資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法
専用設備から生産される製品を、すべて自社が受け取っている。しかもその設備は自社の工場内に置かれている。では、自社がその設備を「支配」していることになるのか——それだけでは決まりません。
新リース会計基準の使用支配は、2つの要件を両方満たして初めて認められます。顧客が使用期間全体を通じて、その資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有していること。そして、その資産の使用を指図する権利を有していること。この2つはAND条件です。
製品や電力を全量受け取っているという事実は、主として1つ目の要件に関わります。それだけでは2つ目の要件を満たしません。実際、ASBJの公式設例には、発電所の電力を全量購入していながら契約にリースは含まれないと判断された例があります。
この記事では、経済的利益と使用指図権をそれぞれどう確認するのか、使用方法が契約締結時に決まっている場合はどうなるのか、供給者に安全基準や保守の権限がある場合をどう整理するのかを、契約書と運用実態を突き合わせる作業として解説します。前提となる「特定された資産」の判断は「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準で扱っています。本記事はその第2関門です。
この記事の結論
- 使用を支配する権利が移転しているといえるには、経済的利益のほとんどすべてを享受する権利と使用を指図する権利の両方が必要です(リース適用指針第5項)。
- いずれも「使用期間全体を通じて」評価します。一時的に条件を満たすだけでは足りません。
- 製品や電力を全量取得していることは、主に経済的利益の側の事実です。それだけでリースになるわけではありません。
- 誰が設備を物理的に操作しているかは決め手になりません。見るのは、経済的利益に影響を与える使用方法を誰が決めているかです。
- 使用方法が契約締結時に決まっている場合でも、顧客のみが資産を稼働する権利を有するとき、または顧客が使用方法を事前に決定するよう資産を設計したときは、使用指図権が認められ得ます(同第8項(2))。
- どの意思決定が重要かは、資産の性質と契約条件によって契約ごとに異なります。固定的なチェック項目や点数方式で判定しないでください。
- 安全基準や保守の権限が供給者にあることだけをもって、供給者が使用を指図しているとは限りません。
- 法務部は契約上の権限と運用の事実を整理し、会計基準上の最終判断は経理部が行います。
本記事は「新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務」全15話の第7話です。
このシリーズは、新リース会計基準への対応において法務部・契約管理部門が担うことになる契約調査と契約管理の実務を、順を追って解説することを目的としています。
無料・時短・仕組み化の3つから選ぶ
シリーズ全15話の構成
| 話数 | 記事タイトル | その記事で分かること |
|---|---|---|
| 第1話 | 新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わる?|2027年適用に向けた契約対応の全体像 | シリーズ全体像と、法務部が担う役割の範囲 |
| 第2話 | 新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール | 適用時期・対象企業・準備工程の考え方 |
| 第3話 | リース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」 | 契約がリースを含むかを判断する枠組み |
| 第4話 | 埋込リースとは?|業務委託・物流・IT契約に潜むリースの見つけ方 | サービス型契約に含まれるリースの探し方 |
| 第5話 | 新リース会計基準で調査すべき契約書は?|法務部の契約棚卸しの進め方 | 契約母集団の設定と棚卸しの実務手順 |
| 第6話 | 「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準 | 特定された資産と、供給者側の代替権の見方 |
| 第7話 | 資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法(現在の記事) | 使用の支配・経済的利益・使用指図権の確認 |
| 第8話 | リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方 | リース期間と、更新・解約条項の読み方 |
| 第9話 | 契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理 | 契約書から抽出すべき料金情報の範囲 |
