派遣社員を受け入れる前に、「事前に面接したい」「履歴書を見たい」「顔合わせをしたい」と考える派遣先企業は少なくありません。しかし通常の派遣では、派遣先が派遣労働者を選別・特定するような運用は避ける必要があります。大切なのは、派遣先が「人を選ぶ」のではなく、必要な業務内容・スキル・就業条件を明確にし、派遣元が人選するという構造を守ることです。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第4話です。第3話までで、業務範囲や禁止業務を整理しました。第4話では、面接・履歴書・スキルシート・職場見学(顔合わせ)がどこまでできるのかを、通常派遣と紹介予定派遣を分けて整理します。

この記事でわかること SUMMARY
通常派遣で避けるべき「特定行為」とは何か
事前面接・履歴書提出要求がなぜ問題になりやすいか
スキルシートで確認できること・避けるべきこと
「職場見学」「顔合わせ」の許される範囲と危ない運用の境界
派遣先が知りたい情報を、特定行為にせず確認する方法
紹介予定派遣では何が違うのか(事前面接・履歴書が認められる理由)
そのまま使える「特定行為を避けるチェックリスト」
この記事を実務で使う

読んだだけで終わると、次の案件でまたゼロから考えることになります。

社内説明の文面も、確認メモも、AIへの指示文も、毎回イチから。用途別に実務ツールを確認できます。

用途別に実務ツールを確認する

迷ったら、用途を選ぶだけの 1分診断

1. 特定行為とは何か

通常の派遣では、派遣先は派遣労働者を「選ぶ」立場ではありません。労働者派遣法第26条第6項は、紹介予定派遣を除き、派遣先が労働者派遣契約の締結に際して派遣労働者を特定することを目的とする行為(特定目的行為)をしないよう努めなければならない旨を定めています。法律上は努力義務という構造ですが、厚生労働省の派遣先指針(第2の3)では「行ってはならない行為」として、事前面接・履歴書の送付要求・若年者への限定などの具体例とともに整理されています。

基本の軸

「業務遂行能力の確認が一切できない」という意味ではありません。派遣元が適切に人選するために、派遣先は業務内容・必要なスキル・就業条件を派遣元へ具体的に伝えることが重要です。NGなのは、派遣先が候補者を比較・評価して「この人」と選ぶことです。本記事の軸は一貫して、「人を選ぶ」のではなく「業務条件を明確にする」です。

行為通常派遣紹介予定派遣
事前面接避けるべき(特定目的行為)認められる(直接雇用前提)
履歴書提出要求避けるべき認められる
顔写真付きプロフィール避けるべき選考に必要な範囲で。差別的取扱いは不可
年齢・性別の指定不可不可(直接採用と同じく差別禁止)
複数候補者の比較避けるべき(選別)公正・客観的な基準による選考の範囲で
指名・リピート指名避けるべき(特定)—(制度趣旨が異なる)

2. 事前面接・履歴書提出要求はなぜ問題か

なぜ通常派遣で事前面接や履歴書提出が問題になるのか。理由は、派遣先が面接等で人を決めると、実質的に派遣先が採用選考をしているのと変わらず、派遣先が雇用しているように見えてしまうからです(派遣元・派遣先の二重の関係や、職業能力以外での選別による就業機会の制限という問題にもつながります)。安全な代替方法とあわせて整理します。

行為なぜ問題になりやすいか安全な代替方法注意点
事前面接派遣先による選考・特定と見られる業務内容・必要スキル・就業条件を派遣元に伝える「面談」と呼んでも実質が選考なら同じ
履歴書提出要求個人を特定する資料の取得になる匿名化・抽象化されたスキル情報で確認派遣先が氏名・住所等を求めない
職務経歴書の詳細提出前職企業名等から個人が特定され得る必要なスキル・経験年数の範囲で確認「詳しいほど安心」と求めない
顔写真付きプロフィール容姿等での選別と見られる業務に必要な要件のみ提示写真は原則求めない
候補者比較表複数人を比べて選ぶ=特定・選別1名ずつ、要件適合の有無を派遣元が判断「3人出して」は危険
年齢・性別指定差別的取扱い・特定につながる業務に必要なスキル・就業条件で表現「若い人」「女性」等は不可
指名・リピート指名派遣先が個人を特定して選ぶ運用必要な業務・スキルを伝え、人選は派遣元に委ねる「前回のAさんを」も特定と見られ得る
「リピート指名」も要注意

