「業務委託契約だから派遣ではない」——これは危険な思い込みです。派遣と請負・業務委託の違いは、契約書のタイトルではなく、現場の実態(誰が労働者に指揮命令しているか)で判断されます。契約名が「請負」「業務委託」でも、実態として発注者が労働者へ直接指示していれば、労働者派遣(場合により偽装請負)に該当し得ます。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第13話です。これまで派遣社員の受入れ実務を扱ってきましたが、第13話では視点を変え、請負・業務委託を発注する側が偽装請負・二重派遣を避けるために何を確認すべきかを整理します。第3話第8話の指揮命令の議論ともつながります。

この記事でわかること SUMMARY
派遣・請負・業務委託の違い(契約名でなく実態で判断)
偽装請負とは何か、なぜ「契約書があるから安全」ではないのか
37号告示の基本構造(2つの要件)
発注者がしてよいこと・危ないこと
IT・BPO・コールセンター・製造等の業種別の注意点
二重派遣との関係と、違反した場合のリスク
そのまま使えるチェックフロー・チェックリスト
この記事を実務で使う

読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。

社内説明の文面も、確認メモも、AIへの指示文も、毎回イチから。用途別に実務ツールを確認できます。

用途別に実務ツールを確認する

迷ったら、用途を選ぶだけの 1分診断

1. 派遣・請負・業務委託は何が違うのか

まず3つの違いを押さえます。派遣は、派遣元が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令の下で働かせる仕組みです(指揮命令するのは派遣先)。請負は、請負事業主が自ら労働者を指揮命令し、仕事の完成・業務処理を引き受けます(指揮命令するのは請負事業主)。業務委託は、民法上・実務上広く使われる言葉で、請負や準委任などを含むことがあります。いずれにしても、契約名ではなく実態で判断されます。

項目労働者派遣請負準委任・業務委託
労働者の雇用主派遣元請負事業主受託者
労働者への指揮命令派遣先が行う請負事業主が行う受託者が行う
引き受ける内容派遣先の指揮命令下で労務を提供させる仕事の完成・業務処理事務の処理等
労務管理・勤怠派遣先(労働時間等)/派遣元(雇用)請負事業主受託者
発注者の関与指揮命令できる注文内容・成果物・仕様の指示にとどめる委託事務の範囲を伝えるにとどめる
現場の注意点派遣法の各種義務直接指揮命令すると偽装請負リスク同左

2. 偽装請負とは何か

偽装請負とは、契約上は請負・業務委託の形をとりながら、実態は労働者派遣に近い状態をいいます。典型的には、発注者が請負労働者へ直接指示している、請負会社の独立性がない、成果物ではなく労働力の提供だけを受けている、といった状態です。

「請負契約書があるから安全」ではない

立派な請負契約書・業務委託契約書があっても、現場で発注者が労働者に直接指揮命令していれば、実態は労働者派遣と判断され得ます。逆に、契約名がどうであれ、請負事業主が自己の労働者を自ら指揮命令し、業務遂行・労務管理・事業運営上の独立性を持っていれば請負として整理され得ます。判断の軸は、契約書のタイトルではなく実態です。

「準委任(SES等)だから直接指示してよい」も誤解

「請負は成果物の完成義務があるから直接指示はだめでも、SESやBPOで結ぶ準委任は時間ベースの精算だから、自社社員と同じように『今日はこれ、明日はあっち』と直接動かしてよいのでは」という誤解も現場で見られます。これも誤りです。37号告示(区分基準)の射程は請負に限られず、準委任・委託など「労働者派遣以外の契約形態」を広く対象としており、疑義応答集でも請負以外の契約でも偽装請負となり得ると整理されています。契約名が準委任でも、発注者が労働者へ直接指揮命令していれば、実態は労働者派遣(無許可なら違法派遣)と判断され得ます。「時間を買っているから指示できる」という考え方は通用しません。

3. 37号告示の基本構造

派遣か請負かは、厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、いわゆる37号告示)に基づき、実態に即して判断されます。37号告示は、請負の形式で労働者を従事させる事業主でも、次の2つの要件(細目をすべて満たす場合)に該当しない限り、労働者派遣事業を行う事業主とみなすという構造です(いわば「条件を満たした場合だけ請負と認める」考え方)。