| 第10話 | リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェック | リース部分と非リース部分の区分の論点 |
| 第11話 | オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント | 不動産賃貸借契約に固有の調査ポイント |
| 第12話 | 契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務 | 契約変更・更新時の再判定と管理実務 |
| 第13話 | 新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理 | 契約台帳の追加項目と証跡の残し方 |
| 第14話 | 新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項 | 新規契約審査への確認項目の組み込み方 |
| 第15話 | 新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること | 適用開始までの最終チェックリスト |
第1章 「使用を支配する権利」とは何か
適用指針上の判断要素適用指針は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むとしたうえで、特定された資産の使用期間全体を通じて次の(1)と(2)のいずれも満たす場合に、供給者から顧客に当該資産の使用を支配する権利が移転しているとしています(リース適用指針第5項)。
- (1) 顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している
- (2) 顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している
ここで押さえておきたいのが「使用期間」という時間軸です。適用指針は使用期間を、資産が顧客との契約を履行するために使用される期間(非連続の期間を含む)と定義しています(同第4項(1))。一時的にある条件を満たしているだけでは足りない、ということです。
図解1 使用支配の2要件
本記事が扱うのは要件1と要件2です。特定された資産の判断が済んでいない段階では、この検討には進みません。
第2章 要件1|経済的利益のほとんどすべてを享受する権利
第1の要件は、その資産を使うことで生まれる便益を、誰がどれだけ取っているかという観点です。会計に馴染みのない方向けに言い換えると、「その資産が働いた成果は、誰のものになっているか」という問いです。
ここで2点、法務担当者が誤りやすい点があります。第一に、資産を所有している必要はありません。第二に、対価を支払っていること自体は、経済的利益のほとんどすべてを享受していることの根拠にはなりません。サービス契約でも対価は支払うからです。見るべきは、資産の稼働から生じる産出物や便益の帰属先です。
表1 経済的利益を確認する質問
| 確認事項 | 契約書で見る箇所 | 現場に聞くこと | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 生産物・成果物を誰が取得するか | 目的条項、引渡条項、成果物の帰属 | 実際に誰が受け取っているか | 一部を供給者が保持していないか確認する |
| 産出される電力・処理能力を誰が利用するか | 供給条項、数量条項 | 実績としての取得割合 | 契約上の権利と実績を分けて記録する |
| 第三者への転売・転貸・再委託が可能か | 譲渡・転貸・再委託条項 | 実際に行っているか | 可能であること自体は判断材料の一つ |
| 他の顧客も同じ資産から便益を得ているか | 専用・占有に関する定め | 他社利用の有無 | 共用の範囲と割合を確認する |
| 副産物や追加収益を誰が得るか | 付随的な産出物に関する定め | 副産物の処理の実態 | 契約に記載がないことが多い |
| 自社が利用できる範囲の上限 | 数量・容量・時間帯の定め | 上限内で自由に使えているか | 制限があっても範囲内の利益を評価する |
| 使用期間はいつからいつまでか | 期間条項、稼働カレンダー | 非連続の使用があるか | 使用期間全体を通じた評価が必要 |
第3章 「全量取得」でもリースとは限らない
注意|「利益を全部受け取っている=支配している」ではありません
ASBJ公式設例6-1の要約を見てください。顧客が供給者所有の発電所が産出する電力のすべてを3年間購入する契約です。経済的利益のほとんどすべてを享受する権利という要件1は満たされます。
しかし、契約で使用期間全体を通じた発電所の使用方法(産出する電力の量および時期)が定められており、緊急時などの特別な状況がなければ変更できません。顧客は発電所の設計にも関与しておらず、発電所を稼働する権利も有していません。
この事実関係の下で、顧客は使用を指図する権利を有していないと判断され、契約にリースは含まれないとされました。
