2026年施行・カスハラ義務化対応シリーズ

第6話 / 全10話

カスハラ相談窓口をどう作るか|既存のハラスメント窓口と一本化する方法

2026年10月1日 施行 法令・制度基準日:2026年7月15日

この記事でわかること

窓口の設置方法(3類型)、既存窓口との統合(3設計案)、担当者設計、二次被害の防止、6種類のひな形、40項目チェックリスト

カスタマーハラスメント(カスハラ)防止のために事業主が講ずべき措置のうち、相談窓口の設置は中核の一つです。厚生労働省の指針は、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備を義務づけています。

ここで最も多い失敗が、「規程に相談窓口と一行書いて終わり」という対応です。施行通達は、相談窓口について「形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていること」を明確に求めています。窓口の名称があることと、実際に相談が届き、記録され、事実確認と被害者保護につながる状態にあることは、まったく別の話です。

また、カスハラの相談体制には、パワハラ・セクハラの窓口にはない特徴があります。カスハラは、顧客等との対応が進行している最中に、安全確保、担当者交代、退店要請、通話終了等の判断が必要になる場面が多い、という点です。「相談窓口へどうぞ」では、目の前で怒鳴られている従業員は守れません。一般的な事後相談窓口に加え、現場から管理監督者等へ即時に報告できる経路を分けて設計する必要があります。

本記事では、①窓口の設置方法(3類型)、②既存のハラスメント窓口との統合(3つの設計案)、③担当者に管理監督者を充てる場合の設計、④「広く相談に応じる」範囲、⑤二次被害の防止、⑥プライバシー保護と情報共有、⑦不利益取扱いの禁止、⑧派遣労働者、⑨外部委託、⑩小規模企業の現実的な体制を扱い、6種類のひな形と40項目のチェックリストまで具体化します。措置全体は第3話、規程の書き方は第5話を参照してください。

本記事の法令・制度基準日:2026年7月15日施行日:2026年10月1日
指針・通達・行政資料は今後変更され得ます。実際の対応にあたっては厚生労働省および都道府県労働局の最新情報をご確認ください。

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最初に結論:実効的な相談窓口の10条件

  1. 設置方法を決めている/担当者を定める/制度を設ける/外部委託する(いずれでも可)
  2. 担当者と代替担当者の双方を定めている/担当者が不在・関係者の場合も相談できる
  3. 担当者が研修を受けている/3要素、正当な申入れとの区別、二次被害の防止を理解している
  4. 連絡方法・受付後の経路を特定し、全労働者が答えられる/掲示・カード・イントラで周知
  5. 現場から管理監督者への即時報告ルートを別途確保している/その場で守る導線
  6. 上司を経由しない経路がある/上司自身が関係者・相談しづらい場合の代替
  7. 広く相談に応じる/発生のおそれ・該当性が微妙・周囲の労働者からの相談も受ける
  8. 派遣労働者も利用できる/派遣先窓口を派遣労働者にも周知している
  9. 相談後に事実確認・被害者保護へ接続する/受けて終わりにしない
  10. プライバシー保護と不利益取扱い禁止を担保している/守られていると認識できて初めて相談が届く

「窓口を作った」ことと「窓口が機能する」ことは別です。窓口は、方針 → 周知 → 相談 → 事実確認 → 被害者保護という流れの結節点であり、ここが詰まると、その先のすべてが動きません。

カスハラ相談窓口とは|指針が求める体制

根拠となる法律と指針の階層

根拠は、改正後の労働施策総合推進法(改正法=令和7年法律第63号/2025年6月11日公布)第33条第1項と、これに基づくカスハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号/2026年2月26日告示)です。整理すると、法第33条第1項が「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」を義務づけ、指針がその具体的措置として「相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知すること」および「相談窓口の担当者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること」を求めている、という階層になっています。

カスハラ窓口の特徴|進行中の対応が必要

カスハラは、顧客等との対応が進行している最中に、安全確保、担当者交代、退店要請、通話終了等の判断が必要になる場面が多いという特徴があります。指針も、カスハラへの対処内容を定めるにあたり、その場で直ちに対応が必要な場合もあることを踏まえるよう求めています。このため、カスハラの相談体制は、次の2つの導線を分けて設計する必要があります。

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導線目的タイミング主な担い手
A.現場の即時報告・対応ルート 発生時の安全確保、担当交代、対応終了 事案発生のその場・即時 現場の管理監督者、本部当番
B.正式な相談窓口 相談受付、事実確認、被害者配慮、再発防止への接続 事後(当日〜数日) 相談窓口担当者、人事、法務、産業保健

窓口を統合しても、この2つの導線は別に確保してください。「カスハラ相談窓口」を人事部に置いても、店頭で怒鳴られている従業員は人事部に電話している場合ではありません。現場から管理監督者への即時報告ルートを、窓口とは別に必ず用意します。導線Aの具体的な設計(初動・エスカレーション基準)は第7話で扱います。

窓口の設置方法|3つの類型

指針は、相談窓口の設置方法として次の3つを認めています。どれを選んでも、複数を組み合わせても構いません。

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類型内容向いている企業留意点
①担当者を定める 相談に対応する担当者をあらかじめ定める 規模を問わず。中小企業でも導入しやすい 担当者名・連絡方法を特定し周知。代替担当者も定める。担当者への教育が必要
②制度を設ける 相談に対応するための制度(相談対応の仕組み)を設ける 既にハラスメント相談制度がある企業 カスハラを受付対象に含める。運用フローを整える
③外部委託する 外部の機関に相談への対応を委託する 社内リソースが限られる企業、匿名性を重視する企業 委託しても事業主の措置義務・責任はなくならない(後述)

厚生労働省のQ&Aは、相談担当者として労働者の上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられるとしています。カスハラは、事案が発生したその場ですぐ相談することや、現場の状況に精通している上司等に相談することが適切な場合もあるためです。この点は後述します。

既存のハラスメント窓口と一本化する|3つの設計案

多くの企業は、既にパワハラ・セクハラの相談窓口を持っています。カスハラ窓口をどう組み込むかは、実務上の大きな判断です。結論として統合は可能で、指針も他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することが考えられる旨を示しています。ただしQ&Aは、一体的なものとする必要はない(統合は任意)とも述べています。

