契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務
オフィスの更新契約に法務が押印した。面積を少し広げる覚書も同時に交わした。賃料はCPI連動条項どおりに改定された。——このうち、経理部へ連絡すべきものはどれでしょうか。
答えは「全部」です。ただし、連絡すればよいというものでもありません。これらは会計上、それぞれ違う入口に入るからです。
新リース会計基準の契約変更には、少なくとも3つの異なる類型があります。当初の契約条件になかった変更を新たに合意した場合、契約条件は変えていないが見直しが生じ得る場合、そして当初から契約にあった仕組みどおりに数値が動いた場合です。「契約が変わった」という一言では、経理部は処理を判断できません。
この記事では、何が変わったのかを構造化して渡すための整理方法を解説します。法務部が会計処理を決める必要はありません。ただ、原契約、変更覚書、権利義務、オプション、対象資産、発効日、価格根拠資料を正確に把握できるのは法務部だからこそです。
この記事の結論
- 「リースの契約条件の変更」とは、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲またはリースの対価の変更をいいます(リース会計基準第24項)。
- 契約条件の変更が生じた場合、借手は、変更前のリースとは独立したリースとしての会計処理を行うか、リース負債の計上額の見直しを行います。複数の要素があるときは両方を行うことがあります(同第39項)。
- 独立したリースとして扱われるには、原資産の追加による範囲の拡大と独立価格に基づく対価の増額という2要件をいずれも満たす必要があります(リース適用指針第44項)。
- 契約期間のみを延長する変更は、原資産の追加に該当しないため、独立したリースの要件を満たしません(同BC73項)。
- 面積の縮小、台数の減少、契約期間の短縮は、リースの範囲が縮小する変更として整理されます(同BC74項)。
- 契約条件を変更していなくても、借手の統制下にあり、かつオプションに関する借手の決定に影響を与える重要な事象・状況が生じたときは、リース期間を見直します(会計基準第41項)。市場動向の変化だけで常に見直すという趣旨ではありません。
- 当初から契約にあったCPI連動条項どおりに賃料が変わった場合は、契約条件の変更を伴わないリース料の変更として整理され得ます(リース適用指針第47項から第49項)。
- 「更新した」という一言では足りません。自動更新、延長オプションの行使、新たな期間延長の合意、再契約は、それぞれ性質が異なります。
- 法務部は変更前後の権利義務・対象資産・期間・対価・発効日を整理し、会計上の処理は経理部が判断します。
本記事は「新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務」全15話の第12話です。
このシリーズは、新リース会計基準への対応において法務部・契約管理部門が担うことになる契約調査と契約管理の実務を、順を追って解説することを目的としています。
無料・時短・仕組み化の3つから選ぶ
シリーズ全15話の構成
| 話数 | 記事タイトル | その記事で分かること |
|---|---|---|
| 第1話 | 新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わる?|2027年適用に向けた契約対応の全体像 | シリーズ全体像と、法務部が担う役割の範囲 |
| 第2話 | 新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール | 適用時期・対象企業・準備工程の考え方 |
| 第3話 | リース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」 | 契約がリースを含むかを判断する枠組み |
| 第4話 | 埋込リースとは?|業務委託・物流・IT契約に潜むリースの見つけ方 | サービス型契約に含まれるリースの探し方 |
| 第5話 | 新リース会計基準で調査すべき契約書は?|法務部の契約棚卸しの進め方 | 契約母集団の設定と棚卸しの実務手順 |
| 第6話 | 「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準 | 特定された資産と、供給者側の代替権の見方 |
| 第7話 | 資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法 | 使用の支配・経済的利益・使用指図権の確認 |
| 第8話 | リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方 | リース期間と、更新・解約条項の読み方 |
| 第9話 | 契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理 | 契約書から抽出すべき料金情報の範囲 |
| 第10話 | リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェック | リース部分と非リース部分の区分の論点 |
| 第11話 | オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント | 不動産賃貸借契約に固有の調査ポイント |
| 第12話 | 契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務(現在の記事) | 契約変更・更新時の再判定と管理実務 |
| 第13話 | 新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理 | 契約台帳の追加項目と証跡の残し方 |
| 第14話 | 新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項 | 新規契約審査への確認項目の組み込み方 |
| 第15話 | 新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること | 適用開始までの最終チェックリスト |
第1章 「契約が変わった」は全部同じではない
実務で「契約変更がありました」と報告が上がってきたとき、その中身は大きく3つに分かれます。まずこの地図を持ってください。
図解1 変更・事象の3分類
- A|リースの契約条件の変更
当初の契約条件の一部ではなかった、リースの範囲またはリースの対価の変更(リース会計基準第24項)。
例:新しいフロアの追加、車両の追加、一部区画の返却、新たな合意による契約期間の延長・短縮、当初契約になかった賃料変更の合意 - B|契約条件は変更していないが、見直しが生じ得るもの
契約書は変えていないが、リース負債の計上額の見直しが必要になる場合(同第40項から第42項)。