この設例が示しているのは、要件1と要件2が独立した別の問いだということです。「全量購入だからリース」「専用設備の成果を全部受け取っているからリース」という整理は成り立ちません。社内で説明する際は、この2つを必ず分けて記録してください。
第4章 要件2|使用を指図する権利とは
適用指針上の判断要素適用指針第8項は、顧客が使用期間全体を通じて特定された資産の使用を指図する権利を有しているのは、次の(1)または(2)のいずれかの場合にのみであるとしています。本章では(1)を扱い、(2)は第7章以降で扱います。
(1) 顧客が使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合
ASBJは結論の背景で、この場合に顧客が使用期間全体を通じて資産の使用を指図する権利を有しているとし、あわせて、供給者が資産の使用を指図する権利を有している場合、契約はリースを含まないと述べています(リース適用指針BC12項)。
図解2 「誰が操作するか」ではなく「誰が重要な使用方法を決めるか」
次の2つは別の問いです。混同すると結論を誤ります。
- 物理的な操作:誰がボタンを押し、誰が現場で作業しているか
→ これ自体は判断基準ではありません。供給者の従業員が操作していても、顧客が使用方法を決めていることはあります。 - 使用方法に関する意思決定:使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を、誰が決める権利を有しているか
→ こちらが第8項(1)の判断対象です。
「供給者が保守と運転を担当しているからリースではない」という整理も、「自社の従業員が操作しているからリースだ」という整理も、いずれも根拠として不十分です。
第5章 どの意思決定を確認するのか
では、何を決める権利を確認すればよいのか。ここで日本基準の作りを正確に押さえておく必要があります。
ASBJは、顧客が使用を指図する権利を有しているか否かの判断にあたっては、使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る意思決定を考慮するとしたうえで、当該意思決定は資産の性質および契約の条件に応じて、契約によって異なると考えられると述べています。そして、IFRS第16号には具体的な例示があるものの、それらの例示を示すことで資産の使用方法および使用目的が限定的に解釈される可能性があるため、適用指針には取り入れないこととしたと説明しています(リース適用指針BC13項)。
つまり、日本基準には「これを決めていれば指図権あり」という固定的な判断項目は置かれていません。
以下はLegalGPTによる確認例であり、ASBJが固定的な判断項目として定めたものではありません。BC13項のとおり、重要な意思決定は資産の性質および契約条件により異なります。
表2 使用方法に関する意思決定の確認例
| 確認例 | 契約書で見る箇所 | 典型的に問題になる契約 |
|---|---|---|
| 何のために使用するか(用途) | 目的条項、用途制限 | 専用設備、業務委託 |
| 何を生産するか | 仕様書、品目の定め | 製造委託、加工委託 |
| いつ使用するか(稼働時期) | 稼働条項、運転計画 | 発電設備、製造ライン |
| どの程度使用するか(数量・処理量) | 数量条項、発注方法 | 電力購入、物流、IT |
| どこへ供給・配送するか | 納入条項、配送条件 | 物流、輸送、エネルギー |
| 何を保存・処理するか | データ・取扱物に関する定め | データセンター、保管 |
| どの顧客向けに利用するか | 再販・転用に関する定め | 製造委託、サブリース型 |
この表を点数化しないでください。「7項目のうち3項目を決めていれば指図権あり」といった基準は、会計基準にも適用指針にも存在しません。契約ごとに、その資産の経済的利益に影響を与える意思決定が何かを個別に見極める必要があります。
第6章 ASBJ設例5|サーバーを自社敷地に置いていても結論が分かれる
設置場所は判断の決め手にならない——これを明確に示すのがASBJ公式設例5(ネットワーク・サービス)の要約です。両方の設例で、サーバーは顧客の敷地に設置されています。
図解3 同じ「顧客敷地内サーバー」でも結論が分かれる理由
- 設例5-1|使用を指図する権利がないとされた例
供給者がネットワーク・サービスを提供するために顧客の敷地にサーバーを設置します。供給者は、契約で定められたサービス水準を満たすように通信速度を決定し、必要に応じてサーバーの入替えを行うことができます。顧客は契約締結時にサービス水準を決定しますが、その後は契約変更をしない限り変更できません。顧客はサーバーの使用方法に関する重要な決定を行わず、設計にも関与せず、稼働する権利も有していません。
→ 顧客は使用を指図する権利を有していないと判断され、契約にリースは含まれないとされました。 - 設例5-2|使用を指図する権利があるとされた例
供給者が顧客の指示に基づき顧客の敷地にサーバーを設置します。顧客は使用期間全体を通じて、自社の事業においてサーバーをどのように使用するか、どのデータを保管するかを決定できます。
