INTRODUCTION
契約書を読んでいて、「何か変だ」「この条項は危ない気がする」と感じることがあります。経験を積むと、この違和感が論点発見の入口になります。
ところが初心者のうちは、その違和感をうまく言語化できません。違和感のままだと、上司にも事業部にも相手方にも説明できず、結局そのまま流してしまいがちです。
ChatGPTを使うと、違和感を条項上のリスク・前提不足・確認事項・修正方針に分解しやすくなります。この記事では、契約書の違和感を論点に変えるプロンプトを、初心者向けに紹介します。
この記事を実務で使う
読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。
社内説明の文面も、確認メモも、AIへの指示文も、毎回イチから。用途別に実務ツールを確認できます。
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この記事でわかること
POINT
契約書レビューで「違和感」が重要な理由
違和感を放置してはいけない理由
ChatGPTで違和感を論点化する方法
条項上のリスク・前提不足・確認事項を分ける方法
契約書の違和感を整理する完成プロンプト
AIを使うときの注意点
「違和感」は論点発見の入口になる
契約書レビューでは、最初から明確な問題点が見えるとは限りません。多くの場合、「何となく変」「少し不利な気がする」という違和感から論点が見つかります。
ただし、違和感はそれだけでは武器になりません。「危ない気がします」では、上司も事業部も判断できないからです。違和感を、説明できる論点に変える必要があります。まずは、よくある違和感を見てみましょう。
違和感
「何となく変」「危ない気がする」
説明できない
→
表1:契約書でよくある「違和感」と考えられる論点
| 違和感 | 考えられる論点 | 確認すべきこと |
| 相手方だけ解除権が広い | 契約上のバランス、解除リスク | 当社にも同等の解除権が必要か、事業上許容できるか |
| 損害賠償の上限がない | 賠償責任が過大になるリスク | 取引金額や委託料を上限にできないか |
| 業務範囲が広すぎる | 追加作業・無償対応のリスク | 成果物・作業範囲・対象外業務を明確にできるか |
| 納期や検収の基準が書いていない | 完了・支払の争いリスク | 検収基準・期間・不合格時の対応を定められるか |
| 秘密保持の期間が長すぎる・曖昧 | 管理負担・違反リスク | 存続期間と対象範囲を明確にできるか |
違和感を「分解」して論点化する
違和感を言語化するコツは、いくつかの観点に分解することです。AIには、この分解を手伝わせることができます。
表2:違和感を論点化するときの分解方法
| 分解する観点 | 見るポイント | AIに聞くときの指示例 |
| 条項の不明確さ | 用語や基準が曖昧でないか | 「曖昧な用語と、判断基準がない表現を洗い出して」 |
| 当事者間のバランス | 権利義務が片務的でないか | 「当社と相手方の権利義務の偏りを比較して」 |
| 責任の重さ | 賠償・保証が過大でないか | 「責任範囲と上限の有無を整理して」 |
| 実務運用 | 現場が守れる内容か | 「実務で守りにくい義務がないか挙げて」 |
| 前提不足 | 書かれていない条件がないか | 「契約に書かれていない前提・抜け漏れを指摘して」 |
| 条項間の矛盾 | 条項どうしが食い違わないか | 「矛盾・重複している条項がないか確認して」 |
表3:違和感の種類別に使うプロンプトの方向性
| 違和感の種類 | AIにさせたいこと | 出力させる内容 |
| 条項が曖昧 | 不明確な表現の洗い出し | 曖昧な表現・想定トラブル・確認事項・修正文案 |
| 責任が重い | 責任範囲の整理 | 責任の所在・上限の有無・許容可否の材料・修正方針 |
| 相手方に有利すぎる | 片務性の分析 | 有利な点・当社リスク・修正優先度・落としどころ |
| 実務で運用できなさそう | 運用負担の確認 | 運用上の懸念・現場確認事項・修正案・社内対応 |
| 社内確認が必要そう | 確認事項の整理 | 事業部に確認すべき点・法務の推奨方針 |
AIの回答を信じすぎない
違和感の整理にAIは役立ちますが、出てきた答えをそのまま結論にしてはいけません。AIが出しやすい回答と、人間が確認すべき点を分けておきましょう。
表4:AIの回答をそのまま信じず、人間が確認すべきポイント
