派遣社員から苦情やハラスメントの相談があったとき、派遣先は「派遣元に言ってください」で終わらせてはいけません。派遣先の現場で起きた問題、派遣先社員による言動、指揮命令、契約外業務、労働時間、ハラスメントは、派遣先側の対応が必要になります。苦情対応は、派遣先責任者・派遣元責任者・人事総務・法務・現場が連携して進めるものです。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第10話です。第9話までで派遣先管理台帳まで整理しました。第10話では、苦情・ハラスメント対応の実務を、誰が受け・どこに記録し・どう連携するかまで具体的に解説します。

この記事でわかること SUMMARY
派遣社員の苦情を派遣先が放置してはいけない理由(労働者派遣法40条1項)
苦情処理における派遣先責任者の役割
派遣元責任者との連携方法
苦情・ハラスメント相談を受けたときの初動
パワハラ・セクハラ・マタハラ等の対応(派遣先も措置義務)
苦情申出を理由とする不利益取扱いの危険
派遣先管理台帳への記録と、そのまま使えるチェックリスト
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1. 派遣社員の苦情対応は「派遣元だけの問題」ではない

派遣社員の雇用主は派遣元です。しかし、派遣先は就業場所で指揮命令を行い、現場の就業環境を管理する立場です。労働者派遣法40条1項は、派遣先が派遣労働者から当該派遣就業に関する苦情の申出を受けたときは、原則として当該苦情の内容を派遣元事業主に通知するとともに、派遣元との密接な連携の下に、誠意をもって、遅滞なく、適切かつ迅速に処理しなければならないと定めています(派遣先で容易に処理できた場合の取扱いは要領で確認)。派遣先で起きた問題は、派遣先も対応しなければなりません。

主体立場苦情対応での主な動き
派遣労働者派遣元に雇用され派遣先で就業苦情・相談を申し出る
派遣先責任者派遣先受付・記録・派遣元連携・是正の中心
指揮命令者派遣先現場実態の確認・契約外業務の是正
人事総務・法務派遣先窓口・台帳・契約・リスク対応
派遣元責任者派遣元(雇用主側)雇用管理・派遣社員への説明・連携
現場上長派遣先事実確認・現場改善
「派遣元に言って」で終わらせない

苦情を「派遣社員のことは派遣元の問題」と突き返すのは危険です。派遣先での指揮命令・就業環境・ハラスメントは、派遣先が対応すべき事柄です。派遣先責任者の役割は第7話で扱っています。

2. 苦情にはどのような種類があるか

苦情には、派遣先が主に対応すべきものと、派遣元と連携すべきものがあります。多くは両方の連携が必要です。

苦情の種類主に派遣先で確認すべきこと派遣元と連携すべきこと
契約外業務契約の業務範囲と現場指示のズレ契約変更の要否・是正
指揮命令者以外からの指示指揮命令系統の一本化運用の周知・是正
残業・休日労働契約・36協定の範囲、勤怠36協定の範囲・賃金計算
職場の人間関係現場の状況把握・環境改善本人へのフォロー
パワハラ事実確認・被害者保護・加害者対応雇用管理・本人説明
セクハラ事実確認・被害者保護・加害者対応雇用管理・本人説明
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント事実確認・就業環境配慮休業・制度利用の調整
カスタマーハラスメント顧客等からの迷惑行為への就業環境配慮対応方針の共有
安全衛生・体調不良就業環境・健康配慮・緊急対応健康管理・就業可否
賃金・派遣元との雇用条件就業実態の正確な記録・通知賃金・雇用条件は派遣元が対応
情報管理・プライバシーアクセス権限・取扱いの是正取扱いルールの共有

3. 苦情を受けたときの初動対応

初動でやることはシンプルです。受け止める/責めない/突き返さない/緊急性を確認する/つなぐ/記録する。これを外さないことが大切です。

相談を受け付けるまず受け止め、相談者を責めない
安全確保・緊急性を確認体調・安全・ハラスメントの継続有無
派遣先責任者へ共有現場で握りつぶさない
派遣元責任者へ連携雇用主側と情報共有
事実確認一方を断定せず、公平に
是正・再発防止必要な措置を講じる
台帳記録・フォロー記録し、相談者をフォロー
初動でやってはいけないこと

