違法派遣となった場合、派遣先企業には行政指導だけでなく、派遣社員を直接雇用することになり得るリスクが生じます。それが労働契約申込みみなし制度(労働者派遣法40条の6)です。ただし、「違法派遣=自動的に直接雇用が成立」ではありません。派遣先等が労働契約の申込みをしたものとみなされ、派遣労働者が承諾した場合に労働契約が成立します。派遣先企業は、禁止業務・無許可派遣・期間制限・偽装請負などを横断的に管理する必要があります。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第14話、実質的なリスク総括回です。これまで扱った禁止業務(第3話)期間制限(第6話)指揮命令(第8話)偽装請負(第13話)が、どのように直接雇用リスクへつながるのかを横断的に整理します。

この記事でわかること SUMMARY
労働契約申込みみなし制度とは何か(40条の6)
対象となる違法派遣の5類型
直接雇用が成立するまでの流れ(申込みのみなしと承諾)
善意無過失とは何か
派遣元と同一の労働条件とは何か
偽装請負・二重派遣との関係
派遣先企業が予防のために確認すべきこと
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1. 労働契約申込みみなし制度とは何か

労働契約申込みみなし制度は、労働者派遣法40条の6に定められた制度です(平成27年10月1日施行)。派遣先等が一定の違法派遣に該当する行為を行った場合、その時点で、派遣先等が派遣労働者に対し、その時点における派遣元との労働契約上の労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。そして、派遣労働者がこれを承諾すれば、労働契約が成立します。

ひとことで言うと

違法派遣があると、派遣先が「うちで直接雇いますよ」と申し込んだことにされる制度です。ただし申し込んだとみなされるだけで、自動的に社員になるわけではありません。派遣労働者が「はい」と承諾して初めて労働契約が成立します。承諾できるのは、原則として違法行為が終了した日から1年を経過する日までです。これは民事上の効力を持つ制度であり、行政罰・刑事罰そのものではありません。

2. 制度の流れを図で整理

大切なのは、「申込みのみなし」と「労働契約の成立」は別の段階だということです。みなされるのは申込みであって、成立には承諾が必要です。

違法派遣に該当する行為が発生禁止業務・無許可・期間制限違反・偽装請負等
その時点で派遣先等が労働契約を申し込んだものとみなされる派遣元と同一の労働条件で(申込みのみなし)
派遣労働者が承諾するか判断違法行為が終了した日から1年を経過する日まで
承諾すれば労働契約が成立派遣元の意思にかかわらず成立し得る
労働条件・雇用期間・配置等を確認して実務対応人事・労務・現場で対応
「申込みのみなし」≠「成立」

②の時点では、派遣先が申し込んだ状態(申込みのみなし)にとどまります。④の承諾があって初めて労働契約が成立します。なお、派遣先等が善意無過失の場合は適用されません(後述)。最終的に効力が争われた場合は、個別具体的な司法判断になります。

3. 対象となる違法派遣の5類型

みなし制度の対象となる違法派遣は、次の5類型です(40条の6第1項各号)。善意無過失の場合を除き、1〜4号は客観的な違反の有無が中心になりますが、5号(偽装請負等)は「労働者派遣法等の適用を免れる目的」という主観的な要件が加わります。

類型典型例関連記事派遣先が見るべきポイント
①禁止業務(1号)派遣が禁止された業務に従事させる第3話業務が禁止業務・適用除外業務でないか
②無許可事業主からの受入れ(2号)許可のない事業主から派遣を受ける第1話派遣元の許可番号・有効性の確認
③事業所単位の期間制限違反(3号)事業所単位の抵触日を超えて受け入れ第6話事業所単位の抵触日・延長手続
④個人単位の期間制限違反(4号)同一組織単位で個人の抵触日を超えて受け入れ第6話個人単位の抵触日管理
⑤偽装請負等(5号)適用を免れる目的で請負等の名目で契約し役務提供を受ける第13話請負・業務委託の実態(指揮命令)
指揮命令の乱れは複数の入口につながる