例:当初から存在した延長オプションを実際に行使した、借手の統制下にある重要な事象によりオプションの評価が変わった、購入オプションの判定が変わった、残価保証の支払見込額が変わった - C|当初契約の仕組みどおりに数値が動いたもの
当初契約にある指数・レート連動条項に従って賃料が変動した場合など(リース適用指針第47項から第49項)。
AとBとCは、会計上の入口が異なります。いずれも経理部への連絡は必要ですが、「契約変更がありました」とだけ伝えると、経理部はどの入口の話なのか判断できません。法務部が担うのは、何が、いつ、どのように変わったのかを構造化して渡すことです。
第2章 「リースの契約条件の変更」とは何か
会計基準上の定義会計基準は「リースの契約条件の変更」を、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲又はリースの対価の変更と定義しています。例示として、1つ以上の原資産を追加もしくは解約することによる原資産を使用する権利の追加もしくは解約、または契約期間の延長もしくは短縮が挙げられています(リース会計基準第24項)。
この定義で決定的に重要なのが、「当初の契約条件の一部ではなかった」という限定です。当初から契約に組み込まれていた仕組みが作動しただけの場合は、ここには当たりません。
表1 契約条件の変更に当たり得るもの/当たらない可能性があるもの
| 変更の内容 | 契約条件の変更に当たり得るか | 法務部が確認すること |
|---|---|---|
| 原資産の追加(フロア、車両、設備等) | 当たり得る(第24項の例示) | 追加された資産、数量、対価の増額の根拠 |
| 原資産の解約・一部返却 | 当たり得る(第24項の例示) | 返却した資産、範囲の縮小幅、対価の変化 |
| 新たな合意による契約期間の延長 | 当たり得る(第24項の例示) | 延長の合意日、延長後の期間、対価の変化 |
| 契約期間の短縮 | 当たり得る(第24項の例示) | 短縮の合意日、短縮後の期間 |
| 当初契約になかった賃料変更の合意 | 当たり得る(対価の変更) | 変更前後の金額、合意日、変更理由 |
| 当初から存在した延長オプションの行使 | 当たらない可能性がある(当初の契約条件の一部) | オプション条項の内容、行使の意思表示日 |
| 当初契約のCPI連動条項による賃料改定 | 当たらない可能性がある(当初の契約条件の一部) | 連動条項の内容、改定の算定根拠 |
| 当初契約の自動更新条項による更新 | 個別の確認が必要 | 自動更新条項の内容、更新の経緯 |
この表は変更を分類して記録するための入口であり、会計処理を確定するものではありません。「当たり得る/当たらない可能性がある」という表現にとどめているのは、最終的な判断が経理部の領域だからです。
第3章 契約がリースを含むかの再確認はいつ必要か
会計基準上の取扱い会計基準第27項は、契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直さないとしています。
ここを2方向で誤読しないでください。
誤読1|「契約条件が変わったら、契約全体をゼロからすべて再判定する」
第27項は、変更がない限り見直さないという定めです。裏返して「変更があれば毎回すべてを最初から検討し直す」と読むのは行き過ぎです。何を再検討すべきかは、変更の内容によって異なります。
誤読2|「契約書を変えていないのだから、何も起きない」
リースの識別の見直しは生じなくても、リース期間やリース料の見直しは生じ得ます(第40項から第42項)。これは第13章で扱います。
法務実務としては、次のような変更があった場合に、リースの識別に影響し得る変更として経理部へ内容を渡すのが実際的です。
- 対象資産そのものが変わった(別の設備・別の区画に入れ替わった)
- 原資産が追加された、または一部が対象から外れた
- 供給者による資産の代替に関する条項が変わった
- 使用できる範囲・場所・時間帯が変わった
- 提供される役務の内容が変わった(保守・運転・管理の追加や削除)
- 使用方法の決定権に関する定めが変わった
リースの識別そのものの枠組みはリース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」で解説しています。
第4章 契約条件の変更が生じたときの2つのルート
会計基準上の取扱い会計基準第39項は、借手は、リースの契約条件の変更が生じた場合、次のいずれかを行うとしています。
- (1) 変更前のリースとは独立したリースとしての会計処理
- (2) リース負債の計上額の見直し
そしてただし書きが重要です。「リースの契約条件の変更に複数の要素がある場合、これらの両方を行うことがある」とされています。1本の変更覚書に対して会計処理が1つとは限らないということです。
図解2 契約条件の変更が生じたときの分岐
法務部がこの分岐を判定する必要はありません。判定に必要な事実(追加された資産、範囲の変化、対価の増減、価格根拠資料)を揃えて渡すことが役割です。なお、リース負債や使用権資産の測定方法、割引率の取扱いは本記事では扱いません。
第5章 独立したリースになる2つの要件
適用指針上の判断要素適用指針第44項は、リースの契約条件の変更が次の(1)および(2)のいずれも満たす場合、借手は当該変更を独立したリースとして取り扱うとしています。
図解3 独立したリースの2要件
- 要件1|範囲の拡大
1つ以上の原資産を追加することにより、原資産を使用する権利が追加され、リースの範囲が拡大されること - 要件2|独立価格に基づく対価の増額
借手のリース料が、範囲が拡大した部分に対する独立価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること
この2つはAND条件です。片方だけでは独立したリースになりません。
要件2の「特定の契約の状況に基づく適切な調整」について、ASBJは、例えば類似の資産を顧客にリースする際に生じる販売費を貸手が負担する必要がない場合に借手に値引きを行うとき、独立価格を値引額について調整することが考えられるとしています(リース適用指針BC73項)。
法務部としては、要件1については「何が追加されたのか」、要件2については「増額分の根拠資料があるか」を押さえます。とくに要件2は、追加部分だけの見積書、単体の料金表、類似取引の価格といった資料の有無が確認の中心になります。独立価格の考え方はリース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェックで扱っています。
第6章 資産・面積を追加した場合
フロアの追加、車両の増車、サーバーの増設、設備の追加——実務で最も頻繁に生じる変更です。
注意|「追加したから独立したリース」ではありません
第44項は2要件のAND条件です。原資産が追加されても、対価の増額が独立価格に基づくものでなければ、要件2を満たしません。たとえば、既存契約の値引きとセットで追加分の賃料が相場より大幅に低く設定されている場合などは、個別の検討が必要になります。