設計は、大きく3案に分かれます。

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比較項目第1案:既存窓口と完全統合第2案:受付は統合し、カスハラ案件を専用フローへ分岐(ハイブリッド)第3案:カスハラ専用窓口を独立設置
概要相談の入口も対応フローも既存のハラスメント窓口に一本化相談の入口は既存窓口に統合し、カスハラ案件は安全確保・現場介入・顧客対応・録音保全・法務判断等の専用フローへ分岐入口から対応まで、カスハラ専用の窓口を別に設ける
現場即応性低〜中(即時ルートを別途要する)中〜高(分岐フローに即時対応を組み込める)高(専用に設計できる)
担当者の専門性ハラスメント全般に対応できる担当者が必要入口は共通、分岐後はカスハラ知見のある担当・部門へカスハラ特化の専門性を確保しやすい
情報管理様式を共通化しやすい入口共通・案件別管理。設計次第で両立カスハラ固有の記録項目を組みやすい
導入コスト低い中程度高い
小規模企業での実現可能性高い中〜高(分岐先を外部専門家にできる)低い(専任リソースが必要)
向いている企業中小企業、既存窓口が機能している企業相談は一元化したいが、カスハラ即応も確保したい企業(多くの企業に適合)カスハラ発生が多い業種、現場が分散する大企業
推奨ケース相談件数が少なく、体制を増やせない場合入口の分かりやすさと即応性を両立したい場合(本記事の推奨)専門部署を持てる、または業種特性上カスハラが日常的な場合

実務上、多くの企業に推奨しやすいのは第2案のハイブリッド型です。労働者にとっての相談の入口は既存のハラスメント窓口に一本化して分かりやすさを保ちつつ、カスハラ案件だけは、安全確保・現場介入・顧客対応・録音保全・法務判断といった専用フローへ分岐させます。これにより、記事タイトルの「一本化する方法」に実質的に答えつつ、カスハラ特有の即応性を損ないません。

統合する場合の必須要件

第1案・第2案いずれの統合でも、次の3点を必ず担保してください。

  • 現場から管理監督者への即時報告ルートを別途確保する。統合窓口は事後相談を受けるが、その場の対応はカバーできない。
  • カスハラを受付対象に明記する。「職場のハラスメント」の定義が社内の行為者(パワハラ等)に限定されていると、社外からのカスハラが対象に入らない(第5話参照)。
  • 担当者がカスハラの特徴を理解している。行為者が社外であること、3要素、正当な申入れとの区別、合理的配慮を理解していないと、適切に対応できない。

相談担当者に管理監督者を充てる場合の設計

Q&Aが示すとおり、カスハラでは現場の状況に精通した上司(管理監督者)を相談担当者とすることが考えられます。その場で状況を把握し、即座に対応につなげられる利点があります。一方で、上司が抱え込む構造になると、現場管理職に負担が集中し、上司自身が不適切な対応をしていた場合には相談できなくなる、という問題があります。

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観点利点注意点
即応性その場で状況を把握し、対応を指示できる
現場理解顧客・業務の実情を踏まえた判断ができる現場の慣行に引きずられ、我慢を強いるおそれ
負担すべての判断が管理職に集中し、疲弊・二次被害の温床になる
利益相反上司自身が不適切な対応をしていた場合、相談できない
一貫性管理職ごとに判断がばらつく

管理監督者を担当者とする場合に併設すべきもの

  • 上司自身が相談できる窓口を別途設ける。施行通達も、管理監督者を相談担当者とする場合、その管理監督者自身が相談できる別窓口を設けることが考えられるとしています。管理職が抱え込まないよう、本社・人事・外部窓口への二次的な相談ルートを用意します。
  • 管理職を飛ばして相談できる経路を残す。上司自身が事案に関与している場合や、上司に相談しづらい場合のために、本社窓口・外部窓口を併設します。
  • 判断は管理職個人に負わせない。カスハラ該当性の評価は法務・人事が担い、管理職は安全確保・記録・報告・一次対応に徹します(第2話)。
  • 管理職向けの研修を行う。3要素、正当な申入れとの区別、二次被害の防止、被害者配慮を教育します。

「上司に相談してください」だけでは不十分です。上司が相談担当者であっても、①上司が抱え込まない仕組み、②上司を飛ばせる経路、③判断を上司に負わせない分担、の3点を必ず併せて用意してください。

「広く相談に応じる」範囲と、報告義務化を避ける設計

相談窓口が受け付けるのは、「明確なカスハラ」だけではありません。指針は、カスハラが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うよう求めています。

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相談の類型具体例窓口の対応
現にカスハラが生じている暴言・拘束を受けた、脅された事実確認、被害者配慮、対応方針の決定
発生のおそれがある当初は正当な申入れだったが要求が拡大、来店・質問の回数が増え対応時間が長くなっている経過を記録し、単独対応をやめる、対応方針を組織で決める
該当するか微妙厳しい口調だがカスハラか判断できない、対応してよいか迷う相談を受け、記録し、法務・人事が該当性を評価
周囲の労働者からの相談同僚が顧客から暴言を受けているのを見た、フロアの雰囲気が悪化している直接受けた者だけでなく、周囲の労働者からの相談にも応じる
対応方法の相談このケースはどう対応すべきか、断ってよいか対応の助言、エスカレーション基準の適用

施行通達は、「発生のおそれがある場合」として、①当初は正当な申入れだったが対応する中で要求内容が増えて対応が著しく困難な要求に発展するおそれがある場合、②繰り返し来店するなかで質問の回数が増え対応時間が長くなる傾向にあり継続的・執拗な言動に発展するおそれがある場合、を挙げています。これらは現時点でカスハラと断定できなくても、相談・記録・報告の対象です。

被害者本人に報告義務を課さない

ここは特に重要です。相談窓口が広く受け付けることと、被害者本人に相談・報告を義務づけることは、まったく別です。相談できない理由には、恐怖、萎縮、顧客との関係、上司への不信、心理的負担があります。次のような規定は避けてください。

  • 直ちに相談しなければならない
  • 一定期間内に相談しなければ保護しない
  • 相談しなければ服務規律違反とする
  • 録音がなければ相談を受けない

被害を受けた労働者が相談しなかったことを責めてはいけません。一般労働者には「相談・報告できる」とし、管理監督者が事案を認識した場合に組織へ報告する構造にします。「まだカスハラではない」を「対応しない」と読み替えないこと、そして「相談しなかったこと」を不利益に扱わないことが、相談を促す前提です。規程の書き方は第5話を参照してください。

相談を受けたとき、最初に説明する事項

相談を受けた直後に、相談者へ何を説明するかは、後日の紛争を防ぐうえで決定的に重要です。「秘密にすると言われたのに人事へ伝わった」「本人に無断で共有された」といったトラブルは、初回説明の欠如から生じます。次を、相談の冒頭で説明してください。

