リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方
契約書には「契約期間5年」とある。法務担当者なら、そのまま5年と読んでしまいがちです。しかし新リース会計基準のリース期間は、契約書に書かれた年数と一致するとは限りません。
たとえば、5年契約だが2年経過後はいつでも解約できる契約。1年契約だが毎年自動更新されている契約。3年契約に5年の延長オプションが付いた契約。いずれも、契約書の数字をそのまま拾うだけでは会計上の期間は決まりません。
借手のリース期間は、解約不能期間を出発点として、借手が行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定されます。そして「合理的に確実」は、単なる予定や意図ではなく、契約条件や設備投資といった経済的インセンティブから判断されます。
この記事では、法務部が契約書と関連資料から何を拾い、どう整理して経理部へ渡すかを解説します。リースの識別が済んだ契約を前提としているため、識別段階の判断は資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法をご覧ください。
この記事の結論
- 契約期間と借手のリース期間は一致するとは限りません。出発点は解約不能期間です。
- これに、行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えます(リース会計基準第15項、第31項)。
- 借手のみが解約できる場合は、借手が利用可能なオプションとしてリース期間の決定にあたり考慮します。貸手のみが解約できる場合は、その期間は借手の解約不能期間に含まれます(同第31項)。
- 「合理的に確実」は蓋然性が相当程度高いことを示すとされていますが、具体的な数値基準は置かれていません(リース適用指針BC29項)。
- 判断は、契約条件、大幅な賃借設備の改良、解約関連コスト、原資産の重要性、オプションの行使条件といった経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮して行います(同第17項)。
- 経営者の意図や見込みのみに基づく年数ではありません(同BC30項)。過去の更新実績も、それだけで決める材料にはなりません(同BC33項)。
- リース期間は、契約条件の変更がなくても事後的に見直される場合があります(リース会計基準第41項、第42項)。
- 法務部は契約条件と事実を整理し、最終的なリース期間の判断は経理部が行います。
本記事は「新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務」全15話の第8話です。
このシリーズは、新リース会計基準への対応において法務部・契約管理部門が担うことになる契約調査と契約管理の実務を、順を追って解説することを目的としています。
無料・時短・仕組み化の3つから選ぶ
シリーズ全15話の構成
| 話数 | 記事タイトル | その記事で分かること |
|---|---|---|
| 第1話 | 新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わる?|2027年適用に向けた契約対応の全体像 | シリーズ全体像と、法務部が担う役割の範囲 |
| 第2話 | 新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール | 適用時期・対象企業・準備工程の考え方 |
| 第3話 | リース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」 | 契約がリースを含むかを判断する枠組み |
| 第4話 | 埋込リースとは?|業務委託・物流・IT契約に潜むリースの見つけ方 | サービス型契約に含まれるリースの探し方 |
| 第5話 | 新リース会計基準で調査すべき契約書は?|法務部の契約棚卸しの進め方 | 契約母集団の設定と棚卸しの実務手順 |
| 第6話 | 「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準 | 特定された資産と、供給者側の代替権の見方 |
| 第7話 | 資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法 | 使用の支配・経済的利益・使用指図権の確認 |
| 第8話 | リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方(現在の記事) | リース期間と、更新・解約条項の読み方 |
| 第9話 | 契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理 | 契約書から抽出すべき料金情報の範囲 |
| 第10話 | リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェック | リース部分と非リース部分の区分の論点 |
| 第11話 | オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント | 不動産賃貸借契約に固有の調査ポイント |
| 第12話 | 契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務 | 契約変更・更新時の再判定と管理実務 |
| 第13話 | 新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理 | 契約台帳の追加項目と証跡の残し方 |
| 第14話 | 新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項 | 新規契約審査への確認項目の組み込み方 |
| 第15話 | 新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること | 適用開始までの最終チェックリスト |
第1章 「借手のリース期間」とは何か