| AIが出しやすい回答 | 注意点 | 人間が確認すべきこと |
| 「修正した方がよい」 | 事業上、許容できる場合もある | 取引背景・交渉力・金額・事業上の重要性 |
| 「この条項は危険」 | 違和感だけでリスク確定とは限らない | 実際の発生可能性と影響度 |
| 「一般的にはこうする」 | 個別事情に合わないことがある | 自社の取引実態・社内ルール |
| 「問題ありません」 | 見落としがありうる | 重要条項を人間が再確認 |
違和感を論点化する・基本の型
まずは次の型を使ってください。空欄を埋めるだけで、違和感が論点に変わり始めます。
実務メモ|基本の型
あなたは企業法務担当者です。
以下の契約書について、私が感じている違和感を、契約上の論点として整理してください。
契約類型:
当社の立場:
取引の概要:
違和感を感じている箇所:
なぜ気になっているか:
特に確認したい観点:
出力形式:
注意点:
以下の形式で整理してください。
1. 違和感の内容
2. 契約上の論点
3. 当社にとってのリスク
4. 追加で確認すべき事項
5. 修正方針
6. 必要に応じた修正文案
7. 相手方に確認する場合のコメント案
不明な点は断定せず、「確認が必要な事項」として整理してください。
AIの回答は最終判断ではなく、レビュー補助として扱います。
各項目の意味
契約類型:業務委託かNDAかで、論点の出方が変わります。
当社の立場:委託者か受託者かで、何が「不利」かが変わります。
取引の概要:規模や継続性で、リスクの重みが変わります。
違和感を感じている箇所:気になる条項・表現を貼り付けます。
なぜ気になっているか:うまく言えなくてもよいので、感じたことを書きます。これがAIの分解の手がかりになります。
特に確認したい観点:責任・バランス・運用など、注目したい角度を伝えます。
出力形式:表・項目分けなど、欲しい形を指定します。
注意点:断定回避・鵜呑み防止など、守ってほしい条件を伝えます。
そのまま使える完成プロンプト集
ここからは、コピーしてすぐ使える完成プロンプトを7つ紹介します。【 】の部分を自分の状況に書き換えて使ってください。
1プロンプト1|違和感を論点化する標準プロンプト
あなたは企業法務の担当者です。私が契約書を読んで感じた「違和感」を、契約上の論点として整理してください。
目的:言葉にできていない違和感を、リスク・確認事項・修正方針に分解する。
当社の立場:当社は【委託者/受託者/開示者/受領者 など】です。
契約類型:【業務委託契約/NDA/売買契約 など】
取引の概要:【取引内容・規模・継続性などを簡潔に記入】
違和感を感じている箇所:【条項名・条文・気になる表現を貼り付け】
なぜ気になっているか:【うまく言えなくてもよいので、感じたことを記入】
最初に、この違和感が次のどれに近いか分類してください。
(a)条項の不明確さ(用語や基準が曖昧)
(b)責任の偏り(当社の負担が重い)
(c)当事者間のバランス(相手方に有利すぎる)
(d)実務運用上の問題(現場で守れない)
(e)前提不足(書かれていない条件がある)
(f)条項間の矛盾
出力形式:分類のうえで、次の項目に分けて整理してください。
(1)違和感の内容(言語化)
(2)契約上の論点
(3)当社にとってのリスク
(4)追加で確認すべき事項
(5)修正方針
(6)必要に応じた修正文案
注意点:
・違和感だけで結論を出さず、確認が必要な点は「要確認事項」として整理してください。
・最終的な法的判断は人間(担当者・弁護士)が行う前提です。
・契約に書かれていない取引背景が影響しそうな場合は、その旨を指摘してください。
2プロンプト2|条項が曖昧で危ない気がするとき
あなたは企業法務の担当者です。以下の契約条項について、表現が曖昧でトラブルにつながらないか確認してください。
目的:業務範囲・成果物・納期・検収・対応範囲などの曖昧さを洗い出す。
当社の立場:【委託者/受託者 など】
契約類型:【業務委託契約 など】
気になっている箇所:【条項を貼り付け】
重点的に確認したい観点:
・曖昧な用語(解釈が分かれる言葉)
・判断基準が書かれていない表現
・作業範囲が際限なく広がらないか
・無償対応・追加作業が発生しやすい構造か
・追加費用が発生する場面が想定されるか
・納品・検収・完了条件が明確か
・紛争になったとき、当社の主張を説明できるか
出力形式:表形式で、次の列を出してください。