→ 顧客は使用を指図する権利を有しているとされ、契約にリースが含まれると判断されています。
結論を分けたのは設置場所ではなく、使用方法を誰が決めているかです。「自社の建物内にあるかどうか」を最初の判断軸にしないでください。
第7章 使用方法が契約締結時に決まっている場合
ここが実務で最も誤解されやすい論点です。「契約時にすべて決まっているから顧客に指図権はない」という結論は、直ちには出せません。
適用指針上の判断要素適用指針第8項(2)は、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされており、かつ、次の①または②のいずれかである場合にも、顧客が使用を指図する権利を有しているとしています。
- ① 使用期間全体を通じて顧客のみが、資産を稼働する権利を有している、または第三者に指図することにより資産を稼働させる権利を有している
- ② 顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように、資産を設計している
図解4 使用方法が事前決定されている場合の2つのルート
→ Yes:使用を指図する権利あり
→ Yes:使用を指図する権利あり
①と②はいずれか一方を満たせば足ります。事前決定されている契約に出会ったら、そこで検討を止めず、この2つのルートを確認してください。
第8章 「資産を稼働する権利」とは
第8項(2)①でいう稼働する権利は、顧客自身が物理的に操作することを求めるものではありません。条文は「顧客のみが、資産を稼働する権利を有している又は第三者に指図することにより資産を稼働させる権利を有している」としています。
したがって、使用方法に係る決定が事前になされている場合において、供給者の従業員が実際に運転していても、その運転が顧客の指図によるものであり、かつ使用期間全体を通じて顧客のみが資産を稼働する権利または第三者に指図して稼働させる権利を有しているのであれば、第8項(2)①に該当し得ます。逆に、供給者が自らの権利として資産の稼働を決定できる場合には、「顧客のみが」という要件を満たすかを慎重に確認する必要があります。
表3 稼働権を確認する契約・運用事実
| 確認事項 | 契約書で見る箇所 | 現場に聞くこと |
|---|---|---|
| 起動・停止を誰が決めるか | 運転条項、指示手続 | 実際に停止指示を出した事例 |
| 稼働開始の指示を誰が出すか | 発注方法、稼働申込の定め | 日々の指示の流れ |
| 作業指示・運転指示の系統 | 指示系統の定め、SLA | 誰から誰へ指示が出ているか |
| 運転計画を誰が作成・決定するか | 運転計画に関する条項 | 作成者と最終決定者の別 |
| 供給者が指示を拒否できる条件 | 拒否権、免責条項 | 拒否された実例の有無 |
| 第三者へ運転を指図できるか | 再委託条項、運転委託の定め | 実際の運転主体 |
| 緊急停止の権限 | 安全条項、緊急時の定め | 発動条件と頻度 |
| 保守・点検時の権限 | 保守条項、定期停止の定め | 停止時期の決定者 |
| 顧客以外に稼働権を持つ者がいないか | 権限に関する定め全般 | 他社が稼働を指示する場面 |
緊急停止権があることだけをもって、稼働権の有無を結論づけないでください。安全確保のための緊急停止と、通常運転における稼働の決定は、性質の異なる権限です。
第9章 顧客が資産を設計した場合
第8項(2)②のポイントは、条文の書きぶりにあります。求められているのは「顧客仕様で作ったこと」ではなく、顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように、資産を設計していることです。
この違いは実務上大きな意味を持ちます。色・寸法・性能水準などの仕様を顧客が指定しているだけで、直ちに第8項(2)②に該当するとはいえません。重要なのは、その設計によって使用期間全体を通じた資産の使用方法が事前に決定されているかです。どの設計事項が使用方法に影響するかは、資産の性質と契約条件に応じて個別に確認します。
表4 単なる仕様指定と、使用方法を決める設計の違い
| 顧客が指定した内容 | 性質 | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| 色・外形・寸法 | 主として外形的な仕様 | 使用方法の決定にどう結びつくか |
| 性能水準・耐久性 | 主として品質要求 | 産出内容を規定しているか |
| 品質基準・規格適合 | 主として品質要求 | 法令・業界基準に由来しないか |
| 生産する品目・産出物 | 使用方法に直結し得る | 他の品目に転用できない設計か |
| 処理能力・産出量 | 使用方法に直結し得る | 量が設計により固定されているか |
| 稼働方法・運転条件 | 使用方法に直結し得る | 稼働の型が設計で定まっているか |