この場合は独立したリースにはならず、既存リースのリース負債の計上額の見直しというルートに入ります(適用指針第45項)。
法務部が追加の覚書から拾うべき情報は次のとおりです。
- 追加された原資産の特定情報(区画番号、面積、車両番号、機器の型式・台数)
- 追加部分の使用開始日(覚書の締結日とは別に記録する)
- 増額される対価の金額と算定根拠
- 追加部分だけの見積書・料金表があるか
- 既存部分の条件に変更があるか(同時に賃料改定や期間変更をしていないか)
- 追加に伴う一時金(礼金、工事負担金等)の有無
第7章 一部を返却・解約・縮小した場合
一部フロアの返却、車両の減車、契約期間の短縮など、リースの範囲が縮小する変更です。
適用指針上の取扱い適用指針第45項は、独立したリースとして会計処理されない変更のうち、リースの範囲が縮小されるものについて、リースの一部または全部の解約を反映するように使用権資産の帳簿価額を減額し、使用権資産の減少額とリース負債の修正額とに差額が生じた場合は当該差額を損益に計上するとしています。
ASBJは、このようなリースの契約条件の変更に含まれるものとして、不動産の賃貸借契約においてリースの対象となる面積が縮小される場合や契約期間が短縮される場合等を挙げています(同BC74項)。
表2 範囲が縮小する変更で法務部が拾う情報
| 変更の内容 | 拾う情報 | 確認資料 |
|---|---|---|
| 一部区画・フロアの返却 | 返却する範囲(面積・区画番号)、返却日 | 変更覚書、区画図 |
| 車両・機器の台数減少 | 返却する個体の特定情報、返却日 | 変更覚書、機器一覧 |
| 契約期間の短縮 | 短縮後の終期、短縮の合意日 | 変更覚書 |
| 対価の減額 | 減額後の金額、減額の適用開始日 | 変更覚書、請求書 |
| 返却に伴う負担 | 原状回復義務の範囲、違約金の有無 | 原契約、変更覚書 |
| 残る部分の条件 | 残存部分の範囲と条件に変更があるか | 変更覚書、原契約 |
範囲が縮小する変更では、使用権資産の減額と損益への影響が生じ得ます。そのため、返却の範囲と時期を正確に記録することが、後の会計処理の前提になります。ただし、その測定と計上は経理部が行います。
第8章 契約期間を延長した場合
ここは実務で誤りが集中する論点です。
注意|契約期間のみを延長する変更は、独立したリースになりません
ASBJは明確に述べています。契約期間のみが延長されるリースの契約条件の変更は、原資産の追加に該当しないため、第44項(1)の要件を満たさない(リース適用指針BC73項)。
つまり、「3年間延長する」という合意は、新しいリースが1本増えるのではなく、既存リースのリース負債の計上額の見直しというルートに入ります。
ASBJは、第45項が適用される変更のうち範囲が縮小されるもの以外の例として、リース料の単価のみが変更される場合や契約期間が延長される場合等を挙げています(同BC75項)。この場合、変更前のリースは解約されておらず、借手は引き続き変更前のリースにおいて特定されていた原資産を使用する権利を有すると考えられるためです。
法務部が延長の合意から拾うべき情報は次のとおりです。
- 合意日と発効日(適用指針は「リースの契約条件の変更の発効日」を、契約の両方の当事者がリースの契約条件の変更に合意した日と定義しています。同第4項(10))
- 延長前の終期と延長後の終期
- 延長期間中の対価(据置きか、改定があるか)
- 延長に伴う一時金(更新料等)の有無
- その延長が、当初契約の延長オプションの行使なのか、新たな合意なのか
- 延長と同時に他の変更(面積・賃料等)を合意していないか
最後から2番目の項目が分岐点です。当初契約にあったオプションを行使しただけなのか、当初契約になかった延長を新たに合意したのかで、入口が変わり得ます。この区別は第12章で詳しく扱います。
第9章 賃料・リース料だけを変更した場合
範囲は変えず、対価だけを変更するケースです。賃料の増額改定、値下げ交渉の結果、料金体系の変更などが該当します。
ASBJは、範囲が縮小されるもの以外の変更の例としてリース料の単価のみが変更される場合を挙げており(リース適用指針BC75項)、この場合も既存リースのリース負債の計上額の見直しというルートに入ります。
ここで区別が必要です。賃料が変わったという事実は同じでも、次の2つは性質が異なります。
- 当初契約になかった変更を新たに合意した → リースの契約条件の変更(第24項)
- 当初契約のCPI連動条項どおりに改定された → 契約条件の変更を伴わないリース料の変更として整理され得る(適用指針第47項(3)、第48項)
法務部としては、その賃料変更が何を根拠に生じたのかを必ず記録してください。金額だけを渡すと、経理部はどちらの入口か判断できません。
表3 対価の変更で拾う情報
| 確認項目 | 拾う情報 |
|---|---|
| 変更の根拠 | 新たな合意か、当初契約の条項の作動か |
| 根拠条項 | 原契約の何条に基づくか(条項がある場合) |
| 変更前後の金額 | 月額・年額、内訳(賃料・共益費等の別) |
| 適用開始日 | いつから新しい金額が適用されるか |
| 合意日 | 両当事者が合意した日 |
| 範囲の変化の有無 | 面積・台数・期間に変更がないことの確認 |
| 遡及適用の有無 | 過去に遡って適用される定めがあるか |
| 一時金の有無 | 変更に伴う金銭の授受があるか |
第10章 1本の覚書に複数の変更が入っている場合
実務では、1通の変更覚書に複数の変更がまとめられることがよくあります。「1階部分を追加し、あわせて3階部分は契約期間を短縮する」といった内容です。
会計基準上の取扱い会計基準第39項ただし書きは、リースの契約条件の変更に複数の要素がある場合、独立したリースとしての会計処理とリース負債の計上額の見直しの両方を行うことがあるとしています。
ASBJは、両方を行うことがある場合の例を具体的に示しています。不動産の賃貸借契約において、独立価格であるリース料によりリースの対象となる面積を追加すると同時に、既存のリースの対象となる面積について契約期間を短縮する場合です。この場合、前者について独立したリースとして会計処理を行い、後者についてリース負債の計上額の見直しを行うとされています(同BC49項)。
図解4 複数要素を含む覚書の分解
「覚書1通=変更1件」として台帳に1行だけ記録すると、後から分解できなくなります。変更点ごとに行を分けて記録するのが安全です。
第11章 「更新した」で済ませない|更新の4類型
法務部から経理部への連絡で最も情報が落ちやすいのが「更新しました」という一言です。更新には、少なくとも次の4つの型があります。
表4 更新の4類型と確認事項
| 類型 | 内容 | 拾う情報 | 整理上の位置づけ |
|---|---|---|---|