現場で指揮命令(第8話)が乱れると、契約外業務や偽装請負の兆候となり、上記の類型に近づくことがあります。ただし、契約外業務が少しあるだけで直ちにいずれかの類型に該当するわけではなく、該当性は個別に判断されます。

4. 「違法派遣=必ず直接雇用」ではない

この章は特に重要です。みなし制度は、次の3段階で理解してください。①違法派遣に該当する行為がある → ②労働契約の申込みをしたものとみなされる → ③派遣労働者が承諾して初めて労働契約が成立する。①や②だけで自動的に社員になるわけではありません。

誤解正しい理解
違法派遣になった瞬間に自動的に社員になる申込みがみなされ、派遣労働者が承諾すれば成立する
派遣先が直接雇用を拒否すれば終わり法的には申込みがみなされているため、承諾があれば労働契約成立が問題になる
事前に「承諾しない」と書かせれば制度を排除できる違法行為前の不承諾の合意は、公序良俗との関係で認められないとされる
みなし制度は罰金や刑罰のような罰則だ行政罰・刑事罰そのものではなく、民事上の効力を持つ制度
具体例:3段階で考える

たとえば、ある派遣労働者を同一の組織単位で個人単位の抵触日を過ぎて受け入れていたとします(4号)。①この違法行為があると、②その時点で、派遣先が派遣元と同一の労働条件で労働契約を申し込んだものとみなされます。③その後、派遣労働者が(違法行為が終了した日から1年を経過する日までに)承諾の意思を示せば、労働契約が成立し得ます。ここで重要なのは、派遣先が「直接雇用はしたくない」と思っていても、申込みはみなされているため、承諾があれば成立が問題になるという点です。だからこそ、違法状態を作らないことが最大の予防策になります。

時間軸の注意:違法状態が続く間は承諾を受け得る

みなし申込みは、違法行為が行われている日ごとに生じると整理されています。そのため、偽装請負や期間制限違反などの違法状態が現場で継続している間は、派遣労働者がいつでも承諾の意思を示すことができ、承諾があればその時点で労働契約が成立し得ます(承諾は派遣労働者の側の意思表示で効果が生じる性質のものです)。承諾できる期間は違法行為が終了した日から1年を経過する日までですが、違法状態を長く放置するほど、承諾され得る期間が続くことになります。早期に違法状態を解消することが重要です。

5. 善意無過失とは何か

派遣先等が、その行為が違法派遣に該当することを知らず、かつ、知らなかったことについて過失がなかった場合(善意無過失)には、みなし制度は適用されません(40条の6第1項ただし書)。ここで重要なのは、「知らなかった」だけでは足りず、「知らなかったことについて過失がなかった」ことが必要な点です。

「派遣元任せ・現場任せ」は無過失を主張しにくい

許可・業務内容・抵触日・就業実態を確認せず、派遣元や現場に任せきりにしていた場合、「過失がなかった」とは主張しにくくなる可能性があります。無過失と認められるのは簡単ではないため、確認・管理の証跡を残すことが実務上きわめて重要です。

善意無過失は派遣先側の「抗弁」|各話の証跡が盾になる

善意無過失は、みなし制度の適用を除外するための事情です。通達でも「善意無過失である旨の派遣先等による抗弁」と位置づけられており、これを基礎づける主張・立証は、派遣労働者の側ではなく派遣先側が行うことになると考えられます。つまり、派遣先が「ここまで確認・点検していた」という客観的な証跡を示せなければ、無過失とは認められにくくなります。だからこそ、本シリーズの第1〜13話で積み上げてきた許可確認の記録・抵触日管理表・意見聴取記録・派遣先管理台帳・請負の現場点検記録などは、いざというときに自社を守る重要な裏づけになります。

善意無過失を支える証跡(例)関連記事
派遣元の許可確認記録第1話
禁止業務チェック第3話
抵触日管理表・意見聴取記録第6話
派遣契約書・個別契約書第5話
派遣先管理台帳第9話
指揮命令ルールの現場周知第8話
請負・業務委託の現場点検記録第13話