| 用途限定 | 使用方法に直結し得る | 使用期間全体にわたる限定か |
上表は一般化した実務上の整理であり、ASBJが公式の判断項目として示したものではありません。「顧客仕様であれば必ず使用指図権がある」という一般化は避け、設計が使用方法の事前決定に当たるかを個別に確認してください。
第10章 ASBJ設例6|電力契約で結論が分かれる理由
ASBJ公式設例6(電力)の要約は、これまで見てきた要件がどう働くかを一望できる比較になっています。3つの設例のうち2つは全量購入でありながら、結論が逆です。
表5 ASBJ設例6の比較
| 設例 | 経済的利益 | 使用方法の決定 | 設計 | 使用を指図する権利 | 結論 |
|---|---|---|---|---|---|
| 設例6-1 (3年・全量購入) | 産出電力のすべてを取得 | 使用方法(電力の量および時期)が契約で事前に定められ、特別な状況がなければ変更できない | 顧客は関与していない | なし(稼働する権利も有しない) | 契約にリースは含まれない |
| 設例6-2 (10年・全量購入) | 産出電力のすべてを取得 | 顧客が使用方法(量および時期)を決定する権利を契約で有する。供給者は他の契約の履行のため当該発電所を使用できない | — | あり | 契約にリースが含まれる |
| 設例6-3 (20年・太陽光ファーム) | 産出電力のすべてを取得 | 使用方法は設計により事前に決定されている | 顧客が設計している | あり(第8項(2)②による) | 契約にリースが含まれる |
読み取るべき点は2つあります。第一に、設例6-1と設例6-2はいずれも全量購入であり、経済的利益の要件は同様に満たされています。分岐したのは、電力の量と時期を誰が決める権利を有しているかでした。第二に、設例6-3は使用方法が事前に決定されているにもかかわらずリースが含まれるとされています。顧客が設計しているためです。
「PPAだからリース」「全量購入だからリース」といった一般化はできません。これらは設例固有の事実関係の下での結論です。
第11章 安全基準・保守権限・禁止用途がある場合
ほとんどの設備契約には、安全基準、法令遵守、保守点検、最大稼働能力の制限、禁止用途、立入権、検査権といった条項が置かれています。これらがあるだけで供給者が使用を指図していることになるのか——結論から言えば、なりません。
実務でこれを「保護権」と呼ぶことがあります。ただし用語の扱いには注意が必要です。日本の適用指針には、保護権に関する独立した定めは置かれていません。前述のとおり、ASBJは使用方法に係る意思決定についてIFRS第16号の具体的な例示を取り入れないこととしており(BC13項)、IFRS由来の詳細なルールをそのまま日本基準上の要件として持ち込むことはできません。
したがって、条項の名称だけで振り分けるのではなく、本記事では実務上の整理として、その権限が安全・保全等を目的とする制約なのか、それとも経済的利益に影響を与える重要な使用方法に関する意思決定権なのかを確認します。これは、日本基準上の独立した「保護権テスト」を示すものではありません。最終的には、第8項およびBC13項に沿って、資産の性質と契約条件に応じて判断材料を整理します。
表6 供給者の権限を確認する
| 権限 | 契約条項 | 確認する目的 | 顧客の意思決定を制限する範囲 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|---|---|
| 安全基準の遵守要求 | 安全条項 | 資産・人員の保護か、使用方法の決定か | 使用可能な条件の外枠か、内容そのものか | 条項の内容と運用上の適用例 |
| 最大稼働能力の制限 | 稼働条項、仕様書 | 設備能力の限界か、供給者の裁量か | 上限内で顧客が自由に決められるか | 上限値と実際の運用 |
| 品質基準 | 品質条項 | 成果物の水準か、生産内容の指定か | 品目まで指定しているか | 基準の内容と決定主体 |
| 保守点検・定期停止 | 保守条項 | 維持管理か、稼働時期の決定か | 停止時期を誰が決めるか | 停止の頻度・時期・決定者 |
| 法令遵守要求 | 法令遵守条項 | 外部規制の反映か、供給者の判断か | 規制の範囲を超えていないか | 根拠となる規制の有無 |
| 禁止用途 | 用途制限条項 | 資産保護か、用途の決定か | 禁止外で顧客が自由に決められるか | 禁止の範囲と理由 |
| 立入権・検査権 | 立入・検査条項 | 状態確認か、運用への介入か | 検査結果に基づく指示権があるか | 権限の内容と行使実績 |
| 緊急停止権 | 緊急時条項 | 安全確保か、通常運転の決定か | 発動条件が限定されているか | 条件と実際の発動事例 |
第12章 法務部は契約書のどこを見るか
LegalGPTとしての推奨契約1件ごとに埋めるシートです。Yesの数を数える表ではありません。経理部が第5項・第8項に即して判断するための事実を、抜けなく集めるための道具として使ってください。
