派遣先管理台帳は、単なる「面倒な書類」ではありません。派遣先が派遣労働者の就業実態を把握し、派遣元と情報共有し、契約外業務・残業・苦情・期間制限・指揮命令の適正性を見える化するための管理ツールです。労働者派遣法42条により、派遣先には作成・記載・保存・派遣元への通知が義務づけられています。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第9話です。第8話までで指揮命令の注意点まで整理しました。第9話では、派遣先管理台帳の記載事項・保存・通知・運用を、初心者向けに整理します。

この記事でわかること SUMMARY
派遣先管理台帳とは何か(派遣先が・派遣労働者ごとに作成)
なぜ必要か(就業実態の把握・派遣元への通知・リスク防止)
主な記載事項(労働者派遣法42条・施行規則)
派遣元への通知義務(42条3項・1か月に1回以上)
保存期間(派遣就業終了日から3年)と電子保管の条件
よくある不備と、台帳を実態と一致させる方法
運用フローと、そのまま使えるチェックリスト
この記事を実務で使う

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1. 派遣先管理台帳とは何か

派遣先管理台帳は、派遣先が、事業所その他派遣就業の場所ごとに作成・管理する法定の管理帳票です(労働者派遣法42条)。そのうえで、派遣社員の就業実態(就業日・就業時間・業務内容・指揮命令・苦情・教育訓練など)を派遣労働者ごとに記録します。よく似た書類と混同されがちなので、まず違いを整理します。

書類作成主体主な目的派遣先管理台帳との違い
派遣先管理台帳派遣先就業実態・指揮命令・苦情等の管理本記事の対象
派遣元管理台帳派遣元雇用管理・派遣元側の管理派遣元が作る(別物)
労働者派遣契約書派遣元・派遣先就業条件・契約条件の合意契約内容を定める書面
勤怠表・タイムカード派遣先/派遣元で共有実労働時間の把握台帳記載の基礎資料
契約台帳自社の契約管理契約期間・更新・担当者管理労働者派遣法上の台帳ではない
勤怠表・契約台帳では代用できない

勤怠表があっても、派遣先管理台帳を別に作る必要があります。また、契約期間や担当者を管理する一般的な「契約台帳」は、労働者派遣法上の派遣先管理台帳とは別物です。混同しないよう注意してください。なお、当該事業所で指揮命令の下に労働させる派遣労働者の数に派遣先が雇用する労働者の数を加えた数が5人を超えないときは、派遣先管理台帳の作成・記載を要しないとされています(施行規則35条3項)。ただし、これは合計人数による狭い例外で、人数の変動で5人を超えることもあるため、整備しておくと実務上は安全です。

2. なぜ派遣先管理台帳が必要なのか

派遣先管理台帳には、大きく3つの目的があります。「作ってファイルに入れておくだけ」ではなく、日々の就業管理と連動させることが大切です。

目的内容
就業実態の把握派遣先が、就業日・就業時間・業務内容・指揮命令などの実態を正確に把握する
派遣元への通知派遣元が雇用管理・賃金計算・労働時間管理等を行えるよう、記載事項を通知する
リスクの防止・発見契約外業務・残業・苦情・期間制限違反などを早期に発見し、防止する

3. 派遣先管理台帳の主な記載事項

労働者派遣法42条1項・施行規則に基づく主な記載事項です。下表は初心者向けの整理であり、厳密な網羅表ではありません。正確な項目名・範囲は、最新の施行規則・業務取扱要領で確認してください。

