派遣社員の安全衛生・労働時間管理は「派遣元だけの問題」ではありません。派遣先は実際の就業場所・設備・作業方法を管理し、指揮命令を行う立場として、労働時間の実態把握、安全衛生の確保、事故対応、派遣元への勤怠通知について重要な役割を負います。労働者派遣法は、労働基準法・労働安全衛生法の一部について、派遣先を使用者・事業者とみなす特例を定めています(44条・45条)。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第11話です。第8話(指揮命令)第9話(派遣先管理台帳)第10話(苦情・ハラスメント)を受けて、第11話では安全衛生と労働時間管理の実態管理に焦点を当てます。

この記事でわかること SUMMARY
安全衛生・労働時間管理における派遣元・派遣先の責任分担
派遣社員に残業・休日労働をさせるときの36協定の考え方
派遣先が把握・通知すべき勤怠情報
派遣先が現場で講ずべき安全衛生上の措置(45条)
健康診断・教育の派遣元/派遣先の振り分け
危険有害業務・特別教育・保護具の注意点
労災・事故発生時の初動対応と、そのまま使えるチェックリスト
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1. 派遣社員の安全衛生・労働時間管理は誰の責任か

派遣社員の雇用主は派遣元です。しかし「雇用主が派遣元だから派遣先は無関係」というのは誤解です。労働者派遣法は、労働基準法(44条)・労働安全衛生法(45条)の一部について、就業場所で指揮命令を行う派遣先にも使用者・事業者としての責任を負わせています。

項目派遣元の主な役割派遣先の主な役割
雇用管理雇用契約、賃金、社会保険就業実態の把握・通知
労働時間36協定の締結・届出、賃金計算始業終業・休憩・残業実績の把握・管理
安全衛生雇入れ時教育、一般健康診断等就業場所・設備・作業方法の安全確保、特殊健診等
労災対応労災保険手続、死傷病報告(派遣元分)救護・事故報告(派遣先分)・原因調査・再発防止
年次有給休暇付与(雇用主として)代替要員・業務量調整で協力
苦情・体調不良雇用主としての対応現場対応・派遣元連携

2. 労働時間管理の基本|派遣先は実労働時間を把握する

派遣社員の労働時間・休憩・休日の管理は、実際に働かせる派遣先が行います(労働者派遣法44条2項により、労働時間・休憩・休日等の労働基準法の規定は派遣先が使用者として適用を受けます)。勤怠表をつけるだけでなく、契約・36協定・派遣先管理台帳・派遣元通知と整合させることが重要です。具体的には、法定労働時間の遵守、休憩の付与、休日・深夜業を含む実際の就業管理については、派遣先が労働基準法上の使用者として責任を問われ得ます。「勤怠は派遣元が見るもの」という思い込みは禁物です。一方で、36協定の締結・届出や割増賃金の支払など、派遣元が担う事項もあるため、派遣元・派遣先の責任分担を分けて管理する必要があります。

管理事項派遣先が把握すべきこと
始業・終業時刻契約どおりの時刻か、実態と一致しているか
休憩時間契約どおりに取れているか
時間外労働契約・派遣元36協定の範囲内か
休日労働契約・36協定の範囲内か
深夜業契約・健康配慮・割増の対象か
遅刻・早退・欠勤記録し派遣元へ共有
テレワーク時の就業実態始業終業・休憩を把握できているか
派遣元への通知勤怠実績を正確に通知しているか
派遣先管理台帳との整合台帳の記載と勤怠が一致しているか

3. 派遣社員の残業・休日労働と36協定

この章は最重要です。派遣先の36協定では、派遣社員に時間外・休日労働をさせることはできません。必要なのは、派遣社員を雇用している派遣元の事業場で締結・届出された36協定です。

押さえるべき仕組み(重要)

派遣社員に時間外労働・休日労働をさせるには、①派遣元で36協定が締結・届出されていること、②労働者派遣契約に時間外・休日労働に関する事項が定められていることを確認し、その範囲内で運用する必要があります。派遣先は派遣元36協定の範囲(対象業務・上限時間・特別条項の有無)を把握し、これを超えて働かせると、派遣先(行為者である指揮命令者および派遣先法人)が労働基準法32条違反の使用者として、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法119条1号)の対象になり得ます。時間外労働の上限規制(原則 月45時間・年360時間、特別条項でも 単月100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間以内等)も確認し、現場都合で恒常的に超過させないようにします。「他社(派遣元)の協定という見えない上限を自社が守る」という当事者意識が必要です。