| (1) 自動更新条項による更新 | 更新拒絶の通知がないため、当初契約の定めにより更新された | 自動更新条項の内容、更新拒絶権者、通知期限、更新後の条件 | 当初契約に含まれていた仕組み。当初のリース期間の判断にどう反映していたかを確認する |
| (2) 当初契約の延長オプションの行使 | 当初契約にあった延長オプションを借手が行使した | オプション条項、行使の意思表示日、延長後の期間 | 当初の契約条件の一部。第42項の解約不能期間の変更に関わり得る |
| (3) 新たな合意による期間延長 | 当初契約になかった延長を、新たに合意した | 合意日、延長後の期間、対価の変化 | リースの契約条件の変更(第24項)に当たり得る |
| (4) 再契約(定期借家等) | 当初契約が終了し、新たな契約を締結した | 旧契約の終了日、新契約の締結日・開始日・条件 | 新契約としてリースの識別から確認する必要があり得る |
この4類型は、法務部が会計上の結論を出すための分類ではありません。いずれの類型でも、経理部が当初のリース期間の判断にその期間を含めていたかどうかによって、処理が変わり得るためです。
たとえば(2)の延長オプション行使でも、当初からその延長期間をリース期間に含めていた場合と、含めていなかった場合とでは扱いが異なります。法務部は「どの類型か」と「関連する条項の内容」を渡し、判断は経理部に委ねてください。
第12章 当初からあったオプションを行使した場合
会計基準上の取扱い会計基準第42項は、借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、延長オプションの行使等により借手の解約不能期間に変更が生じた結果、借手のリース期間を変更するときには、リース負債の計上額の見直しを行うとしています。
ASBJは、借手の解約不能期間に変更が生じる例として、過去に借手のリース期間の決定に含めていなかった延長オプションを借手が行使する場合等を挙げています(同BC52項)。
ここから読み取れることは明確です。当初からあったオプションの行使は「契約条件の変更」ではないが、リース負債の見直しは生じ得るということです。「契約書を新しく作っていないから連絡不要」とはなりません。
法務部が確認・記録すべき事項は次のとおりです。
- 行使したオプションの種類(延長/解約/購入)
- そのオプションが定められた原契約の条項
- 行使の意思表示を行った日と、その方法(書面・通知書等)
- 行使により変わる期間(変更前の終期と変更後の終期)
- 行使に伴う対価の変化
- 相手方の承諾が必要だったか(借手の一方的な行使か、合意が必要か)
最後の項目は重要です。相手方の承諾を要する形で条件を新たに詰めた場合、実質的には新たな合意である可能性があります。条項の文言と実際の手続の双方を記録してください。
なお、購入オプションの行使についての判定に変更がある場合も、リース期間に変更がなくリース料に変更がある状況の1つとして挙げられています(リース適用指針第47項(1))。ASBJは、購入オプションを行使することが合理的に確実であるかどうかの見直しについても、延長オプション・解約オプションと同様に、会計基準第41項(1)および(2)に示す重要な事象および重要な状況が生じたときに見直しを行うことになると考えられるとしています(同BC78項)。
第13章 契約書を変えていなくても見直しが生じる場合
ここが第12話で最も見落とされやすい論点です。契約書に一切手を触れていなくても、リース期間の見直しが生じ得ます。
会計基準上の取扱い会計基準第41項は、借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、次の(1)および(2)のいずれも満たす重要な事象または重要な状況が生じたときに、延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかについて見直し、借手のリース期間を変更し、リース負債の計上額の見直しを行うとしています。
- (1) 借手の統制下にあること
- (2) 延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与えること
「借手の統制下にある」という要件が置かれた理由
ASBJは明確に説明しています。借手の統制下にあるという要件を設けたのは、借手が市場動向による事象又は状況の変化に対応して、延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかについて見直すことを要しないようにするためである(リース会計基準BC51項)。
つまり、市場賃料が上がった・下がったというだけで毎回見直すことを求める趣旨ではありません。「経済環境が変わったから再判定が必要」という理解は正確ではありません。
ASBJは、重要な事象または重要な状況の例として次の4つを挙げています(同BC51項)。
表5 リース期間の見直しにつながり得る事象・状況
| ASBJが挙げる事象・状況の例 | 法務部・関係部門が把握し得る場面 |
|---|---|
| リース開始日に予想されていなかった大幅な賃借設備の改良で、延長オプション、解約オプションまたは購入オプションが行使可能となる時点で借手が重大な経済的利益を有すると見込まれるもの | 大規模改装の決裁、工事請負契約の締結、設備投資の稟議 |
| リース開始日に予想されていなかった原資産の大幅な改変 | 設備の大幅な変更、建物の改変に関する合意 |
| 過去に決定した借手のリース期間の終了後の期間に係る原資産のサブリースの契約締結 | 転貸契約の締結(転貸の可否は原契約の確認事項) |
| 延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことに直接的に関連する借手の事業上の決定(例えば、原資産と組み合わせて使用する資産のリースの延長の決定、原資産の代替となる資産の処分の決定、使用権資産を利用している事業単位の処分の決定) | 拠点統廃合の決定、事業譲渡の決定、関連設備のリース延長の決定 |
上表の右列は、これらの事象を社内のどの場面で把握し得るかを整理したLegalGPTによる実務例であり、ASBJが定めたものではありません。該当するかどうかの判断は経理部が行います。法務部・契約管理部門としては、これらに類する決定があったときに経理部へ情報が届く経路を作っておくことが実務上の要点です。
第14章 CPI連動・市場賃料の改定があった場合
当初契約に指数・レート連動条項があり、その条項どおりに賃料が変わった場合です。
適用指針上の取扱い適用指針第47項は、リースの契約条件や借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある状況として、次のようなものを挙げています。
- (1) 原資産を購入するオプションの行使についての判定に変更がある場合
- (2) 残価保証に基づく支払見込額に変動がある場合
- (3) 指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料に変動がある場合
