派遣社員の受入れは、契約書を結んで終わりではありません。受入前の確認・派遣契約・抵触日・派遣先責任者・指揮命令・派遣先管理台帳・苦情対応・安全衛生・待遇・偽装請負・みなし制度まで、時間軸に沿って横断的に管理する必要があります。この記事はシリーズの第15話・最終回として、第1〜14話で扱った実務ポイントを、法務・人事・現場がそのまま使えるチェックリストに再整理します。

この記事でわかること SUMMARY
派遣社員受入れの全体フロー
受入前/契約締結時/受入中に確認すること
更新・抵触日前/終了・直接雇用・交代・トラブル時に確認すること
法務・人事・現場・派遣先責任者の役割分担
よくある失敗パターンと、そのまま使える最終チェックリスト
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1. 派遣社員受入れは「契約前」から始まる

派遣社員の受入れは、派遣契約を結ぶ前からリスク管理が始まります。下の全体像のように、フェーズごとに見るべき論点と主担当が変わります。

受入前許可・業務内容・禁止業務・請負との区別
契約締結業務内容・責任の程度・就業場所・各担当者・抵触日通知
受入中指揮命令・勤怠・台帳・苦情・安全衛生・待遇
更新・抵触日前事業所単位/個人単位・意見聴取・契約変更
終了・交代・直接雇用台帳保存・みなし制度・是正
確認タイミング主な確認事項主担当関連話
受入前派遣元許可、業務内容、禁止業務、請負との区別法務・人事第1・3・13話
契約時業務内容、責任の程度、就業場所、指揮命令者、派遣先責任者、苦情処理、時間外労働法務・人事第5・7・8話
受入中指揮命令、勤怠、台帳、苦情、安全衛生、待遇・教育訓練現場・派遣先責任者第8〜12話
更新時抵触日、意見聴取、個人単位の期間制限、契約変更人事・法務第6話
終了時台帳保存、契約終了、直接雇用、交代、みなし制度リスク法務・人事第9・14話

2. 受入前チェックリスト

受入前(法務・人事)
そもそも派遣で受け入れるべき業務か(請負・業務委託との区別/第13話
派遣禁止業務・適用除外業務でないか(第3話
派遣元の許可番号・許可の有効性を確認した(第1話
紹介予定派遣など法令上認められる場合を除き、事前面接・履歴書提出などの特定行為をしていない(第4話
受入目的・業務範囲を明確にした(第2話
期間制限の対象・対象外の見通しを確認した
担当部署・派遣先責任者候補を確認した

3. 派遣契約締結時チェックリスト

派遣契約書・個別契約で確認すべき主な条項です(第5話)。

契約条項見るべきポイント放置した場合のリスク
業務内容・責任の程度具体的に特定されているか契約外業務・偽装請負の温床
就業場所・組織単位場所と組織単位が明確か個人単位の期間制限の管理不能
派遣期間・抵触日通知期間と事業所単位の抵触日期間制限違反(みなし3号)
派遣先責任者・指揮命令者誰が担うか明確か責任不在・指揮命令の混乱
苦情処理担当者窓口が定められているか苦情放置・ハラスメント拡大
時間外・休日労働有無と範囲(派遣元の36協定が前提)違法残業の指示
安全衛生・福利厚生・教育訓練責任分担と利用機会安全配慮・待遇の不備
待遇情報の提供比較対象労働者等の情報提供情報提供義務違反(26条)
派遣料金・中途解除解除時の措置・予告中途解除時のトラブル
秘密保持・個人情報取扱いルール情報漏えいリスク

4. 受入開始時チェックリスト

受入開始時(現場・派遣先責任者)
指揮命令者を現場に周知した(第8話
契約業務の範囲を現場へ共有した
相談窓口・苦情窓口を派遣社員に案内した(第10話
派遣先責任者を選任し機能させている(第7話
勤怠記録の方法を決めた
派遣先管理台帳を作成した(第9話
安全衛生教育・現場ルールを説明した(第11話
情報セキュリティ・アカウント権限を整理した
食堂・休憩室・更衣室の利用ルールを整えた(第12話
派遣元との連絡ルートを確認した

5. 受入中チェックリスト

管理項目現場で起きやすい問題確認する担当関連リスク
契約業務の範囲契約外業務の「ついで依頼」派遣先責任者違法派遣類型につながる兆候になり得る
指揮命令指揮命令者以外からの指示現場責任者指揮命令の混乱
就業場所別部署・別拠点での業務派遣先責任者契約・組織単位との不一致
労働時間残業・休日・深夜の指示現場・人事派遣元の36協定・契約の範囲外
勤怠通知派遣元への勤怠通知漏れ人事・派遣先責任者台帳通知義務の不履行
派遣先管理台帳記載・通知・保存の不備人事42条違反
苦情・ハラスメント苦情の放置・派遣元丸投げ苦情処理担当ハラスメント拡大
安全衛生・労災教育・報告の漏れ安全衛生担当安全配慮・労災対応の不備
待遇情報の変更変更を派遣元へ通知しない人事情報提供義務違反(26条)
テレワーク就業実態が把握できない現場・人事勤怠・指揮命令の不明確

