派遣社員の待遇は「派遣元だけの問題」ではありません。雇用主は派遣元ですが、派遣先は待遇決定に必要な情報提供(26条)、業務遂行に必要な教育訓練(40条2項)、福利厚生施設の利用機会(40条3項)などで重要な役割を負います。「派遣社員だから自社の福利厚生・教育訓練は関係ない」という単純化は危険です。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第12話です。第11話までで安全衛生・労働時間管理まで整理しました。第12話では、待遇・福利厚生・教育訓練について、派遣先が行うべき実務を整理します。

この記事でわかること SUMMARY
派遣社員の待遇に派遣先が関わる場面の全体像
待遇決定の2方式(派遣先均等・均衡方式/労使協定方式)と派遣先の対応
派遣先の情報提供義務(26条7項・9項・10項)
比較対象労働者の選定と提供する待遇情報
教育訓練(40条2項)・福利厚生施設(40条3項)の対応
令和8年10月1日改正への備え
NG運用・記録化と、そのまま使えるチェックリスト
この記事を実務で使う

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1. 派遣社員の待遇は「派遣元だけの問題」ではない

派遣社員の賃金を支払い、待遇を決定するのは雇用主である派遣元です。しかし、派遣元が適切に待遇を決めるには、派遣先からの情報提供や協力が欠かせません。また、教育訓練や福利厚生施設のように、派遣先が直接対応すべき事項もあります。

場面派遣先の関わり根拠(要確認)
待遇決定の情報提供比較対象労働者・待遇等の情報を派遣元へ提供労働者派遣法26条7項
情報の変更通知提供した情報に変更があれば派遣元へ通知26条10項
教育訓練業務遂行に必要な能力付与の教育訓練を実施40条2項
福利厚生施設給食施設・休憩室・更衣室の利用機会を付与40条3項
その他施設・協力診療所等の利用に関する配慮、職務遂行状況等に関する情報提供・協力40条4項・5項

2. 待遇決定方式は2つある|派遣先均等・均衡方式と労使協定方式

派遣社員の待遇決定には、派遣先均等・均衡方式労使協定方式の2つがあり、どちらを採るかは派遣元が決めます。ただし、どちらの方式でも派遣先に関係する実務があります。

観点派遣先均等・均衡方式労使協定方式
考え方派遣先の通常の労働者との間で不合理な待遇差をなくす派遣元が労使協定に基づき一定水準以上の待遇を決定
派遣先の中心的対応比較対象労働者の待遇情報の提供教育訓練・福利厚生施設の情報提供
情報提供(26条7項)比較対象労働者の5項目教育訓練・給食施設・休憩室・更衣室
教育訓練・福利厚生施設いずれの方式でも派遣先に対応あり(40条2項・3項)いずれの方式でも派遣先に対応あり(40条2項・3項)
「労使協定方式だから派遣先は無関係」は誤り

労使協定方式は派遣元が待遇水準を決める仕組みですが、教育訓練(40条2項)と給食施設・休憩室・更衣室(40条3項)は、方式にかかわらず派遣先が対応すべき事項です。また、いずれの方式でも、派遣先は契約締結前の情報提供(26条7項)が必要です。「労使協定方式だから派遣先は何もしなくてよい」という整理は誤りです。

3. 派遣先の情報提供義務

派遣先は、労働者派遣契約を締結する前に、待遇決定に必要な情報を派遣元へ提供しなければなりません(労働者派遣法26条7項)。そして、この情報提供がないと、派遣元は労働者派遣契約を締結してはならないとされています(26条9項)。提供した情報に変更があれば、派遣先は派遣元へ遅滞なく変更内容を通知します(26条10項)。

待遇決定方式を派遣元に確認均等均衡方式/労使協定方式
方式に応じた情報を整理比較対象労働者 or 教育訓練・福利厚生施設
情報提供書を作成し派遣元へ交付書面の交付等/契約締結前
情報提供を踏まえ労働者派遣契約を締結情報提供がないと締結不可(26条9項)
情報に変更があれば派遣元へ通知遅滞なく(26条10項)
写しを保存(派遣終了日から3年)記録・証跡として
条文番号は最新で確認を

情報提供義務の条項(26条7項・9項・10項)や保存期間は、改正で変わり得ます。実際の運用では最新のe-Gov法令・施行規則・業務取扱要領で確認してください。待遇情報提供は第5話でも触れています。