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説明事項趣旨
相談を理由に不利益取扱いをしないこと安心して相談できる前提を示す
情報は必要な範囲で取り扱うことむやみに共有しないことを伝える
誰に共有する可能性があるか事実確認・対応のため、人事・法務・産業保健等に共有し得ることを事前に伝える
完全な秘密保持を約束できない場合があること安全確保・法令上の対応等では、本人の同意なく共有し得ることを正直に伝える
緊急時は安全確保を優先すること切迫した危険がある場合、安全措置を優先する
匿名相談には調査・措置上の限界があること匿名だと事実確認・対応に制約が生じ得ることを伝える
本人の意向を確認するが、会社が必要な安全措置を取る場合があること本人の希望を尊重しつつ、使用者としての安全配慮措置があり得ることを伝える
調査結果をどこまで伝えられるか行為者や第三者のプライバシー等により、伝えられる範囲に限界があることを説明する
窓口は医療機関・代理人ではないこと診断・法的代理はできず、必要に応じて専門機関につなぐことを伝える

これらは、後掲の「ひな形4|相談者への初回説明文」に落とし込んでいます。口頭で説明したうえで、書面またはイントラで確認できるようにすると、認識の食い違いを防げます。

二次被害を防ぐ

相談窓口の対応がまずいと、相談者が二次被害を受けます。相談者を責めたり、虚偽と決めつけたりすることは、相談者をさらに傷つけ、以後の相談を止めてしまいます。指針も、相談への対応にあたり、相談者の心身の状況や受け止め等に配慮することを求めています。

避けるべき二次被害の類型

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類型なぜ問題か
顧客・取引先との関係を優先して相談を取り下げさせる被害者保護より取引を優先し、相談を封じる
「接客業なのだから我慢すべき」と言う就業環境を害する言動の受忍を強いる。措置義務に反する
「精神的に弱い」と評価する被害を本人の資質の問題にすり替える
相談者を一律に顧客対応から外す本人の意向を確認しない対応は、不利益取扱いと受け取られる
シフトや手当を減らす相談を契機に収入が減少すれば、不利益取扱いと評価される余地
相談内容を噂話・雑談として扱うプライバシー侵害。相談を萎縮させる
相談者へ過度な秘密保持を要求する労働局・弁護士・医療機関等への正当な相談を妨げる
行為者と対面させる被害者に精神的負担・恐怖を与える。同席を当然の手順としない
本人の意向なく派遣元や取引先へ詳細情報を伝えるプライバシー侵害。共有は必要最小限にとどめる

迎合的言動を理由に否定しない。施行通達は、相談者が行為者に対して迎合的な言動を行っていたとしても、その事実が必ずしもカスハラを受けたことを単純に否定する理由にはならないと明示しています。被害者が萎縮して、その場では笑顔で応じたり、相手に合わせたりすることは珍しくありません。「あなたも笑っていた」「その場で反論しなかった」という評価は、二次被害の典型です。

ひな形6|相談担当者の禁止事項リスト

【ひな形|カスハラ相談担当者の禁止事項】

相談担当者は、次の言動を行ってはならない。

□ 相談者を責める、落ち度を追及する
□ 相談内容を虚偽と決めつける
□ 「その程度は我慢すべき」「よくあること」と矮小化する
□ 「接客業なのだから」と受忍を強いる
□ 「精神的に弱い」等、本人の資質の問題にすり替える
□ 迎合的言動(笑っていた等)を理由に被害を否定する
□ 同じ説明を繰り返し求める
□ 誘導質問をする(「怖かったですよね?」等)
□ 必要のない機微情報(健康・性的指向等)を聞き出す
□ 相談者と行為者を安易に同席・対面させる
□ 相談内容を噂話・雑談として扱う
□ 本人の意向を確認せず顧客対応から一律に外す
□ 相談を理由にシフト・手当・評価を不利に変更する
□ 相談者に「誰にも話すな」と一律の口止めをする
□ 本人の意向なく派遣元・取引先へ詳細を伝える
□ カスハラ該当性の最終判断を担当者個人で下す
□ 相談を放置し、事実確認・被害者保護へ接続しない

プライバシー保護と情報共有の設計

相談者等のプライバシー保護は、相談を成立させる前提です。指針は、相談者等のプライバシー(性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を含む)を保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知することを求めています。

ただし、「すべての情報共有について本人の同意を絶対条件とする」設計は避けてください。本人の同意を絶対条件にすると、次の場面で会社が必要な対応を取れなくなります。

  • 暴行・脅迫等の切迫した危険がある
  • 他の労働者にも危険が及ぶ
  • 警察・医療機関との連携が必要
  • 法令上の対応が必要
  • 事実確認のために限定的な共有が不可欠
  • 使用者として安全配慮措置を講じる必要がある

適切な情報共有の原則

情報共有の目的、共有先および共有範囲を相談者に説明し、その意向に十分配慮する。もっとも、本人または他の労働者の生命・身体の安全確保、法令上必要な対応、事実確認その他会社が措置義務を履行するために必要な場合には、本人の同意の有無にかかわらず、必要最小限の範囲で共有することがある。

つまり、原則は「目的・共有先・範囲を説明し、意向に配慮する」。例外として「安全確保・法令対応・事実確認等に必要な場合は、必要最小限で共有し得る」。この2段構えを、初回説明とプライバシー保護ルールに明記してください。

相談者本人への過度な守秘義務を課さない

相談者に対して「この件は誰にも話さないでください」と一律に求めることは避けてください。相談情報を取り扱う担当者側の守秘義務と、相談者本人への口止めは、別問題です。相談者が次の相談先へ相談することを妨げてはいけません。

  • 都道府県労働局
  • 弁護士
  • 社会保険労務士
  • 労働組合
  • 医師・医療機関
  • 家族その他必要な支援者
  • 法令に基づく通報・申告

秘密保持義務の主たる名宛人は、会社側の相談対応・調査担当者です。相談者本人に守秘を課すとしても、上記の正当な相談先への相談を妨げない旨を明記してください(規程例は第5話の規定例10を参照)。

不利益取扱いの禁止

相談窓口を機能させるには、「相談しても不利に扱われない」ことが担保されていなければなりません。指針は、次の4つの行為を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないことを定め、周知・啓発するよう求めています。

保護される4つの行為

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No.保護される行為
1カスハラに関し相談をしたこと
2事実関係の確認その他の事業主の措置に協力したこと
3都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め、または調停の申請を行ったこと
4調停の出頭の求めに応じたこと

不利益取扱いの具体例

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類型具体例
雇用の終了解雇、雇止め(有期契約の更新拒否)
地位・処遇降格、評価の引下げ、昇進・昇給への不利益
労働条件シフト削減、営業手当・職務手当の停止
派遣派遣労働者の相談を理由とする派遣受入れの拒否
職場での扱い相談者を「問題人物」として扱うこと