表7 使用支配の契約チェックシート
| 確認項目 | 契約書で見る箇所 | 現場に聞くこと | 証拠資料 | 経理部へ渡す事実 |
|---|---|---|---|---|
| 対象資産・使用期間 | 目的条項、期間条項、別紙 | 実際の使用開始・終了時期 | 仕様書、機器一覧 | 資産の特定状況と使用期間 |
| 利用できる経済的利益 | 供給条項、数量条項 | 実績としての取得割合 | 供給実績、受入記録 | 契約上の権利と実績 |
| 他顧客の利用 | 専用・占有条項 | 他社利用の有無 | 供給者への照会記録 | 共用の範囲 |
| 生産物・成果物の帰属 | 成果物の帰属条項 | 副産物の扱い | 引渡記録 | 便益の帰属先 |
| 使用目的・使用方法の決定 | 目的条項、業務範囲 | 用途を決めているのは誰か | 指示記録 | 決定権者と根拠条項 |
| 稼働時期・稼働数量の決定 | 運転計画、発注方法 | 日々の指示の流れ | 発注データ、稼働記録 | 量と時期の決定権者 |
| 起動・停止の権限 | 運転条項、緊急時条項 | 停止指示の実例 | 運転日報 | 権限の所在と行使実績 |
| 配送先・供給先の決定 | 納入条項 | 指定の実態 | 配送記録 | 決定権者 |
| 顧客の変更権 | 変更手続条項 | 変更した実例 | 変更通知 | 変更可能な範囲 |
| 供給者の拒否権・承認権 | 拒否権、承認条項 | 拒否・不承認の実例 | 協議記録 | 形式的か実質的かの事実 |
| 安全基準・保守点検 | 安全条項、保守条項 | 介入の実態 | 保守報告書 | 権限の内容と目的 |
| 設計への関与 | 仕様書、設計図書 | 設計にどこまで関与したか | 要件定義書、議事録 | 関与の範囲と時期 |
| 第三者への指図権 | 再委託条項 | 実際の運転主体 | 委託契約 | 指図の可否 |
| 契約書と実態の差異 | — | 条項と運用の食い違い | ヒアリング記録 | 差異の内容(双方を併記) |
| 不明事項 | — | 未回答の質問 | 照会記録 | 未確定事項と判断への影響 |
ここで整理した「誰が何を決めているか」という情報は、新規契約の審査段階で拾えると効率が上がります。現行の審査フローの整理は契約審査の進め方とは?依頼受付から返却までの実務フローを整理を、審査項目への組み込みは新規契約の審査フローと受付票の見直しをご覧ください。
第13章 契約書と実際の運用が違う場合
使用支配の検討では、契約書の文言と現場の運用がずれている場面によく遭遇します。契約上は供給者が決めることになっているが実務では顧客が指示している、契約上は顧客の承認事項だが実質的に拒否できない、運転計画を形式上は供給者が作るが実際には顧客の発注量に従っている——いずれも珍しくありません。
ここで法務部が「実態が優先だから」と契約条項を無視して結論を出すことは避けてください。会計判断は経理部が行い、必要に応じて監査法人・公認会計士と協議して決定されます。法務部の役割は、契約上の権限と運用の事実を両方とも記録して渡すことです。
図解5 契約条項と運用実態が違う場合の確認フロー
差異があること自体は問題ではありません。問題になるのは、どちらか一方だけを記録して提出することです。
意思決定権や運用実態は、担当者の交代や業務プロセスの変更で動きます。判断根拠と確認資料をどこに蓄積するかを決めておくと、契約変更時の再確認が楽になります。継続管理の考え方は契約管理とは何か|なぜExcel管理では限界なのかを実務視点で解説を、記録項目の設計は契約台帳の作り方|最低限必要な項目一覧と実務で使える設計を参照してください。
第14章 使用支配の判断で起こりやすい誤り
表8 よくある誤りと正しい確認方法
| よくある誤り | なぜ誤りか | 正しい確認方法 |
|---|---|---|
| 専用設備なら顧客が支配している | 専用性は使用指図権の有無を決めない | 使用方法の決定権を個別に確認する |
| 全量取得なら顧客が支配している | 設例6-1は全量取得でもリースを含まないとされた | 経済的利益と使用指図権を分けて確認する |
| 供給者が操作していれば顧客は支配していない | 物理的な操作と意思決定権は別 | 誰が使用方法を決めているかを確認する |
| 自社従業員が操作していれば支配している | 操作の担い手は判断基準ではない | 決定権の所在を条項と実績で確認する |
| 起動・停止できれば必ず指図権がある | 稼働権は第8項(2)①の要素の一つにすぎない | 「顧客のみが」有する権利かを確認する |
| 使用目的を決めれば必ず指図権がある | 重要な意思決定は契約ごとに異なる | その資産の経済的利益に影響する決定かを見る |
| 契約時に使用方法が決まっていれば指図権はない | 第8項(2)の2つのルートがある | 稼働権と設計への関与を確認する |
| 顧客仕様で設計すれば必ず指図権がある | 外形・性能の仕様指定と使用方法の事前決定は別 | 設計が使用方法を決めているかを確認する |
