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訴訟対応は、弁護士に依頼したら終わり、ではありません。弁護士は法律・訴訟手続の専門家ですが、社内の事実・証拠・経営判断は、会社側が整理する必要があります。ここが抜けると、証拠漏れや事実誤認が起き、せっかくの弁護士の力も十分に活かせません。

このとき要になるのが、法務担当者です。法務は、外部弁護士・現場部門・経営陣・関連管理部門をつなぐハブとして動きます。本記事では、訴訟対応における役割分担を、会社法務の目線で整理します。

全体像は第1話「訴訟対応とは何か」、初動は第4話「訴訟対応の初動チェックリスト」で扱いました。本記事は、その「役割分担」に焦点を当てます。

この記事でわかること

  • 弁護士・法務・現場・経営陣・関連部門の役割分担
  • 弁護士に渡すべき情報と、相談・質問の仕方
  • 弁護士打合せの前後で法務がやること
  • 法的判断と経営判断の違い
  • 役割分担でやってはいけないこと、役割分担表テンプレート
社内法務(ハブ)
↕ つなぐ ↕
外部弁護士
法的判断・代理
現場部門
事実・資料
経営陣
方針・経営判断

実務メモ
この記事の内容を、毎回ゼロから考えないために。
法務実務で効くのは、知識そのものよりも"再現できる型"です。記事で読んだ確認観点・依頼文・回答メモ・マスキングを次の案件でそのまま引き出せる形に残しておくと、判断と説明の質が一段安定します。
確認観点をチェックリスト化する
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相談回答・法改正対応を記録に残す
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訴訟対応における役割分担の全体像

訴訟対応では、外部弁護士・社内法務・現場部門・経営陣・関連管理部門が連携します。それぞれの役割が曖昧だと、証拠漏れ・事実誤認・判断遅れ・費用増加につながります。

役割分担は、責任の押し付け合いではありません。対応を正確かつ効率的に進めるための整理です。「誰が・何を・いつまでに」を明確にすることが、訴訟対応の品質を左右します。

弁護士・法務・現場・経営陣・関連部門の役割分担

担い手 主な役割 注意点
外部弁護士訴訟代理・法的主張・書面作成・期日対応・戦略社内事実は自動では把握できない
社内法務事実・証拠・関係部署・経営判断をつなぐハブ法的判断を代替しない
現場部門取引経緯・資料の所在・担当者の認識の説明法的判断を丸投げしない
経営陣方針・費用・和解・事業影響の判断判断材料は法務・弁護士が整理
経理・財務請求・支払・会計処理・引当・予算数字の裏づけを確認
情報システムメール・チャット・ログ・バックアップ・権限取得方法・保存期間を確認
広報・IR対外説明・開示・問い合わせ対応必要な案件でのみ
内部監査・監査役再発防止・内部統制・監督上の観点重要訴訟で関与
総務・文書管理文書管理・押印記録・郵便物管理受領日の記録など

外部弁護士が主に担うこと

弁護士は、訴訟の専門家として次を担います。地方裁判所以上の民事訴訟では、原則として弁護士でなければ訴訟代理人になれません(弁護士代理の原則)。

  • 訴訟代理(会社の代理人として訴訟を追行)
  • 訴訟戦略の検討、法的主張の整理
  • 答弁書・準備書面の作成
  • 証拠提出方針の検討
  • 期日対応、相手方代理人との協議
  • 和解交渉の法的助言、控訴判断に関する助言
  • 裁判所対応

大切なのは、弁護士は社内の事実を自動的に把握できるわけではないということです。当時のやり取りや資料の所在は、会社側が伝えなければ分かりません。だからこそ、会社側の準備が重要になります。

社内法務が主に担うこと

役割 補足
訴状・書面の社内共有、期限管理受領日・期限を管理
証拠保全・訴訟ホールド資料を消さない(第5話)
資料収集・事実経過表の作成第6話・第7話
争点整理の補助・認否確認の社内調整第8話・第11話
弁護士への情報提供整理して渡す
現場ヒアリングの調整関係者との橋渡し
経営陣への報告要約して伝える
社内承認・稟議の管理手続きを回す
和解条件・判決後対応の社内調整関係部署と調整

現場部門が主に担うこと

役割
実際の取引経緯の説明
担当者の認識の共有
関係資料の所在確認
メール・チャット・会議記録の提供
納品・検収・請求・支払・クレーム対応の実態説明
相手方との過去のやり取りの説明
不利な事情の共有
尋問候補者・陳述書作成への協力

現場には事実と資料を出してもらいますが、法的判断は丸投げしないでください。「認めてよいか」「争えるか」といった判断は、現場ではなく弁護士・法務・経営の領域です。

経営陣が主に判断すること

判断事項
訴訟方針/どこまで争うか
和解するかどうか/和解金額・条件
控訴するかどうか
費用対効果
取引関係への影響/レピュテーションリスク
事業継続への影響
対外説明・広報対応
再発防止策