ただし、本人の安全確保のための一時的な担当変更が、直ちに不利益取扱いになるわけではありません。行為者との接触回避のため、本人と協議のうえ、期間・待遇への影響・復帰方法を明確にして行う一時的な業務変更は、配慮措置として認められ得ます。「配慮」と「不利益」を分けるのは、本人の意向・期間・待遇・復帰方法・記録の5点です(第5話の「保護と不利益取扱いの境界」を参照)。

派遣労働者への対応

派遣労働者については、雇用関係が派遣元にあるため、扱いを正確に理解する必要があります。労働者派遣法第47条の4は、同条が掲げる労働施策総合推進法の規定(措置義務等)の適用について、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなす、という限定的な効果を持ちます。派遣労働者が、あらゆる場面で派遣先の労働者になるわけではありません。

派遣先・派遣元の役割分担

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項目派遣先(自社)派遣元
相談窓口派遣先窓口を派遣労働者にも周知派遣元窓口を周知
初動現場での安全確保、担当交代本人への連絡・支援
事実確認就業場所・顧客対応の確認本人からの聴取
配慮現場配置・接触回避就業継続・就業先変更等の支援
情報共有必要最小限で派遣元へ受領情報を管理
不利益取扱い相談を理由に受入拒否しない相談を理由に不利益を与えない

相談窓口の周知・規程の記載で、「当社の従業員(派遣社員を含む)」と一括りにしないでください。雇用関係が異なるため、「当社が雇用する労働者」と「当社で就業する派遣労働者」を区別します。派遣先の相談窓口を派遣労働者も利用できるようにし、相談を理由とする派遣受入拒否をしないことを明記してください。

外部委託する場合の留意点

相談窓口を外部機関(EAP、社会保険労務士事務所、弁護士事務所等)に委託することは、指針が認める方法の一つです。社内に相談しづらい、匿名性を確保したい、社内リソースが限られる、といった場合に有効です。

外部委託しても、事業主の責任は残る

外部に委託したからといって、事業主の措置義務がなくなるわけではありません。委託先が受けた相談について、報告を受け、事実確認を行い、被害者への配慮や再発防止を実行するのは、あくまで事業主です。

ただし、該当性の評価を「自社だけが担う」わけではありません。外部弁護士等から法的評価の助言を受けることは可能です。正確には、外部専門家の助言を受けることはできるが、事業主として措置を決定し実施する責任は自社に残る、という整理です。

委託時に整えるべき実務事項

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項目整えるべき内容
匿名相談の限界匿名だと事実確認・対応に制約が生じ得ることを相談者に説明する
緊急案件の即時通知基準切迫した危険がある場合、委託先から自社へ即時通知する基準を定める
委託先から自社への報告条件誰が、どの範囲を、どのタイミングで報告するかを定める
相談記録の帰属相談記録の帰属主体(自社か委託先か)を契約で明確にする
保存主体記録の保存主体・保存場所を定める
再委託の可否委託先による再委託の可否・条件を定める
委託先の安全管理措置委託先の情報セキュリティ・安全管理措置を確認する
社内共有範囲の説明相談者に、社内へ共有される範囲を説明する
委託終了時の措置委託終了時のデータ返却・廃棄を定める
最終判断主体外部窓口が法律上の最終判断主体ではなく、措置の決定・実施は自社が担うことを明確にする
  • 委託先との秘密保持契約を締結する
  • 受付後の社内の対応フローを定める(報告→事実確認→被害者配慮→再発防止)
  • 緊急性の高い事案は委託先経由では間に合わないため、現場から管理監督者への即時報告ルートを別途確保する

「外部に丸投げ」は、措置を講じたことになりません。委託は受付の一部を外部化するものであり、事実確認・被害者保護・再発防止という中核は事業主が担います。

小規模企業・1名店舗のケース別対応

中小企業・小規模企業も相談窓口の設置は義務です。ただし、大企業と同じ専用部署や24時間窓口が必要なわけではありません。重要なのは、形だけでなく実質的に機能することです。状況別に整理します。

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状況現実的な体制特に注意すべき点
従業員1〜5名代表者または信頼できる担当者を相談先に指定し、外部窓口(社労士・弁護士・外部相談窓口)を併設相談先が一人に集中しない設計
常時10人未満就業規則の作成義務はないが、相談窓口・不利益取扱い禁止は必要。社内通知・ハンドブックで定めて周知就業規則がなくても義務は免除されない
1名店舗その場は退店要請・通話終了・警察通報・本部連絡を定める。事後は本部窓口・外部窓口へ「一人しかいないから対応できない」は不可。事実確認できた場合の配慮措置は必要
人事・法務部門がない外部の社労士・弁護士と連携し、該当性評価・対応方針の助言を受ける体制助言は受けられるが、措置の決定・実施責任は自社に残る
代表者が唯一の相談担当者顧問弁護士・社労士・外部窓口等の代替経路を必ず用意代表者に相談しづらい従業員のための経路
代表者自身が相談対応上の問題を起こした場合外部窓口を代替の相談先として機能させる代表者が関係者だと社内相談先が消滅するため、外部経路が不可欠
夜間・休日営業時間外・緊急時の連絡先(本部当番、警備、警察)を明示営業時間と窓口受付時間のギャップを埋める
複数店舗だが本部が小規模現場管理職を一次相談先とし、重大事案は本部・外部専門家へ。記録様式を全店共通化本部の処理能力を超えないエスカレーション基準

代表者だけを唯一の窓口にする危険。相談先が代表者一人だと、①代表者に相談しづらい、②代表者が多忙で機能しない、③代表者自身が事案の関係者となった場合、相談先が消滅する、という問題が生じます。顧問弁護士、社会保険労務士、外部相談窓口等の代替経路を必ず用意してください。

ひな形集|相談窓口の運用に使う6様式

以下は一般的な参考例です。自社の体制・業種の実態に合わせて必ず調整してください。禁止事項リスト(ひな形6)は、前掲の二次被害の節に掲載しています。

ひな形1|相談窓口設置・運用規程

カスタマーハラスメント相談窓口設置・運用規程

(設置)
第1条 当社は、カスタマーハラスメントに関する相談に応じ、適切に対応するため、相談窓口を設置する。

(担当者)
第2条 相談窓口に担当者及び代替担当者を置く。担当者及び代替担当者の氏名並びに連絡方法は、別に定めて周知する。
2 担当者及び代替担当者は、あらかじめ、カスタマーハラスメントの定義、正当な申入れとの区別、二次被害の防止その他必要な事項について研修を受けるものとする。