「派遣元に言って」と突き返す、相談者を責める、加害者とされる人にすぐ相談内容を伝える、誰が相談したか詮索する——これらは事態を悪化させます。まずは受け止め、緊急性を確認し、派遣先責任者へつなぎます。苦情対応では、「誰が悪いか」を急いで決めるよりも、まず就業継続に支障が出ていないか、相談者に不利益が及ばないか、派遣元と必要な情報共有ができているかを優先して確認します。

具体例:こう動く(別部署からの残業指示で相談があった場合)

派遣社員から「指揮命令者でない別部署の人に残業を頼まれ、断ったら冷たくされた」と相談があったとします。まず受け止め、責めず、「派遣元に言って」と突き返しません。体調や継続性など緊急性を確認し、派遣先責任者へ共有します。派遣先責任者は、指揮命令者を通じて現場の事実を確認し(誰が・いつ・どんな指示をしたか)、契約外の指示や指揮命令系統の乱れがあれば是正します。並行して派遣元責任者へ連携し、本人へのフォローを依頼。一連の経過は派遣先管理台帳等に記録します。相談したことを理由に本人を不利に扱わないことも重要です。

4. 派遣先責任者・派遣元責任者・指揮命令者の役割分担

担当苦情・ハラスメント対応での役割
派遣先責任者受付、派遣元との連絡調整、記録、是正の中心
指揮命令者現場実態の確認、契約外業務・過大な指示の是正
人事総務相談窓口、派遣先管理台帳、勤怠、労務対応
法務契約・リスク・証拠保全・再発防止の支援
派遣元責任者雇用主側の対応、派遣社員への説明、雇用管理
現場上長事実確認・現場改善

5. ハラスメント相談への対応

ハラスメント防止のための雇用管理上の措置は、派遣労働者についても派遣先が講じる必要があります。労働者派遣法の特例により、派遣先も「事業主」として、セクハラ・妊娠出産等に関するハラスメント(労働者派遣法47条の2=男女雇用機会均等法関係)、育児介護休業等に関するハラスメント(47条の3=育児・介護休業法関係)、パワーハラスメント(47条の4=労働施策総合推進法関係)について責任を負います。

ハラスメントの種類典型例派遣先の初動派遣元との連携記録・再発防止
パワハラ過大な要求、人格否定、無視受付・被害者保護・事実確認雇用管理・本人説明記録・指導・研修
セクハラ性的な言動、身体接触受付・被害者保護・事実確認雇用管理・本人説明記録・処分検討・研修
妊娠・出産・育児等に関するハラスメント制度利用を理由とする嫌がらせ就業環境配慮・事実確認休業・制度利用の調整記録・周知・研修
派遣社員が被害者派遣先社員からの言動派遣先で調査・是正派遣元と情報共有記録・再発防止
派遣先社員が加害者派遣先社員による叱責・性的言動等派遣先が主体的に調査・是正派遣元へ連携し本人フォロー指導・配置調整・研修
派遣社員同士同一職場内の派遣社員間トラブル就業場所の管理者として事実確認各派遣元と連携接触回避・再発防止
カスタマーハラスメント顧客・取引先からの迷惑行為就業環境配慮・対応方針対応方針の共有記録・マニュアル整備
「派遣社員だから社内窓口の対象外」は危険/対応はルーティンに乗せない

派遣社員は自社の直接雇用労働者ではありませんが、自社の職場で働く者であり、法47条の2〜4により派遣先も相談対応・事実確認・被害者保護・再発防止の措置義務を負います。「派遣社員だから社内のハラスメント相談窓口の対象外」とする運用は危険です。被害者保護・公平な事実確認・記録をバランスよく行い、事実確認の前に一方を決めつけないことも大切です。

ここで犯しがちなのが、ハラスメント相談を第9話の「月1回の台帳通知」の周期で処理しようとすることです。セクハラ・パワハラ等の人格侵害事案で、自社内での抱え込みや対応の遅れがある間に被害者の体調が悪化した場合、派遣先は安全配慮義務違反や、加害者である自社社員との共同不法行為(民法719条)として損害賠償責任を問われるリスクがあります。深刻な事案は台帳の締め日を待たず、発覚後すみやかに派遣元責任者へ緊急に情報共有する独立した初動ラインを確立してください。