確認事項見るべきポイントNG例
派遣元36協定締結・届出・対象業務・上限派遣先36協定だけで残業させる
契約書時間外・休日労働の定め契約にないのに残業指示
勤怠実績把握・派遣元通知残業実績を通知しない
上限規制月・年の上限、特別条項現場都合で恒常的に超過
具体例:派遣先の36協定では足りない

たとえば、派遣元の36協定の時間外労働の上限が月30時間で、労働者派遣契約もその範囲だったとします。ここで派遣先の現場が「自社(派遣先)の36協定は月45時間までだから、あと15時間は残業させられる」と考えて40時間残業させると、派遣元の36協定(月30時間)を超えた10時間分について、派遣先が労働基準法違反の使用者として問われ得ます。派遣社員に適用されるのは派遣元の36協定であって、派遣先の36協定ではありません。残業をさせる前に、必ず派遣元36協定の上限と契約の定めを確認してください。

第8話との関係

「現場判断で残業を命じない」という指揮命令面の詳細は第8話で扱いました。第11話では、労働時間の実態を把握し派遣元へ正確に通知するという管理面に重点を置いています。

4. 休憩・休日・深夜業・長時間労働の注意点

項目派遣先が確認すべきこと危ない運用
休憩契約どおりに取れているか忙しいから休憩なし
休日契約・36協定の範囲か土曜だけ口頭で出勤依頼
深夜業契約・健康配慮・割増夜勤を急に追加
長時間労働上限・健康障害防止派遣元に通知せず残業常態化
テレワーク始業終業・休憩の把握在宅だから実態不明

5. 安全衛生管理体制と健康診断|派遣労働者も含めて考える

派遣労働者の安全衛生については、派遣元・派遣先の双方が責任を負います。そのうえで、派遣先は実際の就業場所・設備・作業方法を管理し、現場で指揮命令を行う立場にあるため、機械・設備・作業方法による危険防止、健康障害防止、作業内容変更時教育、危険有害業務に関する特別教育、特殊健康診断などについて重要な責任を負います(労働者派遣法45条)。派遣先は、派遣労働者を含めて安全衛生管理体制を整備する必要があります。

管理体制派遣先が見るべきこと
安全管理者・衛生管理者派遣労働者を含めた人数・業種要件
産業医常時使用労働者数(派遣労働者を含む)の確認
安全衛生委員会等派遣労働者に関する事項も調査審議
現場巡回派遣社員の作業環境も確認
安全衛生教育派遣元・派遣先の役割分担を確認
人数算定に派遣労働者を含める/安全と衛生の切り分け

安全衛生管理体制の選任・設置基準となる「常時使用する労働者数(例:常時50人以上)」の算定にあたっては、派遣先が指揮命令する派遣労働者も含めて数えます。整理すると、現場の安全確保のため安全管理者・安全委員会は派遣先のみに選任・設置義務があり(派遣労働者を含めて算定)、総括安全衛生管理者・産業医・衛生委員会も派遣先が派遣労働者を含めて選任・設置します。衛生管理者は、派遣元・派遣先の双方に選任義務があります。

近年義務化された化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任も、現場を管理する派遣先が事業者として行います。正確な要件・人数区分・対象業種は、最新の労働安全衛生法・施行令・業務取扱要領第8で確認してください。

健康診断・安全衛生教育の派遣元/派遣先の振り分け

健康診断と安全衛生教育は、派遣元が行うものと派遣先が行うものに分かれます。ここは取り違えやすいので、表で整理します。

項目派遣元が実施派遣先が実施
健康診断一般健康診断(雇入時・定期・特定業務従事者健診)特殊健康診断(有害業務に従事する場合)
健診後の措置健診結果に基づく就業上の措置は、派遣元・派遣先が連携して対応
安全衛生教育雇入れ時の安全衛生教育作業内容変更時教育・危険有害業務の特別教育・現場の安全衛生教育
面接指導等長時間労働者への医師による面接指導等就業状況・労働時間の情報提供で連携
ポイント

健診は「一般=派遣元、特殊(有害業務)=派遣先」が基本です。安全衛生教育は「雇入れ時=派遣元、現場・危険有害業務=派遣先」が基本です。詳細・例外は最新の労働者派遣法45条・施行規則・業務取扱要領第8で確認してください。