6. 更新・抵触日前チェックリスト

更新・抵触日前(人事・法務)
事業所単位の抵触日を確認した(第6話
個人単位の抵触日を確認した
事業所単位の延長は意見聴取を適正に行った
過半数代表者を適正に選出した(管理監督者でない・目的明示・民主的方法)
クーリング期間や組織単位変更を形式的に使っていない
更新後の業務内容・責任の程度を再確認した
直接雇用・交代・終了の選択肢を検討した
抵触日の2つの落とし穴

① 抵触日管理を派遣元任せにしない。事業所単位の抵触日通知は派遣先が行うものです。② 事業所単位の延長と個人単位の期間制限を混同しない。事業所単位を適法に延長しても、同一の派遣労働者を同一の組織単位で当然に延長できるわけではありません(個人単位は別管理)。詳細は最新の法令・業務取扱要領で確認してください。

7. 終了・交代・直接雇用時チェックリスト

終了・交代・直接雇用時(法務・人事)
契約終了の理由を整理した
苦情申出等を理由とする不利益取扱いに見えないか確認した(第10話
交代要求に合理性があるか確認した
派遣先管理台帳・勤怠・苦情記録を保存している(終了日から原則3年)
派遣元へ適切に連絡した
直接雇用の可能性を検討した
労働契約申込みみなし制度のリスクを確認した(第14話
違法派遣の疑いがある場合、弁護士・社労士・労働局への相談を検討した

8. 法務・人事・現場・派遣先責任者の役割分担

担当主な役割確認すべき書類・情報注意点
法務契約・法令適合・リスク評価派遣契約書・許可・指針・要領契約名でなく実態で判断
人事総務抵触日・台帳・待遇・手続抵触日管理表・台帳・情報提供書派遣元任せにしない
派遣先責任者就業管理・連絡調整・苦情対応台帳・契約・就業状況名ばかりにしない(機能させる)
指揮命令者契約範囲内での指示業務内容・就業条件契約外業務・残業を独断で指示しない
現場責任者運用・周知・実態把握業務分担・現場ルール「ついで依頼」をさせない
安全衛生担当安全衛生・労災対応・事業者義務の履行教育記録・健診・報告・化学物質管理者/保護具着用管理責任者の選任状況派遣先の責任範囲を把握(第11話)
情報管理部門アカウント・データ管理権限設定・秘密保持派遣社員の権限を適切に設定
派遣元(連携先)雇用主としての管理・通知許可・36協定・待遇派遣先と密に連携

9. よくある失敗パターン

失敗パターンなぜ危ないか防止策関連話
派遣元の許可を確認していない無許可派遣(みなし2号)の受入れ許可番号・有効性を確認第1話
契約外業務を現場で頼む偽装請負・指揮命令の逸脱契約範囲を周知・徹底第8話
指揮命令者が複数いる指示系統の混乱指揮命令者を一本化第8話
事業所単位と個人単位の抵触日を混同期間制限違反(みなし3・4号)2つを分けて管理第6話
事業所単位の意見聴取が形骸化延長手続の不備適正な代表者選出・記録化第6話
派遣先管理台帳を勤怠表で代用記載・通知・保存の不備台帳を別途整備第9話
派遣元へ勤怠通知していない通知義務の不履行定期通知のルール化第9話
苦情を派遣元へ丸投げ苦情放置・関係悪化派遣先でも一次対応第10話
食堂・休憩室・更衣室を使わせない利用機会付与義務(40条3項)違反利用ルールを整備第12話
請負契約なのに直接指示偽装請負(みなし5号の入口)責任者経由の運用第13話
みなし制度を「自社に関係ない」と考える想定外の直接雇用リスク横断的な点検・証跡化第14話

10. 派遣社員受入れの実務フロー

受入目的・業務内容を確認そもそも派遣が適切か
禁止業務・請負との区別を確認適用除外業務/偽装請負
派遣元許可・特定行為禁止を確認許可番号/事前面接の回避
派遣契約・待遇情報提供・抵触日通知を整備契約条項/26条情報提供
派遣先責任者・指揮命令者・苦情窓口を決める役割の明確化
受入開始・台帳作成・現場周知42条台帳/ルール周知
勤怠・安全衛生・苦情・待遇を継続管理受入中チェック
更新前に抵触日・意見聴取・契約変更を確認事業所単位/個人単位
終了・交代・直接雇用・保存対応みなし制度の確認
定期監査・再発防止記録化・社内共有

