設例では、借手が入居予定のビル建設に要する資金を貸手に建設協力金として支払う契約が扱われており、将来返還される建設協力金等の差入預託保証金に係る当初認識時の時価は返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値であり、借手は当該差入預託保証金の支払額と当該時価との差額を使用権資産の取得価額に含めるとされています。
表8 不動産契約の一時金と確認事項
| 名称 | 一般的な性質 | 法務部が拾う情報 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 敷金 | 賃料等の担保として預託する金銭 | 金額、返還条件、償却・敷引きの有無 | 返還部分と非返還部分を区別して記録する |
| 保証金 | 担保または預託の性質を有する金銭 | 金額、返還時期、利息、返還方法 | 分割返還のスケジュールがある場合は記録する |
| 建設協力金 | 建物建設資金として貸主に預託する金銭 | 金額、返済条件、利率、据置期間、返済期日 | 適用指針第29項に定めがあり、設例14が置かれている |
| 礼金 | 返還されない一時金 | 金額、支払時期 | 返還されない点を明示して記録する |
| 権利金 | 返還されない一時金 | 金額、性質、対価の内容 | 借地権に係る権利金等には別の定めがある(適用指針第27項) |
| 更新料 | 更新時に支払う一時金 | 金額、発生条件、算定基準 | 更新の取扱いとあわせて渡す |
| 仲介手数料 | 第三者に対する支払 | 金額、支払先 | 貸主に対する支払ではない点を記録する |
| 保証委託料 | 保証会社への支払 | 金額、支払先、頻度 | 同上 |
これらの会計処理の詳細は本記事の範囲外です。法務部としては「借手のリース料とは別項目として記録し、契約上の条件を添えて経理部へ渡す」ところまでを担ってください。
第15章 フリーレント・段階賃料・賃料改定
「入居後6か月間は賃料無料」「1年目は月額80万円、2年目以降は100万円」といった条件は、不動産契約で頻繁に見られます。これらを見落とすと料金情報が不完全になります。
あわせて確認したいのが賃料改定条項です。第9話で扱ったとおり、適用指針は、市場における賃料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料が、指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料に含まれるとしています(リース適用指針第24項)。明確な算式がなくても対象となり得るため、賃料改定条項は必ず確認してください。
表9 料金スケジュールと改定条項の確認事項
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 | 留意点 |
|---|---|---|
| 期間ごとの賃料 | 賃料条項、賃料表 | 各期間の金額を漏れなく記録する |
| フリーレントの期間 | 特約条項 | 無償期間と適用条件 |
| フリーレントの返還条件 | 特約条項 | 早期解約時に返還義務が生じるか |
| 段階賃料の切替時点 | 賃料表 | いつから金額が変わるか |
| 賃料改定の方法 | 賃料改定条項 | 協議か、指数連動か、固定か |
| 市場賃料の反映に関する定め | 賃料改定条項 | 適用指針第24項に関わる重要項目 |
| 改定の時期・頻度 | 賃料改定条項 | 改定日と改定周期 |
| 改定幅の上限・下限 | 賃料改定条項 | キャップ・フロアの有無 |
| 売上歩合賃料 | 歩合条項 | 売上の定義、料率、最低保証 |
| 支払時期 | 支払条項 | 前払か後払か、支払日 |
「月額100万円」とだけ記録しないでください。段階賃料やフリーレントがある場合、期間と金額をセットで記録しないと情報が失われます。売上歩合賃料の扱いは契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理で解説しています。
第16章 原状回復義務をどう整理するか
退去時の原状回復義務は、不動産契約に必ずといってよいほど付随します。ここで法務部が注意すべきは、原状回復費用をそのまま賃料に足して「リース料」として渡さないことです。
原状回復義務は、第17項(3)の「リースの解約に関連して生じるコスト」としてリース期間の判断に影響し得る一方で、その費用が借手のリース料の5要素に当然に含まれるわけではありません。2つの論点は分けて整理してください。
図解5 原状回復に関する情報の流れ
├ リース期間の判断材料として(第17項(3)の解約関連コスト)
└ 別の会計論点として(資産除去債務等の検討は経理部)
原状回復に関する会計処理には、リース会計以外の論点が関わり得ます。法務部は契約上の義務内容と費用に関する事実を整理し、どの会計基準で処理するかの判断は経理部に委ねてください。
表10 原状回復に関する確認事項
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 |
|---|---|