要件内容(噛み砕き)チェックの視点
① 労働力を自ら直接利用請負事業主が自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用していること誰が業務指示・労働時間管理・配置を行っているか
└ 業務遂行の指示・管理業務の遂行方法・進め方の指示や評価を請負事業主が自ら行う作業手順・順番を誰が決めているか
└ 労働時間等の管理始業終業・休憩・休日・残業の指示や管理を請負事業主が自ら行う勤怠・残業を誰が管理しているか
└ 秩序維持・配置服務規律の保持、配置・変更の決定を請負事業主が自ら行う配置・交代を誰が決めているか
② 独立して業務を処理請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して処理していること資金・責任・設備・専門性を自ら持つか
└ 資金業務処理に要する資金をすべて自らの責任で調達・支弁誰が資金を負担しているか
└ 事業主責任民法・商法等の法律上の事業主としての責任を負う成果・不備の責任を誰が負うか
└ 設備・専門性自己の機械・設備・資材、または自らの企画・専門的技術・経験で処理(単なる肉体的労働力の提供でない)機械・設備・材料を誰が用意しているか
厳密な要件は一次資料で確認を

上の表は初心者向けに噛み砕いたものです。37号告示の正確な条項・細目、および個別事例の当てはめは、最新の37号告示・関係疑義応答集(第1〜3集)・労働者派遣事業関係業務取扱要領で確認してください。なお、告示の2要件を満たす形でも、法の規定に違反することを免れる目的で偽装したものは、請負とは認められません(告示の趣旨)。

4. 発注者がしてよいこと・危ないこと

「発注者は請負労働者に一切関わってはいけない」わけではありません。注文内容・成果物・仕様・納期・品質基準の伝達や、安全衛生上必要な連絡などは、原則として可能です。問題になるのは、これらを超えて業務遂行上の具体的な指揮命令に踏み込む場合です。

発注者の関与区分ポイント
日常の挨拶原則OK通常の社会的なやり取り
施設利用ルールの説明原則OK立入・設備利用等のルール周知
安全衛生上必要な緊急連絡必要な範囲でOK危険回避・緊急時の連絡
成果物の仕様説明・納期・品質基準OK注文内容の伝達
検収・修正依頼OK(ただし注意)労働者個人へ直接作業指示すると危険
作業手順の細かい指示要注意〜NG遂行方法の指揮に踏み込む
請負労働者への直接の業務指示NG労働者派遣・偽装請負に近づく
残業・休憩・休日出勤の指示NG労働時間管理は請負事業主の領域
個々の労働者の配置・交代要求要注意〜NG配置決定への実質的関与は危険
請負労働者の評価・勤怠管理NG労務管理は請負事業主が行う
疑義応答集も参考に

発注者と請負労働者の日常会話、緊急時連絡、安全衛生上の指示、作業場所のルール説明、注文者による進捗・品質確認などの具体的な可否は、厚生労働省の37号告示関係疑義応答集に事例が示されています。判断に迷う場面は、疑義応答集の事例と照らして確認してください。

5. 現場でありがちな偽装請負リスク

ありがちな運用なぜ危険か
発注者社員がチャット(Slack等)で請負労働者へ直接タスクを投げるツール越しでも直接指示は実態として指揮命令
請負会社の責任者を飛ばして作業者へ指示する請負会社の独立した指揮命令が機能していない
発注者の朝礼に参加させ、日々の作業を割り振る業務の割振り・遂行管理を発注者が行っている
発注者が残業を依頼する労働時間管理が発注者側にある
「この人は合わないから替えて」と言う配置・交代への実質的関与
発注者社員と請負労働者が同じチーム表で管理される一体運用で独立性が見えない
座席・PC・アカウント・勤怠・評価が自社社員と同じ労務管理の一体化
成果物でなく「何人を何時間置くか」だけが管理対象労働力の提供を受けているだけ
実務の地雷:JiraやSlackの「個人アサイン」はログとして残る

現場のエンジニアやディレクターがやりがちなのが、Slack・Teamsで請負ベンダーのスタッフ個人をメンションして作業を指示したり、Jira・Backlog等の進捗管理ツールで個人のアカウントを直接タスクの担当者(Assignee)に紐づけ、「このバグを金曜15時までに修正してください」とコメントする運用です。

「ツールを介したテキストだから指揮命令ではない」というのは誤解です。これは実態として個々の労働者への作業の順序・時間配分・遂行方法の直接指示と評価され得ます。しかも口頭と違い、日時・指示内容・指示者と担当者の実名がタイムスタンプ付きでクラウド上に残るため、労働局の調査では客観的な記録として確認されやすく、リスクが高い運用です。

対策はシンプルです。仕様変更や要望は、必ず請負側の現場責任者(PM・リーダー)のアカウントに対して起票し、そこからベンダー社内でメンバーへ割り振ってもらう——というルートを徹底してください。