| 安全基準があれば供給者が支配している | 保護のための制約か使用方法の決定かで異なる | 権限の目的と及ぶ範囲を確認する |
| 保守を供給者が行えばリースではない | 維持管理は使用方法の決定と別の問題 | 停止時期の決定者などを個別に確認する |
| 承認権があれば指図権がある | 形式的な承認にとどまる場合がある | 実質的に変更・拒否できるかを実績で確認する |
| 重要な意思決定は全契約で同じ | BC13項は契約により異なるとしている | 資産の性質と契約条件に即して見極める |
| 確認項目のうち3項目以上決めていれば指図権あり | そのような点数基準は存在しない | 個別の事実として整理し、判断は経理部に委ねる |
| 経済的利益と使用指図権を一体で判断する | 第5項は2つを別個の要件としている | それぞれ分けて事実を記録する |
| 特定された資産があれば使用支配がある | 特定された資産は前提要件にすぎない | 第5項の2要件を改めて確認する |
第15章 法務部向けチェックリスト
まとめ
資産の使用を支配しているかどうかは、経済的利益のほとんどすべてを享受する権利と、使用を指図する権利の両方から判断します。どちらか一方では足りません。
製品や電力を全量受け取っていることは、主として経済的利益の側の事実です。ASBJの公式設例が示すとおり、全量購入でありながら契約にリースは含まれないと判断される場合があります。また、誰が設備を物理的に操作しているかも決め手になりません。見るべきは、経済的利益に影響を与える使用方法を誰が決める権利を有しているかです。そして、どの意思決定が重要かは資産の性質と契約条件により契約ごとに異なるため、固定的なチェック項目や点数方式は使えません。
使用方法が契約締結時に決まっている場合でも、そこで検討は終わりません。顧客のみが資産を稼働する権利を有するとき、または顧客が使用方法を事前に決定するよう資産を設計したときには、使用を指図する権利が認められ得ます。安全基準や保守の権限が供給者にあることについても、それが資産を保護するための制約なのか、重要な使用方法そのものを決める権利なのかを区別してください。
法務部が担うのは、契約上の権限と運用の事実を整理して渡すことです。最終的な会計判断は経理部が行います。次は、契約書に書かれた年数とリース期間がなぜ一致しないのかという論点に進みます。
よくある質問(FAQ)
資産の使用を支配する権利とは何ですか
適用指針は、特定された資産の使用期間全体を通じて、顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、顧客が当該資産の使用を指図する権利を有する場合に、供給者から顧客に当該資産の使用を支配する権利が移転しているとしています。この2つは選択関係ではなく、いずれも満たす必要があります。
経済的利益をすべて受け取ればリースですか
そうとは限りません。経済的利益のほとんどすべてを享受する権利は2つの要件のうちの1つであり、これに加えて使用を指図する権利が必要だからです。ASBJの公式設例には、顧客が発電所の産出する電力のすべてを購入していながら、使用方法が契約で事前に定められ変更できず、顧客が設計にも関与せず稼働する権利も有しないため、使用を指図する権利がないとされ、契約にリースは含まれないと判断された例があります。
使用指図権とは何ですか
適用指針第8項は、顧客が使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合、または、使用方法に係る決定が事前になされており、かつ顧客のみが資産を稼働する権利を有しているか顧客が使用方法を事前に決定するよう資産を設計している場合にのみ、顧客が使用を指図する権利を有しているとしています。なお、どの意思決定が重要かは資産の性質および契約条件により契約ごとに異なるとされており、固定的な判断項目は置かれていません。
サプライヤーが設備を操作していれば顧客に使用指図権はありませんか
そうとは限りません。判断の対象は物理的な操作そのものではなく、経済的利益に影響を与える資産の使用方法を誰が決める権利を有しているかです。また、使用方法に係る決定が事前になされている場合には、適用指針第8項(2)①により、使用期間全体を通じて顧客のみが資産を稼働する権利を有している場合だけでなく、第三者に指図することにより資産を稼働させる権利を有している場合も確認します。したがって、供給者の従業員が実際に運転しているという事実だけで使用指図権の有無を決めることはできません。
使用方法が契約締結時に決まっている場合はどうなりますか
それだけで使用指図権がないとは判断できません。適用指針第8項(2)は、使用方法に係る決定が事前になされている場合であっても、使用期間全体を通じて顧客のみが資産を稼働する権利を有しているか第三者に指図することにより稼働させる権利を有しているとき、または顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように資産を設計しているときは、顧客が使用を指図する権利を有しているとしています。この2つのルートを確認してください。