6. 危険有害業務・保護具・作業手順の確認

製造・物流・倉庫・研究施設・設備作業などで危険有害業務に従事させる場合、派遣先は次を確認します。

確認事項派遣先が見るべきこと
契約・適法性契約上その業務に従事させてよいか、派遣禁止業務・適用除外業務に当たらないか
資格・技能講習・特別教育必要な資格・技能講習・特別教育を確認したか(特別教育は派遣先が実施)
雇入れ時教育派遣元が雇入れ時教育を実施しているか
現場教育作業内容変更時教育・現場の安全衛生教育が必要でないか
保護具保護具を支給・着用させているか
作業環境作業手順書・立入禁止・緊急停止・避難経路を周知しているか
リスクアセスメント機械・設備・化学物質等の危険性・有害性の調査を行っているか
禁止業務・適用除外業務は第3話で

そもそも派遣社員に従事させてよい業務かどうか(禁止業務・適用除外業務)は第3話で扱っています。危険有害業務では、契約・資格・教育・保護具の確認をセットで行ってください。

7. 労災・事故発生時の初動対応

派遣先で事故・労災が起きた場合、派遣先は「自社社員ではないから」と放置できません。まず救護・安全確保を最優先に、次の流れで対応します。

救護・安全確保負傷者の救護を最優先
二次災害の防止設備停止・立入制限等
派遣先責任者・安全衛生担当へ連絡社内共有
派遣元責任者へ速やかに連絡雇用主側へ即時共有
事故発生状況を記録日時・場所・状況・原因
報告・届出の要否を確認死傷病報告等を派遣元と確認
原因調査設備・作業方法・手順を検証
再発防止措置・教育・手順見直し
台帳・事故記録に反映派遣先管理台帳・社内記録
本人フォロー・職場復帰対応派遣元と連携
死傷病報告・労災保険の基本

派遣中の労働者が労災で死亡・休業したときの「労働者死傷病報告」は、派遣先・派遣元の双方の事業者に提出義務があり、それぞれを管轄する労働基準監督署へ提出します(労働安全衛生規則97条)。実務上は、事故状況を把握する派遣先がまず提出し、その写しを派遣元へ送付(労働者派遣法施行規則42条)、派遣元もこれを踏まえて提出する流れが一般的です。一方、労災保険給付・補償の手続は、労災保険の適用事業である派遣元が行い、派遣先は「派遣先証明欄」への記入や事実確認に協力します。休業日数による報告時期など細部は誤りやすいため、最新の法令・業務取扱要領・労働局資料で確認してください。

注意したいのは、派遣先からの写しの送付遅延が、派遣元の報告遅れを連鎖させる点です。事故状況を直接把握できない派遣元は、派遣先からの写し(施行規則42条の「遅滞なく送付」義務)が遅れると自らの報告期限を徒過しかねず、結果として報告義務違反(労働安全衛生法上の罰則。50万円以下の罰金)につながるおそれがあります。派遣先は、自社の労基署へ提出したら遅滞なく速やかに写しを派遣元へ送付するフローを徹底してください。

設備・作業方法の不備は派遣先の責任を問われ得る

労災保険の補償は派遣元の労災保険から行われますが、事故の原因が安全装置の不備や機械・設備の欠陥、危険な作業方法にある場合、就業場所を管理する派遣先の安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われることがあります。「補償は派遣元だから派遣先は無関係」ではありません。なお、通勤途中の事故(通勤災害)も労災保険の対象ですが、業務災害と比べて事故状況の確認に時間がかかる傾向があるため、派遣先は経緯を派遣元へ共有し、必要に応じて通勤経路等の事実確認に協力します。

8. 派遣元との連絡体制

安全衛生・労働時間管理は、派遣元との連携で機能します。派遣先から派遣元へ共有すべき主な事項を整理します。

連携項目派遣先から派遣元へ共有すること
勤怠実績始業・終業・休憩・残業・休日労働
36協定残業可能範囲・上限の確認
安全衛生教育実施状況・必要な教育
危険有害業務作業内容・資格・保護具
労災・事故発生状況・原因・再発防止
体調不良就業継続可否・配慮事項
年次有給休暇取得希望・代替要員・業務調整(付与は派遣元)
テレワーク勤怠・情報管理・安全配慮
健康・労災・勤怠情報の取扱い

健康情報・労災情報・勤怠情報は、要配慮個人情報を含む場合があります。派遣元との共有は必要な範囲に限り、アクセス権限の設定・安全な送付方法・利用目的の管理など、個人情報保護法23条の安全管理措置に沿った取扱いを行ってください。

