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「人手が足りないので派遣社員を受け入れることになった」。そんなとき、つい「派遣会社(派遣元)と契約すれば、あとは現場に任せればよい」と考えてしまいがちです。しかし、派遣社員を受け入れる会社、すなわち派遣先企業にも、最初に確認しておくべきことがいくつもあります。派遣先は派遣社員の雇用主ではありませんが、日々の業務指示(指揮命令)を行う立場として、労働者派遣法上のルールを理解しておく必要があるからです。

この記事は、シリーズ「派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト」の第1話です。派遣会社側ではなく、派遣社員を受け入れる会社(受入企業)側の視点に絞って、初めて派遣を受け入れる人事総務担当者、派遣契約書を見る法務担当者、現場で日々指示を出す責任者の方に向けて、やさしく整理していきます。

この記事でわかること SUMMARY
派遣元・派遣先・派遣労働者の「三者関係」の基本
派遣先企業が受入れ前に確認すべき5つのポイント
派遣・請負・業務委託・直接雇用の違い(一番のポイントは「誰が指示を出すか」)
法務・人事総務・現場責任者がそれぞれ見るべきこと
初心者が誤解しやすいポイントと、正しい考え方
そのまま使える「派遣社員受入れ前の初期チェックリスト」
用語のひとこと

この法律は俗に「労働派遣法」と書かれることがありますが、正式には「労働者派遣法」(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)です。本記事でも「労働者派遣法」で統一します。

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1. まず押さえるべき「三者関係」

派遣がわかりにくい一番の理由は、登場人物が3者いて、それぞれの間に違う関係があるからです。通常の正社員採用は「会社」と「働く人」の二者関係ですが、派遣は次のように三者が関わります。

派遣元
(派遣会社)
雇用契約(給与・社会保険はここ)
派遣労働者
(派遣社員)
派遣元 ⇔ 派遣先:労働者派遣契約
派遣先
(受入企業)
指揮命令(日々の業務指示)
派遣労働者
※ 派遣先 ⇔ 派遣労働者の間には、通常「雇用契約」はありません。

ポイントは、「雇っているのは派遣元」「指示を出すのは派遣先」という点です。お給料を払い、社会保険に入れ、雇用主としての責任を負うのは派遣元です。一方で、現場で「この仕事をお願いします」と日々の指示を出すのは派遣先です。この「雇用」と「指揮命令」が分かれていることが派遣という働き方の最大の特徴です。

登場人物主な役割契約関係実務で見るポイント
派遣元
(派遣会社)
派遣労働者を雇用し、給与支払・社会保険・雇用管理を行う派遣労働者と雇用契約/派遣先と労働者派遣契約許可を受けた適法な派遣事業者か、契約条件は適切か
派遣先
(受入企業)
派遣労働者を受け入れ、業務上の指揮命令を行う派遣元と労働者派遣契約(派遣労働者とは原則、雇用契約なし)契約の範囲内で指示しているか、台帳・苦情対応・期間管理ができているか
派遣労働者
(派遣社員)
派遣先で実際に働く人派遣元と雇用契約就業条件が守られているか、契約外の業務を強いられていないか
ここがポイント

「派遣先は雇用主ではない」=「何の責任もない」ではありません。指揮命令を行う立場として、また労働者派遣法上の受入企業としての措置義務(派遣先責任者の選任、派遣先管理台帳の作成、苦情処理など)を負います。詳しくは厚生労働省の「派遣先が講ずべき措置に関する指針」に整理されています。

2. 派遣先企業が最初に確認すべき5つのこと

初めて派遣社員を受け入れるとき、最低限おさえておきたいのが次の5点です。「なぜ確認するのか」「確認しないと何が起きるか」をセットで整理しました。

確認することなぜ確認するのか確認しないと起きること
① 派遣元が適法な派遣事業者か労働者派遣事業は許可制。派遣元の許可番号・許可の有効期間や、契約書・通知書上の記載を確認し、無許可事業者から受け入れない無許可業者からの受入れは違法派遣となり、労働契約申込みみなし制度(法40条の6第1項2号)の対象に。意図せず直接雇用の義務が生じ得る
② 業務内容・就業場所・就業時間が具体化されているか労働者派遣契約に定めるべき基本事項。曖昧だと現場が「契約外」の指示をしやすい契約外業務の指示、トラブル、是正指導の原因になる
③ 指揮命令者・派遣先責任者・苦情処理担当者が明確か誰が指示を出し、誰が管理し、誰が苦情を受けるかを決めておく必要がある現場の指示系統が混乱し、苦情やハラスメントが放置される
④ 派遣期間・抵触日・3年ルールの管理が必要か派遣には原則3年の期間制限(事業所単位・個人単位)がある抵触日を超えた受入れは違法派遣となり、みなし制度の対象になり得る
⑤ 派遣先管理台帳・勤怠・苦情対応の運用が準備できているか派遣先には台帳作成や就業実態の管理に加え、台帳の記載事項を派遣元へ通知する義務(法42条3項)がある記録不備での是正指導に加え、派遣元への就業実績通知の遅れで給与計算ミスや派遣元とのトラブルに発展する
現場でありがちな誤解

