「新リース会計基準への対応で、契約書を全部出してほしい」。経理部からそう依頼されて、戸惑った法務担当者は少なくないはずです。会計基準の話であれば、経理部と監査法人が対応するものではないのか。なぜ法務部が契約書を調べる必要があるのか——この疑問には、はっきりした理由があります。

新リース会計基準では、契約書に何が書かれているか、そして実際にどう使われているかが、会計処理の前提となる判断材料になります。判断材料の多くは、経理部の手元ではなく、契約書と現場の運用実態の中にあります。だからこそ、新リース会計基準への対応では、法務部や契約管理部門の関与が実務上必要になる企業が多いのです。

原則適用は2027年4月1日以後に開始する事業年度からです。調査対象となる契約が広く、初回の棚卸しだけでは終わらない性質の作業であるため、2026年後半から準備に着手する意味があります。

この記事では、新リース会計基準の概要、法務部が関係する理由、従来の契約管理との違い、経理部・事業部との役割分担、そして2026年後半から着手できる90日分の進め方を整理します。

この記事の結論

  • 新リース会計基準への対応では、経理部が会計判断を行う前提として、契約書と実際の運用から必要な情報を収集する必要があります。
  • 法務部の役割は、会計処理を決めることではありません。契約の収集、条項情報の整理、変更履歴と判断根拠の管理を支援することです。
  • 「リース契約」という名称の契約だけを探せばよいわけではなくなり、契約条項が会計データとして扱われ、初回調査後も継続的な把握が必要になります。
  • 最初の一歩は、自社への適用状況と経理部の検討状況を確認することです。

本記事は「新リース会計基準対応|法務部の契約調査・管理実務」全15話の第1話です。

このシリーズは、新リース会計基準への対応において法務部・契約管理部門が担うことになる契約調査と契約管理の実務を、順を追って解説することを目的としています。

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シリーズ全15話の構成

話数記事タイトルその記事で分かること
第1話新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わる?|2027年適用に向けた契約対応の全体像(現在の記事)シリーズ全体像と、法務部が担う役割の範囲
第2話新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール適用時期・対象企業・準備工程の考え方
第3話リース契約でなくても対象になる?|新リース会計基準の「リースの識別」契約がリースを含むかを判断する枠組み
第4話埋込リースとは?|業務委託・物流・IT契約に潜むリースの見つけ方サービス型契約に含まれるリースの探し方
第5話新リース会計基準で調査すべき契約書は?|法務部の契約棚卸しの進め方契約母集団の設定と棚卸しの実務手順
第6話「特定された資産」とは?|専用設備・車両・サーバーを判断する基準特定された資産と、供給者側の代替権の見方
第7話資産の使用を支配しているのは誰か|経済的利益と使用指図権の確認方法使用の支配・経済的利益・使用指図権の確認
第8話リース期間は契約書に書かれた年数と同じではない|更新・解約オプションの読み方リース期間と、更新・解約条項の読み方
第9話契約書からどの金額を拾う?|固定料金・変動料金・追加費用の整理契約書から抽出すべき料金情報の範囲
第10話リース部分とサービス部分をどう分ける?|複合契約の法務チェックリース部分と非リース部分の区分の論点
第11話オフィス・店舗・倉庫の賃貸借契約はどう扱う?|不動産契約の調査ポイント不動産賃貸借契約に固有の調査ポイント
第12話契約変更・更新時に再判定は必要?|リース条件変更の管理実務契約変更・更新時の再判定と管理実務
第13話新リース会計基準対応の契約台帳|追加すべき項目と証跡管理契約台帳の追加項目と証跡の残し方
第14話新規契約の審査をどう変える?|新リース会計基準対応の受付票・条項・確認事項新規契約審査への確認項目の組み込み方
第15話新リース会計基準対応チェックリスト|法務部が適用開始までにやること適用開始までの最終チェックリスト

第1章 新リース会計基準とは|正式名称・公表主体・適用時期

正式名称と公表主体

実務で「新リース会計基準」と呼ばれているものは、次の2つを指します。

  • 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」
  • 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」

いずれも企業会計基準委員会(ASBJ)が2024年9月13日に公表したものです。その後、企業会計基準第34号は2025年4月23日に、企業会計基準適用指針第33号は2025年4月23日および同年10月16日に修正されています。