6. 業種別の注意点

業種ありがちな運用危ない理由安全な整理
IT常駐開発発注者がチケットで作業者へ直接指示遂行方法の直接指揮仕様・要件を請負責任者経由で
バックオフィスBPO発注者が日々のタスクを割り振る業務割振りを発注者が実施業務単位・成果で委託し責任者が割振り
コールセンター発注者がシフト・残業を直接指示労働時間管理が発注者側応対品質基準を示し、運用は受託者
製造請負発注者ラインに混在し直接指示指揮命令の一体化請負ラインを分離し責任者が管理
物流・倉庫発注者が人員配置・作業順を決める配置・遂行を発注者が決定作業範囲を委託し配置は受託者
受付・施設管理発注者が個別に細かく指示遂行方法の直接指揮業務仕様で委託し受託者が運用

7. 請負会社の現場責任者を機能させる

偽装請負を避ける実務の要は、請負会社の現場責任者を通じて運用することです。発注者は「注文内容・成果物・仕様・納期・品質基準」を責任者に伝え、個々の作業者への直接の指揮命令を避けます。逆に、現場責任者が不在だったり、名ばかりで実際には発注者が指示しているような状態は危険です。

責任者が「機能している」とは

請負会社の責任者が、業務遂行の指示・労働者の管理・発注者との注文に関する交渉を自ら的確に行っている状態が望ましい姿です。作業者が1人しかいない等で責任者を別途置けない場合の考え方は疑義応答集にも示されているため、体制づくりの際は確認してください。

8. 契約書で確認すべき条項

条項確認ポイント
業務内容・成果物労働力提供でなく、業務・成果物として特定されているか
業務遂行の独立性遂行方法を受託者が自ら決める旨が明確か
指揮命令の禁止発注者が労働者へ直接指揮命令しない旨
現場責任者責任者を通じた連絡・運用の定め
再委託再委託の可否・条件・責任
労務管理・勤怠管理受託者が自ら管理する旨
安全衛生就業環境・危険防止の責任分担
検収・修正依頼成果物の検収・修正のルート(責任者経由)
情報セキュリティアカウント・データ取扱い
損害賠償・反社・法令遵守責任範囲・コンプライアンス
偽装請負防止条項実態を請負として維持する旨の確認
契約書に書くだけでは足りない

偽装請負防止条項を入れても、現場運用が契約と一致していなければ意味がありません。チャット・朝礼・勤怠・評価・交代要求などの実態が請負として整合しているかを、運用開始後も点検してください。契約条項の確認は第5話の考え方も参考になります。

9. 二重派遣との違い・関係

派遣先が受け入れた派遣社員を、さらに第三者(グループ会社・取引先など)の指揮命令下で働かせると、二重派遣の問題になります。派遣先と派遣社員には雇用関係がないため、これは労働者供給(職業安定法44条で禁止)に当たり得ます。請負・業務委託の名目で第三者へ労働力を流すケースでも、実態が労働者供給なら同様の問題が生じます。

論点整理
問題の所在雇用関係のない労働者を第三者の指揮命令下で働かせる(労働者供給)
根拠職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)。労働基準法6条(中間搾取の排除)にも抵触し得る
罰則(要確認)職業安定法64条10号に基づき、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(労働基準法6条違反は別途問題となり得る)
受け入れた側供給される労働者を自らの指揮命令下で労働させる側も、職業安定法44条との関係で問題となり得る
起こりやすい場面グループ会社・取引先常駐、再委託先での指揮命令
罰則・条番号は最新で確認

罰則の条項・号番号や金額は、法改正で変わり得ます。記載のあるものも含め、実際の判断では最新のe-Gov法令(職業安定法・労働基準法)で確認してください。第三者の指揮命令下で働かせていないかは、第8話の指揮命令の整理も参考になります。

多重請負の罠:再委託先への直接指示が連鎖を生む

自社がA社に業務委託し、A社がさらにB社へ再委託している多重構造では、リスクが高まります。自社のオフィスで作業するB社の労働者へ、自社の社員が「ついでにこれをお願い」と直接指示すると、自社の偽装請負にとどまりません。自社が雇用していないB社労働者を自社の指揮命令下に置くことになり、労働者供給(職業安定法44条)の問題が、供給側・受入側の双方に生じ得ます(同44条は、供給される労働者を自らの指揮命令下で労働させる側も対象)。「発注先がどの会社の労働者か」を現場が把握し、責任者ルート以外からの直接指示を避けることが、連鎖的なリスクを断つ要点です。