| 原状回復の範囲 | 原状回復条項、明渡しに関する定め |
| 通常損耗・経年劣化の負担 | 特約条項 |
| スケルトン返しの要否 | 返還時の状態に関する定め |
| 入居時の状態の記録 | 引渡確認書、写真 |
| 工事の発注先の指定 | 指定業者に関する定め |
| 敷金からの充当 | 敷金条項 |
| 免除・軽減の定め | 特約条項、覚書 |
| 造作買取請求権の排除 | 造作に関する定め |
| 過去の原状回復実績 | —(社内資料、見積書) |
第17章 契約書だけでは足りない|集めるべき資料
不動産契約では、契約書本体に書かれていない情報が判断に必要になります。とくに内装投資、移転計画、代替物件の有無、更新の背景事情は、契約書のどこにも記載されていません。
表11 不動産契約で収集する資料
| 資料 | 主な入手先 | 確認できること |
|---|---|---|
| 賃貸借契約書・覚書・変更契約 | 法務、総務 | 期間、賃料、更新、解約、原状回復 |
| 重要事項説明書 | 総務、不動産管理 | 物件の基本情報、契約類型 |
| 定期借家の事前説明書面 | 総務 | 定期建物賃貸借であることの確認 |
| 図面・区画図 | 総務、施設管理 | 対象範囲、専有部と共用部 |
| 共益費の内訳明細 | 管理会社、貸主 | 役務の内容と金額 |
| 請求書・支払記録 | 経理 | 実際の請求区分と金額 |
| 工事請負契約・見積書 | 施設管理、購買 | 内装投資の内容と金額 |
| 固定資産台帳 | 経理 | 造作・附属設備の計上状況 |
| 過去の更新契約書 | 法務、総務 | 更新履歴と条件の変遷 |
| 更新・解約に関する稟議資料 | 経営企画、総務 | 更新判断の背景事情 |
| 移転・統廃合計画 | 経営企画、事業部 | 決定済みか検討中かの別 |
| 原状回復の見積書・実績 | 施設管理 | 費用の規模感 |
| 敷金・保証金の精算記録 | 経理 | 返還条件の運用実態 |
| 賃料改定の通知・合意書 | 総務、法務 | 改定の実績と手続 |
これらの資料は、初回調査の後も更新のたびに増えていきます。保存先と紐付け方法を先に決めておくと、後の再確認が楽になります。台帳項目の設計は契約台帳の作り方|最低限必要な項目一覧と実務で使える設計を参照してください。
第18章 不動産契約の確認シート
LegalGPTとしての推奨物件1件ごとに埋めるシートです。Yes/Noを数えてリース期間や金額を決める表ではありません。経理部が判断するための事実を、抜けなく集めるための道具として使ってください。
表12 不動産賃貸借契約の確認シート
| 分類 | 確認項目 | 拾う情報 | 証拠資料 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|---|---|
| 物件情報 | 物件名/所在地/用途/面積/区画 | 対象範囲と特定情報 | 契約書、図面 | 対象資産の特定状況 |
| 契約類型 | 普通借家/定期借家/普通借地/定期借地/使用貸借 | 契約の類型と根拠書面 | 契約書、事前説明書面 | 類型と確認資料の有無 |
| 期間 | 契約期間/始期・終期/解約不能期間 | 期間と起算日 | 契約書 | 契約期間と解約可能時期 |
| 解約 | 解約権者/解約可能時期/通知期限/違約金 | 権利の帰属と条件 | 契約書 | 第31項の区別に必要な事実 |
| 更新 | 更新の型/更新拒絶権者/通知期限/更新回数の上限 | 更新の構造 | 契約書、更新契約 | 延長オプションに関する事実 |
| 更新条件 | 更新料/更新後賃料の決め方/過去の更新履歴 | 金額と改定方法、履歴 | 契約書、覚書 | 契約条件と過去の経緯 |
| 賃料 | 賃料/段階賃料/フリーレント/支払時期 | 期間ごとの金額 | 契約書、賃料表 | 料金スケジュール |
| 賃料改定 | 改定方法/市場賃料の反映/改定日/上限・下限 | 改定条項の内容 | 契約書 | 適用指針第24項に関わる事実 |
| 変動賃料 | 売上歩合/売上の定義/料率/最低保証 | 算定式と条件 | 契約書、料金表 | 変動要素の内容 |
| 役務対価 | 共益費/管理費/清掃費/警備費/水光熱費 | 名称、金額、内訳、算定根拠 | 内訳明細、仕様書 | 区分検討に必要な資料 |
| 税・保険 | 固定資産税相当額/保険料の負担 | 負担者と金額 | 契約書、請求書 | 控除せず記録した事実 |
| 一時金 | 敷金/保証金/建設協力金/礼金/権利金 | 金額、返還条件、償却 | 契約書、精算書 | 賃料とは別項目として記録 |
| 内装・造作 | 工事内容/投資額/移設可否/撤去義務/耐用年数 | 投資の内容と条件 | 工事契約、固定資産台帳 | 第17項(2)に関わる事実 |
| 原状回復 | 範囲/負担者/通常損耗の扱い/費用の規模感 | 義務の内容 | 契約書、見積書 | 第17項(3)に関わる事実 |
| 重要性 | 拠点の位置づけ/代替物件/移転の可否 | 事業上の位置づけ | 事業計画、社内資料 | 第17項(4)に関わる事実 |