会計基準上の取扱い企業会計基準第34号は、「借手のリース期間」を、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)および(2)の両方を加えた期間と定義しています(リース会計基準第15項)。
- (1) 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
- (2) 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
そして第31項が、この定義に沿って借手のリース期間を決定することを定めています。
図解1 借手のリース期間の基本式
借手のリース期間
- 解約不能期間
借手が原資産を使用する権利を有する、解約できない期間 - + 延長オプションの対象期間
ただし、借手が行使することが合理的に確実である場合に限る - + 解約オプションの対象期間
ただし、借手が行使しないことが合理的に確実である場合に限る
式の形をしていますが、機械的な計算ではありません。3つの要素それぞれについて、契約条件と事実に基づく判断が必要です。とくに「合理的に確実」の評価は会計上の判断であり、経理部が行います。
本記事は借手のリース期間を扱います。貸手のリース期間には別の定めがあり、借手のリース期間と同様に決定する方法と、解約不能期間に再リース期間を加えて決定する方法のいずれかを選択できます(リース会計基準第16項、第32項)。混同しないようご注意ください。
第2章 契約期間と解約不能期間は何が違うか
実務で最も混乱が起きるのがこの3つの用語です。整理しておきます。
表1 契約期間・解約不能期間・借手のリース期間の違い
| 用語 | 意味 | 契約書で見る箇所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 契約期間 | 契約書上定められている契約の存続期間。本記事では、会計上の「借手のリース期間」と区別するために使用します。なお、リース会計基準第11項でも、ファイナンス・リースの定義の中で「契約に定められた期間」を「契約期間」と表現しています。 | 期間条項、始期・終期の定め | これがそのままリース期間になるとは限らない |
| 解約不能期間 | 借手が原資産を使用する権利を有する、解約できない期間 | 期間条項に加え、中途解約条項、通知期限、違約金条項 | 契約期間5年でも、解約不能期間が5年とは限らない |
| 借手のリース期間 | 解約不能期間に、合理的に確実な延長・解約オプションの対象期間を加えた期間 | 上記に加え、更新条項、延長オプション、関連資料 | 会計上の判断を伴うため、経理部が決定する |
契約書に「契約期間5年」とあっても、たとえば6か月前の通知でいつでも解約できるのであれば、解約不能期間が5年であるとは限りません。逆に、契約上は解約可能でも、解約に伴って多額の負担が生じる場合には、その条件が「行使しないことが合理的に確実」かどうかの判断材料になり得ます。法務部としては、期間条項だけを見ず、解約に関する条項とセットで確認するのが出発点です。
第3章 中途解約条項がある場合
会計基準上の取扱いここには明文の定めがあります。リース会計基準第31項は、借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮するとしています。そして、貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれるとしています。
この違いは重要です。「どちらか一方でも解約できるなら解約不能期間ではない」という理解は誤りです。
図解2 誰が解約権を持っているかを確認する
- 借手のみが解約できる
→ 借手が利用可能な解約オプションとして、リース期間の決定にあたり考慮します。行使しないことが合理的に確実であれば、その対象期間はリース期間に含まれます。 - 貸手のみが解約できる
→ その期間は借手の解約不能期間に含まれます。貸手側に解約権があることは、借手のリース期間を短くする理由になりません。 - 双方が解約できる
→ 契約条件、通知手続、違約金の有無などを個別に確認し、事実を整理して経理部へ渡します。
法務部の実務としては、解約条項を見つけたら「誰に権利があるか」を最初に確定してください。ここを取り違えると、以降の整理がすべてずれます。
典型的なパターンを挙げると、5年契約で借手が2年経過後にいつでも解約できる場合、貸手だけが一定条件で解約できる場合、借手が高額な違約金を払えば解約できる場合など、契約ごとに構造が異なります。いずれもここで結論を出す必要はありません。誰が、いつから、どのような条件で解約できるのかという事実を整理することが法務部の仕事です。
第4章 延長オプションとは
延長オプションは、更新条項、自動更新条項、借手の請求による更新、一定条件を満たした場合の延長など、さまざまな形で契約書に現れます。3年契約に2年の延長が付いているもの、1年ごとに更新できるもの、自動更新に更新拒絶権が組み合わされているものなどです。
「更新可」と書かれているからといって、更新可能期間をすべてリース期間に含めるわけではありません。含めるのは、行使することが合理的に確実な期間だけです。
表2 延長オプションを確認する契約条項
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 更新条項の有無 | 期間条項、更新に関する定め | 更新が権利か、協議事項か |
| 自動更新の有無 | 自動更新条項 | 更新の効果が自動的に生じるか |
| 更新拒絶権 | 更新拒絶・不更新の通知に関する定め | 拒絶できるのは借手か貸手か、双方か |
| 通知期限 | 通知に関する定め | 何か月前までに、どの方法で通知するか |
| 更新料 | 更新料条項 | 金額と算定方法 |
| 更新後の賃料・リース料 | 賃料改定条項 | 更新後の水準が定まっているか |
| 更新の条件 | 更新の要件に関する定め | 借手が単独で満たせる条件か |
| 最大更新回数 | 更新回数の上限 | 上限の有無と回数 |