そして第48項は、借手は、指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料について、当該指数またはレートが変動し、そのことにより今後支払うリース料に変動が生じたときにのみ、残りの借手のリース期間にわたり、変動後の指数またはレートに基づきリース料およびリース負債を修正するとしています。
あわせて第9話・第11話で扱ったとおり、適用指針第24項は、市場における賃料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料も、指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料に含まれるとしています。
法務部の実務上の要点
賃料改定の通知や合意書を受け取ったら、それが原契約のどの条項に基づくものかを必ず記録してください。「協議のうえ改定」という形式でも、原契約に市場賃料の変動を反映する旨の定めがあれば、当初契約の仕組みが作動したものとして整理され得ます。一方、原契約に根拠がなく新たに合意した改定であれば、契約条件の変更に当たり得ます。
形式(通知書か合意書か)ではなく、根拠条項の有無が整理の分かれ目になります。
第15章 ASBJ設例15|変更の種類で処理の入口が変わる
適用指針は、リースの契約条件の変更について設例15「リースの契約条件の変更」を置いており、設例15-1から設例15-5までが示されています。参照関係は条文上も明確です。第44項(独立したリースとして取り扱う場合)が参照するのは設例15-1、第45項(独立したリースとして会計処理が行われない場合)が参照するのは設例15-2から設例15-5です。
この5つを並べると、「何が変わったか」によって処理の入口が分かれる構造が見えてきます。
表6 ASBJ設例15-1から設例15-5の比較
| 設例 | 変更前の契約 | 何が変更されたか | 会計上の整理 | 法務部が見るポイント |
|---|---|---|---|---|
| 設例15-1 独立したリースとなる場合 | 事務所スペース2,000㎡/借手のリース期間10年 | X6年4月1日に、残り5年間について同じ建物の3,000㎡を追加することに合意(追加部分の使用開始日はX6年9月30日)。追加リース料は追加スペースの市場賃料に契約状況を反映した調整を加えたもの | 第44項の2要件を満たすため、追加した3,000㎡を独立したリースとして取り扱う。既存2,000㎡の会計処理は修正しない | 追加リース料が市場賃料に基づくものかを示す資料の有無。合意日と使用開始日が異なる点にも注意 |
| 設例15-2 縮小と単価増額が併存 | 5,000㎡/借手のリース期間10年/年間リース料50,000千円 | X6年4月1日に2,500㎡へ縮小すると同時に、年間リース料を30,000千円へ変更 | 事務所スペースの縮小とリース料単価の増額を別々の変更要素として会計処理する | 「面積は減ったのに賃料が上がった」という一見不自然な変更も、要素を分けて記録する |
| 設例15-3 拡大と縮小の両方 | 2,000㎡/借手のリース期間10年/年間リース料100,000千円 | X6年4月1日に1,500㎡を追加して合計3,500㎡とし、年間リース料を150,000千円へ変更すると同時に、契約期間を10年から8年へ短縮 | 追加部分の対価は独立価格に適切な調整を加えた金額分だけ増加したものではないため、追加1,500㎡は独立したリースにはならない。期間短縮による範囲縮小と、スペース追加による範囲拡大を別々に処理する | 資産を追加していても、増額の根拠資料がなければ独立したリースにならない。1通の覚書に拡大と縮小が同居し得る |
| 設例15-4 契約期間の延長 | 借手のリース期間10年/年間リース料100,000千円 | X7年4月1日に契約期間を4年間延長することに合意。年間リース料は変更しない | 契約条件の変更に当たるが、原資産追加による範囲拡大ではなく範囲縮小でもない。独立したリースとはせず、既存リースについて変更後の条件を反映する | 「期間を延ばした」という変更は、新しいリースが増えるのではなく既存リースの見直しになる |
| 設例15-5 リース料のみの変更 | 5,000㎡/借手のリース期間10年/年間リース料100,000千円 | X6年4月1日に、残り5年間の年間リース料を95,000千円へ減額することに合意 | 原資産追加による範囲拡大でも範囲縮小でもなく、契約上のリース料のみの変更として扱われる | 対象資産も期間も変わっていなくても、契約条件の変更として整理される場合がある |
この5つから、法務部として押さえておきたい結論は次の4点です。
- 資産を追加しただけでは独立したリースとは限りません。設例15-1は追加リース料が市場賃料に基づくため独立したリースとなりましたが、設例15-3では対価の増額が独立価格に基づかないため独立したリースになっていません。増額の根拠資料があるかどうかが分かれ目です。
- 契約期間を延長しただけでは独立したリースになりません。設例15-4がそのケースです。原資産の追加を伴わないためです。
- 1通の変更覚書に複数の変更要素があり得ます。設例15-2は縮小と単価増額、設例15-3は拡大と縮小が同時に生じており、いずれも要素ごとに分けて処理されています。覚書1通を台帳の1行にまとめないでください。
- 対象資産が変わらず、リース料だけを変更する場合も契約条件の変更に当たり得ます。設例15-5がそのケースです。「面積も期間も変えていないから軽微な変更」とは扱えません。
※上表はASBJ設例15-1から設例15-5の前提条件と会計上の整理を要約したものです。本記事は法務部の実務を対象としているため、リース負債および使用権資産の具体的な修正額、現在価値の算定、割引率の取扱いといった計算過程は扱っていません。各設例の面積・期間・金額は当該設例の前提条件であり、一般的な基準を示すものではありません。実際の判断にあたっては、公式設例を直接ご確認ください。適用指針は、設例について、具体的な会計処理や開示の実務を行うための手掛かりを与えるための例示であり、各企業のリースの実情等に応じて例示されていない会計処理も適当と判断される場合があることに留意する必要があるとしています。
第16章 「契約条件の変更」と「変更を伴わない見直し」の対比
適用指針は、契約条件の変更を伴わないリース負債の見直しについて設例16を置いています。第15章で見た設例15とは扱う場面が異なります。この対比を押さえると、社内の情報連携が設計しやすくなります。
図解5 2つの入口の対比
- 入口A|リースの契約条件の変更(会計基準第39項/適用指針第44項・第45項)
当初の契約条件の一部ではなかった範囲・対価の変更を新たに合意した場合
→ 独立したリースとしての会計処理、またはリース負債の計上額の見直し
→ 法務部が変更覚書・変更契約から情報を拾う場面 - 入口B|契約条件の変更を伴わないリース負債の見直し(会計基準第40項から第42項/適用指針第46項から第49項)