「前に来てくれたAさんがよい」というリピート指名も、派遣先による特定・選別と見られ得ます。ただし、これは派遣元が自ら適切な人選を行うこと(結果的に同じ人になること)まで否定するものではありません。派遣先からの「あの人を指名」という形にしないことがポイントです。

3. スキルシートで確認できること・避けるべきこと

第4話で最も実務的に悩ましいのがスキルシートです。結論はシンプルで、「スキル確認はよいが、人を選ぶ資料にしてはいけない」。業務遂行能力の確認に必要な範囲にとどめ、個人を特定・選別できる情報は避けます。

情報項目評価理由実務上の書き方
使用可能ソフト許容されやすい業務遂行能力の確認に直結「Excel(関数・ピボット可)」等
業務経験年数許容されやすい必要な経験の確認「経理実務◯年」等
資格許容されやすい業務に必要な資格の確認「日商簿記2級」等
業務に必要な専門スキル許容されやすいマッチングに必要必要な範囲で具体的に
氏名避けるべき個人の特定につながる記載不要(匿名で可)
顔写真避けるべき容姿での選別に見られる記載不要
年齢避けるべき年齢による選別・差別記載不要
性別避けるべき性別による選別・差別記載不要
住所避けるべき特定・選別に関係しやすい記載不要(通勤可否は別途確認)
最終学歴要注意選別につながりやすい業務に不可欠でなければ不要
詳細すぎる職務経歴要注意個人が特定され得る必要な経験の範囲に絞る
前職企業名が特定できる経歴避けるべき個人特定につながる業種・職務内容の抽象表現に
複数候補者の比較表避けるべき比べて選ぶ=特定・選別作らない
派遣元が匿名化・抽象化したスキル情報許容されやすい能力確認に必要・特定を避けられるこれを基本にする
合言葉

スキル確認はよいが、人を選ぶ資料にしてはいけない。業務に必要な技術・技能・資格・経験年数を確認するのはOK。氏名・顔写真・年齢・性別・住所・前職企業名など、個人を特定したり選別に使えたりする情報は避けます。

4. 職場見学・顔合わせの境界線

「面接ではなく顔合わせ」「職場見学だから大丈夫」と言われがちですが、名称だけで安全とは判断できません。判断の軸は、それが本人の就業判断のための情報提供・職場環境確認にとどまるか、派遣先による評価・比較・採否判断になっていないかです。

運用評価理由安全にするための工夫
本人の希望に基づく職場見学許容される余地本人が就業を判断するための訪問派遣先から求めず、本人の希望・任意で
就業条件・職場環境・安全衛生の説明許容される余地就業判断に必要な情報提供説明中心。質問攻めにしない
業務内容の説明許容される余地マッチングに必要な情報提供必要なスキルの説明にとどめる
派遣先からの質疑応答要注意選考的なやり取りになり得る個人情報・適性を問う質問はしない
派遣先による評価シート記入危険評価・選別の記録になる評価・採点はしない
複数候補者との顔合わせ危険比較・選別と見られる複数人を比べる運用にしない
顔合わせ後の差し替え要求危険派遣先による選別・特定「合わないから別の人」と言わない
見学後に派遣先が採否判断危険事実上の採用選考採否判断は行わない
現場の担当者がやりがちな「悪気のないNG質問」

職場見学(顔合わせ)の際、現場の担当者が「アイスブレイクのつもり」「良かれと思って」次のような質問をしてしまうことがあります。一般的な採用面接では普通でも、通常派遣の職場見学ではいずれも選考・特定目的の質問と見られ、行政指導の対象になり得ます。

「お住まいはどのあたりですか?」(通勤時間を気にしたつもり → 住所の特定
「前の会社はどうして辞められたのですか?」(定着性を気にしたつもり → 退職理由の詮索
「お子さんはおいくつですか?」「残業はできますか?」(シフト対応を気にしたつもり → 家族構成・生活環境による選別

職場見学は、あくまで本人が職場環境や業務内容を確認する場です。残業対応や必要スキルの一致を確認したい場合は、その場で本人に質問して選別するのではなく、あらかじめ「就業条件」や「必要なスキル要件」として派遣元へ提示し、人選は派遣元に委ねるのが鉄則です。氏名・住所・家族構成・前職の社名・退職理由・既婚/未婚などの個人情報の質問や、適性検査・筆記試験も避けてください。

5. 派遣先が確認したい情報は、どう確認すべきか

「どんな人が来るのか不安」という気持ちは自然ですが、確認の仕方を間違えると特定行為になります。ポイントは、年齢・性別・容姿・人物印象ではなく、業務に必要なスキル・経験・就業条件として伝えることです。