逆に派遣労働者が加害者として告発された場合も、現場判断で「明日から来なくてよい」と即時に就業を拒否してはいけません。派遣先には懲戒権がありません(懲戒は雇用主である派遣元の権限)。事実確認を欠いた一方的な就業拒否・交代要求は不当な扱いとなるおそれがあり、中途解除に当たる場合は29条の2の措置義務(解除理由の明示・就業機会の確保・休業手当等の費用負担)も生じ得ます。適法には、自社で客観的に事実を確認し被害者(自社社員)を保護しつつ、雇用主である派遣元に対して、懲戒・配置転換・交代を正式に求めるのが筋です。

補足:カスタマーハラスメント等の義務化(令和8年10月1日〜)

改正労働施策総合推進法等により、令和8年(2026年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が、事業主の雇用管理上の措置義務になります(令和8年2月26日に、カスタマーハラスメント防止指針および求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針が公布)。すべての事業主が対象です。顧客・取引先から派遣社員がハラスメントを受けた場合も、派遣先は就業環境への配慮として放置できません。射程・具体的措置は最新の厚生労働省資料・指針で確認してください。

6. やってはいけない対応

NG対応なぜ危険か正しい対応
「派遣元に言って」と突き返す派遣先の苦情処理義務(40条1項)の放置派遣先責任者が受け、派遣元と連携
相談者を責める相談を萎縮させ、被害が深刻化まず受け止め、事実を整理
加害者にすぐ相談内容を伝える報復・証拠隠滅のおそれ被害者保護を優先し慎重に進める
相談者探しをする萎縮・プライバシー侵害相談者を特定・詮索しない
苦情を理由に契約終了・交代要求不利益取扱いと疑われる苦情とは切り分け、記録・派遣元連携
派遣労働者が加害者の際、調査なしで即時出禁にする派遣先に懲戒権はなく、拙速な就業拒否は不当な扱い(中途解除なら29条の2の措置義務)被害者を隔離しつつ客観的に事実確認し、派遣元に懲戒・交代を公式請求
記録を残さない後から事実確認・台帳記録ができない申出・対応経過を記録
派遣元に連絡しない連携義務の不履行・雇用管理の断絶派遣元責任者へ連携
現場だけで握りつぶす是正・再発防止ができない派遣先責任者・人事総務へ共有
「派遣社員だから社内窓口対象外」就業環境配慮の放置派遣社員も相談対象として扱う
事実確認前に一方を断定する誤った処分・新たな紛争公平に事実確認してから判断

7. 苦情申出を理由とする不利益取扱いに注意

苦情やハラスメント相談をしたことを理由として、契約終了・交代要求・業務から外す・シフト削減・冷遇・口止め・相談者探しなどの不利益取扱いをするのは危険です。ハラスメント関係の各法も、相談したことを理由とする不利益取扱いを禁止しています。

避けるべき扱いリスク適切な進め方
苦情を理由とする契約終了不利益取扱い・報復と疑われる苦情と切り分け、合理的理由・記録・派遣元連携
「問題を言う人だから」交代要求差別的取扱い・特定行為類似のリスク合理的理由を確認し、派遣元と協議
シフト削減・業務から外す因果関係を疑われる業務上の理由を記録・説明できる状態に
口止め・相談者探し萎縮・プライバシー侵害相談しやすい環境を維持
「問題を言う派遣社員だから切る」は最悪の対応

ただし、すべての契約終了や交代要求が直ちに違法というわけではありません。合理的な業務上の理由がある場合でも、苦情申出との因果関係を疑われないよう、理由の記録・本人や派遣元への説明・派遣元との連携が重要です。なお、苦情の申出を受けたことを理由とする労働者派遣契約の解除は、労働者派遣法27条(契約解除の制限)に違反するものと整理されており(業務取扱要領)、苦情を理由とする交代要求・更新拒否も不利益取扱いに含まれるとされています。交代要求のリスクは第5話でも整理しています。

8. 派遣先管理台帳・記録に残すべきこと

苦情の申出を受けた年月日・内容・処理状況等は、派遣先管理台帳の記録対象です。記録は、後の事実確認・再発防止・行政対応の基礎になります。

記録項目内容
苦情の申出年月日いつ申出があったか
苦情の内容何についての苦情か
対応経過・処理状況誰が、いつ、どのように対応したか
派遣元への連絡連絡日・内容・担当者
調査結果事実確認の結果
是正措置講じた措置
再発防止策今後の防止策
フォロー状況相談者へのフォロー
台帳の記載事項は最新で確認