曖昧な表現/想定されるトラブル/当社への影響/確認事項/修正文案
注意点:
・断定できない点は「要確認事項」として整理してください。
・最終判断は人間が行う前提です。
3プロンプト3|相手方に有利すぎる気がするとき
あなたは企業法務の担当者です。以下の契約条項が、相手方に一方的に有利になっていないか確認してください。
目的:解除権・損害賠償・免責・支払条件・責任範囲などの片務性を点検する。
当社の立場:【委託者/受託者 など】
契約類型:【業務委託契約 など】
気になっている箇所:【条項を貼り付け】
重点的に確認したい観点:
・当社だけ義務が重くなっていないか
・相手方だけ権利(解除権など)が広くないか
・解除権・損害賠償・免責のバランス
・支払条件(時期・サイト・相殺)の公平性
・交渉で修正しやすいポイントはどこか
・そのまま受け入れる場合の注意点
出力形式:次の項目に分けて整理してください。
(1)相手方に有利な点(条項名と理由)
(2)当社にとってのリスク
(3)修正の優先度(重大・中・軽微)
(4)修正文案
(5)落としどころ案(双方が受け入れやすい案)
注意点:
・片務的に見えても、取引背景によっては許容できる場合があります。その点も補足してください。
・断定できない点は「要確認事項」として整理してください。
・最終判断は人間が行う前提です。
4プロンプト4|責任が重すぎる気がするとき
あなたは企業法務の担当者です。以下の契約条項で、当社の責任負担が過大になっていないか確認してください。
目的:損害賠償・補償・保証・表明保証・免責制限などの重さを点検する。
当社の立場:【委託者/受託者 など】
契約類型:【業務委託契約 など】
取引金額の目安:【金額・委託料などの規模を記入】
気になっている箇所:【条項を貼り付け】
重点的に確認したい観点:
・損害賠償の範囲
・賠償上限の有無
・間接損害・逸失利益が含まれるか
・無過失責任に近い構造になっていないか
・保証・補償の内容が広すぎないか
・取引金額とのバランス
・事業上、許容できる水準か
出力形式:次の項目に分けて整理してください。
(1)責任が重いと考えられる箇所
(2)リスクの理由(どんな場合に問題になるか)
(3)許容できるか判断するための材料
(4)修正方針
(5)修正文案
注意点:
・許容可否は事業判断も関わるため、断定せず判断材料として整理してください。
・最終判断は人間が行う前提です。
5プロンプト5|実務で運用できない気がするとき
あなたは、契約と実務の両方を見られる企業法務の担当者です。以下の契約条項が、実際の業務で運用できるか確認してください。
目的:契約上は整っていても、現場で守れない・運用が難しい点を洗い出す。
当社の立場:【委託者/受託者 など】
想定する業務の流れ:【日常業務や社内体制を簡潔に記入】
気になっている箇所:【条項を貼り付け】
重点的に確認したい観点:
・現場が実際に守れる内容か
・報告義務・通知義務が細かすぎないか
・承認フロー・手続が実務に合っているか
・期限(通知・対応期限など)が短すぎないか
・記録保存・証跡管理が必要になるか
・対応できる社内体制が整っているか
出力形式:次の項目に分けて整理してください。
(1)運用上の懸念点
(2)現場に確認すべき事項
(3)契約上の修正案(運用しやすくする方向)
(4)社内対応案(体制・フローの整備)
注意点:
・運用できるかは現場確認が必要なため、断定せず「要確認事項」として整理してください。
・最終判断は人間が行う前提です。
6プロンプト6|違和感を上司・事業部に説明する
あなたは、事業部にもわかりやすく説明できる企業法務の担当者です。私が契約書に感じている違和感を、上司や事業部に説明できる形にまとめてください。
目的:違和感を、社内で判断できる言葉に変える。
読み手:【上司/営業担当/事業部 など】
当社の立場:【委託者/受託者 など】
違和感の内容:【気になっている点を記入】
作成方針:
・法務用語を使いすぎず、必要なら簡単な言葉に置き換える。
・なぜ問題なのかを簡潔に説明する。
・事業部に判断してほしい点を切り分ける。
・法務としての推奨方針を示す。
出力形式:次の項目に分けて整理してください。
(1)一言でいうと何が問題か
(2)当社への影響(どんな場合に困るか)
(3)確認したいこと
(4)法務としての推奨方針
(5)事業部に判断してほしい事項
(6)受け入れる場合の条件
注意点:
・断定できない点は「要確認」として残してください。