4. 比較対象労働者の選定と待遇情報

派遣先均等・均衡方式では、比較対象労働者の情報提供が中心になります。比較対象労働者は「同じような仕事をしている正社員を適当に選ぶ」ものではなく、職務内容、職務内容・配置の変更範囲等を踏まえて選定します。提供する情報は次の5項目です。

提供する情報内容
①職務内容等職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、雇用形態
②選定理由その労働者を比較対象として選定した理由
③待遇の内容各待遇の内容(賞与等がない場合はその旨を含む)
④待遇の性質・目的各待遇の性質およびその待遇を行う目的
⑤考慮した事項各待遇を決定するに当たって考慮した事項
比較対象労働者がいない場合・個人情報の注意

職務内容等が同一の通常の労働者がいない場合の取扱い(より広い範囲から選定する等)もあるため、選定方法は最新の施行規則・業務取扱要領で確認してください。実務では、選定理由・待遇項目・待遇決定理由を記録化することが重要です。また、提供する待遇情報は個人が特定されない形にするなど、個人情報の取扱いにも注意します。

5. 教育訓練|派遣先にも求められる対応

派遣先が自社の労働者に対して実施している、業務遂行に必要な能力を付与するための教育訓練については、派遣元の求めに応じ、同種の業務に従事する派遣労働者に対しても実施する等の措置を講じなければなりません(労働者派遣法40条2項)。ただし、派遣労働者が既にその能力を有している場合など、省令で定める場合は除かれます。

これは「自社研修のすべてを当然に派遣社員へ開放する」という話ではなく、業務遂行に必要な教育訓練かどうかで整理します。一方、段階的・体系的なキャリア形成のための教育訓練は派遣元の義務(30条の2)です。

教育訓練の例主に実施する側考え方
業務システムの操作研修派遣先業務遂行に必要な能力付与(40条2項)
業務手順・現場ルール研修派遣先その職場の業務に必要
個人情報取扱い研修(業務上必要な範囲)派遣先業務遂行に必要な範囲で実施
現場の安全衛生教育派遣先第11話参照(45条関係)
段階的・体系的なキャリア形成研修派遣元派遣元の義務(30条の2)
入職時の一般的な教育訓練派遣元雇用主としての教育訓練
教育訓練は「実施記録」が重要

派遣社員に教育訓練を実施したら、日時・内容・対象者を記録します。派遣先管理台帳の記載事項にも教育訓練に関する事項が含まれます(第9話参照)。記録がないと「実施したつもり」になり、待遇差の説明や苦情対応で根拠を示せません。

6. 福利厚生施設|食堂・休憩室・更衣室の利用

派遣先の労働者が利用している福利厚生施設のうち、給食施設(食堂)・休憩室・更衣室については、派遣労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(労働者派遣法40条3項・施行規則32条の3)。これは「配慮」ではなく義務です。一方、診療所・保育所・図書館・保養施設などその他の施設は、利用に関する便宜の供与等を配慮すべきものとされています(40条4項)。

区分対象派遣先の対応
利用機会の付与(義務)給食施設(食堂)・休憩室・更衣室派遣労働者にも利用機会を与える(40条3項)
配慮義務診療所・保育所・図書館・保養施設等利用の便宜供与等を配慮(40条4項)
性質が異なるもの社宅・住宅手当・持株会・退職金等上記の福利厚生施設とは別の待遇として整理
「すべて正社員と同じ」ではない/現場で排除しない

福利厚生施設の利用機会付与は、すべての福利厚生を正社員と同一にするという意味ではありません。社宅・住宅手当・持株会・退職金などは性質が異なります。一方で、給食施設・休憩室・更衣室は利用機会付与が義務なので、「派遣社員だから食堂・更衣室は使えない」という現場運用は不可です。利用ルールを明確にし、現場任せで排除しないようにしてください。

具体例:食堂・更衣室は「名目だけの利用許可」で済ませない

派遣先の社員食堂・休憩室・更衣室を正社員が日常的に使っている場合、派遣社員にも同じ利用機会を与える必要があります(40条3項)。注意したいのは、利用を「禁止していない」だけでは不十分なことです。合理的な理由(スペースの物理的制約等のやむを得ない事情)がない限り、次のような運用は利用機会を実質的に与えているとは言えず、40条3項の趣旨や指針に反するおそれがあります。