ここで確認しておきたいのは、企業会計基準は法律ではないということです。国会の議決を経て成立する法令ではなく、「施行」されるものでもありません。したがって本記事でも「法改正」「施行」ではなく、「会計基準の公表」「会計基準の適用」という表現を用います。法務担当者が社内で説明する際にも、この区別は押さえておいた方が誤解が生じにくくなります。

適用時期|原則適用と早期適用

会計基準上の取扱いリース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用します。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することもできます(リース会計基準第58項)。適用指針の適用時期も会計基準と同様です(リース適用指針第112項)。

注意したいのは、「2027年4月1日から適用」という言い方が不正確になる点です。基準が求めているのは「2027年4月1日以後に開始する事業年度の期首から」であり、決算期によって実際の適用開始時期は変わります。

  • 3月決算の会社:2027年4月1日開始の事業年度(2028年3月期)から
  • 12月決算の会社:2028年1月1日開始の事業年度(2028年12月期)から

自社がどの時点から適用するのか、早期適用を予定しているのかは、経理部に確認する必要があります。適用時期と対象企業の詳細は、新リース会計基準の対象企業と適用スケジュールで詳しく解説します。

旧基準との関係と、基準策定の背景

リース会計基準の適用により、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第16号の適用は終了します(リース会計基準第59項)。つまり、既存の実務が置き換わることになります。

背景にあるのは国際的な整合性です。2016年にIASBがIFRS第16号「リース」を、FASBがTopic 842を公表し、いずれも借手についてオペレーティング・リースを含むすべてのリースを資産・負債として計上する使用権モデルを採用しました。これにより、日本基準との間で、特に負債の認識において差異が生じることとなりました。ASBJはこの状況を踏まえ、借手のすべてのリースについて資産および負債を計上する会計基準の開発に着手し、本基準の公表に至っています。

借手についての基本的な変更|使用権資産とリース負債

借手側の変更を、会計に詳しくない方向けに整理します。

使用権資産とは、借手が原資産(リースの対象となる資産)をリース期間にわたり使用する権利を表す資産です(リース会計基準第10項)。リース負債は、その使用権の取得に伴って生じる、将来のリース料の支払義務に相当する負債です。

借手は、リース開始日に、未払いのリース料から利息相当額を控除した現在価値によりリース負債を計上し、これに一定の項目を加減した額で使用権資産を計上します(リース会計基準第33項、第34項)。従来、借手がオペレーティング・リースとして貸借対照表に計上していなかった一定のリースについても、原則として使用権資産とリース負債が計上されることになります。

すべてのリースが必ず計上されるわけではない

適用指針上の取扱い原則は上記のとおりですが、例外があります。借手は、次のリースについて、使用権資産およびリース負債を計上せず、リース料をリース期間にわたって原則として定額法により費用計上することができます。

  • 短期リース:リース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリース(リース適用指針第4項(2)、第20項)
  • 少額リース:一定の要件を満たすリース。従来の適用指針第16号におけるリース契約1件当たりのリース料総額300万円以下による判定方法を踏襲した取扱いのほか、新品時の原資産の価値が少額であるリースについての取扱いも設けられています(リース適用指針第22項、第23項)

したがって、「例外なくすべてのリースが資産・負債計上される」という説明は正確ではありません。ただし、どの契約が例外に当たるかを判断するにも、契約期間や契約金額といった契約情報が必要になります。この点は後述します。

なお、仕訳、現在価値計算、割引率の決定といった会計処理の詳細は、本シリーズの範囲外です。法務部が担う領域ではないため、本記事でも扱いません。

第2章 なぜ新リース会計基準で法務部が関係するのか

法務部が関係する理由は、大きく3つに整理できます。

理由1|契約書の名称だけではリースかどうか判断できない

会計基準上の取扱いリース会計基準は、契約の名称などにかかわらず適用されます(リース会計基準BC14項)。そして、契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断します(リース会計基準第25項)。契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、その契約はリースを含むとされています(同第26項)。

この判断は「リースの識別」と呼ばれます。旧基準(企業会計基準第13号)には置かれていなかった定めであり、これまでリースとして会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合があると考えられています。