10. 違反した場合のリスク

リスク内容
行政指導・是正指導労働局による指導・是正
契約見直し・取引停止契約類型の見直し、取引関係への影響
無許可派遣の評価実態が派遣なら無許可派遣と評価されるリスク
労働者供給の問題二重派遣等で職業安定法上の問題
労働契約申込みみなし制度違法派遣の類型に該当する場合にリスク(後述)
労災・安全衛生責任責任分担の不明確化、安全配慮義務
レピュテーション公表・報道による信用低下
監査・親会社からの指摘内部統制・取引先監査での指摘
「偽装請負=常にみなし制度」ではない

偽装請負等により実態が労働者派遣であり、法令上の違法派遣の類型(労働者派遣法等の適用を免れる目的での偽装請負等を含む)に該当する場合には、労働契約申込みみなし制度のリスクがあります。ただし、「請負契約に問題がある=常に直ちにみなし制度」ではありません。みなし制度の詳細は第14話で扱います。

11. 派遣か請負かの判断と、発注前・運用中のチェックフロー

まず「誰が労働者に指揮命令しているか」を確認します。発注者が労働者へ直接指揮命令していれば、契約名にかかわらず労働者派遣(偽装請負)に近づきます。

労働者に日々の業務を指揮命令しているのは誰か?
発注者が直接指示している労働者派遣・偽装請負に近づく(実態判断)
請負会社の責任者が指示している請負として整理され得る(独立性が前提)
契約類型を確認派遣/請負/準委任のどれか
業務内容・成果物を定義労働力提供でなく業務・成果で
指揮命令の有無を確認発注者が直接指示していないか
請負会社の責任者・管理体制を確認責任者が機能しているか
契約書に偽装請負防止条項を入れる指揮命令禁止・責任者経由
受入前に現場へ説明直接指示しないルールを周知
運用中に直接指示・勤怠管理が発生していないか確認チャット・朝礼・残業依頼等
定期点検実態と契約の一致を確認
問題があれば契約類型を見直す派遣契約への切替え等を検討

12. 偽装請負防止チェックリスト

① 実態の確認
契約名ではなく実態(誰が指揮命令しているか)で確認した
成果物・業務単位で発注し、労働力提供だけになっていない
② 指揮命令
発注者が請負労働者へ直接指示していない
残業・休憩・休日出勤を発注者が直接指示していない
③ 請負会社の体制
請負会社の現場責任者が機能している
作業手順・人員配置・勤怠は請負会社が管理している
④ 発注者の関与
発注者は成果物・仕様・納期・品質基準を伝えるにとどめている
請負労働者の評価・交代を発注者が実質決定していない
⑤ 契約と運用・二重派遣
契約書と現場運用が一致している
二重派遣・第三者の指揮命令が発生していない
定期的に現場点検をしている
請負・業務委託は「契約条項」と「現場運用」の両輪で守る

偽装請負・二重派遣の回避では、契約書の条項と現場運用の一致が要です。請負・業務委託契約書の指揮命令禁止・業務範囲・再委託・損害賠償・秘密保持・個人情報・法令遵守などの論点を見落としたくない場合は、Legal GPTの無料ツールで条項の有無を確認することもできます。契約期間・更新時期・発注先・再委託有無・点検時期の管理には契約台帳テンプレートも補助的に活用できます。

※契約台帳テンプレートは契約管理の補助ツールであり、労働者派遣法上の「派遣先管理台帳」とは別物です。混同しないようご注意ください。

13. まとめ

派遣と請負・業務委託の違いの核心は、「誰が労働者に指揮命令するか」です。請負・業務委託契約でも、実態として発注者が直接指揮命令していれば、偽装請負のリスクがあります。判断は契約名ではなく実態で行われ、その基準が37号告示です。

契約書だけでなく、チャット・朝礼・勤怠・評価・交代要求などの現場運用を点検し、請負会社の責任者を通じた運用を徹底してください。第三者の指揮命令下で働かせる二重派遣(職業安定法44条)にも注意が必要です。

第14話では、違法派遣になった場合の労働契約申込みみなし制度と派遣先企業のリスクを詳しく扱います。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣と請負・業務委託の違い|偽装請負を避けるための受入企業チェック(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。派遣・請負・業務委託の区分、偽装請負、二重派遣、労働契約申込みみなし制度の該当性は、契約書の記載だけでなく、現場の指揮命令・労務管理・業務遂行の実態により判断されます。実際の契約作成・運用・是正対応にあたっては、その時点の最新の法令・37号告示・疑義応答集・業務取扱要領・厚生労働省資料を確認し、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家に相談してください。
読了後の実務化ガイド

この記事の確認観点を、実務の型に変える。

読んだ内容を、確認メモ・文例・AI指示文に落とせます。

A無料で試す

すべての商品を見る