| 今後の予定 | 移転計画/統廃合/改装計画 | 決定済みか検討中か | 稟議資料 | 将来の見積りに関わる事実 |
| 転貸 | 転貸の可否/転貸の実績 | 条項と運用 | 契約書 | サブリースの検討要否 |
| 管理情報 | 不明事項/付随資料の所在/変更履歴 | 未確定事項と資料の所在 | 照会記録 | 未確定事項と判断への影響 |
第19章 法務部・総務部・経理部の役割分担
自社の体制に応じて検討すべき事項以下は、ASBJが部署別に定めたものではなく、本シリーズが想定する標準的な社内実務です。不動産契約は総務部や施設管理部門が主管する企業も多いため、実際の分担は自社の社内分掌に従ってください。
- 法務部・契約管理部門:契約類型、期間、解約権の帰属、更新条項、通知期限、違約金、賃料条項、賃料改定条項、一時金の条件、原状回復義務、転貸条項といった契約上の権利義務を整理する
- 総務部・施設管理部門:物件の管理情報、共益費の内訳、管理仕様、内装工事の内容と金額、原状回復の見積り、移転に要する期間と費用、代替物件の情報を提供する
- 事業部・経営企画:拠点の事業上の位置づけ、移転・統廃合の計画、改装計画、将来の使用見込みに関する情報を提供する
- 経理部:借手のリース期間の決定、「合理的に確実」の評価、リース部分と非リース部分の区分と対価配分、敷金等の会計処理、リース負債および使用権資産の測定、監査対応を担う
この分担で重要なのは、法務部が「この物件のリース期間は10年です」といった結論を渡さないことです。渡すのは契約条件と事実であり、判断は経理部の領域です。新規の賃貸借契約を締結する際に必要な情報を審査段階で拾えるようにしておくと、後工程が楽になります。現行フローの整理は契約審査の進め方とは?依頼受付から返却までの実務フローを整理を参照してください。
第20章 不動産契約で起こりやすい誤り
表13 よくある誤りと正しい対応
| よくある誤り | なぜ誤りか | 正しい対応 |
|---|---|---|
| 契約期間がそのままリース期間である | 解約不能期間にオプション期間を加えて決定する | 会計基準第15項・第31項の構造で整理する |
| 普通借家だから長期リースになる | 契約類型が結論を決めるわけではない | 第17項の要因に関する事実を整理する |
| 定期借家だから契約期間どおりである | 再契約の条件や事実により評価が変わり得る | 再契約に関する定めと実績を整理する |
| 自動更新だから無期限である | 含めるのは合理的に確実な期間に限られる | 更新拒絶権の帰属と経済的インセンティブを整理する |
| 自動更新だから当初期間だけである | 延長オプションの評価を行っていない | 同上 |
| 中途解約できるので解約可能日までである | 行使しないことが合理的に確実なら先の期間も含まれる | 解約しない経済的インセンティブを整理する |
| 貸主に解約権があるので期間が短くなる | 貸手のみの解約権に係る期間は借手の解約不能期間に含まれる | 解約権者を最初に確定する |
| 過去に更新を続けているので今後も確実である | 過去の慣行に一概に重きを置くことは要求されていない | 将来の見積りに焦点を当て、諸要因を総合的に整理する |
| 内装投資が大きいので更新は確実である | 金額、移設可否、除去費用等の総合判断が必要 | 投資の内容を事実として整理する |
| 内装の耐用年数とリース期間は一致する | それぞれの判断および閾値は異なる | 両者を分けて記録し、経理部と確認する |
| 本社だから必ず長期である | 重要性は5要因の1つにすぎない | 代替可能性等とあわせて整理する |
| 賃料と共益費を合計して記録する | 性質が異なり、区分の検討対象になる | 名称ごとに分けて記録する |
| 共益費は必ず非リース部分である | 名称ではなく内容と会計方針による | 内訳資料を収集して経理部へ渡す |
| 固定資産税相当額を契約対価から差し引く | 借手は控除せず対価の一部として配分する | 控除せずに記録する |
| 敷金をリース料に含めて合計する | 借手のリース料の5要素に当然には該当しない | 別項目として記録する |
| 敷金の償却部分と返還部分を区別せず記録する | 後工程で分解できなくなる | 返還条件とあわせて区別して記録する |
| 原状回復費用を賃料に足して渡す | リース期間の判断材料と料金は別の論点 | 用途を分けて整理する |
| フリーレントや段階賃料を記録しない | 料金スケジュールが不完全になる | 期間と金額をセットで記録する |
| 賃料改定条項を確認しない | 市場賃料の協議見直しは変動リース料に関わり得る | 改定条項を必ず確認する |
| 法務部がリース期間を最終決定する | 会計上の判断であり財務諸表に反映される | 事実を整理して提供する |
第21章 法務部向けチェックリスト
まとめ
不動産賃貸借契約では、契約書に書かれた契約期間がそのまま借手のリース期間になるとは限りません。出発点は解約不能期間であり、そこに合理的に確実な延長・解約オプションの対象期間を加えて決定されます。普通借家か定期借家かという契約類型は、それ自体で結論を決めるものではありません。