派遣先が知りたいことNGな聞き方適切な確認方法派遣元に伝えるべき条件
Excelが使えるか「面接で操作させたい」必要なスキル要件として提示関数・ピボット等、必要な操作レベル
電話対応の経験履歴書で経歴確認必要な経験として提示「電話一次対応の経験」
経理経験詳細な職歴の提出要求必要な経験年数・範囲で提示「仕訳・伝票処理の経験◯年」
英語対応出身・学歴を確認必要なレベルを要件化「メール対応可」「TOEIC◯点相当」等
夜勤・残業対応家庭事情を質問就業条件として明示「シフト時間帯」「想定残業」
体力が必要な業務年齢・性別で判断業務内容として具体化「◯kgの運搬あり」等の作業内容
コミュニケーション人物印象を面接で評価必要な業務行動として要件化「来客一次対応あり」等
「若い人/女性がよい」年齢・性別の指定業務上の必要性をスキル・条件に翻訳年齢・性別ではなく業務要件で表現

6. 紹介予定派遣の場合は何が違うか

紹介予定派遣は、派遣先が将来の直接雇用を予定している点で通常派遣と制度趣旨が異なります。そのため、通常派遣では避けるべき事前面接・履歴書提出等が認められています。両者を混同しないことが大切です。

項目通常派遣紹介予定派遣
目的必要な労働力の提供を受ける派遣期間を経て直接雇用することを予定
事前面接避けるべき(特定目的行為)認められる
履歴書提出避けるべき認められる(送付等が可)
派遣期間期間制限のルールあり(3年ルール等)最長6か月
派遣終了後の取扱い原則として直接雇用を予定しない直接雇用への移行を予定。雇用しない場合、派遣元から求めがあれば派遣先は理由を明示
注意点「人を選ぶ」運用にしない差別禁止・公正な選考・個人情報の適正取扱い
紹介予定派遣でも「何でもOK」ではない

紹介予定派遣で事前面接等が認められるのは、円滑な直接雇用のためです。とはいえ、年齢・性別・障害等を理由とする差別的取扱いは禁止され、選考は業務遂行能力の確認など社会通念上公正と認められる客観的な基準で行う必要があります。派遣期間は最長6か月で、直接雇用しない場合は、派遣元の求めに応じて派遣先が理由を明示します。労働条件の明示や個人情報の適正な取扱いにも注意してください。

大前提として、紹介予定派遣として契約する場合は、職業紹介により従事すべき業務の内容・労働条件等(=直接雇用後に予定される条件)その他の紹介予定派遣に関する事項を、労働者派遣契約に定める必要があります(労働者派遣法26条1項9号。台帳にも記載)。「働きぶりを見てから雇用形態や給与を決めるので今は未定」のまま選考だけ行うのは適切ではありません。契約締結前に、直接雇用時の受け皿となる条件を整理しておきましょう。

7. よくあるNG運用・危ない運用

実務でありがちな「ついやってしまう」運用を、直し方とあわせて整理します。

NG・危ない運用何が問題かどう直すか
3人候補を出して一番良い人を選ぶ比較・選別=特定行為要件を伝え、人選は派遣元に委ねる
履歴書と顔写真を先に送ってほしい個人特定・容姿選別匿名化したスキル情報で確認
20代女性でお願いします年齢・性別の指定(差別・特定)業務に必要なスキル・条件で表現
前回来たAさんをまたお願いします派遣先による指名・特定必要な業務・スキルを伝え人選は派遣元へ
職場見学後に現場が合否を判断事実上の採用選考見学は本人の就業判断支援にとどめる
顔合わせでスキルテストをする選別のための試験必要スキルは要件提示で(試験しない)
本人に転職理由や家庭状況を聞く選考的・個人情報の不適切取得就業条件は派遣元経由で確認
派遣元に「暗そうだから別の人に」人物印象による選別・差し替え業務要件に合致するかで判断を委ねる
スキルシートに氏名・年齢・写真・住所個人特定・選別の資料化業務に必要な技能・経験のみ匿名で
就業開始後の安易な「チェンジ(交代要求)」合理的な理由がないのに印象や能力不足だけで「別の人に交代を」と求める行為。不当な就業拒否や差別的な契約解除につながり得る(派遣先都合の中途解除には、新たな就業機会の確保・休業手当等の費用負担・理由明示などの措置が必要。法29条の2・派遣先指針)。事後的に「派遣先が雇用主のように労働者を選別・排除していた」と見られる不利な事情にもなり得る印象や能力不足だけで交代を求めない。問題があれば派遣元に相談し、契約・指針に沿って対応する