| 権利者 | 更新請求権の主体 | 借手単独の権利か、貸手の同意が必要か |
| 法令との関係 | 準拠法、法定更新に関する記載 | 契約書の記載と適用法令の関係 |
第5章 解約オプションとは
解約オプションは、借手が期間の途中で解約する権利です。ここで注意が必要なのは、条文が「行使しないことが合理的に確実」な対象期間をリース期間に加えるという構成になっている点です。
つまり、「中途解約できるからそこまでがリース期間」とは限りません。解約できるけれども実際には解約しないことが合理的に確実であれば、その先の期間もリース期間に含まれます。
図解3 解約オプションがある場合の考え方
なお、借手のリース期間に解約オプションの行使を反映している場合、リースの解約に対する違約金の借手による支払額は、借手のリース料に含まれます(リース会計基準第19項(5)、第35項(5))。期間の判断と料金の抽出は連動しています。
第6章 「合理的に確実」とは何か
本記事で最も重要な用語です。ASBJは、会計基準第15項および第31項に記載している「合理的に確実」は、蓋然性が相当程度高いことを示していると説明しています(リース適用指針BC29項)。
同項はあわせて、IFRS第16号には「合理的に確実」に関する具体的な閾値の記載はないとしたうえで、米国会計基準のTopic 842の結論の根拠では「合理的に確実」が高い閾値であることを記載したうえで、米国会計基準の文脈として、発生する可能性の方が発生しない可能性より高いこと(more likely than not)よりは高いが、ほぼ確実(virtually certain)よりは低いであろうことが記載されている、と紹介しています。
注意|「何%以上」という基準はありません
上記のTopic 842に関する記述は、米国会計基準の文脈として紹介されているものであり、日本基準に具体的な数値基準が置かれているわけではありません。「70%以上」「80%以上」「90%以上」といった独自の閾値を社内基準として設定しないでください。
なお、ASBJは「合理的に確実」という表現を用いた理由についても説明しています。これまでの我が国の会計基準における既存の蓋然性に関する表現を用いると、かえって当該表現が用いられている他の会計基準等において同程度の閾値を示すとの誤解が生じる懸念があるため、IFRS第16号における蓋然性を取り入れていることを明らかにする目的で「合理的に確実」という表現を用いた、とされています(リース会計基準BC37項)。
図解4 「合理的に確実」の判断
- 経営者の意図・見込みだけ → 不十分です。ASBJは、借手のリース期間は経営者の意図や見込みのみに基づく年数ではなく、借手が行使する経済的インセンティブを生じさせる要因に焦点を当てて決定されるとしています(リース適用指針BC30項)。
- 過去の更新実績だけ → 不十分です。過去の慣行は有用な情報を提供する可能性がありますが、一概に過去の慣行に重きを置いて判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があるとされています(同BC33項)。
- 第17項の経済的インセンティブを生じさせる要因 + 現在の事実 + 将来の見積り → これらを総合的に勘案して判断します(同BC33項)。
ASBJは、借手が原資産を使用する期間が超長期となる可能性があると見込まれる場合であっても、借手のリース期間は必ずしもその超長期の期間となるわけではないとも述べています(同BC30項)。
第7章 適用指針第17項の5つの判断材料
適用指針上の判断要素適用指針第17項は、借手が延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮するとしたうえで、これには例えば次の要因が含まれるとしています。
表3 「合理的に確実」を判断する際に考慮する5つの要因
| 要因 | 契約書・資料で見ること | 事業部に聞くこと | 注意点 |
|---|---|---|---|
| (1) 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど) | 更新後の賃料、更新料、違約金、残価保証、購入オプションの条項 | 市場水準との比較感、過去の交渉経緯 | 「市場より安いから必ず延長」とは限らない |
| (2) 大幅な賃借設備の改良の有無 | 造作・内装に関する定め、原状回復条項、工事関係資料 | 投資額、移設の可否、除去費用 | 金額だけで判断しない |
| (3) リースの解約に関連して生じるコスト | 原状回復、違約金、返還条件に関する定め | 移転・撤去・再設置の実務負担 | どこまでが該当するかは個別判断 |
| (4) 企業の事業内容に照らした原資産の重要性 | 目的条項、使用目的、専用性に関する定め | 代替可能性、事業への影響 | 重要だから必ず延長とはならない |
| (5) 延長オプション又は解約オプションの行使条件 | 行使の要件、通知期限、承諾の要否 | 実務上の運用 | ASBJは、行使条件が借手にとって有利である場合には経済的インセンティブが生じ得るとしています(BC32項) |
これは例示であり、点数化はできません。適用指針第17項は「これには、例えば、次の要因が含まれる」という書き方をしています。「5項目のうち3項目に該当すれば合理的に確実」といった判定方式は、会計基準にも適用指針にも存在しません。ASBJも、合理的に確実であるかどうかの判断は諸要因を総合的に勘案して行うことに留意する必要があるとしています(BC33項)。
第8章 契約条件はどう影響するか
第17項(1)の契約条件は、法務部が最も直接的に抽出できる領域です。
表4 更新・解約の経済性に影響し得る契約条件
| 契約条件 | 確認すること | 経理部へ渡す情報 |
|---|---|---|
| 更新後の賃料・リース料 | 金額が定まっているか、改定方法があるか | 条項の内容と算定方法 |
| 市場水準との関係 | 近隣相場や類似取引と比較できる情報があるか | 入手できた比較情報とその出所 |
| 更新料 | 発生の有無、金額、算定基準 | 金額と支払時期 |