「契約書は派遣会社が作ってくれるから、こちらは判子を押すだけ」——これはリスクのもとです。業務内容・就業場所・指揮命令者などは派遣先の実態に合っているかを必ず確認しましょう。契約書と現場の運用がズレていると、後でトラブルになります。

実務で最も重いリスク|労働契約申込みみなし制度(法40条の6)

受入企業にとって最も影響が大きいのが、この制度です。①禁止業務への従事、②無許可事業者からの受入れ、③期間制限違反(事業所単位・個人単位)、④いわゆる偽装請負等(法の適用を免れる目的での請負偽装)——これらに該当すると、派遣先が派遣労働者に対して「労働契約の申込みをした」とみなされます

しかも、そのときの労働条件は派遣元での労働条件と同一とされ、派遣労働者が承諾すれば、派遣先の同意なしに自社の直接雇用が成立します。「契約外業務のちょっとした指示」や「業務委託名目での直接指示」が引き金となり、後日「御社の直接雇用社員としての地位を主張します」と求められる——という事態が現実に起こり得ます。本記事のチェックリストは、こうした事態を防ぐためのものです。

3. 派遣・請負・業務委託・直接雇用の違い

派遣と混同されやすいのが「請負」「業務委託」、そして「直接雇用」です。違いを一言でいうと、「誰が、働く人に指揮命令をするか」です。ここを取り違えると、いわゆる偽装請負のリスクにつながります。

比較項目労働者派遣請負・業務委託直接雇用
雇用主派遣元(派遣会社)受託者(請負・委託先の会社)自社
指揮命令をする者派遣先(受入企業)受託者(発注者ではない)自社
契約の相手方派遣元との労働者派遣契約受託者との請負・業務委託契約働く本人との雇用契約
成果物の有無労働力の提供が中心(成果物が主目的ではない)仕事の完成・成果物・役務の提供が中心業務内容に応じて様々
現場での指示の出し方派遣先が直接、派遣社員に指示できる発注者は受託者の労働者に直接指示しない(受託者が管理)自社が直接指示
法務上の主な注意点期間制限・特定行為・台帳など派遣法の遵守発注者が直接指示すると偽装請負になり得る労働基準法等の遵守

請負・業務委託では、発注者(注文する側)は、受託者の労働者に直接、業務上の指示を出してはいけません。指示は受託者が自分で行い、発注者は「成果」を受け取る立場です。それなのに、契約は「業務委託」なのに発注者が現場で日々細かく指示している——という状態は、実質的に派遣であり、いわゆる偽装請負とされるおそれがあります。

ここがポイント

派遣か請負(業務委託)かは、契約書のタイトルではなく、実際の働き方・指示の出し方で判断されます。「業務委託契約だから大丈夫」と安心せず、現場で誰が誰に指示しているかを確認しましょう。判断に迷う場合は、厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」が参考になります。

4. 法務・人事総務・現場で見るポイントの違い

派遣の受入れは、誰か一人が全部を見るのではなく、法務・人事総務・現場でそれぞれの役割を分担して確認するのが実務的です。

担当主に見るべきポイント
法務労働者派遣契約書の内容(業務範囲・就業条件)、指揮命令者・派遣先責任者の定め、契約解除条項、損害賠償条項、派遣と請負・業務委託の切り分け(偽装請負リスクの確認)
人事総務派遣先責任者の選任(人数基準あり。後述)、派遣先管理台帳の作成・保存・派遣元への通知(法42条3項)、勤怠管理、苦情の受付窓口の整備、抵触日(期間制限)の管理
現場責任者契約外の業務を指示しない、就業条件(業務内容・時間・場所)を把握する、残業・休日労働の取扱いを確認する、困ったときは自己判断せず人事・法務に相談する
現場でありがちな誤解

「契約書は法務が見たから、現場はとにかく働いてもらえばいい」——実は、現場の指示こそがリスクの入口です。契約にない業務を頼んだり、安易に残業させたりすると、契約違反や違法派遣につながります。指揮命令者には、契約の範囲を周知・指導しておくことが重要です。

5. 初心者が誤解しやすいポイント

派遣の受入れでよくある「思い込み」を、正しい考え方と一緒に整理します。

よくある誤解正しくはどう考えるか実務での注意点
派遣社員は派遣会社の社員だから、受入企業は何も気にしなくてよい雇用主は派遣元だが、派遣先にも指揮命令者・台帳・苦情対応など固有の責任がある「派遣先が講ずべき措置」を確認し、社内の担当を決める
派遣社員にも正社員と同じく何でも頼める頼めるのは労働者派遣契約に定めた業務の範囲内のみ契約外業務・専門外業務を安易に振らない
面接してから受け入れるのが当然紹介予定派遣を除き、派遣社員を特定する目的の事前面接・履歴書要求などは控えるべき行為「人を選ぶ」前提の運用にしない(後述)
台帳や苦情対応は派遣会社だけの仕事派遣先管理台帳の作成や苦情への誠実な対応は派遣先にも求められる受付窓口・記録の運用を社内で準備する
派遣と業務委託は契約書のタイトルで決まる実際の指揮命令の実態で判断される「委託」名目でも直接指示すれば偽装請負リスク
現場で少し違う仕事を頼む程度なら問題ない契約外業務の指示は契約違反・トラブルのもと必要なら契約内容の変更で対応する
特定行為(事前面接など)に注意