苦情処理に関する事項は派遣先管理台帳の記載事項に含まれますが、記載事項の詳細は最新の施行規則・業務取扱要領で確認してください。派遣先管理台帳の全体像は第9話で解説しています。

9. 現場で苦情を起こさないための予防策

予防策ねらい
契約範囲の周知契約外業務の指示を防ぐ
指揮命令者の一本化誰でも指示する状態をなくす
派遣社員にも相談窓口を案内早期に相談できるようにする
派遣元との定例連絡問題の早期共有
残業・休日労働の事前確認労働時間トラブルを防ぐ
ハラスメント研修加害行為を未然に防ぐ
現場巡回・定期確認派遣先責任者が実態を把握
苦情を早期に拾う仕組み深刻化する前に対応

10. 苦情・ハラスメント対応フロー

相談受付受け止める・責めない
安全確保・緊急性判断体調・安全・継続の有無
派遣先責任者・人事総務へ共有握りつぶさない
派遣元責任者へ連絡ハラスメント等の緊急事案は台帳の定期通知を待たず速やかに即時共有
事実確認公平に、断定しない
暫定措置被害者保護・接触回避等
是正措置必要な対応・指導
再発防止研修・運用改善
台帳記録申出・経過・措置を記録
相談者フォロー不利益取扱いをしない
苦情は違法派遣のサインのこともある

苦情対応の不備が、それだけで直ちに労働契約申込みみなし制度に直結するわけではありません。ただし、苦情が契約外業務・禁止業務・期間制限違反・偽装請負・二重派遣といった違法派遣の類型を示すサインである場合、苦情はそれらを早期に発見するきっかけになります。違法派遣とみなし制度の詳細は第14話で扱います。

11. 派遣先企業向けチェックリスト

① 相談窓口
派遣社員も相談できる窓口を案内している
② 初動対応
受け止め・責めず・突き返さず、緊急性を確認している
③ 派遣元連携
派遣元責任者へ連絡・連携する流れがある
④ 事実確認
一方を断定せず、公平に事実確認している
⑤ ハラスメント対応
派遣社員も社内のハラスメント対応の対象にしている
被害者保護・加害者対応・再発防止を行っている
⑥ 不利益取扱い防止
苦情申出を理由とする不利益取扱いをしていない
⑦ 台帳・記録
苦情の申出年月日・内容・対応経過を記録している
⑧ 再発防止
是正措置・再発防止策を講じている
⑨ 現場教育
契約範囲・ハラスメント防止を現場へ教育している
⑩ フォローアップ
相談者へのフォローと、その後の状況確認をしている
苦情の芽は「契約と実態のズレ」から

苦情・ハラスメント対応は、契約書・台帳・現場運用のズレを早期に見つけることが重要です。派遣契約書の業務範囲・苦情処理・指揮命令者・派遣先責任者の条項を見落としたくない場合は、Legal GPTの無料ツールで条項の有無を確認することもできます。契約期間や担当者の管理には契約台帳テンプレートも補助的に活用できます。

※契約台帳テンプレートは契約管理の補助ツールであり、労働者派遣法上の「派遣先管理台帳」とは別物です。混同しないようご注意ください。

12. まとめ

派遣社員の苦情・ハラスメント対応は、派遣元だけの問題ではありません。派遣先は、派遣先責任者を中心に、受付・記録・派遣元連携・調査・是正・再発防止を行う必要があります(労働者派遣法40条1項)。ハラスメント防止措置は、派遣労働者についても派遣先が講じる必要があります。

苦情申出を理由とする不利益取扱いは避け、被害者保護・公平な事実確認・記録をバランスよく行ってください。苦情は、契約外業務・指揮命令の乱れ・ハラスメント・安全衛生問題を早期発見する重要なサインです。

第11話では、派遣社員の安全衛生・労働時間管理について、派遣先企業が確認すべき実務ポイントを解説します。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣社員の苦情対応・ハラスメント対応|派遣先企業が放置してはいけない理由(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。派遣社員の苦情対応・ハラスメント対応・派遣元との連携・不利益取扱いの判断は、法令・指針・業務取扱要領の改正や個別事情により変わり得ます。実際の対応にあたっては、その時点の最新のe-Gov法令・厚生労働省資料・業務取扱要領等を確認のうえ、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
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