  • 正社員の混雑を避けるためとして、派遣社員は13時以降しか食堂に入らせない(時間帯の不当な制限)
  • 更衣室の個人用ロッカーは正社員のみで、派遣社員の荷物は共用の棚・カゴに置かせる(ロッカー未割当)

一方、福利厚生施設とは性質の異なる社宅・住宅手当・退職金などは、施設の利用機会付与とは分けて、待遇差の枠組みで整理されるものです。利用ルール(時間帯・ロッカーの割当て等)は明確にし、現場任せのローカルルールで派遣労働者を疎外・排除していないかを派遣先責任者が点検する体制が必要です。

7. 令和8年10月1日改正への対応

派遣労働者の同一労働同一賃金について、令和8年(2026年)10月1日から、労働者派遣法施行規則等の改正省令が施行され、派遣元指針・派遣先指針・同一労働同一賃金ガイドラインの改正が適用されます。改正省令は令和8年4月28日に公布され、関係する指針・ガイドラインの改正告示も同日に公表されています。

改正のポイント

主な改正は、①派遣労働者の雇入れ時・派遣時の明示事項に「待遇の相違の内容及び理由等について説明を求めることができる旨」を追加、②同一労働同一賃金ガイドラインの更なる明確化(待遇の新規追加・記載充実)、③公正な評価による待遇改善の促進等です。①の明示は派遣元の義務ですが、派遣先としても無関係ではありません。

派遣先としての備え

説明義務を負うのは派遣元ですが、派遣元が待遇差を説明するには派遣先からの情報(比較対象労働者・教育訓練・福利厚生施設の実情、職務の評価への協力)が必要です。派遣先は、派遣元からの照会に答えられるよう、待遇情報・比較対象労働者の選定資料・教育訓練・福利厚生施設の情報を整備し、施行前後で契約・様式・運用を見直しておくと安全です。改正の射程・様式は最新の厚生労働省資料で確認してください。

労使協定方式でも逃れられない「評価への情報提供」(40条5項)

派遣先は、派遣元が待遇確保の措置を適切に行えるよう、派遣元の求めに応じて派遣労働者の職務遂行状況等の情報を提供する等、必要な協力をするよう配慮しなければなりません(40条5項。協力配慮義務)。改正で「公正な評価による待遇改善」が促されることで、労使協定方式であっても、派遣元から派遣先へ職務遂行状況や能力発揮度のフィードバックを求められる場面が増えると見込まれます。「労使協定方式だから自社の評価は関係ない」と協力を欠くと、派遣元が評価・説明を適切に行えず、契約更新や派遣料金の交渉に影響するおそれがあります。現場の指揮命令者が就業実態を記録し、派遣元へ共有できる運用を整えておくと安全です。

8. よくあるNG運用・危ない運用

NG運用何が問題か正しい対応
「派遣社員なので食堂は使えない」40条3項の利用機会付与義務に反する給食施設・休憩室・更衣室は利用機会を付与
「派遣社員には業務システム研修をしない」40条2項の教育訓練対応に反するおそれ業務遂行に必要な研修は派遣労働者にも実施
比較対象労働者の情報提供を派遣元任せ情報提供は派遣先の義務(26条7項)派遣先が選定・情報提供し記録化
待遇情報が変わっても派遣元に通知しない26条10項の変更通知義務に反する変更時は遅滞なく派遣元へ通知
「労使協定方式だから派遣先は何もしない」教育訓練・福利厚生施設等は方式を問わず対応方式にかかわらず必要な対応を行う
教育訓練を実施しても記録しない根拠を示せず「やったつもり」になる日時・内容・対象を記録
福利厚生施設の利用ルールが現場任せ現場ごとに排除・混乱が生じる利用ルールを明確化し周知

9. 派遣元との連携・記録化

待遇・教育訓練・福利厚生の対応は、記録がないと「やったつもり」になります。情報提供書・選定理由・変更通知・教育訓練記録・福利厚生施設の利用ルール・派遣元とのやり取りを記録化しましょう。

担当主な役割
派遣先責任者派遣元との連絡調整、情報提供・通知の管理
人事総務情報提供書・教育訓練記録・福利厚生利用ルールの整備
法務契約・情報提供様式・改正対応の確認
現場福利厚生施設の利用・教育訓練の実施・実態の共有
みなし制度との距離感