(現場からの即時報告)
第3条 前条の相談窓口とは別に、従業員が、業務の遂行中にカスタマーハラスメント又はそのおそれのある言動を受けた場合に、管理監督者その他所定の者へ速やかに報告できる経路を確保する。

(相談の範囲)
第4条 相談窓口は、カスタマーハラスメントが現に生じている場合のほか、発生のおそれがある場合及び該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に応じる。
2 相談窓口は、言動を直接受けた従業員のほか、これを認識した周囲の従業員からの相談にも応じる。
3 当社で就業する派遣労働者も、相談窓口を利用することができる。

(対応)
第5条 相談窓口は、相談を受けたときは、相談者に必要な事項を説明し、相談内容を記録し、人事、法務、産業保健その他の関係部門と連携して、事実確認及び被害者への配慮その他の必要な措置につなぐ。

(プライバシー及び不利益取扱いの禁止)
第6条 当社は、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずる。
2 当社は、従業員又は派遣労働者が相談をしたこと等を理由として、不利益な取扱いをしない。

(外部委託)
第7条 当社は、相談窓口の運営の全部又は一部を外部の機関に委託することができる。この場合においても、事実確認、被害者への配慮その他の措置を決定し実施する責任は当社が負う。

ひな形2|相談窓口周知文

カスタマーハラスメント相談窓口のご案内

お客様等からの言動で、つらい思い・困りごとを抱えていませんか。当社は、カスタマーハラスメントに毅然と対応し、皆さんを保護します。一人で抱え込まず、ご相談ください。

■ 相談できること
・お客様等から暴言・威圧・長時間の拘束・不当な要求等を受けた
・カスハラかどうか分からないが、対応に困っている(判断が難しい段階でも相談できます
・同僚が受けているのを見た(周囲の方からの相談も受けます

■ 相談窓口
担当者:【◯◯ ◯◯】/代替担当者:【◯◯ ◯◯】
内線:【◯◯】/メール:【◯◯@◯◯.co.jp】/受付時間:【平日9:00〜18:00】
時間外・緊急時:【本部当番 ◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯】
外部相談窓口:【(委託先名) ◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯】(匿名でご相談いただけます)

■ その場で危険を感じたら
身の危険を感じる場合は、判断を待たず、その場を離れ、管理監督者・警備・警察へ連絡してください。

■ 安心してご相談いただくために
相談したこと等を理由に、不利益な取扱いをすることはありません。相談内容のプライバシーは保護します。
※当社で就業する派遣労働者の方も、この窓口をご利用いただけます。

ひな形3|相談受付票

カスタマーハラスメント相談受付票

受付番号:__________/受付日時:____年__月__日__:__
受付担当者:__________/相談方法(連絡方法):対面・電話・メール・その他(____)

【相談者】
氏名:__________(匿名希望:有・無)/所属:__________
雇用形態:正社員・パート・契約・その他/派遣労働者:該当・非該当(派遣元:__________)
連絡方法:__________

【安全・緊急性】
現在の安全:確保されている・確認が必要・危険がある
緊急性:高(進行中・危険)・中・低
即時に講じた措置:__________(担当交代・複数名対応・退店要請・通話終了・警察通報・本部連絡・その他)

【事案】
発生日時:____年__月__日__:__/場所・媒体:店舗・電話・メール・SNS・訪問・その他(____)
顧客等との関係:一般顧客・取引先担当者・施設利用者/家族・近隣住民・その他(____)/他社の労働者・役員:該当・非該当

【言動の内容】
要求内容:__________
具体的な発言(できる限り原文):__________
態様:暴言・威圧・拘束・撮影・SNS投稿・その他(____)
継続時間:______/回数・頻度:______

【背景・影響】
企業側の説明不足・対応ミスの有無:有・無(____)
相談者の心身の状況:__________/業務継続への影響:__________

【証拠・目撃者】
証拠:録音・録画・メール・カメラ映像・なし(保全状況:______)/目撃者・同席者:__________

【相談者の意向・説明】
相談者が希望する対応:__________
共有に関する相談者の意向:__________
相談者への説明実施:不利益取扱いの禁止・情報の取扱い・共有範囲・緊急時の例外(□説明済)

【今後の対応】
次の担当者/接続先:人事・法務・産業保健・その他(____)
対応方針:__________/次回フォロー予定日:____年__月__日

ひな形4|相談者への初回説明文

ご相談にあたってのご説明

ご相談ありがとうございます。対応を始める前に、次の点をご説明します。

1.相談されたこと等を理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることはありません。
2.お聞きした情報は、対応に必要な範囲で取り扱います。
3.事実確認や対応のため、人事・法務・産業保健の担当者等に共有する場合があります。
4.そのため、完全な秘密保持をお約束できない場合があります。共有する際は、目的・共有先・範囲をご説明し、ご意向に配慮します。
5.暴行・脅迫等の切迫した危険がある場合など、安全確保や法令上必要な場合には、ご同意の有無にかかわらず、必要最小限の範囲で共有することがあります。
6.匿名でのご相談も可能ですが、その場合、事実確認や対応に一定の限界が生じることがあります。
7.ご本人のご意向を確認しますが、会社として必要な安全措置を講じる場合があります。
8.調査の結果としてお伝えできる範囲には、行為者や第三者のプライバシー等により、限界がある場合があります。
9.この窓口は、医療機関や法律上の代理人ではありません。必要に応じて、専門の相談先をご案内します。
10.なお、この相談とは別に、都道府県労働局、弁護士、労働組合、医療機関、ご家族その他必要な相談先にご相談いただくことを妨げるものではありません。

ひな形5|窓口担当者向け初動チェックリスト

相談受付・初動チェックリスト(担当者用)

□ 相談者の安全を確認した(現在の安全・緊急性)
□ 緊急性が高い場合、その場の安全確保ルート(導線A)へ即時接続した
□ 相談者に初回説明(不利益取扱い禁止・情報の取扱い・共有範囲・緊急時の例外)を行った
□ 相談者の話を最後まで聴いた(遮らない・結論を急がない)
□ 相談したこと自体を評価・否定していない
□ 事実と評価を分けて受付票に記録した
□ 日時・発言・態様・継続時間・影響を具体的に記録した
□ 同じ説明を繰り返させていない
□ 必要のない機微情報を聞いていない
□ 相談者の希望する対応・共有の意向を確認した
□ 証拠・目撃者の有無を確認した
□ 接続先(人事・法務・産業保健)を決めた
□ 次回フォロー予定日・次の担当者を決めた
□ 記録を所定の方法で保管した(アクセス制限)