実務では、こうした契約に含まれるリースを「埋込リース」と呼ぶことがあります。検索や社内説明では便利な言葉ですが、ASBJの正式な表現は「契約がリースを含むか否か」の判断であり、「埋込リース」という独立した法的契約類型が存在するわけではありません。この点は社内資料を作る際に注意が必要です。

調査対象になり得る契約類型としては、例えば次のようなものが挙げられます。

  • 業務委託契約、製造委託契約
  • 物流契約、倉庫・保管契約、輸送契約
  • データセンター利用契約、専用設備の利用契約
  • 専用車両の利用契約
  • オフィス・店舗・土地の賃貸借契約

ただし、契約類型だけでリース該当性が決まるわけではありません。業務委託契約だから対象、賃貸借契約だから対象、という単純な話ではなく、実際の契約内容に即した判断が必要になります。判断枠組みは契約がリースを含むかを判断する「リースの識別」で、サービス型契約に含まれるリースの探し方は業務委託契約などに含まれる埋込リースの探し方で扱います。

理由2|契約条項が会計判断の基礎資料になる

ここが、法務部にとって最も大きな変化です。契約書の条項が、会計処理に必要なデータとして扱われるようになります。

例えば、リースの識別においては、資産が特定されているか、供給者側がその資産を代替する実質的な権利を有していないか、顧客が資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ使用を指図する権利を有しているか、といった点が判断要素になります(リース適用指針第5項から第8項)。これらはいずれも、契約書に書かれた権利義務の内容から読み取るものです。

また、借手のリース期間は、解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決定します(リース会計基準第31項)。その判定にあたっては、リース料・違約金・残価保証・購入オプションといった契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、解約に関連して生じるコストなどの要因が考慮されます(リース適用指針第17項)。契約書に書かれた年数がそのままリース期間になるとは限らないということです。

整理すると、経理部が会計判断を行うために必要になり得る契約情報は、次のようなものです。

  • 対象となる資産、資産を変更・代替する権利の有無
  • 使用目的、使用場所、使用方法に関する定め
  • 契約期間、自動更新条項、延長オプション、中途解約条項
  • 基本料金、変動料金、違約金、購入オプションの行使価額
  • 契約変更の履歴、覚書・追加合意の内容

理由3|契約書だけでは判断できないことがある

そしてもう一点。契約書を読むだけでは足りない場面があります。

リース会計基準では、「契約」を、法的な強制力のある権利および義務を生じさせる複数の当事者間における取決めと定義しており、書面のほか口頭や取引慣行によるものも含まれるとしています(リース会計基準第5項)。また、契約書には抽象的にしか書かれていない使用方法が、実際には特定の設備を専属的に使っている、といった状況もあり得ます。

企業における実務対応例そのため、事業部・購買部・IT部門・総務部などへの事実確認が必要になる場合があります。契約書の記載と実際の運用が異なっていないか、契約書に書かれていない前提はないか。ここは法務部が単独で完結できる領域ではなく、現場との連携が前提になります。

法務部が社内でどこまでを担い、どこからを他部門に委ねるべきかについては、法務部の仕事は何をする部署か|契約審査だけではない企業法務の全体像も、役割の切り分けを考える手がかりになります。

第3章 新リース会計基準で法務部の仕事はどう変わるか

従来の契約管理と、新基準対応で求められ得る管理を比較すると、変化の方向性が見えてきます。

表1 旧基準対応と新基準対応の違い

項目従来の契約管理新基準対応で求められ得る管理
調査対象リース契約・賃貸借契約が中心サービス型契約を含む広い範囲
管理項目当事者・期間・金額・更新の有無対象資産、代替権、使用方法、オプション条件などを追加
調査時期締結時・更新時導入時の一斉調査に加え、継続的な把握
判断資料契約書が中心契約書・覚書・発注書に加え、運用実態の確認結果
主な連携先事業部・購買部経理部・監査対応部門が加わる

LegalGPTとしての推奨この変化を踏まえると、法務部の業務は次の6つに整理できます。会計基準が法務部に直接これらを命じているわけではなく、会計基準への対応を社内で確実に進めるための実務として位置づけられるものです。