6. 期間制限違反とみなし制度

期間制限違反は、みなし制度の3号(事業所単位)・4号(個人単位)に当たります。第6話で扱った抵触日管理が、ここで直接リスクにつながります。

違反パターン何が問題か予防策
事業所単位の抵触日を超えて受け入れ3号の期間制限違反事業所単位の抵触日管理・延長手続
個人単位の抵触日を超えて受け入れ4号の期間制限違反同一組織単位の3年管理
延長の意見聴取の不備過半数代表者の選出不備・期限徒過・非民主的方法適正な代表者選出・期限内の意見聴取・記録化
事業所単位を延長したから個人も延びると誤解事業所単位を延長しても個人単位は延びない事業所単位と個人単位を分けて管理
対象外派遣の確認漏れ期間制限の対象外となる派遣の判断誤り無期雇用・60歳以上等の対象外要件を確認

7. 偽装請負等とみなし制度

請負・業務委託の名目でも、実態が労働者派遣であれば偽装請負のリスクがあります(第13話)。みなし制度の対象となる偽装請負等(5号)は、労働者派遣法等の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、必要な事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受ける場合です。

「指揮命令があった=必ず免れる目的」ではない

5号は「適用を免れる目的」という主観的要件を含みます。単に発注者の指揮命令があったというだけで、直ちに「免れる目的」が推定されるわけではなく、個別具体的に判断されます。とはいえ、目的の有無は外形的な事実から評価されるため、契約と実態の乖離を放置しないことが重要です。

論点整理
偽装請負等(5号)適用免脱目的+請負等の名目+必要事項を定めず役務提供を受ける。みなし制度の対象になり得る
二重派遣職業安定法44条(労働者供給)違反として整理される場面がある。みなし制度と単純に同一視しない
関係いずれも実態判断。どの法的枠組みで問題になるかは個別に整理する必要がある

8. 労働条件はどうなるのか

みなされる申込みの労働条件は、違法行為時点の派遣元との労働契約上の労働条件と同一です。ここは誤解が生じやすいので、慎重に理解してください。

論点整理(断定でなく考え方)
基本の労働条件違法行為時点の派遣元との労働契約上の労働条件と同一とされる
労働契約上でない事項労働契約上の労働条件でない事項は、当然には維持されない
承継の範囲使用者が変わっても承継されることが社会通念上相当なものに限られる趣旨とされる
契約期間原則として派遣元との労働契約の期間に関する内容が反映される
無期転換(労契法18条)派遣元での通算期間と直接雇用後の期間は、原則として通算されないとされる
雇止め(労契法19条)効力が争われる場合は個別具体的に判断される

つまり、みなし制度で問題になるのは「派遣先の正社員と同じ条件にするか」ではなく、まずは違法行為時点で派遣元と派遣労働者の間に存在していた労働契約上の条件が何だったかです。そのうえで、使用者が派遣元から派遣先へ変わっても承継される性質の条件かを個別に確認します。

「有期だから満了で当然に終了できる」とは限らない

派遣元での契約が有期であれば、みなし制度で成立する労働契約にもまず有期の内容が反映され得ます。ただし、その満了時に雇止めをする場合も労働契約法19条(雇止め法理)の対象であり、客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性が必要です。違法派遣を契機に成立した労働契約であるという経緯も事情として考慮され得るため、「有期だから満了で当然に終了できる」とは限りません。雇止めの可否は個別具体的に判断されます。

「必ず正社員になる」ではない

労働条件は派遣元との労働契約に基づくため、無期・有期、労働時間、賃金等は個別に確認が必要です。「みなし制度=必ず正社員化」ではありません。具体的な労働条件・効力は、最終的に個別具体的な司法判断になり得ます。

9. 派遣先企業に起きる実務上の影響

影響内容
想定外の直接雇用リスク承諾があれば労働契約成立が問題になる
雇用条件の整理無期・有期、労働時間、賃金等の確認
配置・受入部署の調整就業場所・業務の再整理
人件費・予算影響直接雇用に伴うコスト
労務管理・社会保険・就業規則対応直接雇用後の各種手続
派遣元との契約関係整理派遣契約の見直し・清算
現場・本人・派遣元への説明関係者への丁寧な説明
行政対応・労働局相談是正指導への対応
レピュテーション・監査信用・内部統制上の指摘