解約権については、借主のみが有する場合と貸主のみが有する場合で扱いが異なります。貸主のみが解約できる期間は借手の解約不能期間に含まれるため、まず解約権者を確定してください。自動更新条項も、更新拒絶権の帰属を確認するところから始まります。
金額面では、賃料、共益費、敷金、礼金、更新料、原状回復費用がそれぞれ異なる性質を持ちます。共益費は名称ではなく内訳で整理し、固定資産税相当額は借手側では控除せず、敷金は賃料とは別項目として記録します。原状回復義務は、リース期間の判断材料としての側面と、別の会計論点としての側面を分けて整理してください。
法務部が担うのは、契約上の権利義務と関連する事実を正確に整理して渡すことです。最終的な会計判断は経理部が行います。次は、これらの契約が変更・更新されたときに何をするかという段階に進みます。
よくある質問(FAQ)
オフィスの賃貸借契約は新リース会計基準の対象ですか
対象となる場合があります。企業会計基準第34号は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合にリースを含むとしており、契約の名称などにかかわらず適用されます。不動産賃貸借契約は、区画が特定され、借主が当該区画の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受し使用を指図する権利を有していれば、リースを含むと判断され得ます。ただし個別の判断は契約条件と実態によるため、最終的な会計判断は経理部が行います。
契約期間2年ならリース期間も2年ですか
そうとは限りません。借手のリース期間は、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えて決定されます。契約期間が2年でも、中途解約できる場合は解約不能期間が2年より短くなることがあり、逆に更新が見込まれる場合は2年を超える期間が含まれることもあります。
普通借家契約は長期のリース期間になりますか
契約類型だけで決まるものではありません。借地借家法上、貸主による更新拒絶には正当の事由が必要とされますが、会計上の借手のリース期間は、延長オプションを行使することが合理的に確実かどうかを経済的インセンティブを生じさせる要因から判断して決定されます。ASBJの公式設例でも、同じ1年契約・毎年更新可能という条件の普通借家契約について、投資額や事業上の重要性の違いにより借手のリース期間が5年とされた例と10年とされた例の双方が示されています。
定期借家契約はどう扱いますか
期間満了により終了し更新がない類型ですが、「契約期間がそのままリース期間」と一律に決めることはできません。再契約に関する定めがあるか、実際に再契約が繰り返されているか、内装投資や事業上の重要性がどうかによって評価が変わり得るためです。法務部としては、定期建物賃貸借であることの根拠書面、契約期間、中途解約の可否、再契約に関する条件と過去の実績を整理して経理部へ渡してください。
自動更新条項がある場合のリース期間はどうなりますか
一律には決まりません。まず更新拒絶権を借主・貸主のいずれが有するかを確定してください。会計基準は、借手のみが解約する権利を有する場合はオプションとして考慮し、貸手のみが解約する権利を有する場合はその期間が借手の解約不能期間に含まれるとしています。そのうえで、通知期限、更新後の条件、更新回数の上限、更新料、内装投資、事業上の重要性といった事実を整理し、延長オプションの行使が合理的に確実かどうかを経理部が判断します。
共益費や管理費はリース料に含まれますか
名称だけでは決まりません。リースを含む契約は原則としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分に分けて会計処理し、借手は独立価格の比率で対価を配分します。一方で、一定の単位ごとに分けずに合わせて処理する選択肢もあります。したがって、共益費が非リース部分に当たるか、区分して処理するかはいずれも会計上の判断です。法務部は、共益費の内訳明細、管理仕様書、請求書などを収集して経理部へ渡してください。
敷金はリース料に含めますか
含めません。借手のリース料は、固定リース料、指数またはレートに応じて決まる変動リース料、残価保証に係る支払見込額、行使が合理的に確実な購入オプションの行使価額、一定の場合の解約違約金という5つで構成されており、敷金はこのいずれにも当然には該当しないためです。また、差入預託保証金については適用指針に別途の定めが置かれています。法務部としては、金額、返還条件、償却や敷引きの有無を賃料とは別項目として記録してください。
固定資産税相当額を賃料から差し引きますか
借手側では差し引きません。適用指針は、借手は、契約における対価の中に借手に財又はサービスを移転しない活動及びコストについて借手が支払う金額が含まれる場合、当該金額を契約における対価の一部としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分するとしています。当該コストには固定資産税および保険料が含まれるとされ、ASBJの公式設例でも、借手が金額を把握していたとしても対価から控除することはしないと明記されています。なお貸手については控除する方法も選択できるため、借手と貸手で扱いが異なります。