これらは、法務や弁護士が判断材料を提供し、最終的な判断は経営陣が行う場面です。法務が代わりに決めるものではありません。

関連管理部門の役割

部門 主な役割
経理・財務請求・支払・会計処理・引当・予算管理
情報システムメール・チャット・ログ・バックアップ・アクセス権管理
広報・IR対外説明・開示・問い合わせ対応
総務文書管理・押印記録・郵便物管理
内部監査再発防止・内部統制上の確認
人事担当者対応・労務関連情報・証人候補の調整
監査役・監査等委員重要訴訟の報告・監督上の観点

関与する部門は案件の性質によって異なります。すべての案件で全部門が動くわけではありません。

法務担当者が弁護士に渡すべき情報

区分 渡す情報
裁判所書類訴状・呼出状・答弁書催告状、受領日・期限、事件番号、当事者情報
資料契約書、請求書・支払資料、メール・チャット、議事録、稟議資料
整理資料事実経過表、争点整理表、証拠候補一覧、認否確認表
社内事情社内方針、経営判断が必要な事項
弱点情報不利な事情・弱い証拠

不利な資料や不明点も含めて共有してください。都合のよい情報だけを渡すと、弁護士は適切な戦略を立てられません。証拠の隠蔽・削除・改ざんは、決して行わないでください。

弁護士への相談・質問の仕方

コツ 理由
確認済みと未確認を分ける前提の確かさを共有
法的判断を求めたい点を明確に論点が絞れる
経営判断に必要な情報を質問経営報告に使える
費用・期間・見通しを確認社内説明の材料になる
和解可能性を確認方針検討に役立つ
次の期日までの宿題を確認会社側のタスクを明確化
質問を一括整理して送るやり取りが効率化
口頭だけでなく議事メモを残す後から確認できる

弁護士との打合せ前に準備するもの

打合せ前
資料・整理表を準備
打合せ中
質問・方針確認
打合せ後
宿題の社内展開
準備するもの
事案概要メモ
事実経過表/主要証拠
争点整理表/認否確認表
相手方主張の要約
現場ヒアリング結果
未確認事項一覧
社内方針案/経営陣への確認事項
予算・費用制約
次回期限一覧

弁護士との打合せ後に法務がやること

やること
打合せメモを作る
弁護士からの依頼事項を整理する
社内担当者に依頼し、期限を設定する
回答を集約する
追加資料を整理して送る
経営陣への報告を更新する
弁護士費用・見積もり・予算を管理する
次回期日・提出期限を管理する

弁護士・法務・現場の三者連携で注意すること

注意点 理由
現場から弁護士へバラバラに送らない情報が錯綜する
法務が窓口となって整理する一元管理で漏れを防ぐ
必要に応じ弁護士が現場に直接ヒアリング正確な事実把握のため
現場の説明と資料を分ける記憶と裏づけを区別
都合のよい情報だけ渡さない適切な判断を妨げる
現場に法律判断をさせない判断領域を越える
法務が情報を加工しすぎない事実が歪むおそれ

法的判断と経営判断を分ける

役割分担の核心が、この区別です。法的判断は弁護士・法務が材料を整理し、経営判断は経営陣が決める——この線引きを意識しましょう。

法的判断(弁護士中心) 経営判断(経営陣中心)
請求が認められる可能性どこまで争うか
証拠の強弱和解金額をどこまで許容するか
主張の成否取引関係を維持するか
法的リスクの評価評判リスクをどう見るか
事実確認(現場・法務)
法的評価(弁護士)
経営判断(経営陣)
実行

弁護士費用・予算管理における役割分担

  • 弁護士費用の見積もりを確認する(着手金・報酬金・タイムチャージ・実費など)
  • 社内稟議・予算管理を行う
  • 経営陣への説明、費用対効果の検討

費用の社内説明の進め方は第13話「訴訟費用・弁護士費用の社内説明」で詳しく扱います。

社内報告における役割分担

  • 弁護士:法的見通しを提供する
  • 法務:事案概要・争点・リスク・期限・対応方針を整理する
  • 現場:事実関係を補足する
  • 経営陣:方針を判断する

報告書の作り方は第14話「訴訟中の社内報告書の作り方」で扱います。

和解協議における役割分担

  • 弁護士:法的見通し・交渉戦略・和解条項を助言する
  • 法務:社内承認・条件整理・相手方との関係・履行可能性を確認する
  • 現場:実務上受け入れ可能な条件を確認する
  • 経営陣:金額・条件・事業影響を判断する

和解の進め方は第15話「和解協議の進め方」、条項の読み方は第16話「和解条項の読み方」で扱います。尋問対応は第17話、判決後対応は第18話へ続きます。

役割分担でやってはいけないこと

やってはいけないこと なぜ問題か
訴状だけ送って事情説明をしない弁護士が事実を把握できない
丸投げして社内確認をしない証拠漏れ・事実誤認のもと
法務が法的判断を置き換える専門判断は弁護士の領域
現場に法的判断をさせる判断領域を越える
経営判断を法務だけで決める経営の判断領域を越える
不利な資料を弁護士に渡さない適切な戦略が立たない
現場から弁護士へバラバラに送る情報が錯綜する
打合せ内容を記録しない後で確認できない
依頼事項の期限管理をしない対応が遅れる
費用見通しを社内説明しない予算・承認で問題になる
和解方針を社内承認なしに進める後で承認が得られない
役割分担を曖昧にしたまま進める抜け漏れ・混乱が生じる