11. 最終チェックリスト

① 受入前
派遣で受け入れるべき業務か検討した
受入目的・業務範囲を明確にした
② 派遣契約
業務内容・責任の程度・就業場所・組織単位を特定した
派遣先責任者・指揮命令者・苦情処理担当者を定めた
時間外・休日労働の有無を契約で確認した
③ 特定行為・面接
事前面接・履歴書提出などの特定行為をしていない
④ 禁止業務・請負との区別
禁止業務・適用除外業務でないことを確認した
請負・業務委託は実態で区別している(直接指示していない)
⑤ 派遣先責任者・指揮命令者
派遣先責任者を選任し機能させている
指揮命令者を一本化し現場へ周知した
⑥ 派遣先管理台帳
台帳を作成・記載している(小規模事業所の例外は人数を確認)
派遣元へ通知し、終了日から原則3年保存している
⑦ 労働時間・安全衛生
残業は派遣元の36協定と契約の範囲内で行っている
安全衛生の責任分担を把握している
⑧ 苦情・ハラスメント
苦情窓口を案内し、放置していない
ハラスメント防止措置を講じている
⑨ 待遇・教育訓練・福利厚生
比較対象労働者等の待遇情報を提供している
給食施設・休憩室・更衣室の利用機会を与えている
⑩ 抵触日・期間制限
事業所単位・個人単位の抵触日を分けて管理している
事業所単位の延長は意見聴取を適正に行っている
⑪ 偽装請負・二重派遣
請負・業務委託で直接指揮命令をしていない
二重派遣・第三者指揮命令が発生していない
⑫ みなし制度・違法派遣リスク
違法派遣5類型に該当する運用がないか点検した
万が一の際に「善意無過失」を派遣先側で主張・立証できるよう、第1〜13話の点検ログ(証跡)を法務・人事で一元管理している
違法状態の継続中は派遣労働者が就業中いつでも承諾し得る点を理解している
⑬ 終了・保存・監査
終了・交代時の記録を保存している
定期的に内部点検・社内共有をしている
特に間違えやすい「キラー論点」

シリーズを通して、現場で特に取り違えやすかった論点を凝縮します。

「5人以下」例外は人数変動に注意(責任者・台帳で算定は共通):派遣先責任者の選任不要(施行規則34条2号)も派遣先管理台帳の作成不要(同35条3項)も、いずれも「指揮命令下の派遣労働者の数+派遣先が雇用する労働者の数」の合計で算定します。合計が5人を超えると選任・作成の対象に戻るため、派遣の受入れで人数が増えると例外が外れる点に注意してください。
派遣先管理台帳と勤怠表(タイムカード)は別物:台帳には業務の種類・就業状況・苦情処理状況等の記載と派遣元への通知が必要です。勤怠の写しを送るだけでは台帳の通知義務を満たさないことがあります(第9話)。
安全衛生は派遣元・派遣先の責任分担で見る:安全管理者・安全委員会は派遣先、衛生管理者・産業医は派遣元・派遣先の双方、化学物質管理者・保護具着用管理責任者は派遣先(45条特例)。単純に「どちらか一方だけ」と考えず、分担を確認します(第11話)。
残業は派遣先の36協定ではできない:時間外・休日労働に適用されるのは派遣元の36協定です。派遣先は労働者派遣契約の範囲で、かつ派遣元の36協定の枠内でのみ可能です(第8話)。
偽装請負は契約名でなく実態:請負・準委任(SES)でも、チャットや進捗管理ツール(Slack・Jira等)での個人への直接指示は記録として残り、実態として指揮命令と評価され得ます(第13話)。
みなし制度は「有期だから当然終了」ではない/立証責任は派遣先側:有期で直接雇用が成立した場合も、満了時の雇止めは労契法19条の対象で個別判断です。また善意無過失は派遣先側が証跡で示すことになります(第14話)。
派遣社員の受入れは、契約・台帳・現場運用をまとめて管理する

派遣社員の受入れでは、契約書だけでなく、抵触日・派遣先責任者・指揮命令者・派遣先管理台帳・苦情・勤怠・安全衛生・待遇情報・請負との区別を横断的に確認する必要があります。契約書上の論点確認にはLegal GPTの無料ツールを、契約期間・更新時期・担当者・抵触日メモの管理には契約台帳テンプレートを補助的に活用できます。

※契約台帳テンプレートは契約管理の補助ツールであり、労働者派遣法上の「派遣先管理台帳」そのものではありません。派遣先管理台帳の代替としては使わず、契約期間・更新時期・担当者・抵触日メモ等の補助管理にご利用ください。

12. まとめ

派遣社員の受入れは、法務・人事・現場が分担して管理すべき業務です。受入前・契約時・受入中・更新時・終了時で見るべき論点が異なり、特に禁止業務・特定行為・期間制限・指揮命令・派遣先管理台帳・苦情・安全衛生・待遇・偽装請負・みなし制度は横断的に確認する必要があります。

「派遣元任せ」「現場任せ」「契約書だけで安心」は危険です。定期的なチェックリスト運用・記録化・社内共有が、想定外のリスクから会社を守ります。本シリーズが、皆さまの派遣受入れ体制の点検に役立てば幸いです。条文番号・手続・改正情報は、その時点の最新のe-Gov法令・業務取扱要領で確認してください。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣社員受入れチェックリスト|法務・人事・現場が確認すべき項目まとめ(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。派遣社員の受入れに関する各種義務・手続・期間制限・偽装請負該当性・労働契約申込みみなし制度の適用は、契約内容・現場運用・指揮命令・派遣元との関係・法令や指針の改正・行政解釈・裁判例等により個別具体的に判断されます。実際の対応にあたっては、その時点の最新のe-Gov法令・厚生労働省資料・業務取扱要領等を確認し、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家に相談してください。
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