架空事例で確認する

以下はいずれも説明のために作成した架空の事例です。実在の事案・裁判例ではありません。

架空事例1:人事メール窓口しかなく、店舗で即時相談できなかった

状況:【架空の小売企業A社】は、カスハラ相談窓口として「本社人事部のメールアドレス」だけを設けた。ある店舗で、閉店間際に顧客が従業員を1時間以上拘束し、暴言を続けた。従業員はその場でどうすればよいか分からず、対応を続けてしまった。後日、人事部へメールしたが、既に体調を崩していた。

何が問題だったか:相談窓口(導線B)はあったが、現場の即時報告ルート(導線A)がなかった。メール窓口は事後相談には使えても、進行中の事案には間に合わない。その場で管理監督者・本部当番へ即時報告し、退店要請・通話終了・警察通報を判断できる経路が必要だった。

教訓:相談窓口と、現場の即時報告ルートは別物。統合窓口を作るなら、なおさら導線Aを別途確保する。

架空事例2:上司が相談者を責め、相談を取り下げさせた

状況:【架空のサービス企業B社】では、相談担当者を各店舗の店長としていた。従業員が、常連客からの執拗な言動を店長に相談したところ、店長は「大事なお客様だ」「接客業なんだから、それくらい我慢して」と述べ、相談を取り下げるよう促した。従業員は以後、誰にも相談しなくなった。

何が問題だったか:①二次被害(顧客との関係を優先し、我慢を強い、相談を取り下げさせた)。②上司を飛ばせる経路がなかった。店長が相談担当者であるため、店長が不適切な対応をすると、相談先が消滅した。③店長が研修を受けておらず、正当な申入れとの区別・二次被害の防止を理解していなかった。

教訓:管理監督者を相談担当者にする場合、上司を飛ばせる本社・外部窓口を必ず併設し、担当者に研修を行う。前掲の「禁止事項リスト」を周知する。

架空事例3:派遣労働者が派遣先窓口から追い返された

状況:【架空の企業C社】で就業する派遣労働者が、顧客からの暴言について派遣先の相談窓口に相談したところ、「あなたは派遣なので、派遣元に相談してほしい」と言われ、対応を受けられなかった。

何が問題だったか:派遣先は、労働者派遣法第47条の4により、カスハラ防止の措置義務の適用について派遣労働者を雇用する事業主とみなされます。就業場所で発生した事案の安全確保・事実確認・配慮は、派遣先が担うべきでした。「派遣だから派遣元へ」と追い返すのは誤りです。相談を理由に派遣受入れを拒むことも、不利益取扱いとして禁止されます。

教訓:派遣先の相談窓口を派遣労働者も利用できるようにし、周知する。就業場所での安全確保・事実確認・配慮は派遣先が担い、派遣元と連携する。

窓口が機能しているかを確認する

窓口の実効性は、規程の有無ではなく、次の問いで確認します。

← 横にスクロールできます →

確認項目確認方法「機能している」といえる状態
周知無作為に数名へ「今すぐ相談するなら誰に、どうやって」と聞く連絡先を即答できる
即時報告ルート「店頭で怒鳴られたら、その場で誰に連絡するか」と聞く管理監督者への即時報告を答えられる
受付範囲「カスハラか微妙な段階でも相談してよいか」と聞く「相談してよい」と理解している
代替経路「上司が関係者のとき、どこに相談するか」と聞く本社・外部窓口を答えられる
記録直近の相談の記録を確認する日時・発言・態様・措置が記録されている
接続相談が事実確認・被害者配慮につながったか確認する相談→対応の流れが記録に残っている
二次被害相談者へのフォロー状況を確認する相談後の不利益取扱いがない

相談件数がゼロであることだけをもって、窓口が機能しているとは評価できません。事案が生じていない可能性と、周知不足や心理的障壁により相談が届いていない可能性の双方を検証する必要があります。周知不足、相談への心理的障壁、二次被害への懸念が原因のこともあります。窓口の存在と、不利益取扱いをしないことを、繰り返し周知してください。

施行前チェックリスト(相談窓口)

相談窓口の整備に特化したチェックリストです。状態欄は「未対応・対応中・完了・対象外」で管理してください。

1.方針・体制

  • 相談窓口の設置方法(担当者/制度/外部委託)を決定したか
  • 統合か分岐か独立かの設計方針を決定したか
  • 相談窓口設置・運用規程を整備したか
  • 現場の即時報告ルート(導線A)を別途確保したか
  • 相談後の対応フロー(事実確認→被害者配慮→再発防止)を定めたか

2.担当者

  • 相談担当者を定めたか
  • 代替担当者を定めたか
  • 担当者・代替担当者が研修を受けたか(3要素・正当な申入れとの区別・二次被害防止)
  • 担当者向けの禁止事項リストを周知したか
  • 担当者向け初動チェックリストを用意したか

3.相談経路

  • 担当者名・連絡方法・代替連絡先を特定したか
  • 時間外・緊急時の連絡先を明示したか
  • 上司を経由しない経路(本社・外部窓口)を用意したか
  • 管理監督者を担当者とする場合、上司自身の相談先を設けたか
  • 周知文(掲示・カード・イントラ)を作成したか

4.受付後対応

  • 相談受付票の様式を用意したか(受付番号・緊急性・安全・共有意向・フォロー予定を含む)
  • 相談者への初回説明文を用意したか
  • 発生のおそれ・微妙な場合・周囲の労働者からの相談も受ける旨を明記したか
  • 該当性評価を法務・人事へ接続する仕組みがあるか
  • 産業保健(産業医・地域産業保健センター等)との連携先を用意したか

5.情報管理

  • 相談記録の取扱担当者・閲覧権限を限定したか
  • 保存場所・保存期間・廃棄方法を定めたか
  • 情報共有の原則(目的・共有先・範囲の説明+緊急時の例外)を定めたか
  • 相談者本人に過度な守秘義務を課さない旨を確認したか
  • 機微情報(性的指向等)の取扱いルールを定めたか

6.派遣・外部人材

  • 派遣先窓口を派遣労働者も利用できるようにしたか
  • 派遣労働者にも窓口を周知したか
  • 相談を理由とする派遣受入拒否の禁止を確認したか
  • 派遣元との連携ルート・情報共有ルールを定めたか
  • 「雇用する労働者」と「就業する派遣労働者」を区別して記載したか

7.外部委託(委託する場合)

  • 秘密保持契約を締結したか
  • 緊急案件の即時通知基準を定めたか
  • 委託先からの報告条件・記録の帰属・保存主体を定めたか
  • 委託終了時のデータ返却・廃棄を定めたか
  • 措置の決定・実施責任は自社に残ることを明確にしたか

8.周知・研修

  • 管理監督者を含む全労働者に窓口を周知したか
  • 顧客対応が発生しない部署にも周知したか
  • 不利益取扱いをしない旨を周知したか
  • その場で危険を感じたときの導線を周知したか
  • 研修・周知の記録を残したか