記載事項何を書くか実務上の注意点
氏名派遣労働者ごとに記録個人情報として管理
派遣元事業主・派遣元事業所派遣元の名称、事業所の名称・所在地派遣元への通知では一部対象外(後述)
就業形態の別協定対象派遣労働者か否か、無期/有期、60歳以上か否か期間制限の対象外かの判断に関係
派遣就業した日実際に就業した日勤怠表と整合させる
始業・終業・休憩日ごとの始業・終業時刻、休憩時間派遣元への通知・賃金計算に影響
業務の種類実際に従事した業務契約外業務がないか確認
責任の程度権限・役職・判断範囲「補助」なのに承認していないか確認
派遣就業した場所・組織単位事業所の名称・所在地、その他派遣就業した場所、組織単位期間制限・抵触日管理、契約外就業の確認に関係
責任者等派遣元責任者・派遣先責任者・指揮命令者変更時は更新する
苦情処理苦情の内容・対応経過放置しない、派遣元と連携
教育訓練実施した日時・内容(省令で定めるもの)第12話(待遇・教育訓練)と関連
紹介予定派遣に関する事項紹介予定派遣の場合に記載該当する場合のみ
その他省令で定める事項派遣期間その他、施行規則で定める事項最新の施行規則・要領で確認
記入イメージ(こう書く)

たとえば派遣社員の山田さんなら、「4月1日:始業9:00/終業18:00/休憩60分/業務=データ入力(経理補助)/指揮命令者=経理課長」のように就業した日ごとに記録します。苦情があれば「4月10日:◯◯について申出→内容と対応経過を記録し派遣元へ連携」、教育訓練を行えば「4月15日:個人情報取扱い研修30分」のように随時追記します。協定対象か否か・無期/有期・60歳以上か否かといった区分は、期間制限の対象外かどうかの判断にも関わるため、最初に正確に記録しておきます。日々の記録の積み重ねが、後からの実態確認とリスク発見を可能にします。

4. 派遣元への通知義務

派遣先管理台帳は「作って保存して終わり」ではありません。労働者派遣法42条3項により、台帳の記載事項のうち一定のものを派遣元へ通知する必要があります(施行規則38条)。これは、派遣元が賃金計算・労働時間管理・雇用管理を行うために重要です。

通知のポイント(重要)

派遣先は、労働者派遣法42条3項・施行規則38条に基づき、派遣先管理台帳の記載事項のうち法令で定められた事項を派遣元へ通知する必要があります。実務上は、派遣労働者の氏名、派遣就業をした日、始業・終業時刻、休憩時間、従事した業務の種類、業務に伴う責任の程度、就業場所・組織単位等が特に重要です。通知は、原則として1か月に1回以上、一定の期日を定めて、書面の交付等(電磁的記録を含む)の方法で行います(派遣元から請求があれば遅滞なく)。通知対象・通知方法は改正や様式変更の影響を受け得るため、最新の施行規則38条・業務取扱要領第7で確認してください。実務では「毎月◯日まで」「勤怠締め後◯営業日以内」など、派遣元と運用ルールを決めておくとスムーズです。

実務の地雷:タイムカードのコピーを送るだけでは通知義務を満たさない

毎月の締め後に「勤怠データのPDFをメールして終わり」にする運用は危険です。通知すべき事項には、労働時間だけでなく従事した業務の種類・業務に伴う責任の程度・苦情処理の内容等も含まれます。時間データだけを送り、業務実態や苦情の通知を怠っていると、通知義務を果たしていないとみなされるおそれがあります。タイムカードの転送=台帳の通知ではありません。法定項目を網羅した台帳形式での定期通知フローを確立してください。

通知対象派遣元が必要とする理由派遣先の注意点
就業日・就業時間賃金計算・労働時間管理勤怠表と一致させる
業務内容契約範囲・就業実態の確認契約外業務がないか確認
苦情処理雇用管理・トラブル対応内容・対応経過を記録する
教育訓練派遣元側の管理・待遇説明実施内容を残す
個人情報・就業実績の送付に注意

通知では個人情報・就業実績情報を送るため、安全な送付方法・アクセス権限・誤送信防止に注意してください。なお、派遣先管理台帳の作成・記載・保存・通知の義務に違反した場合、労働者派遣法上の罰則(30万円以下の罰金。労働者派遣法61条3号)の対象になり得ます。

通知漏れは派遣元の賃金計算を狂わせる

派遣先からの通知(特に就業日・始業終業・休憩)は、派遣元が賃金を計算し、割増賃金や労働時間を管理するための基礎データです。通知が遅れたり実態とズレていたりすると、派遣社員の賃金支払や労働時間管理に直接影響します。「勤怠は社内で締めたが派遣元への通知を忘れていた」という事態を避けるため、勤怠の締め日と派遣元への通知期日をセットで運用ルール化しておきましょう。台帳・勤怠・通知の数字が常に一致しているかを、派遣先責任者が定期的に確認します。