契約書は変えていないが、リース期間やリース料に変更が生じる場合
→ リース負債の計上額の見直し
→ 法務部がオプション行使の記録・社内決裁資料・指数改定の通知から情報を拾う場面
入口Bは契約書が動かないため、契約審査のフローには乗ってきません。だからこそ、オプション行使、拠点統廃合の決定、大規模改装の決裁、賃料改定通知といったイベントを別経路で拾う仕組みが必要になります。ここが第12話の実務上の核心です。
なお、適用指針は、リースの契約条件の変更およびリースの契約条件の変更を伴わないリース負債の見直しのいずれについても、使用する割引率に関する定めを置かないこととしたと説明しています(リース適用指針BC76項、BC79項)。割引率を含む測定の実務は経理部の領域であり、本記事の範囲外です。
第17章 どこで変更を検知するか
LegalGPTとしての推奨契約変更は、法務部だけを通って発生するわけではありません。事業部が直接覚書を交わすこともあれば、総務が更新手続を進めることもあります。検知漏れを防ぐには、どの部署のどの動きが変更に結びつくかを事前に洗い出しておく必要があります。
表7 変更・事象の検知ポイント
| 検知ポイント | 拾える変更・事象 | 主な所管 | 経理部へ渡す情報 |
|---|---|---|---|
| 変更覚書・変更契約の締結 | 範囲の追加・縮小、期間の変更、対価の変更 | 法務、事業部 | 変更内容、発効日、対象資産 |
| 更新契約の締結 | 期間の延長、再契約 | 法務、総務 | 更新の類型、更新後の条件 |
| オプション行使の通知 | 延長・解約・購入オプションの行使 | 法務、総務、事業部 | 行使日、根拠条項、変更後の期間 |
| 更新拒絶・解約の通知 | 期間の短縮、契約の終了 | 法務、総務 | 通知日、終了予定日 |
| 賃料改定の通知・合意 | 対価の変更 | 総務、経理 | 根拠条項の有無、変更前後の金額 |
| 請求金額の変動 | 気づいていない変更の兆候 | 経理 | 変動の原因の照会結果 |
| 大規模改装・設備投資の決裁 | 第41項の事象に当たり得る決定 | 施設管理、経営企画 | 決裁日、投資内容、対象物件 |
| 拠点の統廃合・移転の決定 | 第41項の事象に当たり得る決定 | 経営企画、事業部 | 決定日、対象拠点、実施予定 |
| 転貸(サブリース)の契約締結 | 第41項の事象に当たり得る決定 | 法務、総務 | 締結日、転貸期間、対象範囲 |
| 機器・車両の増減の実績 | 覚書を伴わない範囲の変化 | 購買、事業部、IT | 増減の内容と時期、契約上の根拠 |
| 組織再編・事業譲渡 | 契約当事者の変更、事業単位の処分 | 法務、経営企画 | 再編の内容と発効日 |
| 原契約に定める期限の到来 | 更新・解約の判断時期 | 法務、総務 | 期限管理表の更新状況 |
この表はLegalGPTによる実務上の整理であり、ASBJが定めたものではありません。とくに下段の4つ(改装決裁、統廃合の決定、転貸、組織再編)は契約書が動かないため、契約審査のフローでは検知できません。別経路の設計が必要です。
第18章 変更情報シートに何を書くか
LegalGPTとしての推奨変更1件ごとに埋めるシートです。会計処理を選ぶための判定表ではありません。経理部が第39項・第44項・第45項・第40項から第42項に即して判断するための事実を、抜けなく集めるための道具として使ってください。
表8 契約変更・事象の情報シート
| 分類 | 記入項目 | 記入内容 | 証拠資料 |
|---|---|---|---|
| 基本情報 | 契約ID/物件・資産名/相手方 | 台帳上の識別情報 | 原契約、契約台帳 |
| 基本情報 | 原契約の締結日・開始日・終期 | 変更前の基本条件 | 原契約 |
| 変更の入口 | 3分類のいずれか | A:契約条件の変更/B:契約条件の変更を伴わない事象/C:当初契約の仕組みの作動 | 変更覚書、通知書、決裁資料 |
| 変更の入口 | 根拠条項の有無 | 原契約の何条に基づくか、または新たな合意か | 原契約、変更覚書 |
| 日付 | 合意日/発効日/適用開始日 | 3つを区別して記録する | 変更覚書、通知書 |
| 範囲の変化 | 追加された原資産 | 区画番号、面積、台数、型式 | 変更覚書、別紙、図面 |
| 範囲の変化 | 減少・返却された原資産 | 同上、返却日 | 変更覚書、返還記録 |
| 範囲の変化 | 拡大・縮小の別 | 拡大/縮小/変化なし/両方 | — |
| 期間 | 変更前後の終期 | 延長・短縮の内容 | 変更覚書 |
| 期間 | オプション行使の有無 | 種類、根拠条項、行使日、相手方の承諾の要否 | 通知書、原契約 |
| 対価 | 変更前後の金額 | 賃料・共益費等の内訳を含む | 変更覚書、請求書 |
| 対価 | 増減額の算定根拠 | 独立価格に関する資料の有無 | 見積書、料金表、類似契約 |
| 対価 | 一時金の有無 | 更新料、礼金、違約金、工事負担金等 | 変更覚書、精算書 |
| 複数要素 | 変更点の一覧 | 1通の覚書に含まれる変更点をすべて列挙 | 変更覚書 |
| 第41項関連 | 該当し得る事象・決定の有無 | 改装決裁、統廃合、転貸、事業上の決定など | 稟議書、決裁資料、契約書 |
| その他 | リース識別に影響し得る変更 | 対象資産の入替え、代替権、役務内容、決定権の変化 | 変更覚書、仕様書 |
| 管理 | 未確定事項/資料の所在/経理部への提出日 | 不明点と提出記録 | 照会記録 |
ここで整理した情報は、契約台帳へ反映して初めて継続的に使えるようになります。変更履歴をどう持つかは新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理で扱います。台帳の基本項目は契約台帳の作り方|最低限必要な項目一覧と実務で使える設計を参照してください。
第19章 法務部・事業部・経理部の役割分担
自社の体制に応じて検討すべき事項以下は、ASBJが部署別に定めたものではなく、本シリーズが想定する標準的な社内実務です。実際の分担は自社の会計方針と社内分掌に従ってください。
- 法務部・契約管理部門:変更覚書・更新契約・通知書の内容、原契約との差分、根拠条項の有無、対象資産、期間、対価、発効日、オプション行使の記録、複数要素の分解を整理する
- 事業部・総務・施設管理:実際の使用範囲の変化、機器・車両の増減、改装や設備投資の決定、移転・統廃合の計画、賃料改定の交渉経緯を提供する
- 経理部:契約条件の変更に当たるかの判断、独立したリースとして扱うかの判定、リース負債および使用権資産の再測定、割引率の取扱い、リース期間の見直しの要否、監査対応を担う
この分担で重要なのは、法務部が「これは独立したリースです」「再測定が必要です」といった結論を渡さないことです。渡すのは変更の事実と根拠資料であり、判定は経理部の領域です。