・最終判断は事業部・経営層が行う前提です。
7プロンプト7|違和感を相手方への確認コメントに変える
あなたは、取引関係に配慮できる企業法務の担当者です。契約書に感じた違和感を、相手方に角が立たないように確認するコメントへ変換してください。
目的:こちらの懸念を伝えつつ、取引関係を壊さない確認文にする。
当社の立場:【委託者/受託者 など】
前提:相手方とは【継続取引/新規取引 など】の関係です。
気になっている箇所:【条項・表現を貼り付け】
作成方針:
・相手方を責める表現を避ける。
・こちらの懸念を明確に伝える。
・修正してほしい理由を簡潔に示す。
・必要に応じて代替案を出す。
・ビジネス関係を維持できる丁寧なトーンにする。
出力形式:表形式で、次の列を出してください。
条項番号/懸念点/確認したいこと/相手方に送るコメント案(そのまま使える文面)
注意点:
・送信前に、内容を人間が確認する前提です。
・断定できない点は社内で「要確認」として残してください。
悪い例・少し良い例・実務で使う例
違和感は、どこまで言語化して渡すかで、返ってくる整理の質が変わります。3つの場面で見比べてみましょう。
場面1:損害賠償条項に違和感がある
実務で使うなら当社は受託者の立場です。以下の損害賠償条項について、責任範囲が広すぎないか、賠償上限がないことによるリスク、間接損害・逸失利益が含まれる可能性、取引金額とのバランス、修正すべき方向性を整理してください。不明点は断定せず、確認事項として分けてください。
場面2:業務範囲が曖昧
少し良い例業務範囲が曖昧な気がします。問題を指摘してください。
実務で使うなら当社は受託者です。以下の業務範囲の条項について、曖昧な用語、判断基準のない表現、無償対応・追加作業が発生しやすい構造を洗い出し、想定されるトラブルと修正文案、相手方への確認事項を整理してください。不明点は断定せず確認事項としてください。
場面3:解除条項が相手方に有利すぎる
少し良い例解除条項が相手方に有利な気がします。確認してください。
実務で使うなら当社は委託者です。以下の解除条項について、相手方だけ解除権が広くないか、当社の義務とのバランス、解除されたときの当社への影響、修正の優先度と修正文案、双方が受け入れやすい落としどころを整理してください。取引背景によっては許容できる場合がある点も補足し、不明点は確認事項としてください。
違和感を扱うときの注意点
注意
違和感は大事だが、それだけで結論を出してはいけない。論点と確認事項に変えてから判断する。
AIが「危険」と言っても、取引背景によっては受け入れる場合もある。
契約条件の妥当性は、法的リスクだけでなく、取引金額・交渉力・事業上の重要性によって変わる。
不明点や前提不足は、断定せず確認事項として扱う。
AIの回答は誤ることがある。指摘の有無や内容を鵜呑みにしない。
法令・裁判例・業界規制など、正確性が必要な事項は、一次情報や専門家による確認が必要。
契約書には秘密情報・個人情報が含まれることがあるため、AIに入力してよいか社内ルールを確認する。
最終的な判断は人間が行う。
まとめ
契約書レビューでは、「何か変だ」という違和感が論点発見の入口になることがあります。経験の浅いうちこそ、この違和感を大切にしてください。
ただし、違和感のままでは説明できません。ChatGPTを使うと、違和感を契約上のリスク・確認事項・修正方針に分解しやすくなります。プロンプトでは、自社の立場・気になる条項・なぜ気になるか・出力形式を指定することが重要です。
そして、AIの回答はあくまで補助です。違和感だけで法的リスクが確定するわけではなく、最終判断は人間が行います。
次回は、社内メールを送る前に、誤解・反発・炎上リスクをAIにチェックさせるプロンプトを扱います。
「プロンプトの力」シリーズ一覧
第3話契約書を読んで「何か変だ」と思ったときに使うプロンプト|違和感を論点に変える方法
契約書で感じた違和感を、リスクや確認事項に整理したい方へ
契約書レビューでは、「何か変だ」と感じた違和感を、リスクや確認事項に整理することが重要です。Legal GPTでは、契約書レビューで確認したいリスク、修正文案、相手方への確認事項などを整理するための実務向けプロンプト集を用意しています。契約書レビューにAIを取り入れたい方は、まずは契約書AIレビュー用のプロンプトから試してみてください。
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