表2 法務部の具体的業務一覧

#業務具体的な内容
1対象となり得る契約の棚卸し契約類型・保管場所を洗い出し、調査対象の母集団を設定する
2契約書・覚書・発注書等の収集原契約だけでなく、変更契約・覚書・個別発注書まで揃える
3会計判断に必要な契約情報の抽出対象資産、期間、オプション、料金等を定型項目として抽出する
4事業部への運用実態の確認契約書の記載と実際の使用状況の差を、質問票等で確認する
5契約変更・更新・解約の継続管理変更が生じた際に経理部へ連携する仕組みを設ける
6契約審査・契約台帳の見直し新規契約の審査項目と台帳項目に、必要な確認事項を追加する

特に5番目の継続管理は見落とされがちです。リース会計基準では、契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直さないとされています(リース会計基準第27項)。裏を返せば、契約条件が変更された場合には、判断を見直す必要が生じ得るということです。契約変更・更新時の再判定については契約変更・更新時の再判定と管理実務で扱いますが、初回調査で終わりにできない性質の作業だという点は、最初に押さえておく価値があります。

契約情報を継続的に把握する仕組みづくりについては、契約管理とは何か|なぜExcel管理では限界なのかを実務視点で解説も参考になります。台帳の設計思想を先に押さえておくと、追加項目の検討がしやすくなります。

第4章 法務・経理・事業部・購買部の役割分担

図解1 新リース会計基準対応の社内フロー

STEP 1契約母集団の抽出(法務部・購買部・経理部)
STEP 2法務による契約情報の整理(条項からの情報抽出)
STEP 3事業部による運用実態の確認(契約書と実態の突合)
STEP 4経理による会計判断(リース該当性・測定・開示)
STEP 5契約台帳・会計システムへの登録
STEP 6更新・変更の継続管理(変更発生時はSTEP 2へ戻る)

STEP 6で契約条件の変更を検知した場合、STEP 2以降を再度実施する循環構造になります。

図解2 法務部が会計判断を支える位置づけ

中心:経理部による会計判断(リース該当性の判断、使用権資産・リース負債の測定、開示)

この判断を支える情報が、次の各部門から集まります。

  • 法務部:契約上の権利義務(対象資産、期間、オプション、料金条項、変更履歴)
  • 事業部:実際の使用方法(誰が、どの資産を、どのように使っているか)
  • 購買部:発注・料金・取引先情報(発注書、支払条件、取引先マスタ)
  • 総務・IT部門:資産・設備・システム情報(設置場所、機器台帳、利用状況)
  • 監査法人・公認会計士:会計基準の適用に関する確認と協議

表3 部門別の役割分担表

自社の体制に応じて検討すべき事項以下は標準的なモデルです。実際の分担は、組織規模、契約管理体制、経理部の人員などによって異なります。

業務主担当例協力部門外部
適用対象の確認経理部法務部(会社形態・開示義務の整理)監査法人・公認会計士に確認
契約母集団の抽出経理部(対象範囲の定義)/法務部・購買部(契約抽出)事業部、総務
契約書の収集法務部・購買部・各事業部総務・不動産管理部門
条項情報の抽出法務部経理部(抽出項目の要件定義)
運用実態の確認事業部法務部(質問票設計)、IT部門、総務
リース該当性の会計判断経理部法務部(契約解釈の照会対応)監査法人・公認会計士と協議
使用権資産・リース負債の測定経理部監査法人・公認会計士と協議
契約台帳の更新契約管理主管部門(法務部・総務部・購買部等)経理部(会計側項目の要件)、IT部門
契約変更の検知事業部・購買部(変更の起点)/法務部(契約審査・管理)経理部(連携先)
監査資料の準備経理部・監査対応部門法務部(契約・証跡の提供)監査法人・公認会計士へ提出

この表で強調したいのは、リース該当性の最終的な会計判断と測定は経理部が担うという点です。法務部は契約の解釈と情報提供を担いますが、会計処理を決定する立場ではありません。逆に、経理部を単なる作業部門として扱うのも実態に合いません。会計基準の適用判断という、法務部が代替できない専門判断を担っています。

第5章 2026年後半から法務部が始めること|90日ロードマップ

LegalGPTとしての推奨以下は標準的なモデルとして示すものです。すべての企業がこのスケジュールに従うべきというものではなく、早期適用の有無や既存の契約管理体制によって、必要な工程も所要期間も変わります。