| 中途解約の違約金 | 算定式、上限、免除条件 | 算定方法と想定額 |
| 残価保証 | 保証の有無、保証価額 | 条項の内容 |
| 購入オプション | 行使価額、行使時期、行使条件 | 条項の内容と行使価額 |
| フリーレント・レントホリデー | 無償期間の有無と長さ | 期間と条件 |
| 更新時の条件変更 | 更新に伴う条件変更の定め | 変更される項目 |
| 原状回復義務 | 範囲、負担者、免除の有無 | 義務の範囲と負担者 |
「更新後の賃料が市場より安いから延長は合理的に確実」といった単独の結論づけは避けてください。契約条件は5つの要因の1つであり、他の要因とあわせて総合的に判断されます。
第9章 大幅な賃借設備の改良がある場合
オフィスの内装、店舗の造作、工場の生産設備の据付け、専用配線、厨房設備、クリーンルーム、データセンター設備など、賃借した設備に大きな投資をしている場合があります。第17項(2)は、この大幅な賃借設備の改良の有無を要因の1つとして挙げています。
適用指針上の判断要素ASBJは、賃借設備の改良が借手のリース期間の判断に影響を与える「大幅な賃借設備の改良」に該当するか否かについて、例えば、賃借設備の改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実および状況に基づく総合的な判断が必要になると説明しています(リース適用指針BC34項(2)①)。
したがって、「改装費が一定額以上なら延長が確実」といった金額基準を社内で設けることは適切ではありません。法務部が整理すべきなのは、投資額、移設できるかどうか、除去にどれだけ費用がかかるか、といった事実です。
あわせて押さえておきたい点があります。ASBJは、借手のリース期間とリース物件における附属設備の耐用年数は相互に影響を及ぼす可能性があるものの、それぞれの決定における判断およびその閾値は異なるため、必ずしも整合しない場合があるとしています。一方で、附属設備について借手のリース期間中の除去および借手のリース期間後の使用を見込んでいない場合には、当該附属設備の耐用年数が借手のリース期間と整合する場合もあると考えられる、とも述べています(同BC34項(2)②)。「内装の耐用年数=リース期間」と自動的に結び付けないでください。
第10章 解約・移転コストが高い場合
第17項(3)は「リースの解約に関連して生じるコスト」を要因として挙げています。移転や撤去に大きな費用がかかるのであれば、解約しないことへの経済的インセンティブが働き得るという発想です。
表5 解約に関連して確認するコスト
| 確認するコスト | 契約上の根拠 | 事業部・関係部門に聞くこと |
|---|---|---|
| 原状回復費用 | 原状回復条項、返還時の定め | 過去の実績、想定される範囲 |
| 違約金・清算金 | 解約条項、損害賠償条項 | 算定方法と想定額 |
| 移転費用 | —(契約外) | 移転に要する費用の規模感 |
| 設備の撤去・再設置 | 設置に関する定め | 工事の要否と期間 |
| 新拠点・代替設備の確保 | —(契約外) | 代替先の有無と条件 |
| システム移行 | —(契約外) | 移行の難易度と所要期間 |
| 操業・生産の停止 | —(契約外) | 停止期間と業務影響 |
| 従業員・顧客への影響 | —(契約外) | 実務上の制約 |
| 新規契約の締結コスト | —(契約外) | 仲介手数料、保証金等 |
上表に挙げたものすべてが第17項(3)の「リースの解約に関連して生じるコスト」に当然に含まれると断定することはできません。どこまでを考慮するかは会計上の判断です。法務部は、契約上どのような負担が定められているか、実務上どのような費用が生じ得るかという事実を整理し、評価は経理部に委ねてください。
第11章 原資産が事業にとって重要な場合
第17項(4)は「企業の事業内容に照らした原資産の重要性」を挙げています。本社オフィス、旗艦店、主力工場、物流拠点、特殊な製造設備、データセンター、許認可と結び付いた設備などが典型例です。
ただし、「重要な拠点だから必ず延長する」という結論にはなりません。重要性は5つの要因のうちの1つにすぎず、他の要因とあわせて総合的に判断されます。
表6 事業上の重要性を確認する質問
| 確認する質問 | 確認先 |
|---|---|
| 同等の代替物件・代替設備は市場に存在するか | 事業部、総務、不動産管理 |
| 移転・切替にどの程度の期間を要するか | 事業部、施設管理 |
| 許認可の再取得が必要になるか | 法務、事業部 |
| 立地が顧客アクセスや売上に直結しているか | 営業、事業部 |
| サプライチェーンや生産計画への影響はあるか | 調達、生産管理 |
| 他の設備・拠点との一体性があるか | 事業部、施設管理 |
| その資産を前提とした事業計画があるか | 経営企画、事業部 |
第12章 過去の更新実績はどこまで使えるか
適用指針上の判断要素ASBJは、借手が特定の種類の資産を通常使用してきた過去の慣行および経済的理由が、借手のオプションの行使可能性を評価する上で有用な情報を提供する可能性があるとしています。ただし、一概に過去の慣行に重きを置いてオプションの行使可能性を判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があるとし、合理的に確実であるかどうかの判断は諸要因を総合的に勘案して行うことに留意する必要があると述べています(リース適用指針BC33項)。
したがって、「過去5回連続で更新しているから今回も更新が合理的に確実」という自動判定はできません。過去の実績は出発点であり、そこから現在と将来の経済的インセンティブを見る必要があります。
図解5 過去実績から将来判断へ
過去の更新履歴だけを渡すのではなく、次の情報をセットで整理します。
なお、ASBJは、解約不能期間が短いほど借手が延長オプションを行使する可能性等が高くなる場合がある一方、解約不能期間が十分に長い場合には低くなる場合があるとも述べています(BC31項)。ただしこれは一般化できる法則ではなく、契約ごとの事情によります。