9.小規模・特殊ケース

  • 代表者だけを唯一の窓口にしていないか(代替経路の用意)
  • 代表者が関係者となった場合の外部経路を用意したか
  • 1名店舗のその場の対処(退店要請・通報・本部連絡)を定めたか
  • 夜間・休日営業の時間外連絡先を用意したか

10.点検

  • 相談件数・傾向を記録する仕組みがあるか
  • 相談→対応の接続が記録されているか確認するか
  • 相談後の不利益取扱いがないか確認するか
  • 窓口の見直し頻度と責任者を決めたか

相談窓口に関するFAQ

Q1.相談窓口は必ず設置しなければなりませんか

法第33条第1項は、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備を義務づけ、指針はその具体的措置として相談窓口をあらかじめ定めて周知することを求めています。設置方法は、担当者を定める・制度を設ける・外部委託するのいずれでも構いません。

Q2.既存のパワハラ・セクハラ窓口と統合できますか

統合できます。指針は、他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することが考えられる旨を示しています。ただしQ&Aは、一体である必要はない(統合は任意)とも述べています。統合する場合でも、カスハラ特有のその場の即時報告ルートは別途確保してください。実務では、入口は統合し、カスハラ案件を専用フローへ分岐させるハイブリッド型が推奨しやすい設計です。

Q3.相談担当者に資格は必要ですか

特定の資格は法令上求められていません。ただし、担当者は、カスハラの定義・3要素、正当な申入れとの区別、二次被害の防止等について研修を受けていることが望まれます。専門知識が不足する場合は、外部の社会保険労務士・弁護士等と連携してください。

Q4.相談担当者を現場の上司にしてもよいですか

できます。Q&Aは、現場の状況に精通している上司等を相談担当者とすることも考えられるとしています。ただし、上司自身が相談できる窓口を別途設けること、上司を飛ばせる経路を残すこと、判断を上司個人に負わせないことを併せて用意してください。

Q5.相談窓口の担当者が人事評価者でもよいですか

法令上、これを一律に禁じる定めはありません。ただし、評価者が相談担当者を兼ねると、相談者が「評価に響く」と懸念して相談をためらう可能性があります。可能であれば、評価ラインと別の相談経路(別部署、外部窓口)を併設し、不利益取扱いをしない旨を明確に周知してください。

Q6.相談記録の保存期間は何年ですか

カスハラ相談記録の保存期間について、一律の法定期間が定められているわけではありません。事案対応・再発防止・紛争対応の必要性と、個人情報保護の観点を踏まえ、社内で合理的な期間を定め、保存場所・閲覧権限・廃棄方法を明確にしてください。個人情報保護法や、雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドラインに沿った取扱いが前提です。

Q7.カスハラかどうか微妙な相談も受けるべきですか

受けるべきです。指針は、発生のおそれがある場合や該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応するよう求めています。「まだカスハラではない」を「対応しない」と読み替えないでください。判断が難しい段階こそ、記録し、法務・人事へ接続します。

Q8.被害を受けた本人以外からの相談も受けますか

受けます。指針は、言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談にも応じることを求めています。「見せしめ」として行われたと客観的に認められる場合には、周囲の労働者に対するカスハラとも評価できる場合があります。

Q9.家族から相談があった場合はどうしますか

従業員の家族から、本人の状況について相談が寄せられることがあります。本人の意向やプライバシーに配慮しつつ、必要に応じて本人へ相談を促す、産業保健や外部の専門機関を案内する等の対応が考えられます。ただし、本人の同意なく詳細な情報を家族へ伝えることは慎重に判断してください。

Q10.録音がなくても相談を受けますか

受けます。録音・録画は事実確認に有用ですが、録音がないことを相談受付の要件にしてはいけません。相談者の申告、周囲の労働者からの聴取、対応記録、契約・約款等、他の資料でも事実確認は可能です。「録音がなければ相談を受けない」という運用は避けてください。

Q11.顧客本人への聴取は必須ですか

一律には必要ありません。指針は、行為者からの聴取について「必要かつ可能な場合には」と条件を付し、Q&Aも、行為者に連絡を取ることが不可能な場合にまで確認する必要はないとしています。相談者・周囲の労働者からの聴取と、録音・録画等の客観証拠で事実確認を行います。

Q12.相談者に守秘義務を課せますか

相談情報を取り扱う担当者側の守秘義務と、相談者本人への口止めは別問題です。相談者に「誰にも話すな」と一律に求めることは避けてください。特に、都道府県労働局、弁護士、社会保険労務士、労働組合、医師・医療機関、家族その他必要な支援者への相談や、法令に基づく通報・申告を妨げてはいけません。

Q13.行為者へ相談者名を伝えられますか

慎重に判断してください。事実確認のために行為者へ確認する場合でも、相談者の氏名やプライバシーは、本人の意向と保護の必要性を踏まえ、必要最小限にとどめます。相談者の同意なく安易に氏名を伝えると、二次被害や報復のリスクが生じます。

Q14.調査結果はどこまで相談者に伝えられますか

対応の経過や結果は、相談者へ適切にフィードバックすることが望まれます。ただし、行為者や第三者のプライバシー、他社が関与する場合の事情等により、伝えられる範囲に限界がある場合があります。この点は、初回説明であらかじめ伝えておくと、認識の食い違いを防げます。

Q15.被害者を顧客対応から外せますか

本人の安全確保のため、本人と協議のうえ、期間・待遇への影響・復帰方法を明確にして行う一時的な業務変更は、配慮措置として認められ得ます。一方、本人の意向を確認せず一律に外す、手当を停止する、無期限で復帰の見通しを示さないといった対応は、不利益取扱いと評価される余地があります(第5話)。

Q16.派遣社員も相談窓口を使えるようにすべきですか

はい。派遣先も労働者派遣法第47条の4により措置義務の対象となります。派遣先の相談窓口を派遣労働者も利用できるようにし、周知してください。就業場所で発生した事案の安全確保・事実確認・配慮は派遣先が担い、派遣元と連携します。相談を理由に派遣の受入れを拒むことは、不利益取扱いとして禁止されます。

Q17.1名店舗の場合、どう相談体制を作りますか

その場は、退店要請・通話終了・警察通報・本部連絡を定めておきます。事後の相談は、本部窓口・外部窓口へつなぎます。1名店舗であっても、事実が確認できた場合には、担当者の変更、配置転換、産業保健スタッフ等による相談対応等の配慮措置を講ずる必要があります(Q&A)。「一人しかいないから対応できない」は理由になりません。