また、変更を検知する仕組みは、新規契約の審査フローとセットで設計すると機能します。新規契約時に確認項目を組み込む方法は新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項で、現行フローの整理は契約審査の進め方とは?依頼受付から返却までの実務フローを整理で扱っています。
第20章 契約変更の管理で起こりやすい誤り
表9 よくある誤りと正しい対応
| よくある誤り | なぜ誤りか | 正しい対応 |
|---|---|---|
| 契約書を変えていないので何も起きない | 契約条件の変更がなくてもリース期間・リース料の見直しが生じ得る | 第40項から第42項に該当し得る事象を別経路で拾う |
| 契約条件が変わったら毎回すべて再判定する | 第27項は変更がない限り見直さないという定めであり、何を再検討すべきかは変更内容による | 変更内容を整理して経理部へ渡し、判断を仰ぐ |
| 資産を追加したので必ず独立したリースになる | 第44項は範囲の拡大と独立価格に基づく増額の2要件がAND条件 | 増額の算定根拠資料を確認する |
| 契約期間を延長したので独立したリースになる | 期間のみの延長は原資産の追加に該当せず、第44項(1)を満たさない | リース負債の見直しの入口として整理する |
| 「更新しました」とだけ経理部へ伝える | 自動更新・オプション行使・新たな合意・再契約は性質が異なる | 更新の類型と根拠条項を明示する |
| オプションを行使しただけなので連絡不要 | 解約不能期間の変更によりリース負債の見直しが生じ得る(第42項) | 行使日と根拠条項を記録して連絡する |
| 賃料が変わったので契約条件の変更である | 当初契約の指数・レート連動条項による改定は別の整理になり得る | 根拠条項の有無を必ず記録する |
| CPI改定は自動なので報告不要 | 指数の変動によりリース料およびリース負債の修正が生じ得る(適用指針第48項) | 改定の内容と時期を経理部へ連携する |
| 覚書1通につき変更1件として記録する | 1つの変更に複数の要素があり、両方の処理を行うことがある(第39項ただし書き) | 変更点ごとに分解して記録する |
| 市場賃料が動いたので毎回見直しが必要 | 第41項は借手の統制下にあることを要件としており、市場動向による見直しを求める趣旨ではない | 借手の統制下にある事象かどうかを整理して渡す |
| 大規模改装の決裁は経理部に関係ない | 第41項の重要な事象に当たり得る(BC51項の例示) | 決裁情報が経理部へ届く経路を作る |
| 拠点統廃合の決定は法務案件ではない | 同上。オプションに関する借手の決定に影響し得る | 経営企画と連携して情報を共有する |
| 発効日と合意日を区別せずに記録する | 適用指針は発効日を両当事者が合意した日と定義しており、適用開始日とも異なり得る | 合意日・発効日・適用開始日を分けて記録する |
| 法務部が独立したリースかどうかを判定する | 会計上の判断であり財務諸表に反映される | 事実と資料を整理して提供する |
| 変更後の契約書だけを保存する | 変更前後の差分が説明できなくなる | 原契約と変更覚書を関連づけて保存する |
| 口頭・メールの合意は記録しない | 会計基準上の契約には書面以外も含まれる(第5項) | 合意の存在と内容を記録し、経理部へ報告する |
第21章 法務部向けチェックリスト
まとめ
「契約が変わった」という一言には、少なくとも3つの異なる意味が含まれています。当初の契約条件になかった変更を新たに合意した場合、契約条件は変えていないが見直しが生じ得る場合、そして当初契約の仕組みどおりに数値が動いた場合です。
契約条件の変更が生じたときは、独立したリースとして扱うか、リース負債の計上額の見直しを行うかに分かれます。独立したリースになるのは、原資産の追加による範囲の拡大と独立価格に基づく対価の増額という2要件をいずれも満たす場合に限られます。契約期間のみの延長は原資産の追加に当たらないため、この要件を満たしません。また、1本の覚書に複数の要素があるときは、両方の処理を行うことがあります。
そして最も見落とされやすいのが、契約書を変えていない場合です。オプションを実際に行使したとき、あるいは借手の統制下にありオプションに関する決定に影響を与える重要な事象が生じたときには、リース期間の見直しが生じ得ます。ただしこれは、市場動向が変わるたびに見直すという趣旨ではありません。
法務部が担うのは、何が、いつ、どのような根拠で変わったのかを構造化して渡すことです。契約審査のフローに乗らない事象をどう拾うかまで設計できると、この工程は安定します。次は、こうして集めた情報をどこに、どう蓄積するかという段階に進みます。
よくある質問(FAQ)
リースの契約条件の変更とは何ですか
企業会計基準第34号は、リースの契約条件の変更を、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲またはリースの対価の変更と定義しています。例示として、1つ以上の原資産を追加もしくは解約することによる原資産を使用する権利の追加もしくは解約、または契約期間の延長もしくは短縮が挙げられています。ポイントは「当初の契約条件の一部ではなかった」という限定であり、当初から契約に組み込まれていた仕組みが作動しただけの場合は、これに当たらない可能性があります。
契約を変更したら必ずリースの再判定が必要ですか
変更があれば毎回すべてを最初から検討し直すという趣旨ではありません。会計基準は、契約期間中は契約条件が変更されない限り契約がリースを含むか否かの判断を見直さないとしています。何を再検討すべきかは変更の内容によって異なり、対象資産そのものの入替え、原資産の追加や除外、代替に関する条項の変更、提供される役務の変更などは、リースの識別に影響し得る変更として経理部へ内容を渡すことをおすすめします。最終的な判断は経理部が行います。
面積を追加したら新しいリースになりますか
必ずしもそうとは限りません。適用指針は、リースの契約条件の変更を独立したリースとして取り扱うには、1つ以上の原資産を追加することにより原資産を使用する権利が追加されリースの範囲が拡大されること、および借手のリース料が範囲が拡大した部分に対する独立価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されることの、いずれも満たす必要があるとしています。面積を追加しても、増額される対価が独立価格に基づかない場合には、既存リースのリース負債の計上額の見直しというルートになります。
契約期間を延長した場合はどう扱いますか
契約期間のみを延長する変更は、独立したリースにはなりません。ASBJは、契約期間のみが延長されるリースの契約条件の変更は原資産の追加に該当しないため、独立したリースの要件のうち範囲の拡大に関する要件を満たさないと説明しています。この場合は既存リースのリース負債の計上額の見直しというルートに入ります。なお、その延長が当初契約にあった延長オプションの行使なのか、当初契約になかった延長を新たに合意したのかによって整理が変わり得るため、根拠条項の有無を必ず記録してください。