第13章 自動更新契約をどう読むか
法務担当者にとって最も身近なのが自動更新条項です。「期間満了の3か月前までに当事者いずれからも申出がない場合、本契約は同一条件でさらに1年間更新されるものとし、以後も同様とする」といった条項が典型でしょう。
ここで一律の処理を当てはめないでください。「自動更新だから1年契約として1年」も、「自動更新だから無期限」も、「最大更新回数まで全部含める」も、いずれも適切ではありません。
図解6 自動更新条項の読み方
自動更新条項では、契約書の形式だけを見て延長オプションまたは解約オプションと決めるのではなく、借手・貸手のいずれが更新、更新拒絶、解約等に関する権利を有しているかを確認し、会計基準第31項に沿って整理する必要があります。法務部としては、自動更新という名称だけで期間を決めず、権利の帰属、通知期限、更新条件等を事実として経理部へ渡してください。
第14章 ASBJ設例8から分かること
適用指針上の取扱い会計基準第31項は、借手のリース期間の決定にあたって適用指針の設例8-1から設例8-5を参照するよう示しています。これらは普通借地契約および普通借家契約における借手のリース期間を扱う設例です。
ASBJは、この設例を設けた経緯を次のように説明しています。審議の過程で、普通借地契約および普通借家契約について借手のリース期間を判断することに困難が伴うとの懸念が聞かれたため、実務上の判断に資するよう設例を示すこととした、というものです(リース適用指針BC28項(2)①、BC34項(1))。
設例8の位置づけ(ASBJの説明)
ASBJは、設例について次のとおり述べています。設例は、具体的な会計処理を行うための手掛かりを与えるための例示であり、各企業の実情に応じて例示されていない会計処理も適当と判断される場合があるものである。そのため、借手のリース期間を判断する際の思考プロセスを示すことに重点を置き、事実および状況によって判断が異なり得ることを示す設例とした(リース適用指針BC34項(1))。
したがって、設例8の結論を自社の契約にそのまま当てはめる使い方は適切ではありません。また、これらの設例は借地借家法等の法的解釈を示すものではありません。実際の判断にあたっては、公式設例を直接ご確認ください。
表7 ASBJ設例8-1から8-5の比較
| 設例 | 契約・解約不能期間 | 主な判断材料 | 借手のリース期間 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|---|
| 設例8-1 普通借家契約 | 契約期間は1年。3か月前に解約の旨を通知すれば解約できるため、解約不能期間は3か月とされる | 借地借家法上、貸手が更新を拒絶する正当な事由があると認められるとは考えられないことを踏まえ、契約期間1年を超える期間について延長オプションを有すると判断 | この設例では最終的な借手のリース期間までは決定せず、延長オプションの存在とその後の判断手順を示す | 契約書上の1年だけを見てリース期間を決めない。法令を含む権利関係を確認する |
| 設例8-2 普通借家契約 | 契約期間・解約不能期間は1年。1年経過後は更新時の市場レートの賃料で毎年更新可能 | 重要な建物附属設備を設置しており早期退出で除却が生じる一方、店舗は戦略的に重要とはされず、概ね5年でリニューアルが必要 | 5年 | 設備投資があっても更新可能な全期間を含めるわけではなく、どの時点まで延長する可能性が合理的に確実かを判断する |
| 設例8-3 普通借家契約 | 契約期間・解約不能期間は1年。1年経過後は更新時の市場レートの賃料で毎年更新可能 | 他店舗より多額の投資、重要な建物附属設備、戦略的に重要な立地・店舗という事情を総合的に考慮 | 10年 | 同じ1年契約・毎年更新でも、事業上の重要性や設備投資等の違いにより設例8-2とは結論が異なる |
| 設例8-4 普通借地契約 | 契約期間は40年。ただし6か月前に解約の旨を通知すれば解約できるため、解約不能期間は6か月とされる | 土地上に店舗用の建物を建設しており、早期解約時には建物の除却・解体費用が生じる。建物の物理的使用可能期間等も考慮 | 20年 | 契約上は短期間で解約可能でも、解約オプションを行使しない経済的インセンティブによってリース期間が大幅に長くなる場合がある |
| 設例8-5 普通借家契約 | 契約期間・解約不能期間は5年。その後は更新時の市場レートの賃料で更新可能 | 重要な建物附属設備なし、代替立地を探すことが可能。過去に他の立地で10年間賃借した経験はあるが、将来の経済的インセンティブとして特に考慮すべきものはない | 5年 | 過去に長期間使用した実績だけでは延長期間を含めない。将来の見積りに焦点を当てる |
設例8-2と設例8-3は、ともに契約期間・解約不能期間が1年で、その後は毎年更新できる普通借家契約ですが、借手のリース期間はそれぞれ5年と10年に分かれています。また、設例8-5では5年の解約不能期間を超えて更新可能であり、過去に他の立地で10年間賃借した経験もありますが、将来の見積りに焦点を当てた結果、借手のリース期間は5年とされています。一方、設例8-4では解約不能期間が6か月であるにもかかわらず、建物除却等の経済的インセンティブを踏まえ、借手のリース期間は20年とされています。契約書上の初期期間の長短だけでは、借手のリース期間を推測できないことが分かります。
※上表はASBJ設例8-1から設例8-5の思考プロセスを要約したものです。各設例の結論は、それぞれに設定された前提条件および事実・状況に基づくものであり、5年・10年・20年等を一般的なリース期間の基準として使用することはできません。また、設例8は借地借家法等の法的解釈を示すものではありません。
第15章 普通借家・普通借地契約は特に注意
設例8が普通借地契約・普通借家契約を対象としていることからも分かるとおり、この類型は判断が難しい領域です。ASBJの審議過程でも、これらの契約について借手のリース期間を判断することに困難が伴うとの懸念が示されていました(リース適用指針BC28項(2)①)。