8. 事前確認を安全に進めるフロー

「派遣先が人を選ぶ」のではなく、「派遣先が業務条件を明確にし、派遣元が人選する」という流れを守ります。

現場が必要な業務・スキル・就業条件を整理現場責任者
特定行為につながる表現を削除人事総務・法務
業務内容・必要スキル・就業条件を派遣元へ伝える人事総務
派遣元が人選する派遣元
必要に応じて匿名化・抽象化したスキル情報を確認人事総務
職場見学は本人の就業判断支援・就業条件説明に限定現場+人事総務
採否判断・候補者比較・評価記録は行わない全関係者
受入れ決定後、就業条件・指揮命令者・業務範囲を周知人事総務+現場
この一線を守る

フローのどこを見ても、派遣先が「人を選ぶ」工程は出てきません。派遣先がやるのは「業務条件を明確にすること」、人選は派遣元の役割です。この役割分担を守れば、多くの特定行為リスクは避けられます。

9. 派遣社員の特定行為を避けるチェックリスト

① 募集・依頼前
必要な業務・スキル・就業条件を、年齢・性別・人物印象ではなく業務要件として整理した
「若い人」「女性」など特定・差別につながる表現を削除した
② 派遣元への依頼
業務内容・必要スキル・就業条件を具体的に伝えた
候補者の比較・指名を求めていない(人選は派遣元に委ねる)
③ スキルシート確認
確認するのは業務に必要な技能・資格・経験年数の範囲にとどめた
氏名・顔写真・年齢・性別・住所・前職企業名等を求めていない
複数候補者の比較表を作っていない
④ 職場見学・顔合わせ
本人の希望・任意に基づくものとし、派遣先から求めていない
就業条件・職場環境・業務内容の説明にとどめた
評価シート記入・適性検査・個人情報の質問をしていない
⑤ 受入れ判断
派遣先による採否判断・候補者比較・差し替え要求をしていない
「人を選ぶ」ではなく「業務条件を明確にする」運用になっている
⑥ 紹介予定派遣
通常派遣と区別し、紹介予定派遣の枠組みであることを確認した
差別禁止・公正な選考・最長6か月・不採用時の理由明示に留意した
⑦ 個人情報管理
スキルシートや職務経歴情報を、目的の範囲内でアクセス権限を限定して扱った
個人情報の安全管理措置(個人情報保護法23条)・目的外利用の防止に配慮した
「人を選ぶ」前に、業務条件を契約と運用に落とし込む

派遣社員の受入れでは、面接や履歴書確認の前に、まず業務内容・必要スキル・就業条件を契約書と社内運用に落とし込むことが重要です。契約書の業務内容・責任範囲・指揮命令者・苦情処理条項などを見落としたくない場合は、Legal GPTの無料ツールで条項の有無を確認することもできます。現場から「どんな人がよいか」を聞き取る場合も、年齢・性別・人物印象ではなく業務に必要な条件として言語化することが重要です。

10. まとめ

通常派遣では、派遣先企業が「人を選ぶ」運用にしないことが重要です。事前面接、履歴書提出要求、年齢・性別指定、候補者比較、顔写真付きプロフィール要求などは、派遣労働者を特定する目的の行為と見られやすい運用です。

一方で、派遣先が必要な業務内容・スキル・就業条件を明確にし、派遣元がそれに合う人を人選することは必要です。職場見学・顔合わせを行う場合も、本人の就業判断支援や就業条件説明にとどめ、派遣先による選考の場にしないことが大切です。

紹介予定派遣では一定の事前面接・履歴書提出等が認められますが、通常派遣とは制度趣旨が異なるため混同しないようにしましょう。第5話では、派遣契約書で派遣先企業が見るべき条項を、法務担当者向けのチェックリストとして解説します。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣社員の面接・履歴書提出はどこまで可能か|特定行為の禁止を解説(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。特定行為・職場見学・紹介予定派遣の取扱いは、法令・指針・業務取扱要領の改正や個別事情により判断が変わり得ます。実際の運用にあたっては、その時点の最新のe-Gov法令・派遣先指針・業務取扱要領や厚生労働省資料を確認のうえ、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
読了後の実務化ガイド

この記事の確認観点を、実務の型に変える。

読んだ内容を、確認メモ・文例・AI指示文に落とせます。

A無料で試す

すべての商品を見る