表4 90日ロードマップ

期間やること狙い
0〜30日
状況把握
  • 経理部への適用状況の確認(原則適用か早期適用か)
  • 社内プロジェクトの責任者・体制の確認
  • 監査法人との協議状況の確認
  • 契約書の保管場所の把握(法務部以外を含む)
  • 対象になり得る契約の仮説設定
自社の前提条件を固め、法務部の関与範囲を確定する
31〜60日
収集と設計
  • 契約台帳からの候補契約の抽出
  • 各部門が独自保管している契約の確認
  • 変更契約・覚書・発注書の収集
  • 契約情報の抽出項目の決定(経理部と要件をすり合わせ)
  • 事業部向け質問票の作成
調査対象と抽出項目を確定し、作業を定型化する
61〜90日
試行と仕組み化
  • サンプル契約での試行と、抽出項目の過不足の検証
  • 経理部との判断フローの確認(照会と回答の手順)
  • 契約台帳の追加項目の決定
  • 新規契約審査への追加質問の検討
  • 更新・変更の報告フローの設計
  • 判断根拠と証跡の保存方法の決定
一斉調査だけでなく、継続管理まで回る形にする

なお、リース会計基準等には適用初年度の経過措置が設けられており、リースの識別についても一定の取扱いが認められています(リース適用指針第113項から第137項)。どの経過措置を採用するかによって調査対象の範囲が変わり得るため、契約棚卸しの設計に入る前に、経理部の方針を確認しておくことをおすすめします。棚卸しの具体的な手順は、法務部が行う契約棚卸しの具体的な進め方で解説します。

契約台帳の見直しにあたっては、まず現状の設計を点検しておくと検討が速く進みます。契約台帳の作り方|最低限必要な項目一覧と実務で使える設計で基本項目を確認したうえで、新リース会計基準対応の契約台帳に追加すべき項目を検討する流れが現実的です。

新規契約の審査フローについても同様です。現行のフローを整理してから追加項目を組み込む方が定着しやすいため、契約審査の進め方とは?依頼受付から返却までの実務フローを整理で全体像を押さえたうえで、新規契約の審査フローと受付票の見直しを検討してください。

第6章 よくある誤解と正しい整理

表5 よくある誤解と正しい整理

よくある誤解誤りである理由正しい整理
新リース会計基準は経理部だけの仕事である会計判断の前提となる情報の多くが、契約書と現場の運用実態の中にあるため会計判断は経理部が行うが、判断材料の収集には法務部・事業部の協力が必要
リース会社との契約だけを調べればよい会計基準は契約の名称などにかかわらず適用され、リースを含むか否かが判断される(リース会計基準BC14項、第25項・第26項)リース会社以外との契約も、リースを含むか否かの検討対象になり得る
契約タイトルに「リース」となければ対象外である判断基準は名称ではなく、特定された資産の使用を支配する権利が移転しているかどうか業務委託・物流・IT関連の契約なども、内容次第で検討対象になる
契約書だけ読めば判断できる契約には口頭や取引慣行によるものも含まれ(リース会計基準第5項)、契約書の記載と実際の運用が異なる場合もあるため契約書の確認に加え、事業部等への運用実態のヒアリングが必要になる場合がある
法務部がリース該当性を最終判断するリース該当性の判断は会計基準の適用判断であり、財務諸表に反映される事項であるため法務部は契約情報を整理して提供し、最終的な会計判断は経理部が行う
初回の契約棚卸しが終われば対応完了である契約条件が変更された場合には、リースを含むか否かの判断の見直しが生じ得る(リース会計基準第27項参照)更新・変更・解約を継続的に把握し、経理部へ連携する仕組みが必要
2027年になってから調べれば間に合う調査対象が広く、他部門との調整や仕組みづくりに時間を要するため適用開始前の準備期間に、調査と体制整備を進めておく必要がある
すべての会社に同じ対応が必要である日本基準で財務諸表を作成し企業会計基準第34号を適用する企業が中心であり、中小企業会計指針・中小企業会計要領等を基礎とする企業では前提が異なるため自社への適用の有無と範囲は、経理部および監査法人・公認会計士に確認する