法務部として整理しておきたいのは、次のような契約上の事実です。契約期間と始期・終期。定期借家か普通借家か、定期借地か普通借地か。更新に関する定めと更新料。更新拒絶に関する定めと通知期限。中途解約の可否と違約金。原状回復の範囲と負担者。
なお、借地借家法上の法的解釈は個別の事案によります。本記事は会計基準上のリース期間の整理を目的としており、法定更新や正当事由の解釈を示すものではありません。判断が必要な場合は、個別に検討してください。不動産賃貸借契約に固有の調査ポイントは、オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイントで扱います。
第16章 法務部は契約書のどこを見るか
LegalGPTとしての推奨契約1件ごとに埋めるシートです。Yes/Noを数えてリース期間を決める表ではありません。経理部が第15項・第31項・第17項に即して判断するための事実を集める道具として使ってください。
表8 リース期間の確認シート
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 | 事業部に聞くこと | 証拠資料 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|---|---|
| 契約開始日・終了日・初期契約期間 | 期間条項 | 実際の使用開始時期 | 契約書、引渡記録 | 期間と始期・終期 |
| 中途解約の可否・可能時期 | 中途解約条項 | 解約を検討した経緯 | 契約書、協議記録 | 解約可能となる時期 |
| 借手の解約権/貸手の解約権 | 解約条項の主体 | — | 契約書 | 権利の帰属(第31項の区別) |
| 解約通知期限・方法 | 通知条項 | 運用上の締切管理 | 契約書、通知履歴 | 期限と方法 |
| 違約金・清算金 | 違約金条項 | 想定額の規模感 | 契約書、算定資料 | 算定方法と想定額 |
| 原状回復義務 | 原状回復条項 | 過去の実績 | 契約書、見積書 | 範囲と負担者 |
| 延長オプション・更新権者 | 更新条項 | 更新の判断者 | 契約書 | 権利の内容と主体 |
| 自動更新・更新拒絶権・更新期間・最大回数 | 自動更新条項 | 運用の実態 | 契約書、更新記録 | 更新の構造 |
| 更新料・更新後賃料 | 更新料条項、賃料改定条項 | 過去の改定実績 | 契約書、覚書 | 金額と算定方法 |
| 購入オプション・残価保証 | 該当条項 | 行使の検討状況 | 契約書 | 行使価額・保証額 |
| 賃借設備の改良 | 造作・工事に関する定め | 投資額、移設可否、除去費用 | 工事契約、固定資産台帳 | 改良の内容と金額 |
| 移転・撤去に関する負担 | 返還条項 | 移転に要する費用と期間 | 見積書、社内資料 | 契約上の負担と実務上の負担 |
| 代替資産の有無 | — | 代替先の存在と条件 | 調査資料 | 代替可能性に関する事実 |
| 原資産の事業上の重要性 | 目的条項、使用目的 | 事業への影響 | 事業計画資料 | 重要性に関する事実 |
| 過去の更新履歴 | 覚書、更新契約 | 更新の背景 | 更新記録 | 履歴と経緯(将来見積りと区別) |
| 今後の事業計画 | — | 移転・統廃合の予定 | 社内決裁資料 | 決定済みか検討中かの別 |
| 許認可・立地に関する制約 | 関連条項 | 再取得の要否 | 許認可資料 | 制約の内容 |
| 不明事項 | — | 未回答の質問 | 照会記録 | 未確定事項と判断への影響 |
ここで整理した更新日、解約通知期限、更新料といった情報は、適用開始後も継続的に管理する必要があります。台帳の基本項目は契約台帳の作り方|最低限必要な項目一覧と実務で使える設計を、新リース会計基準への対応で追加すべき項目は新リース会計基準対応の契約台帳に追加すべき項目をご覧ください。
第17章 法務部と経理部の役割分担
自社の体制に応じて検討すべき事項以下の分担は、ASBJが部署別に定めたものではなく、本シリーズが想定する標準的な社内実務です。実際の分担は自社の会計方針と社内分掌に従ってください。
- 法務部・契約管理部門:契約期間、解約権の帰属、更新権、通知期限、違約金、更新条件、賃料、原状回復、オプション条項、契約変更履歴といった契約上の権利義務を整理する
- 事業部:使用予定、更新に関する背景事情、設備投資の状況、移転計画、代替資産の有無、事業計画、過去の運用実態を提供する
- 経理部:「合理的に確実」であるかどうかの最終評価、借手のリース期間の決定、リース負債と使用権資産の測定、監査対応を担う
この線引きで重要なのは、法務部が「たぶん更新するので10年」といった見立てを結論として渡さないことです。渡すのは事実であり、評価は経理部の領域です。
第18章 リース期間は後から変わることがある
会計基準上の取扱い一度決めたリース期間が固定されるわけではありません。リース会計基準第41項は、リースの契約条件の変更が生じていない場合であっても、次の(1)および(2)のいずれも満たす重要な事象または重要な状況が生じたときに、延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかについて見直し、借手のリース期間を変更するとしています。
- (1) 借手の統制下にあること
- (2) 延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与えること
ASBJは、この重要な事象・状況の例として、リース開始日に予想されていなかった大幅な賃借設備の改良で一定の要件を満たすもの、リース開始日に予想されていなかった原資産の大幅な改変、過去に決定した借手のリース期間の終了後の期間に係る原資産のサブリースの契約締結、延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことに直接的に関連する借手の事業上の決定を挙げています(同BC51項)。