Q18.管理職自身が顧客から被害を受けた場合はどうしますか

管理監督者も労働者であり、保護の対象です。管理職が相談担当者を兼ねている場合、自分の被害を自分の窓口に相談することはできません。本社・人事・外部窓口といった上位・別系統の相談先を用意しておく必要があります。管理職が孤立して抱え込まない設計にしてください。

Q19.相談窓口を外部に委託すれば、それで足りますか

足りません。外部委託は指針が認める方法ですが、事業主の責任はなくなりません。委託先から報告を受け、事実確認、被害者への配慮、再発防止を実行するのは事業主です。外部専門家の助言は受けられますが、措置の決定・実施責任は自社に残ります。緊急性の高い事案は委託先経由では間に合わないため、現場の即時報告ルートも別途必要です。

Q20.窓口を設ければ措置義務を果たしたことになりますか

なりません。窓口は10項目の措置の一部です。方針の明確化・周知、事実確認、被害者への配慮、再発防止、悪質事案への対処方針と体制整備、プライバシー保護、不利益取扱いの防止も、別途整備が必要です(第3話)。また、窓口は「形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能」であることが求められます。

シリーズ全10話の案内

話数タイトルこの記事で分かること
第1話カスハラ対策が全企業の義務に|2026年10月施行の改正法でやるべきこと全体像制度の全体像、対象事業主、10項目の措置、リスク、準備工程表
第2話どこからがカスハラか|正当なクレームとの線引きを3要件で判断する3要素、正当な申入れとの線引き、合理的配慮、判断フロー、記録
第3話指針が求める措置の中身|方針明確化・相談体制・事後対応をどう整えるか10項目の措置の作り込み方、成果物、担当部署、完了基準
第4話カスハラ対応基本方針の作り方|社内外への表明文をひな形付きで解説方針の記載事項、社内向け方針・トップメッセージ・顧客向け掲載文のひな形
第5話就業規則・社内規程はどこを直すか|カスハラ義務化対応の改定ポイント改定要否の判断、文書別の役割分担、規定例、労使手続、不利益取扱いの境界
第6話カスハラ相談窓口をどう作るか|既存のハラスメント窓口と一本化する方法(本記事)窓口の設置方法、3つの統合設計案、担当者設計、二次被害の防止、ひな形、チェックリスト
第7話現場が迷わないカスハラ対応マニュアルの作り方|初動・エスカレーション・記録初動対応、エスカレーション基準、録音・証拠保存、対応記録の実務
第8話それでも止まらない相手への法的対応|取引拒絶・出入禁止・警察対応の実務警告文、販売・サービス提供の停止、出入禁止、仮処分、警察通報の判断基準
第9話同時施行の求職者等セクハラ対策も忘れずに|関連する法改正・条例への対応改正男女雇用機会均等法による求職者等セクハラ対策、自治体の条例
第10話2026年10月までにやることリスト|カスハラ義務化対応の工程表と総まとめチェックリスト形式の総まとめ、成果物一覧、施行後の点検方法

まとめ

  • 相談窓口の設置は、法第33条第1項の体制整備義務に基づき、指針が具体的措置として求めるものです。設置方法は、担当者を定める・制度を設ける・外部委託するのいずれでも構いません。
  • 既存のハラスメント窓口との統合は任意です。実務では、入口を統合しつつカスハラ案件を専用フローへ分岐させるハイブリッド型が推奨しやすい設計です。いずれの場合も、現場の即時報告ルートを別途確保してください。
  • 相談担当者に管理監督者を充てられますが、上司自身の相談先・上司を飛ばせる経路・判断を上司に負わせない分担・担当者研修を併せて用意してください。
  • 窓口は、発生のおそれ・該当性が微妙・周囲の労働者からの相談も広く受け付けます。被害者に一律の報告義務を課さず、相談しなかったことを責めないでください。
  • 相談を受けたら、初回説明(不利益取扱い禁止・情報の取扱い・共有範囲・緊急時の例外・正当な相談先への相談を妨げない旨)を行ってください。
  • 情報共有は、目的・共有先・範囲を説明し意向に配慮するのが原則。安全確保・法令対応・事実確認に必要な場合は、必要最小限で共有し得ます。本人の同意を絶対条件にしないでください。
  • 相談者本人に過度な守秘義務を課さないでください。担当者側の守秘義務と、本人への口止めは別問題です。
  • 派遣労働者は「雇用する労働者」と「就業する派遣労働者」を区別し、派遣先窓口を派遣労働者も利用できるようにします。相談を理由とする派遣受入拒否は禁止です。
  • 外部委託しても、措置の決定・実施責任は自社に残ります。外部専門家の助言は受けられますが、事業主の責任は消えません。
  • 小規模企業では、代表者だけを唯一の窓口にする危険に注意し、顧問弁護士・社労士・外部窓口等の代替経路を必ず用意してください。

本記事のひな形は一般的な参考例であり、そのまま採用すればすべての企業で適切・有効となることを保証するものではありません。自社の体制・業種の実態に応じて必ず調整してください。本記事は2026年7月15日時点の法令・指針・通達・Q&A等に基づいています。今後変更され得ますので、実際の対応にあたっては厚生労働省および都道府県労働局の最新情報をご確認ください。個別の事案については、弁護士、社会保険労務士、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)等への相談もご検討ください。

相談受付・記録の様式づくりを効率化する

相談窓口を「実質的に機能する」状態にするには、相談窓口規程、周知文、相談受付票、初回説明文、初動チェックリスト、担当者の禁止事項を、自社の実態に合わせて用意する必要があります。感情的な記述ではなく、日時・発言・態様・継続時間・影響・緊急性という事実を残せる様式が、事実確認と被害者保護の基礎になります。

カスハラ対応プロンプト集|顧客対応記録・従業員保護・上長報告・エスカレーションの実務テンプレート

顧客対応記録、従業員保護、上長報告、エスカレーション判断といった実務場面ごとに、たたき台を作成するためのプロンプトをまとめた実務ツールです。相談受付・記録の様式づくりから、法務・人事への引継ぎ資料の作成まで、作業量を大きく削減できます。

法令対応を補助するためのツールです。これだけで措置義務の履行が完了するものではなく、専門家への相談に代わるものでもありません。作成した文書は、必ず自社の実態と最新の法令・指針に照らして確認してください。

カスハラ対応プロンプト集を見る

パワハラ・セクハラを含むハラスメント対応の実務ツールをまとめてご覧になりたい方は、ハラスメント商品ハブもあわせてご確認ください。

参考資料

このほか、個人情報保護法、雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドライン(平成24年厚生労働省告示第357号)、労働者派遣法第47条の4の各規定を参照しています。

読了後の実務化ガイド

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