第7章 法務部が今すぐ確認するチェックリスト

まずは現状把握です。以下の項目を確認するところから始めてください。

適用開始までの網羅的なチェックリストは、適用開始までに法務部が確認する対応チェックリストで改めて整理します。

まとめ

新リース会計基準は会計基準であり、法律ではありません。それでも法務部が関係するのは、会計判断の材料の多くが契約書と運用実態の中にあるからです。

法務部が担うのは、会計判断そのものではなく、判断が可能な状態に契約情報を整えることです。対象になり得る契約を洗い出し、契約書と付随する覚書・発注書を揃え、必要な条項情報を抽出し、実態との差異を確認する。そして、一斉調査で終わらせず、更新・変更・解約を継続的に把握する仕組みまで設計する——これが全体像です。

最初の一歩は、大がかりな調査ではありません。自社に新リース会計基準が適用されるのか、いつから適用されるのか、経理部の検討はどこまで進んでいるのか。この3点を経理部に確認するところから始めてください。そこが決まらなければ、調査対象も工程も定まりません。

よくある質問(FAQ)

新リース会計基準はすべての会社に適用されますか

すべての会社に一律に適用されるわけではありません。企業会計基準第34号は、日本基準で財務諸表を作成し、同基準を適用する企業が中心となります。中小企業会計指針や中小企業会計要領、税務会計を基礎として決算を行っている企業では、前提が異なります。自社に適用されるかどうか、また連結・個別のいずれで対応が必要かは、経理部および監査法人・公認会計士に確認してください。

法務部がリースかどうかを判断するのですか

リース該当性の最終的な会計判断は、経理部が会計基準に基づいて行い、必要に応じて監査法人・公認会計士と協議して決定します。法務部の役割は、契約書や覚書から対象資産、契約期間、更新・解約条項、料金条件などの情報を整理し、経理部が判断できる状態にすることです。ただし、実務上の分担は会社ごとに異なるため、社内での責任範囲を明確にしておくことをおすすめします。

リース契約だけを調査すれば足りますか

足りない可能性があります。リース会計基準は契約の名称などにかかわらず適用され、契約がリースを含むか否かが判断されます。業務委託契約、物流契約、データセンター利用契約、専用設備の利用契約などにも、リースを含む部分がある場合があります。ただし、契約類型だけでリース該当性が決まるわけではないため、どこまでを調査対象とするかは、経理部と相談して母集団を設定するのが実務的です。

契約書が法務部に保存されていない場合はどうしますか

まず、契約書がどこに保管されているかを部門横断で確認するところから始めます。事業部、購買部、総務・不動産管理部門、IT部門などが個別に保管しているケースは珍しくありません。原契約だけでなく、変更契約、覚書、発注書まで揃える必要があるため、収集の依頼先と期限を明確にして進めることが有効です。今後の再発防止として、契約台帳と保管ルールの見直しを併せて検討することも考えられます。

2027年になってから準備しても間に合いますか

契約件数や現在の契約管理体制によっては、適用開始までに十分な準備が間に合わないおそれがあります。調査対象となる契約の範囲が広く、他部門への確認や情報収集に時間がかかるうえ、抽出項目の設計、経理部との判断フローの整備、継続管理の仕組みづくりまで必要になるためです。必要な期間は、契約件数、既存の契約管理体制、早期適用の有無によって大きく異なります。まずは経理部の検討状況と社内スケジュールを確認したうえで、自社に必要な準備期間を見積もってください。

主な参照資料

※2024年に公表された概要資料・解説動画資料は、公表時点の内容を解説したものです。その後の修正を反映した取扱いについては、ASBJ会計基準検索システムに掲載された現行の会計基準・適用指針本文を優先してください。

本記事は2026年8月4日時点で公表されている資料に基づいています。会計基準の適用に関する具体的な判断は、経理部門および監査法人・公認会計士にご確認ください。

シリーズナビゲーション

次回予告

第2話では、新リース会計基準がいつから適用されるのか、どのような企業が対象になるのか、そして2026年後半から適用開始までにどのような準備工程を組めばよいのかを、決算期別の整理とあわせて解説します。

新リース会計基準はいつから?|対象企業と2026年後半からの準備スケジュール

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