また第42項は、借手の解約不能期間に変更が生じた結果、借手のリース期間を変更するときにもリース負債の計上額の見直しを行うとしています。ASBJは、解約不能期間の変更が生じる例として、過去に借手のリース期間の決定に含めていなかった延長オプションを借手が行使する場合等を挙げています(同BC52項)。
法務部にとっての含意は明確です。大規模な改装を決定した、拠点の統廃合を決めた、延長オプションを実際に行使した——こうした事実が生じたときに経理部へ連絡が届く仕組みが必要だということです。契約条件の変更を伴う場合の取扱いも含め、詳細は契約変更・更新時の再判定と管理実務で扱います。運用面の設計は契約管理とは何か|なぜExcel管理では限界なのかを実務視点で解説も参考になります。
第19章 リース期間の判断で起こりやすい誤り
表9 よくある誤りと正しい対応
| よくある誤り | なぜ誤りか | 正しい対応 |
|---|---|---|
| 契約期間がそのままリース期間である | リース期間は解約不能期間にオプション期間を加えて決定する | 第15項・第31項の構造に沿って整理する |
| 契約書が5年だから5年である | 解約条項や延長オプションの影響を反映していない | 期間条項と解約・更新条項をセットで確認する |
| 中途解約できるので解約可能日までである | 行使しないことが合理的に確実なら、その先も含まれる | 解約しない経済的インセンティブを整理する |
| 自動更新なので1年契約として1年である | 延長オプションの評価を行っていない | 更新拒絶権の帰属と経済的インセンティブを確認する |
| 更新できる最大期間をすべて含める | 含めるのは合理的に確実な期間に限られる | 要因を整理して経理部の判断を仰ぐ |
| 経営者が10年使う予定と言うので10年である | 経営者の意図や見込みのみに基づく年数ではない(BC30項) | 意図の背景にある経済的インセンティブを資料化する |
| 過去毎年更新しているので将来も更新が確実である | 過去の慣行に一概に重きを置くことは要求されていない(BC33項) | 将来の見積りに焦点を当て、諸要因を総合的に整理する |
| 違約金があるので必ず解約しない | 契約条件は要因の1つにすぎない | 他の要因とあわせて事実を整理する |
| 大規模改装があるので必ず更新する | 金額、移設の可否、除去費用等の総合判断が必要(BC34項) | 改良の内容を事実として整理する |
| 重要拠点なので必ず延長する | 重要性は5要因の1つにすぎない | 代替可能性等の事実を整理する |
| 内装の耐用年数とリース期間は一致する | それぞれの判断および閾値は異なる(BC34項(2)②) | 両者を分けて記録し、経理部と確認する |
| 延長オプションだけ確認すればよい | 解約オプションも期間に影響する | 双方を抽出する |
| 借手のみと貸手のみの解約権を同じに扱う | 第31項は両者を明確に区別している | 解約権の帰属を最初に確定する |
| 「合理的に確実」を数値基準で判定する | 日本基準に具体的な数値基準は置かれていない | 要因を整理し、評価は経理部に委ねる |
| 法務部がリース期間を最終決定する | 会計上の判断であり財務諸表に反映される | 事実を整理して提供する |
| 一度決めたリース期間は変わらない | 第41項・第42項により見直される場合がある | 事象発生時に経理部へ連携する仕組みを設ける |
第20章 法務部向けチェックリスト
まとめ
契約書に「契約期間5年」と書かれていても、借手のリース期間が5年になるとは限りません。出発点は解約不能期間であり、そこに、行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定します。
解約権については、借手のみが有する場合と貸手のみが有する場合で扱いが異なります。貸手のみが解約できる期間は、借手の解約不能期間に含まれます。この区別を最初に確定してください。
「合理的に確実」は蓋然性が相当程度高いことを示すとされていますが、日本基準に具体的な数値基準はありません。判断は、契約条件、大幅な賃借設備の改良、解約関連コスト、原資産の重要性、行使条件といった経済的インセンティブを生じさせる要因を総合的に勘案して行われます。経営者の意図だけでも、過去の更新実績だけでも足りません。
そしてリース期間は、契約条件の変更がなくても事後的に見直される場合があります。法務部の役割は、契約条件と事実を整理し、変化が生じたときに経理部へ届く仕組みを整えることです。次は、契約書からどの金額を拾うかという段階に進みます。
よくある質問(FAQ)
契約期間とリース期間は同じですか
同じとは限りません。企業会計基準第34号は、借手のリース期間を、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、借手が行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間の両方を加えた期間と定義しています。契約書に記載された年数は出発点にすぎず、解約条項や更新条項の影響を確認する必要があります。
借手のリース期間はどう決めますか
まず解約不能期間を特定し、次に延長オプションと解約オプションを抽出します。そのうえで、それぞれについて行使すること(または行使しないこと)が合理的に確実かどうかを判断します。この判断にあたっては、契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、リースの解約に関連して生じるコスト、企業の事業内容に照らした原資産の重要性、オプションの行使条件といった経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します。最終的な決定は経理部が行います。
自動更新契約のリース期間は何年ですか
一律に決まるものではありません。「自動更新だから初期の1年だけ」とも「自動更新だから無期限」とも扱えません。確認すべきは、更新拒絶権を誰が持っているか、通知期限はいつか、更新後の条件はどうなるか、更新回数の上限はあるか、解約に伴う負担はどの程度か、といった事実です。これらに加えて設備投資や事業上の重要性も踏まえ、延長オプションの行使が合理的に確実かどうかを経理部が判断します。