10. 派遣先が取るべき予防策

みなし制度のリスクは、これまでの各話の実務をきちんと回すことで大きく下げられます。派遣元任せ・現場任せにしないことが要点です。

予防策対応する話
派遣元の許可確認第1話
禁止業務チェック第3話
派遣契約書・個別契約書の確認第5話
抵触日管理・意見聴取手続の適正化第6話
派遣先責任者の機能化・指揮命令者の明確化第7話・第8話
派遣先管理台帳の整備第9話
苦情・ハラスメント対応第10話
請負・業務委託の現場点検第13話
定期的な内部監査・法務人事現場の連携全話

11. みなし制度リスク対応フロー

違法派遣の疑いを把握内部点検・指摘・相談等
契約書・台帳・勤怠・現場実態を確認事実関係の整理
対象類型(1〜5号)を確認どの違法派遣類型に当たり得るか
派遣元・社労士・弁護士と連携法的評価・対応方針
派遣労働者への説明・対応方針を整理丁寧な説明・誠実な対応
是正措置・再発防止違法状態の解消・運用改善
記録化・社内報告経過・判断・措置を記録
必要に応じて労働局相談行政への相談・対応

12. 派遣先企業向けチェックリスト

① 許可・業務
派遣元の許可を確認している
禁止業務に従事させていない
② 期間制限
事業所単位・個人単位の抵触日を管理している
事業所単位の延長手続(意見聴取)を適正に行っている
③ 指揮命令・契約
指揮命令者を明確にしている
派遣契約書と現場実態が一致している
契約外業務を現場判断で指示していない
④ 台帳・苦情
派遣先管理台帳を作成・保存・通知している
苦情・ハラスメントを放置していない
⑤ 請負・偽装請負
請負・業務委託で直接指揮命令をしていない
偽装請負・二重派遣の定期点検をしている
⑥ 是正フロー
違法派遣の疑いがある場合の相談・是正フローがある
みなし制度リスクは「横断的な確認」で下げる

労働契約申込みみなし制度のリスクを避けるには、契約書だけでなく、抵触日・業務内容・指揮命令者・派遣先責任者・派遣先管理台帳・請負/業務委託の実態を横断的に確認する必要があります。契約書上の論点確認にはLegal GPTの無料ツール、契約期間や更新管理には契約台帳テンプレートを補助的に活用できます。

※契約台帳テンプレートは契約管理の補助ツールであり、労働者派遣法上の「派遣先管理台帳」とは別物です。混同しないようご注意ください。

13. まとめ

労働契約申込みみなし制度(40条の6)は、違法派遣時に派遣先等が労働契約の申込みをしたものとみなされる重大な制度です。ただし、自動的に直接雇用が成立するのではなく、派遣労働者の承諾により労働契約が成立します(承諾期間は原則として違法行為が終了した日から1年を経過する日まで)。

対象類型は、禁止業務・無許可派遣・事業所単位/個人単位の期間制限違反・偽装請負等の5つです。善意無過失の抗弁はあり得ますが、無過失と認められるのは簡単ではなく、確認・管理の証跡が重要です。派遣先企業は、契約・台帳・抵触日・現場指揮命令・請負運用を横断的に管理してください。

第15話では、シリーズの最終回として、派遣社員受入れチェックリスト(法務・人事・現場が確認すべき項目まとめ)を扱います。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
違法派遣になるとどうなる?労働契約申込みみなし制度と派遣先企業のリスク(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。労働契約申込みみなし制度の適用、違法派遣該当性、善意無過失、労働条件、偽装請負・二重派遣との関係は、契約内容・現場運用・指揮命令・派遣元との関係・行政解釈・裁判例等により個別具体的に判断されます。実際の対応にあたっては、その時点の最新のe-Gov法令・厚生労働省資料・業務取扱要領等を確認し、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家に相談してください。
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