待遇情報提供や教育訓練の不備が、それだけで直ちに労働契約申込みみなし制度に直結するわけではありません。ただし、待遇や就業実態の確認を怠ると、契約外業務・期間制限違反・偽装請負・禁止業務などの違法派遣の類型を見逃す温床になり得ます。みなし制度の詳細は第14話で扱います。

10. 派遣先企業向け運用フロー

待遇決定方式を確認派遣元に確認(均等均衡/労使協定)
派遣元から必要情報を確認提供すべき項目を整理
比較対象労働者・教育訓練・福利厚生施設を整理選定・実情の把握
情報提供書を作成・交付契約締結前・書面等
契約締結・就業開始情報提供を前提に締結
教育訓練・福利厚生施設を運用実施・利用機会の付与・記録
変更時は派遣元へ通知遅滞なく(26条10項)
記録・定期見直し改正対応も含めて点検

11. 派遣社員の待遇・福利厚生・教育訓練チェックリスト

① 待遇決定方式
派遣元の待遇決定方式(均等均衡/労使協定)を確認した
② 情報提供
契約締結前に必要な待遇情報を派遣元へ提供した(26条7項)
③ 比較対象労働者
比較対象労働者を職務内容等を踏まえて選定し、5項目を提供した
選定理由・待遇決定理由を記録化した
④ 変更通知
提供した情報に変更があれば遅滞なく派遣元へ通知している(26条10項)
⑤ 教育訓練
業務遂行に必要な教育訓練を派遣労働者にも実施している(40条2項)
実施日時・内容・対象を記録している
⑥ 福利厚生施設
給食施設・休憩室・更衣室の利用機会を付与している(40条3項)
その他施設の便宜供与にも配慮している(40条4項)
⑦ 令和8年10月改正対応
派遣元の照会に答えられるよう待遇情報・資料を整備している
⑧ 派遣元連携
情報提供・教育訓練・福利厚生で派遣元と連携している
⑨ 記録・証跡
情報提供書・教育訓練記録・利用ルールを保存している
⑩ 現場周知
福利厚生施設の利用・教育訓練の方針を現場へ周知している
⑪ 個人情報管理
待遇情報の提供で個人情報の取扱いに配慮している
⑫ 定期見直し
改正・契約更新に合わせて様式・運用を見直している
待遇・教育訓練・福利厚生は「契約・情報提供・記録」で管理する

派遣社員の待遇・教育訓練・福利厚生施設の対応では、労働者派遣契約、比較対象労働者の情報提供、教育訓練記録、福利厚生施設の利用ルールを整理しておくことが重要です。派遣契約書の情報提供・教育訓練・福利厚生・苦情処理・指揮命令者などの条項を見落としたくない場合は、Legal GPTの無料ツールで条項の有無を確認することもできます。契約期間や担当者の管理には契約台帳テンプレートも補助的に活用できます。

※契約台帳テンプレートは契約管理の補助ツールであり、労働者派遣法上の「派遣先管理台帳」とは別物です。混同しないようご注意ください。

12. まとめ

派遣社員の待遇・福利厚生・教育訓練は、派遣元だけで完結しません。派遣先は、待遇決定に必要な情報提供(26条7項・9項・10項)、業務遂行に必要な教育訓練(40条2項)、給食施設・休憩室・更衣室の利用機会付与(40条3項)などを適切に行い、変更通知・記録化までセットで管理する必要があります。

「労使協定方式だから派遣先は無関係」「派遣社員だから食堂・研修は対象外」といった単純化は誤りです。令和8年10月1日の改正も見据え、派遣元からの照会に答えられる体制を整えておきましょう。

第13話では、派遣と請負・業務委託の違い、偽装請負を避けるための受入企業チェックを解説します。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣社員の待遇・福利厚生・教育訓練|派遣先にも求められる対応とは(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。派遣社員の待遇・福利厚生・教育訓練・情報提供・比較対象労働者の選定・令和8年10月1日改正対応は、法令・施行規則・指針・業務取扱要領の改正や個別事情により判断が変わり得ます。実際の運用にあたっては、その時点の最新のe-Gov法令・厚生労働省資料・業務取扱要領等を確認のうえ、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
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