自動更新された場合も経理部へ連絡が必要ですか
連絡してください。更新には、自動更新条項による更新、当初契約の延長オプションの行使、新たな合意による期間延長、定期借家等の再契約といった複数の類型があり、それぞれ性質が異なるためです。また、当初のリース期間の判断にその期間を含めていたかどうかによっても扱いが変わり得ます。「更新しました」という一言ではなく、更新の類型、根拠条項、更新後の期間と条件、意思表示の日付を添えて連絡することをおすすめします。
契約書を変更していなければ何もしなくてよいですか
そうとは限りません。会計基準は、リースの契約条件の変更が生じていない場合でも、借手の統制下にあり、かつ延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与える重要な事象または重要な状況が生じたときには、借手のリース期間を見直し、リース負債の計上額の見直しを行うとしています。また、延長オプションの行使等により解約不能期間に変更が生じた場合にも見直しが行われます。契約書が動かない事象を拾う経路を整えておくことが実務上重要です。
CPI連動で賃料が変わった場合は契約変更ですか
当初契約にある指数・レート連動条項どおりに賃料が変わった場合は、当初の契約条件の一部が作動したものとして、契約条件の変更を伴わないリース料の変更として整理され得ます。適用指針は、指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料について、当該指数またはレートが変動しそのことにより今後支払うリース料に変動が生じたときにのみ、残りの借手のリース期間にわたりリース料およびリース負債を修正するとしています。一方、原契約に根拠がなく新たに合意した改定であれば、契約条件の変更に当たり得ます。形式ではなく根拠条項の有無を記録してください。
1つの覚書で追加と縮小を同時に合意した場合はどうなりますか
要素ごとに分けて整理する必要があります。会計基準は、リースの契約条件の変更に複数の要素がある場合、独立したリースとしての会計処理とリース負債の計上額の見直しの両方を行うことがあるとしています。ASBJは、不動産の賃貸借契約において独立価格であるリース料により対象となる面積を追加すると同時に、既存のリースの対象となる面積について契約期間を短縮する場合を例として挙げ、前者について独立したリースとして会計処理を行い、後者についてリース負債の計上額の見直しを行うと説明しています。覚書1通を1件として記録せず、変更点ごとに分解して記録してください。
市場賃料が変動したらリース期間を見直しますか
市場動向の変化だけで毎回見直すという趣旨ではありません。会計基準が定める見直しの要件には、その事象または状況が借手の統制下にあることが含まれています。ASBJは、この要件を設けた理由として、借手が市場動向による事象または状況の変化に対応して見直すことを要しないようにするためであると説明しています。したがって、賃料相場が上がった・下がったという事実だけでは要件を満たしません。一方、大規模な改装の決定や拠点の統廃合の決定など、借手の統制下にある決定は該当し得ます。
法務部が契約変更の会計処理を判断するのですか
本シリーズでは、契約条件の変更に当たるかどうかの判断、独立したリースとして扱うかどうかの判定、リース負債および使用権資産の再測定、リース期間の見直しの要否は経理部が担うものと位置づけています。法務部が担うのは、変更覚書や通知書の内容、原契約との差分、根拠条項の有無、対象資産、期間、対価、発効日、オプション行使の記録を整理し、1通の覚書に複数の要素が含まれる場合には要素ごとに分解して提供することです。
主な参照資料
-
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日修正)
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第5項、第24項、第27項、第39項、第40項、第41項、第42項、BC49項、BC51項、BC52項 -
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日(2025年4月23日・2025年10月16日修正)
公式ページ:企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」全文(ASBJ 会計基準検索システム)
本文で参照した主な項番号:第4項(10)、第24項、第44項、第45項、第46項、第47項、第48項、第49項、BC72項、BC73項、BC74項、BC75項、BC76項、BC78項、BC79項 -
企業会計基準適用指針第33号 設例(設例15・設例16)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式資料:企業会計基準適用指針第33号 設例(ASBJ公式PDF)
※適用指針第44項は設例15-1を、第45項は設例15-2から設例15-5を、第46項は設例16を参照するよう示しています。各設例の前提条件および会計処理は公式設例を直接ご確認ください。 -
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/公表日:2024年9月13日
公式ページ:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表(ASBJ 公式サイト) -
企業会計基準適用指針 一覧(公表日・修正日の確認用)
公表主体:企業会計基準委員会(ASBJ)/最終確認日:2026年8月12日
公式ページ:企業会計基準適用指針 一覧(ASBJ 公式サイト)
※適用指針は、設例に示されている会計処理について、具体的な会計処理や開示の実務を行うための手掛かりを与えるための例示であり、各企業のリースの実情等に応じて例示されていない会計処理も適当と判断される場合があることに留意する必要があるとしています。
本記事は2026年8月12日時点で公表されている資料に基づいています。本記事では、リース負債および使用権資産の再測定の方法、割引率の取扱い、仕訳例は扱っていません。個別の契約変更に係る会計上の判断については、経理部門および監査法人・公認会計士にご確認ください。
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次回予告
第13話では、これまで集めてきた情報をどこに蓄積するかを扱います。従来の契約台帳に何を追加すれば、リースの識別、リース期間、リース料、契約変更の履歴を継続的に管理できるのか。監査対応で求められる証跡をどう残すのか。台帳の項目設計と運用ルールを整理します。
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