5. 保存期間と電子保管

派遣先管理台帳の保存期間は、派遣就業が終了した日から3年間です(労働者派遣法42条2項)。契約更新を繰り返している場合も、実務上は当該派遣労働者に係る派遣就業が最終的に終了した日を基準に、3年間保存する運用として整理します。契約終了後すぐに廃棄してはいけません。

具体例:保存の起算日(繰り返し更新の場合)

3か月ごとの契約を繰り返し更新していた派遣社員が、最終的に2026年9月30日で就業を終えたとします。この場合、途中の各契約ごとに別々の起算日があるわけではなく、最後の派遣契約の終了日(2026年9月30日)を起算日として、そこから3年間(2029年9月30日ごろまで)、その人に関する派遣先管理台帳を保存します。契約を更新しているからといって、初回契約分の台帳を早く捨ててよいわけではありません。終了直後に廃棄してしまう事故を防ぐため、終了日と廃棄予定日を台帳管理表に記録しておくと安全です。

管理方法注意点
紙保管紛失・閲覧権限・保管場所に注意
Excel・スプレッドシート入力ミス・アクセス権限・履歴管理に注意
労務管理システム出力可能性・権限設定・バックアップを確認
電子保管必要なときに直ちに記載事項を表示でき、書面提供できる状態が必要
電子保管の条件と保存期間のズレ

電子保管も可能ですが、必要なときに直ちに記載事項を明らかにでき、必要に応じて書面で提供できる状態であることが必要です。アクセス権限・保存場所・バックアップ・廃棄ルールを整えてください。また、契約台帳・勤怠データ・台帳データで保存期間がバラバラにならないよう注意します。保存期間満了後は、個人情報に配慮して廃棄します。

6. よくある不備・ミス

不備何が問題か防止策
勤怠表はあるが台帳を作っていない作成義務違反のおそれ派遣労働者ごとに台帳を作成
派遣元への通知をしていない通知義務違反のおそれ通知項目・頻度・方法を決める
契約上の業務と実際の業務が違う契約外業務のおそれ実態を記録し、契約と照合
指揮命令者の変更を反映していない実態と不一致変更時に台帳・通知を更新
苦情があったのに記録していない苦情放置のおそれ内容・対応経過を記録
就業終了後すぐ廃棄した保存義務違反のおそれ終了日から3年間保存
派遣元管理台帳と混同役割の取り違え派遣先が作るものと理解
契約台帳で代用できると思っている法定台帳の不備派遣先管理台帳を別に作成
電子保管だが誰でも見られる個人情報管理上の問題アクセス権限を設定
テレワークの就業実態が未記録実態把握の漏れ在宅時の就業も記録

7. 派遣先責任者・指揮命令者・人事総務の役割分担

台帳は一人で抱える書類ではなく、関係者で分担して回すものです(第7話第8話と連動)。

担当台帳管理で見るべきこと
派遣先責任者台帳全体、苦情、派遣元通知、現場確認
指揮命令者実際の業務内容・就業時間・契約外業務の有無
人事総務台帳様式、保存、通知、勤怠データ集約
法務契約内容と台帳・運用の整合確認
情報管理部門電子保管、アクセス権限、個人情報管理

8. 台帳と契約・現場運用を一致させる

派遣先管理台帳は、就業の実態を映す鏡です。契約・台帳・現場の実態がズレていると、台帳がリスクの発見装置として機能しなくなります。逆に言えば、台帳を正直に記録していれば、契約外業務の広がりや指揮命令系統の乱れ、残業の常態化といった問題を数字とメモの形で早期に可視化できます。台帳は「監査のために仕方なく作る書類」ではなく、自社を守るための実態管理ツールだと捉えると運用が変わります。