中途解約できる契約では解約可能日までがリース期間ですか
そうとは限りません。会計基準は、借手が行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間をリース期間に加えるとしています。つまり、解約できるけれども実際には解約しないことが合理的に確実であれば、その先の期間もリース期間に含まれます。また、借手のみが解約権を有する場合はオプションとして考慮し、貸手のみが解約権を有する場合はその期間が借手の解約不能期間に含まれるという違いにも注意が必要です。
「合理的に確実」とは何%以上ですか
具体的な数値基準は置かれていません。ASBJは、会計基準に記載している「合理的に確実」は蓋然性が相当程度高いことを示していると説明しています。あわせて、IFRS第16号には具体的な閾値の記載がないこと、米国会計基準のTopic 842の結論の根拠では、米国会計基準の文脈として、発生する可能性の方が発生しない可能性より高いことよりは高いが、ほぼ確実よりは低いであろうことが記載されていることを紹介しています。これは米国会計基準の文脈として紹介されたものであり、日本基準の数値基準ではありません。社内で独自の確率基準を設定することは避けてください。
過去に毎年更新していれば延長期間を含めますか
それだけでは判断できません。ASBJは、借手が特定の種類の資産を通常使用してきた過去の慣行および経済的理由が、オプションの行使可能性を評価する上で有用な情報を提供する可能性があるとしています。ただし、一概に過去の慣行に重きを置いて判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があるとし、諸要因を総合的に勘案して判断することに留意する必要があるとしています。過去の履歴とあわせて、現在の契約条件や今後の事業計画も整理して経理部へ渡してください。
大規模な内装工事をしている場合はリース期間に影響しますか
影響し得ます。適用指針は、合理的に確実かどうかを判定する際に考慮する要因の1つとして「大幅な賃借設備の改良の有無」を挙げています。ただし、大幅な賃借設備の改良に該当するか否かは、例えば改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実および状況に基づく総合的な判断が必要になるとされています。金額だけを基準にした社内ルールは設けず、投資の内容と関連する事実を整理してください。なお、内装等の附属設備の耐用年数と借手のリース期間は、必ずしも整合しない場合があるとされています。
一度決めたリース期間は変更されませんか
変更される場合があります。会計基準は、リースの契約条件の変更が生じていない場合であっても、借手の統制下にあり、かつ延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与える重要な事象または重要な状況が生じたときに、借手のリース期間を見直すとしています。また、延長オプションの行使等により解約不能期間に変更が生じた場合にも見直しが行われます。こうした事象が生じた際に経理部へ連絡が届く運用を整えておくことが実務上重要です。
主な参照資料
-
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日修正)
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第11項、第15項、第16項、第19項、第31項、第32項、第35項、第41項、第42項、BC37項、BC51項、BC52項 -
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日・2025年10月16日修正)
公式ページ:企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第17項、BC28項、BC29項、BC30項、BC31項、BC32項、BC33項、BC34項、および設例8-1から設例8-5(普通借地契約及び普通借家契約における借手のリース期間) -
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表(ASBJ 公式サイト) -
企業会計基準適用指針 一覧(公表日・修正日の確認用)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/最終確認日:2026年8月9日
公式ページ:企業会計基準適用指針 一覧(ASBJ 公式サイト)
※適用指針は、設例に示されている会計処理について、具体的な会計処理や開示の実務を行うための手掛かりを与えるための例示であり、各企業のリースの実情等に応じて例示されていない会計処理も適当と判断される場合があることに留意する必要があるとしています。設例8-1から設例8-5については、借手のリース期間を判断する際の思考プロセスを示すことに重点を置き、事実および状況によって判断が異なり得ることを示す設例とされています。実際の判断にあたっては公式設例を直接ご確認ください。
本記事は2026年8月9日時点で公表されている資料に基づいています。個別の契約における借手のリース期間の判断は、契約条件と事実および状況により異なります。「合理的に確実」であるかどうかの評価を含む会計基準上の最終的な判断については、経理部門および監査法人・公認会計士にご確認ください。また、借地借家法等の法的解釈は個別の事案によります。
シリーズナビゲーション
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次回予告
第9話では、契約書から抽出すべき金額情報を扱います。借手のリース料は、固定リース料、指数またはレートに応じて決まる変動リース料、残価保証に係る支払見込額、合理的に確実な購入オプションの行使価額、解約に対する違約金の支払額で構成されます。どの条項からどの金額を拾うのかを整理します。
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