労働者派遣法26条は、紹介予定派遣を除き、派遣先が労働者派遣契約の締結に際して派遣労働者を特定することを目的とする行為(事前面接、履歴書の事前送付要求、年齢・性別の指定など)をしないよう努めなければならない旨を定めています。法律上は努力義務という書きぶりですが、派遣先指針ではこれらは「行ってはならない行為」として整理されており、違反すると労働局からの行政指導(指導・助言)の対象になります。

実務上の最大の落とし穴:「努力義務だから」「罰則がないから」と事前面接を常態化させていると、後で偽装請負や契約外業務のトラブルが起きた際に、派遣労働者側から「実質的に自社で面接して選び、採用していた直接雇用だ」として、前述の労働契約申込みみなし制度による直接雇用を主張されたときに反論しづらくなります。人を選んでから受け入れたい場合は、特定行為が認められる紹介予定派遣の利用を検討するのが筋です。

6. 派遣社員を受け入れる前の初期チェックリスト

ここまでの内容を、実務でそのまま使えるチェックリストにまとめました。フェーズごとに確認してみてください。

① 契約前
派遣元が許可を受けた適法な派遣事業者か確認した
受け入れたい業務が、派遣が禁止されていない業務か確認した
業務内容・就業場所・就業時間など、契約に定める基本事項を具体化した
指揮命令者・派遣先責任者・苦情処理担当者を決めた
この受入れが「派遣」なのか「請負・業務委託」なのかを整理した
② 受入準備
派遣先責任者を選任した(事業所ごと。原則、派遣労働者100人につき1人以上。派遣先の労働者と派遣労働者の合計が5人以下の事業所は選任不要。製造業務では専門の派遣先責任者の選任が別途必要となる場合あり)
派遣先管理台帳の様式・記録方法を準備した
台帳の記載事項を派遣元へ通知する運用フロー(締め日・担当者・通知方法。原則1か月に1回以上)を確定した(法42条3項)
勤怠の管理方法(始業・終業・休憩・残業)を決めた
苦情・相談の受付窓口を用意した
抵触日(期間制限)の管理方法を決めた
③ 就業開始時
指揮命令者に「契約の業務範囲」を周知した
就業条件(業務・場所・時間)を現場と共有した
安全衛生・設備・必要な教育の準備を確認した
④ 就業中
契約外の業務を指示していないか定期的に確認している
残業・休日労働の取扱いが契約・法令に沿っているか確認している
派遣先管理台帳を継続的に記録・更新している
台帳の記載事項を、定めた期日に派遣元へ通知している(就業実績の通知遅れに注意)
苦情・ハラスメントの相談があれば誠実に対応している
⑤ 更新・終了時
抵触日・期間制限を超えていないか確認した
契約更新の要否・条件を派遣元と確認した
終了時の手続き・台帳の保存を確認した
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派遣契約書や業務委託契約書を確認するときは、いきなり通読するより、先に「契約書上の論点」をざっと洗い出してから読むと見落としが減ります。必要に応じて、Legal GPTの無料ツールも活用できます。

7. まとめ

派遣社員の受入れは、単に「人員を補充する手続き」ではなく、派遣元・派遣先・派遣労働者の三者関係を前提にした労務コンプライアンスの問題です。雇用主は派遣元でも、現場で指示を出すのは派遣先であり、その立場ゆえに派遣先にも固有の責任があります。

特に受入企業側は、契約書だけでなく、現場の指示・台帳管理・苦情対応・期間(抵触日)管理まで含めて確認する必要があります。まずは本記事のチェックリストで全体像をつかんでおきましょう。

第2話以降では、契約前チェック、禁止業務、面接・履歴書(特定行為)、派遣契約書で見るべき条項、3年ルールなどを、順番に掘り下げて解説していきます。

最新の法改正にも注意

労働者派遣に関する実務は、法令・省令・指針・業務取扱要領の改正や更新の影響を受けます。たとえば、令和8年(2026年)10月1日からは、派遣労働者の同一労働同一賃金に関し、雇入れ時・派遣時の明示事項の追加、同一労働同一賃金ガイドラインの明確化、公正な評価による待遇改善の促進等の改正が施行・適用されます(これに伴い施行規則や派遣先指針等も改正されています)。実務では、必ずその時点の最新の法令・指針・業務取扱要領を確認してください。

シリーズ:派遣先企業のための労働者派遣法チェックリスト
派遣社員を受け入れる会社が最初に確認すべきこと|労働者派遣法の基本(この記事)
参考資料
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言ではありません。労働者派遣法は改正が重ねられており、個別の判断にあたっては、その時点の最新の法令・指針・行政解釈(業務取扱要領等)を確認のうえ、必要に応じて弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
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