台帳と実態のズレリスク対応
業務内容が違う契約外業務契約変更・現場周知
指揮命令者が違う指揮命令系統の混乱契約・台帳・通知を更新
就業時間が違う労働時間管理不備勤怠と派遣元通知を修正
苦情記録がない苦情放置記録・連携フローを整備
台帳不備とリスクの関係

台帳の不備が直ちに労働契約申込みみなし制度に直結するわけではありません。ただし、台帳が形式的だと、契約外業務・期間制限違反・労働時間管理不備・苦情放置・偽装請負等を見逃す原因になります。たとえば契約書は「データ入力」なのに台帳・現場では「支払承認」までしている、契約上の指揮命令者と実際に指示している人が違う——こうしたズレを早期に見つけられるのが、台帳を実態と一致させる最大の意義です。違法派遣の類型に該当する場合のリスクは第14話で扱います。

9. 派遣先管理台帳の運用フロー

派遣契約締結・就業条件を確認人事総務・法務
派遣労働者ごとの台帳を作成派遣先責任者・人事総務
就業日・時間・業務内容を日々記録指揮命令者・勤怠担当
苦情・教育訓練・指揮命令者変更等を随時記録派遣先責任者
派遣元へ所定の記載事項を通知1か月に1回以上・一定の期日
契約更新・業務変更時に台帳を更新派遣先責任者・人事総務
派遣就業終了後、3年間保存終了日から起算
保存期間満了後、個人情報に配慮して廃棄情報管理部門

10. 派遣先管理台帳チェックリスト

① 作成
派遣労働者ごとに台帳を作成した
派遣元・派遣先責任者・指揮命令者を記載した
② 日々の記録
就業日・始業終業時刻・休憩時間を記録している
実際の業務内容を記録している
③ 契約との整合
業務内容が契約と一致している
責任の程度を超えていない
④ 派遣元通知
通知対象項目・通知頻度・通知方法を決めている
通知漏れがない(1か月に1回以上)
⑤ 苦情・教育訓練
苦情があれば内容・対応経過を記録している
教育訓練の実施内容を記録している
⑥ 保存・電子保管
派遣就業終了日から3年間保存するルールがある
電子保管の場合、必要時に直ちに表示・書面出力できる
アクセス権限・廃棄ルールを定めている
⑦ 社内連携
派遣先責任者・指揮命令者・人事総務・法務で共有している
契約変更・指揮命令者変更時に台帳も更新している
台帳は「記録・通知・保存・運用改善」までがセット

派遣先管理台帳を正しく運用するには、派遣契約書・勤怠・契約期間・担当者情報を一体で管理することが重要です。契約期間や更新時期の管理には、Legal GPTの契約台帳テンプレートを補助的に活用できます。また、派遣契約書の業務内容・指揮命令者・派遣先責任者・苦情処理条項などを見落としたくない場合は、契約書 論点アラートツールも活用できます。

※契約台帳テンプレートは契約管理の補助ツールであり、労働者派遣法上の「派遣先管理台帳」そのものではありません。派遣先管理台帳の代替としては使わず、契約管理の補助としてご利用ください。

11. まとめ

派遣先管理台帳は、派遣先が派遣労働者ごとに作成・記録・保存し、派遣元へ通知する法定の管理帳票です(労働者派遣法42条)。記載事項は最新の施行規則・業務取扱要領で確認し、保存は派遣就業終了日から3年間、通知は1か月に1回以上を基本に運用します。

大切なのは、「作って終わり」ではなく、記録・通知・保存・運用改善までをセットにすることです。台帳を実態と一致させることで、契約外業務・労働時間管理・苦情・期間制限などのリスクを早期に発見できます。

第10話では、派遣社員の苦情対応・ハラスメント対応について、派遣先企業が放置してはいけない理由を解説します。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣先管理台帳とは?受入企業が記録・保存すべき項目を解説(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。派遣先管理台帳の記載事項・保存期間・派遣元への通知の取扱いは、法令・施行規則・指針・業務取扱要領の改正や個別事情により変わり得ます。実際の作成・運用にあたっては、その時点の最新のe-Gov法令・施行規則・業務取扱要領(特に「第7 派遣先の講ずべき措置等」)や厚生労働省・労働局資料を確認のうえ、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
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