9. よくあるNG運用

NG運用何が危険か正しい対応
派遣先の36協定だけで残業指示派遣元36協定が必要派遣元36協定と契約を確認
残業実績を派遣元へ通知しない賃金・労働時間管理に影響勤怠通知をルール化
休憩を取らせない労働時間管理上の問題休憩取得を管理
危険作業を急に任せる教育・資格・契約外業務リスク契約・教育・資格を確認
事故を現場内で処理報告・再発防止漏れ派遣元連絡・記録・調査
派遣社員を安全衛生委員会の対象外にする安全衛生管理漏れ派遣労働者も含めて検討
テレワークの勤怠が曖昧労働時間把握漏れ始業終業・休憩を記録

10. 安全衛生・労働時間管理の運用フロー

契約締結前に業務内容・危険有害性・時間外労働の有無を確認法務・人事総務
契約に就業時間・時間外休日労働・安全衛生事項を記載法務
派遣元36協定・教育状況・資格を確認人事総務・派遣先責任者
受入前に契約範囲・指揮命令者・安全ルールを現場へ周知派遣先責任者
就業開始後、勤怠・休憩・残業を日々把握指揮命令者・勤怠担当
危険作業・作業変更・事故・体調不良は派遣元と連携派遣先責任者
派遣先管理台帳・勤怠通知・事故記録に反映人事総務
定期的に見直し派遣先責任者・関係部署

11. 安全衛生・労働時間管理チェックリスト

① 契約・就業条件
業務内容・就業時間・安全衛生事項が契約に定められている
② 36協定・残業
派遣元36協定の範囲と契約の定めを確認している
派遣先の36協定だけで残業させていない
③ 勤怠・休憩・休日
始業終業・休憩・休日を把握し記録している
④ 深夜業・長時間労働
上限規制・健康障害防止に配慮している
⑤ 安全衛生管理体制
派遣労働者を含めて管理体制・委員会を検討している
⑥ 危険有害業務
従事させてよい業務か、リスクアセスメントを行っている
⑦ 教育・資格・保護具
必要な資格・特別教育・保護具を確認している
健診・教育の派遣元/派遣先の分担を確認している
⑧ 労災・事故対応
救護・記録・派遣元連絡・原因調査・再発防止の流れがある
死傷病報告は派遣先・派遣元の双方が提出する独立した義務だと理解している
自社の労基署へ提出後、遅滞なく速やかに写しを派遣元へ送付している(施行規則42条)
⑨ 派遣元連携
勤怠・安全衛生・事故情報を派遣元と共有している
⑩ 台帳・記録・通知
派遣先管理台帳・勤怠通知・事故記録が整合している
⑪ テレワーク・出張・単独作業
就業場所・勤怠・安全配慮・情報管理を確認している
⑫ 現場教育・再発防止
現場へ安全ルールを教育し、再発防止を回している
安全衛生・労働時間は「契約・勤怠・台帳・通知の整合」から

安全衛生・労働時間管理は、契約書・勤怠・派遣先管理台帳・派遣元通知がずれると、事故や紛争につながります。派遣契約書の時間外労働・安全衛生・指揮命令者・苦情処理などの条項を見落としたくない場合は、Legal GPTの無料ツールで条項の有無を確認することもできます。契約期間や担当者の管理には契約台帳テンプレートも補助的に活用できます。

※契約台帳テンプレートは契約管理の補助ツールであり、労働者派遣法上の「派遣先管理台帳」とは別物です。混同しないようご注意ください。

12. まとめ

派遣社員の安全衛生・労働時間管理は、派遣元だけでなく派遣先も重要な責任を負います。派遣先は、就業場所・設備・作業方法・実労働時間を管理する立場にあり、労働基準法(44条)・労働安全衛生法(45条)の一部について使用者・事業者としての責任を負います。

時間外・休日労働では、派遣元の36協定と労働者派遣契約の両方を確認し、その範囲を超えないよう管理します。健診や教育は派遣元・派遣先で分担があり(一般健診=派遣元、特殊健診=派遣先など)、危険有害業務では資格・教育・保護具を確認します。労災・事故・体調不良が起きたときは、派遣先が初動・連絡・記録・再発防止を行い、死傷病報告は双方が提出します。

第12話では、派遣社員の待遇・福利厚生・教育訓練について、派遣先にも求められる対応を解説します。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣社員の安全衛生・労働時間管理|派遣先企業が確認すべき実務ポイント(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。派遣社員の安全衛生・労働時間管理、36協定、労災対応、派遣元・派遣先の責任分担は、法令・施行規則・指針・業務取扱要領の改正や個別事情により判断が変わり得ます。実際の運用にあたっては、その時点の最新のe-Gov法令・厚生労働省資料・業務取扱要領等を確認のうえ、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
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