訴訟対応 役割分担表の簡易テンプレート

そのまま使える役割分担表です。タスクごとに「誰が・いつまでに」を埋めて運用してください。

タスク 主担当 関係者 期限 必要資料 弁護士確認 経営判断 ステータス 備考
     要/否要/否  
     要/否要/否  
     要/否要/否  

よくある誤解

  • 「弁護士に依頼したら会社側は何もしなくてよい」ではありません。事実・証拠・判断は会社側の役割です。
  • 「法務がすべての事実を把握していなければならない」わけではありません。現場・関連部門から集めて整理します。
  • 「現場が一番詳しいので現場に任せればよい」ではありません。法的判断は現場の領域ではありません。
  • 「法務が法律判断をすべて決めるべき」ではありません。専門判断は弁護士に確認します。
  • 「費用や和解判断は法務だけで処理できる」とは限りません。経営判断・社内承認が必要です。
  • 「経営陣への報告は結論が出てからでよい」とは限りません。節目で適時に報告します。
  • 「不利な資料は弁護士に渡さない方がよい」は誤りです。隠すと適切な対応ができません。
  • 「弁護士とのやり取りは口頭で足りる」とは限りません。記録を残すことが重要です。

第12話のまとめ

  • 訴訟対応は、弁護士・社内法務・現場・経営陣・関連管理部門の連携で進める実務です。
  • 弁護士は法的判断・訴訟代理、社内法務は事実・証拠・社内判断をつなぐ役割を担います。
  • 現場は事実と資料の提供、経営陣は方針・費用・和解などの経営判断を担います。
  • 法的判断と経営判断を分けることが重要です。
  • 役割分担を明確にすると、証拠漏れ・判断遅れ・社内混乱を防ぎやすくなります。

次回・第13話「訴訟費用・弁護士費用の社内説明|予算・稟議・見通しのまとめ方」では、役割分担のなかでも法務が担う「費用の社内説明」を掘り下げます。

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訴訟対応では、弁護士との連携、社内資料・事実経過・争点・社内判断の整理が重要です。Legal GPTでは、法務実務に役立つテンプレート・プロンプト・実務支援ツールをご用意しています。これらは訴訟対応そのものを代替するものではなく、社内整理や検討メモの作成を補助する位置づけです。法的判断・訴訟方針は、必ず弁護士にご相談ください。

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シリーズ全20話のリンク一覧

「法務担当者のための訴訟対応実務20選」の全記事です。気になるテーマからお読みいただけます。保存版としてブックマークをどうぞ。

タイトル
第1話訴訟対応とは何か|会社の法務担当者が知っておくべき全体像
第2話訴状が届いたら最初に確認すること|訴状・呼出状・答弁書催告状の見方
第3話答弁書とは何か|提出期限・認否・初回期日までの実務対応
第4話訴訟対応の初動チェックリスト|社内共有・弁護士相談・期限管理
第5話訴訟ホールドとは何か|メール・チャット・資料を削除しないための対応
第6話訴訟対応で集める資料一覧|契約書・メール・請求書・議事録の探し方
第7話事実経過表の作り方|訴訟対応で時系列を整理する方法
第8話争点整理とは何か|相手の主張・こちらの反論・証拠を対応させる
第9話証拠説明書とは何か|書証番号・作成者・立証趣旨の基本
第10話準備書面とは何か|弁護士ドラフトを法務が確認するときの見方
第11話認否とは何か|訴訟対応で「認める・否認する・不知」をどう確認するか
第12話弁護士との役割分担|法務・現場・経営陣は何を担当するか(この記事)
第13話訴訟費用・弁護士費用の社内説明|予算・稟議・見通しのまとめ方
第14話訴訟中の社内報告書の作り方|経営会議・取締役会への報告ポイント
第15話和解協議の進め方|金額・条件・社内承認で見るべきポイント
第16話和解条項の読み方|清算条項・守秘義務・不履行時対応の基本
第17話尋問対応の基本|証人候補・陳述書・想定問答をどう準備するか
第18話判決が出た後の対応|控訴・支払・会計処理・社内説明
第19話こちらから訴えるときの準備|請求原因・証拠・回収可能性の検討
第20話訴訟対応チェックリスト|法務担当者が保存しておきたい実務一覧

参考情報

本記事は一般的な解説です。訴訟代理・代理人や手続の流れ、デジタル化の運用は事件や時期によって異なり得るため、実際の対応にあたっては最新の公式情報をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

※本記事は企業の法務担当者向けの一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。訴訟方針・法的判断など個別の判断は弁護士にご相談ください。

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01
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02
業務を整理するツール
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