顧客が設備を設計した場合は使用指図権がありますか
設計への関与があれば必ず認められるわけではありません。適用指針が定めているのは、顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように資産を設計している場合です。色、寸法、性能水準などの仕様を指定しているだけで直ちに第8項(2)②に該当するとはいえません。重要なのは、その設計によって使用期間全体を通じた資産の使用方法が事前に決定されているかであり、どの設計事項が使用方法に影響するかは資産の性質と契約条件に応じて個別に確認します。
安全基準や保守権限がサプライヤーにある場合はどう考えますか
それらの条項があること自体をもって、供給者が使用を指図しているとは判断できません。日本の適用指針には「保護権」に関する独立した定めは置かれていません。本記事では実務上の整理として、その権限が安全・保全等を目的とする制約なのか、それとも経済的利益に影響を与える重要な使用方法に関する意思決定権なのかを確認します。これは日本基準上の独立した「保護権テスト」ではありません。最終的には、第8項およびBC13項に沿って、資産の性質と契約条件に応じて事実を整理してください。
誰が使用を支配しているかは法務部が最終判断するのですか
本シリーズでは、会計基準上の最終判断は経理部が行い、必要に応じて監査法人・公認会計士と協議して決定するものと位置づけています。法務部が担うのは、契約上どのような権利義務が定められているか、実際に誰が何を決めているか、変更権や拒否権があるか、設計にどこまで関与したかといった事実を整理して提供することです。契約書の記載と運用が異なる場合は、どちらか一方ではなく双方を記録してください。
主な参照資料
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企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日修正)
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第25項、第26項 -
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日・2025年10月16日修正)
公式ページ:企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第4項(1)、第5項、第8項、BC12項、BC13項 -
企業会計基準適用指針第33号 設例(リースの識別に関する設例1から設例6)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式資料:企業会計基準適用指針第33号 設例(ASBJ公式PDF)
本文で要約した設例:設例5(ネットワーク・サービス)、設例6(電力) -
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表(ASBJ 公式サイト) -
企業会計基準適用指針 一覧(公表日・修正日の確認用)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/最終確認日:2026年8月9日
公式ページ:企業会計基準適用指針 一覧(ASBJ 公式サイト)
※本文中の設例は、ASBJ公式設例の事実関係と結論を要約したものです。適用指針は、設例に示されている会計処理について、実務を行うための手掛かりを与えるための例示であり、各企業のリースの実情等に応じて例示されていない会計処理も適当と判断される場合があることに留意する必要があるとしています。実際の判断にあたっては公式設例を直接ご確認ください。
※設例PDFは2024年9月13日公表版です。本記事では、2026年8月9日時点でASBJ公式サイトに掲載されている当該設例を参照しています。適用指針本文については、2025年10月16日までの修正を反映した現行版を優先しています。
本記事は2026年8月9日時点で公表されている資料に基づいています。個別の契約について使用を支配する権利が移転しているか否かの判断は、契約条件と運用実態により異なります。会計基準上の最終的な判断については、経理部門および監査法人・公認会計士にご確認ください。
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次回予告
第8話では、リース期間を扱います。契約書に「5年」と書かれていても、会計基準上のリース期間が5年になるとは限りません。解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間などを加えて決定するためです。更新条項・解約条項を法務部がどう読むかを整理します。
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