内装工事をしている場合、リース期間は長くなりますか
長くなる方向の判断材料にはなり得ますが、それだけで決まるものではありません。適用指針は、合理的に確実かどうかを判定する際に考慮する要因の1つとして「大幅な賃借設備の改良の有無」を挙げていますが、大幅な賃借設備の改良に該当するか否かは、改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実および状況に基づく総合的な判断が必要になるとされています。また、附属設備の耐用年数と借手のリース期間は必ずしも整合しない場合があるとされているため、両者を同一視しないでください。
原状回復費用はリース料に含めますか
原状回復費用をそのまま借手のリース料に合算することはしません。ただし、リースの解約に関連して生じるコストは、解約オプションを行使しないことが合理的に確実かどうかを判断する際の考慮要因の1つとされているため、リース期間の判断には影響し得ます。法務部としては、原状回復義務の範囲、負担者、通常損耗の扱い、費用の規模感を整理し、リース期間の判断材料としての側面と会計処理上の論点を分けて経理部へ渡してください。
主な参照資料
-
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日修正)
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第15項、第19項、第28項、第29項、第31項、第35項 -
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日・2025年10月16日修正)
公式ページ:企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第11項、第13項、第17項、第24項、第27項、第29項から第36項、BC15項、BC18項、BC34項 -
企業会計基準適用指針第33号 設例(設例7・設例8・設例14)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式資料:企業会計基準適用指針第33号 設例(ASBJ公式PDF)
本文で要約した設例:設例7(リースを構成する部分とリースを構成しない部分への対価の配分)、設例8-1から設例8-5(普通借地契約及び普通借家契約における借手のリース期間)、設例14(建設協力金) -
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表(ASBJ 公式サイト) -
企業会計基準適用指針 一覧(公表日・修正日の確認用)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/最終確認日:2026年8月11日
公式ページ:企業会計基準適用指針 一覧(ASBJ 公式サイト)
※本文中の設例は、ASBJ公式設例の前提条件と結論を要約したものです。適用指針は、設例に示されている会計処理について、具体的な会計処理や開示の実務を行うための手掛かりを与えるための例示であり、各企業のリースの実情等に応じて例示されていない会計処理も適当と判断される場合があることに留意する必要があるとしています。実際の判断にあたっては公式設例を直接ご確認ください。
※設例PDFは2024年9月13日公表版です。本記事では、2026年8月11日時点でASBJ公式サイトに掲載されている当該設例を参照しています。適用指針本文については、2025年10月16日までの修正を反映した現行版を優先しています。
本記事は2026年8月11日時点で公表されている資料に基づいています。個別の不動産賃貸借契約における借手のリース期間の判断、リース部分と非リース部分の区分、敷金等の会計処理については、契約条件と会計方針により異なります。会計基準上の最終的な判断については、経理部門および監査法人・公認会計士にご確認ください。また、借地借家法等の法的解釈は個別の事案によります。
シリーズナビゲーション
- 前の記事:リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェック
- 次の記事:契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務
- シリーズ一覧:全15話を見る
次回予告
第12話では、契約変更・更新時の取扱いを扱います。契約条件が変更された場合にリースの識別やリース期間を見直す必要があるのか、独立したリースとして扱う場合とそうでない場合の違いは何か、そして契約条件の変更を伴わない場合でも見直しが生じるのはどのようなときかを、法務部の管理実務として整理します。
🔍 関連ガイドへ進む
この記事と関連度の高い実務ガイドをまとめています。次に読むならこちら。
この記事の確認観点を、実務の型に変える。
読んだ内容を、確認メモ・文例・AI指示文に落とせます。
